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Photo: Fabrice Bourgelle


Dominic J Marshall(ドミニク・J・マーシャル)は、ロンドンを拠点に活動するUKジャズシーンを担う音楽家です。ピアノやシンセの演奏を得意とし、電子音楽とジャズの融合を図るニュージャズ/クロスオーバージャズの演奏家として知られています。音楽性もきわめて幅広い。スタンダードジャズから電子音楽、ネオソウル、ヒップホップをしなやかなジャズに仕上げています。

 

今年2月7日に発売されたニューアルバム『Fire-breathing Lion』は、完全なインディペンデントの作品として制作されました。ニュージャズの範疇にあるアルバムでJaga Jazzistを彷彿とさせる曲もある。音質は粗いですが、ミュージシャンのマルチタレントの才覚が全編に迸っています。


「私がすべての楽器を演奏したソロアルバムです」とマーシャルは説明しています。「このアルバムは、全曲を私が作曲し、セルフ・プロデュースした。アコースティック・ピアノ、エレクトロニック・ドラム、シンセ・ベース、ムーグ・メロディ、ベース・ギター、フェンダー・ローズがパレットの大部分を占めている」 

 

これまで、ドミニク・J・マーシャルの音楽は、ロンドンのジャズ専門誌やBBCを中心に称賛を受けてきた。2013年のアルバム『Spirit Speech』は彼の出世作の一つであり、「繰り返し聴く価値のある、想像力豊かで個性的な素晴らしいアルバム」(LondonJazzNews)と評されたほか、ジェイミー・カラム、ジル・ピーターソン、ジェズ・ネルソンによって満場一致で賞賛されました。その年のBBC Introducing Live、マンチェスター・ジャズ・フェスティバルに出演しました。


2015年、ドミニクは、イギリスのニュージャズ・グループ、”The Cinematic Orchestra(ザ・シネマティック・オーケストラ)のピアニストとして活動を始めた。モントルー・ジャズ・フェスティバル(スイス)、グラストンベリー・フェスティバル、サマー・ソニック、ブリクストン・ジャズ・フェスティバル、ブリクストン・アカデミー、ロイヤル・フェスティバル・ホール、ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールなど、世界的なフェスティバルや会場で演奏しています。

 

高い評価を得たアルバム『To Believe』のヒットナンバー「Lessons」は彼の代表曲でもある。さらに、ドミニクのヒップホップ・カヴァー・アルバム『Cave Art』は、KMHDの2015年ジャズ・アルバム・トップ10に選出されています。''UK Vibe''は、2016年の『The Triolithic』について、「高い評価に値する、とても愉快で爽やかなオリジナル・アルバム」と評しています。2017年のビートテープ『Silence's Garden』は、Acorn Tapesで完売し、Bringing Down The Bandは次のように振り返っています。「これらのトラックには素晴らしいヴィンテージ感が込められている」


今回、アーティストから貴重なお話を伺うことが出来ました。また、その中では、日本文化についてのご意見を簡単に伺っています。お忙しい中、お答えいただき本当にありがとうございました。

 

 

Music Tribune:   今回のアルバム『Fire Breathing Lion』は、前作に比べると、エレクトロニックとジャズの融合に重点を置いているようで、スタイルが大きく変わりました。なぜこのような音楽の方向性を選んだのでしょう? 


ドミニク・J・マーシャル:作曲するときにスタイルについてあまり考えていないことは認めるけれど、君の言う通り、『Fire-breathing Lion』と前作との間には大きな変化がある。 新しい作品は、より神話に関連しているんだ。

 

僕が音楽の好きなところのひとつは、意味を伝えるのに言葉を必要としないことだ。 おそらく、言葉がないほうが多くのことを伝えられる。 アルバムを制作しているうちに、そのテーマが意識的というよりも "無意識的 "であることに気づき始めた。 できるだけ深く泳ぎたかったし、歌詞は空気でできているから、いつも表面に浮いてくる。 歌詞と神秘主義は親友ではないと思う。


ーーこのアルバムの制作過程について教えてください。どのように録音しましたか。また、作曲、レコーディング、演奏全般で最も重要な点は何でしたか?

 

マーシャル: 制作においては決まりのようなものは作らなかった。 ドラム・パートのほとんどは、ポケットに入るような小さなドラム・マシンを使って、街をぶらぶらしながら作ったんだ。 「メフィストフェレス」は夜中にラップトップで書いた。 

 

「Fairy Business(フェアリー・ビジネス)」はピアノの即興曲で、ライブの後、朝一番に書いた。 まだ半分眠っていた。 「Cross the Dell(クロス・ザ・デル)」はベースを手に入れたときに書いた。 最初に弾いたのがこのベースラインだったから、あのエキサイティングな感じが生まれたんだ。 

 

「Lysianassa(リシアナッサ)」は、好きだった女の子に好きになってもらえなかった話だ......。ものすごくありふれた話なんだけど、アルバムを書くには少なくとも1つはそういうものが必要になってくる。 いくつかのグランドピアノのパートを除いて、レコーディングはすべてロンドンの僕のアパートで行った。 私は自宅で8本の植物を育てているので、私が作ったものが良いものかどうかは、彼らが成長し、健康に見えかどうかでよくわかるんだ。 

 

ーーアルバムのためにハービー・ハンコック、モーリス・ラヴェル、デヴィッド・リンチからインスピレーションを得たそうですね。具体的に彼らからどのような影響を受けましたか?

 

マーシャル:ハービーの70年代のアルバムは私の人生を変えたんだ。 もろんチック・コリアもそうだよ。 この2人のおかげで、学生時代にはすでにミュージシャンになろうと心に決めていた。


ラヴェルについては思い入れがかなり深い。つい1年前、私は音楽を「諦めて」普通の仕事に就こうとしたことがあった。 何年も前に手に入れたラヴェルのピアノ曲集を夜な夜な弾く以外、あまり幸せは訪れなかった。 その本を開くたびに、音楽が私を呼び戻してくれるのを感じた。 プレッシャーを与えるような感じではなくて、「必然」のような感じだったよ。 ラヴェルが "呼吸を諦めるのと同じように、音楽を諦めることはできない "と言っているように聞こえたんだ。

 

デヴィッド・リンチの作品には、答えのない問いがたくさんあった。 多くの監督は彼の真似をしようとするが、すべての疑問に答えることができず、挫折してしまう。


例えば、 私は『ツイン・ピークス』に登場するクーパー捜査官が大好きだ。 私にとって、デイル・クーパーは、生きとし生けるものすべてが人生を通じて謎の軌跡をたどることを象徴している。本当に決心すれば、実際にいくつか解決することもできるが、常に事実よりも謎の方がはるかに多い。 それが宇宙の法則でもある。 事実が謎を上回った日には、宇宙は崩壊するだろうね。 


ーー自分もピアノを弾いていて、ラヴェルもよく演奏します。こういった曲を何も考えずに弾いていると、日常の細かいことを忘れて本来の自分に戻れる。そういう経験ができるのは本当に素晴らしい。偉大なミュージシャンの多くは、音楽を人生そのものにしていると思います。 


マーシャル: ラヴェルを演奏するのはすごい。ラヴェルの曲は簡単じゃない。 それでも、たった1ページから学ぶことがたくさんある。彼はグランドマスターだ。そうだね、君の言うように、音楽は生き方なんだ。 人生とは別の独自のルールがある。 そう考えるとちょっと怖いね。 あまり考えないようにしているよ!!


ーーさて、あなたのアルバム『Fire Breathing Lion』を聴くとき、リスナーに気をつけてほしいことはありますか?

 

マーシャル:理想的なのは、彼らが自分の内面を見つめることだろうね。 でも、もし彼らが外に耳を傾けたければ、鍵を探すことになるのでは......? そのためのヒントはたくさんあるはずだから。


ーーこれまであなたはモントルー・ジャズ・フェスティバルやグラストンベリー、サマーソニックなど、世界的な音楽フェスティバルに出演してきました。今後出演してみたいイベントはありますか?

 

マーシャル: 自分のバンドで日本でライヴをやってみたいと思っているよ。 


間違っているかもしれないけど、日本はとても文化的な場所のように思える。 僕は小さい頃から日本の文化に興味があった。昔、家に留学生が英語を習いに来ていたことがあった。 その留学生が僕と弟にゲームボーイを持ってきてくれた。 その瞬間から、私は熱狂的な任天堂ファンになったんだ。


ーーゲームボーイはなんのソフトをやったの?


マーシャル:  その留学生はゲームボーイと一緒にスーパーマリオブラザーズ3を持ってきた。 あのゲームは難しすぎた! クリアしたことはなかったと思うけど、ラスボスまでは行ったよ。 特にゼルダは音楽と寺がたくさんあったからね。 その後、ゼルダの伝説、ディディー・コング・レーシング、コンカーのバッド・ファー・デイ、大乱闘 スマッシュブラザーズがお気に入りだった。 


ーー今後のアクティビティの予定について聞かせて下さい。

 

マーシャル:実のところ、今のところはまったくわからない......。 すべてを売り払ってヒマラヤに引っ越したいと思う日もあれば、道行く人に気まずい質問をするテレビ番組を始めたいと思う日もある....... (笑)。 

 

でも、しばらくはロンドンでギグをこなす予定だ。というのも、音楽をやっているときが一番生きているように感じられる。 幸いなことに僕の周りには一緒に演奏できる素晴らしいミュージシャンがたくさんいるからね。

 

Photo: Sahil Kotwani

 

 


 最新アルバム『Fire-breathing Lion』のご視聴はこちらから。

 

 



・メディアや著名人からの反応


 ''陽光を呼び起こすビート''-テレグラフ紙


"彼は過去の偉大な遺産と同時に、とても新鮮で新しいものをもたらしている"-ジェイミー・カラム


"マーシャルは不気味の谷に飛び込み、その中で戯れ、不遜なウィットと神聖な優美さでこのジャンルに新鮮な道を開く"-オーケープレイヤー


''彼はピアノのヴィルトゥオーゾと呼ぶにふさわしい'' -ジャムズ・スーパーノヴァ



【Episode In English】

 

--This album, Fire Breathing Lion, seemed to focus more on the fusion of electronic and jazz, compared to the previous album, the style has changed significantly. Why did you choose this kind of musical direction?


Dominic J Marshall:  I admit I don’t give much thought to style when I’m composing, but you’re right, there is a big change between Fire-breathing Lion and my last album. The new pieces are more related to mythology. 

 One of the things I love about music is that it doesn’t require words to convey meaning. 

 Arguably, you can say more without words. As I was producing the album, I started to realise its themes were more “unconscious” than conscious, so I would have to keep it instrumental. I wanted to swim as deep as possible, and lyrics always float to the surface, because they are made of air. I guess lyrics and mysticism are not best friends.


--Can you tell us about the production process of this album? How did you record it? And what were the most important aspects of your compositions, recordings and performances in general??


Marshall: There’s definitely no formula. I made most of the drum parts when I was out and about in the city, on a little drum-machine that fits in your pocket. 

 “Mephistopheles” I wrote on my laptop in the middle of the night. “Fairy Business” was a piano improvisation, first thing in the morning after a gig. I was still half asleep. 

 “Cross the Dell” I wrote when I got my bass guitar. The first thing I played on it was that bassline, which is why it has that excitable feel. 

 “Lysianassa” was about a girl I liked who didn’t like me back - kind of cliché but you need to have at least one of those to write an album.

 Except for a few grand piano parts, all the recording was done at my flat in London. I have 8 plants, so I can tell if what I’m making is good because they grow and look healthier. 



--You drew inspiration from Herbie Hancock, Maurice Ravel and David Lynch for this album, what specific impacts have they had?


Marshall: Herbie’s 70s albums changed my life. The same goes for Chick Corea. Between those two, I already knew I was going to be a musician when I was at school.
 

 Ravel: A year ago I had attempted to “give up” music and get a normal job. It didn’t bring me much happiness, except sometimes in the evening I’d play this Ravel piano book I got years and years ago. 

 Whenever I opened that book, I felt music calling me back. Not in a pressurising way, but more in an ‘inevitable’ kind of way. It sounded like Ravel was saying “you can’t give up music anymore than you can give up breathing.” 

 David Lynch had a lot of unanswered questions in his work. Directors try to imitate him, but they fall short because they can’t help answering all the questions. I love Twin Peaks, especially Agent Cooper. 

 To me, Dale Cooper symbolises how all living beings follow a trail of mysteries through our lives. If we’re really determined, we can actually solve a few, but there will always be more mysteries than facts. It’s just the law of the universe. The day facts outnumber mysteries, the universe will collapse. 

 

-- I play the piano myself on a daily basis, and I also play Ravel a lot. When I play these pieces without thinking, I can forget the details of everyday life and return to my true self. It's really wonderful to have that kind of experience. I think great musicians make music their very way of life. 



Marshall: That’s awesome you’ve been playing some Ravel. His music is not the easiest, as you probably noticed. But there is so much to learn from just one page. He was a grandmaster...

 Yeah, you’re right about music being a way of life. It has all its own rules separate from life. Kind of scary when you think about it. I try not to think about it too much!!



--What would you like listeners to look out for when listening to this album?
 

Marshall: Ideally, they will look inside themselves. But if they want to listen out, I guess listen out for the keys… ? There’s quite a bit of keys.



--So far you have performed at world-class music festivals such as the Montreal Jazz Festival, Glastonbury. Are there any other events you would like to perform at in the future?

 
Marshall: I would love to do some shows in Japan with my own band. I might be wrong but it seems like a very civilised place. I’ve been into Japanese culture since I was really young. 

 We used to have foreign students staying in our house who came over to learn English. They were my favourite foreign students because one brought me and my brother a Gameboy. From that moment on I was a diehard Nintendo fan. 


- What software did the Game Boy do?


Marshall: About the games, they brought "Super Mario Bros 3" with the Game Boy. That game was way too hard! I don’t think we ever completed it, but we definitely got to the final boss. Then later my favourites were "Zelda Ocarina of Time", "Diddy Kong Racing", "Conker’s Bad Fur Day", "Super Smash Bros". Especially Zelda because of the music and all the temples. 


-What are your plans for future activities? 


Marshall: To tell the truth I have absolutely no idea. Some days I wake up wanting to sell everything and move to the Himalayas, others I want to start a TV show asking people awkward questions in the street. In all likelihood though, 

 I’ll be in London doing my gigs, because making music is when I feel most alive. There are so many great musicians to play with here.


