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Sophie Jamieson

 

Sophie Jamieson(ソフィー・ジェイミソン)のニューアルバムに添えられている写真には、動きの感覚がある。風雨に揉まれ、他の人々によって翻弄され、固い場所に着地することはない。レコードの内ジャケットには、二重露光の写真に写った彼女が写されている。これは単なる写真かもしれないけれど、彼女のアルバムのより深い部分のメタファーでもある。不安感や根付かない感覚をとらえようとしているのかもしれない。どこかに憧れながらも、完全には辿り着けないというような。


ベラ・ユニオンからリリースされる彼女の2枚目のアルバム『I still want to share』は、愛すること、失うことの循環的な性質、人間関係から逃れられない不安、他人の中に居場所を見つけようと試みては失敗を繰り返す帰属などへの永遠の憧れについて、深く個人的な考察を提示している。


ソフィーのデビューアルバム『Choosing』が、自分自身全体から逃げることで膨らむ自己破壊的な衝動を探求しているとしたら、私はやはり、それに全力で向き合いながら、一曲一曲を通して強さを分かち合いたい。


スピリチュアライズドやマニック・ストリート・プリーチャーズなどの作品で知られ、ザ・ビートルズのバック・カタログのリマスターでも知られるグラミー賞受賞のGuy Massey(ガイ・マッセイ)がノース・ロンドンでプロデュースしたこのコラボレーションは、より探求的で、チョージングよりも遊び心があり、より豊かなパレットで細部まで表現されている。


ソフィー・ジェイミーソンのソングライティングとヴォーカルが持つ生々しい感情の全てに、新たなキャラクターが加わった。玩具のようにきらめくオムニコード、陰鬱なハルモニウムとサブベースのレイヤー、そしてジョセフィン・スティーヴンソン(Daughter)の提供による豊かなストリングス・アレンジが、レコードの鼓動の中心を通して憧れの感情のつながりを紡ぎ出す。


「私たちは、とてもとても私らしいと感じられるものを作ったけれど、たくさんの異なるサウンドの風味もあるの」とソフィーは説明する。


「温かみのある秋の色もたくさんあるし、キラキラした暗い星空もある。このような形で表現する必要があったとは……。自分でも知らなかったことを表現するため、すべてがひとつになったわ」


アルバムは静寂の中で幕を開け、陰鬱な「Camera」は最初の1分ほどで穏やかに焦点が定まり、ギターが盛り上がり、ドラムビートがシャッフルされる。リード・シングルの「I don't know what to save(何を救えばいいのかわからない)」は、より軽快に感じられる。「この曲は、自由を求めて走り出した曲なの」とソフィーは説明する。


「ある人への執着と、その人にまつわるすべての痛みの重みを抱えていた。それは手放すことへの大きな後押しだった」


ソフィーは 「愛」という言葉の巨大さを取り上げ、そのミステリアスなヴェールを剥がしていく。愛することはしばしば支配や欲求のように感じられること、愛されることは自分自身と向き合わなければならないときには耐え難いことであること。シンプルで純粋な、不安のない愛は、分かち合い、寛大さ、ゆとりのように見える。 


「このアルバムを支えているのは、シンプルに愛というより、むしろ''愛着''という考え方だと思う」と彼女は説明する。「臨床的でロマンチックでない性質、醜い性質、そして人間的な性質」


タイトル・トラックは、陰鬱なアレンジの中に子供の欲望が透けて見える。 「争う必要のない絆の魔法/耳には耳を、目には目を/これが私のものであることが幸運なのだと思う/それでも時々分かち合いたい」


ソフトで、純粋で、シンプルな愛がそこにあるという抑えきれない希望が、このレコードを引っ張り、すべてが崩壊する危険性が常にあるにもかかわらず、私たちを再び愛へと引き戻す力となっている。


私たちが自分自身に何を求め、愛する人たちに何を求めるかという点で、完璧さや確かな答えを求める無益な欲望を浄化するものとして本作を分かち合いたい。全体を通して問いかけられるのは、根源的なレベルで痛みを伴うもので、答えについては風に流されるだけである。結局、エンディング・トラックで歌われるように、「時はあなたを後ろへ引っ張り、あなたの年齢の下へ深く潜り込ませる」それでもなお、私たちは愛を求め、それを分かち合いたい。-Bella Union



 Sophie Jamieson 『I still want to share』- Bella Union


 

”ソングライター”というのは、日々の人間的な成長に合わせて、音楽的なテーマを変え、その時々に相応しい歌い方を見つける人々のことを言う。

 

それを見て、「あの人は変わった」という。しかしながら、こういったアーティスティックな表現者に類する人々は、器用であるから、そうするのではなく、むしろ自身のうちに少しだけ不器用な部分が残されているから、そうするのである。わからないことがあるから歌う。未知や謎が目の前に立ちはだかるから曲を制作する必要がある。すべてがわかるからではなく、わからないことを解き明かすために音楽がひとつの媒体となり、動脈ともなりえる。そういった姿勢やスタンスは、間違いなく、良質な音楽を制作するためのヒントとなり、また大きな糧ともなりえる。

 

まさしく、ロンドンを拠点に活動するソフィー・ジェイミーソンは、昨年末のローラ・マーリングと同様に、人間的な成長をシンプルに織り交ぜ、美しいポピュラー、フォーク・ソング集を書き上げることに成功した。音楽的になにかが大きく変わったわけではない。しかし、内的な成長が表面的な音楽を変化させたのである。

 

2022年の『Choosing』において、ソフィー・ジェイミーソンは解き明かし難い主題を据え、内的な痛みを織り交ぜた。自己破壊の苦しいどん底、そしてそこから見えるかすかな希望の光への旅を描いたどこまでも純粋なパーソナル・ドキュメントを作り上げた。しかし、もし、続編にアーティスト自身が語るような優しいまなざし、慈しみが音楽の最果てにほの見えるとあらば、それはアーティストが掲げる愛着の精神がリスナーのもとに届いたということになるだろう。


