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1. Eli Kezler「The Vaulting Sky」


ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する実験音楽家・パーカッション奏者のイーライ・ケスラー。

 

3月リリースされた新作シングル「The Vaulting Sky」は、これまでのケスラーの音楽性と同様、実験音楽として未知の領域に踏み入れており、アンビエント音楽をパーカッションの視点から解釈しているように思えます。前作のアルバム「Icons」で見せた涼し気な打楽器的なアプローチと、都会的なアンビエンスが絶妙に組み合わされた独特な音楽がここに生み出されました。


 

 

 

2.Patric Shiroishi 「 442」


モダンジャズ、またアヴァンギャルドジャズのアルトサックス奏者として、LAを拠点に活動するパトリック・シロイシ。

 

今月にリリースされた「442」は、二つの異なる解釈を交えた実験音楽です。現代音楽とモダンジャズの要素を融合した独特の作風が生み出されています。アルトサックスの芳醇で落ち着いた音色が魅力の作品です。一曲目はアバンギャルドジャズ、現代音楽として、二曲目はノイズアバンギャルドの領域に踏み入れた実験性の高い作風です。 

 

 

 

 

3.Maia Friedman 「Sunny Room」


メイヤ・フリードマンは、NY・ブルックリンを拠点に活動するマルチインストゥルメンタリスト/シンガーソングライター。ダーティー・プロジェクターズとしても、2018年から活動している。

 

メイヤ・フリードマンは、先日、アルバム「Under The New Light」を発表していますが、この作品を紹介しそびれたので、今回、アルバムの六曲目に収録の「Sunny Room」を取り上げておきます。

 

メイヤ・フリードマンの紡ぐ音楽は自然味にあふれ、余分な力が抜けており、あるがままで心やすさが込められています。メイヤ・フリードマンは、ソングライターとして秀でた才覚に恵まれており、インディーポップ/フォーク音楽を介して独特な物語性を作品中に込めています。しかし、現在、それほど注目を受けていないので、これからの活躍が非常に楽しみなシンガーソングライターです。

 

女性シンガーソングライターの爽やかで清涼感のある作品をお探しの方はぜひこのシングル「Sunny Room」、そして、アルバム「Under The New Light」をおすすめしておきます。 

 

 

 

 

4.Aldous   Harding 「Fever」

 

オルダス・ハーディングは、ニュージーランドを拠点に活動するシンガーソングライターです。ユミ・ゾウマを始め、ニュージーランドには魅力的な音楽を奏でるアーティストが数多く活躍しています。

 

そして、オルダス・ハーディングもまたニュージーランドシーンの注目すべきシンガーソングライターに挙げられます。

 

この先行シングル作品「Fever」で、人を選ばず、多くの方に楽しんでいただける内容。往年のバブルガム・ポップの近いアプローチが採られ、1960-70年近辺の懐かしいポピュラー・ミュージックの方向性が図られ、跳ねるようなリズムを持った音楽が提示されています。また、オルダス・ハーディングは、先週、注目作のアルバム「Warm Chris」をリリースしていますので、こちらの方もおすすめです。全体的なサウンドの印象としましては、とっつきやすい雰囲気のあるバブルガム・ポップで、往年のビートルズファンには何か琴線に触れるものがあるかもしれません。



 

5.Sven Wunder 「Mosaic」


「スウェーデンの謎多き鬼才」と称される音楽家のスヴェン・ワンダーは、今回、3月にリリースされた「Mosaic」において西洋音楽のアプローチとは一定の距離を置き、イスラム圏、あるいはインドや日本の雰囲気を感じさせる異国情緒漂う作風を確立。

 

スヴェン・ワンダーは、今作において、民族楽器とオーケストレーションの融合を図り、リムスキー・コルサコフの「シェエザラード」のアラビアンナイトのようなロマンチシズム、或いは、西洋社会から見た東洋のエキゾチズムを音楽を介し表現しています。ジャズとも、クラシックとも、ポップスとも、また、映画音楽ともつかない、ミステリアスな雰囲気を持つ注目のシングル作です。 

 

 

 

 

6.Eydis Evensen 「The Light Ⅰ」

 

 

アイディス・イーヴェンセンは、一度注目のアーティストとして取り上げていますが、アイスランドのポスト・クラシカルシーンの中でも期待のアーティストです。

 

今回、リリースされた「The Light Ⅰ」では、これまでと同様、アイディス・イーヴェンセンはレイキャビクのオーラブル・アルナルズにように、古典音楽のロマン派に近い叙情的なピアノ曲に取り組んでいます。

 

このシングル曲では、イーヴェンセンの元モデルとしてのセンスの良さが滲み、そこに物語性あふれる起伏にとんだピアノ曲が生み出されています。アイスランドのレイキャビクの四季折々の厳しさと麗しさの両側面を持つ北欧の風景を思い浮かばせるかのようで、明るさと暗さの両極端な叙情性が、イーヴェンセンの繊細な演奏タッチによって見事に描き出された楽曲です。

 



 

7.Lullatone 「Shapes In Time」


ララトーンは、名古屋を拠点に活動中のショーン・ジェームス・シーモア、その妻の富田叔美による電子音楽ユニットです。これまで、ささやかではありながら、素晴らしい活動を続けています。

 

エレクトロニック(電子音楽)とフォーク音楽を絶妙にかけ合わせた落ちついてリラックスできる作品を数多く残しているララトーンは、今回も心やさしいサウンドのコンセプトについてはなんら変わることはありません。たとえるなら、春の海辺で、穏やかな波風に揺られるような温もり、心地よさ。昔の日本の民謡を耳にするようなノスタルジーに溢れるとても素敵な一曲です。

