アルバムのリリース以前には、実際にキング・クリムゾンの名曲「21th Century Schizoid Man」を単発のシングルとしてリリース(ヴォーカルの雰囲気はなぜかフランク・ザッパにそっくりだった・・・)してますが、これは明らかに、これまで海のものとも山のものともつかなかったロックバンド、ブラック・ミディの音楽がプログレに根ざしたものであると決定づけたリリースでした。
アルバムを全体的に見渡すと、既に海外のメディアのレビューで指摘されているように、速さを感じる作品ではあります。しかし、よく聴くと、「Hellfire」を初め、ミドルテンポの中にスラッシュ・メタル、グラインド・コアのような高速テンポを持つ要素を取り入れているので、実際的には速さを感じるのと同時にどっしりした安定感も随所に感じられる。また、このアルバムで明らかになったのは、このバンドが直近の二作で目指すのは、キング・クリムゾン、そしてYESの代表的な傑作『Close To The Edge』のように変拍子を多用したテクニカルなプログレッシヴ・ロックで、その基本要素の中に、ロック・オペラ、スラッシュメタル、サイケ、フォーク、ジャズ、と、このバンドらしい多種多様な音楽性がエキセントリックに取り入れられている。
しかし、Black Midiのサードアルバム「Hellfire」の最大の魅力はそのどこに行くか分からない危うさ、定点を置かない流動性にあるとも言える。これから彼等がどこに向かうのか、それは誰にも分からないが、少なくとも、本作は、YESの「Close To The Edge(危機)」、King Crimsonの「In The Court of the Crimson King(キングクリムゾンの宮殿)」に比肩するようなアバンギャルド性、アグレッシブさ、また凄まじい迫力を持った雰囲気のある大作であることは間違いありません。