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エイフェックス・ツインがコンピレーション・アルバム『ミュージック・フロム・ザ・マーチ・デスク』(2016-2023)をサプライズ発表した。マニアックな作品であるのは事実であるが、魅力的な楽曲も収録されている。エイフェックス・ファンにとってマストな一枚となりそうだ。


12月17日(火)にリリースされたこの38曲入りコンピレーションは、過去10年間の限定盤音源の数々を収録。ランタイムはなんと、2時間36分に及び、38曲が収録されている。2016年から2023年の間に、タイトルのマーチャンダイズ・デスクで販売された6枚の限定盤レコードに収録された曲を集めている。


コンピレーションは、エイフェックス・ツインがヒューストンで開催された「Day for Night」フェスティバルの一環として、8年ぶりに北米で開催されたイベントで、これらのオリジナル・レコードの最初の作品『Houston, TX 12.17.16』が同様に予告なしにリリースされてから7年後に到着した。

 

以来、2017年、2019年、2023年のロンドン公演、2019年のマンチェスター公演、2023年のバルセロナ公演など、多数のレコードがリリースされている。これらのレコードはすべて、ワープ・レコードのロゴが刻印され、すぐに完売し、オンラインで法外な値段でこれらの人気のレコードは販売された。


エイフェックス・ツインの『London 03.06.17』は、最初のフィジカル・リリースの後、翌月のデジタル・リイシューでさらに10曲が追加。2024年4月には『London 03.06.17 [field day]』という改題でボーナス・トラックが追加された。

 

今年、エイフェックス・ツインは『Ambient Works Vol.2』を拡張版としてリイシューしている。

 

 




坂本龍一とのコラボレーションで知られるアルヴァ・ノトが新作アルバム『Xerrox』のリリースを発表した。『Xerrox Vol.5』は12月6日にNOTONからリリースされ、国内流通盤も同時発売となる。(ストリーミングは11月29日)


2007年にスタートしたアルヴァ・ノトことカールステン・ニコライの「Xerrox」(ゼロックス)シリーズ。もともとのコンセプトはオリジナルよりも記憶に残る映像や音響の「コピー(複製)」を作ることを目的としていた。シリーズ名は、米国のゼロックス社が1960年に商品化した電子写真複写機の商標名から始まり、現在ではコピー機やコピーのことを意味する「xerox」に由来しているが、名前だけではなく「コピー(複製)」という根本的なコンセプトにも影響を与えている。2005~2006年の最初のレコーディングから約20年に渡り、シリーズ5枚のアルバムは、アーティストの進化する視点とコンセプチュアルなアプローチに寄り添ってきた。

 

当初は荒々しさとホワイトノイズの中に解答を求めるコンセプチャルなフォーカスを特徴としていたが、後の作品では、音響的な粒子に重点を移しながら、”溶解”というテーマに取り組んでいる。コピーのプロセスは、現在ではソフトウェアの操作によって目に見えるものではなくなっているが、その代わりに、アーティストが作曲中にメロディや音響のイメージを描写し、操作し、コピーし、新しいパターンに変換することで展開される。


ニコライはこの進化を、ホメロスの叙事詩「オデッセイア」やネモ船長が登場するジュール・べルヌの物語との共通点を示しながら、構築、探求、解答を包含する旅と表現している。

 

また、このアルバムの完結は、アーティストにとっての区切りの意味を持っている。ニコライは「始まりと終わりの両方を縁取るトラックのサイクル全体を作ることを目指した」と説明する。「旅のモチーフは続くが、今回は無限への旅に出るというコンセプチュアルな目的を通して、物語は溶解に至る。Dissolution(ドイツ語で"Auflösung")という言葉は素晴らしいコンセプトで、謎を解明するという意味もあるし、錠剤が水に完全に溶けるという意味もある。ここで、私は意図的に溶解する過程を描写している」

 

Vol.5を制作するにあたり、ニコライは作曲プロセスを進化させ、サンプルを排除し、オリジナルのメロディーを採用した。「このアルバムの完成には、おそらく最も時間がかかった。最初にメロディーのスケッチを描き、それが作品の基礎となった。これらのレコーディングはすべてゼロから制作したものだ。これらのスケッチをもとに、コピー、マニピュレーション、再形成のプロセスを構築した」


近年、映画や大規模なアンサンブルを手がけた経験から、ニコライの作曲へのアプローチは、クラシックの楽器法の影響が大きくなっていることを反映している。「このアコースティックなクラシック楽器との共同作業の経験は、Xerrox Vol.5の作曲プロセスにも生かされている。一部の楽器は、オーケストラへの移植を念頭に置いて設計されている。」

 

“Xerrox Vol.5”の音には、非常に深い溶解の雰囲気がある。ニコライは「私は当初、強く感情的なメロディーの側面には興味がなかった 」と話している。「でも、その断片が中心的な役割を果たしていることに気づいた」 この変化は、メランコリーと別れのほろ苦さに彩られた感情的な体験が反映されている。このシリーズを敬愛していた坂本龍一が亡くなったことでアルバムの感情的な響きはさらに深まった。「”Xerrox Vol.5”は別れに大きく関係している。20年近く育ててきたシリーズそのものとの別れだけでなく、親しかった人たちとの別れもたくさんあった。これらの人々のことは、音楽の中で認識できると思う。とても感情的で個人的なアルバムだ」

 

リスナーは音楽に視覚的な側面を期待できるが、ニコライは意図的に解釈の余地を残している。「特定の物語を指示するのではなく、音楽が個人的な経験やイメージを呼び起こすことを好む」と彼は言う。その結果、優しさと内省を誘う重層的なリスニング体験が生み出されている。


*記事掲載時、発売日を12月8日としていましたが、ただしくは12月6日となります。訂正致します。


Alva Noto 『Xerrox Vol.5』


発売日: 2024年12月8日(金)

アーティスト:Alva Noto(アルヴァ・ノト)

タイトル:Xerrox Vol.5(ゼロックス・ヴォリュームファイブ)

フォーマット: 国内流通盤CD

レーベル:NOTON

ジャンル: ELECTRONIC

流通 : p*dis / Inpartmaint Inc


Tracklist:

1. Xerrox Topia

2. Xerrox Sans Nom I

3. Xerrox Sans Nom II

4. Xerrox Ascent I

5. Xerrox Ascent II

6. Xerrox Sans Repit

7. Xerrox Nausicaa

8. Xerrox Xenonym

9. Xerrox Ada

10. Xerrox Arc

11. Xerrox Kryogen

12. Xerrox Isotope

Rival Consoles


UKの著名なエレクトロニックプロデューサー、Rival Console(ライヴァル・コンソール)がニューシングル「If Not Now」を発表した。静謐なシンセ、瞑想的なストリングス(チェロ)、そして巧みなビートが融合した新世代のダンスミュージック。(ストリーミングはこちら

 

『If Not Now』について、ライヴァル・コンソールズは次のように語っている。

 

