ポスト・ロックに関するレビューは断片的に記してきたものの、網羅的なディスクガイドについてはそれほど多くは取り上げてきませんでしたので、今回、改めてポスト・ロックの代表的なアーティストと決定盤を下記に取り上げていこうと思います。
選出に関しては現代的な音楽から見ても先鋭的なバンドの作品を中心にご紹介していきます。以前のタッチ・アンド・ゴー特集のレコメンド、日本のポストロック特集も是非合わせてご覧ください。
では、ポスト・ロックというのは何なのか?? シンプルに説明しますと、その名の通り、ロックを先を行く音楽で、アバンギャルド・ロックとほぼ同意義といっても良いでしょう。ただ、これらは他のジャンルと同じく、マスロックをはじめ無数のサブジャンルに細分化されているため、相当なマニアでもなければ、その変遷を説明することは難しいので、ここでは割愛して大まかな概要のみを述べておきます。
ポスト・ロックの音楽は大まかに3つに分けられます。一つは、轟音系と呼ばれるもので、MBVの轟音の次の時代に出てきた音楽です。これらは、オーケストラ音楽に近いダイナミックな編成がなされる場合もある。例えば、MOGWAI、シガー・ロス、MONOが該当する。2つ目はスティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスの現代音楽のミニマリズムを継承したロックで、Don Cabarello、God Speed You Black Emperror!が該当する。もうひとつは、ジャズの影響を受けたライブセッションの延長線上にあり、Toroise、Sea And Cakeが当てはまる。
90年代前後に彗星のごとく登場したポスト・ロックの音楽は、70年代のパンクムーブメントがそうであったように、形骸化した音楽に対して新鮮なムードをもたらそうというミュージシャンの意図が込められていました。 これは穿った見方かもしれませんが、同年代のLAの産業ロックに対する反抗心もあったかもしれません。
80年代〜90年代当初、ポストロックは米国で盛んになった後、海外にも広がっていき、アジアやヨーロッパでもインディーシーンを中心に盛り上がった。日本では、ToeやLITE、そしてAs Meias、台湾の高雄でもElephant Gymが台頭しています。その後、現在はジャズが盛んなイギリスにそのシーンの拠点を移し、特にロンドンを中心に前衛的なロック・ミュージックを志向するバンドが徐々に増えている。
一例では、ロンドンのブラック・ミディやBC,NR、また、ドライ・クリーニングやキャロラインも明らかにポスト・ロックの範疇にある音楽に取り組んでいます。これは、ロンドン近辺の若者が普通に米国のアメリカーナやエモ、ポスト・ロックに親しんでいることの証明ともなっている。
そして、当初のシカゴやルイヴィルのシーンを見るとわかるように、これらのロックの次の時代を象徴する新しい音楽というのは、必ずしもオーバーグラウンドのシーンから出発したとはかぎりません。
当初は、アンダーグラウンドに属する小さなライブスペースから発生し、音楽ファンの間でその名が徐々に知られるようになった。例えば、Minor Threat〜Fugaziと同じように、それらのバンドはDIYのスタイルを図り、少人数規模のスタジオ・ライブを行うこともあったのです。
もちろん、後のポストロックが有名になっても必ずしも先駆者のバンドが世界的な知名度を得るとは限らなかった。モグワイやシガー・ロスのような一般的な存在が出てくるのは最初の出発点から見ると、だいぶ後のこと。つまり、90年代のグランジも同様ですが、新しい音楽がアンダーグランドからオーバーグラウンドに引き上げられるのには、それ相応の時間を要するわけです。
God Speed You! Black Emperor(Canada)
GY!BE(God Speed You! Black Emperor)は、カナダのポストロックシーンを象徴する偉大なバンドである。現在もメンバーを入れ替え、さらにストリングス奏者を増やして活動中。
