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蓮沼執太は、今月始め、今後、コンセプトを設けず、毎月一曲ずつシングルを発表していく新しいプロジェクトを立ち上げている。先週の9月23日、蓮沼はこのシングルリリースプロジェクトの一貫として「Pierrepoint」を発表しました。これは「Weather」に続く二作目のシングルとなる。

 

今回のニューシングル「Pierrepoint」は、ピアノを主体とした楽曲ですが、実験音楽/環境音楽の性格を兼ね備えています。曲の中にフィールドレコーディングが挿入されており、これが独特なアンビエンスを生み出しています。

 

 「Pierrepont」というタイトルは、蓮沼執太が数年前に住んでいたブルックリンの住所にちなんでいます。さらに彼は、「 環境音をベースにしていて、NY家のセントラルヒーティング、福島県浪江町の大堀相馬焼の陶器づくりの音、バシェ音響彫刻の音など。 自分の音の記憶を環境音で紡いだ楽曲です」と説明している。

 

『G8のプロジェクト「大堀相馬焼167のちいさな豆皿」制作で、福島県浪江町に向かった蓮沼執太は、大堀相馬焼の作業工程の録音を行った。釉薬が収縮することでひび割れが起こり、キラキラと風鈴のような貫入音が鳴ります。シンセでは作れない音』と蓮沼執太は説明しています。よく聴くと、陶器が摩擦するような涼やかな音が入っていることが確認出来るだろうと思います。


 

 




Syuta Hasunuma  「Pierrepont』 New Single

 


Label:  Syuta Hasunuma

Release Date:2022年9月23日

 

 

Download/Streaming:

 

https://virginmusic.lnk.to/pierrepont


 

©Modeling Johnson

カルフォルニア州サンノゼの実験音楽家、Kathryn Mohr(キャサリン・モーア)が、MidwifeことMadeline Johnston(マデリン・ジョンソン)がプロデュースしたEP『Holly』のリリースを発表しました。

 

7曲収録のEP作品は10月21日にFlenserからリリースされます。新曲「Stranger」の試聴は以下よりお願い致します。


MohrとJohnstonは、ニューメキシコ州でこのEPをレコーディングしたそうです。「砂漠は私を赤裸々にした」とMohrはプレスリリースで述べています。

 

「ニューメキシコの砂漠は、私の心の中の思考を静め、ロードランナーと暴風に置き換えた。

 

私は、この土地の広大さと何らかの形でつながっている、つまり遠近感を感じました。遠く離れているからこそ、安全であると感じていた」

 


 

 

キャサリン・モーアは2020年にセルフレコーディングのデビュー作『As If』をリリースしている。 

 


Katherin Mohr 『Holly』

 

 

Tracklist:


1. ____(a)

2. Stranger

3. Red

4. Holly

5. ____(b)

6. Glare Valley

7. Nin Jiom

 

©︎Katherine Squire 

 

ロサンゼルスの作曲家、claire rousay(クレア・ラウジー)がニューアルバム「wouldn't have to hurt」を9月14日にサプライズリリースしました。この三曲収録のアルバムは、彼女自身が主宰するAmerican Dreams Recordsの傘下レーベル”Mended Dreams”から発売されています。


タイトル曲は、昨日からストリーミングで公開されてますが、他の2曲は、デジタル配信の御購入者のみ視聴可能です。『wouldn't have to hurt』の試聴とアルバムの購入はこちらからお願い致します。


『wouldn't have to hurt』の売上によって生じた収益金はすべてLGBTQの若者のための世界最大の自殺防止・メンタルヘルス組織である”トレバー・プロジェクト”に寄付される予定となっています。報道資料によると、"過去に、彼女を助けてくれたリソースにお返しをするための努力"なのだそうです。


アルバムのタイトル曲は、YouTuberのマディソン・ヴァン・ダインがメンタルヘルスについて語る様子をサンプリングしている。もう1曲の「beth」は、聖書の「ベタニアのラザロ」の物語を再解釈したものだ。

 

「この話は、人生の回復やある種の "救い "を示唆している」クレア・ラウジーは説明し、「私はもはや宗教的ではないが、この話は私の心に残り、人生への異なる-しかし、重要な-応用を維持している」と語った。このレコードには、Theodore Cale Schaferがピアノとストリングスでゲスト参加しています。


 

2022年の始めに、claire rousay(クレア・ラウジー)は、『everything perfect is already here』を発表、さらに、more eazeとのコラボレーション・アルバム『Never Stop Texting Me』を発表している。その他にも、American Dreamsのアンビエント・コンピレーション『The Deep Drift You Will Find The Most Serene Of Lullabies』に楽曲を提供しています。




 

ロンドンを拠点に活動する実験音楽家Laila Sakini(ライラ・サキニ)は、マンチェスターの電子音楽レーベル"Modern Love"からニューアルバム『Paloma』を10月下旬にリリースすると発表しました。

 

ライラ・サキニは、2020年、Boomkat Editionsから『Strada』、Total Stasisから『Vivienne』という実験音楽作品を発表している。2021年には自主制作のEP『Blip In The Bungalow』をリリースしている。また、昨年、Moopieのレーベル、A Colourful Stormから、同名の別名義でセルフタイトルアルバム『Princess Diana Of Wales』をリリースしています。