「この作品は、アコースティックな世界とエレクトロニックな世界の中間に位置する印象主義的な作品を作りたいという、現在進行中の欲求の一部なんだ」

 

「この作品では、空間と静けさが強調されている。大量に機材や道具や物がある時代には、音楽がより大きく、より重層的であることを求めがちなので、それを作り出すのはとても難しいと思う。それに対して、この曲は、弱々しくも見えるが、対照的に非常に力強くも見えるはずだ」

 

「例えば、弦楽器とフルートを組み合わせたシンセサイザーの奇妙なリード音がある。その後、実際のチェロの音(アンネ・ミュラーが弾いている)が聞こえてくるが、これはこの曲が明瞭な瞬間に到達する必要性に気づいたからで、その後、暗くてエネルギーに満ちたセクションに突入してゆく」

 


「If Not Now」

 


ベルリンを拠点に活動する作曲家、プロデューサー、サウンドデザイナーのベン・ルーカス・ボイセンは、2016年にデビューアルバム『Gravity』の再リリースと『Spells』でErased Tapesに初めて契約した。


『Spells』は、プログラムされたピアノ曲と生楽器を融合させ、コントロール可能なテクニカルな世界と予測不可能な即興演奏を組み合わせた作品である。ある意味、アンダーグラウンドでのデビュー作『Gravity』が残したものを引き継いでいるが、多くの重荷が取り除かれ、より軽快でエネルギッシュな作品に仕上がっている。レーベルオーナーの友人であり、Erased Tapesのアーティストでもあるニルス・フラームが、2枚のアルバムのミキシングとマスタリングを担当した。ベンは名ピアニストではないが、彼のサウンド・コラージュは非常に綿密にデザインされており、その結果を聴いて感銘を受けたニルスはこう宣言した。"これは本物のピアノだ"。


『Spells』と『Gravity』は、彼自身の名前でレコーディングされた初めてのアルバムだが、高名なエレクトロニック・プロデューサー''HECQ''として、2003年以来9枚のアルバムをリリースし、アンビエントからブレイクコアまで、あらゆるジャンルを探求してきた。同時に、アムネスティ・インターナショナルやマーベル・コミックなど、さまざまなクライアントのために仕事をし、長編映画、ゲーム、アート・インスタレーション、コンベンションのオープニング・タイトルなどの作曲を手がけ、信頼される作曲家、サウンド・デザイナーとしての地位を確立している。


1981年、オペラ歌手のディアドレ・ボイセンと俳優のクラウス・ボイセンの3番目の子供として生まれたベンは、7歳のときピアノとギターによるクラシック音楽の訓練を受け始め、ブルックナー、ワーグナー、バッハの作品によって重要な基礎を築いた。両親と共有していた音楽を再発見し、オウテカ、クリスティアン・ヴォーゲル、ジリ・セイヴァーからピンク・フロイド、ゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラーのサウンドと融合させた。ブラック・エンペラーを聴きながら、そもそもなぜ彼が音楽を書きたかったのかを理解した。


ベン・ルーカス・ボイセンのニューアルバム『Alta Ripa(アルタ・リパ)』は、彼の芸術的旅路における激変を意味する。このアルバムは、彼の創造的なパレットが花開いたドイツの田舎町の穏やかな美しさの中で形成された、彼の青春時代の基礎的な衝動を再訪するというものである。

 

しかし、彼のサウンドに衝撃を与えたのは、2000年代初頭にベルリンに移り住んだことで、この街の脈動するエネルギーと多様な文化の影響を注入した。『Alta Ripa』は、この変容の経験をとらえ、彼の田舎での始まりの内省的なメロディーと、ベルリンの活気あるエレクトロニック・ミュージック・シーンから生まれた大胆で実験的な音色を融合させている。このアルバムは、ボイセンの進化の証であり、地理的な移り変わりがいかに芸術表現を深く形作るかを示している。


ボイセンのソロ名義での4作目となるスタジオ・アルバムは、彼の出発点へのうなずきであると同時に、未来へのヒントでもあり、作品としては、その大胆さと謙虚さにおいて、ほとんど矛盾がある。彼は、リスナーを自分探しの旅へと誘う。自分にとってもリスナーにとっても。この音楽を、"15歳の自分が聴きたかったが、大人になった自分にしか書けないもの "と表現している。


ボイセンは、彼自身の嗜好が折衷的であることと、特定のシーンに属したことがないことから、自分がどの音楽の伝統にも属しているとは考えていない。一貫性の欠如というよりは、さまざまなアプローチに対する評価であり、彼は音楽的に進化するために常に挑戦しているのだ。


例えば、”Hecq”という名義でノイズミュージックを始めた当初は、レフトフィールドのエレクトロニカ、ブレイクコア、テクノなど、さまざまなジャンルからインスピレーションを得ていた。その後、アコースティック楽器を取り入れた、より構造的で質感のあるエレクトロニック・ミュージックの作曲に力を入れ、自身の名義で並行して活動するようになった。また、映画、テレビ、ビデオゲーム、マルチメディア・インスタレーション、アレキサンダー・マックイーンをはじめとするファッション・デザイナーのための作曲家としても幅広く活動している。


過去2枚のアルバムでは、チェリストのアンネ・ミュラー、フリューゲルホルン奏者のシュテフェン・ジマー、ドラマーのアヒム・フェルバーなど、他のミュージシャンと仕事をしている。しかし、最近のライブ・パフォーマンスへの復帰に触発されたこともあり、『アルタ・リパ』では、ボイセンは純粋なコンピューター・ミュージックへの情熱に回帰している。彼はこう説明する。


「ベルリンで20年近く過ごした後、数え切れないほど素晴らしいアーティストとの交流や出会いがあり、それが私の作品やアルバムに反映されてきた。しかし、この小さな町アルトリップは、ある意味、私が本当に離れたことのない町であり、その遠い記憶とともに、私の心の前に戻り続け、私が学んできたこと、今日あることのすべてを、いわば「故郷」に持ち帰るように促してくれた」


「私は、人生が複雑になる前に、私を形成し、インスピレーションを与えてくれた場所に芸術的に戻り、今日の経験をもってその世界に入り込みたいと思った。どういうわけか、戻るのと同時にゼロから出発して、私の最も古いアルバムであるとともに、最も新しいアルバムを書くことになった」



『Alta Ripa』/ Erased Tapes

 

今ではすっかり忘れさられてしまったが、ドイツは1800年ごろまでには現在のオーストリアを含む地域を自国の領土としていた。それがナポレオン率いるフランス軍によって一部を制圧され、現在では、その領土の一部を受け渡した。第二次世界大戦では、歴史上最も死者を出したスターリングラードで敗北を喫し、ソビエト連邦の管理下に置かれる地域もあった。さらに多くの都市において、城塞都市を持ち、古城の周りが要塞のような構造を持つ地域もある。これは地形的に、ドイツが侵略と戦いの憂き目にさらされてきたことを象徴付ける。そして、近代以降、ドイツが生んだ最高の遺産は、工業製品やインフラ設備であり、大衆車(volkswagenは大衆車の意味)の生産ラインを確立し、自動車の大量生産の礎を築き、アウトバーンのような大規模な幹線道路を建設したことにある。例えば、ミュンヘンのアウトバーンを走行していると、巨大なフットボールクラブのスタジアムのドーム、アリアンツ・アレーナが向こうに見えてくる。

