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Rafael Anton Irisarri  『FAÇADISMS 』

Label: Black Knoll Editions

Release: 2024年11月8日



Review     創造とは何を意味するのか? 



結局のところ、音楽における創造性の多寡を見極めるのに不可欠な指針となるのは、その創造性の発露となるものが、単なる模倣的な二次表現に留まらず、(制作者の)自己を超越するための重要な機会となっているのか。より端的に言えば、以前の音楽の系譜や作品をしっかり咀嚼した上で、それをオリジナリティの高い作品としているのか、ということに尽きるのではないだろうか。例えば、J.Rimasという専門的な研究家が今年発表した論文「The Concept of Creativity and its Importance For Musical Expression』(2024)において、著者は、リトアニアの作曲家のイグナス・プリエルガウスカス(Ignas Prielgausukas)の言葉を引用し、「古くから決められていることに満足する者たちは、模倣の道を歩み、創造性を放棄している」と指摘している。

 

つまり、模倣や引用に過ぎないものが、生産的な意味を持つことは稀であり、それは大量のコピー製品を製造していることを意味する。また、最低限の創造性を乗り越える上では、原初的な体験や経験等を通して培われた感受性を発露する必要があり、なおかつ、制作者の技術や知識が対象物の本質を知るために駆使されなければならず、さらにいえば、音楽的な表現が単一の自己の世界の反映だけにとどまらず、他者とのコミュニケーション、イメージの共有という意義を持つ必要がある。これらに該当しなければ、「創造未満の何か」と呼ぶよりほかない。こういった音楽とは言いがたい商品が世の中に氾濫する一因としては、音楽の大衆化により、模造品が大量に生産され、常識下に留まることや模倣を良しとする社会的な風潮が一役買っているのである。

 

おそらく、ニューヨークの実験音楽シーンを代表するプロデューサー、ラファエル・イリサリはその限りではない。このアルバムを聞けば瞭然ではないか。表向きのアウトプット方法こそ、エレクトロニックを中心とするアンビエント、要するに抽象音楽なのだが、その始まりは、ヘヴィメタルのような音楽を聴き、それらを幾つかの実験音楽のフィルターに通して、さらに自らのミックス/マスタリングの高い技術を駆使し、独自の音楽表現として昇華するのである。

 

アントン・イリサリの音楽には、ブラック・メタル、ドゥーム・メタルといった、かなりマニアックな音楽の引用を感じることがあるが、たとえギターが使用されることがあっても、独創性の高いスタイルの音楽が組み上がる。そして例えば、プロデューサーの音楽に歌詞がないからと言え、概念や言葉に乏しいというわけでもない。イリサリの音楽には、時々、資本主義に対する風刺的な暗喩や政治的な主張性が、言葉ではなく、音の流れの中に組み込まれている。一見すると、無機質な電子音楽のように感じられるかもしれないが、意外なことに、感覚的なものがしっかり組み込まれ、そして珍しいことに、琴線に触れる瞬間も含まれているのである。

 

制作はニューヨークのプロデューサーがイタリア・ツアーに行った時期に始まったという。ミラノの 「il Mito Americano」(「アメリカン・ドリーム」という意味で、英語に直訳すると「アメリカの神話」)という名の食堂の言語的な不具合(看板?)が、コンセプチュアルかつ音楽的な一連のアイデアに火をつけた。2020年の混沌の中、ブルータリズム建築の荒涼とした世界を探求し、「FAÇADISMS」というヴィジョンが作り上げられた。およそ3年の歳月をかけて作曲されたこの作品は、「煮えたぎるような電気的な落胆に満ちた後期資本主義の嘆き」であるという。そして最近のアルバムのようにディストピア的なイメージを持って始まるが、それと同時に、そのディストピアの向こうに、ぼんやりとユートピアが浮かび上がってくる瞬間がある。

 

アルバムはノイズ/ドローンを中心とする抽象的な楽曲「Broken Intensification」ではじまり、巨大な共同体や構造物が崩壊していく過程がサウンドテクスチャーによって組み上げられる。旧社会の常識や規範であると看過されていた構造全体が少しずつ崩壊していくような瞬間がサウンドスケープによって巧みに表現されている。この曲は、アーティストが2010年代にかけて追求していた、荒野に象徴付けられる旧約聖書の黙字録的な世界観の集大成でもあろう。まるで、それは例えるなら、人類が打ち立てていったバベルの塔の崩落の瞬間が刻印されているとも言える。この端的なトラックに、ジャック・アタリのような資本主義に関する暗喩が含まれていると考えるのは行き過ぎだろうが、幻想的なものと現実的なものがないまぜとなり、およそラファエル・イリサリしか作り得ないであろうフリューゲル的な世界観が打ち立てられている。

 

2010年代にはディストピアを予見させる異質な世界観を鋭いノイズ性と合わせて表現してきたアントン・イリサリであるが、近年、それらの対極に位置する天国的、祝福的な音楽性が顕現するようになった。西洋的な美学としては、「コントラスト」という概念があらゆる美術形態の基礎となったというのは、ボローニャ大学のウンベルト・エーコも指摘していたが、イリサリは、この対比性という要素を上手く活用して、西洋的な観念を作品に取り込もうとしている。また、生楽器を録音し、リサンプリングするという方法は「A Little Grace Is Abundance」に見出すことが出来る。この曲は複数の段階に分割され、前半部では、ドローン/ノイズアンビエント、一方の後半部では、ギターのリサンプリングを用いた音響系の音楽へと変化していく。さらに、ランタイムごとに少しずつ情景的な変化があり、曲の最後では、クワイアのサンプリングによってミュージック・コンクレートの技法が用いられ、祝福的な音楽性が登場する。

 

また、チェロのジュリア・ケント、ヴォーカルのエリザベス・コックスをフィーチャーした「Control Your Soul's Despite For Freedom」では、プロデューサーの重要な音楽性の一つである「混沌ーカオス」という概念が登場する。例えば、経済学者のジャック・アタリは「ノイズ」という概念について、原罪的なものや暴力的なものと定義付け、「それらに調和をもたらすために音楽が発生した」と指摘している。(また、楽譜出版、録音、ライブといった時代ごとの音楽形式の変化とともに、ノイズの概説的な意味もまた徐々に変化していったということも指摘している)


そして、この曲には、ノイズという概念の原初的な意義が表されているような気がする。それは言い表しがたいが、「世の中に混沌をもたらすノイズの現象中にある調和」という非常に難解な概念を読み解けるのだ。これは二元論を超越し、「善と悪」を始めとするキリスト教的な原理主義の観念を乗り越えるための手助けをする。(世の中には対極的な二つの考えのほかに、「中庸」という概念が存在する)そして、結果的に、一般的には醜悪な要素とされているノイズの原初的な意味が転化し、本来は醜いはずのものが美しい印象に縁取られる稀有な瞬間が刻印されている。これはアンビエントが経過的な段階を持たぬという一般的な定説を覆すものである。

 

曲の中においても時間的な経過や音楽の変化といった多彩な段階が示されるが、アルバム全体でも徐々に音楽的な印象が変化し、楽曲とアルバムの相似形を形づくる。ディストピアな印象を持つ序盤とは正反対に、後半の収録曲では、 ユートピア的な印象に縁取られていく。これは言ってみれば、地獄から煉獄、そして天国にかけての旅行のようでもあり、また、それらが概念的な表現を通じて繰り広げられていく。「The Only Thing that Belongs To Us Are Memories」は、エイフェックス・ツイン、ティム・ヘッカーのノイズ/ドローンの系譜に属しているが、一方では、最初に述べたように、ミステリアスな印象を持つアンビエントの音像の向こうから天国的なサウンドスケープが浮かび上がる。この曲では、他曲と同じように、明確な言語は出てこないが、確実に音楽が言語以上のメッセージの役割を果たし、啓示に近づいているのである。そして珍しく、この曲では感情的なシークエンスが最後に登場し、やや泣かせるものがある。

 

しかし、ステレオタイプの音楽にはならず、予想を裏切るようにして曲が続く。例えば「Forever Ago Is Now」では、ポスト・ロックや音響派のアプローチを図り、Explosions In The Skyのような映画的なギターロックのコンポジションを採用している。それらがストリングスのリサンプリング等の手法を用い、ドローン・アンビエントへと昇華されている。そして音楽は、更に抽象的になり、明確な意味を持つことを放棄する。つまり、当初は概念的であったものが、そういった現実的な領域を離れて、混沌とした生命の原初的な領域へと還っていくのである。

 

もちろん、アルバムでは、地上的な概念が暗示されることもあるが、制作の一番の意図は、生命の神秘的な領域、あるいはその一端に触れるということではないだろうか。「Dispersion of Belief」、「Red Moon」ではプロデューサーらしいと言うべきか、ノイズの形式を通して、「カオス」を描出している。それは地上的な何かを表したというよりも、宇宙的なワンネス、もしくは、根源的な生命の神秘へ迫るというような意義が込められている。むしろ本作の音楽は、アンビエントというより、スピリチュアルジャズやフリージャズに近い文脈に属するように思えた。

 

 

86/100

 




Lawrence English
©︎T Pakioufakis


Lawrence English(ローレンス・イングリッシュ)はレーベルオーナー、そして個性的なプロデューサーとしての表情を併せ持ち、Loscil、小瀬村晶といったエレクトロニックプロデューサー、作曲家との共同制作の経験を持つ。アンビエントシーンの最重要人物の一人である。

 

ローレンス・イングリッシュの待望の新作アルバム『Even the Horizon Knows Its Bounds』を発表した。1月31日に自身のレーベル”Room 40”からリリースされる。試聴は以下から。


「場所とは、進化する主観的な空間の経験です。空間は、私たちが感覚を生み出す方法によって形作られ、瞬間瞬間に創造する場所の機会を保持する。空間の建築的、物質的な特徴はある程度一定しているかもしれないが、そこに満ちている人、物、雰囲気、出会いは永遠に記憶の中に崩壊していく」


この新作アルバムを紹介しながら、アーティストはこう語っている。


「私は、音が建築に取り憑いていると考えたいのです。音の非物質性がもたらす、本当に不思議な相互作用のひとつです。それはまた、太古の昔から私たちを魅了してきたものでもある。私たちの祖先が、洞窟のような暗い聖堂の中で、驚きと安らぎを感じながら互いに呼び合っていた爽快感を想像するのは難しくありません。

 

「今日、音が空間を占める方法、いわゆる”リキッド・アーキテクチャー”は、機能性や形に支配されがちではあるが、同じように多くの驚きをもたらしている。しかし、そのような制約を越えて、音が物質世界の中でどのように作用するかは、私たちの音楽理解の根底に存在するものであり、さらに、私たちがサウンド・アートのカノンとして知っている広い教会の中にあるものなのだ。」

 

アルバムの最初のリードシングルはタイトル曲で、建築的な構造性を示唆するミュージックビデオが公開されている。まるで不動産の広告映像のようでもあるが、ローレンス・イングリッシュの楽曲からは音楽の近未来性、そして音楽の知られざる一面が暗示されているように思える。

 


「Even the Horizon Knows Its Bounds(expert Ⅱ)」


 

 

Lawrence English 『Even The Horizon Knows Its Bounds』



Label: Room 40

Release: 2025年1月31日


Tracklist:

1.ETHKIBI

2.ETHKIBII

3.ETHKIBIII

4.ETHKIBIV

5.ETHKIBV

6.ETHKIBVI

7.ETHKIBVII

8.ETHKIBVIII

9.Even The Horizon Knows Its Bounds (excerpt I)

10.Even The Horizon Knows Its Bounds (excerpt Ⅱ)

11.Even The Horizon Knows Its Bounds

 

Cahil/ Costello


 

先日、11月8日(金) に ニューアルバム『II』をレコード(数量限定)、およびデジタル・フォーマットでリリースすることを発表したグラスゴー出身のアンビエント・デュオ、ケーヒル//コステロが、新曲「Ae//FX」を本日デジタル配信した。(楽曲のストリーミングはこちら


ギタリストのケヴィン・ダニエル・ケーヒルとドラマーのグレアム・コステロから成るケーヒル//コステロは、2021年にデビューアルバム『オフワールド』を発表。約3年ぶりとなる今作『II』では、エフェクトのかかったギターを基調としたアンビエントな雰囲気と絶妙なグルーヴを取り入れたドラミングが、時折催眠術のようなテープ・ループを経由しながら織り交ざっている。


 

ファースト・シングル「Sunbeat」に続く新曲「Ae//FX」は、シンセを基調とした幽玄なサウンドスケープとハイエナジーなブレイクビート・ドラミングを組み合わせた、バンドの常に進化し続ける性質を象徴している。



「アルバムを完成させるのはとてもエキサイティングな瞬間だけど、少し気が重くなることもある。まだ何かやり残したことはないかといった疑問が頭の中をぐるぐると回り、そしてそう感じるのは自然なことなんだ。」

 

「そんな中、『Ae/FX』は突如誕生した。それは、新しいアルバムのための閃きやアイディアがあるという興奮を分かち合った瞬間だった。比較すると、デュオとしての僕たちの関係に明らかな変化と成長が見られる。視覚的に言うと、前作『オフワールド』は冬に似た性質を持っていて密度と重みがある。一方の今作『II』は夏に似ていて、軽さがあり、動きがある」とデュオは話す。

 

 

 このアルバムに関するClash Magazineをはじめとする各メディアの反応は以下の通りです。

 

 ・「没入感のある瞑想的な音楽...自然の音が雄弁なパーカッションとともに呼び起こされ、テープ・ループが催眠術のような激しさを達成する」- Clash Magazine

 

・「高い完成度と没入感」- Future Music

 
 
「ドリーミーなエレクトロニック・アンビエントのテクスチャー満載の、驚くほど自信に満ちたロング・プレイヤー」 - Electronic Sound


 

 

 