バンド名は日本の暴走族の映画のタイトルに拠る。一般にいうポスト・ロックというジャンルの大まかな印象は、このバンドの音楽を通じて掴めるといっても過言ではない。ライヒのミニマリズムに根ざした曲の構成、チェロやヴァイオリンの導入、リバーブとディレイをかけた音響系のギターの音作り、映画のような会話やアンビエンスのサンプリングを導入し、物語調の音楽を紡ぎ出す。
GY!BEの楽曲は、ほとんどが10分を越えで、20分以上に及ぶ場合もある。大掛かりな曲がほとんどであるが、一曲の中に複数の小曲が収録され、それらの音のタペストリーが映写機のように連続していく。ライブではギタリストが椅子に座って演奏し、フィードバックを最大限に活用する。これまでのライブでは、ステージの背後にプロジェクターを設置し、映像と音楽を同期させるインスタレーション風のパフォーマンスを行っている。
米シカゴのクランキー・レコードから2000年発売された伝説的名盤『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』の発売当初は、海外メディアからレッド・ツェッペリンの音楽と比較される場合もあったという話。
「Storm」のミニマリズムも魅力ではあるが、実際のところ、このアルバムに収録されている「Static」、「Sleep」は『Led Zeppelin Ⅳ』に匹敵する凄さを体感出来る。1999年のJohn Peel Sessionの伝説のライブはこちら。
『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』 2000 Kranky
Mogwai (Scotland)
最近では、映画のサウンドトラックのリリースや、再発、回顧録などが中心となってしまい、ライブバンドとして第一線を退いてしまった感もあるモグワイであるが、以前、ディスクユニオンのスタッフのレビューではポスト・ロックというジャンルを紹介する上で必ず出てきた。それが上記のGY!BEとスコットランドのインディーロックシーンの象徴的な存在モグワイである。
97年の「Young Team」がNMEの年間ベストアルバムの七位に選出され、ニューライザーとして一躍注目を浴びだ後、2000年代を通して、世界的なロックバンドとして成長していった。日本の音楽シーンとも関わりがあり、ある作品にはENVYのボーカルが参加していることでも知られる。
モグワイの音楽がなぜポスト・ロックないしは新しいロックといわれたのかについては、アイルランドのMBVの轟音性をアンビエント的に解釈し、反復のディストーションギターのフレーズとリズムを通じて確信的に組み立てた功績が大きいといえるだろうか。また、よく言われる叙情性溢れる轟音ロックや、静と動を通じて繰り広げられる楽曲展開については、特にグラストンベリーやフジロックのような大型のロックフェスのコンサートとも親和性が高く、2000年代以降の音楽シーンの象徴的な存在となったのは何も不思議な話ではなかった。
反復フレーズを中心とするシンプルな轟音のギターロックは、初見のリスナーでも音楽の持つ世界に簡単に入り込むことが出来る。
今はなき日本の富士銀行をアートワークにあしらった「Young Team」、「Come On Die Young」を薦める方も少なくないと思われるが、ここでは、美麗なメロディーと轟音性が生かされた「The Hawk In Howling」を入門編として推薦したい。このアルバムに収録されている「I'm Jim Morrison,I’m Dead」、「Thank You Space Expert」は音響系のポスト・ロックの金字塔とも称するべき名曲である。なお、モグワイのスチュアート・ブレイスウェイトは現在、Silver Mossとして活動を行っている。
『The Hawk In Howling』 2008 Wall Of Sound Ltd.