・Reactions from the media and celebrities


“Sunshine-evoking beats”-The Telegraph


“He brings together a great heritage of the past, but also something very fresh and new.”-Jamie Cullum


“Marshall plunges into the uncanny valley and frolics in it, investing a fresh path for the genre with irreverent wit and divine grace.”-Okayplayer


“He’s what you would call a piano virtuoso”-Jamz Supernova

 Interview:  Midori Hirano

 

Midori Hirano & Bruder Selke ©Sylvia_Steinhäuser
 

 

互いの異質さや存在感をぶつけ合うのではなく、逆に互いの最大公約数を見出し、そこにフォーカスする- Midori Hirano

 

 

ベルリンを拠点に活動するピアニスト、シンセ奏者、作曲家として世界的に活躍するMidori Hiranoは、2025年に入り、ポツダムの兄弟デュオ、Bruder Selke(ブルーダー・ゼルケ)とのコラボレーションアルバム『Spilit Scale(スピリット・スケール)』をThrill Jockeyから1月末に発表しました。エレクトロニック、チェロ、ピアノを組み合わせたアルバムで、スケールの配置をテーマに制作された。

 

らせん階段のように、GからAのスケールが配置され、旧来のバロック音楽、現代的なエレクトロニックのメチエを組み合わせ、変奏曲、連曲、組曲ともつかない、珍らかな構成を持つモダンクラシカル、エレクトロニック作品に仕上がった。Yoshimi O、灰野敬二、Boredoms、石橋英子をはじめとする、日本のアンダーグランドの象徴的な実験音楽家を輩出するスリル・ジョッキーからのリリースは、ミュージシャンにとって象徴的なレコードの誕生を意味するでしょう。


今年は続いて、ロシア出身でスウェーデンを拠点に活動するミュージシャン、CoH(Ivan Pavlov)とのアルバム『Sudden Fruit』がフランスのレーベル”ici,d'alleurs”から4月に発売予定。エレクトロニックとピアノの融合した、オランダのKettelを彷彿とさせるアルバム。また、アーティストは今年4月に日本でライブを行う予定です。こちらの詳細についてもご確認下さい。

 

今回、平野さんはご旅行中でしたが、『Spilt Sacale』の制作全般について、最近のベルリンの暮らしや政治情勢について教えていただくことが出来ました。お忙しい中、お答えいただき、本当にありがとうございました。今後の活躍にも期待しています。以下よりインタビューをお読みください。

 

 

ーー1月24日にコラボレーションアルバム『Spilit Scale』がThrill Jockeyから発売されました。この作品の大まかな構想についてあらためて教えて下さい。



平野みどり: このアルバムの構想は最初にゼルケ兄弟から提案されたのですが、一曲ごとのキーを西洋音階のピアノでいうところの白鍵にあたるAからGまでに設定して作るというとてもシンプルなものでした。ですので、一曲目がA-Minorで始まって、最後にまたA-Minorで終わる形になっています。マイナーキーにするかメジャーキーにするかまでは決めてなかったのですが、互いの音楽の内省的な傾向が影響したのか、自然にFとG以外は全部マイナーキーになりました。



このアルバムは、全てファイル交換のみで制作したのですが、段取りを明確にする為に、A, C, E, Gは私発信で、それ以外のB, D, F, AAはゼルケ発信で始める事にしました。


アイデアとしてはとてもシンプルだし、新鮮さは特にありませんが、私は自分の作品を作るときはこんなに分かりやすいルールを決めてから始めるという事はあまりなかったです。私に取っては決められたルールの中で、彼らの作る音も尊重しながら、どれだけ自由に表現を広げられるかという点では、とても新鮮な試みでしたね。



ーーゼルケ兄弟との親交は、いつ頃から始まったのでしょうか? 実際に一緒に制作を行ってみていかがでしたか。



平野: 最初にゼルケ兄弟と知り合ったのは、彼らの拠点でもあるポツダムで主催している「Q3Ambientfest」というフェスティバルに呼んでくれたのがきっかけでした。2017年の春で、その年が彼らにとっても第一回目のフェス開催でした。その当時は彼らは”CEEYS”というユニット名で活動していましたが、数年前からブルーダー・ゼルケと名乗るようになっていました。


その後にも何度か同じフェスだけでなく、別の主催イベントにも対バンで何度も呼んでくれるようになって、それを通じて次第に仲良くなっていったという感じです。

 

それから2021年に彼らの”Musikhaus”というリミックスアルバムの為に、一曲リミックスを依頼されて制作したのですが、そのリミックスを気に入ってくれたみたいで、その後に割とすぐコラボレーションをしないかと誘われたのが、このアルバムを作る事になったきっかけですね。

 

最初に調性などのルールは決めたものの、それ以外は自分の直感に従い、自由に音を重ねていったように思います。ゼルケ兄弟の2人は本当に人が良くて平等精神に溢れた人達ですので、お互いに尊重するべきポイントもとても把握しやすく、最後まで気持ち良く作る事が出来ました。




ーー最新作ではピアノ、チェロ、シンセサイザーを中心にモダンクラシカル/アンビエントミュージックが展開されます。作曲から録音に至るまで、どのようなプロセスを経て完成したのでしょうか。



平野: 彼らが住んでいるポツダムから私の住むベルリンまでは電車で1時間弱と近いので、一緒にスタジオに入って録音する事も物理的には可能ではありましたが、3人のスケジュールを合わせるのはなかなか大変ですし、それぞれ自分のペースでゆっくり考えながら制作したいという思いもありましたので、先に話したように、全てファイル交換のみで仕上げました。途中、何ヶ月か中断しながらでしたが、2年ほどかけて丁寧に作りました。

 

録音したファイルは、毎回、4曲ずつをまとめてお互いに送り合って進めましたが、ファイルが往復した回数は2年の間で合計3回ぐらいだったと思います。

 

最終的な仕上げとミックスは私に任せるとゼルケ兄弟が言ってくれたので、最後の調整は私が1人で数ヶ月かけてやりました。最後の段階では曲によって10分以上あるものも多く、ちょっと長すぎるかなと思ったところを私の判断でいくつか切って短くしたり、さらに私が追加でピアノとパッド系のシンセを入れた曲も結構あります。



最終調整作業は、なかなか大変でしたが、結果的には満足のいくものに仕上がったと思っています。私は自分のソロでは結構実験的なアプローチで作っていたり、ピアノがメインの曲でもピアノの音自体を大きく加工して作ることも多いので、こんなに直球なモダンクラシカル的な作品をアルバム単位で作ったのは、私にとっては実は初めてかもしれませんね。




ーー今回のアルバムでは、ピアノ/シンセサイザー奏者が二人いるわけですが、それぞれの演奏パートをどのように割り振ったのか教えていただけますか? また、ゼルケさんと平野さんの演奏者としての性質の違いのようなものはあるのでしょうか?



平野: 3人の中でチェロを演奏するのはセバスチャンだけなので、ここの割り振りは初めからはっきりしていました。ピアノに関してはダニエルと私で特別最初に申し合わせをした訳ではないのですが、ダニエルがピアノを弾いているのは「Scale C」と「E」だけで、それ以外の曲のピアノはほぼ全て私が担当しました。


最初に彼らから送られてきた曲のファイルにあまりピアノが入っていなかったので、あえて私の為に入るスペースを残してくれていたのかなとも思いました。逆に、私も自分発信の4曲の中の「Scale C」と「E」には、ダニエルがもしかしたらピアノを弾くかもしれないと思い、シンセしか使いませんでした。


段取りについては最初に明確にルールを決めたものの、楽器の割り振りについては毎回録音する度にお互いに探り合いをしながら、慎重に選んでいったように思います。最終ミックスの段階で、初めて何か足りないと思ったところを、私がシンセやピアノで一気に追加したような感じですね。



ピアノとパッド系のシンセや「Scale C」のイントロに出てくるようなデジタル感の強い音は主に私で、ダニエルはエレクトロニックパイプで控えめなノイズっぽい音と、時折シンセベースを出したりしています。


あと、「Scale AA」でのシンセのアルペジオもダニエルが演奏しています。アナログ機器とチェロの音がメインのゼルケ兄弟の音と、ピアノ以外ではデジタルシンセを多く使っている私の音をミックスするのはなかなか難しかったですが、その割には意外とうまくまとまったなと思っています。



ーー『Split Scale』は、インプロヴァイゼーション(即興演奏)の性質が強いように感じられました。トリオでの制作において、共通するイメージやコンセプトのようなものはありましたか。そして、そのイメージが通じる瞬間はありましたか?



平野: ゼルケ兄弟も私も最初の録音の際には即興に近いスタイルで演奏したと思いますが、あとはお互いの音を聞きながら録音を重ねていっているのと、後から編集も結構加えているので、厳密に言えば、即興と作曲の中間のようなものです。



それでも、3人ともクラシック音楽のバックグラウンドがあるからなのか、ハーモニー構成の癖が似ている部分もあるかもしれません。ステージで一緒に演奏する時でもほぼ全部即興であるにもかかわらず、横も縦もはまりやすい。即興演奏として、それが面白いかどうかというと、人それぞれの意見があるとは思いますが......。でも、お互いの異質さや存在感をぶつけ合うのではなく、逆に互いの最大公約数を見出し、そこにフォーカスするような控えめな「即興演奏」を、私達はこの作品で繰り広げたのだと思ってますし、そこから生まれる美しさもあると思います。

 

 

Photo:Sylvia Steinhäuser

 



 

ーー最近のベルリンの生活はいかがでしょう? 現在の現地のミュージックシーンがどうなっているのかについてお聞きしたいです。



平野: ベルリンに住んでもう16年が経ちますので、最初に引っ越してきた頃に感じていたような新鮮さは薄れかけていますが、私個人の印象では日本と比べると、風通しの良い人間関係を築きやすい気がします。そして、女性が自信を持って生きやすい場所だとも思えるところは変わらないです。ベルリンというのは、いろいろな人達が移住してきてはまた去っていく都市ですので、長く住んでいる身としては、たまに”部活の先生”みたいな気持ちになる事があります。



音楽シーンは変わらず活発です。地元のアーティストもそうですが、世界各地から頻繁にさまざまなミュージシャンがベルリンにツアーのために訪れますし、毎日のように、いつもどこかで大小様々なライブイベントが開かれています。運営側からすると、客取り合戦みたいになりがちです。それでも、この活発さがベルリンの特色だと思っています。例えば、エクスペリメンタル・ミュージックのような、ニッチなジャンルのイベントでも、日本の数倍規模の集客がある場合が多いです。そこはベルリンの文化助成が支えて育ててきた部分も大きい気がしますね。



とはいえ、2024年の暮れから、ベルリンの文化助成予算が大幅に削減される事になりましたので、少しずつ運営が難しくなるライブハウスやイベントも出てきているようです。当然、この政治的な変化に対する反対運動も大きく、今後どうなっていくのかなとは思っています。色々な意味で、今後、アーティストとして、どう生きていくかが問われてきているように思います。



ーー女性が自信を持って生きやすいということですが、日本や他のヨーロッパの国々と何か異なる文化的な背景や慣例があるのでしょうか?
 
 

平野: 私は、日本以外ではベルリンにしか住んだことがないので、あくまでも個人的な体感に過ぎませんが、ドイツのみならずヨーロッパは全体的に、社会における女性の存在感が大きいように思います。勿論、もっと厳密に分析すれば、北欧、東欧、西欧と南欧では、文化的背景がそれぞれ異なってくるため、一概には定義できませんが、自由と平等、人権の扱い方や平和構築など、いわゆる大義としての西洋の理念みたいなものは欧州全体で共有されているという実感はあります。
 

女性に限らず、男性同士でもおそらくそうだと思うのですが、日本に比べると年齢によって作られるヒエラルキーをあまり感じなくて済むし、何歳になったからと言って、こうであるべきだ、みたいな固定観念も無くはないんですけど、日本よりはその意識がかなり薄いという気がします。
 

また、メルケル元首相が、2005年にドイツで女性として初めての首相に就任し、その後16年も政権を築いてきたことも、ドイツにおける女性の地位向上を目指す気運をさらに高めたと思います。
 
 
それでも、3年ほど前にメルケルさんが引退してからショルツ首相に変わり、この数年の間に国際情勢も大きく変わってしまった。ドイツ政治崩壊の危機と言われてしまうぐらいに状況も変わってしまいましたが……。先に挙げた文化助成予算の削減もその一つの影響でしょう。今月下旬にドイツで総選挙が行われますが、移民排除を掲げた右派政党も台頭してきています。今まで”正義”とされてきた西洋の理念がドイツでも少しづつ揺らいできているように思います。
 

イタリアのメローニ首相もイタリア初の女性首相なのは喜ばしいことですが、相当の保守派で、ドイツの右翼政党AfDの共同党首も女性です。アリス・ヴァイデルという人物なのですが、この間、ヒトラーを擁護するような発言をし、ドイツのメディアがひっくり返るような大騒ぎでした。
 
 
ですので、女性が地位さえ持てば、かならずしも良い結果に繋がるとは私も思っていませんが、ジェンダーバイアスにとらわれず、一人一人の思想や資質が可視化されるような時代になってきているのだと思いますし、それはそれで社会としての一つの進歩に繋がっていると思います。
 
 

CoH&Midori Hirano Photo: Markus Wambsganss



ーー今年4月には、グリッチサウンドを得意とするロシア出身のエレクトロニック・プロデューサー、CoH(Ivan Pavlov)とのアルバムがフランスのレーベル”Ici d’ailleurs”からリリースされます。

 

さらに、同月に日本でのCoHとのライブも決定していますが、新作とライブについて簡単に教えていただければと思います。また、セットリストは決まっていますか。楽しみにしていることはありますか?



平野: CoHのイヴァンとのアルバム「Sudden Fruit」は、ゼルケ兄弟とのアルバムと同じように途中中断しながらも、2022年から2年近くかけて、ファイル交換だけで完成させました。

 

私が仕上げをした「Split Scale」とは違って、次のアルバムでは、私が先にピアノとシンセだけで録音した全曲のファイルを一曲ずつイヴァンに送り、その後の仕上げは全てイヴァンにお任せでした。一曲だけ私の方でピアノを追加録音したものがあるくらいで、他の曲はファイルが往復する事なく、彼が私が最初に送ったピアノの全録音を再構築する形で出来上がっています。


 

ピアノの録音時に、各曲それぞれ、高音域、中音域、低音域と、いくつかのレイヤーに分割して録音したものを送っているので、イヴァンの方で、低音だけベースラインらしく人工的な音に作り変えたり、さらに、そこにビートが加えられたりしながらも、元のメロディラインやハーモニーは、最初の構想がそのまま生かされている場合が多いです。ですので、録音の時点では、BPMなどが明瞭ではなかったピアノの曲が、CoHの手を通して明確なBPMとグルーブが付与されたような感じになり、結果的にはとても上品でかっこいい作品になったと思いますね。

 


4月の日本でのイヴァンとのライブは私達にとって初めての経験となります。今頑張って準備中です。セットリストはライブ用にアレンジし直していますが、基本的にアルバムの曲を再現するような形でやろうと思っています。

 

イヴァンがラップトップ(PC)、MIDIコントローラー、私がピアノを担当するという、シンプルなセットアップですが、シンプルなので、原曲のハーモニー感とリズミックなパートが実際のステージで映えて聴こえると理想的であると考えています。おそらく、2月中には、ツアーの詳細を発表できる予定です。また、京都の公演では、ロームシアターのノースホールでマルチチャンネルシステムを使用してのライブになりますので、とてもスペシャルな体験になりそうです。

 

ちなみに、ゼルケ兄弟とも、そのうち日本でライブが出来ればと考えています。こちらのセットは使用する楽器の数が多くなりそうです。CoHとのセットのように、フットワークを軽くとはいかないかもしれませんが、ロジスティック(輸送)の問題さえクリアできるならいつか実現したいですね。

 


 

【アルバム情報】Brueder Selke & Midori Hirano 『Split Scale』:  Thrill Jockeyから1月24日に発売

 




 

Tracklist:

1.Scale A
2.Scale B
3.Scale C
4.Scale D
5.Scale E
6.Scale F
7.Scale G
8.Scale AA 

 


「Scale A」

 

 

 


 

