ラベル Experimental Music の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Experimental Music の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示


スウェーデンの実験音楽家の新作アルバムに注目したい。同地の作曲家、ギタリスト、鍵盤奏者、エレン・アークブロ(Ellen Arkbro)の4枚目のアルバム『Nightclouds』は、2023年から24年にかけて中央ヨーロッパ各地で録音された、ソロオルガンのための5つの即興曲を集めた。


『Nightclouds』は、アークブロのコンセプトを定義するようになった厳格さと正確さにしっかりと根ざしているものの、これまでの作品よりも臆することなくロマンティックで内省的な作品となっている。 


空間化されたハーモニー、触感、テクスチャーを探求してきたアークブロは、聖なる音楽、ECMスタイルのジャズ、ダウンタウンのミニマリズムを等しく取り入れ、クールな親密さと音色を生み出している。


 彼女の減速主義的な和音即興は、ディルジのようなウォッシュで聴き手を包み込み、彼女のクローズ・マイキングは、リードのざらざらした触感を明らかにし、聴き手を音の内と外の両方に引き込む。 

 

『Nightclouds』はキェル・ジョンセンとヤン・ガルバレクのデュエット、ラ・モンテ・ヤングとトニー・コンラッドがユーリンガーとハーマーのカウボーイ・ソング「Oh Bury Me Not」を演奏したことを想起させる。厳格に抑制されたアーキテクチャーを通してスピリチュアルなペーソスを表現している。



昨年の『Sounds While Waiting』(W.25TH, 2024)に続き、アークブロの空間オルガンのインスタレーションを記録したステレオ・ミックスのセレクション『Nightclouds』は、即興の作曲と即興に焦点を当て、方向性を転換している。 エレガントでシンプルな和音の足場が、絶えず変化する豊かなテクスチャーを支える。 小品集の最後を飾るのは、イギリスのジャズ・ギタリスト、アラン・ホールズワースを意識したタイトル曲「Nightclouds」の2つのヴァリエーション。


最初のテイクは、連続的に転調する和声進行をスローダウンして伸ばしたもので、短いクロージング・ヴァージョンは、単に3つの和音をループさせたもの。 これらの曲の間には、スイスのヴェヴェイにあるラ・トゥール・ド・ペイユ寺院で録音された「Still Life」と「Chordalities」がある。

 

アルバムの後半は、ベルリンの再建されたゲデヒトニスキルヒェ(カイザー・ヴィルヘルム記念教会)で録音された広大な作品「Morningclouds」。 アークブロの簡潔な音楽的語彙と形式的構成は、感情の両義性を呼び起こし、同時に高揚感と哀愁を漂わせ、冷静で遠い美しさをもって聴き手を感情のスペクトラムへと導く。


『Nightclouds』は、アークブロの進化する作品群における深遠なステートメントとして位置づけられ、内省的であると同時に広がりがある。このアルバムは、シンプルなハーモニーを深い影響を与える音の風景に変える彼女の特異な能力を再確認させ、リスナーを瞑想と感情的な深みの空間へと誘う。

 

アルバムの発表と合わせてパイプオルガンの演奏をフィーチャーしたタイトル曲がストリーミング配信されている。

 

この新曲ではドローン音楽のアプローチが取り入れられている。しかし、通奏低音の中で微妙な和音の変化により、色彩的なトーンの変化を楽しめる。今までに存在しなかった新鮮な音楽が登場した。

 

 

「Nightclouds」

 

 


Ellen Arkbro 『Nightclouds』


Label: Blank Forms Editions

Release: 2025年5月30日

 

Tracklist: 


1. Nightclouds

2. Still Life

3. Chordalities

4. Nightclouds (variation)

5. Morningclouds

 


【参加者募集】

PSPソーシャル、野流、ジョン・トレメンダス主催の即興系音楽コンピレーション第二弾制作決定&参加者募集。


PSPソーシャル、野流、ジョン・トレメンダスが企画する即興音楽のコンピレーションが今年も制作決定。また、同時に参加者を公募している。腕に自信があるバンド、アーティストはぜひご参加ください。応募条件は下記の通りです。


【募集要項】

「去年リリースした即興系音楽コンピレーションを今年も制作するので参加者を募集します!」


参加条件と提出期限は下記の通り、即興要素を含む音楽ならなんでもOK! 多少の融通は利くので何かあったら相談ください。



【参加条件】

必ず即興要素を含むこと
3曲まで、10分以内
※原則10分までですが、どうしても超えてしまう場合は相談してください。


【提出期限】

6月30日23:59まで
マスタリング前の状態の音源をwavで提出

【前回の音源】

サブスクhttps://ultravybe.lnk.to/jetstreamofpsychicyouth
バンドキャンプ:https://esperkick.bandcamp.com/album/jet-stream-of-psychic-youth