この新作アルバム『Paloma』において、「絶望的な時代における希望」というアイデアを探求しており、サキニの曲は目の錯覚、反射、魔法、神秘に触れている。ピアノとリコーダーが楽曲の中心に取り入れられているのはこれまでの作品と同様ですが、他にも、様々なオーケストラ楽器、バイオリン、グロッケンシュピール、ティンバーレが導入されています。アルバムリリースの発表に伴い、先行シングル「The Light That Flickers In The Mirror」が公開されています。

 


Laila Sakiniの新作アルバム『Paloma』は10月21日にModern Loveからリリースされます。下記のアートワークとトラックリストをチェックしてみてください。

 


Lila Sakini 「Paloma」

 


 

 

Tracklist:

1. Fleur d’Oranger (Rise)
2. The Light That Flickers In The Mirror
3. The Missing Page
4. That Wave, That Line
5. Wrong Turn from Julies at 6pm
6. Paloma Expressions

 Sarah Davachi 『Two Sisters』

 


 

Label: Late Music 


Release: 2022年9月9日


 

 

Review


 カナダ出身の作曲家、オルガン演奏家のサラ・ダヴァチーは、現在、ロサンゼルスを拠点に活動している。2021年からUCLAでポピュラー音楽、現代音楽、古楽等を中心に学んでいるアーティストです。ドローンアンビエントのシーンで存在感を持つ作曲家で、パイプオルガン/リードオルガンの持続音を生かした作風という点では、スウェーデン・ストックホルムを拠点に活動するポスト・ミニマルのシーンに属する作曲家Kali Maloneが引き合いに出される場合もある。

 

 最新作『Two Sisters』はLP盤として二枚組の作品となり、サラ・ダヴァチー自身の主宰するレーベル”Late Music"からリリースされている。

 

本作には、室内アンサンブルとパイプオルガンが収録されている。他にもカリヨン(鋳鉄製のベルで構成された鍵盤楽器)、合唱、弦楽四重奏、低音の木管楽器、トロンボーンの四重奏、その他にもサイントーンや電子ドローンを中心とする様々な楽器が楽曲の中で使用される。中でも、サラ・ダヴァチーが演奏に使用するパイプ・オルガンは、1742年製のイタリア製トラッカーオルガンで、現在、このオルガンはアメリカの南西部の砂漠地帯に設置されているという。

 

 一曲目の「Hall Of Mirrors」は、アルバムの前奏曲とも呼ぶべきで、上記のカリヨンが導入されています。既存の作品において、アンビエントだけではなく、古楽/バロック的なアプローチを図ってきたサラ・ダヴァチーらしい前奏曲で、このアルバム全編に充溢する荘厳な雰囲気をカリヨンの鐘の音で予告する。さらに、二曲目「Alas,Departing」は、ポストモダン的な雰囲気を持つ声楽の澄明さを生かした楽曲で、活動中期のメレディス・モンクのような前衛的な声楽のアプローチに取り組んでいる。静謐で瞑想的ではありながら、人間の声の音響そのものの美しさを体感出来ますが、ここにはやはり古楽的な旋律と和声法が組み込まれていることに注目です。


 以上の二曲から一転して、三曲目の「Vanity Of Ages」以降は、サラ・ダヴァチーのパイプオルガン(トラッカーオルガン)の演奏を中心に木管楽器や弦楽器の重奏といった楽曲で構成される。

 

例えば、ストックホルムのKali Maloneがオルガンの通奏低音を最初の持続音を徹底して引き伸ばす作曲技法を好むのに対して、サラ・ダヴァチーはそれらのオルガンの器楽的な特性を活かしつつ、音響的実験に取り組み、音を重ねながら、特異な和音を組み上げていくのがひとつの特徴です。それは、時に、調性のある和音/前衛的な不協和音/と、様々な形質をとり、縦向きの音階の連なりが次々現れ出てきますが、長く持続される通奏低音の上に、次にどのような音階が重ねられるのかを予測して楽しむというような聴き方も出来ます。しかし、それは時にこの作曲家の鋭い才覚により、予期される出現する音が高い確率で裏切られることにもなるのが惹かれる点でもある。

 

その他にも、二枚組のアルバムには、連曲形式の楽曲が収録されています。「Icon StudiesⅠ、Ⅱ」では、オルガンと木管楽器の音の連なりを対比的に表現した曲であると思われます。オルガンの低音が生み出す雰囲気と、バスフルート等を中心とした低音の木管楽器の重奏のコントラストを楽しむことが出来るはずです。しかし、これらの低音を生かした慎重なハーモニーは常に何らかのセレモニーのような厳粛性が尊重され、木管楽器の重奏については、アラビア風の旋法が現れることもあるため、かなりエキゾチックな雰囲気を醸し出していることも確かなのです。

 

 アルバムの中で最も美しい調性が保たれているのが「Harmonies in Green」となるでしょう。ここで、サラ・ダヴァチーは古楽時代のパイプオルガンの領域に踏み入れ、それを厳粛な形で表現しています。もちろん、そういった中世の西洋音楽への興味にとどまらず、アンビエント・ドローンのアーティストとしての1つの音響学的な研究の大きな成果が近年の作品以上に表れ出た楽曲といえるかも知れません。曲の序盤は、このアルバム全体の作風と同じく、厳かで重々しさがありますが、最終盤に差し掛かるにつれて、曲の雰囲気がガラリと一変し、美麗なハーモニーが現れ、荘厳で、神々しい、息を飲むような瞬間がクライマックスに立ち現れるのです。

