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リバプールのハンナ・メリックとクレイグ・ウィトルによるオルタナティブロックユニット、King Hannah(キング・ハンナ)がクリスマスソング「Blue Christmas」をリリースしました。

 

キング・ハンナは、カート・ヴァイル、サーストン・ムーアとの共演を重ねながら、北米やヨーロッパでのツアーを行い、ファンベースを着実に拡大させてきた。2024年、制作の前年に行われたアメリカツアーの記憶に触発されたオルタナティヴ・ロックの良作『Big Swimmer』を、ドイツのCIty Slangから発表している。

 

昨日発表されたホリデーソングでは、くつろいだアコースティックギターに乗せ、温和なデュエットを披露している。「Blue Christmas」について、キング・ハンナは次のように説明している。


「私たちはここ数年、ブルー・クリスマスを一緒に歌ってきました。だから、私たちが知っている唯一の方法、つまり一緒に歌いハーモニーを奏でることで、1年の中で最も好きな時期を祝うのが正しいことだと感じました」

 

「伝統的に、クリスマスをひとりで過ごし、失った愛する人への慕情を歌ったラブソングですが、2人のボーカルと60年代のギブソン製アコースティック・ギター1本だけのシンプルなアレンジが、寒く静かな冬の夜に、この時期がもたらすロマンスと安らぎを引き立ててくれることを願っています」

 

 

「Blue Christmas」



ロンドンのインディーロックバンド、Goat Girl(ゴート・ガール)がニューシングル「gossip」をリリースした。(ストリーミングはこちら

 

この曲はバンドがプロデュースし、最新アルバム『Below the Waste』のレコーディング中にアイルランドでジョン'スパッド'マーフィーがミックスした。この曲には、シンガー/ギタリストのロッティ・ペンドルベリーが監督・編集したビデオが付属している。


「アイルランドでジョン'スパッド'マーフィーと一緒に『Below The Waste』のゴシップ・レコーディングを始めたんだ。ダブリンで録音したものを、ロンドンでルビーと一緒に作り直したんだ。エレクトロニックなポテンシャルに寄り添い、サウンド的にまったく違うことをしたかったんだ。リリックでは、自然のイメージを、伝聞や破壊的な行動を熟考するメタファーとして使っている」

 

今年、ゴート・ガールは新作アルバム『Below The Waste』をラフ・トレードから6月にリリースした。



「gossip」

 


カナダのシューゲイズデュオ、Bodywash(ボディーウォッシュ)がWham!のクリスマスの定番ソングをカバーした。


モントリオールのデュオは、「Last Christmas」にアレンジを加え、憧れという甘美な装いを、ファジーなギターとメランコリックなヴォーカルという文字通りのものに変えた。一足早くクリスマス気分に浸ってみよう。


「この新しい解釈は、ジョージ・マイケルのソングライティングにおける心の痛みを前景化している」とボディウォッシュはプレスリリースで述べている。


「ホリデーは、クリスマス気分を盛り上げるためのものであると同時に、内省や切ない後悔(家族のドラマは言うまでもない)の時期でもある。一年で最も素晴らしい時期は、時に最も孤独な時期でもあるんだ」


"ラスト・クリスマス "は、3月の "ノー・リペア "に続き、ボディウォッシュが今年リリースした2枚のシングルのうちの1枚。彼らはまた、昨年の『I Held the Shape While I Could』を引っさげてツアーを行った。


「Last Christmas」-Wham! Cover

Our Girl 『The Good Kind』


 

Label: Bella Union

Release : 2024年11月8日

 

 

Review

 

『The Good Kind』は派手さがないからといって素通りすると、ちょっともったいない作品である。最新のオルトロックバンドは、全般的に音楽のイメージの派手さがフィーチャーされることが多いが、実際的には、堅実で素朴なロック・バンドの方が長期にわたって活躍するケースがある。

 

ロンドンのOur Girl(アワー・ガール)は、爆発的なヒットこそ期待出来ないかもしれないけれど、渋く長く活躍してくれそうなバンドだ。アワー・ガールのオルトロックのスタイルは、90年代から00年代のカレッジ・ロックの系譜に属している。ソリッドさとマイルドさを兼ね備えたギター、ライブセッションの醍醐味を重視したベース、曲のイメージを掻き立てるシンプルなドラムによって構成されている。取り立てて、新しい音楽ではないかもしれない。しかし、こういった普遍的なオルトロックアルバムを聴くと、なんだかホッとしてしまうことがある。

 

 

アワー・ガールは、最初にレコーディングスタジオに入ってセッションを行った後、少し曲を作り込み過ぎたと感じたという。以降、一度曲を組み直した後、友人の自宅のレコーディングスタジオに入った。その結果、ラフだけど、親しみやすいオルトロックが作り上げられることになった。 結局、このアルバムを聴くと、オルトロックというのは、マジョリティのための音楽ではなく、マイノリティのための音楽なのかもしれない。つまり、音楽自体がマジョリティに属した瞬間、本義のようなものを見失う。バンドは、この作品で、セクシャリティ、リレーションシップ、コミュニティ、イルネスといった表向きには触れにくい主題を探求しているという。

 

それらのどれもが日常生活では解きほぐがたい難題であるため、音楽で表現する必要性がある。実際的に、バンドのメンバーがクイアネス等の副次的なテーマを織り交ぜながら、どの地点までたどり着いたかは定かではない。しかし、何かを探求しようとする姿勢が良質なロックソングとして昇華されたことは明らかである。たとえ、すべてが解き明かされなかったとしても。

 

バンドが曲を組み直したということは、レコーディングの趣向に、ライブセッションのリアルな質感を付け加えたことを示唆している。それは卓越性や完璧主義ではなく、程よく気の抜けた感じの音楽に縁取られている。アルバムでは、Guided By Voices、Throwing Musesといった90年代ごろのオルトロックのテーマ、アート・ポップやシューゲイズ風のギターの音色が顕著に表れている。

 

アルバムのオープナー「I'll Be Fine」では、心地よくセンチメンタルなアンサンブルがライヴセッションのような形で繰り広げられる。複数のギターの録音を組み合わせて、エモな響きを生み出し、ストレリングスのアレンジを添えて叙情的な響きを生み出す。音楽性は抑えめであり、派手さとは無縁であるが、良質なオルトロックソングだ。さらに、このバンドがコクトー・ツインズの音楽性を受け継いでいることは、続く「What You Made」を聴くと明らかである。彼らはJAPANやカルチャー・クラブのようなニューロマンティックの要素を受け継いでいる。それはノスタルジアをもたらすと同時に、意外にもフレッシュな印象を及ぼすこともある。