Midori Hirano & CoH 『Sudden Fruit』   マインド・トラベルズ・コレクション、Ici d'Ailleurs レーベル  2025年4月発売予定




陰で熟した果実のように、『Sudden Fruit(突然の果実)』は2人のアーティストのユニークな錬金術を表現している。


日本人ピアニストで作曲家の平野みどりと、CoHとして知られるサウンド・アーキテクトのイヴァン・パブロフ。 この2人のコラボレーションは、アコースティックとデジタルの間に宙吊りにされた作品を生み出し、自然と人工物が融合する繊細な瞬間をとらえ、まるで時間そのものが開花と消滅の間で逡巡しているかのようだ。


京都に生まれ、現在はベルリンを拠点に活動する平野みどりは、アコースティック・ピアノとエレクトロニック・テクスチャーがシームレスに融合した、ミニマルで幽玄な音楽を創作している。 坂本龍一の後期の作品(『Async』、『12』)に倣い、平野はクラシック音楽の伝統的な枠組みを探求、解体、再発明し、ピアノの一音一音を内省的で没入感のある旅へと変える。 彼女はまた、MimiCofという別名義で、よりエレクトロニックでアンビエントなテクノ/IDM志向の作品も制作している。 そのため、ミドリがイヴァン・パブロフと交わるのは、ほぼ必然的なことだった。


現在フランス在住のこのロシア人アーティストは、過去30年にわたるエクスペリメンタル・エレクトロニック・ミュージックの重要人物である。 数学と音響学のバックグラウンドを持つ元科学者のCoHは、外科的な鋭さを持つ自由な精神を持っている。 1990年代後半、前衛的で精密なポスト・テクノで頭角を現した後、グリッチに傾倒し、後に音響やアンビエント・サウンドを音の彫刻に取り入れた。 


ピーター・クリストファーソン(COIL)、コージー・ファンニ・トゥッティ、アブール・モガード(COH Meets Abul Mogard)とのコラボレーションや、ラスター・ノトーン、エディションズ・メゴといった高名なレーベルからのリリースは、アヴァンギャルドなエレクトロニック表現への彼の影響力と、コラボレーションにおける彼の卓越した能力の両方を裏付けている。


『Sudden Fruit』で、CoHと平野みどりは没入感のあるキメラ的な作品を発表した。 1曲目の「Wave to Wave」から、オーガニックとデジタルの微妙なバランス、自然の流動性、そして平野のピアノが体現する詩情と、イワン・パブロフの機械の低周波の重厚さが並置されているのが感じられる。 


アルバム3曲目の "Mirages, Memories "は、平野が奏でる一音一音が、ゆっくりとこの新しい空間に没入するよう誘う。 タイトル曲「Sudden Fruit」のように、アンビエントというよりインテリジェント・ダンス・ミュージック寄りの曲もあり、アルバムが進むにつれて、パブロフの音のテクスチャーは驚くべき物語性を発揮し、作品に思いがけない深みを与えている。


『Sudden Fruit』は、『Mind Travels』コレクションの理念と完璧に合致しており、ジャンルの枠を超え、分類にとらわれない。 調和のとれた共生の中で、平野みどりとCoHは、唯一無二でありながら普遍的なハイブリッド作品を作り上げた。 『Sudden Fruit』は大胆な音の探求であり、その領域に踏み込む勇気を持つ人々に深く共鳴することを約束する未知の領域である。

 

 

 


Midori Hirano:

 

京都出身の音楽家。ピアニスト、作曲家、シンセ奏者、そしてプロデューサーとして世界的に活躍する。現在はベルリンを拠点に活動している。”MimiCof”という別名義で作品を発表することもある。音楽的な蓄積を活かし、ドイツの電子音楽の系譜を踏まえたエレクトロニック、ポストクラシカルの系譜にある静謐なピアノ作品まで広汎な音楽を制作し発表しつづけている。 


平野みどりは、現代のデジタルサウンドをベースにし、モジュラーシンセを中心とする電子音楽、フィールドレコーディングを用いた実験的な作風で知られている。ピアノ作品としては、『Mirrors In Mirrors』(2019)、『Invisible Island』(2020)がある。ハロルド・バッドの音楽にも通じる澄んだ響きを持つ作品集。

 

2006年にデビューアルバム『LushRush』を発表。2008年、セカンドアルバム『klo:yuri』を発表し、TIME、BBC Radio、FACT Magazine(The Vinyl Factory)から称賛を受けた。2000年代後半からベルリンに拠点を移し、ドイツのシーンに関わってきた。ベルリンのレーベル、Sonic Piecesから二作のアルバム『Minor Planet』、『Invisible Island』 を発表している。


平野みどりは、ソロ名義と別名義の作品を発表する中で、音楽という枠組みにとらわれない多角的な活動を行う。ドキュメンタリー音楽や映画音楽のスコアを制作し、著名なアートレジデンスに音楽作品を提供している。


ベルリン国際映画祭、クラクフ映画祭、SXSW映画祭で上映されたダンス・パフォーマンス、ビデオ・インスタレーション、映画音楽を担当した。2024年には、第40回ワルシャワ国際映画祭で初演された長編ドキュメンタリー映画「Tokito」のスコアを手掛けたほか、プレミアリーグのドキュメンタリーのサントラも制作している。Amazonで配信されたフットボールのドイツ代表に密着したドキュメンタリーの音楽も手掛けおり、ドイツ国内では著名な音楽家と言える。

 

さらに、リミックス作品も数多く手掛けている。Rival Consoles(Erased Tapes)、Robert Koch,Foam And Sand、Liarsなどのリミックス制作し、プロデュースの手腕も高い評価を受けている。

Interview:  Kenji Kihara  アンビエント制作について語る  地域コミュニティへの還元を重視する姿勢

Kenji Kihara アーティスト様からのご提供
 

Kenji Kihara(木原 健児)は、日本のエレクトロニックプロデューサー。現在、伊豆を拠点に活動しています。アンビエント、環境音楽、BGMの制作を得意とし、ソロ名義での電子音楽を中心に発表しています。『Hayama Ambient』、『Izu Ambient』、『Soothe & Sleep』を始めとする代表作を擁する。

 

また、ソロ活動の傍ら、宮内遊里との共同プロジェクト、”BGM LAB.”に取り組んでいます。このプロジェクトでは、よりBGMに重点を置いたサウンドを追求。その他、CM音楽や館内BGMなど、他の媒体に向けて音楽を制作している。

 

今回、アンビエント制作全般について、『Izu Ambient』を始めとするシリーズ、さらにフィールドレコーディングに関して、貴重なご意見を伺うことが出来ました。 制作者は地域のコミュニティへの還元を重視し、従来のミュージシャンとは異なる概念を活動を通じて提示する。ミュージシャンが社会的にどのような存在であるべきか、彼は模範的な姿勢を示そうとしています。


 

ーーまずはじめに、アンビエントというジャンルに興味を持ったきっかけについて、お聞かせください。



キハラ・ケンジ:  きっかけは定かではないのですが、しいて言うのであれば、「Mother2」の「eight melodies」という曲が私の中のアンビエント作品として今もベースになっている気がします。(正確にはアンビエントではないと思いますが......)あとは、Aphex Twinの『Ambient Works』にはとても影響を受けました。「アンビエント」という名前を意識したきっかけだったかもしれません。


ーー「Mother」シリーズ(編注1)は、高木正勝さんも影響を受けたそうなんですが、電子音楽を制作するためのヒントのようなものが何かあるのでしょうか。


キハラ・ケンジ:  今でも「Mother」の音楽は聴くのですが、なんでこんなにも魅力的なのかよく考えます。まだ、私の中では答えが出ていないですね。



ーー木原さんの作品の中には「Hayama Ambient」というシリーズがありますね。葉山は、三浦半島の風光明媚な美しい町ですが、この土地とのつながりについて教えていただければと思います。



キハラ・ケンジ:  結婚を機に葉山に住みはじめました。現在は伊豆に居を移しましたが、今でも時々訪れています。思い出も多くとても好きな町です。そこでフィールド・レコーディングをするのがライフワークのような形になりました。



ーー全般的な作風を見た上で、木原さんのアンビエントはヒーリング・ミュージックに近い音楽性を感じますが、こういった作風に至った経緯について教えていただけますか。



キハラ・ケンジ:  アンビエント以外のジャンル全てにおいてですが、「穏やかで、心地よく、風通しの良い音楽」をコンセプトに楽曲を制作しています。心地よくいられる音楽を作っていたら、ヒーリングミュージックに近づいていったかもしれません。


ーー「ハヤマ・アンビエント」と合わせて「Soothe & Sleep」というシリーズにも取り組まれています。この作品のコンセプトや指針はどういった点にありますか。


キハラ・ケンジ:  タイトルの通り、眠る時や心を落ち着かせる時のために使う音楽を目的に制作しています。例えば、Bandcampでは、30分ほどかけて、音をゆっくりと変化させる作りになっています。心の移り変わりを感じたり、ときには、睡眠導入の一助になればと思っています。



ーー楽曲の最初のインスピレーションはどこからやってきますか。制作がどのように始まり、完成に近づいていくのか、ぜひお聞きしたいです。



キハラ・ケンジ:  自然やその時の天気だったり、身の回りの環境からインスピレーションを得ます。その時々ですが、フィールドレコーディングの音や、そのときに爪弾いたキーボードだったりギターの音などを起点とすることが多いですね。


制作に向かう時の自分の中の状態や周りの環境にあわせて、たとえば、心をゆっくり落ち着けたい時は「SOOTHE & SLEEP」シリーズのような曲、晴れて気持ちの良い時、その逆に曇りが続いて憂鬱な気分を変えたい時は、異なるアプローチから始まります。そんな形でスケッチした曲が大量にあって、ふとした時に曲が完成します。


ーーフィールド・レコーディングを行うときの楽しみについてはどうですか?


キハラ・ケンジ:  音の風景を切り取っているという感覚でしょうか。その時々、その場所に実際にあったものや事柄に思いを馳せることができるといいますか………。人それぞれ、思い思いに聴くこともできますし、「記憶」に直結している感覚。そういうのがとても面白いですね。



ーー木原さんは、これまでに、ご自身のプロジェクトの作曲のほか、CM制作や館内BGMも手掛けていらっしゃいます。映像音楽や環境音楽を制作する上でどのような点を重視していますか?



キハラ・ケンジ:  なるべく、こういう風に聴いて欲しい。といったような自分の想いは入れないよう心掛けています。



ーーほかにも、宮内優里さんとのプロジェクト「Music Lab」の活動に取り組んでいらっしゃいます。このプロジェクトを始めた理由は何でしょう?



キハラ・ケンジ:  ”BGM LAB.”は、BGM(背景音楽)のための音楽研究室として2016年から活動しています。


日常のBGMが、いわゆる普段聴いているような「聴くため」の音楽ではなく、例えば、お香を焚き、その場の空間が少し変わるような、道具としての音楽をつくれたらということで始まりました。日常をより日常として充実させる手助けが出来る道具として、”BGM LAB.”はそんな音楽を目指しています。



ーー直近では「Izu Ambient(イズ・アンビエント)」もリリースされました。この曲には、波の音、鳥の声のフィールド・レコーディングが入っていて、かなり癒されました。この作品について、くわしく教えていただけますか。日本の名所シリーズは今後も続けていく感じでしょうか?



キハラ・ケンジ:  フィールド・レコーディングは、特別ではない日々の営みの音を切り取る、そんな感覚が好きで日々の記録としておこなっています。(ちょっとした趣味みたいなものです)
  

私は、海や山といった自然に近い場所に住んでいるのですが、その自然やそこで暮らす生き物などの営みに日々インスピレーションを受けて楽曲制作することが多いです。そこから受けたものを、どうにかしてその「場所」にお返しできないか、音楽を通じて何かできないか......。ということを考えていました。


いわゆる”地産地消”(編注2)といったようなものを、自分の作った音楽で表現できたらと......。そのため、シリーズの売上はすべて、伊豆でスモールビジネスを営むお店や場所などで使用しています。そして、その場所で「イズ・アンビエント」を制作することによって循環が生まれたら良いなと思っています。



今後も同じような感覚で、訪れた先でのフィールド・レコーディングを通した作品を制作する予定です。



編注1 :「Mother」: 1989年に任天堂から発売された日本のゲーム。コピーライターの糸井重里さんがゲームデザインを手がけた。オリジナル・バージョンの音楽を担当したのは、鈴木慶一さん。「Mother 2」は1994年に発売された。音楽は''たなかひろかず''さんが手掛けた。たなかさんは、その他にも、アーケード版「ドンキーコング」、「マリオブラザーズ」の音楽を手掛けている。


編注2:   地産地消:  地域生産・地域消費の略語で、地域で生産された様々な生産物や資源をその地域で消費すること。



・Bandcampのサブスクリプションはこちらから登録出来ます。ぜひアーティストの活動をご支援ください。


Interview- Passepartout Duo 



 

~  Music exists as a communicator of ideas outside of language~(音楽は言語外にあるアイデアの伝達者として存在する)  - Passepartout Duo(Nicoletta Favari)



Passepartout Duoは、ニコレッタ・ファヴァリ(イタリア)とクリストファー・サルヴィト(イタリア/アメリカ)により結成され、エレクトロ・アコースティックのテクスチャーと変幻自在のリズムから厳選されたパレットを作り上げる。2015年から世界中を旅しながら「スローミュージック」と呼ぶ創造的な楽曲を発表している。環境音楽から実験音楽まで幅広いですが、共通するのは、デュオの音楽は従来の系譜に属するものではなく、未知の体験に溢れていることです。

 

著名なアーティスト・レジデンスのゲストや文化スペースでのライブ・パフォーマンスなど、カテゴライズされる事なく活動を続ける。ウォーターミル・センター(米国)、スウォッチ・アート・ピース・ホテル(中国)、ロジャース・アート・ロフト(米国)、外国芸術家大使館(スイス)など、世界各地で多数のアーティスト・レジデンスの機会を得た。また、2023 年には「中之条ビエンナーレ」に参加、同年4月には「Daisy Holiday! 細野晴臣」に出演。2024 年には”ゆいぽーと”のアーティスト・イン・レジデンスとして来日し、東北・北海道を訪れています。

 

Passepartout Duoは、2020年のグラミー賞の最優秀ヒストリカルアルバム部門にノミネートされた『KANKYO ONGAKU』にも参加しています。2024年の夏にリリースされたイノヤマランドとのコラボレーション・アルバム『Radio Yugawara』に続き、ニューアルバム『Arogot』を11月29日にリリースする。本作は、ストックホルムのレジデンス開催中に考案され、モジュラーシンセのBuchla、Sergeとの出会いを通じて制作された。今回、デュオのメンバーでピアニスト、楽器の開発者でもあるニコレッタ・ファヴァーリに話を聞いた。

 


ーー前作『Radio Yugawara』が環境音楽を中心に構成されていたのに対し、『Argot』の作風は大きく異なります。アルバムでは、アコースティック・ピアノとアナログ・シンセによる前衛的なライブ・セッションを聴くことができました。このアルバムの制作のインスピレーションと全体的な構想について教えていただけますか?