 

第二次世界大戦の後、ドイツは工業的な生産を誇る国家として発展してきたが、もうひとつアカデミアの文化も長い歴史を持つ。例えば、中世の時代にはボン大学があり、普通に一般的な講義として、詩の授業が行われていて、ロマン・ロランの伝記によると、若き日のベートーヴェンは、作曲家になる以前に、聴講生として詩の講義に参加していたことがあったという。他にも、南ドイツのフライブルク大学は、創設がなんと15世紀であり、ネッカー川や哲学者の道が有名で、街のパブの壁には学生の思索のメモ書きが今もふつうに残されている。ドイツは、マイスター等の階級的な職業制度に関して問題視されることもあったが、少なくともオーストリアと並び、知性を最も重んじる国家であり続けてきた。こういった中で登場した電子音楽は結局のところ、クラフトヴェルクといった富裕層の若者たちによって、文化や芸術のような形で綿々と続いてきた。ドイツの工業製品にせよ、芸術や音楽、そしてフットボールのプレイスタイルにせよ、一つの共通点がある。それは、秩序、規律、統率を何よりも重んじ、それを芸術的たらしめるということ。これはまさしく、古い時代から培われた知性の象徴であり、ドイツの美徳とも呼ぶべきものだ。なぜなら、新しい考えは秩序や規律から生ずるからである。

 

ベン・ルーカス・ボイセンの音楽は、こういったドイツの遺産を見事な形で受け継いでいる。 そもそも音楽は、和声から始まったのではなく、モーダル(Mordal)という半音階を上がったり下がったりする旋法から始まり、その後、ドイツの音楽学者や作曲家により、厳格な対旋律法が生み出され、その後、和声的な考えが出てくるようになった。特に、古典派の多くの作曲家は旋律の進行に関して、厳格な決まりや原理を設けていた。つまり、旋律が上がれば、そのあと、バランスを保つために下がるという規則を設け、その中で制約の多い作曲を行った。これが以降のポピュラーミュージックの基礎となったのは明確である。フランスの音楽的な観念は、そこまで厳しくはないが、ドイツの和声法や対旋律法はきわめて厳格であることで知られている。これは「音楽の秩序や規律」という一面を示す。そして、例外的な要素は濫用せずに、ここぞ!というときのためにとっておいたのである。規則を破るのは美しさのためだけである。

 

 

ベン・ルーカス・ボイセンの電子音楽は、1990年代や2000年代のAutecre、Clarkのスタイルを継承しているが、これに対旋律的な技法やMogwaiのポスト・ロックの遊び心を付け加えている。

 

冒頭を飾る「1-Ours」を聞けば、ボイセンの音楽がシンプルに構成されていることがわかる。おそらく、Native Instruments等のソフトウェア音源によるシンセリードから始まり、それを規則的に繰り返しながら、音楽構造としての奥行きを発生させ、その背景に薄くパッドの音源を配置させ、大きめの音像を発生させる。ポスト・ロックの音響派の影響を受け継いだイントロの後、テクノやブレイクコアではお馴染みの簡素で規則的な4ビートを配置し、うねるようなウェイブーーグルーヴーーを発生させる。ただ、90年代のテクノやブレイクコアは、速いBPMが使用されることがわりと多かったが、アルバムでは意図的にスロウなBPMが導入されている。


これはビートの重力を出すための制作者のアイディアではないかと思われる。そして重層的なビートは、何度もアシッドハウスのような感じで繰り返されると、「Delay Beat」とも称するべきシンコペーションの効果を発揮し、強拍が後ろに引き伸ばされていくような効果が発生する。徐々に、そのウェイブのうねりは大きくなり、レイヴやアシッドハウスのような広大で陶酔的なグルーブに繋がり、クラブフロアの縦ノリの激しく心地よいリズムが縦横無尽に駆け巡る。その仕上げに、ベン・ボイセンはノイジーなシークエンスをビートの上に重ね、それらをトーンシフトさせ、変調させる。これが独特なアシッド的なうねりと熱狂性を呼び起こすのである。

 

傑出したダンスミュージックの制作者にとっては、一般的な制作者が見落としてしまいがちな些細な音源の素材も、リズムを形成するための重要なヒントになるようだ。シンプルなファジーなアルペジエーターで始まる「2-Mass」は、マスターによって十分な強度を持つに至り、フィルターで音を絞った後、変則的なリズムトラックがループしていく。これが最終的には、Clarkが90年代や00年初頭に制作していたゴアトランスのように変化し、重力のあるスネアとキックの交互の配置により、徐々に熱狂的なエネルギーを帯びていく。さらに対旋律的にリードシンセを配置し、曲に色彩的な効果を及ぼす。曲の途中にはアルペジエーターを配置し、フィルターを掛けたシークエンスを散りばめたりしながら、間接部の構成を作り、クラシック音楽では頻繁に使用されるソナタの3部構成の形式を設け、再びモチーフに戻っていく。ダンスミュージックが規律や秩序から発生することを象徴付けるような素晴らしいトラック。


続く「3-Quasar」は、2010年代以降、先鋭化されたブレイクコアのジャンルを相手取り、よりシンプルで原始的なダンスビートを抽出している。ベースラインとユニゾンを描くリズムトラックは基本的には心地よさが重視され、クラブビートの本質的な醍醐味とはなにかを問いかける。ダンスミュージックの最大の魅力とは複雑化ではなく、簡素化にあることがわかる。さらに静と動の曲構成を巧みに使い分けながら、重厚感と安定感のあるサウンドを構築している。この曲でもBPMを一般的なものよりも落とすことで、リズムにメリハリと重力をもたらす。

 

こういったリズムを側面を強調させ、レフトフィールドの質感を持つアルバムの序盤の収録曲に続いて、Erased Tapesらしい叙情的な雰囲気を持つダンスミュージックが続く。「4-Alta Ripa」では制作者のポストロック好きの一面がうかがえる。Mogwaiが90年代以降に打ち立てた音響派のサウンドをシンセで再現し、瞑想的な音楽に昇華させている。クールダウンのための楽曲というより、ダンスミュージックの芸術的な側面を強調させている。また、ここでは、ベン・ボイセンのピアニストとしての演奏がフィーチャーされ、ドイツ的な郷愁を思わせるものがある。ここには制作者が親しんできたバッハ、ヴァーグナー的な悲哀がシンセで表現される。 

 

 「Alta Ripa」

 

 

単体の素材でリズムが構成される場合が多かったアルバムの序盤に比べると、後半部は複合的なリズムが目立つ。さらに新しく登場した実験音楽家等が頻繁に使用するAbletonで制作するような図面的な信号とは異なり、アナログな音源が多く使用されている。