◾️スコットランドの実験的なアンビエントデュオ、CAHILL//COSTELLO(ケーヒル//コステロ) ニューアルバム『II(2)』を発表  リードシングル「SUNBEAT」を配信 


 

【アルバム情報】 Cahill//Costello 『Ⅱ』 - New Album


アーティスト名:Cahill//Costello(ケーヒル//コステロ)
タイトル名:II(2)
発売日:2024年11月8日(金)
形態:2LP(140g盤)
バーコード:5060708611163
品番: GB1599
*レーベル公式サイトにて数量限定直販

<トラックリスト>


Side-A

1. Tyrannus
2. Ae//FX 


Side-B

1. Ice Beat
2. Sensenmann
 
Side-C
1. JNGL
2. I Have Seen The Lions On The Beaches In The Evening
 
Side-D
1. Lachryma
2. Sunbeat

 

Pre-order(先行予約)


Gearbox Store: https://store.gearboxrecords.com/products/cahill-costello-ii-cahill-costello

 

Bandcamp:  https://cahillcostello.bandcamp.com/album/cahill-costello-ii-2

William Basinski『September 23rd』

 

Label: Musex International / Temporary Residence

 Release: 2024年9月27日


 

未発表曲集『September 23rd』は、何かしら鳥肌の立つような異端的なアルバムでもある。アーカイヴでありながら、実験音楽の最高峰に位置付けられる。今からおよそ42年前に録音された作品で、後に実験音楽の大家となるバシンスキーの若かりし時代の音源である。後の大家としての萌芽を見ることが出来、彼の中期の作品のほとんどが、このアルバムのコンポジションやバリエーションの技法の延長線上に位置付けられることが理解できる。バシンスキーの音楽は、基本的に一曲だけピックアップして聴いても意味がなく、続けて聞かなければ、その真価が分からないことが多い。バシンスキーの作曲は、カセットテープの録音のカットアップコラージュを中心に構成されているが、これはすでに1982年の時点で確立された技法だったことに驚く。

 

作風としては、ピアノを基にルネッサンス主義のノスタルジアを表した『Melancholia』(20003)の系譜に属する。さらに言及すれば、このアルバムの中で用いられるモチーフが登場している。ピアノのワンフレーズにエレクトロニック風のエフェクトを施し、三分から五分のセクションが40分あまり形を変えて変奏されるだけの作品(ストリーミングバージョンは80分に及ぶ)。しかし、たとえ、原始的なアンビエントのようにノンリズムで構成される作品であるとしても、無数の反復とループを繰り返すうちに、独特なアシッドハウス的な感覚が漂い始める。


彼のアンビエントの技法は、単なるエレクトロニックの演奏ではなく、音の構成自体が「雲」のようで、実際的にクロード・ドビュッシーの『Nuages』の弦楽のテクスチャーに近似している。そして、2小節ほどの短いミニマリズムの向こうからリゲティの『Atomosphere』にもよく似た奇妙なアンビエンスが立ち上ってくる。


リゲティの場合は、アウシュヴィッツの不気味さであったが、バシンスキーの場合は、孤独と甘美的なロマンスである。彼の音楽は一つの入口の扉をおもむろに開き、その果てにある無限なる世界、靄や霧に覆われた抽象的なアストラルへの道筋を描くかのようである。いつのまにか聞き手は惑乱のさなかに置かれ、音を聴いているという意識ではなく、音に浸っているというリスニングの最も深い場所、深淵へといざなわれていかざるを得ない。次いでいえば、1982年の時点でドローン音楽の現代的な技法も確立されている。「Expert 5」のアウトロを参照。

 

この世には、録音場所の空気感を吸収したアルバムというのが存在する。ライブ録音でも稀にあるが、音源自体に独特な緊張感が含まれ、スタジオや録音場所に漂う「気」、西洋風に言えば、「アトモスフィア」をかたどったものである。そして、未発表音源集『September 23rd』はこれに該当する。このアルバムの音楽に触れてみると分かるように、音源の40分の時間の中には、奇妙な「夜」の空気感が流れている。 それも、まったく人の寝静まった刻限、誰もが眠っている時間、そういった時間に人知れず、ピアノでレコーディングを行ったような雰囲気が漂う。ダンボ地区はブルックリンの高級住宅街で、中世の英国的な建築様式が目立つ地域だ。まるで彼のピアノの演奏、そしてその果てにゆらめく幻惑的なアンビエンスは時を越え、2024年の私たちのいる地点に蘇ってくるように思える。もしくはその音楽は、私達をバシンスキーがアパートメントに住んでいた1982年のブルックリンに押し戻すようなイメージの換気力がある。

 

音楽自体から何を読み取るのかはそれぞれの特権であるが、この音楽は少なくとも形而下にある意識の基底を流れている。それはダリのシュールレアリスムの一貫の表現にあると言え、物質的な時間に存在するかどうかも定かではない。多くの作曲家は、概して音楽が絶えず物質的な時間や領域に存在すると考えているが、部分的には誤謬であろう。バシンスキーの音楽は、睡眠の前の意識の内部の底、日頃、明晰な意識を持ち暮らしているときには見えない意識下の時間の底を流れていく。そして、その中で、誰も知らぬ、誰もいない時の中にある非物質的な世界を作り上げている。彼が作り出す音楽は、一般的な明晰意識に存在せず、その内側にある深層心理の領域に鳴り響く。見方を変えれば、彼は形而上にある音楽を作り上げたとも言える。


音楽自体は一つのモチーフを基に構成される変奏曲で、これもまたバシンスキーの長年の主題でもある。しかし、テープディレイや音の細かなコラージュによって、 最初の主題は驚くべき変遷を辿る。その音楽を順を追って聴いていくと、最初のテーマは、「Expert9」において全然別の音楽に変わっている。最初の構成自体を組み換え、別の音楽に変遷していく際、モチーフが刻まれたり、別のシークエンスに移動することもあるが、調性や最初のモチーフは一貫して維持されている。それは音の時間性を薄める試み、もしくは本来の禅や密教のような時間の概念「時間の流れは本来存在せず、円環を描く」という概念を音楽を通じて実践しているとも言える。「時間は未来から現在に流れる」という考えもチベットにあるように、西洋主義的な気風を残しながらも、実際の音楽には、キリスト教的な倫理とは明らかに異なる概念も読みとける。実際的に、逆再生の処理がテープディレイと合わせて組みこまれている場合があり、これがアシッド的な感覚とトリップ感覚を呼び起こし、時間を超越するような奇異な感覚を覚えさせる。言ってみれば、タイムワープするようなSF的な面白さも感じることが出来るのではないか。

 

ミニマリズムの作曲家であるジョン・アダムスさんは、かつて自身の作風を「ミニマリズムに飽きたミニマリスト」と少し自虐的に評したことがあったが、ウィリアム・バシンスキーの場合は対象的に、ミニマリズムの技法を徹底して先鋭化させている。そして、反復的な音楽というのは、得てして無機質になりがちだ。それは電子音楽に近づけば近づくほど顕著になる。しかし、ウィリアム・バシンスキーは、人間的な感覚を失わず、中世ヨーロッパ的なノスタルジアとペーソス、近代と現代をつなげる概念を元に、実験音楽の知られざる領域を開拓している。


これがなぜ可能だったかといえば、ブルックリンのダンボ地区が中世ヨーロッパ的な雰囲気を持つ一角だったからではないかと推察出来る。名プロデューサー、ジャック・アントノフが指摘するように、録音された場所が作品自体に「大きな影響を及ぼす」ことがある。これぞまさしく、1982年9月のブルックリンの空気感を反映させた世にも奇妙な作品だ。そしてもちろん、それは彼のアパートの階下の友人、ジョン・エパーソンが録音の機会(カセットデッキ)を提供しなければ、後のバシンスキーの作品、及び名作群は世に出ることはなかったかもしれない。

 

 

96/100

 








Ben Inui

現代のUSのインディから影響を受けたアンビエント・フォーク/インディ・フォーク・プロジェクト、Ben Inui(ベン イヌイ)が本日、アンビエント的な音響効果を持ったフォークソング「Forest Song」をリリースした。8月に先行リリースされた「nicetoseeyou」の情報と合わせて、最新シングルの配信リンク、及び、アートワークを下記よりチェックしてみてください。

 

2022年9月で解散したPEARL CENTERのソングライター/ヴォーカリストとして活躍したイヌイシュンによるアンビエント・フォーク/インディ・フォーク・プロジェクト【Ben Inui】。

 

リリースとなる「Forest Song」は、アンビエント的な音響効果を持ったフォークソング。自身が個人的に体験した深い森の中で人間関係が親密になっていく様をテーマにし、暖かみや親密さを感じる仕上がりとなった。


レコーディング/ミックス/マスタリングは、bisshiが担当。アートワーク・写真は、小林光大が手掛けた。音楽的な影響は以下のアーティストが挙げられている。

 

Andy Shauf, Arctic Monkeys, Eedie Chacon, Gia Margaret, Jon Brion, Mac DeMarco, Matt Maltese, Phoebe Bridgers, Sparklehorse。

 


■Ben Inui「Forest Song」



Digital | 2024.09.18 Release | Released by SPACE SHOWER MUSIC


[ https://ssm.lnk.to/ForestSong ]


Lyrics & Music: Ben Inui
Vocal, Chorus, Key, Synth, E.Gt, Bass, Programing: Ben Inui
Rec, Mix, Master: bisshi



■Ben Inui「nicetoseeyou」

 
Digital | 2024.08.28 Release | Released by SPACE SHOWER MUSIC


https://ssm.lnk.to/nicetoseeyou ]
Music: Ben Inui
Key, Synth, Programing, Field Rec: Ben Inui
Rec, Mix, Master: bisshi


Ben Inui

現代のUSのインディから影響を受けたイヌイ・シュンによるアンビエント・フォーク/インディ・フォーク・プロジェクト。



 シンガポールのKITCHEN. LABELより、東京在住のサウンドアーティストHiroshi Ebinaのニューアルバムが9月27日に発売される。日本国内ではCD盤が同日にリリースされる。


2022年のKITCHEN. LABELデビュー作『In Science and the Human Heart』に続く本作は、Hiroshi Ebinaの特徴とも言える静謐で浮遊感のあるアナログ・サウンドスケープをより深く掘り下げ、夜の静かな時間のために特別に制作された作品。パートナーの不眠症のために音による癒しを作ろうとしたのがきっかけで、Ebinaはこのプロジェクトに着手したのだが、レコーディングが進むにつれて、夜のミステリアスで神聖な性質を探求する複雑な作品へと変化していった。


アルバムの物語は、丁寧に構成された9 つのトラックを通して展開され、それぞれのトラックが夜の深みに誘われていく。オルゴールや水入りワイングラスの素朴な音色から、ユーロラックシンセサイザーやアルゴリズミック・シーケンサーなどの最先端技術まで、様々な楽器を各トラックで多くても2~3つほど使用し、繊細で透明感のある催眠的サウンドスケープを生み出している。街の明かりが明滅する夕暮れ時を想起させる明るく高音域のシンセサイザーから始まり、徐々に中音域のトーンへと移り変わってリスナーを夢の世界へと優しく導いていく。この音の降下は、私たちが夜ごと眠りに身を委ねる様を映し出している。ありきたりでありながらも一時的な死にも似た特別な体験であり、そこでは意識が薄れ潜在意識の奥底から夢が現れる。


本作はリスナーを優しく包み込み、都会の夜の静寂と孤独を癒しに導く存在として、暗闇の中で目覚める人々に安らぎと落ち着きを与えてくれる。


アートワークは東京を拠点に活動する写真家・小野田洋一、マスタリングはニューヨークのJoseph Branciforte(Greyfade Studio)が担当。




Hiroshi Ebina 『Into the Darkness of the Night』- New Album




発売日:2024年9月27日(金)

アーティスト:Hiroshi Ebina

タイトル:Into the Darkness of the Night

フォーマット:国内流通盤CD / 輸入盤LP / デジタル

レーベル:KITCHEN. LABEL

ジャンル: AMBIENT

流通 : p*dis / Inpartmaint Inc.