ソフィー・ジェイミーソンは、今回のアルバムにおいて、歌手としてシャロン・ヴァン・エッテンのポスト的な立場を選んだ。インディーロックから影響を受けたクランチなギター、オペラ風の歌唱法等、シャロン・ヴァン・エッテンのテイストが全編に満ち渡っているが、単なるフォロワーにとどまらないことは、最新作『I Still Want To Share』を聴くと、明らかでないだろうか。そして、ジェイミーソンの音楽性が全般的なフォークソングをベースにしているとはいえ、アメリカの民謡とは明らかに異なることは本作を聞けば明らかとなる。最近、私自身もわかってきたのは、ウェールズ、アイルランド、スコットランドといった地方、いわゆる古イングランドの地域には、なにかしら深い音楽的な魅力がその土地の底に眠っている。ソフィー・ジェイミーソンは、それを探りあてるべく、ギターを中心とした音楽に多彩な歌唱法を披露する。

 

アルバムは、「1-Camera」の優しげなギターの弾き語りで始まり、心地よいリズムとアルペジオという枠組みが形づくられるが、一方、歌手のボーカルはその枠組から離れ、雄大な印象を持つ。スタジオの中の音楽というよりも、アルバムのアートワークとリンクするような感じで、小さな空間を飛び出し、羽ばたいていく。そして、ミドルボイスを中心に、ファルセットを含めたハミングがギターと調和するように、しだいに大きな音楽的な空間をゆっくりと作り上げていく。それをより華やかにするのが、今作の編曲において重要な役割を果たす弦楽器の重奏である。前作におけるオーケストラ音楽へのアプローチはより、今作において洗練され、磨きがかけられた。これはビートルズの音楽をよく知るガイ・マッセイ氏の大きな功績でもある。

 

ソフィー・ジェイミーソンのアルバムは、ギミック的な演出により、人を驚かせたりすることはない。バーバンクサウンドと同じように、まず曲があり、編曲が続き、最終的にマスターがある、という音楽の基本的な段階を踏まえながら、丹念に録音作品が作り上げられていった形跡がある。それはデジタルサウンド主流の時代にあって、むしろ手作りのサウンドのような印象を覚えることもある。


「2-Vista」も同じように、エレクトリック・ギターのアルペジオの艶やかさなサウンドに、ミステリアスな印象を持つジェイミーソンのボーカルが続いている。ジャズのスケールを踏まえたギターに、ボーカル、コーラス、クレスタといった要素がミルフィールのように折り重なり、イントロで感じられた神秘性がより深い領域へと差し掛かる。冒頭から音楽的な世界が見事に作り上げられ、さながら奥深い森のむこうを探索するような神秘的な情景が描かれる。前作よりも遥かに音楽的なイディオムに磨きがかけられたことがよく分かる。

 

 

「3-i don't know what to save」は、大まかには3つの構成を持つポピュラーソングだ。歌手の歌の実力がいかんなく示され、伸びやかで美しいビブラートが際立っている。ここでは何を救ったら良いのかわからないと歌手は嘆く。けれども、もし、この歌声と温和なサウンド、そして美しいオーケストラ・ストリングスに聞き惚れる人々がいれば、それはそのまま、誰かを救ったという意味に変わる。その人の他にはない個性や能力が、人々に勇気や元気、そして希望を与えた瞬間でもある。静かなイントロから中盤、そして終盤にかけた曲のアイディアの種が芽吹き、さらに、大きな美しい花を咲かせるように、美しい音楽の成長の過程を味わうことが出来る。アルバムの序盤のハイライトのひとつで、本作は、この曲でひとまず大きな要所を迎える。

 

 

「 i don't know what to save」

 

 

対象的に、静かな弾き語りのポピュラーソング「4-Baby」から、 このアルバムの愛着というテーマがより深い領域へと達する。親しみやすいポピュラーソングのメロディーに、ときどき内的な心情のゆらめきを表現するかのように、長調と短調の分散和音を交互に配置させながら、琴線に触れるような切ない叙情的な旋律進行を生み出していく。そして、その内的な波のゆらめきは、むしろそのありかを探せば探すほど、奥深い霧に覆われるかのように見えづらくなり、その正体が掴みがたくなる。さらに、もうひとつ注目すべきは、ジェイミーソンのボーカル/コーラスのコントラストが、まるで内的な会話のようでもあり、そして、もうひとつの自分の得難い姿に戸惑うかのようでもある。しかし、二つに分離したシンガーはいくつかの悩ましき変遷をたどりながら、なにかひとつの終着点にむけてひとつに重なりあうような感覚がある。

 

「5-Welcome」は同じようなタイプに位置付けられる。これまたシャロン・ヴァン・エッテンのソングライティングに近く、外側には現れ出ない内的な感情の揺らめきをミステリアスなテイストを持つポピュラーソングに昇華させている。しかし、ガイ・マッセイによるミックス/マスターの性質が色濃く立ち現れ、クレスタ、もしくは、オムニコードのようなシンセの対旋律的な配置、部分的な逆再生による音の印象の変化を駆使して、音の印象に劇的な変化を及ぼしている。そして、この曲はギター(トレモロ)のダイナミックスを段階的に引き上げていき、全体的になだらかな丘のような起伏を設け、曲の後半部に強固な印象を持つハイライトをつくりだす。

 

こういったサウンドは、ヴァン・エッテンにとどまらず、ベス・ギボンズの復帰作と同じように、暗鬱さと明るさの間を揺らめく抽象的なポピュラーソングの領域に属している。そして、表向きには現れないが、ウェールズ、スコットランド、アイルランド地方のフォーク・ソングや民謡の原始的な音楽がこれらのポピュラーソングの背後に揺らめいているという気がする。結局、これこそが、アメリカとイギリスのフォークを別け隔てるなにかである。それが原初的な古イングランドのカントリーの雰囲気と混ざりあい、「6-Highway」に繋がる。アルバムの序盤から一貫して示唆されるエレクトリックギターのクリーントーン(おそらく、Rolandのようなアンプ)から作り出されるサウンドは、一般的なポピュラーソングのギミック的な演出とは程遠く、素朴な落ち着きがあり、普遍的な響きが込められている。アコースティックギターではなく、エレクトリックによるいつまでも聞いていられるようなソフトなアルペジオが、ソフィー・ジェイミーソンのボーカルと混ざり合っていることはいうまでもない。これらのサウンドは、プロデュースの意向とも相まってか、ジャズに近いニュアンスを併せ持つこともある。

