Black Country, New Road 『Forver Howlong』 



Label: Ninja Tune

Release: 2025年4月4日


Review

 

ファーストアルバム『For The First Time』では気鋭のポストロック・バンドとして、続く『Ants From Up There』では、ライヒやグラスのミニマリズムを取り入れたロックバンドとして発展を遂げてきたロンドンのウィンドミルから登場したBC,NR(ブラック・カントリー、ニューロード)。


マーキュリー賞へのノミネート、それから、UKチャート三位にランクインするなど高評価を獲得し、さらには、フジ・ロック、グリーンマン、プリマヴェーラを始めとする世界的なフェスティバルでライブ・バンドとしての実力を磨いてきた。すでにライブ・パフォーマンスの側面では世界的な実力を持つバンドという前提を踏まえ、以下のレビューをお読みいただければと思います。

 

メンバーチェンジを経て制作された三作目。フジロックでの新曲をテストしたりというように、バンドは作品ごとに音楽性を変化させてきた。ロンドンではポストロック的な若手バンドが多く登場しており、BC,NRは視覚芸術を意図したパフォーミング・アーツのようなアルバムを制作している。また、ブッシュホールでの三日三晩の即興的な演奏の経験にも表れている通り、即興的なアルバムが誕生したと言えるかもしれない。メンバーが話している通り、スタジオ・アルバムにとどまらない、精細感を持つ演劇的な音楽がアルバムの収録曲の随所に登場している。音楽的に見ると、三作目のアルバムではバロックポップ、フォーク、ジャズバンドの性質が強められた。これらが実際のライブパフォーマンスでどのような効果を発揮するのかがとても楽しみ。

 

今回、バンドはミニマリズムを回避し、ジョン・アダムスの言葉を借りれば、ミニマリズムに飽きたミニマリスト、としての表情を伺わせる。しかし、全般的にはクラシック音楽の影響もあり、アルバムの冒頭を飾る「Besties」ではチェンバロの演奏を交え、バロック音楽を入り口として即興的なジャズバンドのような音楽性へと発展していく。ボーカルが入ると、バロックポップの性質が強くなり、いわばメロディアスな楽曲の表情が強まる。一曲目「Besties」は新しい音楽性が上手く花開いた瞬間である。


一方で、ビートルズの中期以降のアートロックを現代のバンドとして受け継いでいくべきかを探求する「The Big Spin」が続く。「ラバーソウル」の時代のサイケ性もあるが、何より、ピアノとサックスがドラムの演奏に溶け込み、バンドアンサンブルとして聞き所が満載である。新しいボーカリスト、メイ・カーショーの歌声は難解なストラクチャーを持つ楽曲の中にほっと息をつかせる癒やしやポピュラー性を付与する。


そういったバンドアンサンブルを巧緻に統率しているのがドラムである。現在のバンドの(隠れた)司令塔はドラムなのではないか、とすら思わせることもある。散漫になりがちな音楽性も、巧みなロール捌きによって楽曲のフレーズにセクションや規律を設けている。上手く休符を駆使すれば最高だったが、音楽性が持続的な印象が強いのは好き嫌いが分かれる点かもしれない。休符が少ないので、音楽そのものが間延びしてしまうことがあるのは少し残念な点だった。

 

そんな中で、これまでのBC,NRとは異なり、ポピュラー性やフォークバンドとしての性質が強まるときがある。そして、従来のバンドにはなかった要素、これこそ彼等の今後の強みとなっていくのでは。「Socks」では60〜70年代のバロックポップの影響をもとにして、心地よいクラシカルなポピュラーを書いている。メロディーの良さという側面がややアトモスフェリックの領域にとどまっているが、この曲はアルバムを聴くリスナーにとってささやかな楽しみとなるに違いない。そしてこの曲の場合、賛美歌、演劇的なセリフを込めた断片的なモノローグといったミュージカルの領域にある音楽も登場する。 これらは新しい「ポップオペラ」の台頭を印象づける。


次いで、クイーンのフレイディ・マーキュリーのボヘミアン的な音楽性を受け継いだ曲が続いている。「Salem Sisters」は「ボヘミアン・ラプソディー」の系譜にあるピアノのイントロで始まり、その後、アートポップやジャズ的なイディオムを交えた前衛的な音楽が続いている。一曲目と同じように、チェンバロの演奏も登場するという点ではジャズとクラシック、そしてポピュラーの中間域に属する。ボーカルは優雅な雰囲気があり素晴らしく、この曲でもドラムの華麗なロールが楽曲に巧みな変化や抑揚の起伏を与えている。いわば、BC,NRの目指す即興的な音楽が上手く昇華された瞬間を捉えられる。そして曲の後半部にかけて、ボーカルはミュージカルに傾倒していく。いわば、このアルバムの中核を担うシアトリカルな音楽の印象が一番強まる瞬間だ。

 

 アルバムの中盤では中性的なアイルランド民謡に根ざしたフォーク/カントリーミュージック「Two Horses」、「Mary」がアルバムの持つ世界観を徐々に拡張させていく。そして同じタイプの曲でも調理方法が異なり、前者では変拍子を交えたプログレッシブな要素、さらに後者では、ジャズやメディエーションのニュアンスが色濃い。また、賛美歌やクワイアのような聴き方も出来るかもしれない。すくなくとも、それぞれ違う聴き方や楽しみ方が出来るはずだ。

 

ブラック・カントリー、ニュー・ロードの掲げる新しい音楽が日の目を見た瞬間が「Happy Birthday」となる。印象論としては、ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・クラブ・ハーツ・バンド」のミュージカルの系譜にある音楽を踏襲し、それらをクイーン的にならしめたものである。この曲ではボーカルはもちろん、サックス、ドラム、ピアノの演奏がとても生き生きとして聞こえる。また、チェンバロの導入など遊び心のある演奏もこの曲に個性的な印象を付け加える。しかし、やはり、このバンドの曲が最も輝かしい印象を放つのは、ロック的な性質が強まる瞬間であると言える。無論、調性の転回など、音楽としてハイレベルなピアノの旋律進行もフレーズの合間に導入されることもあり、動きがあって面白く、さらに音楽的にも無限のひらめきに満ちているが、音符の配置が忙しないというか、手狭な印象があるのが唯一の難点に挙げられるかもしれない。その反面、一分後半の箇所のように、ダイナミックスが感じられる瞬間がバンドとして溌剌としたイメージを覚えさせる。 曲の後半では、カーショーの伸びのあるビブラートがこの曲に美麗な印象を添える。音楽的な枠組みに囚われないというのは、バンドの現在の美点であり、今後さらに磨きがかけられていくのではないかと推測される。

 

