精神的な葛藤、失恋と新しい愛や友情、祖先や人間性への疑問と自己開示や内省を織り交ぜたという今作はストリングスに満ちたオープニング曲”Growing Pains”から始まる。2019年に彼女の名前を世界的に押し上げた名曲” Lovestained”の時代を想起させる癒しのソウルサウンド。バンドのエネルギーに満ちた遊び心溢れる” Bad Love God”、 ボサノヴァ調のプロダクションにのせて甘く歌い上げることでメロディが滲み出る”Jumping the Gun”。LAとロンドンを拠点に楽曲を制作することでそれぞれの土地から影響を受けたグルーヴがそれぞれの楽曲に漂っている。
2016年にEP『Voyages By Starlight』でデビュー。それから1年、ついにリリースされたのが本作『Silence』は、ある1日の午後の時間のみをつかい、ライヴ・レコーディングでつくられました。ア・ウィングド・ヴィクトリー・フォー・ザ・サルンやパフューム・ジーニアスなどのライヴのオープニング・アクトで力をつけた、ヴォーカルとソロ・ピアノを中心にさまざまなノイズやエフェクトのレイヤーによるライヴのフィーリングを持ち込んだ全8曲。
胸締め付けるほどの哀愁と心地よい高揚感に包まれる先行シングル「Come On, Dreamer」や「Sparks」、前述の「Time」など切ない名曲が立ち並びます。繊細なメランコリアをまとった浮遊感漂う流麗なポスト・クラシカル的アプローチのプロダクションとその天賦の歌声は、まるで人気ピアニスト、ニルス・フラームが世にも美しいファルセット・ヴォイスを手に入れたかのよう。トム・アダムスが歌う静寂の歌に包まれるとき、例えようのない美しい風景が目前に広がることでしょう。
国内盤のみ、ボーナストラックとしてEP『Voyages By Starlight』の未発表アウトテイク「Circles」と、ライナーノーツ/歌詞対訳のダウンロード・コードつき。
アルバムの冒頭を飾る「If He Changed My Name」は、ジム・オルークが最初期に確立したアヴァンフォークを中心に展開され、不安定なスケール進行の曲線が描かれている。しかし、それ対するコンツアーのボーカルは、ボサノヴァの範疇にあり、ジョアン・ジルベルト、カルロス・ジョビンのように、粋なニュアンスで縁取られている。「粋」というのは、息があるから粋というのであり、生命体としての息吹が存在しえないものを粋ということは難しい。その点では、人生の息吹を吸収した音楽を、ルーカスはかなりソフトにアウトプットする。アコースティックギターの演奏はヤスミン・ウィリアムズのように巧みで、アルペジオを中心に組み立てられ、ジャズのスケールを基底にし、対旋律となる高音部は無調が組み込まれている。協和音と不協和音を複合させた多角的な旋法の使用が色彩的な音楽の印象をもたらす。 そしてコンツアーのボーカルは、ラテンの雰囲気に縁取られ、どことなく粋に歌をうたいこなすのである。
意外なスポークンワードで始まる「Ark of Bones」は、アルバムの冒頭部のように緩やかなトロピカリアとして流れていく。しかし、ピアノの演奏がこの曲に部分的にスタイリッシュな印象を及ぼしている。これは、フォーク、ジャズ、ネオソウルという領域で展開される新しい音楽の一つなのかもしれない。少なくとも、オルークのように巧みなギタープレイと霊妙なボーカル、コーラス、これらが渾然一体となり、得難いような音楽体験をリスナーに授けてくれるのは事実だろう。続いて、「Guitar Bains」も見事な一曲である。同じくボサやジャズのスケールと無調の要素を用いながら新しいフォークミュージックの形を確立している。しかし、聴いて美しい民謡の形式にとどまることなく、ダンス・ミュージックやEDMをセンスよく吸収し、フィルターを掛けたドラムが、独特なグルーヴをもたらす。ドラムンベース、ダブステップ、フューチャーステップを経た現代的なリズムの新鮮な息吹を、この曲に捉えることが出来るはずだ。
「6-Life In Number」は、エリック・サティの「ジムノペティ」の系譜にあるピアノの演奏で始まる。それに続くのは、ドーン・リチャードのニューオリンズ・バウンスの語りだ。ゾーンの演奏は基本的に精妙な感覚に縁取られているが、時々、アナログディレイのアンビエンスを織り交ぜ、通奏低音のような役割を持つリチャードのスポークンワードを補佐している。この曲は、従来の音楽ジャンルにはなかった形式で、「アンビエント・ヒップホップ」の誕生の瞬間と言えそうだ。ただ、これはすでにダニー・ブラウンが昨年リリースした『Quaranta』で暗示していた手法であるが......。