 



 

・Portico Quartetto 「Next Stop」


まず最初に紹介するのは、厳密にはシングルでなく、最注目のEP作品。ロンドンを拠点に活動するインストゥルメンタルバンド、ポルティコカルテットの「Next Stop」です。

 

これまでに、Nina Tuneからも作品をリリースしています。ジャズ、アンビエント、エレクトロほかの要素を込め、テクニカルな演奏力を交え、玄人好みのインストロックが展開。ノルウェー、オスロのJaga Jazzistにも比する実力派のジャズ・ロックグループの才気煥発な演奏が味わえる一作です。

 

 

 

 

 

・Liam Gallagher 「Everything Electric」

 

オアシスの新作を待ち望む往年のファンの期待を尻目に、快調に良質なソロ作品を量産し続けているリアム・ギャラガー。いやあ、今回も絶好調!!

 

しかし、ソングライターとしての才覚は、近年、「Why Me? Why Not」の素晴らしい出来栄えを見るかぎり、最盛期を迎えようとしているように思えませんか。かっこいいロックンロールとは何か? どんな年代も純粋に楽しめるロック音楽とは何か? 内面に答えを求め続けた硬派のロックシンガー、リアム・ギャラガーの答えがこのシングルに明示されているような気がします。

 

 

 

 

 

・Guide By Voices 「Never Mind The List」

 

 

ガイド・バイ・ヴォイセズは、Superchunk,Pavementと並んでUSインディーロックの代名詞とも言えるバンドなんですが、意外と、一般的な知名度に恵まれていないんでしょうか。少なくとも、「Teenage FBI」だけは聴いておいて下さい。

 

さて、今月にリリースされた「Never Mind The List」も、1990年代のカレッジロックの雰囲気を漂わせた、渋くてかっこいい一曲。R.E.MやPavementをさらに渋くした感じです。USインディー・ロックマニアは是非チェックしておきたいシングルです。 

 

 




・Mogwai 「Reach」

 

 

スコットランドのロックシーンを率いるモグワイが今月リリースしたシングル「Reach」は、バンドとして改めて原点回帰を果たしたかのような曲。

 

マーチングのようなリズム、宇宙的な世界観に加え、ピアノ、繊細なギターのフレーズが活かされている。いかにもモグワイらしい静謐なエネルギーを感じる神秘的な作品です。

 

 

 

 

・GoGo Penguin「Ascent」

 


ゴー・ゴー・ペンギンは、2009年、マンチェスターで結成されたバンドで、ピアニストとウッドベース奏者をメンバーに擁しているのが特徴です。表向きには、ジャズ・アンサンブルとしての表情を持ち、ニュージャズ、アンビエント、実験音楽と、これまでに多種多様な音楽を生み出しています。

 

今月にリリースされた「Ascent」は、ピアノの演奏が活かされた清涼感のあるシングルです。


電子音楽、ジャズ、クラシックを自在にクロスオーバーした上品さとおしゃれさを兼ね備えた一曲、ジャズ・アンサンブルとしての演奏のスリリングさが味わえる貴重な一作です。

 

 

 

・Laffey 「Sweet Dreams」

 

カナダのローファイ・ヒップホップシーンにおいて、良質な楽曲を生み出しているアンドリュー・ラフェイ。

 

Ornithologyとコラボレートした今作「Sweet Dreams」でも、ピクチャレスクな音楽性については変わらず。ピアノ、エレクトリックギター、リズムトラックというシンプルな構成で、虫の声のサンプリングが挿入されるという作風で、美しい情景を思わせるローファイ・ヒップホップ。ノスタルジックな気分にさせてくれ3曲収録のシングル、癒やしを求める人には最適です。


     

  

・Rex Orange Country 「Amaznig」

 

イギリス出身のアーティストでありながら、なぜかアメリカのオレンジ・カウンティに強い愛着を感じているレックス・オレンジ・カウンティ。

 

爽やかで親しみやすいポップスを書くソングライティング能力にかけては彼の右に出るミュージシャンは少ない。 


今月リリースされたシングル「Amazing」もポップスとして鉄板の一曲です。ROCらしいひねりのない明るさ、爽快感満載のポピュラー・ミュージックとなっています。Amazing!! 

 

 
 

 

 

 

・Norah Jones 「Come Away With MeーAlternate Version」

 

12月にホリデイソング集「I Dream Of Christmas」のデラックスバージョンをリリースし、さらに年明けには、エンパイアステーツビルディングで、ビートルズの「Let It Be」の演奏を披露したノラ・ジョーンズ。
 
さて、今月リリースされた「Come Away With Me」は、2002年のグラミー賞を総なめしたアルバム「Come Away With Me」のオルタネイト・バージョン。しっとりとした哀愁漂うバラードソングを歌わせたら、ジョーンズの右に出るものなし、さらに、シンガーソングライターとしての渋さも出てきています。やはり良い曲だなあと痛感!!



 


 


 

昨年12月は駆け込み需要ならぬ駆け込み供給があったというべきか、国内外のビックアーティストのアルバムリリースが目立っていたように思えます。

 

今月は年始めということもあって、フルレングスのアルバムではなく、比較的シングルリリースが多かったかなという印象を受けました。

 

今回の記事では、気になる作品をピックアップ。もちろん、この他にも良い作品がリリースされていると思われますので、以下のリストを参考がてら貴方にとっての最適な作品を探してみて下さい!!

