Benefits 『Constant Noise』
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Label :Invada
Release: 2025年3月21日
Review
ミドルスブラのデュオ、Benefitsは2023年のデビューアルバム『Nails』で衝撃的なデビューを果たし、グラストンベリーへの出演、国内メディアへの露出など着実にステップアップを図ってきた。 メンバーチェンジを経て、デビュー当時はバンド編成だったが、現在はデュオとして活動している。
当初はインダストリアルな響きを持つポスト・ハードコアバンド/ノイズコアバンドとして登場したが、その中には、ヒップホップやエレクトロニックのニュアンスも含まれていた。ベネフィッツは新しい時代のポストパンクバンドであり、いわば、Joy Divisionがイアン・カーティスの死後、New Orderに変身して、エレクトロの性質を強めていったのと同じようなものだろうか。もしくはそのあとのヨーロッパのクラブを吸収したChemical Brotersのテクノのようでもある。
待望の2作目のアルバム『Constant Noise』ではベネフィッツの意外な一面を捉えられる。いわば''気鋭のエレクトロニック・デュオ''としての姿である。グライムを通過したディープ・ハウスはキングスレイのヒップホップ的なセンスを持つスポークンワードと融合し、新時代のハードコアラップとして昇華されている。アルバムは前作のクローズの続きのように始まり、「Constant Noise」で賛美歌のような祝福的な響きの中で、スポークンワードが披露される。
「Land Of The Tyrants」はダークなシンセから始まり、アップテンポなダンサンブルなヒップホップナンバーへと変化していく。極限までBPMを早めた「The Victory Lap」でグライムコアの新境地に達する。シンプルな4つ打ちのハウスにリズム的な工夫を凝らし、新時代のEDMを作るべく苦心している。これは彼らがKilling Jokeのようなリズム的な革新性を追求していることの表れでもある。さらにこのアルバムはデビュー時のノイズコアのヘヴィーなイメージを突き出した「Lies And Fear」で最高潮を迎える。この曲はグラストンベリーのライブでも披露された。
メンバーチェンジを経て、サウンドの可能性は制限されたように思えるが、ベネフィッツの二人はかなり苦心しながら次の音楽を探求しているように思える。デビュー・アルバムでアンダーグランドではありながらわずかな成功を手にした後、「以前と同じことをすることもできたが、あえて違う音楽性を目指した」というボーカリスト、キングズレイの発言は、2ndアルバムの制作に際して、2人のメンバーでどうやるのかというかなり難しい局面もあったことを想像させる。
その後、アンビエント、 アップテンポなディープハウス、ドローン風の実験的なエレクトロニックなど、サウンドの工夫を凝らし、画期的な曲を書いているが、やはり少し散漫というべきか、全体的な音楽の方向性が定まっていない部分もあるように感じられる。しかし、その一方、力強い印象を持つ良い曲もあり、「Divide」のようなガラージやグライムを通過したエレクトロニックとスポークンワードに今後の活路が見出だせる。この曲は最も成功した事例と言える。
Libetinesのピーター・ドハーティをフィーチャーした「Relentless」は、英国の音楽の系譜に対するリスペクト、そして、わざわざ高速道路で数時間かけてギグを見に来て彼らを発掘してくれたInvadaのジェフ・バーロウへの感謝代わりとも解釈することが出来る。90年代のブリストルのトリップホップの要素を受け継ぎ、文字通りポスト世代の代名詞的な楽曲として聞き入らせる。
実験的な音楽性も含まれ、これは前作のデビューアルバムから引き継がれた要素でもある。「Terror Forever」はタイトルが縁起でもないなと思ったが、ドラムに拠る実験的なビートを抽出しようという、西ドイツ時代のインダストリアルやクラウトロックの要素を受け継いだ、UKのアートパンクの最後の末裔ともいうべき内容である。Benefitsの音楽はやはり、The Crass、Throbbing Gristle、This Heatといった実験的なアートパンクの系譜にあり、アヴァンギャルドの領域に属する。
しかし、そのアヴァンギャルドな要素をどこに落とし込むか、もしくはどのように消化するかという点に課題がある。この箇所に相当苦心した形跡が見出せる。さらに、デュオはまだ着地する場所を見定めているような段階で、今後、幾度か音楽性が変遷していく可能性が残されている。
アルバムの終盤では、広汎な音楽性が少し仇となり、散漫な音楽性に陥ってしまっている。当初、ベネフィッツは、音楽性が画一的であると指摘されたことに立腹したとの話があったが、正直なところ、他の人に何を言われても気にするべきではないと思う。たぶん、その人達よりは音楽に対して真摯な態度を持って臨んでいるのだから。それに画一的な方がカッコいい場合もある。
過激な音楽性と相反する祝福的な音楽性の混在という側面に、現在のベネフィッツの最大の魅力がある。これはもちろん、対極的な要素が混在するからこそ生きてくるものがあるといえる。例えば、「The Brambles」では、荒削りで未完成ではありものの、アルバムの一曲目と同じように、新奇な音楽の萌芽を見出すことが出来る。賛美歌のような祝福されたような雰囲気のアンビエント、その中で''言葉がどのように生きるか''という実験だ。 それは意外なことに、中世のグレゴリオ聖歌のような特異な音楽と地続きになっている。つまり、今後の方向性がどう変わっていくのかがさっぱりわからないという点に、ベネフィッツのロマンを感じさせるのだ。
最後は、ジャズ・バラードのような要素がオルガンの演奏と組み合わされて、「Burnt Out Family Home」という楽曲が確立している。この曲ではボーカルが少しメロディアスになりつつある。これから非音楽的な領域を抜け出して、新しいベネフィッツに生まれ変わるという事もありえる。今回のアルバム『Constant Noise』は、曲を寄せ集めたアンソロジーのような雰囲気になったのが少し惜しかった。それでも、相変わらず才気煥発なセンスがほとばしる。そしてまだキングズレイの言葉には力がある。もし、アルビニがまだ生きていて、ベネフィッツの2ndアルバムを聴いたら、なんと感想を漏らすだろう。''それほど悪くはないね''と言うような気がする。
76/100
Best Track- 「Relentless Feat. Peter Doherty」