「7-Moments For Stillness」は、ストリングスを編集においてデチューンしたドローンである。これは米国のローレル・ヘイローや日本のサチ・コバヤシに比する手法で、ドローンミュージックの形式が選ばれている。この曲もまた、 インタリュードやムーヴメントの役割を持ち、曲と曲のつなぎの役割を果たしている。なぜ、こういった曲を入れるのかといえば、核心を突く楽曲ばかりだと聞き手が疲弊してしまうからである。しかし、単なる間奏的な曲とも言い難いものがあり、アルバムにバリエーションを与えているのみならず、収録曲全体に何らかの働きかけをしている。その後、アルバムは終盤に差し掛かり、オープニングに見受けられるような、ペーソスに充ちたネオソウルをベースに、音楽そのものがダイナミックさと迫力味を増していく。その音響効果を担うのがシネマ・ストリングスだ。続く「8-The Dancer」では、シネマティックな音楽の性質が強まり、リチャードのヴォーカルが主役となる。それは舞台の後ろにいたはずのリチャードにスポットライトが当てられ、舞台の中央に出てくるような演出効果である。そのあと、それとは対極的な音楽表現が登場する。氷のように冷たい響きを持つザーンのアルペジオをもとに、シネマティックなポップスが構築される。「9-Breath Out」は、音楽における演劇性が確立された瞬間であり、ポピュラー音楽の範疇で展開される。また、バレエ音楽の趣向もあり、何らかの登場人物の動きの効果を音楽が体現しているかのようである。これらは単一の音楽表現に留まることなく、ネオソウル、ジャズ、オーケストラというように、多角的なジャンルを内包させながら、音楽におけるストリーテリングのような役割を果たしている。
本日、Bartees Strange(バーティーズ・ストレンジ)は、2025年2月14日にリリースされる3枚目のフルアルバム『Horror』を発表した。 2022年の『Farm To Table』に続く、彼の最も野心的で幅広いプロジェクトである。リードシングル「Sober」のミュージックビデオは下記よりご覧ください。(ストリーミングはこちら)
イギリスのイプスウィッチで軍人の父とオペラ歌手の母の間に生まれたバーティーズ・ストレンジは、オクラホマ州ムスタングに落ち着くまで、各地を転々とする子供時代を過ごした。 その後、ワシントンD.C.やブルックリンのハードコア・バンドで活躍する一方、バラク・オバマ政権や環境正義運動に携わる。最近では、アップルTVの『The New Look』やA24の『I Saw The TV Glow』など、人気のTVや映画のサウンドトラックで彼の音楽がフィーチャーされている。 また、カーラ・ジャクソンとレーベルメイトのアンジマイルとともにTV On The Radioの「Wolf Like Me」をカヴァーし、近日発売予定のレッド・ホット・コンピレーション『Transa』に収録される。
主要なチャートにランクインすることもあったジョアン・アズ・ポリス・ウーマンはこの最新作で、純粋なポピュラー・ミュージックを制作しようとしている。それはまたジャズやソウルが含まれたポピュラーとも称せる。これまでのソロ作、及び、コラボレーションの経験を総動員したようなアルバムである。少なくとも近年の作品の中では、象徴的なカタログとなるかもしれず、古典的なソウル(ノーザン・ソウル、サザン・ソウル)、ゴスペル、ファンクソウル、そして現代的なポピュラーやロックの文脈を交え、聴き応え十分のアルバムを制作している。ファンク・ソウルのテイストが強く、リズムは70年代のソウルに根ざしている。そこにヒップホップ的なビートを加えて、モダンなソウルのテイストを醸し出すことに成功している。ファンクの性質の強いビートは、主に、プリンスが登場する以前のグループのサウンドを参考にして、グルーヴィーなビートを抽出している。「Long For Ruin」等はその象徴的なトラックで、ハスキーボイスを基に、ファンクのギターやゴスペル風のコーラスを背景としながら、しんみりとした感じとまた雄大さを兼ね備えたブラック・ミュージックの真骨頂を示している。
同様に先行シングルとして公開された「Full Time Heist」はサザン・ソウル/ディープ・ソウルのビートを基に、聴きごたえのあるバラードソングを作り上げている。オーティス・レディングのような深みを持つこの曲を取り巻くクインシー・ジョーンズのアーバンコンテンポラリーの要素は、やはりピアノの演奏や渋みのあるゴスペル風の深みのあるコーラスと合わさると、陶酔的な感覚や安らいだ感覚を呼び起こす。特に、細部のトラック制作の作り込みを疎かにしない姿勢、そして、ファルセットからミドルトーンに至るまで、細かなボーカルのニュアンスを軽視せずに、歌を大切に歌い込んでいるため、聴き入らせる何かが存在しているのかもしれない。