 

前の曲では、旋律やダイナミックスともに要所を迎え、その後、アウトロで静けさに帰る。もはや、この段階に来て、このアルバムが即効的な意味を求めて制作されたものではないことは明らか。そして一貫して、ギミック的なサウンド、エポックメイキングなサウンドを避けて、素朴なフォークソングをもとに、聴けば聴くほど深みが出てきそうな曲を収めている。 これらは、70年代のフォークやポピュラーのように、レコード生産が単なる消費のためのものではなかった時代の幻影をなんとなく脳裏に蘇らせる。文化的な役割を持つ音楽を制作しようという心意気については、一定数の本当の音楽ファンの心にも何かしら響くものがあるかもしれない。もちろん、すでに前半部から中盤にかけて示唆されてきたことだが、ジェイミーソンの音楽は、名誉心やインフルエンサー的な欲望とは程遠い。それがゆえ、なにかしばらく忘れ去られていた音楽そのものの安心感であったり、素朴さの一端を思い出すことも出来るかもしれない。

 

ソフィー・ジェイミーソンは、このアルバムで愛着というテーマを中心に、自分の人生から滲み出てくる感覚を音楽によって表現しようと試みている。それがシャロン・ヴァン・エッテン、ギボンズの系譜にある音楽のスタイルを受け継いでいるにせよ、単なる模倣的な音楽にならない要因である。人生は、その人のものでしかありえず、他の誰のものではない。もちろん、他の誰かになることは出来ないし、他の誰かになってもらうことも不可能である。ある意味では、前作から探求してきたテーマ(音楽的なものにせよ、人生的なものにせよ)は、続くタイトル曲で、一つの分岐点や重要なポイントを迎えようとしている。彼女は、明るい感覚を世界に向けて共有しようとしている。それは少なくとも、妬みや顰み、羨みといったこの世に蔓延る閉鎖的な感覚ではない。その音楽が開けていて、本当の意味における自由があるからこそ、なにか心に響くものがあるというか、その音楽が耳に残ったり、心地よさを覚えるのだろう。もちろん、それはたぶん、歌手としての人生に大きな自負を持っているからなのかもしれない。

 

アルバムの終盤でも心地よいフォーク/ポピュラーが続いている。「8-How do you want to be loved」では、シャロン・ヴァン・エッテンのタイプの楽曲で、繊細さと勇壮さを併せ持つ。オムニコードの使用は、この曲にちょっとした親しみやすさとユーモアを添えている。また、ヴェルヴェットアンダーグラウンドの「Sunday Morning」でも使用されるクレスタ(グリッサンド)の響きがこの曲に可愛らしさと古典的な風味を添えている。さらに、プロデュースの側面でも、キラリと光るものがあり、音形をモーフィングさせ、独特な波形を作り出しているのに注目したい。 特にアルバムの終盤でも素晴らしい曲があるので、ぜひ聞き逃さないでいただきたい。

 

「9- Your love is a mirror」では、一貫したスタイル、サイレンスからダイナミックなエンディングが暗示され、ボーカル/コーラス、クリーントーンのギターに美しい室内楽風の弦楽器の合奏が加わっている。特に、チェロ/バイオリン(ヴィオラ)がハーモニクスを形成する瞬間は息を飲むような美しさがあるし、鼻声のミドルボイスとコーラスワークには心を震わせるようななにかが込められている。まるでウィリアム・フォークナーのように、内的な感覚の流れは一連なりの川の導きのように繋がっていき、そして、本格派のポピュラー歌手としての崇高な領域へと到達する。


続いて収録されている「10- I'd Take You」は、落ち着いたリゾート気分に充ちた一曲で心を和ませる。ボサノヴァ、ブラジル音楽、ハワイアン、そういった音楽を巧みに吸収している。日曜の午後のティータイムのひとときを優雅に、そして安らかにしてくれることはほとんど間違いない。最後の曲はどのようになっているのか、それは実際にアルバムを聞いて確認していただきたい。

 

ソフィー・ジェイミーソンのアルバムを聞いて安らぎを覚えたのは、音楽を単なる消費のためとしてみなさず、敬愛すべきもの、美しきもの、慈しむべきものという考えを持った人々も存在することが確認出来たからである。大きなヒットは望めないかもしれないが、少なくとも、純粋な音楽ファンであれば、こういったアルバムを素通りするのは惜しいことではないだろうか。

 

 

 

86/100

 

 


 

Best Track 「Your love is a mirror」

 

©︎Shervin Lainez

ルーシー・ダカス(Lucy Dacus)が次のアルバムのニュースを携えて戻ってきた。ソングライターは当初、ソロシンガーとして活動しており、2021年の『Home Video』のリリースで一躍有名になった。以降はボーイ・ジーニアスとして活動し、グラミー賞の主要部門を受賞している。

 

今回、ルーシー・ダカスは新たにゲフィンとの契約を発表し、新作アルバムのリリースを明らかにした。『Forever is a Feeling』は3月28日にリリースされる。この発表に伴い、

 

ミュージシャンは新曲「Limerence」と「Ankles」を公開した。また、ヴィジュアル・アーティストのウィル・セント・ジョンが手がけたアルバム・ジャケットとダカスの今後のツアー日程は下記より確認してほしい。


マタドールから最初の3枚のアルバムをリリースした後、フォーエヴァー・イズ・ア・フィーリングでメジャー・デビューを果たした。フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ブレイク・ミルズ、バーティーズ・ストレンジ、マディソン・カニンガム、コリン・パストーレ、ジェイク・フィンチ、メリーナ・ドゥテルテらが参加している。

 