 


異分野のリベラルアーツの融合。ロンドン/テルアビブの実験音楽グループ、Staraya derevnya(スタラヤ・デレヴニャ)は1994年からスタジオ・プロジェクトとして、2017年からはミュージシャンと画家の大規模なアートグループとして活動を行っている。 

 

2025年のラインナップは、Gosha Hnlu(ボーカル、カズー、パーカッション)、Maya Pik(フルート、シンセ、フルート)、Ran Nahmias(サイレント・チェロ、サントゥール、ウード、ボーカル)、Grundik Kasyansky(フィードバックシンセサイザー)、Miguel Perez(ギター)、Yoni Silver(バスクラリネット)、Andrea Serafino(ドラム)となっている。

 

Staraya derevnyaというグループ名はサンクト・ペテルブルグの地名に因む。このプロジェクトは、暗闇の中でパフォーマンスを行い、詩と音楽と映像を同期させ、独特なアート活動を行うことで知られている。音楽的には、ボーカルアート、エレクトロニクスと東欧やアラビアの民族楽器、オーケストラ楽器などを鋭く融合させ、前衛音楽の新たな道筋を切り開こうとしている。

 

新作アルバム『Garden Window Escape』は2022年8月から制作が始まり、ロンドンのBonaflide Studio、2023-2024年には、イスラエル、ロンドン、メキシコ、ブルガリアの4つの拠点で録音された。このアルバムは、プリペイドする楽器という現代音楽の形式を踏襲し、それらを詩を含めたドローン音楽の系譜にあるアヴァンギャルドに昇華させている。異文化が渦巻く、ロンドンやイスラエルの気風を吸収させたこの世で最も奇妙なレコードの一つ。

 

Staraya derevnyaの音楽には多数の民族から構成される混合の歴史とグロテスクな音楽が偏在している。改造または自作の楽器を使って録音され、本物と作り物の言語の両方で歌われる。 グループはレコードはRambleRecordsとAuris Mediaの共同リリースとして5月2日に発売される。




Staraya derevnya『Garden Window Escape』


Tracklist:

 

A

Tight-lipped thief

What I keep in my closet

Half-deceased uncle

B

Cork flight operation

Virtue of standing still

Onwards, through the garden window

Myshhh

 

 

日本のインディペンデントレーベル、”造園計画”が今年4月2日に『For Damage』のリリース、及び、不定形セッショングループ、”野流”の旧譜『梵楽』のリイシューを行うことを明らかにした。野流の佐々木さん、プレスリリースを送ってくれてありがとうございます。

 

『For Damage』には日本の注目のインディーズアーティスト、及び、バンドが参加した意欲作であり、岡田拓郎、池田若菜、Acid Mothers Templeの河端一、PSP Socialなど。さらに、二作目の『梵楽』は野流による旧譜の再発で、Larajiなどの影響下にあるスピリチュアルな実験音楽となっています。上記二作の詳細につきましては以下のプレスリリースを参照していただきたい。

 

 

■For Damage(Tape)・岡田拓郎、AMT河端が参加する野流2ndがカセットテープ化、フィジカルの国内初流通開始。

 

作家名:野流(ヤリュウ)
作品名:For Damage(フォー・ダメージ)
フォーマット:TAPE
発売日:4月2日(水)
情報解禁日:2月19日(水)20時
販売価格:2,000(税込)
レーベル:造園計画
型番:Zouenkeikaku-044



ストリーミング配信の予約: 

https://yaryucf.bandcamp.com/album/for-damage



<作品紹介>

 

固定メンバーを最小限に抑え、音源制作やライブ演奏のたびに参加者を入れ替え、自由奔放に即興演奏を続ける音楽集団、野流(Yaryu)の2nd Albumのカセットテープ版が造園計画よりリリース。

日本を代表するギターリスト、岡田拓郎、"んoon"で活動するボーカリストJ.C、トリプルファイヤーの新譜にも参加しているフルート奏者、池田若菜、サイケデリック・レジェンド、Acid Mothers Templeの河端一をはじめ、Dhidalah、シベールの日曜日、PSP Social、Kumagusuなど、数々のバンドからの客演を迎えながらも、スピリチュアルジャズの即興性、サイケデリックロックの熱気、純邦楽の精神性、それら全てが透明感あるアンビエントのテクスチャーを纏いながら形をなしている。『For Damage』はアンビエントであり、ジャズであり、ロックであり、ニューエイジであり、同時にそのどれでもない領域に踏み込む。