 

その他にも、アルバムのクライマックスを飾る「O World And The Clear Song」において、音響学の観点から未曾有の領域に踏み入れていきます。サラ・ダヴァチーは、18世紀のイタリア製のオルガンを駆使し、バッハの宗教音楽、それ以前のイタリアのバロック音楽にも比する、重々しく厳格な現代音楽を、構造的解釈を交えながら、魅惑的なエンディング曲として組み上げています。

 

 

92/100 



Weekend Featured Track  「O World And The Clear Song」(#9)

 

 

 

また、こちらのCD/レコードの輸入盤は上記のbandcamp、タワーレコードBEATINKでお買い求めになることが出来ます。

 

 

©︎ Cecily  Eno


Brian Enoが新曲「We Let It In」を発表しました。


この曲は彼の近日発売予定のLP「ForeverAndEverNoMore」に収録される予定です。前作のシングル「There Were Bells」に続き、娘のDarla Enoがヴォーカルをとっています。この曲の試聴は以下からどうぞ。


新曲のサウンドの方向性について、Enoは次のように語っています。……低くなったよ。私が歌える別の人格になったんだ。ティーンエイジャーのように歌いたくないし、メランコリーで、少し後悔しているような感じでもいいんだ。また曲を書くことに関しては、もっと風景的なものだけど、今回は人間が登場するんだ……」


 Christina Vanzou 「Christina Vanzou,Michael Harrison,and John Also Benett」

 


 

Label:  Seance Centre

Release:  2022年9月2日
 
 
 
 
 
 
Review 
 
 
現在、ベルギー、ブリュッセルを拠点に置いて活動する現代音楽家クリスティーナ・ヴァンゾーは、元々、Stars Of The LidのAdam Witzieとのアンビエントプロジェクト、Dead Of Texanとしてミュージック・シーンに登場した。
 
 
その後、ソロアーティストに転向し、近年ではアンビエントの領域にとどまらず、モダンクラシカルの領域にまで音楽のアプローチの幅を広げつつある。昨年には、鳥の声や自然の環境音のサンプリングを取り入れたベルギーのぶどう農園をストリーテリング調にアンビエント・ミュージックとして表現したアルバム「Serrisme」をリリースしている。
 
 
今回、クリスティーナ・ヴァンゾーは、指揮者としての役割を果たし、二人のコラボレーターとの共作に挑戦している。
 
 
マイケル・ハリソンは、作曲家兼ピアニストとして活躍し、2018年-2019年のグッゲンハイムフェローに選出されている。ハリソンは作曲家、ピアニストであり、ジャスト・イントネーションと北インド古典音楽の熱心な実践者に挙げられる。ラ・モンテ・ヤングの弟子で、「ウェル・チューンド・ピアノ」時代にはピアノ調律師、インド古典声楽キラナ流派の師範であるパンディット・プラン・ナートの弟子として活躍し、その後は独自の調律システムを開発している。
 
 
もうひとりの共作者のジョン・アルソ・ベネットは、シンセサイザー奏者として活躍している。クリスティーナ・ヴァンゾーの2020年の作品『Landscape Archtieccher』にも参加し、このアンビエント作品に新鮮な息吹を吹き込んで見せた。既にお馴染みのコラボレーターとなっている。


既に、全ての音楽は出尽くしたと一般的に言われる現代音楽シーンであるが、それはおそらく多くの場合、音楽における無理解あるいは、想像力の欠如を表すシニカルな批評の言葉でしかない。なぜなら、この最新作「Christina Vanzou,Michael Harrison,and John Also Benett」で、クリスティーナ・ヴァンゾー及び二人の共作者は、全く新しい音楽を出現させているからであり、これまでになかったインド音楽に根ざした西洋音楽の方向性を急進的に推し進めているのだ。
 
 
このアルバムでは、バッハの「平均律クラヴィーア」に近い教会音楽の時代から続く西洋音楽の1つの象徴でもある対位法的なアプローチが取り入れられているが、それは西洋音楽を肯定するものであるとともに、それを否定しもする二律背反とも言うべきインド思想的な作品となっている。おそらく、アルバムの全体的な構想としては、クリスティーナ・ヴァンゾーが最初期から得意としてきたピアノと環境音、そしてシンセサイザーの融合というきわめてアンビエント音楽としてはごくシンプルなものである。しかし、マイケル・ハリソンのピアノは明らかに西洋の純正律の音階にはない東洋的な音響ーー「微分音」を劇的に取り入れている。この微分音というのは、インドネシアの「ガムラン」に象徴される西洋の平均律には存在しない音階で、平均律の音階(スケール)を細かく微分したものとなる。日本の作曲家としては、若い時代の西村朗が尾高賞を獲得した「二台のピアノためのヘテロフォニー」において、微分音をミニマルミュージックとして取り入れている。 
 
 
ピアノ、環境音、シンセサイザーとの組み合わせは、かつてブライアン・イーノとピアニストのハロルド・バッドがアンビエント・シリーズにおいて取り組んだ主なテーマでもある。つまり、この三者の共作による「Christina Vanzou,Michael Harrison,and John Also Benett」はブライアン・イーノ&ハロルド・バッドの最初期のアンビエントの系譜に位置づけられると思われるが、そこにマイケル・ハリソンのラーガへの傾倒を顕著に表すこれまでの西洋の音楽にはなかった要素が込められているのも事実である。