ダカスは2022年秋から2024年夏にかけてほとんどの曲を書いた。「私は感情で頭を蹴られた」と彼女は説明した。

 

「恋に落ち、恋に落ちる。そして、「何かを創造するためには、何かを破壊しなければならない。そして、私は本当に美しい人生を壊した」

 

 

「Ankles」

 

 

アルバムのタイトルについて、ダカスはこう語っている。「でも、私たちは一瞬に永遠を感じていると思う。永遠の中でどれだけの時間を過ごしたかはわからないけど、訪れたことはある」


フォーエヴァー・イズ・ア・フィーリング』を引っ提げたダカスのツアーは、4月16日にフィラデルフィアで幕を開け、5月14日のロサンゼルス公演で終了する。ミュージシャンはPLUS1と提携し、チケット1枚につき1ドルがロサンゼルスの山火事の被災者に寄付される。


「Limerence」



Lucy Dacus 『Forever is a Feeling』


Label: Geffen

Release: 2025年3月28日

 

Lucy Dacus 2025 Tour Dates:


Feb 18 – Brooklyn, NY – St. Ann & the Holy Trinity Church *

Feb 20 – Chicago, IL – The Murphy Auditorium at the Driehaus Museum *

Feb 22 – San Francisco, CA – Legion of Honor *

Feb 24 – Los Angeles, CA – Secret Location GBD *

Apr 16 – Philadelphia, PA – The Met #

Apr 18 – Washington, DC – The Anthem #

Apr 21 – Boston, MA – MGM Music Hall #

Apr 23 – New York, NY – Radio City Music Hall #

Apr 25 – Toronto, ON – Massey Hall #

Apr 29 – Nashville, TN – Ryman Auditorium #

May 01 – Chicago, IL – Chicago Theatre #

May 05 – St. Paul, MN – Palace Theatre #

May 07 – Kansas City, MI – Midland #

May 09 – Dallas, TX – Winspear Opera House #

May 10 – Austin, TX – Moody Amphitheatre #

May 12 – Denver, CO – Red Rocks Amphitheatre #

May 14 – Los Angeles, CA – The Greek Theatre #


* An Evening With Lucy Dacus

# with Katie Gavin and jasmine.4.t.

 



Perfume Genius(別名マイク・ハドレアス)は、3月28日にマタドール・レコードから7枚目のスタジオ・アルバム『Glory』をリリースすることを明らかにした。

 

プロデューサーのブレイク・ミルズと共作キーボーディストのアラン・ワイフェルスと再び仕事をした彼は、この最新作を「最も直接的な告白的作品」と表現し、このアルバムの中心的な葛藤を「内面と外面の往復」と位置づけている。

 

ギタリストのメグ・ダフィー(ハンド・ハビッツ)とグレッグ・ウルマン、ドラマーのティム・カーとジム・ケルトナー、ニュージーランドのシンガー・ソングライター、アルダス・ハーディング、ベーシストのパット・ケリーなど、バラエティに富んだミュージシャンと時間を共有している。

 

マイク・ハドレアスは、アルバムのリードシングルとして、私たちの期待を裏切らない一方で、アリゾナの夏の暑さで枯れてしまいそうな、息をのむほどウージーなポップ作品「It's A Mirror」を提供している。彼の歌声が数マイル上空に昇るのに十分なスペースがあり、音楽が小刻みに流れ落ちる。彼の曲の中でも最も親しみやすい曲のひとつであるが、感情的な弱さという生の核を保っている。 ハドレアスは、「何もないときでも、私は圧倒されて目覚めるんだ」と言う。

 

 

その日の残りの時間は、家で一人で考え事をしている方が好きなんだ。でもどうして?ほとんど悪いことばかりだ。それも何十年も変わっていない。このような孤立したループにはまり込んでいるときに書いたのが、『It's a Mirror』だった。ドアを閉めたままにしておく練習をもっとたくさんしたんだ。

 

 

彼はまた、「It's a Mirror」のビデオも公開している。ビデオは、Too Brightのハイライト曲 「Queen」のビデオでハドレアスと初めて仕事をしたコラボレーター、コディ・クリッチローが監督した。 

 

 「It's a Mirror」

 

 

 

Perfume Genius 『Glory』

 

Label: Matdor

Release: 2025年3月28日

 

Tracklist:

1.It's a Mirror
2.No Front Teeth
3.Clean Heart
4.Me & Angel
5.Left For Tomorrow
6.Full On
7.Capezio
8.Dion
9.In a Row
10.Hanging Out
11.Glory

ロンドンを拠点とするプロデューサーでシンガーソングライターのリザ・ロー(Liza Lo)が、待望のデビュー・アルバム『Familiar(ファミリア)』の詳細を発表した。本作は1月29日(水)にGear BoxからCD/LPの2バージョンで発売される。

 

リザ・ローは南欧の風をポピュラーミュージックのなかに組み込む。アコースティックギターのフィンガーピッキングとソフトなボーカルは、憂のある曲に驚くほど合致している。これまでに6曲のデジタル・シングルを発表してきた彼女だが、今回のアルバムはおなじみのプロデューサー、ジョン・ケリー(ケイト・ブッシュ/ポール・マッカートニーのプロデューサー)と彼女のバンドと共にデーモン・アルバーンの所有する「スタジオ13」にて制作されたという。



このアルバムについて、リザは次のように語っている。

 

「『ファミリア』というタイトルは、私が聴いて育ったレコードたちに立ち返るという要素、音楽を親しみやすく感じさせるレコーディングの方法、そして私の師匠でありこのアルバムの共同プロデューサーでもあるジョンが得意とするものに、私の創作プロセスを近づける方法を反映しているの」

 

「また、この言葉は私が語る物語、家族の親密さ、私の人生におけるロマンチックな愛の物語、そして生きていく上で避けられない喪失感や、それにどう対処するかということとも結びつけたいと思ったの。友人を失ったり、自分自身や他人と連絡が取れなくなったり、恋に落ちることの素晴らしさなど、私たちが人生で繰り返し遭遇する感情よ」