Tracklist :

1. Shh,

2. Somunus

3. And may your dreams

4. Turning off

5. Liminality

6. Slow wave

7. Hammershøi’ s room

8. Surrender

9. The darkness of the night


◆ライブ情報

9/28(土) 落合Soup

Emily A. Sprague & Cool Maritime Japan Tour 2024 東京公演①

出演:Emily A. Sprague / Cool Maritime / Hiroshi Ebina

DJ : Tryster

MORE INFO : https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/news/emily-cm-2024/#tokyo1



【Hiroshi Ebina(ヒロシ・エビナ)プロフィール】

 

東京在住のサウンドアーティスト。活動は多岐に渡り、アンビエントミュージックの作曲・演奏や、雅楽奏者としての活動、フィルムカメラを用いた写真作品の作成も行なっている。ニューヨークでの活動を経て、2018年より日本での活動を再開。作曲にはモジュラーシンセを中心にテープマシンや多種多様なアコースティック楽器を用いる。近年はKITCHEN. LABELやMystery Circles、Seil Recordsより作品を発表している。


「偶発性」はHiroshi Ebinaの音楽を語る上で欠かすことのできない要素である。真白の紙の上に点や線を広げるように音と並べていき、法則を与えることで音楽を形作っていくプロセスを取っている。作曲の際はリズムやピッチといった側面だけでなく、音の触感や音と音との間の無音部分などを重視している。




ギタリストのケヴィン・ダニエル・ケーヒルとドラマーのグラハム・コステロから成るスコットランドはグラスゴー出身のアンビエント・デュオ、ケーヒル//コステロが、11月8日(金) に ニュー・アルバム『II』をレコード(限定枚数)、およびデジタル・フォーマットでリリースすることがわかった。この発表に合わせてリードシングル「Sunbeat」が本日配信された。(配信リンクはこちらから)


2021年にリリースしたデビュー・アルバム『オフワールド』に続いて2作目となる今作では、エフェクトのかかったギターを基調としたアンビエントな雰囲気と絶妙なグルーヴを取り入れたドラミングが、時折催眠術のようなテープ・ループを経由しながら織り交ざっている。


スコットランド王立音楽院で出会った2人は、ジャズとクラシックという異なる分野を専攻していたにもかかわらず、ミニマリズムと即興演奏への情熱を分かち合っていた。

 

ある時はグラハムのバックグラウンドであるジャズ的素養を感じさせ、またある時は彼が幼少期に聴いて育ったインストゥルメンタル・ロック、ポスト・ロック的な激しさも感じさせる。このアルバムは、デュオがデビュー作の成果をさらに発展させた、広大で野心的な作品となっている。


そして、新譜の発表を記念して、本日ファースト・シングル「Sunbeat」をデジタル・リリース! この曲は、サウンドと音色の面で彼らの新しい方向性を表している。


「Sunbeat」について2人は、次のように話している。


「『オフワールド』以来の僕たちの成長と音世界の変化を示すのに良いファースト・シングルだと思ったんだ。当初、この曲は即興のテープ・ループから始まり、ビートそのものが生まれ、ギターがそれに続いた。アルバムの主要なトラッキングが始まる前の最後の即興/ウォームアップから生まれたんだ。それはとてもオーガニックで楽しいプロセスだったよ」

 





Cahill//Costello(ケーヒル//コステロ) 『II(2)』- New Album





【アルバム情報】

アーティスト名:Cahill//Costello(ケーヒル//コステロ)

タイトル名:II(2)

発売日:2024年11月8日(金)

形態:2LP(140g盤)

バーコード:5060708611163

品番: GB1599


<トラックリスト>

Side-A


1. Tyrannus

2. Ae//FX 

Side-B


1. Ice Beat

2. Sensenmann

 

Side-C

1. JNGL

2. I Have Seen The Lions On The Beaches In The Evening

 

Side-D

1. Lachryma

2. Sunbeat



バイオグラフィー

 

スコットランドはグラスゴー出身のアンビエント・デュオで、メンバーは、ギタリストのケヴィン・ダニエル・ケーヒルとドラマーのグラハム・コステロ。出会いは2012年の英国王立スコットランド音楽院。ジャズとクラシックという異なった専攻の二人だったが、さまざまなジャンルにわたるミニマリズムと即興への相互の情熱を共有していた。この友情と共有された情熱は、最終的にケーヒル//コステロの結成に至る前に、グラハムとケヴィンがさまざまなソロ・プロジェクトで協力することにつながった。彼らのプロセスは、ミニマリズムとアンビエント・ミュージックの要素を融合し、過度の複雑さとは無縁の、非常に感情的なサウンドの世界を構成している。その音楽制作は忍耐と明晰さに基づいており、リスナーの心に正直に語りかける。2021年9月、ファースト・アルバム『オフワールド』をリリース。そして、2024年11月には3年ぶりとなるニュー・アルバム『II』の発売が決定している。

Best New Tracks:  Roger Eno 「Above And Below」(August Week 5)
 


 

ブライアン・イーノの弟であるロジャー・イーノは、9月下旬にドイツ・グラモフォンから発売予定のアルバム「The Skies: Rarities」のセカンドシングル「Above And Below」を公開した。最初のリードシングルでは、音数の少ない清涼感のあるピアノ曲を聴くことが出来た。この曲では、アンビエントシリーズのイーノの作曲に依拠し、瞑想的な音楽を組み上げている。


ブライアン・イーノのアンビエントの概念は、今は亡きハロルド・バッドのピアノの演奏と分かちがたく結びついていた。弟のロジャー・イーノは、「Above And Below」において、上記の二人の作曲家のイデアを受け継いで、それらを瞑想的な作曲として昇華させている。おそらく、イーノの名作『The Plateaux of Mirror』に触発されたと推測される。その中には、神秘的な音の要素が含まれ、映画のような音響効果、ドローンのような抽象的な音像の中から、ダークでありながら静謐な音楽がぼんやりと立ち上ってくる。アンビエントの名品の登場である。


 

ロジャー・イーノは、現代の精神性を失った作曲家とは異なり、思弁的な感性を持ち合わせている。それは実際的に、ピンク・フロイドのようなサウンドに反映されている。



「Above And Below」

 

 

 

Roger Eno 新作アルバム『The Skies : Rarities』を発表 9月27日にドイツ・グラモフォンから発売


ウィリアム・バシンスキーの新アルカディア・アーカイヴ・シリーズ第1弾が9月23日に発売される。このアーカイヴシリーズからショートバージョンが公開された。この作品では彼の2003年の初期の傑作「Melanchomia」の音楽性の萌芽を見出すことができる。下記よりご視聴ください。


1982年9月、ニューヨーク・ブルックリンの高級住宅地として知られるダンボ地区にある彼の最初のロフトで録音された『September 23rd』は、大きなインスピレーションと影響力を持つようになったカタログの初期の作品であり、最近発掘されたものである。


バシンスキーが1970年代半ばの高校時代に作曲したピアノ曲をもとに作られた『セプテンバー23rd』は、すぐに大きく異なる作品へと進化した。バシンスキーはこう説明する。


「オリジナルのピアノ・レコーディングは、私の階下の隣人、ジョン・エパーソン(後に世界的に有名なドラッグ・アーティスト、リプシンカとして知られる)のピアノで行われた。高校時代から取り組んでいた曲を即興で演奏しながら、ピアノの上に置いた小さなポータブル(おそらくラジオシャック製)カセットデッキで録音した。かなりひどいものだったけど、ジョン・ジョルノ/ウィリアム・バロウズのカットアップ奏法をやったとき、突然、フリッパートロニクスのループとフィードバック・ループのテープ・ディレイ・システムにかけるものができたんだ。ニューヨークの若くてイカれたクイーンにとって、とても多作な時期だった」


ウィリアム・バシンスキーの音楽キャリアは50年近くに及び、偉大なメランコリーの共感的な作品を取り上げ、深淵な悲劇的世界を作り上げるという不思議な才能を発揮してきた。9月23日の発見は、バシンスキーの出自と拡大する歴史的遺産に魅惑的な輝きを与えている。






ウィリアム・バシンスキーはテキサスの大学でジャズ(サックス)を専攻したのち、ニューヨークに移住し、未曾有の実験音楽をフィールドを切り開き、同地の前衛音楽シーンの象徴的なアーティストとなった。


遅咲きのミュージシャンで、彼の作品が最初に公にリリースされたのは40代以降であった。このエピソードはバシンスキーがブライアン・イーノよりも弟のロジャーに近い大器晩成のタイプであることを示唆する。そして彼の音楽は何かに似ているようでいて、実際はどの音楽にも似ていない。


ウィリアム・バシンスキーの代表作には、水の中をイメージしたデビュー作「Water Music」(2001)、アメリカの同時多発テロを題材にした「The Disintegration Loops」(2003)、ループと逆再生を駆使し、都市的な音響をアンビエントとして解釈した「92982」など枚挙にいとまがない。ミュージシャンとしては、カセットテープを使ったアナログの制作方法を図ることで知られている。



また、バシンスキーはヒップホップの伝説デラソウルと並んで、サンプリングの名手であり、彼の作品にはラジオの交響楽団のオーケストレーションを再編集したものまで存在する。最近ではノイズミュージックや近未来的な質感を持つ実験音楽も制作している。




William Basinski 「September 23rd」


Label: Temporary Residence
Release: 2024年9月23日


Tracklist:

1. September 23rd

 



アンビエント/ドローンミュージシャン、Chihei Hatakeyama(畠山地平)、ジャズドラマーの石若駿のコラボレーションシリーズの第二弾となる『Magnificent Little Dudes Vol.2』のデジタルリリースが10月18日(金)に決定。


 
ラジオ番組の収録で出会って以来、ライヴ活動などでステージを共にすることがあった二人、今回のプロジェクトが初めての作品リリースとなった。今年5月に発売された二部作の第一弾、『Magnificent Little Dudes Vol.1』には、日本人ヴォーカリストのHatis Noitが「M4」でゲスト参加していた。Hatis Noitは、ロンドンのレーベル、Erased Tapesからデビューアルバム「Aura」を2022年にリリースし、このアルバムはLoud & Quietから高評価を受けた。


アンビエントプロデューサーとジャズドラマーという異色のコラボレーション。スタジオでのライブセッションの形式で収録された本作。そして、Vol.2の制作について、畠山は次のように話している。

 

ーーVol.2にはセッションの後半が収められています。その日は3月のある日の午後でした。長い冬が終わろうとしているのを感じましたし、日本ではコロナの影響が諸外国より長く続いていたので、そんな マスクを付けた日々も終わろうとしていました。ーー

 

ーー『M3』では私たちの演奏にセシリア・ビッグナルがチェロで参加してくれました。これは遥か昔に私がアメリカ人シンガー・ソングライターのデヴィッド・グラブスから受けた影響が見え隠れしています。彼のアルバムの『ザ・スペクトラム・ビトウィーン』に入っている『Stanwell Perpetual』という曲ですーー

 

ーーしかし、この曲は私が頭の中で何度も形を変えてしまったので、今回の『M3』とは直接は関係がないように思えます。ーー



『Magnificent Little Dudes Vol.2』は10月18日(金)にデジタルで先行リリース。その後、CD /2LP(140g)フォーマットでもリリース予定となっている。(アルバムのご予約はこちらから)

 

昨日、『Magnificent Little Dudes Vol.2』の先行シングルとして公開された「M6」は、ポスト・クラシカル風の楽曲である。

 

ピアノのシンプルな演奏が背後のシークエンスに対して自由な旋律を描き、曲のランタイムごとに全く異なる表情を作り出す。オーガニックなアンビエントのシークエンスの向こうからピアノの演奏が浮かび上がってくる。美しさと癒やし、優しさが共存するナンバーとなっている。

 

 

 

 

 *畠山地平の過去のインタビューはこちらからお読みください。


 「M6」- New Single

Label: Gear Box

Release: 2024年8月9日

 

Tracklist:

 

1.M6(Radio Edit)

2.M6

 

Add/ Save(配信リンク); https://bfan.link/m6



『Magnificent Little Dudes Vol.2』- New Album

Label: Gear Box

Release: 2024年10月18日(Digital)

 

Tracklist:

1. M3 (feat. Cecilia Bignall)
2. M2
3. M5
4. M6

 

Pre-order/ Pre-add(配信予約): https://bfan.link/magnificent-little-dudes-volume-02

 


<Chihei Hatakeyama / 畠山地平>


2006年に前衛音楽専門レーベルとして定評のあるアメリカの<Kranky>より、ファースト・アルバムをリリース。以後、オーストラリア<Room40>、ルクセンブルク<Own Records>、イギリス<Under The Spire>、<hibernate>、日本<Home Normal>など、国内外のレーベルから現在にいたるまで多数の作品を発表している。

 

デジタルとアナログの機材を駆使したサウンドが構築する、美しいアンビエント・ドローン作品を特徴としており、主に海外での人気が高く、Spotifyの2017年「海外で最も再生された国内アーティスト」ではトップ10にランクインした。2021年4月、イギリス<Gearbox Records>からの第一弾リリースとなるアルバム『Late Spring』を発表。その後、2023年5月にはドキュメンタリー映画 『ライフ・イズ・クライミング!』の劇中音楽集もリリース。映画音楽では他にも、松村浩行監督作品『TOCHKA』の環境音を使用したCD作品『The Secret distance of TOCHKA』を発表。

 

第86回アカデミー賞<長編ドキュメンタリー部門>にノミネートされた篠原有司男を描いたザカリー・ハインザーリング監督作品『キューティー&ボクサー』(2013年)でも楽曲が使用された。また、NHKアニメワールド:プチプチ・アニメ『エんエんニコリ』の音楽を担当している。2010年以来、世界中でツアーを精力的に行なっており、2022年には全米15箇所に及ぶUS ツアーを、2023年は2回に渡りヨーロッパ・ツアーを敢行した。2024年5月、ジャズ・ドラマーの石若駿とのコラボレーション作品『Magnificent Little Dudes Vol.1』をリリース。10月には同作のVol.2の発売が決定している。

 


<Shun Ishiwaka / 石若駿>


1992年北海道生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。

 

2006年、日野皓正special quintetのメンバーとして札幌にてライヴを行なう。2012年、アニメ『坂道のアポロン』 の川渕千太郎役ドラム演奏、モーションを担当。2015年には初のリーダー作となるアルバム「Cleanup」を発表した。また同世代の仲間である小西遼、小田朋美らとCRCK/LCKSも結成。

 

さらに2016年からは「うた」をテーマにしたプロジェクト「Songbook」も始動させている。近年はゲスト・ミュージシャンとしても評価が高く、くるりやKID FRESINOなど幅広いジャンルの作品やライヴに参加している。2019年には新たなプロジェクトAnswer To Rememberをスタートさせた。

 

2023年公開の劇場アニメ『BLUE GIANT』では、登場人物の玉田俊二が作中で担当するドラムパートの実演奏を手がけた。2024年5月、日本を代表するアンビエント/ドローン·ミュージシャン、畠山地平とのコラボレーション作品『Magnificent Little Dudes Vol.1』をリリース。10月には同作のVol.2の発売が決定している。

Passepartout Duo and Inoyama Land  『Radio Yugawara』

 


Label: Tonal Union

Release: 2024年7月26日

 

 

制作背景:


パスパルトゥー・デュオはニコレッタ・ファヴァリ(イタリア)とクリストファー・サルヴィト(イタリア/アメリカ) によって結成され、2015 年以来世界を旅して「スローミュージック」と呼ぶ創造的な楽曲を発表している。 

 