Sigur Ros(Island)
現在来日公演中のビョークとともにアイスランドの象徴的な存在であり、またモグワイとともにポストロックの象徴的な存在であるヨンシー率いるシガー・ロス。1994年に結成、現在も活動中、昨年、『Art Of Mediation』をリリースしている。後の時代には、ステージでビョークと共演を果たしている。ライブではボーカルとともにヨンシーがバイオリンの弓を使用する場合もある。
シガー・ロスは、音響系と呼ばれるポスト・ロックのサブジャンルに属するバンドである。アンビエントや環境音楽とモグワイと同じように轟音性の強いロックを融合させ、90年代以降のロックシーンに革新性を与えた。それに加えて、フロントマン、ヨンシーのアイスランド語のボーカルを交えた音楽性は後の米国のExplosion In The Skyのようなバンドのお手本に。加えて、アイスランドの国土の気風の影響を受けた美麗なロックミュージックはそれ以前のU2の後の時代のロックミュージックとして多くのファンから受け入れられることになった。
その後、アイスランドにはヨハン・ヨハンソン、オーラブル・アーノルズとポスト・クラシカル/モダンクラシカルに属するミュージシャンが数多く出てきて、そして世界的な活躍をするようになった。そういった意味では、以前の記事でも書いたことなのだが、ビョーク、及びシガー・ロスはこれらの後続のミュージシャンの活躍への架け橋ともなった重要なアーティストなのである。音響系のポストロックとしてシガー・ロスは良盤に事欠かないが、お薦めとして、『agaetis byrjun』を挙げておく。この作品では、俗に言う音響系と呼ばれるアンビエントとロックの融合という革新的な音楽性の核心に迫ることが出来るはずである。
『Agaetis Byrjun』 1999 KRUNK
Rachel's (US)
ケンタッキー/ルイヴィルシーンでSlintとともにポスト・ロック/マスロックシーンの先駆的なグループ、Rachel's。現在はピアノ奏者としてモダンクラシカルシーンで活躍するレイチェル・グリムを中心に、Rodanのギタリスト、ジェイソン・ノーブルを擁する室内楽に近い編成のアート集団である。弦楽器とピアノを交えたバンドとして、91年からジェイソン・ノーブルが死去した2012年まで活動した。図書館のようなスペースでDIYの活動を行っていた。
それほど多作なアート集団ではないが、二十年間の活動の間にリリースされた作品はマニア向けではありながら、実験音楽として軒並み高いクオリティーを維持していた。活動開始から四年後に発表された95年のデビュー作『Handwrinting』は、カナダのGY!BEにも強い影響を及ぼしたと思われる。オーケストラにおけるミニマリズムとロックの融合の原型が「M.Dagurre」に見出せる。芸術家、エゴン・シーレを題材にした「Music For Egon Shiele』もオーケストラの室内楽として高いクオリティーを誇る。
彼らレイチェルズの入門編としては、2003年の最後の作品『System/Layers』をおすすめしたい。レイチェル・グリムスのピアノの演奏を中心に、ミニマリズムに触発された音楽性とジブリ音楽のような情感豊かな弦楽器のパッセージが劇的な融合を果たした傑作。全キャリアを通じて唯一のボーカルトラック「Last Things Last」を収録している。必ずしも、ロックの範疇にはないグループではありながら、後続のポストロックシーンに与えた影響は計り知れない。
『System/Layers』2003 Quartersticks
Tortoise(US)
いわゆるシカゴ音響派のくくりで語られることも多いトータス。現在のインディーズシーンで象徴的なミュージシャン、元Bastroのメンバー、ジョン・マッケンタイア、後に同地のジャズシーンの象徴的な存在になるジェフ・パーカーを中心に結成された。
ジャズを始め、様々な音楽が盛んなシカゴの気風を反映したアバンギャルドロックバンドである。 タイトルを冠したデビューアルバムではジャズを反映させた実験的なロックバンドとして台頭したが、続く96年の『Million Will Never Die』でシカゴ音響派と呼ばれるジャンルを確立。97年の「TNT」では時代に先んじてレコーディングにラップトップを導入し、ハードディスクレコーディング(Pro Tools)を採用し、 ユニークなサウンドを打ち出して成功を収めた。それまでバンドは演奏をテープに録音し、その後にデジタル・リマスターを施していた。