 
 
ピアノの旋律は常に単旋律を元に教会旋法のような対位法によって組み上げられていくが、その手法は、どちらかと言えばかつてモーリス・ラヴェルがシェーンベルクの前衛的な音楽を称して言ったように「建築物」のごとく堅固だ。和音というのは常に縦向きの構造であるが、マイケル・ハリソンが組み上げる横向きの和音は、実際の音の反響音(倍音)を活かすものとなっており、実際の音を組み上げるというより、ピアノハンマーが鍵盤を叩いた後に減退していく「サステイン」の過程で生ずる倍音を縦向きな対旋律として組み上げていく。例えば、エストニアのアルヴォ・ペルトが「Fur Alina」という曲で、独特な倍音を単音の旋律進行の倍音によって生み出したように、インド音楽「ラーガ」に象徴されるような東洋的な和音が、倍音として緻密に建築物の一つずつ礎石のごとくハリソンの優雅な演奏によって積み上げられていくのである。
 
 
この作品に見られるインド、チベットの瞑想的な響きについて評論的な言辞をいくら弄したところで無益に等しい。それは、ピアノの旋律、倍音、ドローンに近い環境音を実際に聴いてみてもらいたいとしか言いようがない。


シンセサイザー奏者としてのジョン・アルソ・ベネットの関わり方も素晴らしいもので、マイケル・ハリソンの繊細かつ格調高いバッハ風の演奏の雰囲気をシンセのシークエンスによって調和的に引き立ててみせている。 それはアンビエントの究極的なテーマであるその場の雰囲気を常に尊重するもので、沈思的であり、瞑想的な音響をベネットは強化させることに成功している。
 
 
これらの二方向からのアプローチをひとつに取りまとめるのが指揮者のような役割を果たす、クリスティーナ・ヴァンゾーである。これらの電子音楽的なアプローチを、ヴァンゾーは、モダンクラシカルの「芸術的領域」まで引き上げている。ピアノとシンセサイザーを融合した革新的な音楽に流れる気風は、消え入る寸前で保持される静寂及び東洋的な音響に象徴されるが、それはかつてアーノルト・シェーンベルグのもとで学んだジョン・ケージの最初期の調性を限界点で保持する繊細なピアノ音楽を想起させる。もちろん、その上で、セバスチャン・バッハのように緻密な数学的設計がなされることで、本作はまったく非の打ち所のない傑作として組み上げられたと言える。



100/100(Masterpiece) 
 
 

 

 

Photo: Bartek Muracki

高田みどりが1999年に発表したアルバム「Tree Of Life」を、WRWTFWWレコードより11月4日にレコードで再発する。高田は現代音楽/実験音楽/ジャズの領域で活躍する日本のパーカーション奏者です。


これまでCDバージョンでリリースされていたこのアルバムが、レコードとして発売されるのは今回が初めてとなる。このレコードのリイシューは、ハーフスピードでマスタリングされています。


この作品のオリジナル盤は、1983年のデビュー作『Through The Looking Glass』から16年後にリリースされた高田のソロ第2作としてダイキサウンドから発表されている。それほど一般的な作品とは言いがたいものの、日本のジャズシーンの隠れた傑作として知られる作品である。


仏教音楽の伝統性を取り入れたパーカッション奏者として、さらにはミニマル、アンビエントのパイオニアの一人である高田みどりは、この1999年の2ndアルバムにおいて、ソフトドラム、ベル、マリンバといった打楽器を駆使し多彩なアプローチを行っている。また、中国の伝統的な弦楽器、二胡を演奏する上海の演奏家、Jiang Jian-hua(姜 建華)がレコーディングに参加している。 


「Tree Of Life」のリイシューは、高田が6月に同じく、”WRWTFWW”からリリースした2枚のソロアルバムに続くものとなる。アートワークとトラックリストは以下をご参照ください。



Midori Takada 「Tree Of Life」 Reissue


 

Tracklist:

1. Love Song Of Urfa
2. Tan Tejah
3. Tayurani
4. Wa-Na-Imba
5. Modoki 1 (Futa-Aya-Asobi )
6. Awase 1 (Futa-Aya-Asobi)
7. Yukiai (Futa-Aya-Asobi)
8. Awase 2 (Futa-Aya-Asobi)
9. Orifusi (Futa-Aya-Asobi)
10. Modoki 2 (Futa-Aya-Asobi)
11. Awase 3 (Futa-Aya-Asobi)
12. Usuyo (Futa-Aya-Asobi)


 


”森は生きている”の活動で知られるマルチインストゥルメンタリスト、岡田拓郎が8月31日にリリースするニューアルバム「Betsu No Jikan」の先行シングル「A Love Supreme」を公開した。リリースに併せてYoutube上でオフィシャルオーディオも公開されている。こちらは下記より。


8月下旬に発売される新作アルバム「Betsu No Jikan」は、前作「Morning Sun」のリリースから二年ぶりの作品となる。

 