著名なアーティスト・レジデンスのゲストや文化スペースでのライブ・パフォーマンスなど彼らはカテゴラ イズされる事なく活動して来ました。定住地を持たない彼らの音楽的巡礼の旅は最初 2019 年に日本を訪問。

 

この時に環境音楽と深く結び付いた事でサウンドに没頭し、2023 年に日本を再び訪れた彼らは 井上誠と山下康によるイノヤマランドの音楽に再会します。イノヤマランドは、細野晴臣がプロデュースしたアルバム「Danzindan-Pojidon」(1983 年)やグラミー賞にノミネートされたコンピレーション・アルバム 「KANKYO ONGAKU」(Light in The Attic Records)のリイシューも含めて世界的に高い評価を得ているデュオ。ニコレッタは、イノヤマランドに連絡を取ることに成功し、彼らの熱意が受け止められて今作の即 興セッションを行う事になったのです。


「デュオであることの意味、そして音楽を通じて人々がつながることの意味を深く考えている」


今作『Radio Yugawara- レディオ・ユガワラ』は 、ロンドンのTonal Unionから来週発売予定です。2023 年に井上誠の故郷である湯河原でレコーディングされました。彼の実家は幼稚園を運営しており敷地内のホールで行われたのです。

 

パスパルトゥー・デュオが到着すると、ホールには 4 つのテーブルの輪が用意されていました。テーブルには、ハンドベル、グロッケンシュピー ル、木琴、リコーダー、メロディカ、ハーモニカなど子供用の楽器が丁寧に並べられていたのです。テー ブルの周りには様々なベルやウィンドチャイムが吊るされた棚があり、この環境の中でそれぞれの演 奏者は自分の電子楽器をセットアップしました。

 

(1)「電子楽器のみ」、「アコースティックのみ」、「両方の ミックス」、

(2)「お互いのデュオ」のメンバーを交代して演奏する「4 通りのデュエット」、

(3)「制約なしに 自由に演奏」の 3 つのセッションに時間が分けられ、3 時間以上の音源を制作している。

 

期待感の高まるオープ ニング”Strange Clouds”ではシンセサイザーのベッドとクロマプレーン(パスパルトゥー・デュオが設計し たタッチレス・インターフェイスと無限のオーガニック・サウンドを特徴とする手製のアナログ楽器)を使って作られた緑豊かな風景を描くサウンドで、アルバム 11 曲の下地となっています。”Abstract Pets” ではパーカッシブなパルス音が作品の心臓となりアーシーなサウンドがきらめくグロッケンシュピール やウィンドチャイムを迎え入れています。


レビュー:

 

アルバムの音楽は奥深い鎮守の森を探索するかのような神妙な雰囲気に縁取られています。パスパルトゥー・デュオとイノヤマランドは、スモールシンセサイザーを駆使し、精妙な感覚と空気感を作り上げる。全曲はインストゥルメンタルで構成されています。鉄琴、メロディカなどユニークで一風変わった楽器を用い、エレクトロニカやトイトロニカのような作風を序盤に見出すことができる。そして、デュオは湯河原の風景を象ったサウンドスケープを描きだしています。

 

例えば、「Strange Cloud」では、夏の変わりやすい天候を巧みに描写するかのように、空に雲が覆いはじめるような情景をシンセ等の楽器を駆使してユニークな音像を作り上げる。そしてパーカッシヴな効果も相まって、涼し気な音響効果を及ぼす。続く「Abstract Pets」では日本の祭ばやしのような音像を作り上げる。その音楽に耳を澄ますと、太鼓や神楽、神輿を担ぐ人々の情景が目に浮かんでくるかのようです。これらはエレクトロニカの範疇において制作されていますが、ニコレッタ・ファヴァリ(イタリア)とクリストファー・サルヴィト(イタリア/アメリカ)のデュオの遊び心のある楽器の選び方や演奏手段によって、ひときわユニークな内容となっている。

 

本作は環境音楽として制作されたと説明されていますが、どちらかと言えば、なんらかの情景を呼び起こすためのサウンドスケープとして序盤の収録曲を楽しめるはずです。一方、抽象的なアンビエントも収録されており、「Tangerine Fields」はシンセパッドを用い、シークエンスを作り上げ、メロディカや鉄琴などの楽器を演奏することで、情景的な感覚はもちろんのこと、エレクトロニカの系譜にあるサウンドが作り上げられる。シンプルな構成で、それほど音の要素も多くないものの、聴いていて安らぎがあり、癒やしのためのアンビエントとして楽しめるでしょう。

 

また、単なる実験音楽の領域にとどまることなく、アルバムの冒頭のように、神社にいったときに感じられるような神秘的な空気感、森の中をそよ風が目の前をやさしく駆けぬけたり、遠くの方で雲が流れていくような情景、そして、木の葉の先から雫が滴り落ちるようなとき、制作者が湯河原で体験したかもしれない情景が素朴なサウンドによって作り上げられています。現代の複雑なアンビエントとは異なり、原初的な電子音楽として聞き入らせるものがあるはずです。


その後、水の情景をモチーフにしたようなサウンドが続き、「Observatory」では、電子音楽における描写音楽にパスパルトゥー・デュオとイノヤマ・ランドは挑戦しています。水の滴るような柔らかい感覚の音をもとにして、マレット(マレットシンセ)などを使用し、それにグリッチサウンドやミニマル・ミュージックの範疇にある手法を交えることで、巧みなサウンドスケープを描き出しています。レイ・ハラカミが生前に志向していたような、サウンドスケープと電子音楽におけるデザインの融合というテーマの範疇にある楽曲として巧みに昇華されている。

 

アルバムの中盤にも注目曲が収録されています。「Mosaic」は抽象的なピアノの断片から始まり、その後にスモールシンセを駆使して精妙な感覚を作り出す。これらはアメリカのCaribouのデビューアルバムのような精妙な空気感を持つグリッチサウンドに近づいたり、ドイツのApparatのようなアコースティックとエレクトロニックを組み合わせた電子音楽へと近づいたりする。そしてシンプルなピアノも演奏の中に穏やかさと温和さ、もしくは稀に高い通奏低音をを組み合わせることで、テープディレイやアナログディレイなどを用いて逆再生のようなフェーズを設け、神秘的な音響性を作り出す瞬間がある。これはアルバムのハイライトの一つとなるかもしれません。日本の建築の神秘的な空間性を電子音楽の観点から切り取ったような曲です。


以降の2曲はアンビエントが収録されており、アルバムの序盤や中盤とは異なる雰囲気に縁取られています。「King In A Nushell」はアナログサウンドを重視しながらドローンのような抽象的な音像を作り上げている。一方、「Xiloteca」ではSFのようなダークなドローンのテクスチャーをイントロに配し、シロフォンのようなアフリカの打楽器の演奏を織り交ぜ、民族音楽とアンビエントの融合に取り組んでいる。これらはエスニックジャズをアンビエントや電子音楽の観点から組み直したという点で、やや革新的な音楽性が含まれているといえるかもしれません。

 

しかし、こういった実験的な試みもありながら、アルバムの終盤では、パスパルトゥー・デュオ、イノヤマランドはやはり序盤の収録曲のように、癒やしと清々しさに充ち、遊び心のある電子音楽に回帰しています。


「Solivago」では、逆再生のピアノとアンビエントのシークエンスを組みあわせ、神秘的な雰囲気を持つエレクトロニカを制作しています。その中にはやはりトイトロニカの系譜にある本来であれば子供のおもちゃのような楽器を取り入れ、Lullatoneのようなハンドクラフトのかわいらしい電子音楽の世界を築き上げる。これらは安らぐような印象を重視したアジア的なエレクトロニカとして聞き入ることが出来るはずです。

 

「Berceuse」も水泡のような音像をモジュラーシンセで作り上げています。サウンドデザインのような意図を持ち、夏の暑さをほんのりと和らげるような一曲となっています。本作のクローズ曲「Axioloti Dreams」でも同じような電子音楽の方向性が選ばれ、可愛らしい感じのエレクトロニカとなっている。ただ、曲の最後にはパルス音が用いられ、前衛的な試みが用意されています。

 

 

* 上記はレーベルからご提供いただいた11曲収録のオリジナル・バージョンのアルバムを元にレビューしています。 



 

 


78/100

 

 

 

本作はLP盤の他、日本盤も発売されます。セッションの様子、及び、リリースの詳細は下記よりご覧下さい。  



セッションの様子:









アーティスト : Passepartout Duo and Inoyama Land (パスパルトゥー・デュオ・アンド・イノヤマランド)
タイトル : Radio Yugawara (レディオ・ユガワラ)
レーベル : Tonal Union/p*dis
■国内盤 CD/PDIP-6611/店頭価格 : 2,500 円 + 税
バーコード : 4532813536118
*国内盤CDのみボーナストラック”Paper Theater”収録
■国内流通盤 LP/AMIP-0363LP/店頭価格 : 5,900 円 + 税
バーコード : 4532813343631



アーティスト : Passepartout Duo and Inoyama Land (パスパルトゥー・デュオ・アンド・イノヤマランド)
タイトル : Radio Yugawara (レディオ・ユガワラ)
レーベル : Tonal Union/p*dis
■国内盤 CD/PDIP-6611/店頭価格 : 2,500 円 + 税
バーコード : 4532813536118
*国内盤CDのみボーナストラック”Paper Theater”収録
■国内流通盤 LP/AMIP-0363LP/店頭価格 : 5,900 円 + 税

 


バーコード : 4532813343631


CD : Track list


1. Strange Clouds
2. Abstract Pets
3. Simoom
4. Tangerine Fields
5. Observatory
6. Mosaic
7. King in a Nutshell
8. Xiloteca
9. Solivago
10. Berceuse
11. Axolotl Dreams
12. Paper Theater *CD のみボーナストラック


LP : Track list


A1. Strange Clouds
A2. Abstract Pets
A3. Simoom
A4. Tangerine Fields
A5. Observatory
B1. Mosaic
B2. King in a Nutshell
B3. Xiloteca
B4. Solivago
B5. Berceuse
B6. Axolotl Dreams
B7 > end. (Locked Groove)

 

 


INOYAMALAND(イノヤマランド) バイオグラフィー:


1977年夏、井上誠(key)と山下康(key)は巻上公一プロデュースの前衛劇の音楽制作現場で出会い、メロトロンとシンセサイザー主体の作品を制作する。この音楽ユニットは山下康によってヒカシューと名付けられた。

 

同年秋、ヒカシューはエレクトロニクスと民族楽器の混在する即興演奏グループとして活動を始め、1978 年秋には巻上公一(B,Vo)、海琳正道(G)らが参入、リズムボックスを使ったテクノポップ・バンドとして 1979 年にメジャーデビューする。
1982 年以降、井上と山下はヒカシューの活動と並行して 2 人のシンセサイザー・ユニット、イノヤマランドをスタート、翌 1983 年には YMO の細野晴臣プロデュースにより ALFA/YEN より 1st アルバム『DANZINDAN-POJIDON』がリリースされた。

 

その後、二人は各地の博覧会、博物館、テーマパーク、大規模商業施設等の環境音楽の制作に携わる。1997 年に Crescent より 2nd アルバム『INOYAMALAND』、1998 年には TRANSONIC より 3rd アルバム『Music for Myxomycetes(変形菌のための音楽)』をリリースし、10 数年振りにライブも行った。21 世紀に入り 1st アルバム他、各アイテムが海外の DJ、コレクターの間で高値で取引され、海外レーベルよりライセンスオファーが相次ぐなど、内外の再評価が高まる。

 

2018 年、デュオ結成のきっかけとなった 1977 年の前衛劇のオリジナル・サウンドトラック『COLLECTING NET』、3rd アルバム『Musicfor Myxomycetes [Deluxe Edition]』、1st アルバム『DANZINDAN-POJIDON [New Master Edition]』、2nd アルバム『INOYAMALAND [Remaster Edition]』、ライブアルバム『LIVE ARCHIVES 1978-1984 -SHOWA-』、『LIVE ARCHIVES 2001-2018 -HEISEI-』を連続リリース。 中でも世界的に再評価されている。『DANZINDAN-POJIDON』は、オリジナルマルチトラックテープを最新技術で再ミックスダウン、マスタリング、ジャケットもオリジナルとは別カットのポジを使用し、新たな仕様にした事が評価された。

 

 

近年はアンビエントフェスのヘッドライナーを務めるなど、ライブ活動と共に海外展開も活発化。『DANZINDAN-POJIDON』をスイスの WRWTFWW から、委嘱曲のみのコンピレーションアルバム『Commissions:1977-2000』を米 Empire of Signs からリリース、2019 年には米 Light in The Attic 制作の、80 年代の日本の環境音楽・アンビエントを選曲したコンピレーションアルバム『環境音楽 Kankyō Ongaku』に YMO、細野晴臣、芦川聡、吉村弘、久石譲等と並び選曲され、同アルバムがグラミー賞のヒストリカル部門にノミネートされ、更なる注目が集まる。


2020 年、22 年振りとなる完全新作による 4th アルバム『SWIVA』、翌 2021 年に 5th アルバム『Trans Kunang』をリリース。リリースの前後にはクラブミュージックの世界的ストリーミング番組、BOILERROOM、国際的に芸術文化活動を展開する MUTEK、ほか OFF-TONE、FRUE、FFKT といったフェスティバル、各種音楽イベントへの出演を継続。
最新作は 2023 年 12 月リリースの『Revisited』(Collecting Net/ExT Recordings)。

 


Passepartout Duo(パスパルトゥー・デュオ)バイオグラフィー:

 

ニコレッタ・ファヴァリ(イタリア)とクリストファー・サルヴィト(イタリア/アメリカ)によって結成され、エレクトロ・アコースティックのテクスチャーと変幻自在のリズムから厳選されたパレットを作り上げるデュオ。2015 年から世界を旅して「スローミュージック」と呼ぶ創造的な楽曲を発表している。