 

アワー・ガールは、比較的、現実的なテーマを探っているが、アルバムの音楽はそれとは対象的に夢想的な雰囲気に縁取られている。ギターロックによって色彩的なタペストリーを描き、それを透かして、理想的な概念に手をのばすような不思議な感覚でもある。「What Do You Love」は淡々とした曲にも思えるが、ダイナミクスの変化が瞬間的に現れることもある。ダイナミックスの変化はボーカルとギターのコントラストによって生じる。Wednesday、Ratboysといったオルトロックの気鋭の音楽性に準ずるかのように、絶妙なアンサンブルを発生させることがわる。そして、それは、まったりとした音楽性とは対象的なギターのクランチな響きに求められる。彼らの優しげな感覚を縁取った「The Good Kind」は、むしろこのバンドがロックにとどまらず、Future Islandsのようなオルトポップバンドのような潜在的な魅力を持つことを表す。

 

ギターロックとしても聴かせどころが用意されている。「Something About Me Being A Woman」は、現代的な若者としてのセクシャリティを暗示しているが、幽玄なギターのデザインのような音色によって抽象的な感覚が少しずつ広がりをましていく。ゆったりしたテンポの曲であるけれど、ドリームポップ風のアプローチは、音楽の懐深さと味わい深さを併せ持っている。特に、バンドアンサンブルを通じて最も感情性が顕著になる3分以降の曲展開に注目したいところ。中盤から終盤にかけては、BPMを意図的に落とした曲が続いている。続く「Relief」、「Unlike」は、現代的な気忙しいポップソングの渦中にあり、安らぎと癒やしを感じさせる。微細な音を敷き詰めるのではなく、休符に空間や空白を作りながら、夢想的な音楽世界を生み出す。

 

オルト・ロック、ドリーム・ポップに依拠した音楽性が目立つ中、続く「Something Exciting」は、かなり異色の一曲だ。この曲では、ヴィンセントの最初期のシンセポップ、グリッターロックの手法を選び、スタイリッシュさとユニークさを併せ持つ楽曲に仕上げている。むしろ、基本的な上記の二つの音楽性よりも、この曲に見受けられるようなオリジナリティに大きな期待を感じる。そして、少しシリアスになりがちな作風に、ユニークなイメージをもたらしている。 

 

アルバムの終盤にもしっかり聴かせる曲があり、アワー・ガールの音楽の深さを体感できる。「I Don't Mind」のような曲は、コクトー・ツインズやスローイング・ミュージズの未来形とも言え、また、ドリーム・ポップの知られざる一面を示したとも言えるかもしれない。続く「Sisiter」は、DIIV、Real Estateの最初期に代表される2010年代のインディーロックのスタイルを受け継ぎ、ネオシューゲイズ/ポストシューゲイズの軽めのポップネスに転じる。クローズを飾る「Absences」では、AOR/ソフィスティ・ポップへと転じ、未知の領域へと差し掛かる。


 

 

80/100

 

 

 

 Best Track-「Something Exciting」

bdrmm
©Stew Baxter

 

ハルを拠点とする4人組、bdrmm(bedroom)は、2月28日にモグワイの主宰するレーベル”Rock Action”からリリースされる3枚目のフルアルバム『Microtonic』を発表しました。bdrmmは、モグワイとのツアー中に彼らから見初められ、レーベルとの契約を結ぶことになった。2ndアルバム『I Don’t Know』では、気鋭のオルトロックバンドとしての存在感を示した。シューゲイズという括りで紹介されることの多い彼らであるが、特にエレクトロニクスとの融合に最大の魅力が宿る。まさしくモグワイの後釜とも言えるような実験的なロックバンドです。

 

2023年の『I Don't Know』に続く本作は、シングル「John on the Ceiling」がリード曲となっている。ダンスミュージックとロックの融合はまた次の段階に差し掛かっていることが分かる。


「ジョン・オン・ザ・シーリングを取り巻くテーマは、混乱と疑念についてなんだ」ヴォーカル兼ギタリストのライアン・スミスは声明で説明しています。「何かが終わり、別のことが始まると、犯した過ちは二度と起こらないという誤った安心感に誘われる。これは、宙ぶらりんの状態で麻痺するまで、何度も何度も繰り返される。人は本当に変わることができるのだろうか?」


バンドの長年のコラボレーターであるアレックス・グリーヴスと共に録音された『マイクロトニック』には、ワーキング・メンズ・クラブのシドニー・ミンスキー・サージェントとナイトバスのオリヴェスクがゲスト参加している。

 

「私たちが得意としていた)ジャンルに合うように、ある種の音楽を書くことにとても制約を感じていたんだけど、何かが解けて、もっと自由に自分の好きなものを作れるようになったんだ」とスミスは付け加えた。

 

「ダンス・ミュージックからアンビエント、より実験的なソースまで、エレクトロニカの様々な範囲から影響を受けている」

 


bdrmm 『Microtonic』

Label: Rock Action

Release: 2025年2月28日


Tracklist: 


1. goit [feat. Sydney Minsky Sargent]

2. John On The Ceiling

3. Infinity Peaking

4. Snares

5. In The Electric Field [feat. Olivesque]

6. Microtonic

7. Clarkycat

8. Sat in the Heat

9. Lake Disappointment

10. The Noose



「John On The Ceiling」

 

©Barbora Krizova


ロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、Joni(ジョニ)はKeeled Scalesとの契約を発表し、シングル「Avalanches」をリリースした。下記をチェックしてほしい。


ジョニは、プロデューサーのルーク・シタル・シンのロサンゼルスのスタジオで新曲を完成させた。「Avalanches、は愛と失恋の二面性について歌った曲です。そして、もう一方がなければ、一方を手に入れることはできない。そして、すべての痛み、恐怖、爽快感、リスクにもかかわらず、私はもう一度、何度も何度もそれを行うだろう...」と彼女は声明を発表した。

 

ジョニは潜水艦乗りの娘で、幼少期はアメリカ、ヨーロッパ、アジアを転々とした。しかし、特に最近のある年、彼女は著しく孤独だった。同じようなロサンゼルスに幻滅を感じた彼女は、移り変わる季節と新しいインスピレーションを求めてロンドンに移り住んだ。秋には、10年来の恋人であり、バンド仲間であり、最も親しい音楽仲間との関係が破壊的に終わった。その冬、彼女は30歳になった。異国で失恋した彼女の人生は、つながりのない馴染みのないものに感じられた。しかし、何かが彼女にここに留まれと言った。そして春の訪れとともに、悲しみの庭から新しい歌が育ち始めた。