 

 

 

・David Byrne/Yo La Tengo

 

「Who Has Seen The Wind?」

 

 

今年2月1日にオノ・ヨーコのトリビュートアルバム「Ocean Child」のリリースを間近に控え、先行シングルとして発表された「Who Has Seen The Wind?」は今月のシングルリリースの中でも注目の一作となります。

 

アルバムの収録には、ジャパニーズ・ブレックファーストをはじめとする今最もホットなインディーアーティストが勢揃い。シングル「「Who Has Seen The Wind?」はトーキング・ヘッズのデイヴィット・バーンとヨ・ラ・テンゴと、インディーレジェンドがコラボレート。両者のオノ・ヨーコへの敬愛がたっぷりと感じられる音源となっています。

 

 

 


 

 ・Eels

 

「Amateur Hour」

 

 

イールズは、アメリカのインディーロック界の鬼才と称するべき"マーク・オリヴァー・エヴェレット"を中心に1995年にカルフォルニアのLAで結成。

 

これまで大きな商業的な成功こそ手中におさめていませんが、良質なインディーロック/ポップをひっそりと奏で続けているグループです。2022年1月5日にリリースされた「Amateur Hour」は、イールズの魅力でもある親しみやすいメロディー、ガレージロック/パブロック色を交えたノリのよいロックンロールを体感できるあまりに渋すぎるシングル作。ロックマニアは必聴の一枚となります。  

 

 

 

 

・Karen Dalton/Angel Olsen

 

「Something on Your Mind」 


 

今年1月13日にリリースされたエンジェル・オルセンの「Something on Your Mind」は1993年に55歳で亡くなられたアメリカのフォークブルースシンガー、カレン・ダルトンのカバーとなります。

 

近年、現代のフォーク音楽に女性シンガーとして新鮮な息吹をもたらそうとしているエンジェル・オルセンは、実力派ヴォーカリストの渋い楽曲を選出、改めて往年の名歌手の名曲に光を投げかけています。エンジェル・オルセンの伸びやかで、ソウルフルで、美しい歌声が堪能できる作品です。  

 





 

・Ben Lucas Boysen/Kiasoms


「Clarion-Kiasoms Remix」

 

 

「Clarion-Kiasoms Remix」は、ドイツ、ベルリンを拠点に活動する電子音楽家、ベン・ルーカス・ボイセン、アイルランドのエレクトロニックユニット、Kiasmosが国境を越えての豪華コラボレーションを実現させたシングル作品として注目です。

 

ここではキアスモスらしいシンセサイザーを介しての超大な音響世界の構築、それとは正反対のオーラヴル・アルナルズのピアノの演奏の繊細なメロディー、そして叙情性を味わえる一作、それに加えて、ボイセンの緻密な構築力が加わり、壮大な宇宙的なエレクトロが生み出されています。シングル一曲だけのリリースであるものの、フルレングスアルバムに比する聴き応えを持った一曲。 

 

 

 

 

 

・Particie Kid/J Mascis/Paul Bushnell/Sunny War


「Someone Else's Dream」

 

 

ローリングストーン紙が選出する「歴史上最も偉大なシンガー」の88位にランクインするウィリー・ネルソンを父に持つParticie Kid、そしてアメリカの1990年代のインディーロックの伝説、J・マスシスほか、ポール・ブッシュネル、サニ・ウォーと、四者が共同制作を試みた一作。

 

一般的に、船頭多くして船山に上るとも言われていますが、「Someone Else's Dream」はそのことわざには当てはまらない、四者のアーティストの個性ががっちり組み合わさった音源です。

 

往年のUSインディーの旨味を凝縮したような作風で、ディストーションサウンドという側面では、J・マスシスのギターの演奏はどっしりとした安定感を与えています。加えて、マイカ・ネルソンの実力派ヴォーカリストとしての力強い歌声が味わえます。  

 

 

 

・Cavetown

 

「squares/y13」

 

Cavetownとして活動を行っている英国、オックスフォード出身のシンガーソングライター、ロビン・ダニエル・スキナーは14歳から作曲を行っているアーティスト。インディーロック、インディーフォーク、ベッドルームポップをかけ合わせた穏やかな親しみやすい楽曲をこれまでにリリースしています。

 

今年1月十四日にリリースされた「swuares」は、2曲収録のシングル。穏やかな雰囲気を感じさせる楽曲で、アコースティックギターとロビン・ダニエル・スキナーの優しげな歌声が魅力の一枚。Mumをはじめとする北欧フォークトロニカとの共通性も見いだせるような良質な作品です。近年、USのフォーク部門のチャートでも健闘していて、今後の活躍が楽しみなアーティストです。 

 

 

 

 

 

・Young Guv

 

「It's Only Dancin’」


 

タワーレコーズonlineによると、「トロントポップス請負人」と称されるカナダ、トロント出身のアーティスト、ベン・クックによるソロ・プロジェクト、Young Guv。

 

今年1月5日にリリースされた「It's Only Dancin’」は、往年のパワー・ポップサウンドを復刻させた甘酸っぱいサウンドが特徴。ギターの演奏にしても、ボーカルにしても、楽曲自体の独特な移調にしても、ポップスサウンドの良さをとことん追求した雰囲気を持った良質なシングル作品です。

 

 

 

 

 

・Spiritualized 


「Crazy」

 

1990年にイギリス、ラグビーにて結成されたロックバンド、スピリチュアライズド。既に大御所ロック・バンドと言っても良いかも知れません。

 

サイケデリック、スペース、アート・ロックと、これまで、様々な斬新なロックのスタイルに果敢に挑戦してきたスピリチュアライズド。

 

今回、2022年1月10日にリリースされた「Crazy」は、ノスタルジアに彩られたフォーク音楽性を強く打ち出し、大自然を感じさせるような美麗さの満ち溢れた楽曲。バラード曲としては、UKの歴代のシーンを見ても名曲の部類に入るのではと思えますが、いかがなものでしょう??