またカセットテープ版限定で、未発表音源集『記号の森の動物たち』のDLコードが付属する。本作は、USのCentripetal Force, UKのCardinal Fuzz, オーストラリアのRamble Records、3カ国共同でLP、CDがリリースさていたものの、日本での流通はほぼ存在せず、本作のフィジカル版が国内流通するのはこのカセットテープ版が初となる。


 

■梵楽(Re-Press)・レコードの日にレコード化された1st『梵楽』が新装版ジャケットでテープ再発。



 


作家名:野流/ヤリュウ
作品名:梵楽 (Re-Press)/ボンガクリプレス
フォーマット:TAPE
発売日:4月2日(水)
情報解禁日:2月19日(水)20時
販売価格:2,000(税込)
レーベル:造園計画
型番:Zouenkeikaku-045



ストリーミング配信の予約:

https://yaryu.bandcamp.com/album/bongaku


<作品紹介>

Laraajiを思わせるオートハープの音色と、山本邦山的な雅さ。サイケデリック直系のスピリチュアリティとアジア人の身体性が出会う。循環を繰り返す川のようにメンバーが入れ替わる、不定形の音楽家集団、”野流”の1stアルバム『梵楽』のカセットテープが、新装版ジャケットでリプレス。

グリッドを押し流していくオートハープの音色は、瑞々しさと野生味を兼ね備えていた70年代の電子音楽に回帰しながら、日本の住宅環境に相応しい柔らかい調度で、庭に生い茂る草木や虫と共に感光していく。

リプレス版には、『梵楽』の制作中に野流が録音していたトラックをまとめた未発表音源集『けもの道』のDLコードが付属する。『けもの道』のなかで聴くことができる、粗野であり、ピュアでもある初々しい演奏は、『梵楽』の心地よさとは別の「道」で、野流というグループのコアにつながっている。

 


Patrick Wolf(パトリック・ウルフ)が7枚目のスタジオアルバム「Crying The Neck」を発表し、ニューシングル「Dies Irae」をシェアした。


ウルフにとって13年ぶりとなるこのアルバムは、ゾラ・ジーザス、セラフィナ・スティア、ドラマーのセブ・ロッチフォード、そしてウルフの妹ジョー・アプリとのコラボレーションを収録している。 このアルバムは、予定されている4枚のアルバム・シリーズの第一弾となる。


「Dies Irae」はラテン語で「怒りの日」と訳され、死と家族愛というテーマを探求している。 


「この曲は、愛する人を失いかけていることを知る最後の数日間における人生の肯定であり、残された時間をお互いの愛や喜びを深めるために使うという、不幸に対する勇気ある--ほとんど反抗的な--選択であると考えた。歌詞は、母のアート・スタジオで、そして夕暮れの庭で、母との最後の会話を想像しながら書き上げたんだ」


ケント州ラムズゲートで書かれレコーディングされた'Crying The Neck'は、地元の民話、東ケント地方の風景、そしてウルフの個人的な経験からインスピレーションを得ている。 アルバムの作詞、作曲、プロデュース、アレンジはすべてウルフが手がけ、制作の最後の3年間はブレンダン・コックスが共同プロデューサー兼エンジニアとして参加した。


このアルバムでウルフは、ヴィオラ、アパラチアン・ダルシマー、バリトン・ウクレレ、カンターレ、アタリなど、初期のキャリアの楽器に戻っている。 全13曲からなるこのアルバムには、ウルフが16歳の時に書き始めたオープニング曲「Reculver」や、ケント州の風景や民話にインスパイアされた新曲が収録される。



「Dies Irae」





Patrick Wolf 『Crying The Neck』



Label: Virgin
Release: 2025月4月25日


Tracklist:


Reculver
Limbo (ft. Zola Jesus)
The Last of England
Jupiter
On Your SIde
Oozlum
Dies Irae
The Curfew Bell
Lughnasa (ft. Serafina Steer)
Song of the Scythe
Better or Worse
Hymn of the Haar
Foreland
Fennesz  『Mosaic』



Label: P-Vine Inc.