 

Passepartout Duo(Nicoletta Favari):  私たちの活動は非常に雑食的であることを目指しているので、私たちの異なるプロジェクトが異なるスコープに分類されることは、それほど驚くことではありません。『Argot』は一種のサウンド・リサーチであり、私たちが数年間追求し、培ってきたもので、非常に原始的で高品質なサウンド・レコーディングにも努めている。


このアルバムは、『エピグラム』というタイトルの前作EPにつながるもので、ユニークなアナログ・シンセサイザーと、私たちが演奏するアコースティック楽器、アコースティック・ピアノやパーカッションを組み合わせるというアイデアなんだ。


このアルバムでは、特定の''Buchla''や''Serge''のシンセサイザーを初めて使う機会があったので、マシンのロジックやどのような音を作ることができるのかについて多くを学ぶことができた。そのおかげで、ピアノのための作曲の新しい可能性を想像するようにもなった。『ラジオ湯河原』では、イノヤマランドとの初めてのコラボレーションで何が可能かを想像していたし、他方『アルゴット』では、シンセサイザーとピアノの組み合わせで何が可能かを想像している。



ーーBuchlaやSergeなどのシンセサイザーはどのような機材ですか?普通のモジュラー・シンセサイザーとの違いはありますか?  大まかに教えてください。


Passepartout Duo(Nicoletta Favari): 現在のシンセサイザーは、何百という先代のシンセサイザーを参考にして、インターフェースや素材、機能性を決定することができますが、BuchlaやSergeにはそのような余裕はありませんでした。これらのモデルが作られた60年代や70年代には、純粋なエレクトロニック・ミュージックを作ることは可能でしたが、ミュージシャンにとって理にかなったアプローチを作るには時間と労力が必要でした。古いBuchlaやSergeのシステムで興味深いのは、これらの新しい疑問のすべてに答えようとする非常にユニークな試みだということだ。


これらのシステムは大部分がアナログであるため、非常に特殊な特性と不安定性を持っており、それが私たちの音の扱いや機械との共同作業のプロセスにとって非常に重要なのです。システムには(Buchlaタイム・ドメイン・プロセッサーのような)デジタルの要素もありますが、同様にテクノロジーの初期バージョンを探求しているため、興味深いアーティファクト(人工物)があります。



ーーレコーディングではインプロヴァイゼーション(即興性)が強調されているように感じました。どのようなサウンドを目指したのでしょうか? また、制作の中で最もエキサイティングな瞬間を挙げるとしたらそれはどんな瞬間にありましたか?


Passepartout Duo: 私たちは主に、シンセサイザーと一緒に作曲することで、シンセサイザーをそのプロセスにおけるもう1つの能動的なエージェント(代理)として扱い、独自の決定を下していくことをアルバムのプロセスとして考えていました。


これはマシンとのインタビュー(対話)のようなもので、パッチ(データやモジュール)を設定し、音符のセットを確立することで、いくつかの質問を投げかけます。マシンは、私たちが完全に予測できず、時には理解できないような答えを返してくる。これによって、レコーディング時に私たちが反応する会話が生まれ、すべての音響パートは、そうした音楽的会話から派生したものなのです。


実は、ピアノ・パートは、シンセサイザー・パートからトランスクリプション(曲ないしは音を譜面に起こすこと(記譜のこと)によって抽出されたコンポジションです。私たちは、シンセサイザーの音の最もメロディアスでハーモニックな要素を際立たせるため、主にユニゾンのテクスチャーに焦点を当てたいと思い、聴こえたものをできるだけ正確に記譜し、また、興味深い予測不可能な結果を生み出すことができるトランスクリプション・ソフトウェアも活用しました。


この2番目のステップによって、私たちの耳は、次に録音するアコースティック楽器のパートで、より精巧にしたり、より装飾的にしたりするような、作品のさまざまな方向性を聴き取ることができました。さらにフルート、コントラバス、弦楽四重奏など、ゲスト・ミュージシャンがさまざまなトラックに参加したことで、即興の世界がより鮮明になりました!  


まず第一に、私たちは彼ら全員を素晴らしいミュージシャンと見ていますので、完全な信頼を置いて決断しました。そして第二に、これらのトラックがまったく新しい次元で生き返ったのを聴くのは本当に信じられないことでした。


ーーこのアルバムでは、日本人の打楽器奏者の住吉さんが和笛を吹いています。彼をコラボレーターに選んだ理由はなぜでしょうか?


Passepartout Duo: 今年の初め、私たちはアーティスト・イン・レジデンスとして新潟で数カ月を過ごしました。思いつきの旅行で佐渡の鼓童村を訪ねたのですが、裕太はとても素晴らしいホストとして私たちを迎え入れてくれました。


彼はまた、自身の0onプロジェクトや、音楽レーベル、自身の音楽、そしてレコーディングのセットアップについて少しだけ話してくれた。

 

その後すぐに、新潟での小さなライブ・セットで即興演奏をする機会があったのですが、裕太がいかに簡単にプロジェクトに飛び込み、彼自身のユニークな声をシームレスに織り交ぜることができるのかと、信じられませんでした。ですから、私たちは、一緒に仕事をする機会を与えてくれたことに感謝していますし、このような寛大な心の持ち主に出会えたことに感謝しています。


『Argot』のためにコラボレーターに声をかけることを決めたとき、私たちはフルートが興味深いレイヤーを加えてくれるだろうとも考えました。フルートのフレージングは言語と同じように、呼吸(ブレス)の持続時間と強く結びついているからです。


ーーお二人は以前、細野晴臣さんのラジオ番組に出演されたことがあり、最後のアルバムは湯河原の温泉地でレコーディングされたそうですね。日本との関係はどのように始まりましたか? また、日本文化のどこに魅力を感じますか?


Passepartout Duo:  日本的な文化が好きな友人が、文学やさまざまな証言を通して彼女が心に描いてきた日本が、現実には存在しないことに気づくだろうから、日本には絶対に行きたくないな、と言ったことがありました。


たまたまクリスと私はここ数年のあいだ、何度も日本を旅行する機会があったけれど、その度に私たちの日本への想像は現実と出会い、そして離れている間に独自の成長を遂げ、再び現実に引き戻されたような気がしました。それはある種、興味深いダイナミックな関係を意味します。


ーー思っていたのと違った箇所もあったけれど、実体験によって、より深い理解を得たということですね。日本文化に対する見方について具体的に、どのようなときに予想外だと感じましたか?

に対する見方について。具体的に、どのようなときに「思ってい

Passepartout Duo: 地理的に日本のさまざまな地域を訪れることができ、その違いを感じることができたと思います。青森から佐渡まで、東京から京都まで、長野から徳島まで、地域によってリズムが違ったり、季節によって生活の意味合いが違ったりするのは、いつも驚きましたし新鮮でした。


ーーPassepartout Duoの音楽性を「スロー・ミュージック」と表現していますね。この音楽は「くつろげる、ゆったりとした音楽」と定義されるのでしょうか? この考えを「Argot」にも当てはめることはできますか?


Passepartout Duo:  私たちが "スロー・ミュージック "と言う場合、一般的には、構想や楽器の設計から最終的な音楽の完成に至るまで、多くの時間を要する段階からなるプロセスとしての音楽制作に対する私たちの全般的なアプローチを指しています。


実際、私たちが音楽制作をコントロールする上で、一方ではかなり具体的であるとしても、他方では、人々が私たちの音楽を聴くときの心の状態について、本当に予測することはありません。Argotでは、いくつかの曲を聴いた後の感情の状態をどう表現したらいいのか本当にわからない。私たちが音楽を聴くとき、特に興味があるのは、音楽を理解することと理解しないことの間の押し引き(境界線)なのかもしれない。私たちの考えでは、音楽は言語の外にあるアイデアの伝達者として存在し、楽曲の目的、反応、感覚を表現するのに通常の言語では不十分と感じています。しかし、私たちの側からアルゴについて確実に言えることは、「妥協のない音楽」ということです。


Argotは私たちが話していた「スローミュージック」のプロセスに入るのでしょうか?というのも、このプロジェクトは、私たちが新しい楽器を発明したり、作ったりする必要がなかったからです。また、ライブ・パフォーマンスという形式をとっていないため、聴く人それぞれが、どこでどのように聴くかによって、自分自身のリスニング体験を作り上げることになるからです。


ーーさて、お二人は頻繁に世界中を旅していらっしゃるようですね。旅先で出会った人々や文化、風景は、あなたの作品に影響を与えていますか? 旅の素晴らしさや醍醐味について教えてくださいますか。


Passepartout Duo:  私たちはこの7年間、旅を続けていますが、本当に幸運なことだと思います。この旅はまず私たちを人間として変化させましたし、そうして音楽にも浸透させている。作品を発表するために呼ばれる場所や状況が絶えず移り変わるので、私たちは常に練習方法を見直したり、新しく発見した音楽のテクニックや楽器の素材、リズムやアイデアに触発されることがよくあります。私たちは行く先々で、素晴らしいアーティストやミュージシャンに出会うだけでなく、美しいコミュニティやアーティスト・スペースの運営方法にも出会うこともある。


『Argot』に関しては、この微妙なプロセスを如実に表しています。というのも、もともとオーストリアのレジデンスでのブクラ・シンセサイザーとの出会いに触発され、スウェーデン、フランス、アメリカでのレジデンスのおかげで実現したものだし、中国や日本での旅からのインスピレーションも含まれています。もっと多くの人が旅行や旅をする機会を持てば、社会はもっと良くなると私たちは心から思っています!


ーーArgotは音楽として聴くことも、芸術作品として解釈することもできます。このアルバムに接した人たちに、どのような面白さを感じてほしいですか?


『Argot』のリスナーが、エレクトロニック・ミュージックとアコースティック・ピアノの両方に対する新しい考え方を発見できるような、新鮮なアルバムだと感じてくれることを願っています。


ーーPassepartout Duoの今後について教えてください。また、あなたにとって最も理想的な音楽と芸術の形は何ですか?


新しい旅の計画は続けていますし、新しいライブセットも現在開発中です。数ヶ月後には、ベルリンのKOMA Elektronik社と共同で製作・販売を開始した楽器、''Chromaplane''が多くの人の手元に届き、使われ始めるでしょう。自然はおそらく私たちにとって最もパワフルな音楽で芸術でもあるのです!

 

『Argot』に関するリリース情報はこちらからご覧ください。



【Episode In English】

 

The Passepartout Duo, formed by Nicoletta Favari (Italy) and Christopher Salvito (Italy/USA), create a carefully selected palette of electro-acoustic textures and mutable rhythms. Since 2015, the group has been traveling the world, presenting creative compositions they call “slow music”. The music ranges from environmental to experimental, but the common thread is that the duo's music is not part of a traditional musical lineage, but rather an experience of the unknown.


They continue to work without categorization as guests of prominent artist residencies and live performances in cultural spaces. He has had numerous artist residency opportunities around the world, including the Watermill Center (USA), Swatch Art Peace Hotel (China), Rogers Art Loft (USA), and Embassy of Foreign Artists (Switzerland). In 2023, they participated in the Nakanojo Biennale, and in April of the same year, they performed in “Daisy Holiday! Haruomi Hosono”. In 2024, they came to Japan as artists-in-residence for “Yui Port”, visiting Tohoku and Hokkaido.


The Passepartout Duo also performed on “KANKYO ONGAKU,” nominated for a 2020 Grammy Award in the Best Historical Album category, and released a collaborative album with Inoyama Land, “Radio Yugawara,” in the summer of 2024. Following this, he will release his new album “Argot” on November 29. 

 

This work was conceived during a residency in Stockholm, and was created through an encounter with modular synths "Buchla" and "Serge". We contacted with Nicoletta Favari, a member of the duo, pianist, and instruments developer.


--While the previous album "Radio Yugawara" was composed mainly of environmental music, the style of "Argot" is very different. On the album, we can hear an avant-garde live session of acoustic piano and analog synths. Can you tell us about the inspiration and general conception of the production of this album?

 

Passepartout Duo: Our practice aims to be quite omnivorous, so it is not really a surprise for us that our different projects fall into different scopes. Argot is a sort of sound research, something that we have been seeking and cultivating for a couple of years, and where we strive for very pristine and high quality sound recording too. It reconnects to our previous EP titled Epigrams, and the idea is to couple very unique analog synthesizers with the acoustic instruments we play, acoustic piano and percussion. 


In this album, we had the opportunity to use some specific Buchla and Serge synthesizers for the first time, and so we learned a lot about the logic of the machine and the kind of sound it can create. Because of this, we also started imagining new possibilities for writing for piano. Maybe what is in common between all of our work at a very basic level, is the understanding of music as the magic materialization of a possibility: in Radio Yugawara we were imagining what would be possible in a first time collaboration with Inoyama Land, and in Argot we are imagining what is possible pairing synthesizers and piano.


ーーWhat kind of equipment are synthesizers such as Buchla and Serge? Are there any differences between them and ordinary modular synthesizers?  Could you give us a general idea?


Passepartout Duo: When a synthesizer is made today, we can pull from its hundreds of predecessors to make decisions about the interface, materials, and functionality, but Buchla and Serge did not have this luxury. When a technology is new, there are no answers yet, just many questions - in the 60s and 70s when these models were made, it was possible to create pure electronic music, but creating an approach that made sense for musicians took time and effort, and so conventions were developed slowly. What is interesting about the older Buchla and Serge systems is that they are very unique attempts to answer all of these new questions.


Because the systems are largely analog, they have a very special character and instability that is very important to our treatment of the sound, and the process of collaborating with the machine. There are some digital elements to the systems (like the Buchla Time Domain Processor), but because they are similarly exploring early versions of the technology, they have interesting artifacts too.


--It seemed to me that improvisation was emphasized in the recording. What kind of sound did you aim for in this production? And if you had to name the most exciting moment in the production?


Passepartout Duo:  We mainly saw the process of the album as composing together with the synthesizer, treating the synthesizer as another active agent in the process contributing its own decisions. It was a sort of interview with the machine, where we pose some questions by setting up a patch and establishing a set of notes. The machine generates some answers back, answers that we cannot fully predict and sometimes cannot understand, even if they make sense based on the question asked. This creates a conversation that we’re reacting to when recording, and all the acoustic parts are derived from those musical conversations.


The piano parts are compositions that are extracted from the synthesizer part through transcription. We wanted to focus on primarily unison textures to highlight the most melodic and harmonic elements of the synthesizers’ sounds, notating out what we heard as accurately as we could, also making use of some transcription software that can produce interesting and unpredictable results. This second step helped our ears hear different directions the pieces could go, that we would elaborate or embellish in the acoustic instrument parts that were recorded next.


The contributions that guest musicians gave to different tracks on flutes, double bass, and string quartet live more clearly in the world of improvisation, and this was possibly the most exciting moment of the production for us! First of all, it was a step that we took with complete trust, because we see all of them as incredible musicians; and secondly, it was just incredible to hear these tracks come alive again in a completely new dimension: something that we thought we knew so well, was now sounding like we could have never imagined on our own, and this was really magical!


--On this album, Sumiyoshi-san, a Japanese drummer, plays the Japanese flute. What made you choose him as your collaborator?


Passepartout Duo:  Earlier this year we spent a couple of months as artists in residence in Niigata, and we were so lucky to meet a bunch of wonderful people involved with music. On a spontaneous trip we were taken to visit Kodo on Sado Island and Yuta hosted us as such a wonderful host. He also shared with us a bit about his 0on project, his music label, his own music, and his recording setup. 