ロック寄りの印象を持つ瞬間もあるが、終盤では古楽やバロックの要素が強まり、さらにアルバムの序盤でも示されたフォークバンドとしての性質が強められる。「For The Cold Country」では、ヴィヴァルディが使用した古楽のフルートが登場し、スコットランドやアイルランド、ないしは、古楽の要素が強まる。結局のところ、これは、JSバッハやショパン、ハイドンのようなクラシック音楽の大家がイギリスの文化と密接に関わっていたことを思い出させる。特にショパンに関しては、フランス時代の最晩年において結核で死去する直前、スコットランドに滞在し、転地療養を行った。彼の葬式の費用を肩代わりしたのはスコットランドの貴族である。ということで、イギリス圏の国々は意外とクラシック音楽と歴史的に深い関わりを持ってきたのだった。

 

この曲は、スコットランドの古城や牧歌的な風景のサウンドスケープを呼びさます。そして実際に、そういった異国の土地に連れて行くような音楽的な換気力に満ちている。


タイトル曲「Forver Howlong」に関してもケルト民謡の要素が色濃い。これらの中世的な音楽性は、今後のブラック・カントリー、ニューロードの強みとなっていくかもしれない。かなり複雑で入り組んだアルバムであるため、一度聴いただけではその真価はわからないかもしれない。ただ、それゆえに、聴く時のたのしみも増えてくると思う。


今回は''バンド''という言葉を使用させていただいたが、BC, NRは、ひとつの共通概念を共有するグループーーコレクティヴの性質が強い。バンド/コレクティヴとして純粋な音楽性を感じさせたのがアルバムのクローズを飾る「Goodbye」だった。一貫して、ポスト・ブリットポップ的な音楽を避けてきたバンドが珍しくそれに類する音楽を選んでいる。ただ、それはやはり、フォークバンドとしての印象が一際強いと付言しておく必要があるかもしれない。今後どうなるのかが全くわからないのがこのバンドの魅力。潜在的な能力は未知数である。

 

 

 

84/100

 

 

「Goodbye(Don't Tell Me)」


 

謎めいたビデオで予告していたTurnstileが、2021年のNo.1アルバム『Glow On』の待望の続編を発表した。 ビルボードで予告されていた通り、アルバムのタイトルは『Never Enough』で、現在リリースされているファーストシングルの名前でもある。 

 

この曲は、ターンスタイルが『Glow On』で追求したドリーミーでシンセサイザーな音で始まり、『Glow On』のリードシングル/オープニング・トラック "Mystery "と同じようなグランジパンクバンガーに変わる。 一聴すれば、2語のコーラスを口ずさみ、もっと聴きたくなること間違いなし。  

 

Turnstileのヴォーカリスト/キーボーディスト、ブレンダン・イェーツがプロデュースし、ブレンダンはギタリストのパット・マックローリーと新しいミュージックビデオの共同監督も務めている。 『Never Enough』は6月6日にリリースされり。ターンスタイルにとって、共同設立者であるギタリスト、ブレイディ・イバートの脱退後、2023年からツアーを共にしている新ギタリスト、メグ・ミルズ(ビッグ・チーズのギタリストでもある)との初アルバムでもある。


本作はニューヨークのヘヴィロック/メタルの名門”Roadrunner”からのリリース。ターンスタイルは、ニュー・アルバム発売翌日のプリマヴェーラ・サウンドをはじめ、いくつかのフェスティバルへの出演も控えている。 今年の6月6日は近年にない大豊作のウィークとなりそうだ。



「Never Enough」




Turnstile 『Never Enough』

Label: Roadrunner

Release: 2025/6/6

 

 



 

テキサス生まれでオクラホマシティ在住のフィンガースタイル・ギタリスト、Hayden Pedigo(ヘイデン・ペディゴ)が、ジャンルを超えた注目のニューアルバム『I'll Be Waving As You Drive Away』をメキシカン・サマーから6月6日にリリースすると発表した。 

 

ヘイデン・ペディゴは重要なカントリー/フォークの継承者であるが、彼の音楽にはモダンな雰囲気が漂う。渋いといえば渋いし、古典的といえば古典的だが、このSSWの魅力はそれだけにとどまらない。彼の音楽は、南部の壮大な風景、幻想的な雰囲気を思い起こさせることがある。 ヘイデンのカントリーに触れれば、不思議とその魅力に取りつかれたようになってしまう。


アルバムのオープニングを飾る「Long Pond Lily」が最初のシングルとして公開された。 ヘイデン・ペディゴの前作を彷彿とさせると同時に派手な逸脱を感じさせる。

 

彼の華麗なギターのプレイはパット・メセニーの最初期のスタイル、カントリー・ジャズを彷彿とさせる。この曲の場合は、エレクトリック/ギターの両方が演奏に使われるが、ギターだけでこれほど大きなスケールを持つ曲を書ける人は見当たらない。

 

この曲についてヘイデンは次のように述べている。「とても重く、巨大な曲だなん。ローエンドがガラガラと音を立てている。 この曲は最大主義的で、今まで書いたどの曲よりもずっとエネルギッシュなんだ」

 

マット・ミュアによる映画的なミュージック・ビデオが付属し、小さな町のスケート場をオープンすることがアメリカンドリームのように感じられる。

 

「Long Pond Lily」

 

 

Hayden Pedigo 『I'll Be Waving As You Drive Away』


Label: Mexican Summer

Release: 2025/6/6

 

Tracklist

1.Long Pony Lily

2 All The Way Across 

3 Smoked 

4 Houndstooth 

5 Hermes 

6 Small Torch

7 I'll Be Waving As You Drive Away

 

Pre-save:https://haydenpedigo.ffm.to/longpondlily.OYD

 

©Bader Conrad

6月6日、シカゴのLifeguard(ライフガード)がデビューアルバム「Ripped and Torn」をマタドール・レコードからリリースする。 ライフガードは古典的なインディーロック・バンドと言えるが、今後なにかやってくれそうな気配がある。

 

アッシャー・ケース(ベース、バリトン・ギター、ヴォーカル)、アイザック・ローウェンスタイン(ドラムス、シンセ)、カイ・スレイター(ギター、ヴォーカル)の若さ溢れる3人組は、高校生の頃から一緒に音楽を作ってきた。 パンク、ダブ、パワーポップ、実験的なサウンドからインスピレーションを受け、それらを爆発的な不協和音にまとめ上げる。 


本日、ブリスターなDビートを駆使したファースト・シングル "It Will Get Worse" を聴いてみよう。 バンドはまた、6月にスタートする英国、EU、米国のツアー日程も発表した。 


プロデューサーにランディ・ランドール(No Age)を迎え、昨年シカゴでレコーディングされたこのアルバムは、ハウスパーティーやぎゅうぎゅうに詰め込まれた部屋の感覚とエネルギーを呼び起こすような、閉所恐怖症的なスクラップ感を捉えている。

 