 

 

 

 



・Samuel Aguilar/Brian Eno


「Lago Escondido」


「Lago Escondido」は、鍵盤奏者、ソングライターとしても活躍するSamuel Aguilarと、ご存知、ブライアン・イーノのコラボレート作品。このシングルにおいて、ブライアンイーノは、ハロルド・バッドとの共同制作を行っていた時代に回帰したという印象を受けます。どことなくエキゾチックさを感じさせるアンビエンス、それに加えて、癒やしの要素を持ったアンビエントピアノ。鍵盤奏者、Samuel Aguilarの特性を見事に引き出すことに成功した楽曲といえるでしょう。

 




・Yumi Zouma 

 

「In The Eyes Of Our Love」

 

Yumi Zoumaは、NZのクライストチャーチを拠点に活動する男女四人組のオルタナティヴ・ポップバンド。これまで、弱冠のメンバーチェンジを繰り返しつつ、2017年「Willowbank」をはじめ、数々の軽快なベッドルームポップ、シンセポップの名作をリリースしている実力派のグループです。

 

2022年1月13日にリリースされた「In the Eyes Of Our Love」もこれまでの音楽性と変わらず、ユミゾーマ節が炸裂したキャッチーでノリノリなシンセ・ポップ、または、ドン・ヘンリー、フィル・コリンズ時代の良質なソフト・ロックを彷彿とさせる一曲です。クリスティーナ・シンプソンのヴォーカルは、どのような暗鬱な気分であっても爽快な気分をもたらしてくれるはず。

 

 




・Pinegrove

 

「Respirate」

 

アメリカ、ニュージャージー州モントクレアを拠点に活動するパイングローヴ。エモやインディー・ロックを主体に、アメリカのルーツ・ミュージックを掛けわせた懐深い音楽性が魅力のバンドです。

 

三曲収録のシングル作「Respirate」は、叙情性を徹底して引き出すことに成功し、なおかつ、曲の性格の力強さを充分に兼ね備えた聴き応えある楽曲がズラリと並ぶ。このバンドの楽曲の主要なソングライティングを務めるエヴァン・ステファンズの人物としての温かさ、性質のおおらかさが前面に表れた名作シングルです。アメリカン・ロック、インディーロックの良心とも喩えるべき素晴らしいロックバンドであり、今後のリリースにも注目しておきたいアーティスト。



 


・ginla 


「Carousel」


ginlaは、それぞれ、アメリカ・ニューヨークとカナダ・トロントを拠点に活動するジョン・ネルソン、ジョー・マンツォーリの電子音楽ユニット。

 

これまで、電子音楽とコンテンポラリーフォークをかけ合わせた美麗なボーカルトラックを制作しているユニットの新作シングル「Car3ousel」は、現代的なフォーク音楽の魅力を見事に引き出し、ゲストヴォーカルとして参加した”Adrianne Lenker”のヴォーカルの華やかさが彼らの作風に見事に合致。なんともいえず、うっとりな気分にさせてくれる美麗な作品。フォークトロニカ周辺の音楽をお探しの方、爽やかなポップスをお探しの方には最適な一作となるはずです。  

 

 

 

 

 

・Joep Beving


「Noctural」

 

ポスト・クラシカル界隈では、アイスランド勢のアーティストと共にかなりの知名度を誇るアメリカの音楽家、ユップ・へヴィン。
 
 
ドイツ・グラモフォンからも作品のリリースを行っているアーティスト。近年、世界的に知名度が上がっている音楽家のひとりです。
 
 
今回リリースされたシングル「Nocturnal」はまさに題名にも見える通り、フレドリック・ショパンの時代のロマン派の時代のピアノの小品を現代にそのまま蘇らせたかのような作品。今回もユッピ・へヴィンはこれまでと同様、叙情性と繊細性を絶妙に兼ね備えた美麗なピアノ曲を生み出しています。
 



 

 

 

・Mitski

 

「Love Me More」

 

Mitskiとして活動するミツキ・ミヤワキは、ニューヨークを拠点に活動する日系アメリカ人のシンガーソングライター。今後、アメリカ国内で絶大な人気を獲得するであろうシンガーとして再注目のアーティストです。

今月二十一日にリリースされた「Love Me More」は、2021年の「Heat Lightnig」に続く四曲収録のシングル作。

 

これまでのミツキの作風と同様、エレクトロポップの性質が色濃く、そこに、ミツキ・ミヤワキのヴォーカルのみずみずしい響きが付加されています。テクノのクールさ、ポップスの痛快さが絶妙にマッチした作品。

 


 

 

 

・Franz Ferdinand

 

「Curious」

 

2000年代から、アークティック・モンキーズと連れ立ってダンスロックムーヴメント旋風を巻き起こした、スコットランド、グラスゴーの四人組ロックバンド、フランツ・フェルディナンド。

 

2022年1月下旬にリリースされた二曲入りのニューシングル「Curious」は、フランツ・フェルディナンド節が炸裂の最高のトラックです。2004年「Franz Ferdinand」を引っさげて衝撃的なデビューを果たしたあの時の勢いをそのまま再現させた、激渋のしぶとさのあるグルーヴ感が満載の快作です。彼らの新作アルバムに向けて、ただならぬ期待を予感させる作品となっています。

 

 

 




  今月は、アデル、ブルーノ・マーズ 、カニエ・ウェスト、そして、グリーン・デイ、とセレブアーティストのリリースが目白押しだったという印象でした。

 

 年末にかけて、ライブツアーや様々なメディアに出演するであろう著名なアーティストは、きわめてツアーで忙しくなる年の暮れの前に、作品だけでもリリースしておきたい、という考えも見てとれなくもないわけです。

