1. Pressed Flower 2. One of Each 3. Against the Grain 4. Bitch Heart 5. Porcelain 6. One! Grey! Hair! 7. Vanity 8. Not Long 9. Margareta 10. Your Take On 11. High Five Handshake 12. You Become 13. Joyride 14. Tomorrow 15. Wonderland 16. Life Back 17. Pothole
''インディーロックバンド''と単に紹介するのは、Mamalarkyに礼を失するかもしれない。特に、このバンドは、Funkadelicやジョージ・クリントン界隈のファンク/ソウルの音楽性が強まることがある。序盤に収録されている「Won’t Give Up」、そして後半に収録されているメロウでアーバンな雰囲気を持つソウルバラード「Take Me」などは、アルバムの隠れたハイライトとなりえる。
先行シングル「#1 Best of All Time」はママラーキーの魅力を体現している。ローファイ、チルウェイブといったベイエリアらしい音楽性に加え、 ママラーキーとしては珍しくドライブ感のあるパンキッシュなサウンドを展開させる。ミュージックビデオもユニーク。ロサンゼルスのストリートをオープンカーでバンドメンバーが疾走するという構成である。おそらく、現在、最も新しい西海岸の音楽を確立しようとしているのは、このバンドなのではないか。そのほか、アルバムの終盤もかなり聴き応えがあり、ママラーキーのポテンシャルの高さを伺わせる。
ポップソングと80年代のディスコソウルを結びつけた「Feels So Good」もハイレベルに達している。ジョージ・クリントン周辺のバンド、あるいはカーティス・メイフィールドのバンドのようなコアなグルーヴを体感することが可能である。ママラーキーのアンサンブルの能力は、圧倒的に高いレベルにあるが、それらはすべて感覚的な表現としてバンドの演奏に定着している。
頭で考えてそれをやるというよりも、演奏を通じて自然に新しいものが溢れ出てくるというのは、彼らがインスピレーションを元にして音楽を制作している印象である。「バンドメンバーの目をしっかりと見つめて、次のテイクを信じられないものにしよう」というリヴィ・ベネットの言葉は、「Feel So Good」に明確に反映されている。この曲では、ボーカルの持つメロディーの良さに加えて、バンドアンサンブルとしての最も刺激的な瞬間を味わうことが出来ます。
ファーストアルバム『For The First Time』では気鋭のポストロック・バンドとして、続く『Ants From Up There』では、ライヒやグラスのミニマリズムを取り入れたロックバンドとして発展を遂げてきたロンドンのウィンドミルから登場したBC,NR(ブラック・カントリー、ニューロード)。
一方で、ビートルズの中期以降のアートロックを現代のバンドとして受け継いでいくべきかを探求する「The Big Spin」が続く。「ラバーソウル」の時代のサイケ性もあるが、何より、ピアノとサックスがドラムの演奏に溶け込み、バンドアンサンブルとして聞き所が満載である。新しいボーカリスト、メイ・カーショーの歌声は難解なストラクチャーを持つ楽曲の中にほっと息をつかせる癒やしやポピュラー性を付与する。
ロック寄りの印象を持つ瞬間もあるが、終盤では古楽やバロックの要素が強まり、さらにアルバムの序盤でも示されたフォークバンドとしての性質が強められる。「For The Cold Country」では、ヴィヴァルディが使用した古楽のフルートが登場し、スコットランドやアイルランド、ないしは、古楽の要素が強まる。結局のところ、これは、JSバッハやショパン、ハイドンのようなクラシック音楽の大家がイギリスの文化と密接に関わっていたことを思い出させる。特にショパンに関しては、フランス時代の最晩年において結核で死去する直前、スコットランドに滞在し、転地療養を行った。彼の葬式の費用を肩代わりしたのはスコットランドの貴族である。ということで、イギリス圏の国々は意外とクラシック音楽と歴史的に深い関わりを持ってきたのだった。
2022年に発表されたファーストアルバム『Household Name」は好評を得た。Pitchfork、NME、NYLONといったメディアから大きな賞賛を受け、アメリカ国内での気鋭のロックバンドとしての不動の地位を獲得した。その後、四人組はコーチェラ・フェスティバルなどを中心とする、ツアー生活に明け暮れた。その暮らしの中で、人間的にも、バンドとしても成長を遂げてきた。ファーストアルバムでは、ロックスターに憧れるMommaの姿をとらえることができたが、今や彼等は理想的なバンドに近づいている。ベテランのロックバンド、Weezer、Death Cab For CutieとのライブツアーはMommaの音楽に対する意識をプロフェッショナルに変化させたのだった。