また、それとはかなり対象的に、「Back Again」では、70,80年代以降のファンクソウルを踏襲し、ディスコビートを反映させ、キャッチーなヴォーカルを披露している。懐古的なナンバーであるが、ポリス・ウーマンは一貫して現代的なポピュラーの要素を付け加えている。また、デスティニーズ・チャイルドのダンス・ナンバーに近い「Remember The Voice」等などを聞くと分かる通り、古典的なソウルだけがポリス・ウーマンのテーマではなく、一大的なブラックミュージックの系譜を改めて確認しなおすような狙いを読み取ることもできる。
ただ、全体的にはエレクトロニクスを追加し、リズムを複雑化したとしても、全体的なサウンドプロダクションは、古典的なバラードに焦点が絞られているため、やはり上記の主要曲と同じように静かに聞き入らせる何かが存在している。 エレクトリック・ピアノとシンセサイザーの組み合わせの中から、ボーカルの力によって何か霊妙な力を呼び起こすことがある。これまでの音楽的な蓄積を踏まえて、エルトン・ジョンのような親しみやすいバラードを書こうという意識がこういった良曲を生み出す契機となったのかもしれない。それに続く「Tribute to Holding On」は、ソウルミュージックとして秀逸なナンバーである。ポリス・ウーマンはハスキーな声を基に、シンプルなバンド構成を通じて、サザンソウルの醍醐味を探求しようとしている。バックバンドの演奏も巧みで、カスタネット等のパーカッション、ヴォーカルの合間に入るギター等、ポリス・ウーマンのヴォーカルを巧みに演出している。これらのバンドサウンドは少しジャズに近くなることがあり、それらのムードたっぷりな中で、アーバンソウルの系譜にある渋いボーカルを披露している。ニューヨークの夜景を思わせるようなメロウさがある。
従来から培ってきたソングライターとしての経験の精華がアルバムのクローズ曲「Help Is On It's way」に顕著に現れている。ジャズピアノをフィーチャーし、良質なポピュラー・ソングとは何かを探求する。この曲はまた現代的なバラードの理想形を示したとも言えるかもしれない。
ロンドンのシンガーソングライター/ギタリスト、Nilufer Yanya(ニルファー・ヤンヤ)は、多彩な表情を持つ。多角的なクロスオーバー性とハイブリットな音楽性により、2022年頃から熱心な音楽ファンの注目を集めてきた。そして、The Faderが「衝撃的な復活」と称したように、今年の5月頃に、「Like I Say(I Runaway)」を引っ提げて、久しぶりのカムバックを果たした。
このシングルでは、2022年のアルバム「Painless」のR&B、ベッドルームポップ、ブレイクビーツ、ラップ、オルタナティヴ・ロック(グランジ)を劇的に結びつけた。歌詞の中では少し棘のあるリリックの表現を取り入れている。それはミュージシャンとしての深化を意味し、人間的に一歩先へと踏み込んだことへの表れでもある。これはアルバムのオープニングを飾る「Keep On Dancing」にも顕著に表れ出ているかもしれない。表向きをなぞらえるソングライティングの影は立ち消え、より深い領域に踏み込むことをためらわなくなった。おそらくそれがシンガーソングライターをして、「より過激なアルバム」と言わしめることになった。過激さとは、表現性において、今までよりも一歩先に踏み込み、未知の領域へと差し掛かることを意味している。実際的に、それは、轟音性の強いディストーションギターに反映される場合がある。しかし、2022年頃の音楽と同様、エレクトリックギターによるサウンド・デザインの趣旨が強い。ヤーニャのギターの演奏の趣旨は、まごうことなきサウンド・デザインなのであり、それらのイメージを的確に体現させ、強調させるのが彼女自身のボーカルというわけである。