 

 もちろん、社会情勢を概観してみますと、ドイツでは感染者が増加し、今後、ヨーロッパ全体が規制に入るのか、もしくはそれに対して市民が頑強にそれを拒むのか、というのが現在のヨーロッパの社会情勢の争点となる部分でしょうか。もちろん、音楽産業、レコード産業として見れば、アーティストの作品というのは、ひとりで生み出せるわけではなく、多くの人達の協力によって成立しているわけで、その関わりのある人々みなが音楽産業の地盤を支えているわけです。

 

 レコード会社、レコードを生産する工場、そして、もっとミクロな視点で見れば、レコードを輸送する配送業者もまた音楽産業に少なからず関係しているわけです。これまでそういった事例が多くありましたが、仮にヨーロッパ、あるいはアメリカでサイドのロックダウン等の規制が行われれば、プレス生産や輸送が滞る恐れもあり、となれば、リリース自体がお流れになるケースもなくはないので、そういったことを見越して、社会的に落ち着いている時期になんとしてでも、先に自分の子のような作品を世に送り出しておきたい、というアーティストたちの熱い思いが読み取れるともいえるでしょう。

 

 もちろん、上記のようなアーティストの作品も素晴らしいですが、その他にも注目のシングル作品が今月数多くリリースされています。なぜ、そういったインディーと呼ばれる音楽を中心に紹介するのかといえば、必ずしも、売れている話題の作品が最良ではないというのを以前から音楽ファンとして考えているからです。もちろん、日本レコード大賞、イギリスのブリット・アワード、アメリカのグラミーを取れば、問答無用にその作品がすぐれていることの証となるわけではありません。それはあくまで評価の指針であり、人の数だけ答えが用意されているんだと思います。また、インディー、インディーとばかりこだわって、マニア的嗜好が行き過ぎた場合は、それはそれでせっかく大きく開き変えた世界を、内側にパタンと閉じてしまうという弊害もあるのです。

 

 私自身は、音楽を、消費のための手段とは考えておらず、その音楽を通し、ひとつの何かの大きな世界の扉を開く手がかりとなればいい、その契機を提供したいというふうに考えているのです。それは、人間関係かも知れず、また、自分自身の製作かもしれず、その他、なんらかの知への興味の入り口となる。音楽は人類の作り出した大いなる知の遺産であり、これまでそうであったように、それまで知らなかった何かを知るための大きな手助けのような働き、以前とは異なる視点を持つためのきっかけを授けてくれるのです。音楽は、仮想的な空間を通して実社会へとつながっていく、その人にとっての小さな世界を大きな世界へとシフトチェンジする重要な契機ともなりえるわけです。もちろん、他の芸術形態、文学や絵画、映画がそうであるように。

 

 他のレビューコーナーで扱いきれない中にも数えきれない魅力的な作品があります。紹介しきれないほどの多種多様な音楽がこの世には存在している。それは寧ろレビューを重ねるごとに、対比的に大きくなっていく感慨です。ここでシングル盤を網羅的に紹介していきたいと考えてますが、紹介の方法が正しいのかどうかについてはやはり自信がないです。なぜ、アルバムではなくて、シングルを率先して聴くべきなのかというと、シングル作というのは、ミュージシャンたちの試作の完成前の実験的な段階であり、このリリースを通して、アルバム製作の足がかりにしていく段階にあり、それは多くのファンにとって、ミュージシャンの実在に最も近づける瞬間でもあるからです。

 

 名作が誕生する前には、必ず、その萌芽というべきものが見られます。そして、私はかつて音楽制作に親しんだ人間としてその過程がどれほど重要なのか考えせられる部分があるのです。結果として出たものではなく、その過程にこそ最も素晴らしいドラマが存在するんだとも考えています。なぜなら、作品というのは聴くのは一瞬ですが、作るためには相当な時間を必要とし、その中には様々な人との関わりがあり、そして作り手の労苦が込められているのを実体験として知っているからです。

 

 アルバムという結果以前の過程を楽しむ、それこそがデジタル配信が主流になった時代でもシングルという形態が廃れない理由であり、そのアーティストのファンとして、シングルを聴きながら、「次はどんなアルバム作品がリリースされるのか!?」とワクワクした思いを馳せる、まるでレコードショップでレコードやCDを買って、家に帰るまでに、音を想像する際のあのワクワク感、ドキドキ感。それがシングル作を聴く際の音楽ファンとしての楽しみ方のひとつであるかなあと思うのです。

 



 

Green Day


オレンジ・カウンティのポップパンクシーンを牽引し、現在も世界を股にかけて大活躍を続けるセレブリティ、グリーン・デイという以外の紹介の仕方は難しいです。


さて、本作「Hithin' a Ride」は「BBC Live Session」の生演奏の模様を収めたシングル。これまでのグリーンデイの打ち立てててきたポップパンクの伝説というのは、過去の虚栄とはならず、現在も相変わらずのフックの聴いたリフを聴かせてくれています。

 

 いつまでも古びないド直球ロックンロールを奏でるのがグリーン・デイの魅力。それがBBCラジオのハイクオリティなPA機材によりさらに音の精細感がグレードアップ。ビリー・ジョーのカバーアルバム「No Fun Mondays」も傑作だったので、バンドとしての今後の活躍に期待していきましょう。 

 

 

 



 

Pinegrove 「Alaska」

 

 

 ニュージャージー州モントクレアで、エヴァン・ステファンズを中心に結成されたインディー・ロックバンド、パイングローヴ。

 

 エモというジャンルで語られる場合もありますが、その他にもアメリカンルーツ音楽からの影響が強く、懐深さの感じられるバンドです。今回、パイングローヴが11月にリリースした2曲収録の「Alaska」も、これまでの音楽性の延長線上にあり、アメリカの大自然を思わせるようなエモーションあふれる作品です。

 

 パイングローヴは、今まさに、正統派のアメリカン・ロックバンドとしての歩みを進めつつあるように思え、新作の二曲収録のシングルでは、爽やかで、青春味あふれるロックを楽しむことが出来ます。これまでのアメリカン・ロックの系譜を正当的に受け継いだ良質なロックバンド、2022年の1月28日にラフ・トレードから、六作目のアルバム作品「11:28 and more」のリリースが予定されていますのでファンは即予約!