バンドのロックソングは新しさとは無縁である。それは彼等のWipersのカバーなどを見れば明らか。リードシングル「It Will Get Worse」はパンクをベースにし、サーフロック、ガレージロックを織り交ぜ、60年代、そして70年代の懐かしきUSロックの音楽を再訪している。 彼等の音楽にはSonicsのようなガレージロックの最初期の音楽性を捉えることも不可能ではない。



「It Will Get Worse」




Lifeguard  『Ripped and Torn』




Label: Matador

Release: 2025/6/6 


Tracklist

1. A Tightwire

2. It Will Get Worse

3. Me and My Flashes

4. Under Your Reach

5. How to Say Deisar

6. (I Wanna) Break Out

7. Like You’ll Lose

8. Music for 3 Drums

9. France And

10. Charlie’s Vox

11. Ripped + Torn

12. T.



ニューヨークのインディーズの真髄がセカンドアルバムの知らせを引っ提げてカムバックを果たした。ウィル・アンダーソンが率いるニューヨークを拠点とするバンド、Hotline TNTが、3rdアルバム『Raspberry Moon』を発表し、リード・シングル「Julia's War」を公開した。 


2023年に "絶妙"(ビルボードの評)なブレイクを果たした『Cartwheel』に続く『Raspberry Moon』は、これまでで最も広範で説得力のあるHotline TNTの新作であり、フル・バンドで制作された初のアルバムでもある。 このアルバムには、若さゆえの切なさと大人の成長、そしてチャーミングで時に笑える、世代を超えた偉大なステートメントが詰まっている。 


Pitchfork(8.4/10ベスト・ニュー・ミュージック)、Stereogum(2023年トップ10アルバム-"巨大なフックが詰まった、リベッティングで落ち着きのないシューゲイザー")など、幅広い批評家から絶賛されたブレイクスルー・アルバム「Cartwheel」のリリースに続き、ニューヨークのHotline TNTがベスト・アルバム「Raspberry Moon」を携えて帰ってきた。 このアルバムは、多くの人が「ニュー・アメリカン・シューゲイザーの次の段階」と呼ぶものだ。 


Hotline TNTは、WednesdayやSnail Mailとの全米ツアーを含む絶え間ないツアーを行い、果てしないラインナップの入れ替わりに耐えながら、いくつかのDIYシーンの要となっている。 Cartwheel」は、フロントマンのウィル・アンダーソン(以前はカルト・インディー・グループ、ウィードのメンバーだった)が大部分を手がけたが、「Raspberry Moon」はフル・バンドで制作された。 ティーンエイジ・ファンクラブ、ダイナソー・ジュニア、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのファン向け。

 

 

「Julia's War」

 

 

Hotline TNT  「Raspberry Moon」

Label: Third Man
Release: 2025/6/20


Tracklist:
 

1.Was I Wrong?

2.Transition Lens

3.The Scene

4.Julia's War 03:03

5.Letter To Heaven

6.Break Right

7.If Time Flies

8.Candle

9.Dance The Night Away

10.Lawnmower

11.Where U Been?

 


 Gwenno(グウェノ)は、7月11日にヘブンリー・レコーディングスからリリースされるニューアルバム『Utopia』を発表した。 イギリスの固有言語であるコーニッシュ語を自在に歌いこなす歌手の新作は英語で歌われている。より広い世界に向けた音楽をシンガーソングライターは志したという。

 

2022年にマーキュリー賞にノミネートされた『Tresor』に続くこのアルバムは、長年のコラボレーターであるリース・エドワーズがプロデュースし、ケイト・ル・ボンとH・ホークラインが参加している。 カタルシスとノスタルジアの境界線を曖昧にする魅惑的な「Dancing on Volcanoes」がリード曲が公開された。 アルバムのジャケットとトラックリストは以下を参照のこと。


リード・シングルについて、グウェノはこう語っている。「ジャーヴィス・コッカーがドライアイスに囲まれてステージで一人踊る姿は、小さな会場でのダンスや飲み会の喪失感を、腰を少し振って手を動かすだけで完璧に表現している......カーディフのグランジタウンにあるル・マンデラ・レストランで朝5時まで踊っていた......」

 

 ペット・ショップ・ボーイズの現代生活に対する完璧な観察眼...ギターのジョニー・マーの精神、世代を超えて受け継がれるケルトの海の響き...カタルシスとしてのダンスの必要性...すべてがここにある-『ダンシング・オン・ボルケーノ』。


ウェールズ語とコーニッシュ語で3枚のアルバムをリリースした後、『ユートピア』は主に英語でレコーディングされたグウェノ初のアルバムとなった。 「まるでデビュー・アルバムを書いたような気分だよ。 「一般的な人たちは、まずそのことについて書き、それから自分の人生を歩み始める。 でも、それを消化するのにとても時間がかかった。物事の意味を理解するのに20年必要だったし、私の創造的な人生の出発点はウェールズではなく、実は北米なのだと気づいたんだ」。


「私が英語でなんとか書けるようになったのは、多くの記憶を翻訳できないことを認めるからだと思う。 「その考えを探求することが本当に重要だとわかったの。 もし私がウェールズに留まっていて、他の場所に住んだり、他の文化を経験したりしていなかったら、本当に違ったものになっていたと思う。 ウェールズ語でレコードを作っていたかもしれない。

 

 

「Dancing On Volcanoes」



Gwenno 『Utopia』

Label: Heavenly Recordings

Release: 2025/7/11

 

Tracklist:


1. London 1757

2. Dancing On Volcanoes

3. Utopia

4. Y Gath

5. War

6. 73

8. The Devil

8. Ghost Of You

9. St Ives New School

10. Hireth

 

Pre-save: https://ffm.to/gwenno-utopia

  Momma 『Welcome to My Blue Sky』

 


 

Label: Polyvinyle/ Lucky Number

Release: 2025年4月4日

 

Listen/ Stream

 

Review

 

Mommaは今をときめくインディーロックバンドであるが、同時に個性的なキャラクターを擁する。ワインガルテンとフリードマンのセカンドトップのバンドとして、ベース/プロデューサーのアーロン・コバヤシ・リッチを擁するセルフプロデュースのバンドとしての二つの表情を併せ持つ。コバヤシ・リッチはMommaだけにとどまらず、他のバンドのプロデューサーとしても引っ張りだこである。現在のオルタナティヴロックやパンクを象徴する秀逸なエンジニアである。

 

2022年に発表されたファーストアルバム『Household Name」は好評を得た。Pitchfork、NME、NYLONといったメディアから大きな賞賛を受け、アメリカ国内での気鋭のロックバンドとしての不動の地位を獲得した。その後、四人組はコーチェラ・フェスティバルなどを中心とする、ツアー生活に明け暮れた。その暮らしの中で、人間的にも、バンドとしても成長を遂げてきた。ファーストアルバムでは、ロックスターに憧れるMommaの姿をとらえることができたが、今や彼等は理想的なバンドに近づいている。ベテランのロックバンド、Weezer、Death Cab For CutieとのライブツアーはMommaの音楽に対する意識をプロフェッショナルに変化させたのだった。