「5-Nox」は、シンプルに言えば、Logicのような初歩的なソフトウェアにも標準的に備わっているFM音源のようなシンセを用い、それらを複合的な音色をかけあわせ、かなりレトロな質感を持つEDMに仕上げられている。ここにはドイツの工業生産的なダンスミュージックの考えを見て取れるし、それ以前の構成的な音楽という考えも見いだせる。二つの楽節を経過した後に、1分35秒ごろに主要なモチーフが遅れて登場するが、こういった予想外の展開に驚かされる。そして、ここでもアシッドハウスのような手法が用いられ、反復的なビートと裏拍(二拍目)の強調を用いながら、強固でしなるようなパワフルなグルーヴを作り上げていくのである。

 

本作には異色の一曲が用意されている。「6-Vinesta」は、電子音楽が芸術的な音楽と共存することは可能であるかを試したトラック。シンプルに言えば、オペラと電子音楽の融合の未来が示唆されている。ボイセンは、ダウンテンポの手法を用いながら、広大なシンセの音像を作り出し、壮大なイントロのように見立てた後、曲の最後のさいごになって、オペラのような歌曲としての要素を出現させる。ここにはバッハ、ヴァーグナーの影響も伺え、天国的な雰囲気を持つミサ曲のようなシークエンスに、トム・アダムスのオペラティックな歌唱を最後に登場させる。

 

特に、ダンスミュージックとして傑出しているのが、「7-Fama」である。この曲ではリングモジュラーで発生させる音色をアルペジエーターとして配置し、グルーヴィーな構成を作り上げる。特に、他の収録曲と比べると、Four Tetのようなサウンド・デザインの性質が表れ、複合的なリズム、対旋律的なリズムというように、構成的なダンスミュージックを楽しめる。ボイセンは実に見事に、これらのリズムの要素に音量としてのダイナミックスの起伏を設け、サイレンスからノイズを変幻自在に行き来する。簡素でありながら意匠に富んだダンスミュージックは、まさしく南ドイツのアンダーグラウンドのダンスミュージックを彷彿とさせるものがある。

 

正直にいうと、久しぶりに手強いダンスミュージックが出てきたと思った。軟派ではなく本格派のクラブビートであるため、容易に聴き飛ばすことが難しい。わずか38分のアルバムは、細部に至るまで注意が払われており、かなりの聴き応えがある。そして、ベン・ルーカス・ボイセンの出力する迫力のあるビートは、ある種の緊張感すら感じさせる。すべてがインプロヴァイぜーションで演奏されているとは限らないが、その録音時にしか収録出来ない偶発的な音やトーンの変容、演奏に際するひそかな熱狂性のような感覚を収録しているのは事実だろう。

 

しかし、こういった、かなりの強度を持つ収録曲の中にあって、最後の曲だけは雰囲気が異なる。「8-Mere」は、エレクトロニックの美しさを端的に表現し、ブライアン・イーノの名曲「An Ending(Ascent)」を継承する素晴らしいトラックである。この曲を聴いているときに感じる開けたような感覚、それから自分の存在が宇宙の根源と直結しているような神秘的な感覚は、他の音楽ではなかなか得難いものだと思う。これぞまさしく正真正銘の電子音楽なのだ。

 

 

 

86/100

 

 

 

Ben Lucas Boysenによる新作アルバム『Alta Ripa』は本日、Erased Tapesから発売。ストリーミングはこちら。


 

「Fama」

 


リーズを拠点に活動するグループ、HONESTYは、待望のデビュー・アルバム『U R HERE』からの最新曲、推進力のあるシングル「TORMENTOR」をリリースした。


この曲は、欺瞞に満ちた関係を反映したもので、ヴォーカリストのイミ・マーストンが陶酔を約束することで引き戻され続けている。このトラックは、催眠術のようなシンセサイザーの波の中で展開し、マーストンの操作されたヴォーカルは、ささやき声と叫び声を交互に繰り返す。「TORMENTOR」は、HONESTYが最もダークでありながら最もアンセミックであることを示しており、このトラックはすでに、高い評価を得ているグループのライブショーで際立っている。


このニューシングルについて、イミは次のように語っている。「Tormentorは、みんなと最初に取り組んだ曲のひとつで、おそらくヴォーカルを決めるのに一番時間がかかったと思う。ヴォーカルは簡単に歌えるものもあれば、もっと手間のかかるものもあり、一線を越えるには少し距離が必要なこともある。この曲はHONESTYの核となる部分だし、僕にとってはHONESTYの一員になるための序章のようなものだから、最終的に納得のいくものができてよかった」



「Tormenter」



 

Maribou State

Maibou State(クリス・デイヴィッズとリアム・アイヴォリーからなるデュオ)はニンジャ・チューンの新しい看板プロジェクトでもある。彼らのエレクトロ・ポップは力強いイメージを放ち、軽快なダンスミュージックでオーディエンスを魅了する。

 

スーダン出身のオランダ人シンガーソングライター、ガイダーをフィーチャーしたニューシングル 「Bloom」は、彼らの次作アルバム『Hallucinating Love』の収録曲である。ヴォーカリストのホリー・ウォーカーをフィーチャーしたシングル "Otherside "に続く二作目のシングルだ。

 

チルウェイブ風のナンバーで、電子音楽という領域で展開されるライブセッションのようでもある。ボーカルのサンプリングを活かし、ダブステップ/フューチャーステップ風の変則的なリズムを生み出す。ギターなどアコースティック楽器のリサンプリングが導入されているのに注目したい。


現在、マリブ・ステートは、ライブアクトとして英国内で絶大な人気を博しているという。最初の2公演がわずか数時間でソールド・アウト。圧倒的な需要に応えるため、バンドは2025年2月16日(日)、ロンドンのアレクサンドラ・パレスでの3年連続となる公演の開催を発表した。

 


「Bloom」

 



aus


ゼロ年代ジャパニーズ・エレクトロニカ・シーンをを中心に活動したausが、昨年リリースした「Everis」に続く新作を発表しました。ピアノとストリングスによって、よりメロディックに拡張されたイメージ・アルバム。


 
昨年、Seb Wildbloodの”all my thoughts”よりシングル「Until Then」、15年ぶりの新作アルバムとなった「Everis」を”Lo Recordings”より発表し、活動を再開させた ausがニューアルバムの制作を発表しました。新作『Fluctor』は11月27日にFLAUからリリースされます。下記より収録曲とアートワークをご覧ください。

 

元々映像作品のために作っていたというデモを、自身のピアノと高原久実によるヴァイオリンを中心とした室内楽へと再構成。ポスト・クラシカルの持つ優美さ・精緻さと2000年代初期のエレクトロニクスの微細なテクスチャーを融合させ、深く鮮やかなメロディーラインが展開される。

 

前作「Everis」にあったフィールドレコーディングによるサウンドコラージュから、より明確なコンポジションへと変化した本作は、静かな水面に映る風景のように、柔らかく、しかしながら、確かな印象を残し、かつて国内で作られていたイメージアルバムの本質を呼び起こすよう。

 