岡田拓郎は、このアルバムの制作段階において、ドラマーの石若駿らとインプロヴァイゼーションの成果を音源の素材として一旦持ち帰り、その音源にエディットをほどこした上、様々なミュージシャンに対してその上に即興的な演奏をするように指示した。Jim O'Rouke、Neis Cline、Sam Gendel、Carlos Nino、細野晴臣という錚々たる音楽家たちによってリモートレコーディングが収録されたデータを受け取った岡田は、それらを再びコラージュし、自身と各人の演奏を混ぜ込んでいった。


同一の時間への収まるのを執拗に避け、”別の時間”のありようを肯定するとき、新たな”ポップ”の姿がコミニケーションの次元から立ち上がる。ポップとはなにかを考え抜こうとする岡田の野心的な批評的精神と音楽家としての強靭な身体性は、このような境地までたどり着いた。『Betsu No Jikan』はポップ・エクスペリメンタリストである岡田拓郎が静かに提示する問題提起作となる。 


後日、岡田拓郎のインタビュー記事を公開しています。こちらよりお読みください。

 

 

 



岡田拓郎 『Betsu No Jikan』

 

 

Label: Newhere Music

Release:   2022年8月31日

 

 

Tracklist:

 

1.A Love Supreme

2.Moons

3.Sand

4. If Sea Could Sing

5.Reflections/Entering #3

6.Deep River

 

 

Sara Davachi

ロサンゼルスを拠点に活動する現代音楽/実験音楽家のSarah Davachiがニューアルバム『Two Sisters』をリリースする。

 

ダバチーは特に電子音楽ドローン音楽の領域で活躍するが、次作アルバムは電子音楽/ドローンの領域にとどまらず、複数のユニークな楽器がレコーディングに導入され、現代音楽に近い前衛的な手法が取り入れられている。


9月9日、デジタル、ビニール、CDのフォーマットで、彼女自身のインプリント、”Late Music”からリリースされる『Two Sisters』は、室内アンサンブルとパイプオルガンのための9つのコンポジションを収録している。レコーディングに導入される楽器も、このアーティストの見識や古典音楽への思い入れを伺わせるものとなっている。1742年製のイタリア製トラッカーオルガン、世界で3番目に大きいカリヨン(教会の鐘楼)などをレコーディングの演奏に取り入れ、アコースティック楽器と電子ドローンという、これまでの作風とは異なるアプローチに挑戦した作品である。


サラ・ダバチーは、7月に最初のシングル「En Vas Tu Vois」のリリースに続き、昨日、新たにセカンド・シングル「Alas,Departing」を発表している。。

 

 

 「En Vas Tu Vois」

 

 

 

 「Alas,Departing」

 

 

 



Sara Davachi   『Two Sisters』

 


Tracklist 
 
 
01. Hall of Mirrors 02. Alas, Departing 03. Vanity of Ages 04. Icon Studies I 05. Harmonies in Bronze 06. Harmonies in Green 07. Icon Studies II 08. En Bas Tu Vois 09. O World and the Clear Song

 

NEU Michael Rother,Klaus Dinger


NEU!は、近日発売予定のボックスセットから2曲を新たに公開しました。このシングルには、UKのシンガーソングライター・Finkによる「Weissensee」のリワーク、Guerilla TossによるNEU!にインスパイアされたオリジナルトラック「Zum Herz」が収録されています。ぜひ、下記より視聴してみて下さい。


Finkは、このリワークについて次のように説明しています。

 

ヴァイセンゼーはベルリンの荒れた場所にある小さな湖で、凍結している時は特に美しいんだ。そして、私はこれを試してみなければなりませんでした。NEU!にステップアップし、彼らのデビューの記念日は、名誉であり、挑戦であり、喜びでした。


さらに、NYのノーウェーヴグループ・Guerilla Tossは「Zum Herz」についてこうコメントしています。

 

NEU!は20世紀で最も重要なバンドの一つであり、GTの個人的なお気に入りでもあります。サイケ、ロック、パンク、エレクトロニック・ミュージックに与えた彼らの影響は計り知れないものがあります。

 

多くの偉大なバンドの系譜は、NEU!に遡ることができる。このコンピレーションに参加できることに感激しています。

 

私たちの曲「Zum Herz」は、反復するKlaus Dinger MoterikのビートとMichael Rotherスタイルのマルチレイヤーのギタープロダクションなど、NEU!の美学から多大な影響を受けています。アメリカやイギリスはロックを作ったが、ドイツはそれを永遠に奇妙なものにしたんだと思う。

 

ありがとう、NEU!


トリビュート・ボックスセットはGrönland Recordsから9月23日にリリースされる予定です。また、The National、IDLES、Hot ChipのAlexis Taylor、Mogwai、New OrderのStephen Morrisなどが参加している。 

 

 

 ・「Weissensee」 NEU! Rework

 

 

 

 

 ・Guerilla Toss 「Zum Herz」 New Original Track

 

   

 

 

「NEU! 50! Box Set」



 
「NEU! 50! Box Set」 IS OUT 9/23  ON Grönland 
 

 
 
Neu! Tribute Album 
 


1. Im Glück (The National Remix)
2. Weissensee (Fink Version)
3. Super (Mogwai Remix)
4. 4+1=5 - Alexis Taylor
5. Hallogallo (Stephen Morris and Gabe Gurnsey Remix)
6. Lieber Honig (Yann Tiersen Remix)
7. Super (Man Man Remix)
8. Negativland (Idles Negative Space Rework)
9. Zum Herz - Guerilla Toss
10. After Eight (They Hate Change Cover)