 

本拠地のブルックリンのスタジオGとロサンゼルスのワサッチスタジオの二箇所で制作された『Welcome To My Blue Sky』はMommaにとってシンボリックな作品となりそうだ。目を惹くアルバムタイトル『Welcome To Blue Sky』はツアー中に彼等が見たガソリンスタンドの看板に因んでいる。アルバムの収録曲の多くはアコースティックギターで書かれ、ソングライティングは寝室で始まったが、その後、コバヤシ・リッチのところへ音源が持ち込まれ、楽曲に磨きがかけられた。先行シングルとして公開された「I Want You(Fever)」、「Ohio All The Time」、「Rodeo」などのハイライトを聴けば、バンドの音楽性が大きく洗練されたことを痛感するはずだ。

 

ファーストアルバムではベッドルームポップに触発されつつも、グランジやオルトロックを受け継ぐバンドとしての性質が強かった。続いて、セカンドアルバムでは、タイトルからも分かる通り、エモへの傾倒が強くなっている。「I Want You(Fever)」はBreedersを彷彿とさせるサイケ性があるが、オルトロックとしての轟音性を活かしつつも、それほどマニアックにはならず、バンガーの要素が維持されている。これらはアコースティックギターで曲が書かれたというのが大きく、メロディーの良さやファンに歌ってもらうための''キャッチーなボーカル''が首座を占めているのである。仮にテープ・ディレイのような複雑なサウンド加工があろうとも、それほどマニアックにならず、一定のポピュラー性(歌いやすさ)が担保されている。その理由はマニアックなサウンド処理が部分的に示されるに留まること、そして、バンドの役割が明確であること。この二点がバンガー的なロックソングを生み出すための布石となった。ボーカルがメインであり、ギターやシンセ、ドラムなどの演奏はあくまで「補佐的な役割」に留められている。

 

これはワインガルテンとフリードマンが自由奔放な音楽性や表現力を発揮する懐深さを他のメンバーが許容しているから。それが全体的なバンドの自由で溌剌としたイメージを強調付ける。たぶんこれは、ファーストアルバムにはそれほどなかった要素である。がっつりと作り込んでいた前作よりロックソングのクオリティーは上がっているが、同時にバンドをやり始めた頃の自由な熱狂性を発揮することを、バンド全体、コバヤシ・リッチのプロデュースは許容している。 そしてこれがロックソングとしての開けた感覚と自由なイメージを強調するのである。

 

セカンドアルバム『Welcome To My Blue Sky』において、バンドはポピュラーソングとロックソングの中間に重点を置いている。おそらく、Mommaはもっとマニアックで個性的な曲を書くことも出来ると思うが、オルタネイトな要素を極力削ぎ落とし、ロックソングの核心を示そうとする。そして、これは彼らが必ずしもオルタネイトな領域にとどまらず、上記のバンドのようなメインストリームに位置する商業的なロックバンドを志していることの証ともなりえるのである。

 

バンドというのは結局、どの方向を向いているのか、それらの意思疎通がメンバー内で共有出来ているかという点が大切かと思う。彼等が実際にそういったことを話し合ったかどうかは定かではないものの、多忙なツアースケジュールの中で、なんとなく感じ取っていったのかもしれない。その中には、ツアー中に起きた''不貞''が打ち明けられる場合があり、「Rodeo」で聴くことが出来る。音楽からは、メンバー一人ひとりが器楽的な役割を理解していて、そして彼等が持つ個性をどんなふうに発揮すれば理想的な音楽に近づくのか、そういった試行錯誤の形跡が捉えられる。


一般的には、試行錯誤の形跡というのは複雑なサウンドや構成、そして脚色的なミックスなどに現れることが多いが、Mommaの場合は、それらのプラスアルファの要素ではなくて、マイナスーー引き算、簡略化ーーの要素が強調されている。これが最終的に軽妙なサウンドを生み出し、音楽にさほど詳しくないリスナーを取り込むパワーを持つようになる、というわけである。Mommaの音楽は、ミュージシャンズ・ミュージシャンのためにあるわけではなく、それほど音楽に詳しくない、一般的なロックファンが渇望するパッションやエナジーを提供するのである。

 

 

これが本作のタイトルにあるように、Mommaの掲げる独自の世界「ブルースカイ」への招待状となる。その中には先にも述べたように、90年代以降のオルタナティヴロック、エモ、シンセポップなどの音楽が引きも切らず登場するが、全般的に、その音楽のディレクションの意図は明確である。


わかりやすさ、つかみやすさ、ビートやグルーヴの乗りやすさ、この三点であり、かなり体感的なものである。それは以降の複雑なポストロックやポストパンクに対するカウンターの位置取りであり、頭でっかちなロック・バンドとは異なり、ロックそのものの楽しさ、雄大さ、そして、心を躍らせる感じ、さらには、センチメンタルなエモーションがめくるめくさまに展開される。音楽的な方向性が明瞭であるからこそ、幅広く多彩なアプローチが生きてくる、という実例を示す。これらは、数しれないライブツアーの生活からしか汲み出し得なかったロックソングの核心でもあるのだ。

 

 

 

上記の先行シングルのようなバンガーの性質を持つロックソングと鋭いコントラストを描くのが、内省的なエモの領域に属するセンチメンタルなロックソングの数々である。そして、これらがロックアルバムとして聴いた上で、作品全体の奥行きや深さを作り上げている。「How To Breath」、「Bottle Blonde」では、それぞれ異なる音楽性がフィーチャーされ、前者ではThird Eye Blindのような、2000年代以降のオルタナティヴロック、後者では、シンセ・ポップをベースにしたベッドルームポップのキャラクターを強調している。 そしてどちらの曲に関しても、ボーカルのメロディーの良さやドリームポップに近い夢想的な感覚を発露させている。これらに多忙なツアー生活の中の現実性とは対極に位置する幻想性を読み解くことも不可能ではない。

 

 

また、ライブツアーにまつわる音楽性は従来とはカラーの異なる音楽性と結びつけられる場合がある。例えば、「Ohio All The Time」は、Placeboを彷彿とさせる音楽性に縁取られている。ソングライティングの側面で大きく成長を遂げたのが、本作のクローズに収録されている、子供時代の記憶を振り返りながら、自分の姿が今とはどれほど変わったかを探る「My Old Street」である。他の曲と同じく、歌える音楽性を意識しつつ、スケールの大きなロックソングを書きあげている。これらはMommaがいよいよアリーナクラスのロックバンドへのチケットを手にしつつあることを印象付ける。