Soon after, we had the chance to improvise during a small live set in Niigata, and it was so incredible how easily Yuta could jump into a project and seamlessly weave in his own unique voice. So we are very grateful for the chance to work together, and thankful for meeting such a generous soul! When we were deciding to reach out to collaborators for Argot, we also thought that these flutes would add an interesting layer because their phrasing is, like language, strongly connected to the duration of the breath.


--The two of you have appeared on Haruomi Hosono's radio program before, and your last album was recorded in the hot spring resort of Yugawara. How did your relationship with Japan begin? Also, what do you find favorable about Japanese culture?


Passepartout Duo:  A friend who is very fond of everything that is Japanese once told me that she would never want to visit Japan, because she would realize that the Japan she had cultivated in her mind through literature and different accounts does not exist in real life. 


It happened that Chris and I had many opportunities to travel back to Japan in the last few years, and I feel like every time our imagination of Japan meets reality and then has some time to grow on its own when we are away, and then back to reality again. That is a sort of interesting dynamic relationship.


--So you have gained a deeper understanding. Specifically, when did you find your view of Japanese culture unexpected?


Passepartout Duo: I think I was able to visit different parts of Japan geographically and feel the differences! From Aomori to Sado, from Tokyo to Kyoto, from Nagano to Tokushima, it was always surprising and refreshing to see the different rhythms in different regions and the different meanings of life in different seasons.


--You guys describe the musicality of Passepartout Duo as "slow music". Is this music defined as "relaxing, laid-back music that makes you feel at home"? Can we apply this idea to "Argot" as well?


Passepartout Duo:  When we speak of “slow music” we generally refer to our overall approach to music making as a process, made of many time-consuming phases from conception and instrument design to final fruition of the music. In fact, if from one side we are quite specific in the control that we have over the production of the music, on the other side we really don’t have predictions about the state of mind that people should have when listening to our music. 


And especially with Argot, we are really not sure how to describe the emotive state after we listen to some of the tracks. Maybe what we are particularly interested in when we listen to music is this push and pull between understanding and not understanding the music, so that in fact the act of listening is expanding our own understanding. In our view, music exists as a communicator of ideas outside of language, and we don’t feel language is normally sufficient to describe the purpose, response, and feeling of a piece. But from our side, what we can certainly tell about Argot is that it is music of no compromises.


Now, does Argot fall in the process of “slow music” that we were talking about? I think only partially, because this project did not require us to invent and build new musical instruments, and also because it does not really exist in the format of a live performance, so every listener will be curating their own listening experience depending on how and where they are listening to it.


--It seems that you two often travel around the world. Do the people, cultures, and sights you encounter on your travels have any influence on your work? Can you tell us about the beauty of travel?


Passepartout Duo:  We have been continually traveling for the past seven years, and we know we are really fortunate. This travel is first changing us as people, and in this way seeping through into the music too. Because of the shifting grounds and circumstances where we are called to present our work, we are constantly reframing our practice, and we are often inspired by newly discovered music techniques, materials for musical instruments, rhythms or ideas. 


Everywhere we go we encounter incredible artists and musicians, but also beautiful communities, and ways of running artist spaces, and the dedication of all of these people give us a lot of strength and motivation.


Argot is really a clear example of this subtle process, because it was originally inspired by our encounter with the Buchla synthesizer at a residency in Austria, it actually was made possible thanks to residencies in Sweden, France, and the US, and also includes inspiration from travels in China and Japan.


We truly think that if more people had the chance to travel or travel more often, our societies would improve!


--“Argot" can be listened to as music and interpreted as a work of art. What do you hope people who come into contact with this album will find interesting?


Passepartout Duo:  We hope that listeners of Argot will find it a refreshing album that allows them to discover new ways of thinking about both electronic music and acoustic piano, which is exactly what happened to us in the process of making it too.


--Can you tell us about the future of Passepartout Duo? Also, what is the most ideal form of music and art for you?


Passepartout Duo:  We continue to have plans for new travels, and we are developing at the moment a new live set as well, that will include some older and some newer instruments. 


In a few months many people will also start receiving and using the Chromaplane, the instrument that we have started producing and selling together with the Berlin-based company KOMA Elektronik, so we are really excited to see where that will take understanding of the instrument and of electronic music.Nature is probably the most powerful form of music and art for us!

Masayoshi Fujita(藤田正嘉)  -Erased Tapesとの出会い、最新アルバム『Migratory』について-

Masayoshi Fujita  ©Erased Tapes

自分のルーツである日本やアジアの音楽に興味がありますが、単にそれを取り入れるのではなく、自分の中で解釈し、表現していくというプロセスに重きを置いています」  -Masayoshi Fujita



 兵庫県を拠点に活動するヴィブラフォン/マリンバ奏者、藤田正嘉さんの音楽と出会ったのは、このサイトを初めてまもない2021年のことでした。以来、彼の演奏からもたらされる瞑想的な倍音の神秘性に魅せられてしまったのです。この年、私は、日本のアンビエントシーンのアーティストを宣伝したいと思い、2019年のアルバム『Stories』を拙いながらもご紹介しました。その日、私は、夕暮れの東京を歩いていて、数羽の美しい鳥が夕空の向こうに去っていくのをぼんやり眺めていました。そのイメージはなぜか今も脳裏に灼きついています。そして、最新アルバムに渡り鳥のテーマが込められているのを知った時、不思議な興味を掻き立てられた。


 藤田さんの演奏の素晴らしさを最初に見出したのは、ロンドンの実験音楽を得意とするレーベル、Erased Tapesの創設者であるロバート・ラス氏でした。ヴィブラフォンが魅力的な楽器だからという理由だけでなくて、彼の楽器の扱い方、幽玄で重層的なサウンドの描き方に、ラスさんは心から魅了されたといいます。


マサ(敬称略)は、まず最初にドラムを習い、その後、ヴィブラフォンを徹底的に練習して、ジャズやエレクトロニカに影響を受けた独自の楽曲を制作し、プレイするようになった。ヴィブラフォンのアンビエント・ベース/エレクトロニックな録音作品を''el fog''という別名義で発表するうち、藤田さんはヴィブラフォンの音色そのものに惹かれていったのだそうです。伝統的なヴィブラフォンのスタイルや奏法にこだわらず、楽器の新たな音響の可能性を探し求めて、金属片や箔などを使って演奏し始めました。その結果、生まれたフレッシュなサウンドは、楽器本来の音響性の特徴をなんら損なうことなく、ヴィブラフォンのスペクトルを敷衍させた。それ以降、アコースティック作品の作曲を始め、2013年初頭にはMasayoshi Fujita名義で初のソロアルバム『Stories』をリリースしました。


 2015年のErased Tapesからのデビュー作『Apologues』では初めてリード楽器以外の楽器、ヴァイオリン、チェロ、フルート、クラリネット、フレンチ・ホルン、アコーディオン、ピアノ、スネア・ドラムを使い、友人が演奏し、彼自身がアレンジした。ドイツの電子音楽家ヤン・イェリネクとのコラボレーションは、イギリスの雑誌『The Wire』の推薦により、世界中の実験音楽ファンから注目を浴びるようになった。


 以降も、英国のミュージックシーンと深い関わりを持ち続けた。レコード・ストア・デイ2016では、藤田と英国のエレクトロニック・プロデューサー、ガイ・アンドリュースの即興セッションをマイダ・ベイル・スタジオで収録した27分のBBC録音作品『Needle Six』を共同リリースしました。


 BBCラジオ3のレイト・ジャンクションの一環として録音されたパフォーマンスは、両者のミュージシャンの魅力を紹介し、普段の各々の準備を放棄し、斬新なアプローチを採用して展開される、予測不可能で説得力のあるサウンドを記録する、という当番組の伝統性を引き継いでいました。



 その後、2018年に高評価を得たアルバム『Book of Life』をリリースし、ヴィブラフォン・トリプティークを完成させた。ベルリンでの13年間の暮らしを経たのち、自然の中で音楽を制作したいという長年の夢を実現するため、兵庫県の香美町に転居し、スタジオを構えました。2021年5月28日、彼は続くアルバム『Bird Ambience』において未知の音楽性を示すことに成功しました。


 この作品は音楽的なアプローチに変化をもたらすことになった。これまで藤田さんは、アコースティックなソロ・レコーディング、エル・フォグという別名義のエレクトロニック・ダブ、ヤン・イェリネクら同世代のアーティストとの実験的な即興演奏を共有していましたが、この新しいアルバムにおいて、彼はこれらの異なる側面を初めて明確なビジョンにまとめ上げることに成功しました。また、彼の代表的な演奏楽器であるヴィブラフォンから、ドラム、パーカッション、シンセ、エフェクト、テープレコーダーと並んで、「マリンバ」が主役となったのです。


 先月同レーベルから発売された最新作『Migratory』には、実験音楽で活躍する二人のボーカリスト、Moor Mother、Hatis Noit、そしてスウェーデンの笙奏者であるMattias Hållstenが参加しています。前作と同じように、友人から深いインスピレーションを受けたという。タイトルは、アフリカ、東南アジア、日本の土地を旅する渡り鳥のイメージに因んでいます。彼らが下界から音楽を聴き、上空から世界を見る視点が音楽と土地の境界を曖昧にする様子を想像しています。


 音楽的にはアンビエント、ジャズが中心となり、マリンバの演奏を通して、サックス、シンセ、笙、ボーカルとどのような化学反応が起きるのかという制作者の試作の変遷を捉えられます。それはアルバムの主要な収録曲「Higurashi」、「Yodaka」をはじめとする日本語のトラックで大きく花開く。重層的で微細なハーモニクスの中には、西洋音階にはない微分音を用いるインドネシアのガムラン、日本の雅楽からのフィードバックを掴むこともできるかも知れません。



--今回のアルバム『Migratory』では「自然」というのがテーマになっているようです。あらためてお聞きしますが、具体的にどのような情景が音楽のイメージを作り上げていったのかあらためて教えていただきたいです。


Masayoshi Fujita: 僕は、何かを見て、それを直接音楽に反映したり、それをモチーフにして作曲するということはあまりないのですが、山の中の豊かな自然に囲まれて暮らし制作していることで、そこで日々自分の中に蓄積されていった景色や情景が、間接的に影響しているとは思います。あと、スタジオから見える山や木々、雲や霧に囲まれた環境で音楽を作っていて、そういった自然の中に違和感なく響く音というのを探っている気はします。


--ロンドンのレーベル、Erased Tapesからリリースを行うようになってから、およそ10年が経過しました。レーベルとの出会いや長年の付き合いについてあらためて教えていただくことは出来ますか。


Masayoshi Fujita: レーベルオーナーのロバートも一時期ベルリンに住んでいて、ちょうどその頃ニルス・フラームのライブで知り合いました。その後、アルバムが完成するたびにデモを送っていたのですが、「Apologues」のデモを気に入ってもらい、リリースする運びになりました。


Erased Tapesはロバートの人柄が色濃く反映されたレーベルで、音楽やアーティストをとても大事にしてくれますし、自由にやらせてくれます。レーベルのチームみんなが家族のような友人のような関係で、とても居心地が良いです。このレーベルに出会えて長く協働できていることを本当にありがたく思っています。


ーー昨年、お母さまを亡くされ心痛であったと思いますが、最新アルバムの音楽には、何かしら個人的な追憶や回想のような感慨が含まれているのでしょうか。


Masayoshi Fujita: 個人的な追憶や回想といったものは、あまり含まれていないかもしれませんね。間接的にはあるのかもしれませんが、どちらかというと現在進行形で自分が興味のあるテーマ、音楽をやっているという感覚です。もっというと、個人的な部分を超えたーー普遍的な部分ーーに興味があるのだと思います。


ーー藤田さんは、これまで実験音楽を数多く制作されてきました。最新アルバムは、終盤の収録曲にある、ひぐらしのフィールドレコーディングを聞くかぎり、個人的にはアジア的でありながら、日本的であるとも感じました。制作全般を通して、日本的な感性やエモーションを表現したいという思いはありましたか。


Masayoshi Fujita: 今回のアルバム制作の過程を通して、「渡り鳥」というイメージが出てきました。それは、架空の渡り鳥がアフリカからアジア、そして日本へと渡っていくようなイメージです。ここ数年、自分のルーツである日本やアジアの音楽に興味がありますが、単にそれを取り入れるのではなく、自分の中で解釈し、表現していくというプロセスに重点を置いています。今回のアルバムもその探求の一環ですね。




ーー他方、この作品には、MOOR MOTHER、Hatis Noit等、実験音楽をメインに活躍する著名なコラボレーターが参加しています。両者ともボーカルのタイプが全然異なります。作品への参加の経緯をお聞きしたいのと、この作品にどのような影響を及ぼしたのか教えていただけますか。


Masayoshi Fujita:  Moor Motherは、最初に彼女の曲にヴィブラフォンを弾いてほしいと依頼され、録音しました。その後、そのお返しに「あなたの曲に参加することもできるけど」と提案され、新曲にポエトリー・リーディングを乗せてもらうことになりました。


彼女が参加した「Our Mother’s Lights」は、当初はボーカルを入れることは想定していなかったんです。どこかアフリカからアジアを飛ぶ鳥のイメージがあったので彼女のイメージに合うんじゃないかと思い、ヴォーカルを入れていただいたところ、想像以上によくて別次元に昇華してくれました。



Hatis Noitさんとは、以前からアジアの音楽やルーツについて話していたこともあり、僕から一緒に曲を作る提案をしました。まずはスタジオ近くでヒグラシの音を録音し、彼女に送り、彼女がそれにボーカルをつけ、その上に僕がまた少し音を重ねて完成しました。二人とも声という要素でこの作品の幅を広げてくれているのと同時に、渡り鳥というテーマにも深みを与えてくれています。


ーーこのアルバムには、個人的には、ニューエイジ、アンビエント、ジャズに至るまで非常に多彩な音楽性が含まれているように感じました。とりわけ、以前の作風よりもクロスオーバー性が強まったという印象を受けました。制作者として、その点はどのようにお考えでしょうか。


Masayoshi Fujita: 前作『Bird Ambience』は、楽曲ごとに音楽性が異なり、アルバムとしての統一感に欠ける部分がありました。あの作品は、それまで自分が試みてきた様々なタイプの音楽を全て取り込んで一緒くたにするというアイデアのもと作ったので無理もないのですが、次作品はさらに方向性を絞ったものにしたいという思いがありました。今回は、アンビエントの方向性に絞りつつも、参加アーティストの影響もあり、クロスオーバーな要素も加わったと感じています。


ーーまた、その中で、個人的にはスティーヴ・ライヒの系譜にあるミニマル・ミュージックの影響も見出すことが出来ました。藤田さんにとって、ライヒはどのような存在でしょうか。また、演奏者として、この数年、どのようなプレイヤーを目指してきたのか教えていただければと思います。


Masayoshi Fujita: 正直に言うと、僕はスティーヴ・ライヒの音楽をあまり聴かないので、直接的な影響は少ないかもしれませんね。ライヒはマリンバをよく使うので、連想されることは多いですね。もちろん知識としては知っていますし、曲も色々聞いたこともありますが、あまり個人的に感銘を受けたという曲は少ないでしょう。「Music for Pieces of Wood」という作品は例外的にとても好きなんですが………。でも、僕が直接的に影響を受けたミュージシャンでライヒの音楽から影響を受けた人は多いと思うので、間接的には少なからず影響は受けているかなと思います。