 

アナログ電子回路や従来のパーカッションを使って小さなテキスタイル・インスタレーションからファウンド・オブジェまで様々な手作り楽器を駆使して専門的かつ進化するエコシステムを開発し続ける。著名なアーティスト・レジデンスのゲストや文化スペースでのライブ・パフォーマンスなどカテゴライズされる事なく活動。ウォーターミル・センター(米国)、スウォッチ・アート・ピース・ホテル(中国)、ロジャース・アート・ロフト(米国)、外国芸術家大使館(スイス)など世界各地で数多くのアーティスト・レジデンスの機会を得ている。また 2023 年には中之条ビエンナーレに参加し、4 月には”Daisy Holiday! 細野晴臣”に出演。2024 年には”ゆいぽーと”のアーティスト・イン・レジデンスとして来日し東北・北海道を訪れています。

Sachi Kobayashi - 『Lamentations』 

 


 

Label: Phantom Limb

Release: 2024年6月28日

 

Review

 

埼玉県出身のサチ・コバヤシによるアルバム「Lamentations」は、UK/ブライトンのレーベル、Phantom Limbからの発売。


すでにBBC(Radio 6)でオンエアされたという話。ローレル・ヘイロー、ティム・ヘッカー、バシンスキーの系譜にあるサンプリングを特徴としたエレクトロニックで、アシッドハウス、ボーカルアートを織り交ぜたアンビエント、モダンクラシカルと多角的な視点から制作されている。

 

「Lamentationsは、身をもって体験した心の痛みという現代的な物語を織り交ぜている。現在の戦争に対する私の悲しみと嘆きから生まれた」と小林はプレスリリースを通じて説明しています。「一日でも早く、人々が平和で安全に暮らせるようになってほしい」


制作の過程については「最初の素材集を作った後、カセットテープを使って自作曲を編集し、ループさせ、歪ませ、時間調整し、それらのバージョンをスタジオで再加工することで、テープ録音特有のアナログ的な残像や予測不可能な音のトーンの変化を取り入れた新しい作品を生み出した」と説明します。

 

本来、小林さんは、Abletonを中心に制作する場合が多いとのことですが、今回のアルバムの制作ではテープデッキを使用したのだそうです。


『Lamentations』は、ボーカルのサンプリングを用い、クワイアのような現代音楽の影響を反映させた実験音楽、ティム・ヘッカーやローレル・ヘイローのような抽象的なアンビエントまで広汎です。


カセットテープを使用した制作法についてはニューヨークのプロデューサー、ウィリアム・バシンスキーの『The Disintegration Loops』を思い浮かばせるが、曲の長さは、かなり簡潔である。


制作のミックスに関しては、マンチェスター周辺のアンダーグラウンドのエレクトロニック、強いて言えば、”Modern Love”、もしくは"Hyper Dub"のレーベルの方向性に近い。その中には、ベースメントのダブステップやベースライン、トリップ・ホップのニュアンスが含まれています。


これが、対象的なクワイア(賛美歌)の音楽的な感覚の再構成、それらにアシッドハウスの要素を加味した、きわめて前衛的なエレクトロニックの手法が加わると、気鋭の前衛音楽が作り出されます。アンビエントは基本的にノンリズムが中心となっていますが、少なくとも、このアルバムにはAutechreのように”リズムがないのにリズムを感じる”という矛盾性が含まれています。


オープニング「Crack」は、アシッド・ハウスやミニマル・テクノを一つの枠組みとしてモジュラーシンセの演奏を織り交ぜている。


解釈の仕方によっては、ベースを中心にそれとは対比的にマニュピレートされた断片的なマテリアルが重層的に重なり合う。現代の中東の戦争を象徴づけるように、それは何らかの軋轢のメタファーとなり、異なる音の要素が衝突する。


たとえば、ゴツゴツとした岩石のような強いイメージのあるシンセの音色で、遠くて近い戦争の足跡をサウンド・デザインという観点から綿密に構築してゆく。


重苦しいような感覚と、それとは異なる先鋭的な音のマテリアルの配置がここしかないという場所に敷き詰められ、まるでパレスチナのガザのいち風景の瓦礫の山のように積み重なっていく。この曲にはエレクトロニックとしてのリアリズムが反映されている。


「Unforgettable」は一転して、自然のなかに満ち溢れる大気の清涼感をかたどったようなアシッド・テクノ。イントロのシークエンスから始まり、一つの音の広がりをモチーフとしてトーンの変容や変遷によって音の流れのようなものを作り上げる。その後、アルペジエーターを配置し、抽象的なノンリズムの中にビートやグルーヴを付加する。アルペジエーターの導入により、反復的な構成の中に落ち着きと静けさ、そして癒やされるような精妙な感覚を織り交ぜる。しかし、アウトロはトーンシフトを駆使し、サイケデリックな質感を持つ次曲の暗示する。

 

続く「Aftermath」は、断片的な音楽のマテリアルですが、現在の実験音楽の最高峰に位置しており、ローレル・ヘイローやヘッカーの作品にも引けを取らない素晴らしい一曲。他のアーティストの影響下にあるとしても、日本人のエレクトロニック・プロデューサーから、こういう曲が出てきたということが本当に感激です。


オーケストラ・ストリングや金管楽器の要素をアブストラクトなドローンとして解釈し、アシッド・ハウスの観点からそれらを解釈しています。シュトックハウゼンのトーン・クラスターや、ローレル・ヘイローのミュージック・コンクレートの解釈は、サチ・コバヤシのサイケデリックやアシッドという文脈において次の段階へと進められたと言える。


アルバムの後半では、サチ・コバヤシのボーカルアートとしての性質が強まる瞬間を見出せる。特に、クワイア(賛美歌)をアンビエント/ドローンから解釈した「Lament」はクラシック音楽を抽象性のあるアンビエント/ドローンとして再解釈した一曲で、前曲と同じように、ここにも制作者の美学やセンスが反映されている。


緊張感のあるアルバムの序盤の収録曲とは異なり、メディエーションの範疇にある癒やしのアンビエントのひとときを楽しむことができるはずです。また、サンプリングを交えたストーリー性のある試みも次の曲「Memory」に見いだせる。


ガザの子供の生活をかたどったような声のサンプリングが遠ざかり、その後、ロスシルや畠山地平の系譜にあるオーガニックで安らげるシンプルなアンビエント/ドローンが続いています。これらの無邪気さの背後にある余白、その後に続く、楽園的な響きを持つアンビエントの対比が何を意味するのか? それは聞き手の数だけ答えが用意されていると言えるでしょう。

 

終盤では、クラシック音楽をドローンとして解釈した「Pictures」が再登場する。この曲は、グスタフ・マーラーの「Adagietto」のオーストリアの新古典派の管弦楽の響きを構図とし、イギリスのコントラバス奏者、ギャヴィン・ブライヤーズの傑作「The Sinking Of Titanic」の再構築のメチエを断片的に交えるという点ではやはり、Laurel Haloの『Atlas』の系譜に位置づけられる。


ドローン音楽による古典派に対する憧れは、方法論の継承という側面を現代的な音楽としてフィーチャーしたものに過ぎません。けれども、チャイコフスキーのような大人数の編成のオーケストラ楽団を録音現場に招かずとも、サウンド・プロダクションの中で管弦楽法による音響性を再現することは不可能ではなくなっています。そういった交響曲の重厚な美しさをシンプルに捉えられるという点で、こういった曲には電子音楽の未来が内包されているように思える。

 

 

アルバムの最後の曲は、デジタルの音の質感を強調したサウンドでありながら、ブライアン・イーノのアンビエントの作風の原点に立ち返っている。


抽象性を押し出した''ポストモダニズムとしての電子音楽''という点は同様ですが、ぼんやりした印象を持つシークエンスの彼方に神秘的な音のウェイブが浮かび上がる瞬間に微かな閃きを感じとれる。


それは夏の終わりに、暗闇の向こうに浮かび上がるホタルの群れを見るかのような感覚。こういった音楽は、完成度や影響されたものは度外視するとしても、アンビエントミュージックやエレクトロニックが方法論のために存在する音楽ではないことを思い出させてくれる。音の印象から何を感じ取るのか? 


もちろん聞く人によって意見が異なり、それぞれ違う感覚を抱くはずです。そして、どれほど完成度の高い音楽であろうとも、人間的な感覚が欠落した音楽を聴きすぎるのはおすすめしません。

 

これは、「Autobahn」の時代のクラフトワークの共同制作者であり、アメリカのAI開発の第一人者でもある、ドイツ人芸術家のエミール・シュルト氏も以前同じような趣旨のことを語っていた。彼はまた音楽に接したとき感じられる「共感覚」のような考えを最重要視すべきと述べていた。そういう側面では、シュルトが話していたように、音楽は今後も数ある芸術の中でも”感情性が重視される媒体”であることは変わりなく、今後の人類の行方を占うものなのです。



 

 

 

92/100

 

 

 


 zakè  『Veta』

 

Label: zakè Drone Recording

Release: 2024年6月24日

 

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zakèは、ザック・フリゼル(Zack Frizzell)のプロジェクトで、「Past Inside the Present」のレーベルオーナーでもある。反復と質感のあるアンビエント・ドローンが彼のオーディオ・アウトプットの真髄。ザック・フリゼルは、Pillarsのオリジナル・ドラマーとして活動し、以前、"dunk!records / A Thousand Arms"から「Cavum」をリリースし、高評価を得た。dunk!recordsからの初のソロ・リリースは、スロー・ダンシング・ソサエティとのコラボ・リミックス・トラックで、ピラーズの「Cavum Reimaged」2xLPに収録されている。ザック・フリゼルはかなりハイペースでリリースを重ね、今年3月に発表された『B⁴+3 』からすでに4作目のリリースとなる。

 

『B⁴+3 』では古典的なアンビエントサウンドを制作したザック・フリゼルであるが、今作ではシネマティックなドローンサウンドを聴くことができる。ヘンリク・グレツキのメチエを電子音楽として組み上げ、そしてそれを彼特有の清涼感溢れるアンビエントサウンドに昇華させている。今作では、ホーン・セクションをリサンプリングし、それらをオーケストレーションのように解釈している。何より、ザックのアンビエントが素晴らしいのは、録音やミックスにおけるこだわりを見せつつも、心地よさのあるアンビエントを制作していることである。ザックは絶えず、音の大小のダイナミクスを緩やかな丘のように組み上げ、心地よいウェイブを作り出す。彼のアンビエントは音響的ではなく、どちらかと言えば、ウェイブやヴァイブスを意味する。

 

最近のアンビエントのトレンドは、低音域や重低音を強調したサウンドが多くなってきているが、このアルバムも同様となる。10分以上の長尺の曲が2つ収録されたEP「ミニアルバム)のような構成となっている。そして、フリゼルは最新鋭のデジタルレコーディングの技術を駆使し、シネマティックなサウンドを組み上げる。オープニングの「Veta」は、ほんの些細なミニマルなフレーズを元に壮大な音響空間を構築する。幾つものホーンのサンプリングが海の波のように寄せては返す中、オーケストラ・ストリングスを模したシンセのシークエンスを配する。

 

雄大さと繊細さを兼ね備えた抽象的なエレクトロニックは、このプロデューサー特有のサウンドといえる。「Bewrayeth Vol.2」は、パン・フルートの音源をストリングに見立て、中音域から低音部を強調したサウンドだ。前の曲と同じように、一小節のフレーズを音の大小、トーンの微細な変化、そして音の抜き差しによってバリエーションを生み出す。この作曲構造に関して、zakèの作風がミニマルテクノの延長線上にあることを暗に示唆している。そしてもう一つの特徴は、音響的なノイズ性を徹底的に引き出しながら、その果てにある奇妙な静寂を作り出す。

 

この作品では、電子音楽家としての実験的な試作にとどまらず、アイスランドのヨハン・ヨハンソンが生み出したモダン・クラシックの範疇にある「映画音楽としてのアンビエント/ドローン」の作風に近い曲も収録されている。


お馴染みのコラボレーターであるダミアン・デュケ(City Of Dawn)が参加した「Glory」では、木管楽器の演奏を取り入れて、沈鬱でありながら敬虔なドローンの響きを、短いパッセージを積み重ねながら作り出している。


これは今は亡きアイスランドの英雄であるヨハンソンが映画音楽という領域で取り組んでいた作風で、その遺志を継ぐかのようだ。葬礼を思わせる厳粛な音の運びは、ブラームスの交響曲のような重厚な感覚に縁取られる。本楽曲は電子音楽におけるオーケストラの意義に近く、古典派の作曲家がいまも生きていたのなら、こういった曲を制作していたのではと思わせる何かがある。

 

本作のクローズ曲「Memorial」では、それらの重苦しさは遠ざかり、祝福的なドローンをザックは制作している。オープナーと同じように、ホーン・セクションの録音、リサンプリングにより、トーンの変容を捉えながら、アンビエントの理想的な安らかさを生み出す。ミュージック・コンクレートの範疇にあるエレクトロニック作品で、シンプルな構成から成立しているが、録音としては非常に画期的。エレクトロニックをオーケストレーションのように解釈しているのもかなり斬新であり、現行のエレクトロニックシーンの良い刺激剤となるかもしれない。

 

 

 

82/100





Aphex Twinの『Selected Ambient Works Volume II』(Music Tribuneのアンビエントの名盤特集でもお馴染みのアルバム)がワープ・レコードから今年の秋に再発される。エイフェックス・ツインの最初期の実験音楽を収録したこのアルバムは、実際的にこのジャンルの知名度を広める契機となった。


10月にリリースされる30周年記念盤には、様々な異なるフォーマットでリリースされたアルバムの全曲が初収録される。


その中には、以下で聴くことができるビニール盤のみの「#19」(より広く知られているのは「Stone In Focus」)と、初めてフィジカル・フォーマットで正式にリリースされ収録される追加トラック2曲も含まれている。