 

 

85/100

 

 

Best Track-「How To Breath」


 

昨年10月に開催された“世界初演”コンサート<ICHIKO AOBA “Luminescent Creatures” World Premiere>より、東京公演で披露された「Luciférine」のライブ映像をYouTubeにてプレミア公開しました。


総勢10名によるバンド編成で、最新アルバム『Luminescent Creatures』の世界を再現。一般的なライブ・アーカイブとは異なり、まるで映画のように構成され、幻想的な映像作品となりました。



2月末にリリースされた最新作『Luminescent Creatures』は、世界各国のメディアで高い評価を受け、3月12日付の”Billboard World Albums”のチャートで17位に初登場するなど、国内外で大きな反響を呼んでいます。



現在、キャリア史上最大規模となるワールド・ツアー<Luminescent Creatures World Tour>を開催中。先週3/31(月)には約3年ぶりとなるロンドンでの単独公演をヨーロッパ最大級の複合文化施設、バービカン・センター内のBarbican Hall(約2,000席)にて実施しました。

 

バービカン・センターは、BBCシンフォニーオーケストラやロンドン交響楽団の本拠地となっており、コンサートホールはもちろん、図書館などを内蔵するロンドンの象徴的な文化施設です。

 

この特別な一夜では、アルバムの共作者でありプロデューサーの梅林太郎さんに加えて、英国を代表する弦楽オーケストラ<12 Ensemble>と共演しました。10人のサポート・ミュージシャンとともに代表曲の数々を新たなアレンジで披露し、大きな喝采を浴びました。

 




今後は、来週4/17(木)からスタートするハワイ・ホノルルでの公演を皮切りに、北米で20公演を予定。さらに新たなツアー日程も発表されました。5月にはオーストラリア、ニュージーランドで4公演、6月には北欧を含むヨーロッパ各地を再訪。年末の南米ツアーの追加公演も決定しました。

 

そして今夏、東京・横浜・大阪にてバンド編成による国内コンサート<Reflections of Luminescent Creatures>を計5公演開催!

 

ワールド・ツアーを経てさらに深化した『Luminescent Creatures』の世界を、東西を代表する音響に優れたコンサートホールにて再構築します。どうぞお楽しみに!!



■ライブ映像

 
青葉市子「Luciférine」


https://youtu.be/fgKJ63rcbgE



※4/7(月)18:00 YouTubeにてプレミア公開



■リリース情報

 
青葉市子 8thアルバム『Luminescent Creatures』


2025/2/28(金)全世界同時発売(配信/CD/Vinyl)

 

ストリーミング: https://linktr.ee/luminescentcreatures


【収録曲】

01. COLORATURA
02. 24° 3' 27.0" N, 123° 47' 7.5” E
03. mazamun
04. tower
05. aurora
06. FLAG
07. Cochlea
08. Luciférine
09. pirsomnia
10. SONAR
11. 惑星の泪



■MV

 
青葉市子「SONAR」


https://ichiko.lnk.to/SONAR_YT

 

■コンサート情報

 
公演名:Reflections of Luminescent Creatures

日程:2025年8月13日(水)
会場:東京・サントリーホール 大ホール
開場17:30 / 18:30

日程:2025年8月18日(月)
会場:神奈川・横浜みなとみらいホール 大ホール
開場17:30 / 18:30

日程:2025年8月20日(水)
会場:東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
開場17:30 / 18:30

日程:2025年8月22日(金)
会場:大阪・NHK大阪ホール
開場17:30 / 18:30

日程:2025年8月23日(土)
会場:大阪・NHK大阪ホール
開場16:00 / 17:00

出演:青葉市子


参加ミュージシャン:梅林太郎,
町田匡(Violin), 荒井優利奈(Violin), 三国レイチェル由依(Viola), 小畠幸法(Cello), 丸地郁海(Contrabass),
朝川朋之(Harp), 丁仁愛(Flute), 角銅真実(Percussion)



■チケット

 
全席指定 ¥8,800
全席指定<学割> ¥6,800
※⼩学⽣以上有料 / 未就学児童⼊場不可
※学割:公演当日、入場口におきまして学生証を確認させていただきます (小、中、高校生、大学生、専門学校生 対象)。

イープラス: https://eplus.jp/ichikoaoba-2025/
ぴあ: https://w.pia.jp/t/ichikoaoba-2025/
ローソン: https://l-tike.com/ichikoaoba/


イープラス(海外居住者向け)https://eplus.tickets/ichikoaoba-2025/

チケット一般発売日:5/10(土)10:00〜



■お問い合わせ

 
東京・横浜公演:ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077

 http://www.red-hot.ne.jp

 
大阪公演:清水音泉 06-6357-3666 / info@shimizuonsen.com

 http://www.shimizuonsen.com



□海外公演情報

 

■Luminescent Creatures World Tour
 

・Asia

 
Mon. Feb. 24 - Hong Kong, CN @ Xi Qu Centre, Grand Theatre [with Musicians from HK Phil]
Wed. Feb. 26 - Seoul, KR @ Sky Arts Hall
Thu. Feb 27- Seoul, KR @ Sky Arts Hall
Thu. March 6 - Taipei, TW @ Zhongshan Hall



・Europe

 
Mon. March 10 - Barcelona, ES @ Paral.lel 62
Tue. March 11 - Valencia, ES @ Teatro Rambleta
Thu. March 13 - Milan, IT @ Auditorium San Fedele
Sat. March 15 - Zurich, CH @ Mascotte
Tue. March 18 - Hamburg, DE @ Laiszhalle
Wed. March 19 - Berlin, DE @ Urania (Humboldtsaal)
Fri. March 21 - Utrecht, NL @ TivoliVredenburg (Grote Zaal)
Sun. March 23 - Groningen, NL @ Oosterpoort
Tue. March 25 - Antwerp, BE @ De Roma
Thu. March 27 - Paris, FR @ La Trianon (LOW TICKETS)
Mon. March 31 - London, UK @ Barbican [with 12 Ensemble]
Wed. April 2 - Manchester, UK @ Albert Hall
Fri. April 4 - Gateshead, UK @ The Glasshouse
Sat. April 5 - Glasgow, UK @ City Halls