別のジャンルからの引用や影響を元の自分の音楽的なスタイルとかけ合わせるというこのアルバムのソングライティングの方向性は、続く「Ready For Sun」を聞くとより瞭然かもしれない。オーケストラストリングスをシンセサイザーのシーケンスのように敷き詰め、その空間的な音の処理の中で、何が出来るのかというのが、この曲の目論見であると推測される。それはやはり、前作アルバムの延長線上にあるネオソウルとオルタナティヴ・ヒップホップの中間にある形式をとって繰り広げられる。しかし、注目すべきは、今回のアルバムでは、ヤンヤは必ずしも彼女自身の声を主体としているとは限らないということである。ときには、優雅なオーケストラストリングが前面に出てきたり、ビートがそれと立ち代わりに主体になったりと、流動的な音楽を重視している。もちろん、歌手の声がメインになることもあるのだが、必要以上にその音楽的な空間を専有するということがないのである。そしてこれは、内的な感覚の告白ともいうべき際どい感覚を持つリリックの印象とは異なり、非常に控えめな音楽的な態度を取り、主体となる音楽に対して、一歩距離を置くような姿勢を全面的に維持し続けている。いわばそういった柔軟性のある音楽性が、このアルバムに一度聴いただけでは分からない深みを付与する。
ニルファー・ヤンヤの音楽は、制作時の観点における難易度とは裏腹に、それほど難しくなりすぎることはない。基本的には、誰にでも親しめるようなポピュラーアルバムを制作しようとしているのは明らかで、たとえソングライターとしての視点が高い水準にあろうとも、初歩的なリスナーにも聞きやすい曲を制作することを最優先事項にしている。これは作曲家としての親切心であり、過度なサウンドエフェクトや、難解な展開を極力避けて、一貫してグルーヴ感を意識した曲構成を心がけている。これはまた、ニルファー・ヤンヤが構成的な側面に心を配りながらも、感覚的な側面を軽視しないことに理由がある。「なんとなく良い感じ」とヤンヤが言うように、理想的な音楽とは、言葉では言い表せず、また、文章にも出来ない部分があることを踏まえ、それらをしなやかな感覚を持つポピュラー・ミュージックに仕上げる。この感覚的なポピュラー、ロック、R&Bを制作する手腕にかけては、現時点のところ、このシンガーソングライターに比肩する存在は見当たらない。「Call It Love」、「Faith's Late」は、このアルバムにおいて、制作者が単に曲の寄せ集めではなく、音楽性のバリエーションを基にし、一連の流れを持つレコードを制作しようとしたことを伺わせる。そして、反面、少し意外なことに、それは同時に、名曲とまではいかないかもしれないが、良曲を輩出させる重要な契機ともなった。
このアルバムでは、音楽そのものが個人的な告白や軽薄なロマンチシズムに終始するのを避けている傾向がある。それでもなお、一貫して、人生の中から引き出される感覚的なものはコントロールされているが、終盤になって、それらの何かに恋い焦がれたり、理想的な人生の側面を追い求めるような、夢想的な感覚が堰を切るようにして溢れ出る。AOR(ソフィスティ・ポップ)、ヨットロック、ボサノヴァを題材にし、80年代のポップのフィルターに通した「Faith's Late」、オルタナティヴフォークをシリアスな風味を持つネオソウルとして解釈した「Just A Woman」に反映させている。これは古典的なポップやソウルをアーティストが咀嚼していることの証でもある。現代的なものを作り上げるためには、時々、過去にも目を向けねばならない。
On ‘Method Actor’, Nilufer Yanya explains how the concept for the song came about. 'I've been researching Method Acting and from what I've read, Method Acting is based on finding life-altering, life-altering memories. The reason why some people find method acting traumatic or mentally unsafe is because they always go back to that moment. There are good and bad moments, but you always feed off that energy, something that defines you. It's a bit like being a musician. Even when I'm playing, I'm trying to evoke the energy and emotion that I had when I first wrote it, in that moment. I try to try and evoke the energy and emotion of that moment, that moment in time.’