アルバムのゲストも豪華で、FLAU Recordsにゆかりのある音楽家も複数参加しています。Espersのメンバーとしても知られるMeg Baird、著名なアンビエントプロデューサーでausと親交深い、Julianna Barwick、元Cicada(台湾の室内楽グループ)のEunice Chungをボーカルとしてフィーチャーしています。また、ドイツのピアニスト、Henning Schmiedt、マンチェスターのチェロ奏者、Danny Norbury、Glim、横手ありさが前作から引き続き参加しています。

 

 

■ aus - Fluctor



タイトル:Fluctor
アーティスト:aus
発売日:2024年11月27日

収録曲:
1. Another
2. Dear Companion ft. Meg Baird
3. Stipple Realm
4. Silm
5. Aida
6. Circles ft. Julianna Barwick
7. Celestial 
8. Yousou
9. Fading
10. Lutt
11. Nocturnal
12. Ancestor
 


ストリーミング/ダウンロード(FLAUでのご予約): https://aus.lnk.to/Fluctor


 
【aus】

 
東京出身。10代の頃から実験映像作品の音楽を手がける。早くから海外で注目を集め、NYのインディーズ・レーベルよりデビュー。

 

長らく自身の音楽活動は休止していたが、昨年、ジャジー・ディープハウスの人気アーティストSeb Wildblood率いるAll My ThoughtsとFLAU共同でニューシングル「Until Then」をリリース。

 

同年4月には15年ぶりのフルアルバム「Everis」をGrimes、Susumu Yokota(横田進)らをリリースするイギリスの名門レーベル”Lo Recordings”より発表した。長岡亮介とのミックステープ「LAYLAND」、Danny Norburyとのライブ盤「Better Late Than Never」、Craig ArmstrongやSeahawksへのリミックス提供など、活動再開後は精力的に活動を行っています。


◾️AUS 『EVERIS』のリミックス集が10月27日に発売  PATRICIA WOLF、HANAKIV、LI YILEIら注目のアーティストがリミックスを手掛ける
Fying Lotus


Flying Lotus(フライング・ロータス)がレフトフィールドのシングル「Ingo Swann」をリリースした。タイトルは、同名の有名な超能力者に因んでいるという。近年、エリソンの創作活動はレコードのリリースやツアーだけにとどまらず、真のポリマスとしての地位を確立しつつある。

 

Brainfeederの代表的な音楽活動に加え、エリソンは映画の制作等にも取り組んでいる。有名なファウンド・フッテージ・ホラー・アンソロジー『V/H/S 99』の共同脚本・監督・音楽を担当した。また、Netflixのアニメシリーズ『Yasuke』の作曲と製作総指揮を担当し、アップルのマジック・ジョンソンのドキュメンタリー『They Call Me Magic』のテーマも手がけている。


「Ingo Swann」

 


グラミー賞にノミネートされたスウェーデンのバンド、リトル・ドラゴンのリードボーカル、ユキミがソロデビューシングル「Break Me Down」を発表した。

 

「Break Me Down」は、ユキミが信じられないほどの成長と弱さを見せている。リトル・ドラゴンのバンドメイトであるエリック・ボーディン、そしてリアン・ラ・ハヴァスとの共作であるこのコラボレーションは、雪見にとって初めて他の女性と曲を書き、創作したものであり、彼女の女性的なエネルギーを無防備で個人的な方法で完全に表現することを可能にした。


この曲は、リトル・ドラゴンのバンドメイトであるエリック・ボーディンがプロデュースし、ドラム、ベース、キーボードで演奏、リアン・ラ・ハヴァスがギターでサポートしている。


このシングルには、フレドリック・エガーストランドが監督したミュージック・ビデオが付属している。ビデオは、イングマール・ベルイマンが映画『第七の封印』のシーンを撮影したのと同じビーチ、ホヴス・ハラーで撮影された。ビデオの中で雪見は、名作映画へのオマージュとして、死と騎士の象徴的なシーンを正確な位置とフレーミングで再現している。

 

 「Break Me Down」

 

Maribou State

Maribou State(Chris DavidsとLiam IvoryのUKデュオ)は新作『Hallucinating Love』を発表した。本作は来年1月31日にNinja Tuneからリリースされる。


2011年以来、彼らは世界のダンス・ミュージック・サーキットにおける主要プレイヤーとしての地位を確立し、ジャンルにとらわれない様々な影響を独特のオーガニックなサウンドに融合させ、ダウンテンポのエレクトロニカを新世代のために再定義した。グラストンベリーからシドニー・オペラ・ハウス、UK、EU、北米ツアーではソールドアウトを連発するなど、ライヴ・アクトとしても高い評価を得ている。


近日リリースの新作を含む3枚のアルバムで、マリブー・ステートは複雑さ、親密さ、エレクトロニックな広がりを絶妙なバランスで磨き上げてきた。彼らの広大な音世界は、UKクラブ・ミュージック、ヴィンテージ・ソウル、そして刺激的なサンプルを駆使し、完全にユニークなものを作り出している。


2015年のデビュー作『Portraits』は、2人が育ったロンドン郊外の緑豊かなハートフォードシャーにあるリアムの実家の庭の下にある小屋で書かれ、レコーディングされた。Portrait』の成功を基に、マリブー・ステートはイギリスの首都に拠点を移したが、インスピレーションを得るためにさらに遠くを探した。


2018年の『Kingdom of Colour』では、インド、オーストラリア、モロッコ、アメリカ、そしてそれ以外の国々を旅して得たアイデアやフィールド・レコーディングの音のコラージュを織り込んだ。テキサス出身のトリオ、Khruangbinとのコラボレーションによるリード・シングル「Feel Good」は大ヒットを記録し、アルバム自体も広く称賛された。ダンス・ミュージックのバイブル『Mixmag』は、マリブー・ステートを今年のアーティストのひとりに選出した。


2000年代半ばに一緒にDJを始めた2人は、かつてロンドンにあった伝説的なクラブにちなんで名付けられた人気シングル「Turnmills」など、作品を通してUKダンス・ミュージックの系譜に敬意を表している。続いて2019年には、HAAi、Maceo Plex、DJ Tennisらのリワークをフィーチャーした『Kingdoms In Colour Remixed』をリリース。このコンピレーションは、彼らの幅広い音楽的嗜好を証明するもので、ソウル、ディスコ、よりバンピーなハウスのグルーヴをUKジャズやネオ・クラシックとリンクさせている。


マリブー・ステートのライブ・ショーは、同時に次のレベルへと進化し、必見のヘッドライナーとなった。彼らのバンドは、サード・アルバムとなる新作『Hallucinating Love』で、その真価を最大限に発揮している。個人的にも仕事的にも激動の過去数年を経て、このアルバムは希望の光となっている。ボーカリストのホリー・ウォーカーとアンドレア・トリアーナ、そして才能溢れるプロデューサーのジャック・シブリーなど、素晴らしい才能を持つミュージシャンが集結したこの待望のリリースは、コミュニティ、一体感、そして困難に打ち勝つことを祝福している。