 

 

Neu! 50 Vinyl Boxset

 


1. LPGRONI / NEU! / NEU!
2. LPGRONII / NEU! / NEU! 2
3. LPGRONIII / NEU! / NEU! 75
4. LPGRONTI / NEU! / Tribute album
5. LPGRONTII / NEU! / Tribute album
6. Stencil
7. Booklet

 

 

Neu! 50 CD Boxset



1. CDGRONI / NEU! / NEU!
2. CDGRONII / NEU! / NEU! 2
3. CDGRONIII / NEU! / NEU! 75
4. CDGRONIV / NEU! / NEU! `86
5. CDGRONT / NEU! / Tribute album
6. Stencil
7. Booklet

 

 



ポーランドの作曲家Aleksandra Słyżは、9月23日にWarm Wintersより2枚目のフルアルバム[ 「A Vibrant Touch」をリリースします。


このアルバムでは、Słyżはアコースティック録音とモジュラーシンセサイザーの出力をブレンドし、電子的な怒りと木の弦楽器の暖かい摩擦を混ぜた、解けず、進化し、時には緊張するドローン音に仕上げています。


Słyżは、Kosma Műller(ヴァイオリン)、Kamil Babka(ヴィオラ)、Anna Szmatoła(チェロ)、Marcus Wärnheim(アルトサックス)と共にアルバムに参加しています。 

 

 

 


9月23日のリリースに先駆け、Bandcampにてアルバムのプレオーダーを受け付けています。トラックリストとアートワークは以下をご覧ください。

 


Aleksandra Słyż 「A Vibrant Touch」

 


Tracklist:

1. Healing
2. The Ruthless Act
3. Softness, Flashes, Floating Rage


 


ベルギー、ブリュッセルを拠点に活動する音楽家、クリスティーナ・ヴァンツォは、ニューシングル「Tilang」を発表しました。

 

新曲「Tilang」は、複数のアーティストとのコラボレーションが行われた9月2日に発売される新作アルバム「Christina Vanzou,Michael Harrison and John Also Benett」の先行シングルとなり、先月に発表された「Harp Of Yaman」のフォローアップとなります。今回のシングルも前作と同様、ピアノの西洋音階の平均律の基本的な調律をずらすことによって東洋的音響を形成し、インドネシアの民族音楽”ガムラン”に発生する「微分音」に象徴される特異な倍音が生み出される。 

 

 

 

次回作『Christina Vanzou,Michael Harrison and John Also Benett』は、クリスティーナ・ヴァンゾーを中心にマイケル・ハリソン、ジョン・アルソ・ベネットが、ジャスト・イントネーション・チューニング、深いリスニング、共鳴する空間への傾倒を中心に、豊饒なコラボレーションから生まれた、ラーガからインスピレーションを得た作曲と即興の組曲となります。 


マイケル・ハリソンは、作曲家、ピアニストであり、ジャスト・イントネーションと北インド古典音楽の熱心な実践者である。ラ・モンテ・ヤングの弟子であり、「ウェル・チューンド・ピアノ」時代にはピアノ調律師、パンディット・プラン・ナートの弟子として活躍し、その後は独自の調律システムを開発しています。

 

各作品の構造的な枠組みを提供し、セッションを指揮したクリスティーナ・ヴァンツォとの会話に導かれ、ハリソンが毎日行っているラーガの練習から、その古代の形式を出発点として作曲が花開き、変容していきました。また、John Also Bennettが演奏するモジュラーシンセサイザーの響きをバックに、ハリソンのカスタムチューニングされたスタインウェイのコンサートグランドで演奏されるピアノの即興演奏が、セッションを真の集団的プラクティスへと発展させた。 


インド・ニューデリーを拠点に活動するコンセプチュアル・アーティストで、このアルバムのために素晴らしいアートワークを提供したパルル・グプタは、「曲は沈黙の延長のように感じられる」と述べています。

 

ピアノから発せられる音は、計測された瞑想的な音場の中に浮かび上がり、共鳴し、そして溶けていく。すべての音が生き、呼吸し、最終的に沈黙に戻る、集中したリスニング体験を可能にする。これらの聴覚生態系には、集団的な聴取と即興演奏の経験から生まれる可能性と、何世紀にもわたって西洋音楽を支配してきた標準的な等調性チューニングシステムに対する反証が含まれています。


本作は、2019年に行われたトリオのベルリン・セッションの青々とした録音を45回転レコードの2枚組に収め、曲目クレジットとアルバムで使用されたハリソンの手書きのチューニング・チャートを掲載したリサグラフ印刷のインサートが付属しています。


"観察者"と "ピアニスト "と "シンセサイザー "が三角形を形成している。観察者(クリスティーナ)は目撃者でありガイドであり、ピアニスト(マイケル)は正確で直感的であり、シンセシスト(ジョン)は共鳴を高めフレームワークをサポートするドローンの味付けを提供します。ピアノは、共鳴体となるよう慎重に準備されている。

 

この強化は、マイケルの作品「黙示録」と北インド古典音楽(ラーガ)に基づく、マイケルの2つのジャスト・イントネーションの調律によって達成された。これらのチューニングは、数学的に正確な音程を維持するものです。

 

 