ジョニは、ローラ・ヴィアーズ、アクアラング、ダン・クロール、オールド・シー・ブリゲードといったアーティストとツアーを行ってきた。RIAA認定のプラチナ・レコードを持ち、Netflixの『Never Have I Ever』のような映画やテレビ番組にも出演している。

 

ジョニのソングライティングの中心は、地震による失恋、大きな喪失のトラウマ、そしてその余波から得られる痛烈な教訓である。曲は暗さと明るさの間をたゆたう。スパークルホース、ザ・ストロークス、ジョン・ブリオンといったインディー・ロックからの影響は、彼女の切ないヴォーカルとクライロ、ビーバドビー、フィーストのようなポップ・センスによって、女性的な軽快さを生み出している。


「Avalanches」

 



 The Horrorsはニューアルバム『Nightlife』のセカンドシングル「Trial By Fire」をリリースした。ゴシック、ポストパンク、インダストリアル、ダンスロックが結びついたアンセミックなナンバーだ。


バンドはプレスリリースで、このニューシングルについて次のように語っている。「Trial By Fire」は『Night Life』の攻撃的な曲のひとつで、僕らの2つのインダストリアルEPと新作の間のギャップを埋める内容なんだ。リースはサウスエンドで孤独にデモを作り始めた。この曲は、人生につきまとう呪いについて歌っています。ホラーズにとっては、毎日がハロウィンなんだ」

 

『Nightlife』はバンドにとって8年ぶりの新作となり、ラインナップを変更した。ホラーズの最後のアルバムは2017年の『V』だが、2021年には『Lout』と『Against the Blade』のEPをリリースしている。バンドにはまだヴォーカルのファリス・バドワンとベーシストのリース・ウェブが在籍している。これら結成時のメンバーに、キーボードのアメリア・キッドとドラムのジョーダン・クック(バンドTelegram)が新たに加わった。オリジナル・メンバーのジョシュア・ヘイワードもアルバムでギターを弾いている。オリジナル・メンバーのキーボーディスト、トム・ファース(2021年にバンドを脱退)とドラマーのジョー・スパージョンは不在だ。


バドワンとウェブは、ウェブのノース・ロンドンのアパートでデモ制作を始め、レコーディングはロサンゼルスでプロデューサーのイヴ・ロスマン(Yves Tumor、Blondshell)と行った。その後、ギタリストのヘイワードとともにロンドンでアルバムが完成した。


ザ・ホラーズのニューアルバム『ナイトライフ』をフィクションから2025年3月21日にリリースされます。


「Trial By Fire」





◾️THE HORRORS(ザ・ホラーズ)がニューアルバム『NIGHTLIFE』を発表 3月21日にリリース

 

©Elizabeth De La Piedra

米国のシンガーソングライター、Bartees Strange(バーティーズ・ストレンジ)はハロウィーンに合わせて次作『Horror』からのニューシングルを発表した。ケイト・アーサーが監督したミュージックビデオは、ボルチモアのお化け屋敷で撮影された。


「これはアルバムの音のテーゼだ」とストレンジは声明の中で「Too Much」について語っている。「これが好きなら、他の曲も全部好きになると思うよ。このアルバムは、私を怖がらせるものについて歌っているんだ。そしてこの曲は、人生に圧倒される感覚について歌っている。この曲はそんな気持ちを歌っている。抱えきれないほど、触れることもできないほどにね」

 

Bartees Strangeの新作アルバム『Horror』は2025年2月14日に4ADからリリースされます。 


「Too Much」




 


インディアナポリスのインディーロックバンド、Wishyが新曲「Planet Popstar」を発表した。今年初めのデビューアルバム『Triple Seven』のリリース以来、バンドにとって初めての新曲だ。アウトテイクの曲とのことですが、他の収録曲とはやや毛色が異なる。以下からチェックしてみよう。


「この曲は、どう考えても手の届かないような誰かや何かに憧れる気持ちを歌っている」とバンドのケヴィン・クラウターは「Planet Popstar」について語った。

 

「距離は心を豊かにするという。この曲は昨年末のトリプル・セブン・セッションでレコーディングしたんだけど、結局アルバムには入らなかったんだ」


「Planet Popstar」

 


 

©︎Xaviera Simmons

TV on the Radioのフロントマン、Tunde Adebimpe(ツンデ・アデビンペ)がニューシングル「Magnetic」を発表した。

 

この曲は、彼のソロ・デビュー曲であると同時に、新しいレーベル、サブ・ポップ・レコードからの初リリースでもある。アデビンペは、この曲のミュージック・ビデオも監督しており、以下で見ることができる。


サブ・ポップの共同設立者であるジョナサン・ポネマンは、今回の契約について次のように語っている。「トゥンデ・アデビンペをサブ・ポップのアーティストとして心から歓迎します。彼の加入により、サブ・ポップはより良く、より上品になる! 私たちはサブ・ポップがツンデ・アデビンペのレーベルになるチャンスを得るために、20年以上待ち続けてきました」


TV on the Radioは、デビューアルバム『Desperate Youth, Blood Thirsty Babes』の20周年を記念して、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンでソールドアウト公演を行う。


「Magnetic」

Soccer Mommy 『Evergreen』

 

Label: Loma Vista/ Concord

Release: 2024年10月25日


Review


当初、ベッドルームポップシンガーとして登場したサッカー・マミーは、前作『Sometimes , Forever』(2022)では、ブラック・サバス等のゴシック色を吸収したダークな作風を選んだ。最新作ではそれまでの霧が晴れたかのような爽やかなソングライティングに回帰している。良質な曲を作りたいというスタンスはすでにオープニング「Lost」に反映され、事実、ポピュラーとしての一級品の曲が誕生したと言える。従来は、インディーロックやギターロックという形にこだわっていたような印象もあるソフィーアリソンであるが、この新作ではギターのソングライティングという面に変更はないものの、画一的なギターロックからは卒業しつつあるようだ。

 