『TNT』はポストロックの先駆的なアルバムである。 ロックとコンピューターレコーディングの融合というのは現代的な録音技術としては一般的に親しまれる手法となったが、最初にこの音楽性にたどり着いたのは、RadioheadとTortoiseであった。現在も定期的にライブを開催しており、実際のライブセッションにおけるアンサンブルの超絶技法は、その場に居合わせたオーディエンスを圧倒する。レコーディングバンドとしてもライブバンドとしても超一流のグループである。PitchforkのMidwinter 2019での『TNT』のフルセットはトータスのキャリアにおいて伝説的なライブに数えられる。
『TNT』1998 Thrill Jockey
Battles(US)
ニューヨークのダンスロックバンド、Battlesは、Helmetのドラマー、ジョン・ステニアー、Don Caballeroのイアン・ウィリアムズを中心に結成。現在は脱退してしまったが、タイヨンダイ・ブラクストンが10年まで参加していた。またバンドは、7年、11年、16年にフジロックフェスティバルで来日公演を行っている。英国のダンスミュージックの名門、ワープ・レコーズと契約し、実験的なダンサンブルなポストロックバンドとしては当時、最大の成功を収めた。
知るかぎりにおいて、これだけシンバルの位置を高くするドラマーをいまだかつて見たことはない。シンバル(金物)の音の抜けを意識していると思われるが、実際のライブや映像を見ると、本当にびっくりする。
バトルズのポストロックバンドとしての最大の特徴は、変拍子を交えたテクニカルな構成力もさることながら、イアン・ウィリアムズが持ち込んだドン・キャバレロ時代のギターロックの革新性をダンサンブルなロックとして受け継いだことにある。デビューアルバム『Battles』はポストロックというジャンルにとどまらず、ロック・ミュージックの名盤に上げてもおかしくないような傑作である。
しかし、こういった以前には存在しなかった前衛的なサウンドが完成するまでに実に20年もの月日を費やしている。それ以前にメインメンバーの二人が90年代のUSアンダーグラウンドシーン、ドン・キャバレロやヘルメットのメンバーとして十分な実験を重ねた末に生み出されたものであり、この音は決して、一年や二年で考案されたものではない。特に、ドン・キャバレロのミニマリズムに根ざしたマスロックの要素がクラブミュージックのキャッチーさと組み合わさることで唯一無二の音楽が生み出されたのである。
『Mirrored』2007 Warp
toe(Japan)
海外でポストロックというジャンルが隆盛をきわめるにしたがい、2000年代の日本でもこのシーンに属するバンドが登場する。
日本の新宿を中心とするポスト・ハードコアのコンテクストから言うと、既にENVYがポストロックに近い作風を2003年の『Dead Sinking Story』で確立していたが、その後のジェネレーションがいよいよ登場するようになった。これらのシーンにあって、最初は3ndなるホーンセクションと変拍子を交えたアバンギャルドロックバンドが台頭、その後、パンク/ハードコアシーンで活躍していたBluebeard/There Is A Light That Never Goes Outのメンバーを中心に結成されたAs Meias,LITE、そしてtoeが 00年代のシーンを担う。最近、ロックダウン時に毎日新聞のインタビューに登場し、アーティストとしての提言を行っている。
toeの音楽に関して言えば、ミニマルの影響を交えたテクニカルで複雑な構成力を持つロック、いわゆるマス・ロックの典型例である。しかし、一方で、これらのマニア向けのコアな音楽性の中にも、エモーショナルな雰囲気と日本語のポップスの影響を交えたわかりやすい音楽性がtoeの最大の魅力。2000年代に国内のシーンで頭角を現したtoeは、その後、日本の全国区のロックバンドとなり、以後、LAでのライブを成功させ、その名を現地のシーンにとどめた。
オリジナル・アルバムとしては、2015年の『Hear You』を境にリリースが途絶えているtoeではあるものの、彼らの入門編としては代表曲「グッド・バイ」(シンガーソングライター、土岐麻子が参加したバージョンもあり)を収録した2009年の『For Long Tomorrow』がまず先に思い浮かぶ。
このアルバムに見られる変拍子に象徴されるテクニカルな構成力、及び、ポリリズムを交えた立体的なフレーズの組み上げ方は、日本のシーンに実験的なロックがもたらされた瞬間を刻印したと言えよう。また、LITEと同じく、邦楽ロックという観点から洋楽をどのように解釈するのかという点でも、バンドはこの作品にたどり着くまでかなりの試行錯誤を重ねた形跡もある。ライブバンドとしてのダイナミックな迫力と内省的なエモーションを兼ね備えた決定盤である。下記の「グッド・バイ」の映像はLAでのライブを収録。現地の観客の日本語の熱いシンガロングにも注目したい。
『For Long Tomorrow』 2009 Machupicchu Industries
Elepahnt Gymー大象體操 (Taiwan)