・North America

 
Thu. April 17 - Honolulu, HI @ Hawaii Theatre
Sat. April 19 - Vancouver, BC @ Chan Centre)
Sun. April 20 - Portland, OR @ Revolution Hall
Mon. April 21 - Seattle, WA @ The Moore
Wed. April 23 - Oakland, CA @ Fox Oakland
Sat. April 26 - Los Angeles, CA @ The Wiltern [with Wordless Music Quintet]
Sun. April 27 - Los Angeles, CA @ The Wiltern [with Wordless Music Quintet]
Tue. April 29 - Scottsdale, AZ @ Scottsdale Center
Thu. May 1 - Denver, CO @ Paramount Theatre
Sat. May 3 - St. Paul, MN @ Fitzgerald Theatre
Sun. May 4- St Paul, MN @ Fitzgerald Theatre
Tue. May 6 - Chicago, IL @ Thalia Hall
Wed. May 7 - Chicago, IL @ Thalia Hall
Fri. May 9 - Detroit, MI @ Masonic Cathedral Theatre
Sat. May 10 - Cleveland, OH @ Agora Theatre
Mon. May 12 - Boston, MA @ Berklee Performance Center
Wed. May 14 - New York, NY @ Kings Theatre [with Wordless Music Quintet]
Sat. May 17 - Philadelphia, PA @ Miller Theatre
Sun. May 18 - Washington, DC @ Warner Theatre
Thu. May 22 - Mexico City, MX @ Teatro Metropolitan



・Australia and New Zealand <NEW>

 
Thu. May 29 - Sydney, AU @ Sydney Opera House
Fri. May 30 - Sydney, AU @ Sydney Opera House
Sat. May 31 - Sydney, AU @ Sydney Opera House
Tue. Jun 03 - Auckland, NZ @ Bruce Mason Centre

 

・Europe <NEW>

 
Tue. Jun 24 - Helsinki, FI @ Temppelinaukio Church
Thu. Jun 26 - Oslo, NO @ Cosmopolite
Tue. Jul 01 - Florence, IT @ Teatro Romano Fiesole
Wed. Jul 02 - Rome, IT @ Case Del Jazz
Fri. Jul 04 - ES, Vida Festival
Sun. Jul 06 - NL, Down the Rabbit Hole Festival



・South America

 
Tue. Nov 25 - São Paulo BR @ Teatro Liberdade
Thu. Nov 27 - Buenos Aires, AR @ Teatro El Nacional
Sat. Nov 29 - Santiago, CL @ Teatro Teleton
Tue. Dec 02 - São Paulo BR @ Teatro Bradesco <NEW>



日程の詳細: https://ichikoaoba.com/live-dates/



2026年、数々の伝説的なコンサートが行われてきた英国ロイヤル・アルバート・ホールでの単独公演が決定!!

 

・UK


Tue, March 31, 2026 – London, UK @ ROYAL ALBERT HALL


 

イギリスのパンクの歴史の原点は一つは、マルコム・マクラーレンがもたらした宣伝的な概念である。そしてもう一つは、社会に内在する政治的な側面である。これは源流に当たるニューヨークのパンクグループよりもその性質が強い。特に、ジョン・ライドンやシドの影に隠れがちだが、イギリスの音楽の系譜を見る際には、ジョー・ストラマー、そしてミック・ジョーンズ、ポール・シムノンを素通りすること出来ない。


当初のザ・クラッシュはラモーンズの音楽に触発されたということもあり、4カウントで始まる直情的なパンクロックソングを特色としていた。その後、レゲエ、スカ、ラヴァーズ・ロックなどを融合させ、パンクロックそのものの裾野を広げていった。パンクの可能性というのは、内包されるジャンルの多彩性にある。それはジャズと同じようになんでも出来るという、ある種の無謀な音楽的な挑戦でもあったわけなのだ。

 

しかし、ジョー・ストラマーやジョーンズがなぜ、レゲエやスカといったカリビアンの共同体の音楽を取り入れるようになったのかという点は、当時の1970年代後半のイギリス社会の情勢が如実に反映されている。


例えば、ノッティング・ヒルの1976年のカリブ系移民と白人を巻き込んだライオットにジョー・ストラマーは偶然居合わせ、この事件に触発され、白人が黒人と一緒に共闘すべきであること、そして白人もまたカリブ系移民のように政治に怒ることをステートメントの中に取り入れたのだ。これは1970年代のサッチャリズムの渦中で、資本を搾取される市民に対し、彼らに倣い、権力に従属することなかれという意見をパンクソングの中に織り交ぜたのであった。


パンクロックの初心者は、例えば、デビューアルバムに何らかの共感を示し、そのあと『London Calling』のようなハイブリッドのパンクの魅力に惹かれていく場合が多いと思うが、ザ・クラッシュのメンバーがなぜカリブ系の音楽をパンクの文脈に取り入れるようになったかを知るのはとても大切だろう。デビュー時のパンクロックソングはもちろん、『Sandanista!』のように一般的に亜流と称されるアルバムまで、表向きの印象だけでなく聴き方が変わってくるからだ。

 

1976年、もう一つのパンクの始まりを告げる動きがロンドンで発生しつつあった。この年の7月にニューヨークのパンクバンド、ラモーンズがノースロンドンにあるラウンドハウスでギグを行い、このライブにはイギリスの最初期のパンクバンドが多く参加していた。彼等はロックソングを簡素化したラモーンズのスタイルに共感を示し、それらを同地で再現させるべく試みた。セックス・ピストルズが1975年11月6日にウェストロンドンのセント・マーチング・スクール・オブ・アートで初演を行い、時を同じくして、ザ・クラッシュは1976年7月4日にはシェフィールドのザ・ブラック・スワンでピストルズを支援するライブを行った。


驚くべきは、この最初の流れが発生したあと、ロンドンのパンクの先駆的な動きはわずか数年で終焉を迎える。いわばこの音楽ムーブメントそのものが''衝動的''であったと言わざるを得ない。


当時の音楽ジャーナリスト、キャロライン・クーンは、この最初のパンクバンドの台頭に直面した時、ピストルズについて、「個人的な政治」であるとし、クラッシュについて、「真剣な政治」と報道しているため、政治的な性質が強かったと言わざるを得ない。


ジョー・ストラマーとシモノンは、ロンドン西部にあるノッティングヒルやドブローク・グローブなどのレゲエ・クラブに足を運んで、ジャマイカの音楽に慣れ親しんでいた。これが結局、クラッシュの多彩な音楽性を形成したのにとどまらず、パンクロックの音楽の網羅性や裾野の広さを構築することになった。

 

 

1976年の夏、ザ・クラッシュのメンバーはノースロンドンのカムデン・タウン、そして西ロンドンのラドブローグ・グルーブ、ノッティングヒルの区域に不法に滞在していた。しかも取り壊し予定の古い空き家に陣取っていた。ギタリストのミック・ジョーンズは、ウィルコム・ハウスと呼ばれる議会のタワーの18階に祖母と一緒に住んでいた。この場所は、ロンドンの高速道路であるウェストウェイが見下され、名曲「London’s Burning」の歌詞でも取り上げられている。 

 

 