今作収録の楽曲では、声の代わりにシタールやタブラがピアノになり、タンプーラの代わりにシンセサイザーが使われます。ラーガを演奏することは、構造化された即興演奏の古代の実践である。時間、知識、記憶が練習者の身体と心の中で交錯し、これがラーガの練習の大きな部分を占めている。ラーガは、筋肉の記憶や個人の美学と結びついて、結果を個性化する。トリオを組むことで、複数の視点と時間軸が崩れ、ラーガは再び変異する。これらの紆余曲折は、ラーガが私たちの集合的な記憶の中にすでに複数の作曲が保存されていることを示すように、それ自体に回帰するように見えるだけだ。それらは、自然のように花開き、変形し、湧き出る。


これらの録音を実行するために書き留められたものは何もない。最もシンプルな形式を、最も複雑でない方法で探求した。このプロセスの最初の反映は、リスナーの心と体の中で起こるものです。観察者は常に観察している。音の領域は記憶と想像力を叩き込み、ラーガの音そのものがプリズムのような出来事となる。

 


--Christina Vanzouー

 

 

Christina Vanzou 「Christina Vanzou,Michael Harrison and John Also Benett」

 

 

 

Label: Séance Centre

 

Release: 2022年9月2日



Tracklist

 

1.Open Delay

2.Tilang

3.Joanna

4.  Piano on Tape

5. Sirens

6. Open Delay 2

7. Harpof Yaman

8. Bageshri

 

Laurie Anderson photo:Stephanie Berger
 

 

アメリカの前衛音楽家、ローリー・アンダーソンのアルバム「ブライト・レッド」がミュージック・オン・ヴァイナルで7月22日に再発されます。

 

1994年にリリースされたBright Redは、Brian Enoがプロデュースし、アルバム中の4曲を共同作曲している。

 

また、このアルバムのレコーディング中、ローリー・アンダーソンが交際を始めたヴェルヴェット・アンダーグラウンドのルー・リードも参加しているのにも注目です。『ブライト・レッド』は、イーノ、エベ・オークとのコラボレーション・アルバム『Dokument #2』に続くフルアルバムです。


 

 

 

Laurie Anderson 「Bright Red」 




Tracklist:

 

1. Speechless (The Eagle and the Weasel)
2. Bright Red
3. The Puppet Motel
4. Speak My Language
5. World Without End
6. Freefall
7. Muddy River
8. Beautiful Pea Green Boat
9. Love Among the Sailors
10. Poison
11. In Our Sleep
12. Night in Baghdad
13. Tightrope
14. Same Time Tomorrow


 

日本のパーカッション奏者として活躍する高田みどりは、23年ぶりとなる新作(リイシュー盤)をリリースします。

 

今回、の二つのアルバムの発表が行われます。今回のリリースは、日本のインディーレーベル、Newtone Recordsの傘下にあたる”WRWTFWW”から2022年6月10日に行われる予定です。

 

高田みどりの23年ぶりの新たなソロの素材をフューチャーした作品は、ジュネーブのMEG Museumと共同でWRWTFWWを通じて発売されます。「You Who Are Leaving To Nirvana」については、1983年の「Through The Looking Glass」のリイシュー盤となります。真言宗の僧侶の集団と共に高野山で録音が行われた伝説的な作品です。ここで、パーカッション奏者の高田みどりは、仏教の典礼歌を作品の中に取り入れています。

 

一方、同時にリリースがなされる予定のアルバム「Cutting Branches For A Temporary Shelter」は、仏教音楽ではなく、アフリカの民族音楽に高田が挑戦した意欲作。これは、アフリカの民族音楽に対する高田の深い敬意と憧憬が込められ、それがクロニクルを介して忠実な再現が行われた作品。

 

ジンバブエのショナ語のカリンバの音楽のレパートリーを象徴する伝統的作品のひとつ、”ネマムササ”に対する高田みどりの見解を特徴としています。アルバムはライブレコーディングで行われており、スイス・ジュネーブ民族学博物館のコレクションに所蔵された楽譜を取り上げたものとなります。

John Cage 「Early Piano Music」

 
 
