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トム・ウェイツは、13枚目のスタジオ・アルバム『Mule Variations』の25周年を記念して、ロッカーは「Get Behind the Mule 」の新バージョンをリリースした。(各種ストリーミングはこちら


ウェイツの作品はデビュー当時から私生活にまつわる物語か織り交ぜられてきた。その中にはリアルとフィクションが境目を失うかのごとく混在している。「Get Behind the Mule (Spiritual)」は、ウェイツがウーリッツァーだけを伴奏に、殺人と逃亡の不吉な物語に新たな次元をもたらす。


『Mule Variations』は、このアルバムをリリースするために設立されたエピタフ・レコードの姉妹レーベル、ANTI- Recordsから1999年4月にリリースされた。本作はグラミー賞の最優秀コンテンポラリー・フォーク・アルバム賞を受賞、3曲目の「Hold On」は最優秀男性ロック・パフォーマンス賞にノミネートされた。


「トム・ウェイツと彼のアルバム『ミュール・ヴァリエーションズ』は、私たちのレーベルを立ち上げるきっかけとなっただけでなく、信頼、創造性、芸術の境界を押し広げることへの愛によって築かれた永続的なパートナーシップの火付け役となりました。」


ANTI-社長のアンディ・コールキン氏はさらに補足している。「私は個人的に、物心ついたときからトム・ウェイツの大ファンでした。彼の音楽をリリースするためにレーベルを立ち上げました。トムの芸術的な真正性と回復力の精神の体現は、私たちがスタートしたときの北極星であり、彼の比類なき創造性は、私たちの活動すべてにインスピレーションを与え、原動力となり続けている」

 

 

 「Get Behind the Mule(Spiritual)」



このアルバムでは、エッジの効いたストンプ、ユーモア、実験が、彼がこれまでに書いた最も美しく個人的な曲のいくつかに散りばめられている。


今年、レーベルとアルバムの25周年を記念して、「Get Behind The Mule」の未発表音源が公開された。アルバムの象徴的な曲の別テイクでは、ウェイツのゴスペルのうめき声が、硬質なウーリッツァーだけを伴奏に、生の感情で共鳴している。このストリップダウンされた演奏は、殺人と忍耐の暗い物語を増幅させ、ウィットに富んでいる。


1983年、アルバム「Swordfishtrombones」をリリースしたウェイツは、70年代のノワール・ロマンティシズムや伝統的なティン・パン・アレイのソングライティングから離れ、生来の叙情性、メロディーの洗練性、人間性はそのままに、激しく独創的なサウンド・スカルプター、抽象的なオーケストレーター、潜在意識の採掘者となった。


歌詩で物語を語る代わりに、彼は印象主義的なオーラル・ランドスケープで言葉を縁取るようになった。ウェイツの最初の10年間のレコーディングのトレードマークであったピアノとコンボの基盤(時折オーケストラの下支え)は、カリオペ、バリの金属製アウングロン、グラス・ハーモニカ、ベース・ブーバム、ブレーキ・ドラム、パレード・ドラム、弓付きのこぎり、ポンプ・オルガン、アコーディオン、メロトロン、オプティゴン、ファラフィサ、プリペアド・ピアノ、バンジョー、さらにはウェイツが自作した打楽器、彼がコンダードラムと名付けた楽器など、さまざまなものに変化していった。 

 

『ミュール・ヴァリエーションズ』は、彼の輝かしいキャリアの両段階の要素を発展させたものだ。


超現実的な外見と不穏な内面がひとつに溶け合い、初期を代表するダークでブルージー、そして、しばしば優しく、痛烈な意識の流れの語り口('The Heart of Saturday Night')が「Mule Variations」には確かに存在し、アイランド・レコード時代のより角ばった破壊的な実験的サウンド('Swordfishtrombones')もあることは注目に値する。 


 
「シュールとカントリーの中間をいくようなことをやろうというのが、当初のアイデアの一部だったのは間違いない」とウェイツは説明する。

 

「僕らはそれをシュール・ルーラルと呼んでいる。それがこの曲たちなんだ。何か古いものの要素があり、それでいてちょっと混乱させるような...」とウェイツは回想する。


アルバム曲「Hold On」は、その年のグラミー賞で最優秀男性ロック・パフォーマンス賞にノミネートされ、アルバムはグラミー賞の最優秀コンテンポラリー・フォーク・アルバム賞を受賞した。
 

2023年の終わり頃、トム・ウェイツは久しぶりに活発に活動していた。イギー・ポップのラジオ番組のエピソードに参加したほか、シェーン・マクゴーワンへのトリビュートを書いたほか、SFFILMアワード・ナイトで、ニコラス・ケイジに生涯功労賞を贈るために珍しく公の場に姿を見せている。

 

Simon Farintosh「APHEX TWIN FOR GUITAR」2021

 



カナダの西海岸のギタリスト、サイモン・ファリントッシュは、クラシカルギターの名プレイヤーとして知られ、これまで数多くの賞を受けている実力派のギタリスト。これまでに、フィリップ ・グラスのグラスワークスをクラシックギターでカバーしている。

 

少し遅まきの情報になってしまうが、そんな彼が今や押しも押されぬイギリスのビックアーティストといえるエイフェックス・ツインのアコースティックギターのカバー曲を収めたシングルEPを今年リリースしている。シングルリリースながら、全六曲が収録され、小さなアルバムとして楽しむ事ができる。 