アルバムの発表を記念してリザは、「Catch The Door」と題されたニューシングルも発表。(楽曲のストリーミングはこちら

 

このメランコリックなポピュラーソングのトラックは、レディオヘッドやビッグ・シーフの影響を感じる、周期的なフィンガー・ピッキングとピアノ・ラインの上に、そこはかとなく切ないヴォーカルが重ねられている。
 

このニューシングルについてリザ・ローは、「人生には葛藤がつきもので、時にはその解決策を見つけられるのは一人だけということもある。この曲は、そういったことのメタファーとして書かれたのよ」 と語る。

 

 

「Catch The Door」

 

 

 

【アルバム情報】

 



アーティスト名:Liza Lo(リザ・ロー)
タイトル名:Familiar(ファミリア)
品番:GB1598CD (CD) / GB1598 (LP)
発売日:2025年1月29日(水)発売 予定
レーベル:Gearbox Records


<トラックリスト>


(CD)


1. Gipsy Hill
2. Morning Call
3. Darling
4. Catch The Door
5. A Messenger
6. As I Listen
7. Open Eyes
8. Anything Like Love
9. What I Used To Do
10. Confiarme
11. Show Me

(LP)


Side-A

1. Gipsy Hill
2. Morning Call
3. Darling
4. Catch The Door
5. A Messenger
6. As I Listen
Side-B

1. Open Eyes
2. Anything Like Love
3. What I Used To Do
4. Confiarme
5. Show Me


アルバム『Familiar』予約受付中! 


ご予約: https://bfan.link/the-ruin



Credits:

 
Liza Lo - Vocals, Acoustic Guitar, Piano, Backing Vocals, Synthesisers 

Sean Rogan - Piano, Backing Vocals, Acoustic & Baritone Guitar 

Maarten Cima - Electric, Rubber Bridge & Baritone Guitar

Tom Blunt - Drums

Freek Mulder - Bass

Ben Trigg - Cello & String Arrangements (Gipsy Hill, Open Eyes & A Messenger) 

Emre Ramazanoglu - Percussion (Catch The Door & Anything Like Love)

Chris Hyson - Synthesisers & Programming (Confiarme)

Wouter Vingerhoed - Prophet (What I Used To Do)

 

Recorded at ”Studio 13” and ”Tileyard Studios” in London

Produced by Jon Kelly and Liza Lo

Additional and co-production by Wouter Vingerhoed (What I Used To Do), Topi Killipen
(Morning Call), Sean Rogan (Confiarme) and Chris Hyson (Confiarme)

Written by Liza Lo together with Topi Killipen (Morning Call), Emilio Maestre Rico (Darling),

Peter Nyitrai (Open Eyes), Melle Boddaert (Gipsy Hill), Hebe Vrijhof (What I Used To Do) &
Wouter Vingerhoed (What I Used To Do)


Mixed by Jon Kelly

Mastered by Caspar Sutton-Jones & Darrel Sheinman

Engineered by Giacomo Vianello and Ishaan Nimkar at ''Studio 13'' and ''Ned Roberts'' at Tileyard Studios Released by Gearbox Records


バイオグラフィー:




Liza Lo(リザ・ロー)はスペインとオランダで育ち、現在はロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター/プロデューサー/ミュージシャン。優しくも力強い歌声で愛、喪失、成長の物語を紡ぐことを特徴とし、ビッグ・シーフ、キャロル・キング、ドーターやローラ・マーリングなどからインスピレーションを受けながら、独自の親密で詩的な音楽世界を創り出している。


EP『Flourish』(2023年)は、Spotifyの 「New Music Friday UK/NL/BE」に選出され、「The Most Beautiful Songs in the World」プレイリストでも紹介された。

 

2024年5月、Gearbox Recordsと契約を交わした。以降、自身のUKヘッドライン・ツアー、ステフ・ストリングスやVraellのオープニングをUK各地で務めたほか、ハリソン・ストームとのEU/UKツアーもソールドアウトさせた。2025年1月、ジョン・ケリー(ポール・マッカートニー、ケイト・ブッシュ)とバンドと共に制作したアルバム『Familiar(ファミリア)』がリリース決定。


©︎Brendan George Ko

ザ・ウェザー・ステーションが、近日発売予定のアルバム『Humanhood』から新曲「Body Moves」を発表した。前作「Neon Signs」と「Window」に続くサードシングルで、ソウル風のポピュラーソングとなっています。美しいコーラスのハーモニーがボーカル、金管楽器(サクソフォン)、メロトロン、そしてきらびやかなピアノの演奏と合わさる瞬間に注目です。


「この曲は一番難しい曲で、レコーディングして、すべてを変えて、またレコーディングして、すべてを変えて、またレコーディングした」とタマラ・リンデマンは声明を発表した。

 

「夢の中に落ちていくような、でも現実の中に落ちていくような。夢の中に落ちていくような、でも現実の中に落ちていくような、そんな曲だった。 身体はあなたを惑わし、身体はあなたを動かし、時には自己破壊的とも思える方向へ、あるいは痛みを伴う方向へ、あるいは内臓を刺激する方向へ。身体は生物学的なものであり、その言語も同様である。化学物質、痛み、衝動、シャットダウン、目覚め。重要なのは解釈であり、反応であり、シグナルを聞き取れるかどうか」


「Body Moves」は、リンデマンとフィリップ・レオナールが "心の2つの半球 "を探求するために監督したビデオとセットになっている。とリンデマンは付け加えた。


「一方は主導権を握り、意図を持って動いている。もう一方は、夢の中を漂っているようなもので、より抽象的です。中心には実際の自分がいて、2つの別々の部分に引っ張られ、混乱している。ある時は3つの自己が協調し、一緒に動く。また、そうでない時もある。この歌は、肉体に惑わされることを描写している」

 


「Body Moves」

【Weekly Music Feature】 Dean&Britta  Sonic Boom

Dean & Britta  - Sonic Boom

 