「プロデューサーを選ぶのに苦労した」というプレスリリース時のコメントは、このアルバムに、クレイロと同じようなチェンバーポップやオーケストラ楽器の要素を加えようとした意向によると推測出来る。アルバムの序盤から、フォークソングに依拠したソングライティングにゴージャスなオーケストラ・ストリング等が登場し、タイトルである青春の雰囲気が醸し出される。また、収録曲の全般には、草原のようなサウンドスケープが登場し、これらのアルバムの印象を力強く縁取るのである。いうなれば、アトモスフェリックな一作とも言えるだろうか。

 

タイトルを見ると分かる通り、シンガーソングライターが今作で探求しようとしたのは、おそらく多感な時代の繊細な感情や叙情性、デジタルの全盛期にはなかった”アナログな感覚”である。端的に言えば、デジタル・ゾンビになることを、アーティストはやめたのだ。それはミッドファイの範疇にあるやや荒削りな質を取るロックソングに現れることがあり、「M」はその象徴的なナンバーだ。そして、ボーカルやギターの繊細なハーモニーから、得難いようなエモーショナルな感覚、ナイーブさ、さらにはエバーグリーンな感覚が立ち上る。アルバムの序盤は、自然豊かな場所で、風が優しく通り抜けていくような爽やかさを感じ取ることが出来る。 そして青春という不思議な感覚と合わせて、これらの爽やかな感覚が重視されている。この曲では、アコースティックギターの多重録音で分厚い音像を作り出し、曲の最後で今流行りのメロトロンを使用し、ノスタルジックな感覚を作り出す。作曲家としての成長が感じられる。

 

最初期のベッドルームポップ、そして、その後のオルタナティヴロックという二つの時期を経て、ソングライターは今まさにミュージシャンとして次の道を歩みはじめているところだ。「Driver」は旧来のファンの期待に応えるようなグッドソングである。ワイルドな雰囲気を重視し、そして力強いソングライターのもう一つのアメリカン・ロック好きの一面が垣間見える。さらに、アルバムの序盤から印象的に登場する草原のようなイメージはその後も維持される。「Some Sunny Day」では、繊細で切なさを併せ持つオルタナティヴフォーク・ソングを聴くことが出来る。ベースの進行との兼ね合いの中で、琴線に触れるような切ないハーモニーを生み出す。近年のソングライターの苦心の跡が見えるような一曲。必ずしも最初期のような音楽を第一義にしていない証拠でもある。結果として、普遍的なポピュラーソングに近くなりつつある。

 

現在、サッカー・マミーはおそらくモダンなベッドルームポップやインディーフォーク、それからロックソングという旧来の楽曲性を踏まえた上で、今後、どのような青写真を描くのかを模索している最中であるように思える。それは例えれば、雲の切れ端が空を多い、少しずつ流れ、別の形に変わっていく様子によく似ている。

 

「Changes」は米国的なフォーク音楽というよりも、ヨーロッパ的なフォーク音楽を志向した結果でもある。部分的にはジョニー・マーのような繊細なギターラインが登場することがあり、これは旧来のソングスタイルには見られなかった新しい要素で、今後の一つの音楽的な指針にもなる可能性があるように思える。

 

しかし、そういった幾つかの新しい試みもある中で、アルバムの音楽性の核心を形成するのは、従来のような聴きやすく琴線に触れる”切ないポップソング”である。発売日前に公開された「Abigail」は本作のハイライトで、ときめくような人生の瞬間を音楽的に表現している。楽曲としても構成やダイナミクスの側面で、より起伏や抑揚のある曲を書こうという姿勢が反映されている。曲の最後では驚くようなサウンド効果が用意されている。これもまた新しい試みの一つ。

 

オルトロックとしてのヘヴィーさを強調した前作に比べると、落ち着いた音楽性が際立ち、安定感のあるアルバムとなっている。そしてどうやら、ハイファイなサウンドのみに焦点が絞られるわけではなく、「Thinking of You」ではスラッカーロックに近いローファイに近いスタイルを選んでいる。しかし、サビの部分では他曲と同じように清涼感に溢れるボーカルが登場する。

 

「Dream of Falling」は、アメリカのスタンダードなポピュラー音楽を基にして、普遍的なサウンドを探求し、心地よいドラムのミュートが、ギター/ボーカルのマイルドな感覚を引き立てる。「Salt In Wound」は、オルタナティヴ・ロックとして聴かせるものがあり、それは明るさと暗さの間を揺れ動くようなボーカルの旋律進行に反映されている。これらが、従来のベッドルームポップのスタイルと的確に結び付けられている。未知の音楽への挑戦は、この後も部分的に登場する。

 

「Anchor」では、ダブやトリップホップ的なサウンドとギターロックの融合に取り組んでいる。続く、本作の最後を飾るタイトル曲は、サッドコアのインディーサウンドからピクチャレスクなフォークソングへと移行する。どちらかと言えば、米国というよりも、アイリッシュフォーク、ケルト民謡に近いダイナミクスを描く。この表題曲でアルバムジャケットのイメージは結実を果たす。最初から分かるというよりも、聴いていくうちに分かってくるようなアルバム。


結論づけると、『Evergreen』はフォーク、ロック、ポップ、オーケストラという複数の方式で繰り広げられる一連の抒情的なストーリーのようでもある。また、従来のサッカー・マミーの作品に比べ、バンドの性質の強い作風となったのは事実だろう。個人的には、米国の短編小説「The Strawberry Season(苺の季節)」(Erskin Caldwell)に近いセンチメンタルな感覚が感じられた。

 


 

 

84/100

 

 

Best Track- 「M」



◾️REVIEW / SOCCER MOMMY 「SOMETIMES,FOREVER」

 

©Daniel Topete


シカゴのFrikoは、デビューアルバム『Where we've been, Where we go from here』のデラックス・エディションを発表した。ATOから11月22日にリリースされ、スタジオ・アウトテイクのデモ曲、ライヴ音源、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの「When You Sleep」のカヴァー、新曲「If I Am」を含む11曲のボーナス・トラックが収録されている。試聴は以下から。


「If I Am」は、この拡大版に収録されている他の新曲とともに、2019年まで遡ることができる」とフリコは説明した。「シカゴのDIYや小さなクラブでのライヴで最初に演奏した曲のいくつかだ。レコードのために曲を書いた後、置き去りにされたようなものだったけれど、バンドとして最初に書いた曲の一部だったから、日の目を見ることができてとても嬉しく思っています」



Friko 『Where we’ve been, Where we go from here  (Expanded Edition)

 

Label: ATO

Release: 2024年11月22日

 

Tracklist:


1. Where We’ve Been

2. Crimson to Chrome

3. Crashing Through

4. For Ella

5. Chemical

6. Statues

7. Until I’m With You Again

8. Get Numb To It!

9. Cardinal

10. I Could

11. If I Am

12. Love You Lightly

13. Pride Trials

14. Sliip Away

15. Where We’ve Been (Live In Chicago at Metro 3/1/24)

16. Statues (Live In Chicago at Metro 3/1/24)

17. Cardinal (Live In Chicago at Metro 3/1/24)

18. Get Numb To It! (Demo Version)

19. Repeat Yourself (Demo Version)

20. When You Sleep

 

Pre-order : https://atorecords-ffm.com/wwbexpanded

 

 

 

 

■Friko 

 

シカゴのインディー・ロックの系譜に欠かせない存在であるフリコは、歌を集団のカタルシスへと変える。ロラパルーザ、フジロック、ロイエル・オーティスとのアメリカ・ツアーなど、世界中のステージでエネルギッシュなライブを披露してきたフリコは、「Where we've been, Where we go from here」のエクスパンデッド・エディションのリリースを準備している。この新バージョンは、未発表トラック、デモ、ライブ録音、カヴァーを通して、バンドの音楽的DNAにある音の複雑さと原始的なロックをさらに探求している。



「フリコは、彼ら独自のトーンを打ち出している。このアルバムの高揚した感情を支えるソングライティングの才能で、Frikoは彼らの影響の総和をはるかに超えるデビュー作を成功させた。」-Consequence

 


Ezra Furman(エズラ・ファーマン)は、ベラ・ユニオンが誇る良質なシンガーの一人である。今回、ファーマンは、アレックス・ウォルトンとのニューシングル「Tie Me to the Train Tracks 」、そして、そのB面曲である「Beat Me Up 」を同時に発表した。両曲の試聴は以下から。


エズラ・ファーマンはプレスリリースで次のように語っている。

 

「この曲は、ボストンのロックスベリーにある彼女の古い家で、慢性的に病んでいたある日の午後、神経症的な情熱の爆発で作ってみたんだ。愛の鎖が僕らを死に物狂いで掴んでいて、すべてが溢れ出てきたような気がしていた。そしてB面('Beat Me Up')もある。私が作り上げたこのミニチュアのマゾヒスティックな断片から、彼女は素晴らしい全曲を作り上げた。彼女がどうやってそれをやっているのかわからないが、彼女と一緒にやれることを幸運に思っている」


アレックス・ウォルトンはこう付け加えた。 「エズラと一緒に仕事ができただけでなく、彼女が僕の家に来てくれて、一緒に曲を書いたり、レコーディングをしたり、タバコとノートを手にポーチに入ったりし、すべての文脈を理解しようとした。私たちは、削ぎ落とされ、騒々しく、過酷でありながら、繊細で美しく、か弱いものを作りたかった。それは達成できたと思う」


ファーマンは次のように補足している。 「私たちが受け継いできたポピュラー音楽の精神的なパワーと可能性を理解し、音楽の新たな表現を生み出すための実践的なマジックを実行できる人にほとんど会ったことがない。アレックス・ウォルトンはその数少ない一人。彼女は私の人生を変えたロックの女神だ」



「Tie Me To The Train Tracks」
 

 

「Beat Me Up」

 



サッカー・マミーはアルバム『Evergreen』のリリースに先駆け、最新シングル 「Abigail 」で最後のティーザーを公開しました。


MVは牧場物語のゲーム「Starview Valley」に対するオマージュだと言う。この曲は先行シングルの中で最もエバーグリーンな雰囲気が漂っている。アウトロのシューゲイズ風のギターもセンス抜群です。


農場ライフ・シミュレーション・ゲーム『Stardew Valley』のファンなら、アリソンの恋の相手である紫色の髪の村人、アビゲイルであることがお分かりだろう。ミュージック・ビデオでは、アリソンが演じるStardew Valleyのキャラクターがアビゲイルを口説き、やがて幸せなカップルが結婚するまでのゲームプレイが収められている。という幸せなエンディングとなっている。


Soccer Mommyのニューアルバム『Evergreen』は今週末(10月25日)に Loma Vistaからリリースされます。


「Abigail 」




 

 

Hovvdyはセルフタイトル・アルバムからの「Jean」の別バージョン「Jean (Julie's Verson)」をリリースした。また、この2枚組アルバムを引っ提げた2025年北米ヘッドライン・ツアーも発表された。


ベネット・リトルジョンと一緒に「Jean」を再構築したんだ。「このアレンジは、アコースティック・ギターと一人の声という、この曲がどのように書かれたかをより深く知ることができる」

 

 「Jean (Julie's Verson)」

 



ジョージア州のグランジ/シューゲイザープロジェクト、The Kartetch(ザ・カーテッチ)がEP『The Fallacy』の制作を発表しました。本作は来年1月24日にリリースされる。


原則に基づいたラウド・ギター・ミュージック。"答えをかわさない"、"シューゲイザーは拳とともにある"。しかし、これはもしかすると誤解に過ぎないかもしれない。


ザ・カーテッチは、シチュエーション・グランジ、シューゲイザー、酔っ払ったオーケストラの若者たち。グランガー、シューゲイザー、それ以外の何者かのレガリアを巧みにかわす東欧からの遊牧民の小集団だ。90年代のギターの伝統は、バイオリン・カルテットのトリックとミックスされている。歌詞は最後まで切り札のエースを袖に隠し、感情の不和は合理的な疑問を残す。

 

シューゲイズ、グランジと紹介されているが、メタルコアに近いヘヴィーなギターがフィーチャーされている。パンク、ポストハードコア、メタルコア好きはチェックしておきたい。


 



The Kartech 『The Fallacy』 EP

 

Momma

ブルックリンの魅力的なインディーロックバンド、Mommaがニューシングル「Ohio All the Time」をリリースしました。アーロン・コバヤシ・リッチのプロデュースによるこの曲は、昨年の「Bang Bang」以来の新曲となる。Zack Shorrosh監督によるビデオは以下よりご覧ください。

 


ブルックリンを拠点とするバンドは、プレスリリースで次のように新曲について解き明かす。「ツアー中の夏について書いた曲で、1ヶ月の間に生活の全てが変わったように感じた。このビデオは、世界が真新しく、すべてが目の前にあるような、そんな若々しい感覚をとらえたかったんだ。北部のハドソン近くの友達の家に行って撮影し、一日中ふざけて走り回ったのを覚えている」