この『Hallucinating Love』には2曲の素晴らしいシングルが収録されており、激動の時代を癒してくれる。Blackoak」は、マリブー・ステートのフォーク、壮大なストリングス、弾力性のあるファンク・ベース、耳に残るヴォーカル・フックの土俗的な融合を象徴しており、「Otherside」は長年のコラボレーターでありヴォーカリストのホリー・ウォーカーをフィーチャーしている。複雑な音のタペストリーだが、常にハートとソウルを前面に押し出している。



「Otherside」



Maribou State  『Hullucinating Love』


Label: Ninja Tune
Release: 2025年1月31日


Tracklist:

1 Blackoak 

2 Otherside 

3 II Remember 

4 All I Need 

5 Dance on the World 

6 Bloom

7 Peace Talk 

8 Passing Clouds 

9 Eko’s 

10 Rolling Stone

 

©Samuel Bradley


Kelly Lee Owens(ケリー・リー・オーウェンズ)が、アルバム『Dreamstate』からの3枚目のシングル「Higher」を発表した。このシングルは「Sunshine」と「Love You Got」のフォローアップとなる。以下よりチェックしてほしい。


リー・オーウェンズのコメントは以下の通り。「''Higher''がここにある!「Dreamstate」のもうひとつの側面、アルバム内のフィーリングのもうひとつの味わい。より高い視点から物事を見て感じたいという願望にインスパイアされたトラックだ」


「人生を歩むにつれて、私たちは常に困難があることをより理解するようになるが、おそらくその困難を経験するたびに、私たちはより全体像を把握し、新しい視点を得るのだろう。この曲は、陶酔的な安堵感のために静かに手を伸ばし、高揚させるためにある。あなたがこの曲を気に入ってくれることを願っている!」


オーウェンズの4枚目のスタジオ・アルバム『Dreamstate』は、10月18日にdh2からリリースされる。


「Higher」

 

 Marmo  「Deaf Ears Are Sleeping」EP

 

Label: area127

Release: 2024年8月28日

 

Review    ◾️ロンドンのダンスユニットの新作 リズムの組み替えからもたらされる新しいEDM


ロンドンの二人組、marco、dukaによるエレクトロニック・プロジェクト、MARMO(マルモ)は当初、メタルバンドのギタリストとボーカルによって結成された。おそらく両者とも、覆面アーティストであり、Burialのポスト世代のダンスユニットに位置付けられるが、まだまだ謎の多い存在である。


昨年、マルモはアンビエントとSEの効果音を融合させた近未来的なエレクトロニックアルバム『Epistolae』を発表し、ベースメントであるものの、ロンドンに新しいダンスミュージックが台頭したことを示唆していた。

 

『Deaf Ears Are Sleeping  EP』も新しいタイプのダンスミュージックで、聞き手に強いインパクトを及ぼすのは間違いない。三曲収録のEPで、逆向きに収録されたリミックスが並べられている。オリジナル曲との違いは、リミックスバージョンの方がよりディープ・ハウスに近いダンサンブルなナンバーとなっている。

 

当初、メタルバンドとして出発したこともあってか、Marmoの音楽はサブベースが強く、徹底して重低音が強調されている。それはヘヴィメタルから、ドラムンベースやフューチャーベース、ダブステップ等の現地のベースメントの音楽にアウトプット方法が変遷していったに過ぎないのかも知れない。しかし、ロンドンのダンスミュージックらしいエグさ、ドイツを始めとするヨーロッパのEDMを結びつけるという狙いは、前作よりもこの最新作の方が伝わりやすい。

 

「Inner System」は、ドイツのNils Frahm(ニルス・フラーム)の「All Armed」のベースラインの手法を、モジュラーシンセ等を用い、ダブステップのリズムと結びつけて、斬新なEDMを作り上げている。特に、Squarepusherの最初期からの影響があるのは歴然としており、それは、Aphex Twinのような細分化したハイハットやドリル、SE的なアンビエント風のシークエンスという形に反映されている。まさにロンドンのダンスミュージック文化の威信をかけて制作されたオープナーである。実際的に、ローエンドの強いバスドラム(キック)とMARMOの近未来的な音楽性が結び付けられるとき、ダンスミュージックの新奇な表現が産声を上げるというわけなのだ。

 

二曲目「Deaf Ears Are Sleeping」は、例えば1990年代のCLARKの『Turning Dragon』など、ドイツのゴアトランスに触発された癖の強いダンスミュージックだが、オープナーと同じようにSEの効果音を用いながら、オリジナリティ溢れる音楽を追求している。部分的には、最近のオンラインゲームのサウンドトラックのようなコンセプチュアルな音楽が、ダブステップのようなリズムと結び付けられ、近未来的なEDMが構築されている。


「Deaf Ears Are Sleeping」に発見できるのは、バーチャル(仮想空間)の時代の新しい形式のダンスミュージックであり、それらが一貫して重低音の強いベースやバスドラム、Spuarepusher(スクエアプッシャー)のようなアクの強いリズムと結び付けられている。さらに、モジュラー・シンセなのか、サンプラーで出力しているのかまでは判別出来ないが、ドローン風の効果音もトラック全体に独特なドライブ感と、映像的な音楽性を付け加えていることも付記すべきだろう。

 

3つのリミックスは、オリジナル曲をアシッドハウス、ゴアトランス寄りのミックスとして再構成されたものなので、説明は割愛したい。しかし、「Aztec Euphoria」は、ドラムンベースやフューチャーベースの次の新しいジャンルが誕生した、もしくは、その芽吹きが見えはじめたといっても差し支えないかも知れない。リズムが複合的で面白く、アンディ・ストットのようなリズムの重層的な構築に重点を置いたトラックとして楽しめる。また、ブラジルのSeputula(セパルトゥラ)が、民族音楽をヘヴィメタルに置き換えてみせたように、マルモは民族音楽のリズムを彼らの得意とするダンスミュージックの領域に持ち込んだと解釈することができる。


近年、どれもこれも似たり寄ったりなので、EDMは飽和状態に陥っているとばかり思っていたが、どうやら思い違いだったらしい。解決の糸口は思いもよらない別のジャンルにあるのかも知れない。少なくとも、アフリカの打楽器のような音をサンプラーとして処理し、ドラムンベース、ダブステップ、フューチャーベースとして解釈するというマルモの手法は、まったく未曾有のもので、ロンドンのアンダーグラウンドから興味深い音楽が台頭したことの証ともなりえる。

 

例えば、Killing Jokeは、かつてイギリスに固有の音楽が存在しないことを悩んでいたが、彼らの場合は、すでに存在するリズムを複雑に組み替えることで、新しいイギリスの音楽(複合的なリズム)の形式を確立させた。これは、Gang Of Fourはもちろん、Slitsのようなグループを見ても同様だ。新しい音楽が出来ないと嘆くことはなく、すでにあるものに小さな改良を加えたり、工夫をほどこすだけで、従来に存在しなかったものが生み出される場合がある。Killing Jokeのようなポスト・パンクの代名詞的なグループは、歴史的にこのことを立派に実証している。ロンドンのMarmoもまたこれらの系譜に属する先鋭的かつ前衛的なダンスユニットなのである。
 