London singer-songwriter/guitarist Nilufer Yanya is a man of many faces. His multifaceted crossover and hybrid musicality has attracted the attention of dedicated music fans since around 2022. Then, around May this year, in what The Fader called a ‘shocking comeback’, they made their first comeback in a long time with the song ‘Like I Say (I Runaway)’.
The single dramatically links R&B, bedroom pop, breakbeats, rap and alternative rock (grunge) from the 2022 album ‘Painless’. The lyrics incorporate a slightly thorny lyrical expression. It signifies a deepening as a musician and a sign that he has taken a step further as a human being. This may be most evident in the album's opener ‘Keep On Dancing’.
The shadows of songwriting that traced the surface have disappeared, and the band no longer hesitates to venture into deeper territory. Perhaps that is what led the singer-songwriter to call it a ‘more radical album’. Radicality means going one step further than before in terms of expressiveness and entering uncharted territory. Practically, this is sometimes reflected in the roaring distortion guitars. However, as with the music of around 2022, the aim of sound design with electric guitars is strong. The intent of Janya's guitar playing is unmistakably sound design, and it is her own vocals that embody and emphasise these images precisely.
Another of these sound design directions is applied to track production in general, with beat-making reflecting breakbeats and adding a soft feel of R&B flavours combined with sinewy rhythms to build independent music. Janya's songwriting is about combining beats to give them a groove, and then finally considering several possibilities in terms of what kind of guitars and vocals to put on top of the groove, like design and textiles. Rather than creating something from scratch, the songwriter chooses the best of several options and sublimates them into a catchy number that is easy to listen to and ride. These not only symbolise a sense of personhood, but also a singer's emphasis on fashionable taste. Unlike most musicians, for Nilufer Janja, making music means choosing the clothes that suit her best, decorating them and turning them into a completely unimaginable piece of music.
It may be true that the album also contains a conceptual theme of finding one's true self from a different perspective by playing something other than one's true self, but it is embedded inside like a script, a fleshed-out element at the base of the musicality, and rarely surfaces on the surface. It rarely surfaces. The themes and ideas contained within the album are, moreover, not enough to wait with open mouth for the listener to come to them; they can only be discovered if you approach them yourself. In other words, to be more precise, this is not a passive popular album, but popular music that encourages active listening.
To find the true value of this album, you may have to wade into the jungle of the album yourself. This means that deep within the superficial musical resonance, the conceptual flickers like a flame of emotion, and the listener discovers a phantom of that flame within the superficial, easy-to-grasp, familiar whirlpool of popular music. In other words, Nilufer's My Method Actor is a strange album with a milfoil-like structure. Insert one fork into its surface and you find something else beyond it. In other words, it is a type of music that has rarely been heard before, where each turn of the musical page reveals a different story or aspect.
Musically speaking, the style is marked by a collage-like combination of bedroom pop and detailed electric guitar playing, which is interlaced with hip-hop beats that form the backdrop to the track as a whole. This is not, however, a recent development, but a style that has continued since the 2022 album. However, My Method Actor offers more musical options and more receptacles for output than the previous album. This is clearly evident in the form of mellow, urban neo-soul in the two tracks ‘Binding’ and ‘Mutations’, which shape the flow of the early part of the album. ‘Mutations’, in particular, is not as flashy as the songs on the previous album, but it symbolises the band's entry into deeper songwriting territory. This is evident in the post-neo-soul style of Frank Ocean's next generation, with alternative rock/math-rock guitars and neo-soul lustrous vocals and choruses. In the second half of the song, he attempts to bring multiple new elements into R&B music by placing synthesised strings.
The direction of the album's songwriting, in which references and influences from other genres are crossed with his original musical style, may be more apparent in the following track ‘Ready For Sun’. Laying down orchestral strings like a synthesiser sequence, the song is presumably intended to show what can be done with that spatial treatment of sound. It still unfolds in a format somewhere between neo-soul and alternative hip-hop, an extension of the previous album. It is worth noting, however, that on this album, Yanya does not necessarily use her own voice as the main instrument. At times, the emphasis is on fluid music, with graceful orchestral strings coming to the fore and beats taking their place. Of course, the singer's voice is sometimes the main focus, but it does not occupy the musical space any more than necessary. And this is different from the impression given by the lyric, which has a harsh sense of confession of inner feeling, and adopts a very reserved musical attitude, maintaining an overall attitude of keeping one step away from the music as the main subject. This musical flexibility, so to speak, gives the album a depth that cannot be understood after just one listen.