国境を越え、インディーズ・ミュージックの伝説的なミュージシャンが集い、『We Are The World』のようなクリスマスのためのアルバムを制作した。シンプルに言えば、このホリデーソングは、平和とは外側ではなく、内側からもたらされる。そんなことを教えてくれることだろう。


Dean Wareham(ディーン・ウェアハム)は、Galaxie 500を結成し、1988年から90年にかけてRough Tradeから3枚の傑作アルバムを発表。彼の次のバンド、Luna(ルナ)はエレクトラとベガーズ・バンケットに7枚のアルバムを残している。一方、Britta Philips(ブリッタ・フィリップス)の最初の音楽活動は、ジェム(ジェム&ザ・ホログラムズ)の歌声だった。その後、Ben Lee(ベン・リー)のバンドでベースを担当し、2000年にはLunaにベースとして参加した。


Dean&Britta(ディーン&ブリッタ)はデュオとして数枚のアルバムを録音したほか、Noah Baumbach(ノア・バームバック、米国の映画監督、アカデミー賞にノミネート)のために2本の映画音楽を担当している。『The Squid & the Whale』、そしてもう一作は『 Mistress America』。


Sonic Boom(ソニック・ブームは、伝説的なイギリスのバンド、Spacemen 3(スペースメン3)の共同創設者であり、その後、Spectrum(スペクトラム)や実験的なE.A.R.を結成し、MGMT、Beach House、Panda Bearなどのレコードをプロデュースしている。Panda Bear(パンダ・ベア)とのコラボレーションによる画期的なアルバム『Reset』(2022年)などが有名。


ディーン・ウェアハムとソニック・ブームの友情が始まったのは今から30年以上前のこと。1989年8月、ロンドンのクラブ「サブタニア」で行われたスペースマン3の最終公演の後、バックステージで彼らは出会った。その後も連絡を取り合い、時折ライヴステージを共にする機会に恵まれた。2002年、ソニック・ブームが「Sonic Souvenirs EP」のためにディーン&ブリッタの6曲をリミックス、初のコラボを実現させた。それ以来、彼らはツアーを共にし、多くの曲でコラボレーションしてきた。『A Peace of Us』はトリオとして初のフル・アルバムである。

 

インディの青春の集合体の砦として、60年代初期のポップ、ガレージ、カントリー、ジェームズ・ボンドのサウンドトラック、クリスマス・キャロル、そしてエレクトロニカからインスピレーションを得たコレクションに命を吹き込んだ。ディーン・ウェアラムは、DJの友人クリスの言葉を思い出している。「愛と憎しみ、喜びと心の痛み、ノスタルジア、後悔、期待、フラストレーションなど、音楽を通してクリスマスのあらゆる感情を体験することができるはずだ」


ホリデー・アルバムへの挑戦は大きな意味を持つ。長年にわたるいくつかのカヴァー・チューン、パンデミック時のクリスマス・スペシャル、そして最終的にはL.A.のディーン&ブリッタとポルトガルのソニック・ブームとの共同セッションによって拍車がかかった。トリオ全員がボーカルを担当し、ギターはウェアハム、ベースとキーボードはフィリップス、エフェクトとミックスはソニックが担当した。「ビング・クロスビー...オン・アシッドみたい」とブリッタは付け加え、トラックリストは、ホリデーが複雑で悲劇的なものであることを思い出させてくれる。


ホリデーソングの陽気な雰囲気にはよくあることだが、このクリスマス・アルバムにはほろ苦さが漂っている。ウォーリアムはデヴィッド・バーマンの最後の曲のひとつ「Snow Is Falling In Manhattanーマンハッタンに雪が降る」を歌っているが、この曲は、ディーンが "ホリデー・クラシックになる運命にある "と信じている。その歌詞は、バーマンの悲劇的な死を予感させる。"歌は時の中に小さな部屋を作り/歌のデザインの中に宿り/ホストが残した亡霊がいる"


クリスマス・ブルースは、ウィリー・ネルソンの「Pretty Paper」で再び表面化する。ここではブリッタとソニック・ブームのデュエットで、彼らの脈打つシンセを多用したプロダクションが、この曲を明るいホンキートンクではなく、暗いナイトクラブ向けにアップデートしている。


このコレクションは、通常のクリスマスの定番曲は避けているが、クラシックなインディー・ヘイズのファンは、「Peace on Earth / Little Drummer Boy」(ビング・クロスビーとデヴィッド・ボウイが1977年にTVでデュエットするために作られた曲)に新しいお気に入りを見つけるだろう。「私たちが一番好きなのはマレーネ・ディートリッヒのドイツ語版で、それが出発点だった」とウォーリアムは言う。この曲は3人が一緒に歌う。ウォーリアムのテナー、ソニック・ブームのバリトン、そしてフィリップスの落ち着いたコントラルトを聴くことができる。


「コラボレーションが燃料であるなら、平和と相互理解が火であることは間違いない。クリスマスは子供のためのものだしね」とディーンは言う。


ソニック・ブームはこう付け加える。「あるいは、私たち皆の中にいるインナーチャイルドのために。すべての人に善意を。来る年への期待と不安。そして暗闇の中の光。このお祭りが始まった場所」

 

 

『A Peace Of Us』 Carpark 

 

ジョン・レノンとは異なり、ルー・リードは明確にはクリスマス・アルバムというのを制作したことがない。しかし、よく調べてみると、『New York』というアルバムで、ベトナムからの帰還兵へ捧げた「X'mas In February(季節外れのクリスマス)」という深い興趣のある曲を歌っていた。ルー・リードは、その人物像を見ても、それとなくわかることであるが、一般的に見ると、少し回りくどいというべきか、直接的な表現を避けて、暗喩的な歌を歌うことで知られている。


彼は、ジョン・レノンのような典型的なホリデーソングを歌うのを避け、反戦というテーマをかなり慎重に扱ったのである。もうひとつ重要視すべきなのは、リードは単なる左翼的な曲を歌ったわけではない、ということである。彼は、自分の幸福ではなくて、他者の心の傷や仕合わせのために歌を捧げたということを忘れてはならない。そう、ルー・リードは、スーザン・ソンタグが指摘するような他者の痛みのために歌をうたったのだ。祈る必要はないのだが、時々、エゴを離れ、他者や大いなる存在について思いを巡らすことはそれほど悪いことではない。