85/100

  


 

©Richard Kenworthy


Caribouは、ニューアルバム『Honey』を発表した。本作はドイツのCity Slangから10月4日にリリースされる。アルバムには、先行リリースされたタイトルトラック「Broke My Heart」「Volume」が収録されている。

 

次いで、ダン・スナイスは三作目のシングル「Come Find Me」を公開した。リチャード・ケンワースが監督したビデオは以下から、アルバムのアートワークとトラックリストは以下よりチェック。


「私はこのようなコード配列とフレンチ・タッチのような雰囲気が大好きなのですが、適切なヴォーカル・フックとブレイクダウンを見つけ、よりポップで簡潔なものにするのにとても時間がかかりました。DJセットでこの曲をプレイする時、歌声だけになり、突然押し寄せてくるような曲になる」


『Honey』は、2020年の『Suddenly』に続く作品となる。アルバムについてスナイスはこう語っている。敏腕のエレクトリックプロデューサーが追い求めるものは、子供のような好奇心と感動なのかもしれない。


「私にとって当初から変わっていないことのひとつは、音から何を作り出せるかというマニアックな好奇心なんだ。多くのコラボレーターやリソースを自由に使える "プロ "と呼ばれる人たちが音から何を作り出せるかではなく、私自身が...私の小さな地下スタジオで。以前より機材は増えたが、基本的にはこれまでと同じなんだ。何かが本当に激しくヒットしたときのスリルを追い求めて、気がつくと飛び上がっていたり、興奮して腕の毛が逆立っていたりする。それがなくならないなんて、私はなんてラッキーなんだろうって」

 

「新しくてエキサイティングなものを作るチャンスは、相変わらず爽快だ。そして相変わらず楽しい。何もないところから1日が始まり、(ほとんどの日は何もないまま終わるが、たまに...)1日が終わるころには、それまでなかったものが頭の中にこびりついている。それは今でも一種の錬金術のように思える」


アルバムのニュースとともに、スナイスはロンドンのザ・ウェイティング・ルームでの4夜にわたるライブ・レジデンスも発表した。

 

 

「Come Find Me」


Caribou 『Honey』


Label: City Slang

Release: 2024年10月4日

 

Tracklist:


1. Broke My Heart

2. Honey

3. Volume

4. Do Without You

5. Come Find Me

6. August

7. Dear Life

8. Over Now

9. Campfire

10. Climbing

11. Only You

12. Got To Change



ブロードキャストは新しいデモ集『Distant Call - Collected Demos 2000-2006』を9月28日にWarpからリリースする。これは彼らの正真正銘最後のアルバムになると言われている。今回、ブロードキャストは未発表デモ "Come Back to Me" を公開した。プレビューの試聴は以下から。


以前、彼らは『Distant Call』から、テンダー・バトンズのトラック "Tears in the Typing Pool" のデモ・バージョンを公開した。


2023年9月、Broadcastはデモ集『Spell Blanket - Collected Demos 2006-2009』を、故トリッシュ・キーナンの55歳の誕生日に発表した。5月にWarpからリリースされた。『Spell Blanket』はキーナンの未発表デモ集で、4トラックテープやミニディスクに録音されたデモが収録されている。


『Distant Call』は、『Haha Sound』、『Tender Buttons』、『The Future Crayon』に収録されたBroadcastの曲のデモを集めたもの。また、2006年にブロードキャストが行った "Let's Write a Song "プロジェクトに応えてキーナンがレコーディングした "Come Back to Me "と "Please Call to Book "の2曲も収録されている。



「Tears in the Typing Pool-Demo」



 Broadcast  『Distant Call - Collected Demos 2000-2006』



Label: Warp
Release: 2024年9月28日


Tracklist:

1. Tears In The Typing Pool [Demo]

2. Still Feels Like Tears [Demo]

3. Come Back To Me [Demo]

4. The Little Bell [Demo]

5. Distant Call [Demo]

6. Valerie [Demo]

7. Colour Me In [Demo]

8. Ominous Cloud [Demo]

9. Flame Left From The Sun [Demo]

10. Where Youth And Laughter Go [Demo]

11. Poem Of A Dead Song [Demo]

12. O How I Miss You [Demo]

13. Pendulum [Demo]

14. Please Call To Book [Demo]

 

Yaeji
Guarionex-Rodriguez Jr.


Yaejiは、その親しみやすいキャラクターに目を奪われがちだが、実際のライヴステージではメガスターのように変貌する。そのギャップが魅力だ。昨年、実質的なデビュー・アルバムをXL Recordingsから発表後、ニューヨークの街角の新聞販売店の売り子になっておよそ一年が経ち、ヤエジが2024年最初のシングル「booboo」をリリースした。(ストリーミングはこちら

 

ニューヨーク経由のソウルのシンガー・プロデューサーである彼女は、Brooklyn Mirageで行われたBoiler Roomのセットでこの曲をファンの目の前で初披露した。以下からチェックしてみよう。


この曲についてヤエジはこう語っている、『raingurl』からの圧倒的な注目に押され、私はクラブ、ダンスミュージック、アンダーグラウンドシーンから離れた。そして、DJとして成長し、自分のレーベルを立ち上げ、過激で安全な空間を作りながらパーティーを開き、楽しんでいる姿を目の当たりにしてきた親しい友人たちと、彼らのチアリーダーでいることがとても楽しかった」


YaejiのデビューLP『With a Hammer』は2023年4月7日にXL Recordingsからリリースされた。



「booboo」

 

Floating Points
Floating Points

Floating Points(フローティング・ポインツ)ことサム・シェパードは、新曲「Ocotillo」を発表した。次回作『Cascade』からのリードカット「Key103」に続くこの曲では、ミリアム・アデフリスがハープを、サム・シェパードが大叔母から受け継いだというクラヴィコードを演奏している。

 

この曲には、東京を拠点に活動するビジュアル・アーティスト、中山晃子さんによる「生き生きとした絵」が添えられている。中山さんの映像はいつも独創的だが、今回も作風とリンクするような形となっている。


『Cascade』は9月13日にNinja Tuneからリリースされる。以前紹介した「Birth4000」と「Del Oro」も新作に収録されている。

 

 

 「Ocotillo」

京都出身のドリームポップ・アーティストCuusheの新作「Faded Corners」に注目。 Daughter x 木村和平による写真集「湖 Awaumi」のために書き下ろしの新曲をリリース!

cuushe
cuushe

エアリーで魅惑的なボーカルと夢幻的なサウンドスケープで知られる京都出身のアーティストCuusheが、アルバム「WAKEN」以来となる新曲「Faded Corners」をリリースした。この曲は9月13日に発売される新作EPのタイトル曲。下記よりテースターと配信リンクをチェック。