Release: 2024年12月4日


Review


『Mosaic』は2000年代はじめに発表された『Venice』のサウンドと地続きにある。今年、『Venice』は20周年を迎えるにあたって、リマスターを施したアニヴァーサリー・バージョンも発売されている。1990年代に彗星のごとくウィーンのテクノシーンに登場したFenneszは、ギタリストとして知られるほか、プロデューサー、作曲家として幅広い分野で活躍してきました。その中には坂本龍一とのコラボレーションアルバム『Cendre』を筆頭に、この10年間、 Fennesz(フェネス)はミュージシャン、映画制作者、ダンサーと共同制作を行ってきた。デヴィッド・シルヴィアン、キース・ロウ、スパークルホースのマーク・リンカス、マイク・パットン、多くのミュージシャンとレコーディングやパフォーマンスを行っている。また、ピーター・レーバーグ、ジム・オルークとともに即興トリオ、フェン・オーバーグとしても活動している。

 

フェネスの音楽的なアプローチに関しては、基本的にノイズ、アンビエントの中間に位置づけられる。また、その中には稀に、一般的なリスナーには聞き慣れないアフリカ等の民族音楽の要素が含まれることもある。しかし、結局、今世紀初めには上記のジャンルが(おそらく)確立されていなかったため、前衛音楽の枠組みの中で解釈されることは避けられなかった。ときにはアウトサイダー的なテクノとして聴かれる場合もあったかもしれない。だが、『Venice』の20周年盤でも言及した通り、テクノ全般のイディオムがフェネスの音楽にようやく追いついて来た。おそらく90年代や00年代にフェネスの音楽を理解した人はかなり少なかったはず。しかし、時代が変わり、今やフェネスの音楽はアウトサイダー・テクノではなく、むしろ主流派の領域に属し始めている。これはテクノや全般的な電子音楽を中心にクロスオーバー化やハイブリッド化が進んだことにより、フェネスの音楽はむしろ時代にマッチするようになった。

 

『Venice』の20周年記念盤のレビューでも言及した通り、このアルバムでは20年後の音楽が予見的に登場していた。それは”ドローン”という新しい音楽形式、それから、他の数々のジャンルを吸収したハイブリッドの末裔としてのテクノ等、 2000年代にグリッチが登場し、それらが新しい音楽として先見の明がある聞き手に支持されていた時代から見ると、たとえリアルタイムの体験者ではないとしても、心なしか感慨深いものがある。しかしながら、待望の新作アルバム、そして解釈に仕方によっては『Venice』の続編とも言える『Mosaic』は、あらためてこのプロデューサーの音楽がどのようなものであったのかを把握するのに最適である。彼の音楽が最先端に属していて、2020年代のミュージックシーンに馴染む内容であることが分かる。

 

本作は、2019年に発表された『Agora』からすでに始まっていたというルーチンワークから生じたという。「今回はゼロからのスタートで、すぐにはコンセプトもなく、厳しい作業ルーティンがあった。朝早く起きて昼過ぎまで仕事をし、休憩を挟んで、また夕方まで仕事をする。最初は、ただアイデアを集め、実験し、即興で演奏した。それから作曲、ミキシング、修正。''モザイク "というタイトルは、ピクセルのように一瞬で画像を作り上げる以前の、古代の画像作成技法を反映した」というのがフェネスのコメントとなっている。そして、アルバムの強度を持つノイズ、アンビエント、民族音楽の融合は、深遠なテクノのイディオムを顕現させる。

 

少なくとも、本作は一度聴いただけで、その全容を把握するのは至難の業である。五分から九分に及ぶ収録曲の音楽の情報量は極めて多い。アルバムの冒頭を飾る「Heliconia」は大まかに二部構成から成立している。ガラス玉のようなパーカッションがイントロに登場し、その後、ギターによるドローンが曲の構成や印象を決定付ける。微細な音の配置は、ポストロック的なマクロコスモスを描き、音像が際限なく広がっていき、宇宙的な壮大さを帯びる。この点に、坂本龍一の遺作『12』との共通項も見出される。


そして、2001年の『Endless Summer』の時代から培われたシンフォニックなテクスチャーが立ち上る。この間、一筋の光のように伸びていくシンセも登場し、4分以降にはダイナミックなハイライトを迎える。


以降は曲風が一変し、ノイズからサイレンスへ変遷していく。すると、精妙なノイズが登場し、民族音楽的なパーカッションが配され、曲全体は霊妙な雰囲気を帯びる。そして、後半部では、民族音楽とテクノを融合させ、その後、ギターのミュートを用いたアルペジオ等が登場し、曲の構成の背景を形作るシンセによるシークエンスは、Loscilの『Umbre』のような荘厳な雰囲気を帯びる。ギターの演奏だけでなにかを物語るかのように、曲はアウトロのフェードアウトに向かっていく。