 

 


 

 

 

 

TrackListing




1.Film

2. Apill 14th

3.Hy a Scullyas Lyf a Dhagrow

4.Kesson Daslef

5.Jynweythek Ylow

6.Alberto Balsam 



 

 

元々、これまでエイフェックス・ツインというアーティストは”ドリルンベース”を始めとする秀でた天才的リズムメイカー、トラックメイカーとして世界的な評価を受けているように思えるが、個人的には、リチャード・D・ジェイムスというアーティストは、「Come To Daddy」に挙げられる暴虐的なフレーズを表向きの印象とする楽曲からは及びもつかない、叙情的でありながら繊細で美しい旋律を紡ぎ出す秀逸な”メロディメイカー”としての表情も併せ持っている。

 

もちろん、リチャード・D・ジェイムスは、イギリスを代表する電子音楽家ではありながら、ケージをはじめとする現代音楽にたいする造詣も深い。そのあたりが自身のアルバムにおいてのプリペイドピアノの導入といった実験的なアプローチへと歩みを進ませ、彼のバリバリの電子音楽家とは異なる現代音楽的な趣向性を持たせる。音楽性の間口が広すぎるため、リチャード・D・ジェイムスの音楽性というのは、一見、無節操のようにも聴こえるかもしれないが、どのような音楽であれ、自分の音楽の中に柔軟性をもって取り入れてしまうのがリチャード・Dという鬼才の凄さなのである。

 

そして、彼の音楽家としての表情には、時に、まったく本来の姿から乖離したメロディメイカーとしての姿が見いだされる。

 

それは、「Apilil 14th」「aisatsana [102]」といった清かで涼やかな楽曲の中に見いだされる。彼の電子音楽家としての轟音性ーーノイズの対極性にあるこの意外な静寂性、これは初期の「アンビエント・ワークス」から現在まで引き継がれている側面といえる。しかし、これまではいまいち、その意外性のようなものが何であるのか分かりづらい面があった。

 

しかし、今回、サイモン・ファリトンリッシュという名プレイヤーのクラシックギターでのアプローチが明らかにしたのは、エイフェックス・ツインの音楽においての静寂性、そして心優しい抒情性というのがむしろ彼の音楽の本質であるという事実である。

 

この2021年リリースのEP作品には、エイフェックスの名曲「Film」「April 14th」「Alberto Balsam」といった代名詞的な楽曲を網羅しながら、ここで全面的に展開されていく音楽性のは、電子音楽としてのエイフェックスではなく、まったくそれとは乖離した古典音楽としての表情を持つ上品なエイフェックスである。ここでは、今までとは異なる表情がたっぷり味わえると思う。

 

 

 

一曲目の「Film」は、エイフェックスの原曲自体は、非常にエモーショナルな美しい楽曲だったが、ここで名プレイヤーのサイモン・ファリントッシュのナイロンギターのたおやかな爪弾きによって、見事に、現代の電子音楽が由緒ある古楽に様変わりしているのは驚愕!としか言うよりはほかない。


元々、エイフェックスの音楽にはコード感というのは希薄であるものの、ここで、このカナダの名クラシックギタリスト、サイモン・ファリントッシュ氏は、美しい和音をアルペジオと、そして、綺羅びやかな対旋律によって、うるわしく彩ってみせている。ここで、なんともいえないイタリア古楽のような雰囲気を持つ上質な楽曲に生まれ変わりを果たしている。

 

「Apiril 14th」もまた美しいカバー曲となっている。サイモン・ ファリントッシュのアルペジオというのも優雅な響きをなし、そして、時に、そこから清らかな水のようにこぼれ落ちるミュートのニュアンスというのはほとんど絶品というしかない。あっさりした感じのカバーではあるけれども落ち着いていて上品な曲に仕上がっている。 

 

もう一つ興味深いのが「Alberto Balsam」である。この曲もまた、エイフェックスの代名詞的な一曲であるが、ここではクラシカルギターだけではなく、原曲に忠実なリズムトラックが加わることでかなりゴージャスな仕上がりとなっている。ファリントッシュ氏のリズミカルな演奏にマシンビートとハイハットの彩りが加味され、心楽しいアレンジ作品となっている。ここではまたエイフェックス・ツインの原曲と異なる穏やかでノリの良い雰囲気を堪能できるだろうと思う。

 

このアルバムは、サイモン・ファリントッシュ氏のリュート的なクラシカルギターの流麗な演奏が、これまた、まるでイタリア古楽のような上質で芳醇な香りを漂わせている。

 

今まで見いだされていなかったリチャード・Dのメロディメイカーとしての魅力が存分に引き出された素晴らしい作品である。まだ一般の市場には出回っていない作品ではあるものの、隠れた名盤として挙げておきたい。

 

エイフェックス・ツインを全然知らないというリスナーも充分、楽しめるような楽曲のラインナップになっている。もちろん、エイフェックスのファンは、この電子音楽家の異なる魅力を見いだす手助けになるかもしれない。ジャケット、音、共に、とても美しい名カバー作品として推薦させていただきます。

 

 参考

 

disquiet.com https://disquiet.com/2021/02/03/simon-farintosh-aphex-twin-guitar/