 ジョン・ケージという人物は、日本との関わりが深い人物であり、禅文化をアメリカに広めた鈴木大拙とも親交が深く、日本の臨済宗の寺に招かれ、畳の上に背広とネクタイ姿で正座をし、大拙が立てた茶を受ける姿も写真に残されています。また、現代音楽家である一柳慧も、ケージに深い薫陶を受けた一人で、”プリペードピアノ”という、グランドピアノの弦のところにゴム等を挟んで本来の音色を変える技法を、日本において他の作曲家に先んじて取り入れていきました。
 ケージの代表曲として、「4分33秒」ばかりが、彼の”サイレンス”という独特の概念を端的に表していると取り上げられることに対して、個人的に少なからず不満を覚えています。もちろん、この楽曲というのも素晴らしく、なおざりに出来ないところもありますが、ジョン・ケージのサイレンスの概念の本領というのは、彼のピアノ曲、もしくは、歌曲の楽曲に感じられると私自身は考えておりまして、「Early Piano Music」では、彼の作曲をする上でのサイレンスという概念を知るための秀逸なピアノ曲が並べられていて、彼の思想の本質に迫るための足がかりになるでしょう。               
  この「Early Piano Music」と銘打たれたアルバムに収録されているケージの初期の作品集を聴くと、ケージの音楽的な才覚というのが、他の作曲家の性質と異なるものであり、なおかつ活動の初期からすでにかなり高く洗練されたものであることが分かり、そして、ベートーヴェンの三十番以降のソナタに比するような高級な静けさの特質を擁していることも見えてきます。
 特に、このアルバムに収録されている「In a Landscape」という楽曲が彼の持つ旋律美の才覚が遺憾なく発揮されています。この楽曲というのは楽譜を見ても、作曲者の独特な指示がなされていて、最初に踏み出したクレッシェンドペダルを最後まで踏み続けなさいという記譜が、楽譜の最初に見られます。これは、ピアノの演奏の初歩的な学習、ペダルは必ずしもどこで踏むとは決まっていませんけれど、基本として段階的に踏むべきであり、曲の間じゅう踏み続けるというのは本来の規則から逸脱した禁則的手法であることには違いありません。
 クレッシェンドペダルを踏みつづけていると、どのような音響的効果がもたらされるのかというと、弾いた和音なり単音なりの反響の余韻がいつまでも消えやることなく、倍音だけが増幅され、弾いていないはずの音がハーモニクスのように折り重なっていく奇妙な現象が生じます。  
 実際に鍵盤を叩いた瞬間に鳴り渡る音の向こう側に奇妙な倍音が漸次的にひろがりをましていって、一種の漠としたアンビエント的な奥行きのある音響の世界がその向こう側に浮かび上がってきます。 実は、エストニアの作曲家、Arvo Partなども「Fur Alina」という楽曲において、同じような技法を取りいれており、こちらの方は鐘の反響のような独特な効果がほどこされています。
 
 この楽曲「In a Landscape」は、単一の旋律が対旋律な技法で構成されていて、バッハの平均律をシンプルに解釈したような気配もあります。しかし、そこにはケージ独特の旋法が感じられます。ここには、分散風の和音は出てきますが、縦に構成された明瞭な和音というものが全く出てこないので、楽譜を見ると、あまりに単純で、初歩的な記譜にも思え、ロマン派などの作曲家で鍛錬を積んできた演奏家などが見れば、あまりの単純さに呆れ、拍子抜けしまう印象すらあります。
 しかし、油断のならないのは、その簡素さは悪い意味での単純さに堕することなどなく、深い示唆に富んだ言語的、哲学的な作風となっています。この楽曲は、一種の音楽を聴いたり弾いたりという形をとった「内的な悟りの体験」といっても差し支えないでしょう。おそらく、禅的な静寂というものをケージはここで表したかったように思え、その旋律自体もどことなく西洋風でなく、四七抜き音階的な純和風のニュアンスがうまい具合に表されています。
 おそらくこの楽曲でケージが表現しようと苦心惨憺していたサウンドスケープというのは、禅寺の庭にひろがる寂びた情景、また、例えるなら、重盛三玲に代表される作庭にあるような雰囲気、およそ喧騒とかけはなれたわびさびの世界であり、枯山水の庭を縁側に腰をおろして眺めているようなサウンドスケープを想起させます。
 
 さらにまた、この「In a Landscape」の楽譜の最後に、独特な指示記号が見られ、「瞬間的に音を途絶えさせなさい」というような、一見したところ理解しがたい指示がなされています。これは実際やってみると、ほとんど無理な話で、どれだけミュートペダルを強く踏み込んでも、音が完全に消えることはなく、音というのは、力学的な圧力を加え、無理やり消そうとしても、どうあっても一瞬では消せないという事実に気がつきます。ここには、いわば、矛盾撞着のような意図が隠されている気がします。さらにいうなら、この音の発生の原理がここでは嫌というほど理解できます。時系列においてどちらが先なのか定かではないものの、ここでは彼の若き日のハーバード大学の無響室での異質な体験というのが何らかの形で関わっているのかもしれません。
 おそらく、ここでジョン・ケージが音として込めた概念は、外側に満ちる静けさのみにとどまらず、それと呼応するように充ちている”心の内側の静けさ”ではなかっただろうかと思われます。
 まさにその本当の意味でのサイレンスという概念こそ、若き日のジョン・ケージがこの「In a Landscape」において明瞭に表現しておきたかった極めて異質な内的体験であったかもしれません。
 
 この「Early Piano Music」というECMレコードのリリース盤において、「Dream」というジョン・ケージの初期の名曲が収録されていないところが、少しだけ残念ではありますけれど、「Seasons」、「Metamorphosis」といった組曲がその心残りを完全に埋めあせてくれています。
 これらの組曲は、モートン・フェルドマンにも似た風味が感じられて、非常に洗練された雰囲気に満ち溢れていますので、現代音楽というジャンルのニュアンスを掴むのにうってつけだといえましょう。
 何より、「In a Landscape」でのヘルベルト・ヘンリクの演奏の程よいテンポ感とための作り方、そして間のとり方が素晴らしく、他のこの楽曲を収録したレコードに比べて、頭一つ抜きん出ており、この楽曲からおのずと滲み出てくるケージの持つ真価をヘルベルト・ヘンリク自身の深い理解度によって裏打ちされた演奏によって、これ以上はなかろうというほど引き出しています。
 このアルバムは、ケージの初期の名曲の本来の良さが他の盤よりも遥かに理解しやすい作品となっています。