 

オルタナティヴロック・バンドという触れ込みで紹介されることが多いMamma。しかし、最新のシングルではダンサンブルなポップソングへと鞍替えを果たしている。今後のバンドの動向にも注目です。


「Ohio All The Time」

 

Mamalarky

Mamalarky(ママラーキー)がエピタフ・レコードと契約を発表しました。バンドは、新曲 「Nothing Lasts Forever」をリリースし、新契約をお祝いしている。

 

ママラーキーは2016年テキサス州オースティンで結成され、リヴィー・ベネット、ノア・カーン、マイケル・ハンター、ディラン・ヒルをメンバーに擁する。

 

「真夏のLAで、エアコンもない気候危機的な熱波を体験していた。この曲は、僕らの脳細胞が発火しようと必死になっている時に、ジリジリと流れてきたんだ。みんな踊り始めた。誰かのために曲を書くはずだったんだけど、この曲が気に入りすぎて、送らなかったの」とリヴィー・ベネットは説明する。

 

「私たちは、誰かとの立ち位置がまったくわからないときの気持ちを書きたかった。未来が見えると思っていても、結局は不確実性に身を委ねてしまう。歌詞は明らかに矛盾している。わからないことも楽しみのひとつなのかもしれない」

 

「ミュージックビデオは、ロサンゼルス国際空港のそばの、ゴミだらけのオフィスビルで撮影したの。この日のために友達が車で来てくれた。私、ダンスは得意じゃないの。高校時代、ダンスクラスから落ちこぼれそうになったくらい。とにかく、この奇妙な限界空間のダンス・コンペティションに参加することで、救われたような、恐ろしいような気持ちになった。優勝したことが今でも信じられない」


「Nothing Lasts Forever」は、高く評価された2022年のアルバム『Pocket Fantasy』のリリース以来の最新シングル。インディーポップ風のシングルで、ネオソウルへの傾倒を示している。

 


「Nothing Lasts Forver」

 

Panda Bead


Panda Bear(パンダ・ベア 別名ノア・レノックス)がニューアルバム『Sinister Grift』の制作を発表し、リードシングル「Defense」(シンディ・リーをフィーチャー)を公開した。

 

『Sinister Grift』は2025年2月28日にDominoから発売される。また、Toro y Moiがオープニングを務めるツアー日程も発表された。


『Sinister Grift』は、パンダ・ベアにとって2019年の『Buoys』以来6年ぶりのソロ・アルバムとなる。2022年にはソニック・ブームとのコラボレーション・アルバム『Reset』をリリースしている。


ノア・レノックスはポルトガル/リスボンの自宅スタジオで、Animal Collective(アニマル・コレクティヴ)のバンドメイトであるジョシュ・"ディーキン"・ディブと一緒にアルバム制作に取り組んだ。

 

シンディ・リー(別名カナダ人ミュージシャン、パトリック・フレゲル)のほか、Spirit of The Beehive(スピリット・オブ・ザ・ビーハイブ)のリヴカ・ラヴェーデ、アニマル・コレクティヴの各バンドメイトも参加している。(パンダ・ベアのアルバムとしては初めてのこと)


アルバムを発表するプレスリリースには、レノックスのコラボレーターや友人の言葉が掲載されている。

 


ジョシュ・"ディーキン"・ディブ: 

 

 「このアルバムの制作は、神聖で温かい帰還のように感じた。ノアと僕が最初にマルチトラックカセットに音楽を入れ始めたのは1991年だった。あれから32年、同じやり方で、2人の友人と2人きりで部屋にこもって、心を揺さぶる音や感情を探しながら仕事をしてきた。Sinister Grift』は、私が30年以上前から知っているソングライターのようでもあり、ノアの新しい章のようでもある。これ以上誇れるものはないだろう」

 


ダニエル・ロパティン:

 

「クラシック・ロックの夢が見事に滲み出ているジェシカ・プラット「『Sinister Grift』でパンダ・ベアは、幸運と災難の風に立ち向かう孤独な姿を見せている。ノアの純粋で痛切な嘆きは、今回はまるで語り手が悲痛な夢から覚めたかのように、とらえどころがない。パンダ・ベアは、険しい道のりを歌うおなじみのトーチ・ソングを披露している」

 


マリア・レイス:

 

 「ノアには、曲作りを驚くほど簡潔にする能力がある。すべてのアイデア、すべての言葉、すべての音は、目的を果たすためにあるように感じる。Sinister Griftは、まるで何十年も前から存在していたかのような、オール・タイマーのような雰囲気があり、同時に、まるで前を向いているかのような、新鮮な新しい光に満ちている」

 


DJ Falcon:

 

「このような暗い時代には、人生を乗り切るための音楽が必要だ。パンダ・ベアには魔法があり、彼の声はこの世界を癒す薬のように感じられる。ノアは僕らにSinister Griftをくれた。リラックスした気分で、ビーチが遠く感じられない。ノアの贈り物に感謝します」

 


アラン・ブラクセ:

 

 「"Sinister Grift"はとても美しいアルバムだ。すべてが本物で自然で、まるで昔から存在し、これからも存在し続けるかのように聴こえる。真実で時代を超越している。ありがとう、ノア!!」 



「Defense」

 

 


Panda Bear 『Sinister Grift』


Label: Domino

Release: 2025年2月28日

 

Tracklist:


1. Praise 

2. Anywhere But Here 

3. 50mg 

4. Ends Meet 

5. Just As Well 

6. Ferry Lady 

7. Venom’s In 

8. Left in the Cold 

9. Elegy for Noah Lou 

10. Defense



マイアミを拠点とするバンドSeafoam Wallsは、シンガー・ソングライターでギタリストのジャヤン・バートランド、ベーシストのジョシュ・イーワーズ、エレクトロニック・ドラマーのホスエ・ヴァーガス、ギタリストのディオン・カーで構成される。彼らはジャズ、シューゲイザー、ロック、ヒップホップ、アフロ・カリビアンリズムのまったくユニークな組み合わせであるシーフォーム・ウォールズを「カリビアン・ジャズゲイズ」という新しいジャンルで表現する。