アジアのシーンにも波及したポスト・ロックのウェイブは、日本のみならず、台湾にも新しい風を吹き込むことになり、海に近い高雄からエレファント・ジム(大象體操)という象徴的な存在を輩出する。2012年結成と比較的新しい歴史を持つエレファント・ジムは、兄弟のKTChangとTellChang、ドラマーのChia-ChinTuにより構成されている。昨年、二年ぶりとなるフルレングス『Dreams』のリリース記念を兼ねてフジロックで来日公演を行っている。
近作で、エレファント・ジムはSF的な世界観を交えた近未来を思わせる実験的なロックに取り組んでいるが、当初、バンドは先行のポスト・ロックバンドと同様、ミニマル・ミュージックの影響を絡めたマス・ロックのバンドとしてミュージックシーンに登場している。実際のライブやライブを収録したAudio Treeシリーズのバージョンでは、KT Chanのタッピングをはじめとするテクニカルなベースの演奏を楽しむことが出来る。しかし、現時点での決定盤としては以前紹介しているとおり、2016年のEP『工作』が入門編として最適。マス・ロックの象徴的なミニマルのフレーズと、シティ・ポップに近い雰囲気を持つ中国語の柔らかいフレーズを交えたKT Chanのボーカルが合わさり、バランスの取れたポストロックサウンドが生み出されている。
また、バンドは、日本語歌詞でも歌い、来日時のライブではMCを日本語で行うこともあるのだとか。日本での活躍にも期待したい。
Elepant Gym 『Work (工作)』 2016 EP
Black Midi(UK)
以後の時代になると、ロンドンにもポスト・ロックのウェイブが押し寄せることに。昨年、最新作『Hellfire』を発売し、来日公演も行ったロンドンのアバンギャルドロック・バンド、ブラック・ミディはイギリスのアバンギャルドロック・バンドの中で強い存在感を放つ魅力的なグループである。デビュー当初はドイツのCANを始めとするクラウト・ロックの影響を絡めた前衛性の高い作風でロンドンのシーンに名乗りを上げる。最初の作品のリリース後、マーキュリー賞にもノミネートされ、受賞こそ叶わなかったがパフォーマンスを行っている。
現在は、サックス奏者を交えた四人組として活動しているが、キング・クリムゾンのプログレッシヴロックの要素とミュージカルのようなシアトリカルな要素が劇的に合致し、唯一無二の作風を昨年のサードアルバム『Hellfire」で打ち立てることになった。
ファースト、2nd、3rdと毎回、若干の音楽性の変更を交えた作品としてどれも違った魅力があることは明白であるが、このバンドの醍醐味を味わう上では現時点でバランスの取れた3rdアルバム『Hellfire』を入門編としておすすめしておきたい。前作の「John L」から引き継がれた音楽性は、このバンドの持つ超絶的な演奏技術により、無類の領域へと突入しつつあるようだ。このフリージャズの要素は、プログレッシヴ・ロックとスラッシュメタルの方向性へと突き進んでいき、3作目の「Welcome To Hell」で結実を果たす。また、二作目から受け継がれたミュージカル風の音楽やバラードもまたブラック・ミディの音楽の醍醐味のひとつ、つまり代名詞のような存在となっている。今後、これらの作風はどのように変化するのか今から楽しみで仕方がない。
「Hellfire」2022 Rough Trade
Black Country,New Road(UK)
こちらもロンドンのポストロックシーンを代表するブラック・カントリー、ニュー・ロード。メンバーのサイドプロジェクトには、Jockstrapがある。昨年、アイザック・ウッド参加の最後の作品となった 2ndアルバム『Ants From Up Here』をリリースし、またフジロックでも来日公演を行っている。
現在、バンドはフロントマンの脱退後、新編成でライブを開催しつつ、新曲を試奏しながら練り上げている。今後、どのような新作が登場するか、心待ちにしたい。ライブ盤としては先週末に発売された『Live at The Bush Hall』がファンの間で話題となり、バンドの代名詞的なリリースとなっている。
前時代のポストロックシーンの音楽性を踏襲し、ジャズの影響をセンスよく織り交ぜ、弦楽器を交えてライヒのミニマリズムを継承したロックサウンドは、ロンドンのシーンを活性化させた。ファーストアルバムのアートワークについても、インターネットの無料画像を活用し、それを印象的なアートワークとならしめた点についても、現代のティーネイジャー文化の気風をセンス良く反映させたといえる。BC,NRもブラック・ミディと同様に、最初のアルバムがマーキュリー賞にノミネートされ、一躍国内の大型新人として注目を浴びるに至った。
『Live at Bush Hall』 2023 Ninja Tune