Nilufer Yanya's music is not overly difficult, despite the level of difficulty from a production point of view. Basically, it is clear that he is trying to produce a popular album that is accessible to everyone, and even if his songwriting perspective is of a high standard, he makes it a priority to produce songs that are easy to listen to for even the most rudimentary listener. This is a kindness as a composer, and he tries to avoid excessive sound effects and esoteric developments as much as possible, and to consistently structure his songs with a groove in mind. This is also the reason why Nilufer Janja pays attention to the compositional aspect but does not neglect the sensory aspect. As Yanya says, ‘It's kind of nice’, he is aware that there are aspects of ideal music that cannot be described in words, nor can they be put into writing, and he turns them into supple sensory popular music. At the moment, no singer-songwriter can compare to her skill in creating sensual popular, rock and R&B music. ‘Call It Love’ and ‘Faith's Late’ suggest that, on this album, the producers have tried to create a record that is not simply a collection of songs, but a series of records based on variations in musicality. On the other hand, somewhat surprisingly, it was also an important opportunity to produce good songs, if not masterpieces.
On this album, the music itself tends to avoid being all about personal confessions and frivolous romanticism. Nevertheless, the sensuality drawn from life is consistently under control, but towards the end of the album, a dreamy sense of longing for something of those things and the pursuit of idealised aspects of life floods in like a weir: AOR (sophisti-pop), yacht rock, and the album is a perfect example of the kind of music that is often used in the music of the late 1960s and early 1970s, Bossa Nova as reflected in ‘Faith's Late’, which takes its subject matter and passes it through the filter of 80s pop, and ‘Just A Woman’, which interprets alternative folk as neo-soul with a serious flavour. This is also a testament to the artist's mastication of classic pop and soul. In order to create something contemporary, one has to look to the past from time to time.
Although ostensibly hidden by the contemporary sound production, the latter tracks show a yearning for classic R&B disco-soul classics such as The Supremes. Is Nilufer Yanya's concept of disco not in the glitz and glamour of glittering mirror balls, but in the mellow and mellow space on the side of the floor? It also suggests that the artist is pushing music closer to chillwave, bringing up the multiple musical contexts behind the superficial alternative pop: yacht rock, AOR or black contemporary/urban contemporary. Another expression of Guitar Hero as an artist can be found in ‘Wingspan’.
Perhaps Nilufer Yanya, although of a different gender, could take the place of Frank Ocean's next generation. Times have changed and it is no longer difficult for solo artists to produce music like a band. This is likely to become even more pronounced in the music scene in the future. In response, it is necessary to show what the difference is between a solo artist and a band. ‘My Method Actor’ is as diverse as a chameleon in a jungle. This is a work that breaks with conventional ways of listening to music.