デジタル・リリースに加え、リイシューはいくつかのフィジカル・フォーマットで発売される。そのひとつが、限定4xLPレコード・ボックス・セットで、折り畳みポスター、ステッカー・シート、オリジナル・アートワークの開発スケッチが掲載されたブックレットが付属する。また、前面に銅メッキとエッチングでエイフェックス・ツインのロゴをあしらった特注の蝶番付きオークケースに収められる。


他のフィジカル・エディションには、価格の4xLPヴァイナル・セット、トリプルCD、250枚限定のダブル・カセットがある。


1994年3月にリリースされた『Selected Ambient Works Volume II』は、リチャード・D・ジェームスの2枚目のスタジオ・アルバムで、前作『Selected Ambient Works 85-92』よりもビートのないアンビエント・サウンドに焦点を当てている。


ワープ・レコードは、2024年10月4日に『Selected Ambient Works Volume II (Expanded Edition)』をリリースする。日本盤の発売は未定。


Loscil's comments on the new EP “Umbel      

Loscil : courtesy of the artist

 

 

新作EP「Umbel」に関するLoscilのコメント

 

ロスシル(スコット・モルガン)はカナダ/バンクーバーの電子音楽家で、2000年代からエレクトロニック/アンビエントを筆頭に多数の作品を制作してきました。

 

彼の作品は、ニューヨークのWilliam Basinsky、オーストリアのFenneszといった伝説的な音楽家に匹敵するものです。ロスシルは、これまでシカゴの実験音楽を専門とするレーベル"Kranky”からリリースを行い、アメリカやイギリス等、国際的な評価を獲得しているミュージシャンである。

 

一昨年には、イギリスの公演で、日本の電子音楽家、畠山地平(Interview)との共演も行っています。今回、新作EP「Umbel」をリリースしたばかりのスコット・モルガンさんにご意見を伺うことが出来ました。

 

 

--タイトルの由来を教えてください。


ロスシル:   アンベルとは、カエデの花によく見られる花の構造です。 楽曲に添えられている写真は、カエデの花の下で撮影されたものなので、作品にふさわしいタイトルだと思いました。



--制作にあたって工夫したこと、心がけたことは?


ロスシル   このプロジェクトは、音と同じくらいイメージに関わるものです。 この2つを面白い方法で組み合わせようとしました。 

 

写真の長時間露光は、しばしば鏡のように曇った絵画的なイメージを生み出しますが、それはアンビエント・ミュージックの制作過程にとても似ていると思います。 

 

シンセやサンプラーを使って音の層や雲を作り、リバーブやグラニュレーション、ディレイを使って音を汚したりぼかしたりした。 これらの音響効果は、私が音とイメージの両方で惹かれる奥行きとスケールの感覚を作り出します。




--アルバム制作で最もエキサイティングだった瞬間を挙げるとしたら?



ロスシル:   ブラック・コーポレーションという日本の会社が作った"Deckard's Dream MK2"というシンセサイザーを使うことに多くの時間を費やしました。 

 

私のこれまでの作品のほとんどは、楽器のサンプルやフィールド・レコーディングを重ねたり加工したりして作られています。 正直なところ、シンセサイザーはあまり好きではなかったのですが、”Deckard's Dream”は私にとって非常に刺激的で、音の密度と質量を作り出すために、このシンセサイザーで音をシェイプしたり、リサンプリングしたりすることに多くの時間を費やしました。



--アンビエント制作の醍醐味は何ですか?



私にとって、新しい作品がバランスをとる瞬間をいつも探しています。 それまでは、音が退屈だったり、苛立たしかったりするのですが、音のバランスを見つけると、ある種の瞑想的な感じで長時間聴くことができるようになります。 新しい作品では常にこの瞬間を探し求めていて、それを見つけたときに完成したことを実感します。


--Umbelを聴くファンに一言お願いします。



少し忍耐が必要な作品なので、管理された環境で深く聴いて楽しむのが一番です。 時間をかけて聴いていただき、ありがとうございます。



--今後の作品の展望を教えてください。



アメリカのレコード・レーベル、krankyの次のフル・アルバムの完成に近づいています。 すぐに完成させて、来年中にはリリースしたいと思っています。 この作品は"Umbel"とはかなり違いますので、共有できることを楽しみにしています。

 


--お忙しいところ、お答えいただき、ありがとうございました。今後のご活躍を期待しております。

 

 

Loscil (Scott Morgan) is a Canadian/Vancouver electronic musician who has produced numerous electronic/ambient works since the 2000’s, most notably electronic/ambient. 


His work rivals that of such musical legends as New York's William Basinski and Austria's Fennesz. Loscil is a musician who has released music on Chicago's Label "Kranky", which specializes in experimental music, and has won international acclaim in the US, UK, and elsewhere.

In the year before last, he performed in the UK with Japanese electronic musician, Chihei Hatakeyama. We were able to ask Loscil who has just released his new EP “Umbel,” for his opinion.

 

 

 Episode In English: 


--Please tell us about the origin of the title.


Loscil:   An Umbel is the structure of a flower commonly found on a maple blossom.  The photographs that accompany the music were taken under a blossoming maple tree so I thought this would be a suitable title for the work. 



--What you tried to devise and keep in mind in the creation.


Loscil:   This project is as much about image as it is sound.  I was trying to combine the two in interesting ways.  Long exposures in photography often produce mirky, cloudy, painterly images which I find very similar to the process of making ambient music. 

 I used synths and samplers to build layers and clouds of sound and used reverb, granulation and delay to smear and blur the sound.  These effects, both with the images and the sound, create a sense of depth and scale which I am attracted to in both sounds and images.


--If you had to name the most exciting moment in the making of the album.



Loscil:   I spent a lot of time using a synthesizer called the "Deckard’s Dream MK2" made by a Japanese company called Black Corporation.  

Most of my previous work is built using samples of instruments and field recordings layered and processed.  I’ve never been very fond of synthesizers, to be honest, but the Deckard’s Dream was quite evocative to me and I spent much time shaping sounds with it and resampling it to create density and mass in the sound which I found very exciting.



--What do you find most enjoyable about ambient production?



Loscil:   For me, I am always searching for the moment a new piece comes into balance.  Before this time, the sounds can be quite boring or irritating, but when you find the balance in the sound, it becomes possible to listen for long periods of time in a kind of meditative way. 

 I am always seeking out this moment with a new work and when I find it, I know it is finished.


--What would you like to say to the fans who listen to “Umbel”?



Loscil:   It is a work that requires a little patience and is best enjoyed with deep listening in a controlled environment.  Thank you for taking the time to listen.  



--What is your outlook for future productions?



Loscil:   I am very close to finishing my next full length album for the American record label, kranky.  I hope to finish this soon and release it within the next year.  This work is quite different from Umbel and I look forward to sharing it.

 

 

Thank you for taking time out of your busy schedule to answer our questions.

 Loscil -  『Umbel』EP

 

Label:  Self Release

Release; 2024/05/31

 


Review   


Indirect Sound   -バンクーバーのアンビエントの重鎮による重厚なドローン-



2001年頃、実質的なデビュー・アルバム『Triple Point』をリリースした当初、ロスシルはミニマル・テクノ/アシッド・ハウス風の電子音楽を制作していた。翌年、『Sbumer』をリリースした頃には抽象的なサウンド・デザインを描くようになり、アンビエントの果てなき世界を探求していた。


ロスシルのサウンドはそれ以降、より抽象的になり、ドローンアンビエントと呼ばれるこのジャンルの最も先鋭的な性質を象徴付けるエレクトロニック・プロデューサーとなった。ロスシルは、アンビエントで自然風景を表現したり、サウンドデザインのような意義を擁するダウンテンポ、はては、音楽そのものを建築学や図面のように解釈したものまで、そのアウトプットのスタイルは多岐にわたる。そして一括りにアンビエントといっても様々な表現法があることが分かる。その中には2000年代にドイツで盛んになったグリッチ(ラップのドリル)の性質が強固な作品もある。 多作なプロデューサーであるけれど、ロスシルの作品は毎回のように密度が濃い。


ただ、ロスシルの作品を定義付けるのなら、これまで特定のカラーを持った作品というのは、それほど多くはなかったという印象もある。コンセプチュアルな試みがないというと偽りになってしまうけれど、エレクトロニックの全般的な制作に関しては、ある程度自由なイメージを持って作品をリリースしてきた印象がある。要するに、彼の作品の中にはエレクトロニックによる抽象的なメチエが含まれることはあっても、一貫してダークな印象を持つアルバムというのはそれほど多くはなかった。

 

しかしながら、今回の最新EP『Umbel』は、従来のアンビエント/ダウンテンポの作品とは明らかに意を異にしている。最新作では、全体的”にダーク・アンビエント”とも称するべきドゥーム・サウンドに焦点が絞られており、暗鬱さと重厚感を併せ持つ特異な作風が生み出されることになった。これは同じくカナダのプロデューサー、Krankyからリリースを行うTim Heckerが昨年リリースした『No High』に触発されたような意義深い作品である。作品単位における差異は、Lawrence Englishとのコラボレーション・アルバム『Colours of Air』と比べると一目瞭然ではないだろうか?

 

 

オープニングを飾る「Shadow Marple」では、ティム・ヘッカーが昨年のアルバムで披露した録音の波形を、シュトックハウゼンやルイジ・ノーノのようなトーンクラスターの範疇にあるミュージック・コンクレートとして処理した上で、エレクトロニックによるミニマルミュージックに落とし込むという形式が、イントロに見いだせる。


 しかし、ミニマリズムの範疇にあるフレーズが呆れるほど繰り返されると、これが通奏低音を活かしたドローン・ミュージックのような音響性へ変化する。つまり、ミニマルなフレーズを幾つも辛抱強く積み重ねながら、マキシマムな構成を持つ音響構造を形成するのである。つまり、モチーフは、ミクロの視点で構成されるが、その反面、リスナーはマクロの極大の音像を捉える。

 

これらの二面性を見るかぎり、『Umbel』は従来のロスシルのサウンドの中で最もコンセプチュアルな意味を持ち、同時に、”反骨精神に溢れる作風”として位置付けられるかもしれない。そして、もうひとつの主要な特徴が、これらの表面的なイメージを形作るアンビエントの中に、メタ構造とも呼ぶべき趣旨が見いだせることだろう。彼は、従来のアブストラクトなアンビエントやダウンテンポの手法を用いながら、ミルフィーユ構造のような構成をもたらし、その内側に教会のパイプオルガンのような音響性を作り出す。もちろん、聞けば分かる通り、録音にはアコースティックのチャーチオルガンは使用されていない。しかし、遠くの方でオルガンが響くような奇妙なイメージをもたらす。これらの二重性を込めたアンビエントサウンドは、かなり先鋭的な印象を形作る。それらの堅牢な楽曲構造を作り出した上で、ロスシルはベテランプロデューサーらしく、巧みなサウンド・デザインの手法を施し、音形や音波を自在に操り、極大の音像と極小の音像を代わる代わる登場させ、最終的に、イントロで立ち消えたと思われたパイプオルガンの荘厳な音響性を曲のクライマックスになって再登場させ、意外な印象をもたらす。


『Umbel』では、サブウーファーを持つ特別なスピーカーでしか捉えることの難しい重低音がミックス/マスタリングで強調されている。それはこのアーティストの潜在的な重厚な人物像や作曲性を浮かび上がらせる。これはまた、従来のロスシルの作風から考えると、かなり特異な点であるかと思う。

 

それらは暗鬱さ、及び、地の底から響くような重厚さ、それとは対極に位置する荘厳な音の印象という2つの対蹠地(Antipodes)に存在する音の間を往来し、現実と幻想の狭間を漂うような奇妙なサウンドスケープを巧みに描き出している。タイトル曲「Umbel」では、最近、ニューヨークのアンビエントプロデューサー、ラファエル・イリサーリがセルビアの現代音楽家と率先して取り組んでいるダークアンビエントのような作風を思わせるが、ロスシルの場合は、メタリックなノイズ性とは対極にあるジョン・ケージのような静謐さにポイントが絞られている。(ケージは生前、サイレンスの概念やイデアについてよくモーツアルトの楽曲を比較対象に出していた)

 

サイレンスとラウドを絶えず往来する微細なトーンシフターの変化、そして低音域を中心に構成されるドローンのシークエンスが混ざりあうと、アクションゲームのサウンドトラックのような印象を持つコンセプチュアルな音のイメージが浮かび上がる。その中で、セリエリズムを基にした不協和音が取り入れられ、不気味でワイアードなイメージを作り出す。これらのドローンのサウンドに、社会風刺のような意味があるのか、もしくはこれまで彼が取り組んでこなかったようなメッセージが込められているのか。そこまでは明言できないにしても、アウトプットされるサウンドには何らかのメッセージが含まれているように思える。もちろん、それをどのように解釈するのかは聞き手の感性による。そして、これらの多角的なサウンドスケープは、カウンターポイントのような複合的なモノフォニー構造を生み出す。しかし、それらの対旋律的な進行は、最終的に一つのシークエンスに焦点が絞られ、無数に散らばったものが合一へ近づき、それらが厳粛な雰囲気を携えつつ、アウトロへと向かう。最終的に通奏低音は、徐々にトーンダウンしていき、ラウドからサイレンスへと繋がっていく。ここには、カナダのプロデューサーとしては珍しく、音響学としての変容の過程が重視されているように見受けられる。


 

EPの冒頭の2曲は比較的、意外な作風として楽しむことができる。他方、それに続く、3曲目の「kamouraka」はロスシルの従来の作風の延長線上にある内容である。それは大気の粒子を電子音楽の形で捉えたかのようであり、それらのアンビエンスの中にノイズが散りばめられている。音の粒が精細な輝きを放ち、その中にサンプリングを散りばめ、デジタルな感覚とアナログな感覚を織り交ぜる。