本拠地のブルックリンのスタジオGとロサンゼルスのワサッチスタジオの二箇所で制作された『Welcome To My Blue Sky』はMommaにとってシンボリックな作品となりそうだ。目を惹くアルバムタイトル『Welcome To Blue Sky』はツアー中に彼等が見たガソリンスタンドの看板に因んでいる。アルバムの収録曲の多くはアコースティックギターで書かれ、ソングライティングは寝室で始まったが、その後、コバヤシ・リッチのところへ音源が持ち込まれ、楽曲に磨きがかけられた。先行シングルとして公開された「I Want You(Fever)」、「Ohio All The Time」、「Rodeo」などのハイライトを聴けば、バンドの音楽性が大きく洗練されたことを痛感するはずだ。
セカンドアルバム『Welcome To My Blue Sky』において、バンドはポピュラーソングとロックソングの中間に重点を置いている。おそらく、Mommaはもっとマニアックで個性的な曲を書くことも出来ると思うが、オルタネイトな要素を極力削ぎ落とし、ロックソングの核心を示そうとする。そして、これは彼らが必ずしもオルタネイトな領域にとどまらず、上記のバンドのようなメインストリームに位置する商業的なロックバンドを志していることの証ともなりえるのである。
上記の先行シングルのようなバンガーの性質を持つロックソングと鋭いコントラストを描くのが、内省的なエモの領域に属するセンチメンタルなロックソングの数々である。そして、これらがロックアルバムとして聴いた上で、作品全体の奥行きや深さを作り上げている。「How To Breath」、「Bottle Blonde」では、それぞれ異なる音楽性がフィーチャーされ、前者ではThird Eye Blindのような、2000年代以降のオルタナティヴロック、後者では、シンセ・ポップをベースにしたベッドルームポップのキャラクターを強調している。 そしてどちらの曲に関しても、ボーカルのメロディーの良さやドリームポップに近い夢想的な感覚を発露させている。これらに多忙なツアー生活の中の現実性とは対極に位置する幻想性を読み解くことも不可能ではない。
また、ライブツアーにまつわる音楽性は従来とはカラーの異なる音楽性と結びつけられる場合がある。例えば、「Ohio All The Time」は、Placeboを彷彿とさせる音楽性に縁取られている。ソングライティングの側面で大きく成長を遂げたのが、本作のクローズに収録されている、子供時代の記憶を振り返りながら、自分の姿が今とはどれほど変わったかを探る「My Old Street」である。他の曲と同じく、歌える音楽性を意識しつつ、スケールの大きなロックソングを書きあげている。これらはMommaがいよいよアリーナクラスのロックバンドへのチケットを手にしつつあることを印象付ける。
アルバムはシンセの壮大なインスト曲「Intro」で始まり、ソングライターとしての成長を印象付ける「I Just Do」が続く。心地よい8ビートにインディーロックのラフなバッキング・ギター、そしてベッカ・ハーヴェイの内省的なボーカルが徐々にドライブ感を帯び、サビの箇所で轟音性を増す。そしてそれはセンチメンタルな雰囲気がありながらも、若い年代のシンガーらしい純粋な感覚を表現していて、聴いていて何か爽快感やカタルシスをもたらす瞬間がある。このアルバムでは痛快な轟音のインディーロックが強い印象をはなつ。レーベルの契約と合わせて発表された「Champ」はベタであることを恐れず、ロックソングの本来の輝きを放つ。シューゲイズの響きとグランジの重さがこの曲のロック的な魅力を強調している。使い古されたと思えるようなロックの手法もベッカ・ハーヴェイの手にかかると、新鮮な音楽に生まれ変わる。「Champ」はギターソロが力強い印象を放ち、雄大なイメージを呼び覚ます瞬間がある。
従来のインディーポップ風の曲も収録されている。「In My Eyes」はドリーム・ポップ風の曲であるが、ハーヴェイのボーカルはこの曲に切ないエバーグリーンな感覚を添えている。過去の数年間を振り返るようなポップソングで憂いや悲しみをアンニュイなポップソングとして昇華している。その後、このアルバムの音楽はやや夢想的になっていき、同レーベルのデュオ、Widowspeakにも似たセンチメンタルなインディーロックソングへと傾倒していく。そしてセンチメンタルであることを恐れないという点にソングライターとしての力強さが宿っている。「Windows」、「Since April」はそれほどオルタナティヴロックファンにも詳しくないリスナーにも琴線に触れるものがあるに違いない。それはソングライターとして感覚的なもの、一般的には見えにくいエモーションを歌で表現することにガールパピーは長けているからである。