ウェールズ/チャーチ・ヴィレッジが生んだ新星、CVC(チャーチ・ヴィレッジ・コレクティヴ)がニューシングル「The Lowrider (Just About Meant To Be)」を発表した。「サタデー・ナイト・フィーバー」を思わせるノスタルジックなディスコロックに酔いしれよう。
昨年、CVCは、「世界で活躍するようなバンドになりたい!」と表明していたが、その野望は現実のものに。ライヴスペースでじわじわと影響力を持つようになり、地元ウェールズの公演は軒並みソールドアウト。ニューヨーク公演も実現させた。ライヴは熱気に溢れ、素晴らしく驚異的であるという。ラグビー場とパブを特色とするウェールズの町の魅力とロックバンドの野心を融合させたCVCは、新しい作品を生み出すため、スタジオ入りした。愛とロマンスへの夢の賛歌「The Lowrider (Just About Meant To Be)」は、2人が完璧にシンクロする瞬間を歌っているという。
この曲の共同ソングライター/ヴォーカリストであるデイヴ・バッシーは次のように説明している。
『The Lowrider』は、昔住んでいた地元(カーディフのThe City Arms)で、遠距離恋愛中の恋人のこと、僕らがいかに "Just about meant to be "であるかについて、長いセッションの後に書いた! 家に帰ってシンセの "ベース "セッティングをしたら、曲の続きが出てきた。曲のタイトルは『The Lowrider』なんだけど、これはスヌープ・ドッグに参加してもらったら最高だと思ったから!」
しかしながら、このデビューアルバムでポップスターとしての前兆は十分見えはじめている。もちろん、ラディカルな側面だけが歌手の魅力ではあるまい。「Dirty」では、Teddy Swimsとの華麗なデュエットを披露し、カントリーやアメリカーナ、そしてロックをR&Bと結びつけて、古典的な音楽から現代への架橋をする素晴らしい楽曲を制作している。ジェシー・マーフの歌声には偉大な力が存在し、そしてどこまでも伸びやかで、太陽の逆光を浴びるかのような美しさと雄大さを内含している。この曲こそ、南部のソウル・ミュージックの本筋であり、メンフィスのR&Bを次世代へと受け継ぐものである。そこにブルースの影響があることは言うまでもない。さらに「Son Of A Bitch」も、バンジョーの演奏を織り交ぜ、カントリーをベースにして、ロック的な文脈からヒップホップ、そしてモダンなR&Bへ、まるで1970年代から50年のブラック・ミュージックの歩みや変遷を再確認するような奥深い音楽的な試みがなされている。
アルバムの冒頭では、マスタリング的なサウンドは多くは登場しないが、反面、中盤にはエクスペリメンタルポップの範疇にある前衛的なポップスの楽曲が登場する。例えば、「I Hope It Hurts」はノイズポップの編集的なサウンドを織り交ぜ、シネマティックなR&Bを展開させている。また、続く「Love Lies」では、ヒップホップの文脈の中で、ロックやカントリーといった音楽を敷衍させていく。これらは、「ビルボードびいきのサウンド」とも言えるのだが、やはり聞かせる何かが存在する。単に耳障りの良い音楽で終わらず、リスナーを一つ先の世界に引き連れるような扇動力と深み、そして音楽における奥行きのようなものを持ち合わせているのだ。
アルバムの中盤の2曲では、形骸化したサウンドに陥っているが、終盤になって音楽的な核心を取り戻す。いや、むしろ19歳という若さで音楽的な主題を持っているというのが尋常なことではない。探しあぐねるはずの年代に、ジェシー・マーフは一般的な歌手が知らない何かを知っている。それらは、「High Road」を聞くと明らかではないだろうか。マーフはこの曲で基本的には、主役から脇役へと役柄を変えながら、デュエットを披露している。実際的に、Koe Wetzelのボーカルは、80年代のMTVの全盛期のブラック・コンテンポラリー/アーバン・コンテンポラリーのR&Bの世界へと聞き手を誘うのである。サビやコーラス、そしてその合間のギター・ソロも曲の美しさを引き立てている。何より清涼感と開放感を持ち合わせた素晴らしいポップスだ。さらに、Baily Zimmmermanとのデュエット曲「Someone In The Room」では、アコースティックギターの演奏を基にこの年代らしいナイーヴさ、そしてセンチメンタルな感覚を織り交ぜ、見事なポップソングとして昇華させている。また、マーフのボーカルには、やはり、南部のR&Bの歌唱法やビブラートが登場する。もちろん、デュエットとしての息もピッタリ。二人のボーカリストの相性の良さ、そして録音現場の温和な雰囲気が目に浮かんできそうだ。
アルバムの最終盤では、エイミー・ワインハウスのポスト世代としての声明代わりのアンセム「Bang Bang」が登場する。この曲では、自身のダーティーな歌声や独特なトーンを活かして、フックの効いたR&Bを生み出している。やはり19歳とは思えない渋みと力感のある歌声であり、ただならぬ存在感を見せつける。デビューアルバムでは、そのアーティストが何者なのかを対外的に明示する必要があるが、『That Ain't No Man That's The Devil』では、その水準を難なくクリアしている。何より、商業主義の音楽でありながら、一度聴いて終わりという代物ではない。