彼等が重要な音楽の根幹に置いたアフロカリブの音楽、ジャマイカのレゲエ/スカはおそらくノッティングヒルのカーニバルでも演奏される機会が多かったのではないか。現在も開催されているこのフェスティバルは当時それほど大規模ではなかった。このフェスティバル自体も1958年の最初の人種的な暴動の反省を踏まえて、愛に満ちた祝祭として行われるようになった。

 

しかし、当時の社会情勢の影響もあってか、1976年に二十年前と似たような事件が発生する。それが「ノッティングヒルの暴動」と呼ばれる事件である。この年のカーニバルが終了すると、ストリートが独特な緊張に満ち始め、黒人の一部のカリブ系の若者(白人も参加したという説もある)が警察側に対して暴徒化したのだった。

 

1976年のノッティングヒルの暴動に参加したDJ、映画監督のドン・レッツ

 

この暴動に居合わせたストラマーとシモノンは、黒人の暴動に深い共感を示し、彼等の勇気に接して、「同じように自分たちも怒るべきだ」と最初のパンクロックソング「White Riot」にその意見を込めた。この暴動にはシド・ヴィシャスもいて、二人は彼を捕まえるため暴動に戻った。その様子をテラスハウスから見た黒人の年配女性は彼等に言った。「あそこにいくな。少年たち。殺されるわ!!」

 

ところが、彼等は戻らず、この暴動に最後まで居残った400人規模の黒人たちを英雄視し、「ハードコアのハードコア」と呼んだ。そして、これがすでにオリジナルパンクの後の80年代の「ハードコアという概念」が誕生した瞬間であると言えるだろう。もちろん、この曲は白人側に対するステートメントであると言えるが、そこにはカリブ・コミュニティの考えに対する深い共感を見出すことが出来る。拡大解釈をすると、人種を越えて協働すべきという内在的なメッセージも滲んでいる。その証立てとして、彼等はセカンドアルバム『London Calling』ではレゲエ、スカ、そしてフォーク/カントリーと人種を超越した音楽へと接近していったのである。これは単なる音楽の寄せ集めのような意味ではなく、音楽は人種を超えるという提言がある。

 

個人的なことにとどまらず、他者や社会全体のことを考えられるというのはスペシャルな才能ではないか。そして、意外にも激しいイメージを持つジョー・ストラマーがこういった性質を持ち合わせていたのは、以降の「I Fought The Law」のような友愛的な一曲を見れば歴然としている。ザ・クラッシュはこの日の出来事に強い感銘を受け、デビュー曲「White Riot」を書き上げた。

 

「黒人は多くの問題を抱えている。彼等は確かにレンガを投げる方法を知っている。白人は学校に行って、そこで厚くなる(賢くなる)方法を教えられる。彼等の誰もがムショには行きたがらない」


扇動的な内容であるが、権威や権力に対し反抗を企てることも時には必要であると彼らは訴えかけたのだった。

 

この曲は当初、それほど大きな話題を呼ばなかったが、BBCのジョン・ピールが高く評価し、そしてラジオでも積極的にオンエアした。また、以降の時代になると、ミック・ジョーンズは若気の至りのような部分があったということで「White Riot」を演奏することを忌避したという。しかし、市民が権力に従属せぬこと、反対意見を唱えることの重要性を訴えたという点では、粗野で直情的という欠点もあるにせよ、パンクロックの重要な原点を形作ったと言えるか。

 

なお、最近もノッティングヒルのカーニバルは続いており、現在では、フレンドシップに脚光を当てた友愛的なイベントへと変化している。1976年の暴動をドキュメンタリーフィルムとして追った映画「白い暴動(White Riot)」は、日本で2021年に公開された。この映像では経済破綻状態にあった70年代のイギリスの世相が的確に映し出されている。こちらの映像もぜひ。 

 


 


 

フィラデルフィアを拠点に活動するインディーロックバンド、The Indestructible Water Bear(ザ・インデストラクティブル・ウォーター・ベア)のデビューアルバム『Everything Is OK』から「Missing You」のミュージックビデオを公開した。


アルヴェイズ、ホップ・アロング、ザ・サンデーズ、クランベリーズのファンのために、ザ・インデストラクティブル・ウォーター・ベアーは、インディー・ロック、90'sにインスパイアされたオルタナティヴ、ジャングリーなドリームポップにエモを加えた独自のブレンドを創り上げている。 


The Indestructible Water Bearは、フィラデルフィアを拠点に活動するエモ・エッジの効いたオリジナル・インディー・ロック・バンド。 アルヴェイズ、ホップ・アロング、ザ・サンデーズ、クランベリーズといったバンドと比較される90年代のアルト・ロック・サウンドを持つ。


エモーショナルな歌詞とダイナミックな楽器編成で知られる彼らは、リスナーの心に深く響く曲を作る。 彼らの音楽は内省と激しさのバランスを保ち、心に響くメロディーとドライヴするリズムを織り交ぜ、ユニークで忘れがたいサウンドを生み出している。


彼らのデビューアルバム『Everything Is OK』は、「愛の複雑さと力強さ、そして愛が私たちを癒したり傷つけたりするような方法で、私たちの感情の風景をどのように定義づけることができるかを探求する」7曲からなる音楽作品だ。 


このアルバムは、インディー・ロック、90年代にインスパイアされたオルタナティヴ、そしてドリーミーなジャングルがミックスされ、パワフルな歌声が魅力的だ。 さらにファーマーは
「このアルバムの曲は、子育て、友情、ロマンチックな愛、そして自分自身を愛することに伴う感情の激しさと複雑さを映し出すような、ダイナミクスに富んだものにしたかった」と打ち明ける。 


「私たちの願いは、すべてのリスナーが、喜び、憧れ、安心感、恐れ、喜び、痛みといった、他者と深くつながることから生まれるテーマに共感してくれることです。 すべての曲に共通するのは、浮き沈みを受け入れるということ。人生において、自分の気持ちに大きな解決策や解決策はないことが多いからだ。 むしろ、これらの曲で私たちは物事のあり方を探求し、最終的にはそれを受け入れたい」


「Missing You」





The Indestructible Water Bear is a Philadelphia-based original indie rock band with an emo edge, fronted by a powerhouse female vocalist whose voice captivates and commands. They have a ‘90s alt rock sound that has been compared to bands like Alvvays, Hop Along, The Sundays, and The Cranberries.

Known for their emotive lyrics and dynamic instrumentation, they craft songs that resonate deeply with listeners. Their music balances introspection with intensity, weaving heartfelt melodies with driving rhythms that create a unique and unforgettable sound.

Their debut album Everything Is OK is a seven song musical envelopment that "explores the complexities and power of love and how it can define our emotional landscape in ways that both heal and hurt us," shares frontwoman Gail Farmer. The album is a riveting mix of indie rock, 90's inspired alternative and dreamy jangle, with a powerful delivery. 
 
