brdmm 『Microtonic』
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Release: 2025年2月28日
Review
ハルのロックバンド、bdrmm(ベッドルーム)はその名の通り、 ベッドルームレコーディングを行うグループとして出発したが、ライブツアーでMOGWAIにその才覚を認められ、バンドの独立レーベル、Rock Actionの看板バンドになった。2ndアルバム『I Don’t Know』のリリースをきっかけにメキメキと力をつけ、英国内にとどまらず、世界的な知名度を持つようになった。以前はシューゲイズバンドと紹介されることもあったbdrmmではあるが、まさかこの3作目を聴いて彼等のことをそうのように呼ぶ人はいないものと思われる。90年代のモグワイやNew Orderの血筋を受け継ぎながら、それらを奥深いロックソングに昇華している。このアルバムは、即効性というよりも、聴いていくうちにその音楽の真価が徐々に浸透してくるような作品である。
このアルバムは単なる音源という意味以上のものが込められている。bdrmmは医療/科学分野の巨大ハイテク企業、マイクロテック社と提携し、実際的にこの企業の施設内でこのアルバムをレコーディングしている。KeepItLiveによると、全容こそ明かされていないものの、このアルバムの音楽は最新のテクノロジーを反映させ、マイクロテック社の最新製品「Microtonic」にも関連がある。 AIテクノロジーの最新鋭の技術を活用している。デジタル/フィジカルの側面にマイクロテックが組み込まれ、周波数を放ち、リスナーの五感を刺激するという最新鋭の技術が組み込まれているという。
音楽的にはロックソングのポップネス、そして、エレクトロニクスの近未来的な感覚、さらにはマニック・ストリート・プリーチャーズの最初のブリット・ポップはもちろん、ヴァーヴのようなブリットポップのポスト世代の音楽の系譜を受け継ぎ、抽象的で催眠的なロックソングを特徴としている。90年代から00年代初頭のマンチェスターのFacrotyからの雰囲気を受け継いだダンスロックソング「John on the Ceiling」、そして、ザ・スミスからオアシス、そして、ザ・ヴェーヴへと受け継がれるブリット・ポップの系譜を継承した「Infinite Peaking」を筆頭に、UKロック・バンドらしいダンスとロックの中間にある霧がかったサウンドワークが光る。特に、中盤の注目曲「Snare」はクラブ・ハシエンダを中心とする80年代後半のダンスムーブメント魅力をかたどり、Warpの最初期の7インチレコードなどを彷彿とさせるものがある。
そういった中で、モグワイが音響派やポストロックのオリジネーターとして活躍したように、ロック・バンドとして先鋭的な試みがなされている。アグレッシヴでアンセミックな趣を持つアルバムの序盤の収録曲とはきわめて対象的に、「In The Electric Field」、そしてタイトル曲「Microtonic」といった曲はロックバンドとしてアンビエントとサイレンスを探求した記念的な瞬間である。そして上記の要素はアルバム全体のサウンドに抑揚とメリハリをもたらしている。また、それは従来よりも音楽のディープな領域に達したともいえ、bdrmmの成長を感じさせる。またタイトルからも分かるように、Clarkの90年代、00年代のレイブやアシッド・ハウスを受け継いだ「Clarkycat」もロックバンドとしてはかなり新鮮な試みが取り入れられている。 従来のフランツ・フェルディナンド、ブロック・パーティ、キラーズなどのダンスロックというジャンルが取りざたされた時代の音楽をモダンにかっこよく鳴らすことを重視している。これらは少し陳腐化しつつあるこのジャンルに新しい風を呼び入れようという試みでもある。
このアルバムは従来のシューゲイズというニッチの領域から脱却し、エレクトロニックロックの新鋭へと突き進んでいこうとするbdrmmの旅の過程をかたどったアルバムである。またロックバンドでありながら、IDMの作曲のセンスがあり、「Sat In The Heat」を聴けば、そのことが分かると思う。Yard Actが呼び込んだポストパンクの流れを受け継ぎ、そこに彼等の持ち味であるドリーム・ポップやアートポップの要素を付け加え、魅力的なサウンドを作り上げている。この曲では、従来にはなかった近未来的な要素とSFの雰囲気が上手く融合している。アルバムの終盤の収録曲も聴き逃がせない。「Lake Disappointment」ではアシッドハウスとロックの融合という形式によって、ポストパンクの新しい音楽の流れを呼び込もうとしている。 こういった曲はもしかすると、何度も繰り返し聴きたくなるような中毒性があるかもしれない。
アルバムのクローズを飾る「Noose」は次の作品への期待を感じさせる、ひとつの枠組みの収まらない、壮大な趣を持ったトラックである。Underworldの系譜にあるUKロックサウンドをどのように調理するのかの実験の過程である。もちろん、Mogwaiの音響派へのオマージュがアンビエントのようなチルウェイブの要素と重なり合い、 清涼感のあるエンディングを形成している。
80/100
「John On The Ceiling」