また、一演奏者としては、自分にしか表現できないヴィブラフォンやマリンバの音を追求し続けたいと思っています。確固たる自分の音を持った演奏者でありたいですね。


ーー 最後に、藤田さんは、長年のベルリンの生活を終えられて、現在、関西で活動されていらっしゃるようですね。ドイツと日本の暮らしの違いであるとか、それぞれの国の魅力などについて実体験を元に教えていただけますか。また、以前と比べて日本の印象は変わりましたか。


Masayoshi Fujita: ドイツから、兵庫県の北部に移住しました。違いは多くありますが、日本はやはり自分の故郷であり、根を下ろして長く生活しながら音楽を作りたいという夢がようやく実現した感覚です。今住んでいる場所は、私にとって全く新しい土地でとても自然豊かなところでなので、日々新鮮な発見があります。


田舎暮らしには、まだ慣れない部分もありますが、ゆっくりと新しい生活を築いていっている最中です。帰国前と比べて日本の印象が変わったというよりは、もっと深く日本の自然や文化を知り、感じられるようになったと思います。なんとなく知っていると思っていたこと、想像していたことが具体的に見えてきて、さらに奥深い魅力も発見していっているという感じでしょうか。

 

 

◾️アルバム情報  Masayoshi Fujita 『Migratory』 - Erased Tapes


Tracklist:

Tower of Cloud
Pale Purple
Blue Rock Thrush
Our Mother's Lights (feat. Moor Mother)
Desonata
Ocean Flow
Distant Planet
In a Sunny Meadow
Higurashi (feat. Hatis Noit)
Valley
Yodaka

 

Listen/Purchase: https://idol-io.ffm.to/Migratory

Lawns  ベルリンのポストパンクバンドの出発  世界の深刻さをはねのける力

Lawns via Fatcat
 


デビューバンドといえば、一般的には十代後半の若者が集まって、面白くてワクワクするような計画を始めることをイメージする人が多いかも知れない。この場合は、まだ自分が何者であるかわからない中で、自分のやるべきことをがむしゃらに暗中模索していくのが常である。しかし、ベルリンのポストハードコアバンド、Lawnsはその一般的な事例に当てはまらないかもしれない。 この三人組は、社会的な経験を積んできた中で、あえて「バンド」という一見無謀にも思える選択肢を選んだ。Lawnsの歴史は、2021年のCovid-19の時期に始まった。ロックダウン等、社会的な移動が制限される中で、彼らの活動はシークレットにしておく必要があった。

 

おそらく、勘の鋭いリスナーは、このエピソードとLawnsの音楽性に深い関係があることを察知するかも知れない。Lawnsの音楽には、社会的な常識やコモンセンスをはねのける力がある。彼らの音楽はノイズや不協和音の限界に迫ることがあるが、それはちょっとしたユーモアで包み込まれている。世界がシリアスになっていく中で、こういったウィットやユーモアのある音楽に従事することは、一般的な労働や気晴らしをするよりも、遥かに重要な意味を持つ場合がある。

 

そして実際的に、Lawnsのデビューアルバム「Be A Better Man」は、そういった現実の中にある深刻さを吹き飛ばすような楽しさに溢れている。彼らの音楽には、ノイズロック、パブロック、サーフロック、ロカビリー、ポストハードコアなど、無数の多彩な音楽のエッセンスが散りばめられている。そして、ベルリンのアンダーグラウンドの匂いがほのかに匂い立つことがある。

 

しかし、アンダーグラウンドの雰囲気というのは、そう簡単に醸し出せるものではない。音楽を一般的に普及させていく過程で、誰もが主流の音楽に影響を受けざるを得ないし、それらの一般化の波に飲み込まれてしまう場合がある。すると、ドイツの実験音楽にかこつけて言えば、Einsturzende Neubauntenのようなアンダーグラウンドの空気感を放棄してしまう結果にもなり得る。


その反面、Lawnsにとって幸運だったのは、彼らのプロジェクトがパンデミックの風潮に隠れて立ち上げられたことだ。これにより、一般的な音楽に感化されることなく、自分たちの音楽に専念し、磨き上げることが出来た。そして、そのことがベルリンの三人組の音楽に強固な力をもたらし、他の領域では得られないようなエフェクティヴなサウンドを形成することになった。

 

今回、ベルリンのLawnsのボーカリストのベンさんに、バンドの出発、どのように活動を軌道に乗せていったのか、デビューアルバムの制作について、Fugaziからの影響について教えていただくことが出来ました。Lawnsのレボリューション・サマーの時代を彷彿とさせる鮮烈なパンクサウンドは、今後、同地のミュージック・シーンでも名物的な存在になっていくかもしれません。

 

 


ーーまず、LAWNSの略歴を教えてくださいませんか。 結成秘話等はありますか?


読者の皆さん、こんにちは!!  LAWNSでギター、バリトンギター、ボーカルを担当しているベンです。もう一人のジョー(ギター、ヴォーカル、バリトン)とは昔、2006年にロンドンで知り合ったんだ!!  僕は彼の元パートナーでバンドメイトのメルと一緒に仕事をしたことがあったんだ。彼らは「Chapter 24」というバンドで一緒に演奏していた。2016年に彼がベルリンに移る以前、ジョーはリスボンに、そして、僕はベルリンに移った。僕たちは後になって再会し、”エイブル・ボディーズ”というバンドを始めたんだけど、このプロジェクトはあまり上手くいかなかった。そのバンドを解散して、新しいプロジェクトを始めようと思ったんだ。

 
それで、ドラマーのオーディションを始めたんだけど、あまり上手くいかなかった。ポルトガルのリスボンに住む友人のロドリゴが(偶然にも!)、トビアスと連絡を取ることを勧めてくれた。彼らは”Golden Hours”というプロジェクトで一緒に演奏していた。コーヒーを飲んで意気投合し、スタジオに入って曲を書くことに決めた!! 

 

その後、驚くほどたくさんの曲をあっという間に書き上げることができた。そこからデビューEP『Fine』をリリースし、ベルリンでギグを始めた。ほとんどがDIYショーで、野外で、最初は本当に何でもやった。これは2021年のことで、ちょうどCOVIDの大流行の真っ只中だった。


僕たちはベルリンのシーンで良い名前を築き上げ、街の外でも少し演奏するようになった。そこからレーベルの”FatCat Records”(イギリス、ブライトン)と連絡を取り、シングルを何枚か出し、最終的にはアルバムを出すことになった。2024年9月にアルバムを出す前に、2023年にヨーロッパとイギリスで2週間のツアーを行った。2025年もツアーを続け、次のアルバムを作る予定だ。

 

・・・秘話? ちょうどパンデミックの真っ最中に最初のEPを書いたから当初はこのことを秘密にしておく必要があったんだ!



ーー先月、デビュー・アルバム『Be A Better Man』が発売されました。タイトルの由来を教えてください。このアルバムを聴く際に、リスナーにはどんな点に注目してほしいですか?



Lawns: これは「Eggshells」(デビューアルバムの9曲目に収録)という曲の歌詞から来ています。

 

”Try to be a better man, try to do the best you can"(もっといい男になろう、できる限りのことをしよう)。まあ、本当にその通りなんだけど、この曲は、より広い意味が込められていて、できることならもっといい人間、もっといい男になろうということを歌っているんだ。

 

このアルバムの多くは、男性らしさ、メンタルヘルス、人間関係など、関連するテーマを探求している。私にとって歌詞を書くことは、カタルシスをもたらすものであり、『LAWNS』の歌詞では極めてオープンであろうとした。どんな作詞家もそうであるように、私たちの歌詞を聴いて、何か共感できるものを見つけてほしいし、聴く人の気持ちを楽にしてくれることを願っているよ!!

 


--Lawnsには、Gang Of Fourのドラマー、Tobias Humble(トビアス・ハンブル)が在籍しています。彼のドラミングのどこが素晴らしいと思いますか?

 

Lawns:  トビアスは、これまでいろいろなプロジェクトで経験を積んで来たからね。ツアーやレコーディングの経験も豊富なんだ。パンク/インディーの世界では、GoFが最も知名度が高く、称賛を浴びていると思う。彼はとても多才で、とても音楽的なドラマーだと思う。実際に作曲もできる!

 

個人的には、これほど多才で、創作プロセスに関わってくれるドラマーと一緒に曲を書いたことはなかった。多くのドラマーがそうであるように、トビアスは曲を単なるビートとしてではなく、「バンド全体のピース」として捉えている。個人的には彼のドラムプレイが大好きだよ。彼は素晴らしいエネルギーを持っていて、常に曲のためにプレイしている。でも、私が一番好ましく思うのは、彼の自由な即興演奏の能力なんだ。


 

ーーLawnsは、Jesus Lizard、Fugazi、Shellac等から強い影響を受けたと聞いています。具体的には、彼らのどのようなDNAを受け継いでいるとお考えですか?


まあ、僕らのことを聞いてみると、それらのバンドを思い出すって言われるし、僕らも一度か二度、それらのバンドが好きだって言ったかな!?
 

ただ、ひとつ付け加えておくと、バンドサウンド全体に大きな影響を与えたとは思っていない。この3つのバンドは、個人的にはギターの弾き方に大きな影響を与えたのは間違いない。歌い方に関してはそれほどでもないけどね......。

 

それでも、僕らのトレブリーでカッティングの効いたギターサウンド、音楽における空間の使い方、ヴォーカルの歌い方、静かさと大きさのダイナミクスについては、これらのバンドから何かを学びとったのは確かと思う。また、Fugaziがパンクの青写真をどのように取り入れ、あらゆる方向に進んでいったかという点で、私はとても刺激を受けた。

 

三つのバンドの中では、シェラックが一番影響を受けていないかな。でも、みんなあのバンドが好きなんだよね。

 


ーーベルリンのライブシーンで話題になっているようですが? ギグにはどれくらいの観客が集まりますか? また、ライブをする上で、あなたたちが最も大切にしていることは? 


Lawns:みんなが僕たちを、”良い、エキサイティングな、そして何よりもタイトなライブバンド”として評価してくれているようで嬉しい。ここ数年ベルリンを中心に活動してきて、同地でも良いお客さんを呼べるようになったと思う。

 

例えば、先日のアルバム発売記念ギグでは、100人以上の観客を集めました。これは、大したことないように聞こえるかもしれないけれど、僕らにとってはすごく大きなことなんだ! 私たちは、タイトなライブ・パフォーマンスをすること、みんなを踊らせること、みんなを笑顔にすることを大切にしてます。また、新しい人たち、新しいバンド、プロモーターに会うのも素晴らしい。




ーー最後に、デビューアルバムのレコーディングで最も印象的な思い出を挙げるとしたら何でしょうか?



 Lawns: デビューアルバムは2回に分けてレコーディングしたので、とても興味深い内容になっているだろうと思います。75%は2022年に、最後の4分の1は23年に録音しました。古い曲はもともと、EPにする予定だったんだけど、ファット・キャットからアルバム1枚にするようにって言われたんだ! 


2023年に書いてレコーディングした曲の方がずっと好きだ! よりダイナミックで、よりメロディアスで、より複雑で、より成熟していると思う。だから、2023年4月にこれらの曲をやったのは本当にいい思い出になった。僕の記憶では、レコーディングは簡単で、すぐに素晴らしい音になったよ!!

 

 

 

■ Episode In English  

 

-The departure of a Berlin post-hardcore band.  The power to splash out the seriousness of the world.-

 

When people think of a debut band, they may generally think of a group of young people in their late teens getting together and starting an interesting and exciting project. In this case, they are usually groping in the dark, struggling to figure out what they are supposed to do, while not yet knowing who they are. Berlin post-hardcore band Lawns, however, may not be a common case in point. The trio dared to take the seemingly foolhardy option of ‘band’ in the midst of their social experience: the history of Lawns began during the Covid-19 period in 2021. With lockdowns and other restrictions on social mobility, their activities had to be kept secret.

Perhaps intuitive listeners may detect a deep connection between this episode and Lawns‘ musicality: Lawns’ music has the power to defy social conventions and common sense. Their music can push the boundaries of noise and dissonance, but it is wrapped up in a bit of humour. As the world becomes more serious, engaging with this kind of wit and humour in music can be far more important than general labour and distraction.



And practically speaking, Lawns' debut album “Be A Better Man” is full of the kind of fun that blows away the seriousness of such realities. Their music is sprinkled with the essence of a myriad of diverse musical influences, including noise rock, pub rock, surf rock, rockabilly and post-hardcore. And there is sometimes a faint whiff of Berlin's underground.



However, an underground atmosphere is not something that can be created so easily. In the process of popularising music, everyone has to be influenced by mainstream music and can be swallowed up by those waves of generalisation. This can then result in the abandonment of an underground atmosphere such as that of Einsturzende Neubaunten, to put it in terms of German experimental music. On the other hand, fortunately for Lawns, their project was launched under the cover of a pandemic climate. This allowed them to concentrate on and refine their music without being desensitised by the prevailing music. And this has given the trio's music a solid strength, forming an ethereal sound that cannot be found in any other sphere.



We were able to talk to Berlin's Lawns member Ben about the band's beginnings, how they got their act off the ground, the making of their debut album, and their influences from Fugazi. reminiscent of Lawns‘ Revolutionary Summer days, Lawns’ intense Their punk sound may well become a household name in the local music scene in the future.



--Can you give us a brief biography of LAWNS?  Do you have any secret stories about the formation of the group?


Lawns(Ben):  Hi readers! I'm Ben and I play guitar, baritone guitar and sing in Lawns. I met Joe (guitar, vocals, baritone) a long time ago in London when we were around 20/21, in 2006! I worked with his ex-partner and bandmate, Mel, who's a good friend of mine. They played together in a band called Chapter 24. Joe moved to Lisbon and me to Berlin, before he moved to Berlin in 2016. We reconnected and started a band called Able Bodies, but that never really did much. We dissolved that band and wanted to start a new project. 


So we started auditioning drummers but didn't really have much success. A friend of mine, Rodrigo, who lives in Lisbon (coincidentally!) recommended we get in touch with Tobias. They play together in a project called Golden Hours. We met up for a coffee, got on well, decided to get into a room to write some music, and the chemistry was really instant! We were able to write a surprising amount of music really fast. From there we put out our debut EP "Fine" and started gigging in Berlin. Mostly DIY shows, outdoor, anything really. This was in 2021 right in the middle of the COVID pandemic.


We built up a good name in the Berlin scene and also started to play outside of the city a bit. From there we got in touch with our label FatCat Records (Brighton, UK) who agreed to put out some singles and eventually an album. We did a two-week tour in Europe and the UK in 2023 before putting the album out in September 2024. We now plan to continue touring in 2025 and write another record. 


Secret stories? Well, we actually wrote the first EP and started jamming twice a week right in the middle of the pandemic when it was technically 'illegal' to do that in Berlin. So we had to keep it a bit of a secret at first!


--What is the origin of the title of your debut album "Be A Better Man"? What would you like listeners to look out for when listening to this album?


Lawns: This comes from a lyric in the song Eggshells: "Try to be a better man, try to do the best you can." Well, really it's quite as it says, the song is just about being a better human being, a better man, if you can. Much of the record explores related themes: themes of masculinity, issues with mental health, relationships and so on. Writing lyrics for me is definitely very cathartic and I tried to be extremely open in my lyrics for Lawns. I would like people to listen to our lyrics - like any lyric writer does - and hopefully find something relatable in them, and hopefully they can make the listener feel better!