本作の音楽はゆっくりと歩きだしかと思うと、徐々に走りが軽快になっていき、クライマックスでそれらが軽妙な感覚に変わる瞬間がある。それらは過去の傷ついた心を癒やすような優しさに満ちている。人間としての成長が断片的に描かれ、それらがスナップショットのように音楽に収められている。シンガーとしてはそれらの過去を振り返りつつも、別れを爽やかに告げるという瞬間が織り交ぜられている。それはまた過去に浸らず、次の未来へとあるき出したということだろう。終盤の収録曲に聞かせる部分が多い。「Beaches」はアメリカーナやカントリー/フォークをポップの側面から解釈し、聴きやすく、つかみやすい曲である。特にシンパシーを超えたエンパシーという感覚が体現されるのが「I Was Her Too」だ。サッカー・マミー、MOMMAといったトレンドのロックシンガーの音楽をわずかに彷彿とさせる。その一方で、エモに近い雰囲気が立ち込め、それらがドラムやシンセストリングスの演奏により、ドラマティックな空気感を帯びる。そして、なかなか表しがたい内在的な感情性をロックソングに体現させている。この曲はガールパピーの象徴的な一曲が生み出されたと見ても違和感がないように思える。
ガールパピーは、TilTokなどのカルチャーの波に乗り、それらをベッドルームポップの系譜にある軽快なロックソングに落とし込んでいる。しかし、その中には個性的な雰囲気が漂い、それが『Sweetness』の潜在的な魅力となっている。それほど肩ひじを張らず気楽に楽しめると思いますが、一方でポストパンクからの影響も読み解ける。例えば、「For You Two」は象徴的な一曲で、ドライブ感というパンクの要素が聴きやすく甘いポップセンスと融合している。これらはパワーポップとまではいかないものの、 それに似た甘く切ない雰囲気に満ちている。言葉で具象化することの難しい感覚を表すのがロックソングの醍醐味であるとすれば、『Sweetness』はその一端を味わえる。そして実際なんらかのカタルシスをもたらすはず。クローズ「I Think Did」はアコースティックギターをメインにした開放的なフォークポップ。ロックソングの音楽性が瞬間的なものであるがゆえか、アルバムを聴いた後に切ない余韻を残す。
フレンチーのデビューアルバムは、そういった「自由貿易の時代の産物」である。「Can I Lean On You」ではUKソウルを下地にして、メロウなエレクトリック・ピアノがストリングスやリズムの輪郭を際立たせるドラム、そしてフレンチーのボーカル、そして同じように美麗なコーラスが溶け合い、重厚なソウルミュージックが作り上げられる。近年、米国のソウルはディープになりがちだが、フレンチーの音楽はどこまでも軽快でソフト。しかし、ニュートラルな音楽には陥らない。そして、それは何より、メロディーやリズムのセンスの良さだけではなく、ファンクの要素がポピュラーソングと上手く干渉し、ハイセンスなソウルミュージックが作り上げられていく。この曲はガール・レイのようなイギリスのバンド形式のソウルの録音の影響が含まれ、ソロシンガーとしての性質を保ちながら、バンドの音楽にもなっているのである。
結局、バリエーションという要素が曲の中で生きてくるのは、根幹となる音楽性がしっかりと定まっている場合に限定される。その点においてフレンチーは、バンドとともに本格派としてのソウルを構築している。アルバムの後半には遊び心のある曲が多い。「Shower Argument」はアコースティックギターを用いたボサを聴くことができ、小野リサのようなブラジル音楽を彷彿とさせる。かと思えば、音楽そのものは軽くなりすぎることはない。「It' Not Funny」ではしっとりしたピアノバラードを慎ましく歌い上げている。この点は、例えば、ブルーノートに所属するSSW、ノラ・ジョーンズのようなシンガーにも何か共鳴するものがあるのではないかと思う。
音楽が移り気になろうとも、全体の水準が下がらない。これはおそらく歌手としての卓越した才覚をさりげなく示唆しているのではないだろうか。「Que Je T'aime」はボサノヴァをワールドミュージックとして再考している。この曲ではゲンスブールのようなフランスの音楽を受け継いでいる。クローズもフレンチポップの気配が濃い。しかし、現代的なUKソウルの要素が音楽自体を前の時代に埋没させることがない。音楽が明るく、スタイリッシュな感覚に満ちている。