 

フェネスは音楽制作者としてノイズミュージックの他にも音響派のギタリストとしての表情を併せ持つ。二曲目「Love And The Framed Insects」では2023年に発表されたアルバム『Senzatempo』、『Hotel Paral.lel』の両作品の作風を融合させ、叙情的なギターアンビエントと苛烈なノイズを交互に出現させる。


さらにフェネスはノイズと叙情的なシークエンスを丹念に融合させ、音楽の持つ静謐で美麗な瞬間を作り出す。いわばアルバムのジャケットに描かれるような情景的な美しさが音楽的なモチーフとして登場し、主体性を持つに至る。主体性を持つというのは、音楽が主人公となり、それらが発展したり、敷衍したり、奥行きを増していったりと、多彩な側面を見せるということ。これらは音楽の持つ多次元的な性質を反映させている。それらをフェネスは最終的な編集作業を通してコンダクターさながらに指揮するのである。ノイズも登場するものの、この曲の全般的な魅力はむしろ感覚的な美しさに込められている。これは調和と不調和の融合をかいして、制作者の美学のようなものが鏡のように映し出される。

 

経済学者であるジャック・アタリも指摘するように、ノイズというのは社会学として見た上では、不調和を意味する。しかし、一方で、実際的にホワイトノイズやピンクノイズ等、音の発生学として多彩なノイズがこの世に存在するように、これらの雑音が必ずしも不快な印象を与えるとはかぎらないということは、次の収録曲「Personare」を聴けば瞭然なのではないかと思う。


例えば、この曲では坂本龍一とのコラボアルバム『Cendre』で用いた精妙なノイズを駆使し、「不調和の中にある調和」を示唆している。実際的に、多くの人々は、単一の物事の裏側にある別の側面を度外視することが多いが、この世の現象や出来事の大半は、こういった二面性や多面的な要素から成立している。この曲では、そういった現象学としての普遍性がしたたかに織り交ぜられている。同時に、ノイズという本来は不快であるはずの音響的な現象中に、それとは対極に位置する快適な要素ーー心地よさーーを見出すことも、それほどむずかしくない。


実際的にこの曲はノイズを不自然に除去した音楽よりも、不思議と音に身を預けていたいと思わせる快適な要素が偏在している。なぜ、一般的には心地良くないと言われている音響に心地よさを覚えるのかといえば、それは、自然界を見ても分かるように、雑音性というのは必ずどこかに生じ、自然の摂理に適っているためである。これはフェネスのノイズ制作の清華とも言える。

 

続く「A Man Outside」でもノイズの要素は維持され、パーカッシヴな音響効果を用いた環境音楽の形式が取り入れられている。そして、この曲でも序盤は前曲の作風を受け継いで、ノイズの精妙な感覚、次いで、ノイズの中にある快適さという側面が強調されているが、二分後半からは曲調がガラリと変化し、ダークなドローン風の実験的なテクスチャーが登場する。まるで情景的な変化が、ノイズや持続的な通奏低音を起点に移ろい変わっていくような不可思議な感覚を覚える。曲の序盤における天国的な雰囲気は少しずつ変化していき、メタリックで金属的な響きを帯び、冥界的なアンビエント/ドローンに変遷していくプロセスは圧巻というよりほかなし。これほどまで変幻自在にサウンド・デザインのように音の印象を鋭く変化させる制作者は他に思いつかない。曲の後半でも曲の雰囲気が変わり、序盤の精妙な雰囲気が立ち戻ってくる。

 

「Patterning Heart」は、現在のアンビエントシーンの流れに沿うような楽曲と言えるかもしれない。抽象的なドローン風のテクスチャーが通奏定音のように横向きに伸びていき、極大の音像を形成してゆく。大掛かりな起伏は用意されていないけれど、曲の中盤ではサイレンスが強調される瞬間があり、『Venice』に見いだせるギターノイズが取り入れられている。アルバムのクローズでもフェネスらしさが満載で、濃密な音楽世界が繰り広げられる。モーフィングを基に制作された「Goniorizon」では音の波形の変化に焦点が絞られている。


2000年代の制作者が二十年後の音楽を予見したように、音楽の未来性を読み取ることも可能かもしれない。本作には音楽の持つ楽しさはもちろん、未知の芸術的な表現性への期待感が込められているように思えた。

 

 

 

90/100 

 



「Heliconia」