サンプリングの中には木々の破片がぶつかりあうような音や大気の中に雨が降りしきるような音が捉えられ、先鋭的なデジタルサウンドと鋭いコントラストを描く。Four Tetのような色彩的なサウンドとまでは言い難いが、少なくともサウンド・デザインのような趣旨を持ったトラックである。ノイズの印象が強いけれど、その中に音楽が持つロマンティックな印象性を呼び覚まそうとする。ここにも、入れ子構造のような二重性のある楽曲の構想を発見出来るかも知れない。

 

さらに制作者は、パンフルートのようなシンプルな音色のシンセサイザーの音源を用いながら、巧みに音の印象を遠く響く教会の鐘の音、つまり、アルヴォ・ペルトの名曲「Fur Alina」のような現代音楽のディレクションにも見いだせる"INDIRECT SOUND"(間接的なサウンド)を緻密に作り上げている。さらに詳細に言及するなら、それらは近くではなくて、”遠くにぼんやりと鳴り響いている祝祭的な音楽”なのである。これは、例えば、ノルウェーのトランペット奏者であるArve Henriksen(アルヴェ・ヘンリクセン)が2008年に発表したアルバム『Cartography』の収録曲「Sorrow And Its Opposite」、「Recording Angel」等を聴くと、わかりやすいかも知れない。

 

 

「Indirect Sound(間接的なサウンド)」は、それ以降も今作の主要な位置づけにある。そして、近年のデジタルの音響機器は、技術者の研鑽によって精細な音の粒を捉えられるようになってきているが、一方で、映像がそうであるように、必ずしも鮮明な音質が良い印象を与えるとは限らないのが面白い。ときに、クリアなサウンドという概念を逆手に取り、それとは反対に解像度の低いローファイな音の質感をあえて押し出すと、鮮明なサウンドよりも強い印象を及ぼすことが可能になるケースもある。ロスシルはそんなことをEPを通じて教唆してくれているという気がする。

 

続く「Dusk Gale」も同じような音楽形式に位置づけられる。この曲では、ドイツ等のヨーロッパの地方のお祭りに見いだせるような祝祭的な響きが込められており、ロスシルは、モジュラーシンセを駆使しながら遠くで鳴り響く瞑想的なオルゴールのような音響効果を作り出す。しかし、静かなイントロとは裏腹に、その後、稲妻のようなノイズが走り、音のイメージを一変させる。

 

そして、EPの序盤と同じようにマクロな視点で宇宙的なサウンドをデザインする。それはラファエル・アントン・イリサリと同じように、少し不気味な印象をもたらすこともあるが、最終的に天文学的なアンビエントサウンド、ダークマターやブラックホールを電子音楽の観点から捉え、デザインするのである。そしてこの曲も、ラウドなドローンから徐々にサイレントなドローンにゆっくりと変化していく。さながら、宇宙の本質を表しているかのようであり、ブラックホールに宇宙の物質が飲み込まれていくようなサウンドスケープを描出する。


 

上記の4曲は、意外にもアンビエントの穏やかさとは対極にある緊迫感を擁するイメージを徹底的に押し出している。その中には、従来のロスシルのイメージを払拭するものもある。しかし、EPのクローズを飾る「Cyme」は、ロスシルらしい作風を選んでいる。いかにも山の高原にある精妙な空気感を電子音楽で表現したような感覚。しかし、ここまで通奏低音やサステインを強調したアンビエントは、彼の作品の中でもそれほど多くはなかったように感じられる。


少なくとも、ロスシルはこのミニアルバムを通じて、彼自身の音楽を形骸化させることなく先鋭的な作風へと転じている。今後どのような音楽が生み出されるのか、ワクワクしながら次の作品を楽しみに待ちたい。

 

 ロスシルのコメントはこちら

 

90/100

 

 

 

 

Will Long

東京を拠点に活動するアメリカ人アーティスト、Will Long(ウィル・ロング)によるアンビエント・プロジェクト、Celerによるアルバム『Perfectly Beneath Us』が、オランダの電子音楽レーベル”Field Records”よりヴァイナルでリイシューされる。

 

リマスターはStephan Mathieu(ステファン・マシュー)が担当した。本作は膨大なカタログの中からStill*SleepからCD-Rとして2012年にリリースされた。



Celer(セラー)は2005年にカリフォルニアでWill LongとDanielle Baquetの共同プロジェクトとしてスタートし、数多くのセルフ・リリースを発表してきた。2009年にBaquetが他界してしまったが、Longはプロジェクトを続行することを決め、最も純粋なアンビエントの可能性を追求し成長を続けている。また、Long自身の名義でのソロ活動も並行して行われており、DJ SprinklesのComatonse RecordingsやノルウェーのSmalltown Supersoundから数多くの作品をリリースしている。



本作は非常に没入感のある魅惑的なドローン・ミュージックで、熱心なリスナーを満足させるだけでなく、カジュアルなリスナーをも癒してくれる。2012年にわずか100枚限定でリリースされたこの作品は、今、丁寧にデザインされた美しいパッケージに収められ、Field Records独自のレパートリーである刺激的なサブリミナルな電子音楽作品に華を添えている。



本作『Perfectly Beneath Us』のリイシューはCelerの膨大なカタログへの理想的な入り口となるだろう。

 

 

Celer  「Perfectly Beneath Us』- Vinyle Reissue

 




発売日 : 2024年6月14日
アーティスト : Celer
タイトル : Perfectly Beneath Us
フォーマット : 12" Vinyl / デジタル配信
品番 : FIELD32
レーベル : Field Records(オランダ)

試聴はこちら: https://fieldrec.bandcamp.com

 

 
TRACK LIST: 


A1 Slightly Apart, Almost Touching (12:36)
A2 Distressing Sensations(3:14)
B1 Ultra-terrestrial Yearning(3:15)
B2 Absolute Receptivity Of All the Senses(14:34)



 

 Marine Eyes

 

マリン・アイズ(シンシア・バーナード)は、アンビエント、シューゲイザー、ドローン、フィールド・レコーディング、ドリーム・ポップを融合させ、この瞬間に生まれながら、過去からの教訓を織り交ぜた物語を綴ります。


現在ロサンゼルス在住のバーナードは、北カリフォルニアで育ち、音楽がとても大切にされている家庭で育った。シンシアの祖母が脳卒中で倒れ、話すことはできても歌うことができなくなったとき、シンシアはセラピーとしての音楽に魅了されました。


何年もの間、彼女は音楽を自分自身と親しい友人や家族だけにとどめていたが、2014年に現在の夫ジェイムズ・バーナードと出会い、2人は一緒に音楽を書き始め、アンビエント・プロジェクトで目覚めた魂を分かち合うようになりました。2021年にStereoscenic Recordsからソロ・デビュー・アルバム「idyll」を、2022年にはPast Inside the Presentから「chamomile」をリリースしています。


現在、彼女は定期的にミニチュアの世界を構築し、自然の中で静寂を迎えながら、音の癒しの特質やセメントの大切な瞬間を探求しています。2024年にパスト・インサイド・ザ・プレゼントから3枚目のソロ・アルバムがリリースされます。


3枚目のソロアルバム『belong』を作り上げる感情や人間関係の脈動をパッケージ化する手段としてバーナードは幾つもの言葉を日記に残しました。直接的で喚起的な構文はイー・カミングス(アメリカの画家)を想起させ、彼女はこのコレクションで親しみやすい魂によって彩られた水たまりのような光景を、愛によるイメージで表現しています。


バーナードの瞑想的な手法により、「To Belong- 帰属」は本来あるべき生命の姿に近づいていきます。物理的な世界、時間の連続体、愛する人の腕の中にある居場所を表現するような、稀有で繊細な感覚に。トリートメントされたギター、ソフトなシンセ、輝く声のレイヤーを駆使し、全体的な抱擁の感覚を織り交ぜる。『To belong』には、フィールド・レコーディングや、彼女の大切な家族や友人の声も優しく彩られている。これらには、以前カモミールにインスピレーションを与えた、日記と記録への愛が貫かれています(『Past Inside the Present』2022年)。


オープニングのタイトル・トラックは、鳥の鳴き声とヴォーカルの言葉がゆるやかな波さながらに寄せては消え、綛(かせ)から取り出された毛糸のようなテクスチャーを紡いでゆく。「bridges」は、柔らかにかき鳴らされるギター、澄明な瞳のマントラが霧中から現れる。夕まぐれの浜辺で焚き火を囲みつつ、子供たちのために、この曲を演奏する彼女の姿を想像してみて下さい。


「cemented」は、亡き叔父が大切にしていたギターの弦がタペストリーさながらに絡み合い、お気に入りの公園を散歩したさいの足音が強調され、無限の空間を作り上げていきます。憂鬱と畏怖が共存する短いパッセージにより闘病中の妹の勇気を称え作曲された「of the west」、カリフォルニアの緑豊かな季節を淡いきらめきに織り交ぜ、牧歌的なテーマ(Stereoscenic, 2021)と呼応する「suddenly green」など、彼女の旅は続く。これらは疑いなしに深く個人的な作品であることはたしかなのですが、その慈愛と共感の魅力的な空気に圧倒されずにいられないのです。


「mended own」は、プリズム写真に傾倒するバーナードの内省的な研究と合わせて、フォーク・バラード・モードを再現しています。絶えず屈折したり、分解したり、融合したり、あるいは光線と戯れたりする彼女の音楽の性質は、アルバムのジャケット画像に象徴づけられるように、出来上がりつつある虹の中でそれぞれの要素が際立つようにアレンジと融合しています。「柔らかな手に握られたこの光は/重い石を/手放す」とバーナードは穏やかに歌い、オーバーダビングされたテープに残された亡霊さながらに、背景を横切って細部を際立たせる。


最後の「to belong」は、長年の血筋の影響(USCのリトル・チャペル・オブ・サイレンスを作った曾祖母のために書かれた "in the spaces")と親しい友人の無条件の愛("all you give (for ash)")を呼び起こし、感謝と無常への2部構成の頌歌で幕を閉じる。「night palms sway」は、街灯の下でひらひら舞う昆虫だけが目撃する、日の終わりに手をつないで歩く親しげな光景を想起させるでしょうし、「call and answer」は、聴けば歌ってくれるミューズへの賛歌となる。最後の曲については、束の間の別離を惜しむというよりも、再び会いたいという親しみが込められているのです。


マリン・アイズは、詳らかに省察を重ね、受容し、実存の偶然性に感謝し、彼女の音楽の世界を作り上げます。「個人的な歴史に巻き起こる出来事すべてになんらかの意味が込められている」バーナードは断言します。「あらゆる偶発的な出来事や、わたしたちを取り巻くあらゆるもののもろさやよわさを考えるとき、一への帰属意識こそがきわめて貴重なものになりえる」と。



--Past Inside The Present



『To Belong』




マリン・アイズのプロデューサー名を関して活動を行うLAのシンシア・バーナードは、夫であるジェームス・バーナードと夫婦で共同制作を行い、ソロアーティストとして別名義のリリースを続ける。アンビエントミュージシャンとして夫婦で活動を行う事例は珍しくなく、例えば、ベルギーのクリスティーナ・ヴァンゾー/ジョン・アルゾ・ベネット夫妻が挙げられます。ベルギーの夫妻はロンドンのバービカン・センター等でもライブ・イベントを行っている。クリスティーナ夫妻の場合は、シンセサイザーとフルートの組み合わせでライブを行うことが多い。

 

そして、二つのパートナーに共通するのは、コラボレーターとして共同制作も行い、そのかたわら、ソロ名義の作品もリリースするという点なのです。ふと思い出されるのは、昨年末、夫のジェームス・バーナードのアンビエントアルバム『Soft Octave』がリリースされたことです。年の瀬も迫ると、大手レーベルのリリースはほとんど途絶えますが、その合間を縫うようにし、インディペンデントなミュージシャンの快作がリリースされる場合がある。バーナードさんのアルバム”Soft Octave”は、妻のシンシアとは異なり、クールな印象を持つアンビエントで、音楽に耳を傾けていると、異次元に引っ張られていくような奇異な感覚に満ちていました。とくに「Cortege」という曲がミステリアスで、音楽以上の啓示に満ちていたような気がしたものでした。いや、考えてみると、理想的な音楽とはなんらかの啓示でもあるべきなのでしょうか??