 

 


 

 

 

 

Nils Frahm 「All Numbers End」

 

 

 

 ドイツ、ネオクラシカル界の至宝、ニルス・フラームの新作「Late」は「All Numbers End」に続いてリリースされた作品です

 

  2021年9月にF.S Blummとのコラボレーション作品「2×1=4」をドイツのLeitterからリリースした際のインタビューでは、これまでの自身のピアノ曲の作風について、「少々、ドイツ的でした」と揶揄的に語っていたニルス・フラーム。しかし、今作において伺えるのは、やはり、ニルス・フラームはこれまでの音楽性を変更する予定はないようです。

 

 ドイツのロマン派とジャズの中間性を保持した流麗なサウンドは、この二作でも健在です。バッハ、シューベルトといった、ドイツの古典派、ロマン派に属する音楽性を受け継いだ作品です、じっくりと噛みしめるように紡がれるピアノ曲は、およそなんらかの評言を付け加えること自体が無粋でしょう。


 日本の小瀬村晶、アイスランドのオーラヴル・アルノルズと共に、世界のネオクラシカルの最前線を行くニルス・フラームは、この最新の二作においてもずば抜けた才覚を見せています。 

 

 


 

 

 

Library Tapes 「Lullaby」

 

  

 ライブラリー・テープスはスウェーデン出身の電子音楽家、デイヴィット・ウェイグレンによるソロプロジェクト。ドイツを始め、ヨーロッパを活動拠点にしています。アンビエントやネオクラシカルに属するアーティストで、イギリスのチェロ奏者、ダニー・ノーバリーとの共作もリリースしています。

 

 透明感のある穏やかなピアノ音楽を数多くこれまで生み出してきている音楽家です。デイヴィット・ウェイグレンの音楽性は、日本の小瀬村晶にも似た上品な作風であるため、それほどこういったジャンルに馴染みが無い方でも安心して聴いていただける上、クラシックへの入り口ともなりえるでしょう。

 

 先月のシングル盤「Fall」に続いて、今月19日にリリースされた「Lullaby」 もこれまでのLibrary Tapesの音楽性を踏襲した作品で、落ち着いて繊細なピアノ曲といえます。それほどひねりの効いた音楽性ではありませんけれども、その奇をてらわない素直さがこのアーティストの魅力。シングル作「Lullaby」はオルゴールの音にも似たノスタルジアを感じさせてくれる一曲です。 

 

 

 

 


 

 

Caloline

 

 

 Carolineは、2020年にラフ・トレードとの契約に新たにサインしたロンドンを拠点の活動する8人組の再注目のロックバンド。

 

 これまで三作のシングル「IWR」「Dark Blue」「Skydiving onto the library loof」をラフ・トレードからリリースし、来年の2月25日、デビューアルバム「caroline」の発売が既にラフ・トレードから告知されています。キャロラインは、アメリカの山岳地方のフォーク音楽、アパラチア・フォークを基調とし、ギターアンビエントに比する奥行きのある心地よい重厚な音響空間を生み出しています。

 

 これまでにリリースされたシングル盤のアートワークに象徴されるように、大自然を思わせるような穏やかで、清涼感に満ち溢れた音楽。そして、実験性の高い作風を引っさげて、ロンドンのシーンに華々しく台頭しています。ラフ・トレードが大きな期待をもって送り出したキャロライン。

 

 今、まさしくロンドンのインディー・ミュージックシーンで再注目の8人組といっても過言ではありませんよ。

 

 

 

 

 

 


 

 

Sea Oleena 「Untethering」

 

 

 Sea Oleenaはカナダ、モントリオールを拠点に活動するシャーロット・オリーナとルーク・ロセスの兄妹プロジェクト。活動初期は、Bandcampを中心に活動しており、インディースタイルを貫きとおしているアーティスト。

 

 アンビエントやポストフォークに位置づけられる音楽で、どことなくメランコリアを感じさせる音楽性でありつつ、透明感の溢れる叙情的な傑作スタジオ・アルバムをこれまでに多く生み出しています。


 11月3日にCascineからリリースされた「Unthering」は、グルーパーにも喩えられるようなフォークとアンビエントを融合したSea Oleenaらしい作風。シンガーとしての存在感は凄まじく、浮遊感のある天使のような美しいシャーロット・オリーナの歌声が楽しめる一曲です。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Black Country New Road 「Bread Song」


 

 ブラック・カントリー・ニューロードは、英、ロンドンで結成された七人組のポスト・ロックバンド。ブラックミディと共に今最も国内で注目されている若きホープで、既に今年にリリースした「For the First Time」が大きな反響を呼んだことはコアなロックファンにとっては記憶に新しいことでしょう。

 

  今月2日発表された2曲入りのシングル「Bread Song」もこれまでと同様、Ninja Tuneからのリリース。これまでオーボエを始めとする木管楽器をバンドサウンドの中に緻密に取り入れ、多重的な構造を持つことから、スティーブ・ライヒの音楽がよく引き合いにだされているという印象。