本作のクローズでは、現代のトレンドであるアメリカーナを主体とし、アラバマの大地を思い浮かばせるような幽玄なカントリー/フォークでアルバムを締めくくっている。音楽や歌の素晴らしさとは、同じ表現性を示す均一化にあるわけではなく、他者とは異なる相違点に存在する。最新の音楽は「特別なキャラクターが尊重される」ということを「I Could Go Bad」は暗示する。2020年代後半の音楽シーンに必要視されるのは、一般化や標準化ではなく、他者とは異なる性質を披瀝すること。誰かから弱点と指摘されようとも、徹底して弱点を押し出せば、意味が反転し、最終的には大きな武器ともなりえる。そのことをジェシー・マーフのデビュー作は教唆してくれる。文句なしの素晴らしいアルバム。名門コロンビアから渾身の一作の登場だ。
90/100
Best Track 「Dirty」
Jessie Murphのデビューアルバム『That Ain't No Man That's The Devil』はコロンビアから発売中。ストリーミングはこちらから。
Best New Tracks- Dawn Richard & Spencer Zahn 「Diet」 (Sep. Week 2)
Dawn Richard(ドーン・リチャード)、Spencer Zahn(スペンサー・ザーン)はともにマルチ奏者として活躍している。リチャードは、R&Bやエレクトロニックを得意とし、ボーカリストとして主に活躍する。他方、ザーンは器楽奏者の性質が強く、昨年、モダン・クラシカルの連作アルバム『Statues Ⅰ』、『Statues Ⅱ』を立て続けに発表。ピアノ、ギターを中心とする鍵盤楽器や弦楽器を得意とする。二人はともに、トラック制作の名手でもあるが、今回のコラボレーターでは、まさしく両者の長所を活かしながら、短所を補うという意義が込められている。
「Traditions」と「Breath Out」に続く三作目のシングル「Diet」は、Teddy Swimsをフィーチャーしている。スペンサー・ザーンの美しいピアノにエレクトロニックやミニマルの効果を加えて、ドーン・リチャードのソウルフルなボーカルに洗練された響きをもたらす。秋の夜長にじっくりと耳を澄ませたい良曲である。近日リリース予定のアルバム『Quiet in a World Full of Noise』の第3弾となる。試聴は以下から。
『Quiet in a World Full of Noise』は、このデュオの2022年のコラボレーションアルバム「Pigments」に続く作品で、Merge Recordsから10月4日にリリース予定。
『Painless』まではATO/PIASに所属していたシンガーの新契約は、アーティストにとって新しい旅の始まりを意味する。このニュースとともに新曲「Like I Say (I runaway)」を発表した。
この新曲は、2022年リリースのアルバム『PAINLESS』以来の作品である。「Like I Say (I runaway)」は、ヤーニャの妹モリー・ダニエルが監督したミュージック・ビデオと共に発表された。ニルファーが家出した花嫁に扮するこの曲は歪んだディストーションギターが特徴的。 90年代のオルタナティヴ・ラジオを彷彿とさせるコーラスの下で歪んだギターのクランチが強調されている。
ニルファー・ヤンヤは「Method Actor」の発表とともに『My Method Actor』を正式に発表した。ニューヨーク・タイムズ紙が「対照的なテクスチャーを楽しむ」と評したほか、ザ・フェイダー紙が "衝撃的な復活 "と評した最近のシングル「Like I Say (I runaway)」に続くものだ。
ヤンヤはクラブビートからネオソウル、オルタナまでをセンス良く吸収し、2020年代のニューミュージックの境地を切り拓く。簡潔性に焦点を当てたソングライティングを行う彼女だが、そのなかにはスタイリッシュな響きがある。そして音楽そのものにウィットに富んだ温かさがある。それは、シニカルでやや刺々しい表現の中に含まれる奥深いハートウォーミングな感覚でもある。これはアルバムの前に発表された「Like I Say(I Runaway)」によく表れている。
ニルファー・ヤンヤがニューアルバム『My Method Actor』の第3弾シングル「Call It Love」を公開した。この曲は先行シングル2曲とは異なり、R&Bテイストのアプローチが組み入れられ、涼し気な印象を放つ。ギターやシンセ、ストリングス、スティールパンなどを導入し、オルトフォークにトロピカルなイメージを添えている。しかし、こういったゴージャスなアレンジは旧来にはそれほど多くなかった。以前よりも遥かにトラック自体が作り込まれている印象を受ける。