『Standing Too Close To The Elephant In The Room』は、バンドにとってエキサイティングな新章を象徴している。このアルバムは、シーフォーム・ウォールズのミュージシャンとしての進化を示すだけでなく、アーティストとしての評判を確固たるものにし、リスナーを実験的な影響と楽器編成のテクニカラーの霧を通して彼らの音楽を体験させる。ディオン・カー、ジョシュ・エワーズ、ホスエ・ヴァーガスを中心とするバンドは、芸術的な自律性へのコミットメントを示し、セルフ・プロデューサーとしての役割を担い、現代社会とそれが内包するあらゆる矛盾に疑問を投げかけながら、その壮大なサウンドスケープを堪能できるアルバムを作り上げた。

 


ギタリストのジャヤンはアルバムに関して次のように説明しています。「ギターを手にする以前、純粋な音楽ファンだった。その後、世界各国の政府の抑圧的なやり方について学び始めると、私の世界は粉々に打ち砕かれた。自分達のすることは正義なのだと私に断言した権威的な存在も、実は『問題の重要な一部だった』のです。その後、もしかしたらアートこそがこの残酷な世界で唯一の安全な空間ではないかと思い始めました。『Humanitarian Pt.II』は端的に言えば、『幻滅』についての作品です。私は、同じような手口が存在するとは知らず、真っ先に音楽シーンに飛び込んでいきました。そして、そのようなやり方を非難するとともに、私の前に好きだったアーティストたちのように『社会規範に疑問を投げかける』ことを自分の使命としています」

 

「実は、私はまだ差し迫った疑問に対する答えを探しているところなのですが、現実的な解決策を持っている同じような考え方を持つ人たちと一緒にいることは励みになります。ディオン・ディア・レコードの最新作と今後のリリースに惹かれたのは、私が尊敬する誰もが素晴らしい疑問と意識を提起する中、ディオン・ディアは希望に満ちた選択肢を提示してくれたからでした」


アルバムのタイトルは、人々が人生で直面する、見過ごされがちであるが重要な課題や複雑さの比喩であり、細部にとらわれ、大局を見失うことへの警告を意味する。ジャヤンが説明するように、誰もが部屋の中にエレファントを飼っている。しかし、問題がより複雑であるため、視野が狭小になり、それらの全体像が見えづらくなっている。つまり、視聴者は同じ問題に対して偏った視点を提供しているらしい。これは、交差性が満たされていない領域の説明なのである。

 

 

Seafoam Walls  『Standing Too Close To The Elephant In The Room』/ Dion Dia


 

 

シーフォーム・ウォールズの音楽性はとても個性的である。基本的なバンドアンサンブルは、今日のオルトロックのトレンドに沿っているが、他方、チルウェイブを吸収したシンセポップのような音楽性が際立つ。それに加えてボーカリストのジャヤンのボーカルもR&Bのテイストからアフロビートからの影響をミックスした懐深さを感じる。それほどこのアルバムの音楽は難解になることはなく、シンプルで親しみやすく、それどころかライトな印象を思わせる。35分ほどのアルバムを聴き通すのに、労力や忍耐力は必要ないと思う。さらりと聞き流せるサウンドはBGMのように過ぎ去っていく。しかし、アフロビートを反映させた多角的なリズム等、コアな音楽の魅力が凝縮されている。Unknown Mortal OrchestraのようなR&B色のあるインディーロックとも言えるのだが、同時によくよく聴くと、かなり奥深い感覚のある作品である。

 

なぜ、軽やかな印象のあるロックなのに聴き応えがあるのか。それは端的に言えば、制作者の考えが暗示的にバンドサウンドの背後にちらつき、シーフォーム・ウォールズの音楽がジャンルのキャッチコピーに終始しないからである。そしてロックバンドとしての不可欠な要素、ライブセッションの醍醐味も内包されている。セッションは音による複数人の対話やコミュニケーションを意味し、音楽が時々、優れたミュージシャンにとってある種の言語のような役割を持つことを定義付ける。このバンドのライブセッションにおける対話は、アルバムの最後の曲「Ex Rey」に登場する。セッションの心地よさが永遠と続くような精細感のあるライブサウンドがこのアルバムの最後に控えている。このことはまだこのアルバムで、ジャヤンのほか四人のメンバーがすべてを言い終えたのではなく、言い残した何かがあることを暗示するのである。

 

そして、このアルバムに少なからず聴き応えをもたらしているのものがあるとすれば、それは彼らの権威筋に対する「失望」や「不信」にほかならない。今日日、権威筋の説得力のある意見がときに、実際的な経験を元に組み上げられるシンプルな論考に対し、無惨なほど敗北を喫する時代に、権威に対する盲目的な崇拝が最早以前のような意義を失ったことを暗示している。ソングライターのジャヤンは、このことに関し、「世界各国の政府の抑圧的なやり方について学び始めると、私の世界は粉々に打ち砕かれた。"自分達のすることは正義なのだ"と私に断言した権威的な存在も、実は『問題の重要な一部だった』」と説明しているが、これは反体制的でも何でもなく、一般的な人々が今日の時代において痛感せずにはいられないリアルな感覚でもある。


ただ、シーフォーム・ウィールズの音楽的な感覚は、そういったドグマに対して距離を置くことにある。そういったものにはまり込み、修羅の道に入るのではなく、それらに一瞥もくれないのだ。素晴らしいのは、旧来の価値観の崩壊や一般的な概念に対する不信感が主題になっているのは事実であるが、サウンドそのものは建設的で明るい方向に向かう。アートや音楽を一つの起点とし、彼らは純粋な楽園を構築しようとするのである。結局、アルバム全体を通して感じられたのは、彼らが政治的な観念から適切に距離を取ろうとしていること、そして、もし今日の政治や世界情勢の闇に不満を感じるならば、むしろそのことを逆手に取り、別の道に歩み出そうとすることであった。たとえ、それが架空のものであろうと、もしこういったアートの純粋な試みを行う人々が多数派になれば、争いはもちろん、不毛な論争も立ち消えるのである。


さて、現代の人々は今までそれが「正しいこと」だとか「善なること」と言われていたものが、本当はそうではないとわかった時、どう立ち向かうべきなのか。また、どのように接するべきなのか。少なくとも、このアルバムに関して言えば、それらの考えや価値観と争うとか、反駁を企てるといった旧来の手法とは別の道筋が示されている。バンドのサウンドは主流派に乗っかるのでもなければ、過剰にスペシャリティを誇示するわけでもない。スペシャリティを誇示しすぎることは、建設的なやり方とは言えまい。シンプルに言えば、彼らは、バンドアンサンブルを通じて「楽しむ」だけである。それでも、このことが何らかの愉快なエネルギーを発生させ、聴いている人々に開放的な気分を与え、さらに最終的に、純粋な音楽の喜びを教えてくれる。高尚な楽しみはときに形骸化や腐敗を招く。しかし、純粋な楽しみは、最も偉大なのだ。