 

 今シングル作において、ブラック・カントリー・ニューロードは、ポスト・ロックというよりもポストフォーク、さらにいうならポストトラディショナルとも称するべきアプローチを採っている。曲のテクニカルさではなく良さというのに重点を置いたオーケストラ音楽に近い独特な音楽性で、これからも既成のロック音楽に驚きをもたらすニューミュージックを生み出してくれそうな予感あり。 

 

 

 

 

 

 


 

Yumi Zouma 「Mona lisa」

 

 

 ユミ・ゾウマはNZ,クライストチャーチ出身の四人組シンセ・ポップバンド。これまで「In Camera」や「Persephone」といったおしゃれでスタイリッシュなポップサウンドを展開してきたバンドです。

 

今作は、ユミ・ゾウマのおしゃれなサウンドは維持しつつ、これまでのような弾けるようなポップ性ではなく、落ち着いてしっとりとしたシンセポップを展開。バンドの中心人物、クリスティーナ・シンプソンの生み出すセンス溢れるメロディセンス、軽やかなソングライティングの才覚はやはり「Mona lisa」でも健在。これからの注目したいNZの再注目の四人組ポップバンド。  

 


 

 

 

細野晴臣 「Sayonara America,Sayonara Nippon」


  

 今年のはじめにはNYのGramarcy Theater、LAのMayan Thaterのライブの模様を録音した「あめりか/Hosono Haruomi Live in us Tour」をリリースした細野晴臣さん。

 

 アメリカのインディー・ロック好きで知らぬ人はいないマック・デ・マルコとの共演を果たした「Honey Moon」では、日米の素敵なデュエットを披露し、ハルオミホソノ人気がこれからアメリカで急上昇しそうな予感。


 今作シングル「Sayonara America,Sayonara Nippon」は、ピアノ、マレットとアコースティックギターをはじめ、独特なパーカッシヴなアプローチを図ったこれまでの細野さんの音楽キャリア集大成ともいえる名作。

 

 シングル曲にもかかわらず、長い旅路をワイルドに歩くかのような物語性を感じさせる名ポップス。細野晴臣のこれまでの最高に美しい一曲として挙げておきたい。

 


 


 


その名の通り、今月9月にリリースされた作品の中から最もアツいシングル作を取り上げていくというコーナーです。インディーアーティストが中心となります。是非、音楽フリークの方はチェックしてみて下さい!!



1.Beach Fossils 

「The Other Side Of Life:Piano Ballads 」

 

今月のインディーアーティストの新作で再注目のリリースは、ニューヨークのインディーロックバンド、ビーチ・フォッシルズの「This Year(Piano)」。最新スタジオ・アルバムのリリースを機にCaptured TracksからBayonet Recordsに移籍し、「Somersault」という傑作を2017年に発表しています。

今回のシングル「The Other Side Of Life」は「Somersault」に収録されている「This Year」を始めとする三つの楽曲のジャズアレンジメントとなります。

これまで、2010年からインディーロック・バンドとしてニューヨークのライブハウスを中心に活動してきたビーチ・フォッシルズは、前作「Somersault」でクラブミュージック寄りの方向性に進み、ファンをあっと驚かせたわけですが、最新シングルでビーチフォッシルズは、さらに”ジャズ”という思ってもみなかった未知の領域に踏み入れました。このシングル作は、これまでは作品のアレンジではありながら、本格派の落ち着いたニューヨークジャズに挑んだ意欲作。人生の別領域と名付けられたタイトルも何か次なる作に対する期待感を感じさせるようです。ピアノ、ウッドベース、トランペットのゴージャスな都会派の雰囲気を持った見事なアレンジを是非御堪能あれ。



 

2.Snail Mail 

「Valentine」 

 

スネイル・メイルはアメリカのインディーロックというジャンルを中心に活躍するリンジー・ジョーダンのソロ・プロジェクト。

デビュー作「Habit」は米国内のメディアに絶賛、この約六年の間、多くのファンを獲得している再注目の女性シンガーソングライター。そして、今月に発売されたニューシングル「Valentine」は次回作のスタジオ・アルバムの期待感をより高めるような魅力的な楽曲。これまでのローファイ、ギターロックの路線からビッグシンガーへの道のりを歩みはじめたと感じさせる雰囲気を持った楽曲。

「Valentine」は、これまでのアメリカのインディー・ロックの醍醐味を凝縮した上で、キャッチーさ、ポップ性が付加され、より一般的なリスナーの琴線にも触れうるような楽曲といえるはず。

もちろん、スネイル・メイルのヴォーカルの質感も以前よりもグレードアップし、いよいよビックアーティストに近づきつつあるのかも。さて、今月27日から、米、リッチモンドの公演を皮切りに、イタリア、フランス、UK、と、世界ツアーを控えているスネイル・メイル。今、最も旬なアメリカのインディーロックアーティストとして最注目のミュージシャンです。 

 

 

3.Sharon Van Etten

「Femme Fetale」

 

今、アメリカではメタリカの「ブラック・アルバム」のカバーアルバムがリリースをまもなく迎えようとしており、しかも、この作品は四枚組、と目玉の飛び出そうなヴォルーム、さらに50組以上!?ものアーティストが参加しているという豪華コンピレーション作品。しかも、この作品の売上のほとんどは寄付されるらしい。そして、このコンピレーションには、ポップス、ヒップ・ホップからロックまでメタリカを敬愛する様々なジャンルのアーティストが参加しており、つまり、今、アメリカの音楽シーンでは空前のカバー・ムーブメントが到来していると言えそう。