--Lawns has a drummer from "Gang of Four", Tobias Humble. What do you think makes his drumming so great?


Lawns:  Tobias has a lot of experience with many different projects. Lots of touring and recording experience. I guess GoF is the most visible and well-known and carries the most kudos in the punk/indie world. I think he's a very versatile, very musical drummer, who's able to actually write music! Personally, I had never really written with a drummer who was so well-rounded and involved in the creative process. I think his experience in all these different projects has made him into that kind of drummer: he really hears songs as full band pieces, not just beats, like so many drummers do. Personally I like the way he plays drums, he has great energy and always plays for the song. But it's his ability to freely improvise that I like the most. 


--I hear that Lawns was strongly influenced by Jesus Lizard, Fugazi, and Shellac. Specifically, what DNA do you guys think you inherited from them?


Lawns:  Well, people often say we remind them of those bands and I guess we did say we liked those bands once or twice, haha! I don't think they're a HUGE influence on the band as a whole. All three bands were definitely a big influence on me, personally, in how I play guitar. Less so in how I sing. But I think our trebly, cutting guitar sound, the space in our music, the vocal delivery and quiet/loud dynamics took something from those bands. Also in how Fugazi took a punk blueprint and really just went in all kinds of directions with it, that was very inspiring to me. I think of those three bands, Shellac is probably the least influential on us. But we all like that band. 


--You seem to be the talk of the town in Berlin's live scene? How big of a crowd do you get at your gigs? What do you guys value most when it comes to playing gigs? 


Lawns: I'm glad that people seem to value us as a good, exciting and maybe above all things, a tight live band. I think we can pull a good crowd in Berlin after working here for a few years. At our recent album launch gig ,we pulled well over 100. Maybe that doesn't sound a lot, but it was a big deal for us, especially since we really started from zero and never had much help! I think we value putting on a tight live performance, getting people to dance and making people smile. We also love meeting new people, new bands and promoters. 


--If you had to pick your most memorable memory from the recording of your debut album, what would it be?


Lawns: Well, it's interesting because we recorded the album in two parts. 75% of it in 2022 and the last quarter in '23. The older songs were originally going to be an EP, but FatCat told us to do a whole album! The songs we wrote and recorded in 2023, I much prefer! I think they're a lot more dynamic, a lot more melodic, more complex and a lot more mature. So going in to do those songs in April 2023 was a really nice memory. They were - as I remember - easy to record and sounded good pretty much straight away! 

 

 

 

Lawns  『Be A Better Man』/ Fatcat  - Now On Sale!!


 

1 I Remember

2 Misinterpretations

3 Bottled Up

4 Best

5 Interlude

6 Surf

7 16

8 The Worrier

9 Eggshells

10 You

11 Friends 


Listen/Purchase(International):  https://fatcat.lnk.to/lawns-beabetterman

 


「16」

◆ MOULD  Bristol up-and-comer explains about making debut EP   -ブリストルの新進気鋭  デビューEPの制作について語る-

 



2023年、イギリス・ブリストルからフレッシュなパンクバンドがインディペンデント・レーベル''Nice Swan''から登場した。Stiff Little Fingersのような荒削りなリフ、エンジン全開で疾走するような爽快感、現代的なポストパンク/マスロックの複雑なリズム、さらには、Green Dayのようなメロディアスな要素を兼ね備えたバンドだ。まだ洗練されていないものの、今後の活躍がとても楽しみな3人組だ。


MOULD(モールド)は、ジェームズ、ジョー、ケインの3人で構成され、以前はそれぞれ別のバンドに在籍していたという。Mouldは最初の出発点であると共に現時点の彼らの''結果''でもあるのかもしれない。昨年末、デビューシングル「Birdsong」をリリースし、瞬く間に注目株の仲間入りを果たした。現在、メンバーのうちひとりはロンドンに、そして残りの2人はブリストルにいる。


バンドはシングル「Cable」、「Glow」の発表後、デビューEP『MOULD』をリリースした。ハードコアパンクやオルトロック、エモなど、彼らの音楽にはパンクに対する普遍的な愛が凝縮されている。


EPのリリース後、イギリスの気鋭のメディア、DORKでは特集が組まれたほか、続いて、彼らの楽曲はBBC 6 Musicでオンエアされた。コアな音楽ファンの興味を惹きつけることに成功している。


今回、彼らにコンタクトを取ったのは、今後どういったバンドになるかわからないところに期待し、現代のどのバンドにも似て非なるオリジナル性の高いサウンドに魅力されたからである。


フランス・パリでのライブを目前に、最も注目すべきパンクトリオの近況やデビューEPの制作について、メンバーにお話を簡単に伺いました。Q&Aのエピソードは下記よりお読み下さい。



ーー最近、あなた方は活動拠点をブリストルからロンドンに移したそうですね。最近の生活はいかがでしょうか?


Mould:  うん。ジェームズは、今ロンドンに住んでいて、ジョーと僕(ケイン)はブリストルにいる。今のところギグが目白押しでなかなか忙しくてね。とにかくEPをリリースできてとても満足しているよ。

 


ーー2023年末に 「Birdsong」でデビューし、今年8月に記念すべきデビューEP 『Mould』をリリースしました。このEPであなたがたが最も表現したかったことは何ですか?  また、どのようなサウンドを目指しましたか?


うーん。実は、特に特定の「サウンド」を追求したわけではなかったんだ。『Mould』に至るまで、実は僕たちは一緒に数々のバンドをやってきたのだから、それがようやくひとつの結果になったという感じかもしれない。僕たちは3人とも同じ音楽に影響を受けていて、音楽的な影響はかなり多岐にわたっている。それを共有しようとした感じなんだ。「注意力の足りない人向け」というキャッチフレーズをどこかで見た覚えがあるんだけど、まさしくそれが僕らの正体でもあるのさ。

 


ーーデビューEP『MOULD』のレコーディングはどうでしたか? 印象的な瞬間はありましたか??


Mould : EPのレコーディングは本当に楽しかった。ハイライトは、ロンドンのスタジオでハッリ・チェンバースと『Glow』をレコーディングしたことかな。EPの最後に収録されていて、4曲の中で一番気に入っている。ハリーとのレコーディングは最高だった!! 大きな屋上で演奏できたし、角を曲がったところにあるカフェでは巨大なオムレツが食べられたしね。理想的だったよ!!


ーーMOULDの曲作りの秘密をこっそり教えてもらえますか? 曲作りがどのように始まり、洗練されていくのか、そのプロセスについて知りたいです。


Mould: うーん、本当に曲によって変わるからなんとも言いがたい。僕(ジョー)がアイデアを持ってリハーサルに持ち込んで、それを一緒に曲にしていくこともある。

 

または、完成間近の曲を持ち込んで、皆で仕上げをしていくこともある。例えば、『Cables』は私が書いて、かなり完成された状態で持ち込んだ曲だし、『Glow』はケインのベースラインから始まった曲で、フル・ソングになるまで一緒に作業したんだ。


だから、曲作りには特定のやり方はなくて、何が上手くいくかをじっくり見ていくだけなんだ。僕たちはとてもラッキーなことに、一緒に部屋で音楽を演奏したりすることが大好きなんだ。リハーサルではたいてい、新しいアイデアのボイスノートが詰まった携帯電話を何台も持って出てくるよ。

 


ーーデビューEPを聴くと、現時点のMOULDのサウンドは、パンクからオルタナティヴロックまで、すべてを網羅しているように感じられました。普段皆さんはどんな音楽を聴いているのか教えていただけますか?


そうだね。パンク系(パンク、ハードコア、ポストパンク、ポストハードコア、マスロック、ポップパンクなど)が多いけど、結構何でも聴くよ。今はヒップホップとブラジリアンソウルを聴くことが多いかなあ。

 


ーーさて、デビューEP『MOULD』のリリース後、あなたたちはイギリスのメディアで取り上げられるなど、少なからず注目を集めるようになりましたね。将来、どんなバンドになりたいか、今後のビジョンはありますか?


たくさんのアルバムを出して、ゆくゆくはジャパン・ツアーをするようなバンドになれたらいいと思っているよ! 新曲も山ほどあるし、早く次の作品をリリースしたくてウズウズしているところさ!!

 

OUTSIDE/INSIDE SESSIONS

 


MOULD 『MOULD』EP      Now On Sale!!

  



Label: NICE SWAN

Release: 2024年8月2日

 

Tracklist:

 

1.Cabel

2.The Space You Take Up

3.Bird Song

4.Glow



 

◆Episode In English

 

 In 2023, a fresh punk band from Bristol emerged from ‘’Nice Swan‘’. The band ”MOULD” combines the rough-hewn riffs of Stiff Little Fingers and the exhilaration of a engine running at full throttle, the complex rhythms of modern post-punk/math rock, and the melodic elements of Green Day. This is a three-piece with a very promising future.


MOULD may be both a starting point and the result of the moment. After releasing their debut single ‘Birdsong’ late last year, they quickly became one of the hottest names in the game. Currently, one of the members is in London and the other two in Bristol.


The band released their debut EP, 『MOULD』, after the release of the singles ‘Cable’ and ‘Glow’. Their music is filled with a universal love of punk, including hardcore punk, alt-rock and emo.


Following the EP's release, the band were featured in the UK media DORK, and their music was subsequently aired on BBC Radio 6. They have succeeded in attracting the interest of core music fans.


We contacted them this time because we had high hopes for what the band would become and were attracted by their highly original sound, which is unlike any other band of the modern era.


Ahead of their upcoming live show in France/Paris, we were able to speak briefly to the band members about the most notable Punk Trio's recent developments and the making of their debut EP.

 

Please read the Q&A episode below.




--I understand that you have recently moved your base of operations from Bristol to London. How is life these days?


Mould:  We’re actually a hybrid of Bristol and London at the moment, James is living in London whilst Joe and I (Kane) are nestled away in Bristol. 

Life is grand, we’re busy boys at the moment with plenty of gigs on the horizon, and chuffed with the EP being out in the wilderness. 

 


--You debuted late last year with the release of "Birdsong", followed by your debut EP "Mould". What did you want to express with this EP? And what kind of sound did you aim for?


Mould: We didn’t go for a ‘sound’ particularly, we’ve been in many bands together leading up to Mould, It’s very much us, playing what we like at each other. We share the same influences and they’re pretty eclectic, we love a concise punky tune.. “for the short attention spanned” I’ve seen written somewhere. That we are. 

 


--How was the recording of your debut EP? Were there any memorable moments?


Mould: We had a great time recording the EP, the highlight would probably be recording Glow with Harri Chambers at his studio in London. It was the final one we did for the EP and it's our collective favourite of the four. We had the best time recording it with Harri - was a big fun day, big rooftop for us to play on and gigantic omelettes from the caf round the corner. Ideal. 



--Can you give us a sneak peek into MOULD's songwriting secrets? I would like to know about the process of how songwriting begins and is refined.


Mould: It changes song to song really. Sometimes I'll (Joe) have an idea and will bring it to rehearsal and we'll turn it into a full song together. Sometimes I might bring in a nearly finished song and we'll just work it out together/put the finishing touches to it. For example, Cables was one I wrote and brought in pretty fully formed and Glow was one that started with Kane's bassline and we worked on it together until we had a full song. 


So no set method really, we just see what works - we're quite lucky in that being in a room together playing music, or otherwise is our favourite thing to do and we usually manage to come out of a rehearsal with a few phones full of voice notes of new ideas.

 


--From listening to the debut EP, it seems that MOULD's sound currently encompasses everything from punk to alternative rock. Can you tell us what kind of music you usually listen to?


Mould: Yeah there's a lot of punk stuff (punk, hardcore, post punk, post hardcore, math rock pop punk all that stuff etc) but we'll listen to absolutely everything. Lots of hip hop and Brazilian soul at the moment. 

 


-- After the release of your debut EP, you guys got a lot of attention, including being featured in the UK media. Do you have any vision of what kind of band you would like to become in the future?


Mould: Hopefully one that puts out lots of albums and gets to tour Japan! We've got stacks of new music on the way, can't wait to start pumping it out.

【Interview】 Peel Dream Magazine   ~ジョセフ・スティーヴンスが新作アルバムを解説  「ミディアム・ファイ+ 」からの卒業~

Peel Dream Magazine

 

 

LAを拠点に活動するPeel Dream Magazineは、米国のポップミュージックに新たな意義をもたらす。グループは、Topshelf Recordsと契約を結び、ニューアルバムの制作に着手した。現在、PDMは西海岸を拠点に活動をしているが、シンガーソングライターでグループの支柱的な存在であるジョセフ・スティーヴンスさんは、ニューヨークのセントラルパークにほど近い地域で育ったという。

 

ニューアルバム『Rose Main Reading Room』では、前作とは対象的に「ニューヨーク的な作風になった」とスティーヴンスは説明する。本作にはNYの都市の洗練性や歴史的な文化性が反映されているほか、ウォーホールのポップアートのように「音楽自体をどのように見せるべきか?」というイデアが従来のスタイルとは違うニュアンスをもたらしたことは疑いがない。

 

『Rose Main Reading Room』は発売後、世界の熱心な音楽ファンの間で少なからず注目を集めている。事実、米国のオルタナティヴ・ポップの潮流を変えてもおかしくない画期的なアルバムだ。

 

今回のQ&Aのインタビューでは、ジョセフ・スティーヴンスさんに最新アルバムを解明してもらうことが出来ました。その中では、”「ミディアム・ファイ+ 」からの卒業”というテーマが浮かび上がってきた。また、話の中では従来の「ポスト世代の音楽からの脱却」という考えも垣間見えるような気がする。日本語、英語の両方のエピソードを下記よりお読みいただくことが出来ます。

 

 

ーー9月4日に4枚目のフルアルバム『Rose Main Reading Room』が発売されました。前作から2年ぶりのアルバムですが、先行シングルを聴いたかぎりでは、見違えるように良くなっている感じがします。曲作りや制作過程で何か大きな変化はありましたか?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス):それについてはイエスでもありノーでもあるかな。レコードを出すたびに、曲作りのアプローチを少しずつ見直しているような気がするけど、今回の曲では、これまでの曲と劇的に違うアプローチは取らなかった。

 

私はたいてい自宅で1人で作曲して、実際のレコーディングの出発点となるデモを作り上げることが多いんだ。『Pad』では主にオルガンで作曲し、今回のアルバムでは主にギターで作曲した。新譜のハーモニー感覚は、ミッドセンチュリーのバロック・ポップ/ボサノヴァ的な感触が強かった『Pad』よりもずっとストレートなんだ。

 

今までのアルバムでは、すべて自宅で作業をやっていたんだけど、今作ではLA近郊のスタジオをいくつか回って特定の楽器を録音したり、ドラムや雑多なものをバレー(LAの一部)にあるドラマーのイアンの実家のガレージで生録音したりした。また、レコーディング中にオリヴィアとリアルタイムでボーカル・パートをたくさん作ったので、そうでなければ生まれなかったような自然発生的な展開もあった。


このアルバムは間違いなく、これまでで最も共同作業が多かった。それと同時に、ピール・ドリーム・マガジンのアルバムの中で最もライブ・レコーディングの音が多くなっている。テーマの多くは、これまでよりも個人的で直接的なものだった。すべてを難解なものにしたくなかった。シンプルな思い出や、ニューヨークを取り巻く温かい感情について表現したいと思ってたんだ。




American Museum of Natural History

ーーこのアルバムの主なテーマはニューヨークの歴史文化、より厳密に言えば、''アメリカ自然史博物館''のようです。 「Central Park West」のミュージックビデオもジョン・レノンが登場したり、古いセントラルパークの映像がとても印象的ですよね。この歴史的な興味やインスピレーションはどこからやって来たのでしょう? 音楽やビデオで表現したかったことは何ですか?


Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス):  実は、セントラル・パークには赤ん坊の頃から通っていたから、私にとって本当に特別な意味が込められているんだ。あの場所はニューヨークの不思議な渦に包まれているけど、同時に、私自身の人生全般にもそれは当てはまると思う。私は、かねてからニューヨークという都市が人類史上の他の大都市と肩を並べるような「古代性」を携えているのがずっと好きだったんだ。

 

現在、この施設は無料で一般に公開されていて、人々の生活を豊かにし、歴史や芸術の断片を伝えるのに役立っている。これらの施設をぼんやり眺めていると、そこには驚きがあって、民主的であり、そして、時には楽観的な気持ちになることがある。現代社会においては、芸術や文化はとても安っぽく、危ういものに思えることがあるんだけど、世界の偉大な文化の中心地を訪れることができれば、時代を超えて信頼できる形で芸術や文化に触れることができるはずさ。

 

私はいつも、驚きと洗練された楽しさに満ち溢れた人生を送りたいと思っているんだけど、ニューヨークはそのための「素晴らしい手段」でもある。ニューヨークやアメリカ自然史博物館を題材にした曲がいくつかあるんだけど、リスナーをニューヨークの小さなツアーに連れて行きたかった。『セントラル・パーク・ウェスト』は、私がニューヨークの素晴らしい文化施設のいくつかを散策している様子を一人称で描いたものです。ミュージック・ビデオでは、NYのストリートを縦横無尽に行き交う、さまざまな種類の人々という人間の大海原を伝えたいと思った。それから、ドライで楽しい方法で、この街の風変わりさと試金石を紹介したかったんだ。


 

「Central Park West」 MV



ーー今回のレコーディングでは、オリヴィアのヴォーカルが加わったことで、楽曲がより華やかな雰囲気になったように思いました。ニューアルバムに関して、彼女の最大の貢献を挙げるとしたら何でしょう??



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス) :  男性ヴォーカルと女性ヴォーカルの二重性は、シューゲイザーとイングリッシュ・トゥイーに根ざしたサウンドの中心的な要素だと思う。オリヴィアが参加してくれたおかげで、『Oblast』のような瑞々しいヴォーカル・バッキング・パートを作ることができたし、私のヴォーカル・レンジがメロディに合わない曲でも、彼女がリード・ヴォーカルを取るか、デュエットのような形で歌うことができた。彼女の最大の貢献は、その音楽性と多才さにあるだろうね。


 
ーー Peel Dream Magazineがデビューした当初、あなたはYo La Tengo(ヨ・ラ・テンゴ)のようなローファイ・スタイルのロックをやっていましたよね。2018年頃からバンドのスタイルが少しずつ変わっていきましたが、これは当時のあなたの音楽的な好みを反映したものだと考えてよろしいですか?



Peel Dream Magazine (ジョセフ・スティーヴンス):うん。そうかもしれないね。私にはまったく違う種類の音楽を作りたくなる時期があるし、自分の感覚に従って好きなものを作ることがとても重要なんだ。たとえば、最初のレコードを作ったときは、ヴェルヴェッツ(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)、ニック・ドレイク、ステレオラボ、ベル・アンド・セバスチャン、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに強い影響を受けた。

 

私が過去に作った音楽は意図的にローファイにしたわけではなく、私がホームレコーディストであるという理由によるもので、言ってみれば「ミディアムファイ」の感じの仕上がりになっていると思う。昔は自分が何をやっているのか無自覚だったんだけど、それ以来、制作についてかなり多くのことを学んだから、もはや「ミディアム・ファイ+α 」を卒業したと言えるだろうね。


 

ーー他の文化やメディアからの影響についてはどうですか? ニューエイジ思想やネイティブアメリカンの伝統主義に興味があるそうですね?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): ニューエイジやネイティブ・アメリカンについてのPDMの曲もあるから、そう思われるのはわかる。それでも、時々、私は「ヒッピーの時代精神」に少し乗っかってみたくなる時がある。そして、私に直接インスピレーションを与えてくれる文化や媒体について思いを馳せることがあるんだ。

 

例えば、あらゆる種類の芸術形態が同じようなものかもしれない。なぜなら、(アートは)私たちの音楽と同じように、実験的なテーマを無防備な人々に見せることができるポップなメディアなのだから......。そうやってアートを通して楽しい会話ができるというメリットもあると思うし。それから、私はよく歴史と政治にインスパイアされることがある(奇妙なことに......)。現在に新しい文脈を授けてくれたり、私の脳裏にあったある種の定説に挑戦してくれたりする過去の物語に刺激を受けているよ。 

 


ーーこのアルバムの制作過程で最も重要だった点は? また、3rdアルバムとの決定的な違いは何だと思いますか?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): 制作プロセスで最も重要だったのは、できるだけアコースティックの演奏に頼り、MIDIやバーチャルなものが必要ないときは、それを使用しないようにしたことだったと思う。


だから、ドラム、ピアノ、マレット楽器、木管楽器はほとんど生演奏で、もちろんギターも生演奏なんだ。クラシック・ギターも、ボッサ的なパートではなく、フォーキーなインディー・ロック的なものを選んだ。


アルバムはLAにある2つのスタジオとガレージで録音したんだ。そのすべてが、僕をベッドルームから連れ出し、ヴァーチャル・インストゥルメントの習慣から遠ざけ、自分の頭脳からも遠ざけてくれた。これは、自宅で大量のバーチャル・インストゥルメントを使って録音した『Pad』とは決定的に違う点でもある。オリヴィアのボーカルもまた、『Pad』から大きく制作をシフトチェンジさせてくれたよ。



ーーさて、バンドメンバーは現在、LAにいますか? ピール・ドリーム・マガジンの音楽にロサンゼルス的なものを探すとしたら、それは何でしょう?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): そうだね、バンドは今、間違いなくLAを拠点にしているよ。正直なところ、僕の音楽にあからさまにロサンゼルスっぽいものがあるかどうかはわからない。たぶんね!!

 

私は音楽を作るときにそういうことはあまり考えないし、世界中のさまざまな場所、さまざまな時代のさまざまな音楽シーンに愛着を感じている。

 

『Pad』は、文字通りフリンストーンズのようなミッド・センチュリーのヤシの木のようなエネルギーに満ちているから、おそらく最もLAにインスパイアされたレコードだったと思う。それでも、あのレコードを作った時、ロンドンで全部の音楽を作っていたショーン・オヘイゲンにインスパイアされたから不思議だった。『Rose Main Reading Room』は、自分にとってはロサンゼルスっぽくないかなあ。どちらかというと、かなりニューヨークっぽいかもしれない!! 

 

 

■ Peel Dream Magazine 『Rose Main Reading Room』  Launched on September 4 via Topshelf


Tracklist:

Dawn

Central Park West

Oblast

Wish You Well

Wood Paneling, Pt. 3

R.I.P. (Running In Place)

I Wasn't Made For War

Gems and Minerals

Machine Repeating

Recital

Migratory Patterns

Four Leaf Clover

Lie In The Gutter

Ocean Life

Counting Sheep





■Episode In English

 

LA-based Peel Dream Magazine brings a new concept to the idea of pop music in the United States. The group is newly signed to Topshelf Records and has begun work on a new album. PDM is currently based on the West Coast, but Joseph Stevens, songwriter and a pillar of the group, grew up in the area near Central Park in New York City.


The songwriter recalls that the previous album, “Pad,” had a Los Angeles feel, but the new album, “Rose Main Reading Room,” has a New York style. Like Andy Warhol's pop art, the theme of “how to present the music itself” has definitely brought a different nuance to this album. ''Rose Main Reading Room” has attracted the attention of avid music fans around the world, and is, in fact, a landmark album that will change the tide of alternative pop in the United States.


The songwriter recalls that their last album, “Pad,” had a Los Angeles feel to it, but with their new album, “Rose Main Reading Room,” they have tackled a New York style album. There is no doubt that the theme of “how the music itself is presented,” like Andy Warhol's pop art, brings a different nuance to this work. Rose Main Reading Room has garnered attention from avid music fans around the world, and in fact, it is a groundbreaking album that will change the tide of alternative pop in the United States.
 

In this Q&A interview, we were able to ask Joseph Stevens to elucidate his latest album. In the process, the idea of “graduating from medium-fi + alpha” emerged. Furthermore, I felt that I could catch a glimpse of the theme of “breaking away from the music of the post generation” in the conversation. You can read the episode in both Japanese and English below.



--”Rose Main Reading Room”, fourth full-length album, was released on September 4. It has been two years since your last album, but from what I have heard of the preceding singles, I feel that the album has improved as if it were different. Were there any major changes in the songwriting or production process?



Peel Dream Magazine(Joseph Stevens): Yes and no. I feel like I am always re-working my songwriting approach a bit with every record, but I didn’t take a dramatically different approach with these songs than anything I’ve done in the past. I write alone, usually at home, and build out demos that serve as starting points for the actual recordings. 


On ''Pad'' I wrote primarily on organ, and on this record I primarily wrote on guitar. The harmonic sensibility of the new record is much more straight-forward than it was on Pad, which had more of a mid-century baroque pop / bossa nova feel. On most of my previous records, I did every single thing at home, but on this one I went into a few studios around LA to record specific instruments, and we also recorded drums and miscellaneous things live at our drummer Ian’s parents’ garage in the Valley (a part of LA). 


I also worked on a lot of vocal parts in real time with Olivia when we were recording, which led to some spontaneous developments that wouldn’t have occurred otherwise. This record is definitely the most collaborative record to date, and has the most live-recorded sounds of any Peel Dream Magazine record yet. A lot of the subject matter is more personal and direct than it has been in the past. I didn’t want everything to be esoteric, I wanted to talk about some simple memories, and some warm feelings I have surrounding New York City.


--The main theme of the album seems to be the history and culture of New York City, especially the ''American Museum of Natural History.'' The music video for ''Central Park West'' also features John Lennon and impressive images of old Central Park. Where did this historical interest and inspiration come from? What did you want to express in your music and video?



Peel Dream Magazine:I’ve been going to Central Park since I was a baby, so it has a really special significance to me. It’s wrapped up in the wondrous whirlwind of New York City but it’s also wrapped up in my own life.


 I have always liked the way New York City carries an “ancient-ness” that puts it on par with other great cities throughout human history. There’s a wonderment there, and a democratizing, optimistic feeling when you see all of these institutions that are available to the public for free, helping to enrich peoples’ lives and pass along pieces of history and art. I think art and culture sometimes seem so cheap and perilous in the modern age, but when you’re able to visit these great cultural capitals of the world, you’re able to interact with art and culture in a way that feels timeless and trustworthy.


I want to lead a life that is full of wonder and sophisticated fun, and New York is a great vehicle for that sort of thing. There’s a few songs that reference New York or the American Museum of Natural History, and I wanted to take listeners through little tours of the city with them. 


Central Park West is just a first person account of me wandering through a few of the city’s great cultural institutions. With the music video, I wanted to convey this endless ocean of humanity that traverses the streets of NY - all different kinds of people - and to showcase the quirks and touchstones of the city in a dry, fun way. 



ーーThe addition of Olivia's vocals this time around seems to have given the songs a more glamorous feel. If you had to name her greatest contribution regarding the new album, what would it be?



Peel Dream Magazine: Well, I think that Peel Dream Magazine is actually best when there are more voices than just mine - and I think the male-female vocal duality is really central to the overarching sound, which is rooted in shoegaze and english twee, where male-female vocals are always a cornerstone. 


Having Olivia on the record allowed us to create these lush vocal backing parts such as on ''Oblast'', and it allowed us to include songs where my vocal range wasn’t really suited to the melody, because she could either take the lead vocal or do a duet kind of thing. Her greatest contribution is that musicality and versatility.


--When Peel Dream Magazine first debuted, you were doing lo-fi style rock like ”Yo La Tengo”. the band's style has changed a bit since around 2018, is it safe to assume that this is a reflection of your musical taste at that time?


Peel Dream Magazine:  Yea definitely. I have phases where I’m compelled to make completely different kinds of music, and it’s important to me that I just follow my nose and make what I want. When I made the first record, I was very influenced by the Velvets, Nick Drake, Stereolab, Belle and Sebastian, My Bloody Valentine, and to a lesser extent yea, Yo La Tengo. 


I would say the music I’ve made in the past hasn’t really been lo-fi by design - it’s more just that I’m a home recordist so they usually turn out kind of “medium-fi”. In the past I really had no idea what I was doing, but I’ve learned a lot about production since then, and I would say I’ve graduated to “medium- fi plus”



--What about influences from other cultures and mediums? I understand you are interested in New Age thought and Native American traditionalism?


Peel Dream Magazine:   I can see why you might think that here and there about New Age and Native American stuff from some PDM songs - but other than some historical interest and curiosity, I wouldn’t really say that’s true. Sometimes I like to play off the “hippy zeitgeist” a bit, which kind of involves those things. 


I’m trying to think of cultures and mediums that do directly inspire me, though. All kinds of art, for sure. Really good film is always inspiring because, like my music, it’s a pop medium that can be used to play out experimental themes to unsuspecting people. 


And you can have a fun conversation through art in that way. I’m really inspired by history and politics (weirdly), and I’m always inspired by stories from the past that provide new context to the present, or challenge some kind of set idea that was in my brain. 



--What was the most important aspect of the production process for this album? And what would you say are the crucial differences from your third album?


Peel Dream Magazine:  I would say the biggest aspect of the production process was trying to rely on live performances as much as possible and step away from MIDI/virtual stuff when I didn't need it. So mostly live drums, piano, mallet instruments, woodwinds, and of course live guitars. Also the choice of classical guitar - not for bossa-ish parts but more for folky indie rock kind of stuff. 


And going to a few outside places to record - two studios in LA and this garage we recorded in. All of that took me out of my bedroom, and out of my virtual instrument habits, and out of my own head. That’s all crucially different from ''Pad'', which was done completely at home and with tons of virtual instruments. Olivia’s voice also presented a big production shift away from ''Pad''.



--Are the band members in LA right now?  If you were to look for something Los Angeles-like in the music of Peel Dream Magazine, what would that be?



Peel Dream Magazine: Yea the band is definitely LA-based right now. I’m not sure if there is anything that is overtly Los Angeles-like about my music, to be honest. Maybe!!


I don’t think about that sort of thing when I make music, and I feel attached to different music scenes in different places all over the world, and from different time periods. 


''Pad'' is probably the most LA-inspired record because it literally has Flinstones-y mid-century palm tree energy - but it’s funny because I was very inspired by Sean O’Hagen when I made that record, who was making all of his music in London. ''Rose Main Reading Room'' isn’t super LA-ish to me. If anything, it's pretty New York-like!!

 

 

(INTERVIEWED:  MUSIC TRIBUNE  PRESS   2024. September 6th)