高円寺の古着屋 ”即興/SOKKYOU”のオンラインショップ ''Daughter''と木村和平による写真作品「湖 Awaumi」のために子守唄として書き下ろされたこのシングルは、梁塵にフォーカスした作品であり、平安時代末期に編まれた歌謡集『梁塵秘抄』の名歌「遊びをせんとや〜」からインスピレーションを受けたドラマチックな1曲。


韓国のエレクトロニックデュオ''Salamanda''、''Asatone''でも活躍するインドネシアのプロデューサーMelati ESPによるダンサンブルなリミックス、日本人エレクトロニカ・アーティスト''aus''によるアンビエントなリアレンジと、銘々の個性を活かした3曲も収録されている。CD盤には1曲が追加収録。



 

 

■ Cuushe - Faded Corners


レーベル: FLAU

タイトル:Faded Corners

アーティスト:Cuushe

CD発売日:2024年9月13日


tracklist:

1. …

2. Faded Corners

3. Tsuki to Sakana

4. Salamanda Remix

5. Melati ESP Remix

6. aus Reprise


配信・予約リンク:  https://cuushe.lnk.to/FadedCorners


■ Cuushe



ゆらめきの中に溶けていくピアノとギター、 空気の中に浮遊する歪んだシンセサイザー、拙くも存在感ある歌声が支持を集める京都出身のアーティスト。


Julia Holter、Teen Daze、Motion Sickness Of Time Travelらがリミキサーとして参加したEP「Girl you know that I am here but the dream」で注目を集め、デビュー作収録の「Airy Me」のMVがインターネット上で大きな話題となる中、全編ベルリンでレコーディングされた2ndアルバム 『Butterfly Case』が海外で高い評価を獲得。


近年はアメリカTBSのTVドラマ「Seach Party」、山下敦弘 x 久野遥子による「東アジア文化都市2019豊島」PVへの音楽提供や、Iglooghost、Kidkanevil、Et Aliaeらの作品にボーカル参加。


長らく自身の音楽活動からは遠ざかっていたが、2020年に新たなプロジェクトFEMと共に再始動。3rdアルバムとなる「WAKEN」を発表し、リミックスアルバムにはYu Su、Loraine James、Kate NV、Suzanne Kraftら多彩なアクトが参加した。

 


カリブ海系ベルギー人の作曲家、プロデューサー、ミュージシャンであるNara Sineは、スピリチュアル、ジャズ、フォーク、フィールド・レコーディングを融合させ、新境地を切り拓く。彼女の音楽活動は、周波数と幾何学の研究に根ざし、音が物質を動かすという前提に導かれている。具体的にはエレクトロとジャズの融合により、ロンドンの音楽シーンに活力をもたらす存在。シネフロの電子音楽のマニュピレーションには、規則性や数学的な配列に関する興味が凝縮されている。


「Endlessness」は、存在のサイクルへの深いダイブを意味する。45分に及ぶこのアルバムは、10曲にわたる繊細な曲調と終始鳴り続けるアルペジオが、生命サイクルと再生の壮大で魅惑的な祝祭を作り出している。


絶賛されたシネフロの2021年のデビューアルバム「Space 1.8」に続く「Endlessness」は、ジャズ、オーケストラ、エレクトロニック・ミュージックを見事に変容させ、超越的で多次元的な作曲家として彼女をさらに昇華させた。アルバムの作曲、プロデュース、アレンジ、エンジニアリングはシネフロが担当。


アルバムには、シーラ・モーリス・グレイ、モーガン・シンプソン、ジェームス・モリソン、ライル・バートン、ヌビア・ガルシア、ナトシエット・ワキリ、ドウェイン・キルヴィントンが参加し、オーケストレーションの21人の弦楽器奏者も加わっている。




Nara Sinephro 「Endless」


Label: Warp

Release: 2024年9月6日


Tracklist:


1.Continuum 1 

2.Continuum 2

3.Continuum 3

4.Continuum 4

5.Continuum 5

6.Continuum 6

7.Continuum 7

8.Continuum 8

9.Continuum 9

10.Continuum 10

 

Gyrofield

『These Heavens』はドラムンベースとジャングルのプロデューサー、Gyrofield(ジャイロフィールド)のXLのレーベルデビュー作となる。EDM主体のサウンドであるが、このプロデューサーの魅力はそれだけに止まらない。


EPは4曲入りで、XLを代表するハウス・バッグ・シリーズの一環としてリリースされる。シングル「Lagrange」は下記で試聴できる。


香港生まれでブリストル在住のプロデューサー、本名キアニ・リーは、These Heavensについての声明の中で次のように述べている:「私は、ダンサブルな音楽を作ることに多くの価値を見出しているが、その一方で、アトモスフェリックでスペーシーなサウンドや、楽器の重要な使い方、音楽のビートとエネルギーを引き立てる構成にも触れている。


「ドラムンベースの大ファンなんだけど、I Hate ModelsやDjRUMのようなエレクトロやテクノから、シンセ・アンビエント、ポストロック、ビョークのような実験的ポップまで、このアルバムに影響を受けている。」


「このEPを構成する4つのトラックは、科学という厳しい学問の原動力となる、極めて人間的な感情や思考について歌っている。私たちは知識を求め、私たちの頭上にある星々や宇宙を理解しようとする。私たちは天を理解することに愛と夢を注いでいる。」



「Lagrange」



Gyrofield 「These Heavens」 EP


Label: XL Recordings

Release: 2024年8月30日

1. Vega 
2. Occam's Razor 
3. Lagrange 
4. Cold Cases

 

©Park Sangjun


DJ/プロデューサー、Peggy Gou(ペギー・グー)が、今週末にロンドンのガナーズベリー・パークで開催される自身最大規模のヘッドライン・ライヴに先駆けて、ニューシングル「Find the Way」を発表した。今夏の初め、デビューアルバムをリリースした後、自身の主宰するインディペンデントレーベル”Gudu Records”に戻ってきた。

 

デビューアルバム『I Hear You』以来となるペギーの新曲「Find the Way」は、彼女のフェザー・ライトなヴォーカルと90年代のハウス・ビート、メロウなキー、催眠術のようなベースラインが融合している。
 

2024年は、ペギー・グーにとって飛躍の年となった。XLレコーディングスから待望のデビューアルバム「I Hear You」をリリースし、オブザーバー誌、NME誌、ザ・ライン・オブ・ベスト・フィット誌などで絶賛された。その他、ビルボード誌(アメリカ)、ヴォーグ誌(ドイツ)、L'Officiel Italia誌の表紙を飾った。今、最も勢いに乗っているDJ/プロデューサーである。

 

2023年にはライヴイベントで100万人以上を動員し、インフルエンサーとしての実力を発揮しはじめると。快進撃は続いた。2024年にはコーチェラ、ウルトラ、EDC、プリマヴェーラ、フジロックなどの世界的なフェスティヴァルに次々と出演。グラストンベリーのパーク・ステージではヘッドライン・スロットを務め、プロデューサーとしての名声を世界的なものとした。

 

ニューシングルの各種ストリーミングはこちらから。


「Find the Way」