さて、この「ブラック・アルバム」のカバーの流れを受けてか、アメリカのドラマ、「ツイン・ピークス」の新ヴァージョンの出演など女優としても活躍するシャロン・ファン・エッテンは我が道を行かんとばかりに、ヴェルベット・アンダーグラウンドのデビューアルバムの「Femme Fetale」のカバー作品をシングルとして発表しています。

これから、テレビタレント、女優業に専心するのかというと、このカバー作品を聴くかぎりでは、やはりあくまで女優業はサイドプロジェクトにとどまり、ミュージシャンとしての看板を下ろす気はさらさらないようです。そういった気迫がこのベルベットアンダーグラウンドの名曲のカバーにはひしひしと感じられます。

ここでは、原曲よりもテンポはスローダウンし、この楽曲の良さをファン・エッテンの渋みのある正統派のボーカルにより懸命に引き出そうとしている雰囲気。やはり、このカバーを聴くと、素晴らしいVocalistだと痛感します。エンジェル・オルソンとの共作シングルについても同じでしたが、シャロン・ファン・エッテンのヴォーカルというのは、女性シンガーでありながら、中音域がきわめて強く、独特な渋みに彩られています。このカバー曲「Femme Fetale」は、複雑なアレンジメントが施されていますが、やはり、原曲に対するリスペクトを感じる一曲。ザ・ヴェルベット・アンダーグラウンドがお好きな方は聴き逃せませんよ。 



 


4.James Blake 

「Famous Last Words」 

 

こちらは、UKのクラブミュージックシーンを沸かせているジェイムス・ブレイク。サウスロンドンのアーティスト。今月に入り、三作品のシングルをリリースしているジェイムス・ブレイクですが、新作スタジオ・アルバム「Friends That Break Your Heart」が10月8日に控えています。グロテスクなアルバムアートワークなので賛否両論を巻き起こしそうな作品ですが、それまではこのシングル、Spotify特典の二曲のシングルを聴いて、アルバムの発売を心待ちにしたいところです。

今月、アルバムの先行リリースという形で、「Say What You Will」「Life Is Not The Same」「Famous Last Words」の三作が既に発表されています。特に、「Famous Last Words」という楽曲は、今後のイギリスのクラブシーン、UKソウルシーンの潮流を変えてしまいそうな力を感じる作品として注目しておきたいところです。

これまでの音楽の方向性と同じように、「人間味のあるソウル」というジェイムス・ブレイクの掲げる概念、根本的な音楽性については保持した上で、ここではバックトラックにかなり独特な雰囲気が漂っており、バッハの「平均律クラヴィーア」のような、古典的な旋律進行の影響が感じられる。元々、幼少期に、クラシック・ピアノを学んでいたジェイムス・ブレイクですが、これから後、自身の音楽の原体験に向けて遡上していくかのような雰囲気もなんとなく感じられるよう。

最新シングル作「Famous Last Words」でジェイムス・ブレイクは、ディープソウルとクラシック音楽の融合に果敢に挑戦したような意図も伺えます。ストリングスのアレンジというのも上品な感じが漂っています。来月発売されるスタジオ・アルバム作「Friends That Break Your Heart」の他の収録曲の出来栄えがどうなるのかが見どころでしょう。しかし、現時点において、2020年代のUKクラブ・ミュージック最先端を行くのは、やはり、サウスロンドンのアーティスト、ジェイムス・ブレイクのよう。なんとなく、来年開催のブリット・アワードで一部門のウィナーに輝きそうな作品になるかもしれないと予測。もちろん、レディオ・ヘッドのトム・ヨークに近いアプローチ性を感じさせる楽曲で、そのあたりの音楽がお好きな方も要Check!!です。


 

5.Black Marble 

「Preoccupution」


ブラック・マーブルは、米、ニューヨーク、ブルックリンの宅録アーティスト、クリス・スチュワートのソロ音楽プロジェクト。これまでテクノ音楽の醍醐味を踏襲したスタジオ・アルバム「It's Imatterial」のリリースを機に、アメリカのインディーシーンで注目を集めています。ブラック・マーブルは、独特な陶酔感のある雰囲気の漂うテクノ・ポップ、エレクトロ・ポップを現代のミュージックシーンに体現しています。

「Ceiling」「Somewhere」のシングル二作に続いて、9月21日にリリースされた最新シングル「Preoccupution」も、ブラック・マーブルらしいヴィンテージ感あふれる痛快なテクノ・ポップ作品として、レコメンドしておきます。ここでは、現代的なテクノから完全に背を向けた古き良き時代の電子音楽のピコピコ感が堪能出来、また、ブラック・マーブルらしい独特なメロディーセンスを体感できる一枚となっています。懐古主義の中に今まで見過ごされてきた新規な音楽性を新たに発見するという点では、ニューヨークのリバイバルシーンの流れにある電子音楽家といえるでしょう。ブラック・マーブルの音楽性を「孤独感」というように称される場合もごく偶に見受けられますが、どちらかと言えば「クールさ」と言ったほうがふさわしいかもしれません。

シングル盤でありながら、三曲+ラディオ・エディットが収録されているEP作品に近い聴き応えのある作品。独特なニュー・オーダーに近いエレクトロ・ポップは、これまでの作品に比べてさらに洗練されたという印象。そして、古いタイプのリズムマシーンを使用したシンプルなビート、そして、独特なブラック・マーブル節ともいうべき、内省的な叙情性をはらんだ雰囲気を持った浮遊感ある宅録ヴォーカルというのがこのアーティストの音楽の醍醐味。時代の流行をまったく度外視し、オリジナルなサウンドを追求する電子音楽アーティストの快作として挙げておきます。