 

チルウェイヴとギターロックを組み合わせた「Humanitarian Pt.1」、「Humanirarian Pt.2」は本作の序章のような意味を持つ。そしてこのアルバムが、一種のコンセプチュアルな流れを持つ作品であることが暗に示されている。ジェフリー・パラダイスのプロジェクト、Poolsideのエレクトロニックサウンドとギターロックを融合させたかのようなリラックスした感じが主な特徴である。これらのスタイルには、ヨットロックのようなリゾート的な雰囲気が漂う。それほど苛烈になることなく、余白のあるサウンドに波の音のサンプリングが挿入されることもある。彼らは結果的にアルバムの楽園的なサウンドを入念に組み上げていく。

 

波のサンプリングのイントロを挟んで始まる「Cabin Fever」は、シーフォーム・ウォールズがオーストラリアのHiatus Kayoteのような未来志向のプログレッシヴ・ロックの性質を兼ね備えていることの証でもある。ギターの心地よいカッティングを元にして、多角的なリズムを作り出し、スケールの大きなプログレを構築していく。バンドのアンサンブル自体はミニマリズムの性質があるが、ヒップホップやチルウェイブ、ソウルを通過したボーカルがこれらのサウンドに開放的な気風をもたらす。同時に、サンプリングのイメージと相まって、サウンドスケープの範疇にあるロックソングが構築される。そして、四人組のサウンドはどちらかといえば、単なる楽曲というよりも、サウンド・デザインや風景描写の一貫をなすロックサウンドに接近していく。実際的にトラック全体からマイアミの砂浜を想起することも無理難題ではない。そしてバンドの音楽はそれほど神経質にならず、オーガニックで広やかな印象をもたらす。 

 

 

 「Cabin Fever」

 

 

温和で心地よいサウンドはそれ以降も続く。「Rapid」では、リバーブを配しバッキングギターで始まり、同じようにリゾート的な雰囲気を持つシーケンサーのシークエンス、そして細やかにリズムを刻むドラムと、バンドは音の要素を積み重ねていきながら、ひたすら心地よいサウンドを追求している。そしてこれらのリズムから、開放感と清涼感に溢れるジャヤンのボーカルがぼんやりと立ち上ってくる。ジャヤンはもしかすると、ヒップホップはもちろん、現代的なネオソウル等から影響を受けているかも知れない。それらのソウルフルな歌唱は、徹底して作り込まれたギター、それらをしっかり支えるリズム、こういった要素の中に上手く溶け込んでいる。シーフォーム・ウォールズのサウンドは、単一の楽器やパートが強調されることは稀で、全部のパートが一体感を持って耳に迫ってくる。そして、これが瞑想的な感覚を呼び覚ます。

 

アルバムの中盤のハイライト曲「Hurricane Humble」は、予言的な曲となってしまった。海岸の波の上を揺られるようなサーフサウンドを基調としたギター、 それらがソフト・ロックやシンセ・ポップの系譜にあるボーカルと溶け込み、やはりヨットロックのようなトロピカルなサウンドが組み上げられる。こういったサウンドは、ニューヨークのPorchesに近いテイストがあるが、曲の途中では、ラディカルなエフェクトが施されたりと、実験的なロックの形式を取ることもある。しかし、そういった前衛的なサウンドエフェクトがなされようとも、それほど聴きづらくはならない。それはボーカルのサングがポップの範疇にあり、自然な歌唱力を披露しているからだ。そして、3分半頃にはトーンの変調というシューゲイズの要素が登場する。これらは、最終的に、Hiatus Kaiyoteのような近未来的なロックサウンドに肉薄する。さらに、それらの実験的な試みはトラックのアウトロにも用意されている。さらに、この曲の最後では、大きなハリケーンが去った後の空気の流れを録音したサンプリングが配されている。そして、これはアルバム全体からストーリーを汲み取るような聴き方も出来ることを示唆しているように思える。

 

リズムにおける冒険心が垣間見えることもある。アフロビートの躍動的なリズムをイントロに配した「Stretch Marks」は、依然としてヨットロックの質感を押し出しながら、アフロ・ビートとオルタナティヴの融合という、彼らにしかないしえない音楽的な実験がなされている。この曲では、まだすべてが完成したとは言えまいが、新しい音楽の萌芽を見出すことが出来る。もしかすると、マスタリングには、「iZotope」が使用されている可能性がある。このあたりは、シンプルでスタンダードなデジタルなサウンドデザインを堪能することが出来るだろう。さらにアルバムの序盤の副次的なテーマであったサーフミュージックの存在感がより一層強まるのが続く「Sad Bop」である。この曲は、ハワイのジャック・ジャクソンのフォークサウンドをエレクトリックで体現したかのようでもある。彼らは、海岸沿いのリゾート気分や、海辺の夕景を想起させるようなロマンティックなポップスを聞き手に提供している。また、この曲でもサウンドスケープとしてのバンドサウンドが巧みに組み上げられていて、水中をゆったりと泳ぐような夏らしく、愉快なサウンドを楽しめる。(少し季節外れになってしまったかもしれないが.......)

 

アルバムの最後にも印象深い曲が収録されている。「Ex Ray」は、バンドアンサンブルの未知の可能性を示唆している。現代的なオルトロックバンドはどうしても「録音」が先行してしまい、アンサンブルの楽しさを追求することが少なくなりつつある。しかし、コラボレーションやバンドの楽しみを挙げるとするなら、こういったいつまでも続けていられるような心地良いライブセッションにある。それを踏まえ、彼らはBeach Houseのサウンドをお手本にしつつ、バンドとして何が出来るのかを探っている。そして、この曲にこそ、アートそのものが現実を超える瞬間が示唆されている。特に、それは現実的な概念からかけ離れたものであればあるほど、重要な価値を持ちうる。少なくとも、シーフォーム・ウォールズは、彼らが抱える問題を見事に乗り越えている。つまり彼らは現実に打ち勝ち、「Get Over It」してみせたとも言える。それは前述した通りで、彼らの純粋な楽しさを追求する姿勢が、現実的な側面を乗り越えるモチベーションとなったのだろう。




85/100

 

 

 

「Rapids」

 

 

■ Seafoam Wallsのニューアルバム『Standing Too Close To The Elephant In The Room』は本日発売。ストリーミング等はこちらから。