 

ディーン&ブリッタ、ソニック・ブルームのクリスマス・アルバムは、直接的な反戦のテーマこそ含まれていないが、内的な平和のメタファーを歌うことで、リードのクリスマスソングに準ずる見事な作品を完成させている。同様に、ジョン・レノンの「War Is Over」のようなスタンダードな選曲から、17世紀のイングランド民謡「Greensleeves」、あるいは、18世紀のオーストリアの教会のクリスマス・キャロル「Silent Night (きよしこの夜)」を中心として、クリスマスソングの名曲をいくつか取り上げている。三人とも、インディーズ・ミュージック界の名物的な存在で、そして、音楽の知識がきわめて広汎である。このアルバムでは、驚くべきことに、ロックからクラシック、フォーク/カントリー、オールディーズ(ドゥワップ)までを網羅している。

 

アルバムは、デヴィッド・バーマンのカバー「The Snow Is Falling In Manhattan」で始まるが、ディーンが空惚けるように歌う様子は、ルー・リードの名曲「Walk On Wild Side」にもなぞらえても違和感がない。Galaxie 500の時代から培われたインディーロックのざらついた音質、そして、斜に構えたような歌い方、ソニック・ブームのプロデュース的なシンセサイザー、Wilcoのような幻想的なソングライティング、これらが組み合わされ、見事なカバーソングが誕生している。あらためてわかることだが、良い曲を制作するのに多くの高価な機材は必要ではないらしい。

 

カバー・アルバムやコンセプト・アルバムというのは、一般的な楽曲制作よりもハードルが高いので、うかつに手を出せない。それはなぜかというと、作曲的な知識はもちろん、編曲の能力が必須になるからである。クラシック音楽の観点から言うと、カバーソングというのは、変奏曲(Variation)の一形式であり、きわめて難易度が高い。そしてカバーは、原曲とまったく同じものになってはいけないが、原曲の筋書きを書き換えてもいけない。つまり、制約や禁則が意外と多いので、作曲のマイスターでも編曲には手こずることがある。

 

クリスマス・アルバムというと、基本的には、懐古的なサウンドがテーマになる場合が多いが、ディーン&ブリッタ、ソニック・ブームの狙いはおそらく、ホリデーソングの新しい側面を提示することにあったのだと思う。そして、原曲を忠実に解釈した上で、今まで知られていなかったクリスマスソングの面白さを提供してくれている。特に、ウィリー・ネルソンのカバー「Pretty Paper」は、シンセサイザーをフィーチャーしたエレクトロ・ポップで、ニューウェイブ・サウンドを参照し、原曲とは異なる曲に生まれ変わっている。編曲も見事であり、オーケストラのパーカッション(ティンパニ)がこのカバーソングにダイナミックな効果を及ぼしている。

 

ソニックブーム、ブリッタの両者にとっては、実際的な制作を行っていることからもわかる通り、映画音楽というのが、重要なファクターとなっているらしい。ジェイムス・ボンドの『007』シリーズでお馴染みのニーナ・ヴァン・バラントの曲「Do You Know How Christmas Trees Are Grown?」では、映画音楽に忠実なカバーを披露している。特に、この曲ではブリッタがメイン・ヴォーカルを歌い、The Andrews Sisters(アンドリューズ・シスターズ)のような美麗な雰囲気を生み出す。曲の途中からはデュエットへと移行していき、映像的な音楽という側面で、現代的なポピュラーの編曲が加わる。プロデュースのセンスは秀逸としか言いようがなく、ソニック・ブームは、シンセサイザーで出力するストリングスで叙情的な側面を強調させる。

 

ロジャー・ミラーのカバーソング「Old Toy Train」では、ディーンがルー・リードのオルタナティヴフォークやバーバンクサウンドの影響下にある牧歌的な雰囲気を持つフォークソングを披露している。Velvet Undergroundのデビューアルバムの「Sunday Morning」、『Loaded』の「Sweet Jane」の延長線上にあるUSオルタナティヴの源流に迫る一曲である。どうやら、彼らがアーティスト写真でサングラスを掛けているのにはそれなりの理由があるようだ。

 

その後、年代不明のポピュラーの果てしない世界に踏み入れるかのように、まもなく到来するクリスマスのムードを盛り上げる。 「Snow」は、ミュージカルをモチーフにした時代を超えるポピュラーソングで、ブリッタがメインボーカルを歌い、懐かしきオールディーズの世界へリスナーを招待する。フランク・シナトラ、ルース・ブラウンといった往年の名歌手の普遍的な音楽を彷彿とさせるこの曲は、ピアノ、シンセ、そしてボーカルのコラージュによって、美しくも儚いインディーポップサウンドへと昇華されている。クラシックとしての威厳、そしてインディーズミュージックとしてのラフさやユニークさが組み合わされた見事なクリスマスソングだ。

 

以降の二曲は、古典的な定番曲が選ばれている。「Silver Snowfales」はイングランド民謡、及び、ケルト民謡の定番曲のカバー。特に、シンセサイザーの生み出す魔術的な響きがこの曲のアレンジを決定付けている。また、デュエット形式のコーラスも、中世ヨーロッパのミステリアスな世界観を形作る働きをなしている。この曲のギターは、リュートのように鳴り響き、そして二人のコーラスは、イタリアン・バロックのような古典的な響きに縁取られている。ケルト民謡の持つ神話的な魅力に、古楽のような要素をもたらしたアレンジの手腕は実に見事である。


クリスマス・キャロルの名曲「Silent Night(きよしこの夜)」では、メインボーカルに合わせてバリトンのボーカルがベースラインの役割を担う。さらに続いて、ブリッタのアルトの音域にあるボーカルが掛け合わされる。古典的なオーストリアのクリスマス・キャロルは、原初的な幸福感を失わず、オーケストラパーカッションとともに、サイケデリックな編曲が加えられている。