 

夫であるジェームス・バーナードの音楽とは異なり、妻のマリン・アイズの音楽は自然味に溢れていて、言ってみれば、ロサンゼルスの自然からもたらされるイメージ、内的な瞑想、そして静寂を組みわせて、癒やしの質感を持つアンビエントを制作しています。祖母の病気をきっかけに音楽制作をはじめるようになったマリン・アイズは、ヒーリングのための音楽を制作しはじめ、当初それを公に発表することもためらっていましたが、しかし、彼女の音楽を家族や身内だけに留めておくのは惜しく、より多くの人の心を癒やす可能性を秘めています。シンシア・バーナードの現時点での最高傑作として、昨年、エクスパンデッド・バージョン「拡張版)として同レーベルからリリースされた「Idyll」が真っ先に思い浮かびます。この作品では、サウンドデザインの観点からアンビエントが制作され、その中にシンシア・バーナードのギターに彼女のボーカルが組み合わされ、”アンビエント・ポップ”ともいうべき新しい領域を切り開いたのです。もちろん、このことに関して、当のミュージシャンが必ずしも自覚しているとは限りません。新しい音楽とは、あらかじめ予期して生み出されるものではなく、いつのまにか、それが”新しいものである”とみなされる。音楽の蓋然性の裏側に必然性が潜んでいるのです。



シンシアの3作目のアルバム”To Belong"が、なんのために書かれたものであるのかは明確です。人間の存在が分離した存在なのではなく、一つに帰属すべきものであるという宇宙の摂理を思い出すために書かれているのです。人間の一生とは、分離に始まり、合一に戻っていく過程を意味する。そのことに何歳になってから気がつくものか、死ぬまでそのことがわからないのか。それぞれの差別意識、肌の色の違い、性別の違い、また、考えの違い、ラベリングの違い、ひいては、宗教、民族の違い、所属の違いへと種別意識が押し広げられていき、最終的には、政治、国家、実存の違いへと意識が拡大していく。そこで、人々は自分がスペシャルな存在であると考えて、自分と異なる存在を敵視し、ときに排斥することを繰り返すようになってしまう。ときに、それが存在するための意義となる。しかしながら、それらの差別意識は、根源的には生命の存在が合一であることを”思い出させる”ために存在すると考えてみたらどうなるでしょう?? それらの意味は覆されてしまい、個別的な存在がこの世にひとつも存在しないということになる。 

 

 

 

・1ー3

 

この音楽はミヒャエル・エンデの物語のように始まりもなければ終わりもありません。そしてミュージシャンが述べているように、これらのアンビエントは根源的な生命の偏在を示唆し、言い換えれば「どこにでもあり、どこにもない」ということになる。しかし、それは言辞を弄したいからそう言うのではなく、シンシア・バーナードの音楽のテクスチャーの連続性は、たしかに生命の本質を音楽というかたちで、のびのびと表現されているからなのです。シンセのシークエンス、バーナードさんがLAで実地に録音したフィールド・レコーディング、それからギターとボーカルという基本構造を基にし、アンビエントミュージックが構築されていきますが、 アルバムの導入部分でありタイトル曲でもある「To Belong」は、パンフルートの音色をかけあわせたシンセのシークエンスがどこまでも続き、音像の向こうに海のさざめきの音、鳥の声がサンプリングで挿入され、自然味のあるサウンド・デザインが少しずつ作り上げられる。このアルバムを聴くにつけ、よく考えるのは、アーティストが見たロサンゼルスの光景はどのようなものだったのかということなのです。もちろん、いうまでもなくそこまではわからないのですが、その答えはアルバムの中に暗示され、海の向こう側の無限へと続いているのかもしれません。これらの一面的を超越した多角的なサウンド・デザインは、実際に世界がミルフィールのような多重構造を持つ領域により構築されていることをありありと思い出させるのです。

 

マリン・アイズの音楽は、Four Tet、Floating Pointsのようなサウンドデザインの領域にとどまることはなく、Autechre、Aphex Twinの音楽に代表されるノンリズムで構成されるクラブ・ミュージックに触発されたダウンテンポに属するナンバーに変わることもある。そしてどうやらこの試みは新しいものであるらしく、マリン・アイズの音楽の未知の側面を表しているようなのです。例えば、#2「husted」は(モジュラー)シンセによってミクロコスモスから始まった音像空間が極大に近づき、マクロコスモスへと押し広げられる。この作風は、リチャード・ジェイムスが90年代のテクノブームを牽引する以前に、「Ambient Works」で実験的に示したものでもあったのですが、シンシア・バーナードは旧来のダウンテンポの要素にモダンな印象を添えようとしています。単なるワンフレーズの連続性は、ミニマリストとしてのバーナードの音楽性の一端が示されているように思えるかもしれませんが、実は、そのかぎりではなく、トーンやピッチの微細な変容を及ぼすことにより、轟音の中に安らぎをもたらすのです。これはジョン・アダムスが言っていたように”反復は変化の一形態である”ということでもあるのです。

 

 

マリン・アイズはフィールドレコーディングで生じたエラー、つまり、ヒスノイズをうまく活用し、グリッチノイズのような形でアンビエント・ミュージックに活用しています。シンシア・バーナードはカルフォルニアの自然の中に分け入り、リボン・バイクを雑草地に向け 、偶然性の音楽を捉えようとしています。#3「Timeshifting」には風の音、海の音、そのほかにも草むらに生息する無数の生き物の声を内包させていると言えるのです。私自身はやったことがないのですが、フィールドレコーディングというのは、そのフィールドに共鳴する人間の聴覚では拾いきれない微細なノイズを拾ってしまうことがよくあるそうなのですが、しかし、これらのアクシデンタルな出来事はむしろ、実際の音楽に対してその空間にしか存在しえない独特なアトモスフェールを録音という形で収めることに成功しています。そして、これが奇妙なことに現実以上のリアリティーを刻印し、現実の中に表れた偶然のユートピアを作り出す。アンビエントのテクスチャーの中に、マリン・アイズは自身のボーカルをサンプルし、現実に生じた正しい時の流れを作り出す。ボーカルテクスチャはミューズさながらに美しく、神々しい輝きを放つかのような聴覚的な錯覚をおぼえさせる場合がある。この曲はまたボーカルアートにおけるニュースタンダードが生み出されつつある瞬間を捉えることも出来ます。

 


#3「timeshifting」



・4−10

 

現代の女性のアンビエントプロデューサーの中には、ドリーム・ポップ風の音楽とアンビエントやレクトロニックをかけあわせて個性的な作風を生み出すミュージシャンが少なくありません。例えば、ポートランドから西海岸に映ったGrouperことリズ・ハリス、他にもヨーロッパでのライブの共演をきっかけに彼女の音楽から薫陶を受けたトルコのエキン・フィルが挙げられます。そして、シンシア・バーナードもまたアコースティックギターの演奏を基本にして、癒やしの雰囲気のあるアンビエントを制作しています。このドリーム・ポップとアンビエントの融合というのは、実は、ハロルド・バッドがロビン・ガスリーとよく共同制作を行っていたことを考えれれば、自然な流れといえます。つまり、ドリーム・ポップはアンビエント的な気質を持ち、反面、アンビエントはドリーム・ポップ風の気質を持つ場合がある。このことはジャンルの出発である[アンビエントシリーズ]を聴くとよりわかりやすいかもしれません。

 

#4「Bridges」はジャック・ジャクソンを思わせる開けたサーフミュージックをドリーム・ポップ風の音楽として昇華させていますが、 むしろこの曲に関しては、マリン・アイズのポピュラーなボーカリストとしての性質が色濃く反映されているようです。そしてシンプルで分かりやすい音の運びは彼女の音楽に親しみを覚えさせてくれます。一方でインディーフォークをベースにしたアコースティックの弾き語りのスタイルは、日常生活に余白や休息を設けることの大切さを歌っているように思えます。また、トラックの背後に重ねられるガットギターの硬質な響きが、バーナードの繊細な歌声とマッチし、やはりこのミュージシャンの音楽の特徴であるドリーミーな空気感を生み出す。続く#5「cemented」ではモダンクラシカルとアンビエントの中間にあるような音楽で、シカゴの作曲家/ピアニスト、Gia Margaretを彷彿とさせるアーティスティックな響きを内包させています。もしくはリスニングの仕方によっては、坂本龍一とコラボレーションした経験があるJuliana Berwick(ジュリアナ・バーウィック)のアンビエントとボーカルアートの融合のような意図を見出す方もいるかもしれません、少なくとも、この2曲では従来のシンシア・バーナードの音楽の重要なテーマである癒やしを体験することが出来ます。


上記の2曲はむしろ日常生活にポイントを置いたアンビエントフォークという形で楽しめるはずですが、次に収録されている#6「Of The West」では再び抽象的で純粋なアンビエントへと舞い戻る。そしてモジュラーシンセのテクスチャーが立ち上がると、霊妙な感覚が呼び覚まされるような気がするのです。バーナードの作り出すテクスチャーは、ボーカルと融合すると、ジュリアナ・バーウィックやカナダのSea Oleenaの制作と同じように、その音の輪郭がだんだんとぼやけてきて、ほとんど純粋なハーモニーの性質が乏しくなり、アンビバレントな音像空間が作り出される。こういったぼやけた音楽に関しては、好き嫌いがあるかもしれませんが、少なくともバーナードの制作するアンビエントはどうやら、日常生活の延長線上にある心地よい音が端的に表現されているようです。それは空気感とも呼ぶべき感覚で、かつて日本の現代音楽家の武満徹が”その場所に普遍的に満ちているすでに存在する音”と表現しています。

 

同じように、エレクトリックギターとシンセテクスチャーを重ねた#7「Suddenly Green」はGrpuper、Sea Oleena、Ekin Fill、Hollie Kenniffといった、このドリームアンビエントともいうべきジャンルの象徴的なアーティストの系譜にあり、まさに女性的な感性が表現されています。 バーナードは自身のギターの断片的な演奏をもとに、反復構造を作り出し、ひたすら自然味のある癒やしの音楽を作り上げていきます。これらは緊張した音楽や、忙しない音楽に疲れてしまった人々の心に休息と癒しを与えるいわばヒーリングの力があるのです。音楽を怖いものと考えるようになった人は、こういった音楽に耳を澄ましてみるのもひとつの手段となるでしょう。また、テープディレイを掛けてプロデュース面での工夫が凝らされた#8「mended own」はこのアルバムの中盤のハイライト曲になりそうです。この曲は、ポピュラー・ボーカリストの性質が強く、エンヤのようなヒーリング音楽として楽しめるはずです。バーナードさんが自身の歌声によって表現しようとするカルフォルニアの風景の美しさがこの曲には顕著に表れています。アウトロにかけての亡霊的なボーカルディレイはある意味では、アーティストがこのアルバムを通して表現しようとする魂の在り方を示し、それが根源的なものへ帰されてゆく瞬間が捉えられているように感じられます。少なくとも、アウトロには鳥肌が立つような感覚がある。もしかすると、それは人間の存在が魂であるということを思い出させるからなのかもしれません。

 

アウトロのかけて魂が根源的な本質に返っていく瞬間が暗示的に示された後、#9「all you give(for ash)」ではボーカルテクスチャーをもとに、アブストラクトなアンビエントへと移行していきます。ここでは波の音をモジュラーシンセでサウンド・デザインのように表現し、それに合わせて魂が海に戻っていくという神秘的なサウンドスケープを綿密に作り上げています。ときおり、導入されるガラスの音は海に流れ着いた漂流物が暗示され、それが潮の流れとともに海際にある事物が風によって吹き上げられていくような神秘的な光景が描かれています。パンフルートを使用したシンセテクスチャーの作り込みは情感たっぷりで、アウトロではカモメやウミネコのような海辺に生息する鳥類の声が同じようにシンセによって表現されています。

 

これらの神秘的な雰囲気は#10「bluest」にも受け継がれており、デジタルディレイをリズムの観点から解釈しながら、繊細なギターをその中に散りばめています。短いミニマリズムの曲ではあるものの、この曲にはボーカリストやプロデューサーとは異なるギタリストとしてのセンスを見て取ることが出来る。二つのギターの重なりがディレイ処理と重なり合い、切ない感覚を呼び起こすことがある。このあたりに、アルバムの完成度よりも情感を重んじるマリン・アイズの音楽の醍醐味が宿っています。この曲を聞くかぎり、もしかすると、完璧であるよりも、少しだけ粗や欠点があったほうが、音楽はより魅力的なものになる可能性が秘められているように思える。 

 

 

「bluest」

 

 

 

・11-14

 

プレスリリースでは二部構成と説明されているにも関わらず、三部構成の形でアルバムのアナライズを行ってまいりましたが、「To Belong」では制作者の考えが明確に示されています。それは例えば、人間の生命的な根源が海に非常に近いものであるということなのです。例えば、この概念と呼ぶべきものは、アンビエントテクスチャーとボーカルテクスチャー、そしてギターの演奏の融合という形で大きなオーラを持つ曲になる場合がある。「Night Palms Sway」では西海岸の海辺の風景をエレクトロニックから描出するとともに、エレクトリックギターのアルペジオを三味線の響きになぞられ、ジャポニズムへのロマンを表してくれているようです。それほどギターの演奏が卓越したものではないにも関わらず、そのシンプルな演奏が完成度の高い音楽よりも傑出したものであるように思わせることがあるのは不思議と言えるでしょう。


アルバムの最終盤でもマリン・アイズの音楽性は一つの直線を引いたように繋がっています。つまり、アイディアの豊富さはもちろん大きな利点ではあるのですが、それがまとまりきらないと、散逸したアルバムとなってしまう場合があるのです。少なくとも、幸運にも、マリン・アイズはジェームスさんと協力することでその難を逃れられたのかもしれません。「In The Space」では至福感溢れるアンビエントを作り出し、人間の意識が通常のものとは別の超絶意識を持つこと、つまりスポーツ選手が体験する”フローの状態”が存在することを示唆しています。そして優れた音楽家や演奏家は、いつもこの変性意識に入りやすい性質を持っているのです。一曲目の再構成である「To Belong(Reprise)」では、やはりワンネスへの帰属意識が表現されています。本作の収録曲は、ふしぎなことに、別の場所にいる話したことも会ったこともない見ず知らずのミュージシャンたちの魂がどこかで根源的に繋がっており、また、その音楽的な知識を共有しているような神秘性があるため、きわめて興味深いものがあります。音楽はいつも、表面的なアウトプットばかりが重要視されることが多いのですが、このアルバムを聴くかぎりでは、どこから何をどのように汲み取るのか、というのを大切にするべきなのかもしれませんね。

 

 

アルバムの最後を飾る「call and answer」はアコースティックギター、シンセ、ボーカルのテクスチャーというシンプルな構成ですが、現代のどの音楽よりも驚きと癒やしに満ちあふれています。ディレイ処理は付加物に過ぎず、音楽の本質を歪曲するようなことはなく、伝わりやすさがある。このアルバムを聴くと、音楽のほんとうの素晴らしさに気づくはず。良い音楽の本質とは?ーーそれはこわいものでもなんでもなく、すごくシンプルで分かりやすいものなのです。

 

 

 

 

 

90/100

 

 

 

*Bandcampバージョンには上記の14曲に、ボーナス・トラックが2曲追加で発売されています。アルバムのご購入はこちらから。