 

 ビング・クロスビーのカバー「You're All I Want For Christmas」は、最初期のザ・ビートルズのソングライティングに影響を及ぼしたと言われるガールズ・グループ、The Ronettes(ロネッツ)の伝説的な名曲「Be My Baby」を彷彿とさせるバスドラムのダイナミックなイントロから始まり、果てなきドゥワップ(R&Bではコーラス・グループと呼ぶ)の懐かしき世界へと踏み入れていく。この曲では、ブリッタが夢見るかのようなドリーミーな歌声を披露し、AIのボーカルや自動音声では再現しえない人間味あふれる情感豊かなポピュラーソングを提供している。


ブリッタの歌声は音楽の素晴らしさを教えてくれるだろうし、そしてクリスマスのモチーフとなる鐘の音は、まるで雪道の向こうからサンタクロースが橇を引いてやってくる幻想的な情景を端的に描写するかのようである。ソニック・ブームの語る「暗闇に光を」という言葉は、宣伝でもなければキャッチコピーでもない。真心から出た言葉である。赤子、子供から大人、そして老人にいたるまで、彼らはクリスマスソングを介して、大きな夢を与えようというのである。


「Christmas Can't Be Far Away」は、エディー・アーノルドのカバーで、この曲もまたモノクロ映画の時代のサウンドトラックを聴くようなノスタルジアに溢れている。前曲と同様に、彼らは、戦争で荒廃する世界に光があること、そして、善意がどこかに存在するということ、また、信頼を寄せること、こういった人間の原初的な課題を端的に歌いこんでいる。分離する世界を一つに結びつけるという、音楽の重要なテーマが取り入れられていることは言うまでもない。


 

仕合わせなクリスマスが間近に迫ってくるのを予兆するかのように、彼らのカバーソングはより音楽の持つ核心的な領域に入り、そして楽しげな感覚を引き上げる。それはボーカル、コーラス、パーカッション、ギター、シンセ、パーカッション、シンプルな構成によって繰り広げられる。ほとんど難しい晦渋な音楽は登場しない。音楽の持つシンプルさを彼らは熟知しているのだ。特に、アルバムの終盤の楽曲と合わせて、「He’s Coming Home」は、素晴らしいハイライトである。バンジョーやスティール・ギターの演奏を基に軽快なムードを作り出し、ブリッタがアンドリューズ・シスターズやカレン・カーペンターのように、懐かしく泣けるようなクリスマスソングを巧みに歌い上げている。この曲の原曲の歌詞は、おそらく、制作者から見た他者の人生の一部分が切実に歌われており、それがゆえに重要な説得力と実感を持ち合わせている。

 

 「He’s Coming Home」

 

 

 

「Little Altar Boy」はカーペンターズのカバーではないかと思われる。ある意味では「オルタナティヴ三銃士」と言えるディーン&ブリッタ、ソニックブームは、この曲を古典的な風味を残しながら、原始的なシンセポップへと再構成している。比較すれば、カバーとわかるが、実際的に楽曲の雰囲気は全く異なっている。いわば、ローファイ、スロウコアを始めとするニッチなインディーズ精神がこのトラックから、ぼんやりと立ち上る。さらにドアーズのレイ・マンザレクのようなレトロなシンセが、フラワームーブメントの最中に発表されたローリング・ストーンズの『Thier Satanic Majesties Request』のようなサイケ・ロックのアトモスフィアを作り出す。


 「If We Make It Thought December」は、おそらくマール・ハガードが歌った曲で、クリスマスベルとフォーク・ミュージックが組み合わされたカバーソングである。ただ、この曲はブリッタがメインボーカルを取り、バンジョーのアレンジによる楽しげな雰囲気を付け加え、原曲にはない魅力を再発掘している。カバーアルバムでありながら、トリオの音楽的な核心を形成するメッセージ性は強まり、最後の二曲でディーン&ブリッタ、ソニック・ブームの言わんとすることがようやく明らかになる。


ビング・グロスビーとデヴィッド・ボウイの1977年のデュエット曲「Peach On Earth/ Little Drummer Boy」では、ドゥワップの歌唱法を用い、Velvet Undergroundから、Galaxie 500、ヨ・ラ・テンゴのオルタナティヴのムードを吸収した雰囲気たっぷりのロックソングへと昇華している。コーラスワーク、そしてアコースティックギターの演奏を中心に、オーケストラのスネアを使用し、ボレロのようなマーチングのリズムを取り入れ、見事なアレンジを披露している。

 

 

カバーの選曲が絶妙であり、また、オリジナル曲の魅力を尊重しながら、どのように再構成するのかという端緒が片々に見いだせるという点で、『A Peace Of Us』は多くのミュージシャンにとって、「カバーの教科書」のようなアルバムとなるだろう。本作のクローズには、ジョン・レノン/オノ・ヨーコの名曲「Happy X'mas(War Is Over)」が選ばれている。こういった名曲のカバーを聴くたび、ヒヤヒヤするものがある。(原曲も持つイメージが損なわれませんようにと祈りながら聴くのである)しかし、これが意外にマッチしているのに驚きを覚える。 分けても、サビにおける三者の絶妙なコーラスは、繰り返されるたび、別の音域に移り変わり、飽きさせることがほとんどない。そして、ジョン・レノンの全盛期のソングライティングに見受けられる瞑想的な音楽性は、このトリオの場合は、幸福感を強調した瞑想性へと変化している。

 

このカバーを聴くと、ジョン・レノンは、特別なミュージシャンではなく、むしろ一般的なファンや子供が気安く口ずさめるようにと、「Happy X'mas(War Is Over)」を制作したことが理解出来るのではないか。音楽は特別な人のためのものでもなければ、特権階級のためのものでもないことを考えれば、当然のことだろう。果たして戦争のない時代はやって来るのだろうか??

 



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「Snow」

 

 

■ Dean & Britta  - Sonic Boom 『Peace Of Us』は本日、Carparkから発売。ストリーミングはこちら