Farmer further confides, "We wanted the songs on this album to be rich with dynamics, mirroring the intensity and complexity of feelings that come with parenthood, friendship, romantic love and loving oneself. Our hope is that every listener will be able to connect with the themes of joy, longing, security, fear, pleasure and pain that stem from allowing yourself to connect deeply with others. 
 
 
A common thread across all the songs is accepting these ups and downs, because in life, there often are no great resolutions or solutions to how we feel. Rather, with these songs we explore, and ultimately accept, the way things are."


 


 

ニューヨークの四人組のインディーフォークバンド、フローリスト(Florist)は、エイドリアン・レンカー/バック・ミーク擁するBig Thiefと並んで同地のフォークシーンをリードする存在である。もちろん彼等はニューヨークのインディーズ音楽の最前線を紹介するグループ。

 

フローリストはエミリー・A・スプラグを中心に四人組のバンドとしてたえず緊密な人間関係を築いてきた。2017年にリリースされた2ndアルバム『If Blue Could Talk』の後、バンドは少しの休止期間を取ることに決めた。直後、エミリー・スプラグは母親の死の報告を受けたが、なかなかそのことを受け入れることが出来なかった。「どうやって生きるのか?」を考えるため、西海岸に移住。その間、エミリー・A・スプラグは『Emily Alone』をリリースしたが、これは実質的に”Florist”という名義でリリースされたソロアルバムとなった。しかし、このアルバムで、スプラグは、既に次のバンドのセルフタイトルの音楽性の萌芽のようなものを見出していた。バンドでの密接な関係とは対極にある個人的な孤立を探求した作品が重要なヒントとなった。



その後、エミリー・スプラグは、3年間、ロサンゼルスで孤独を味わい、自分のアイデンティティを探った。深い内面の探求が行われた後、彼女はよりバンドとして密接な関係を築き上げることが重要だと気がついた。それは、この人物にとっての数年間の疑問である「どうやって生きるのか」についての答えの端緒を見出したともいえるかも知れなかった。このときのことについてスプラグは、「ようやく家に帰る時期が来たと思いました。そして、複雑だから、辛いからという理由で、何かを敬遠するようなことはしたくない」と振り返っている。「だから、もう一人でいるのはやめようと思いました。もう1人でいるのは嫌だと思った」と話している。


彼女は2019年6月、フローリストの残りのメンバーであるリック・スパタロ、ジョニー・ベイカー、フェリックス・ウォルワースと再び会い、レコーディングに取り掛かった。セルフタイトルへの制作環境を彼女はメンバーとともに築き上げていく。バンドは、アメリカ合衆国の東部、ニューヨーク州を流れるハドソン渓谷の大きな丘の端にある古い家をフローリストは間借りし、その裏には畑と小川があった。

 

バンドのスプラグとスパタロは先に家に到着し、自然の中に完全に浸ることができる網戸付きの大きなポーチで機材をセットアップすることに決めた。これらの豊かな自然に包まれた静かな制作環境は、前作のセルフタイトルアルバム『Florist』に大きな影響を与え、彼らに大きなインスピレーションを授けた。フォークミュージックとネイチャーの融合というこのアルバムのに掲げられる主要な音楽性は、この制作段階の環境の影響を受けて生み出された。もちろん、アルバムの中に流れる音楽の温もりやたおやかさについてはいうまでもないことである。これらのハドソン川流域の景色は、このメンバーに音楽とは何たるかを思い出させたとも言えるだろう。 


『Jellywish』で、フローリストはリスナーをあらゆることに疑問を投げかけ、魔法、超現実主義、超自然的なものが日常生活の仲間である世界を想像するよう誘う。 "ジェリーウィッシュ"は、杓子定規で、制限的で、ひどく感じられる時代に、あえて可能性と想像力の領域を提示する。


このアルバムでFloristは明確な答えを提示することなく、人生の大きな問いを探求している。 その代わりに、バンドはおそらく最も難しい問いを投げかけている 。「染み付いた思考サイクルや、ありきたりな生き方から抜け出すことは可能なのだろうか? それこそが、真に幸福で、満たされ、自由になる唯一の方法なのかもしれない」


シンガー、ギタリスト、そして主要ソングライターであるエミリー・スプレイグは、このアルバムはわざと複雑にしてあると言う。 『本当に混沌としていて、混乱していて、多面的なものを優しく伝えようとしている』と彼女は説明する。 

 

「私たちの世界にインスパイアされたテクニカラーと、私たちの世界から脱出するためのファンタジー的な要素もある」


バンドはおよそ2年間ツアーを中心に活動しながら、苦しみや喜びをはじめとする様々な感覚が人々とどこかで繋がっているのを感じていた。そのことをエミリー・スプレイグは哲学や思想的な側面から解き明かそうとしている。もちろん、それは西海岸に住んでいた時代から続いていたものだった。我々は多くの経験をして学ぶ生き物なのであり、地球に生まれたからにはそのことを心に留めなければ。そしてどのような人も生きている限りは例外ではない。さらにフローリストは目に見えないものを大切にし続け、より良い世界を作るために音楽を作り続ける。


「セルフタイトルのレコードをリリースしてから数年間、私たち(人間は集合体として、多くの小さな行動、感情、反応によって互いに影響し合い、周りの世界に影響を与えている。 この曲は、私たちのそばにある目に見えない世界を信じ、その視点を使ってベールを突き破り、謙虚な現実の中で、共感、愛、他者との繋がりを生み出すための強力なツールを作ることを提案している」

 

「私たちの種としての力を引き出し、実際の善のための変化を生み出し、すべての人々の人生をより良く、平等にするため、私たちはあえて互いを大切にし、地球上の生命を大切にしないものに反対を唱えたい」



Florist 『Jellywish』- Double Double Whammy



フローリストと出会ったのは2022年のセルフタイトル『Florist』だった。結局、この時期と前後して、バーモントのLutaloという素晴らしいシンガーの音楽にも出会うことができたことに感謝したい。古くはパンクやロックのメッカとして栄えてきたニューヨークという土地が現在では様相が変化し、インディーズのフォーク音楽の重要な生産地であるということが掴めてきた。


あるミュージシャンの話によると、現在の同地には、CBGBのフォークシーン、マクシス・カンサス・シティのような固まったロックムーブメントというものは存在しないかもしれない。しかし、CBGBの創業者のクリスタルがカントリー・グラスのムーブメントを作ろうとした壮大な着想が花開いたのは、2020年代に入ってからだった。


しかも、それは、CBGBが閉店してずいぶん後になってからといえるかもしれない。元々、ニューヨークのパンクは、実はそのほとんどがカントリー・ミュージックを宣伝しようとするライブハウスから始まったせいもあり、テレビジョンを筆頭に、詩学などの文学性やインテリジェンスを感じさせる音楽性が含まれていたのである。同時に、ウォール街を象徴として発展してきた金融街であるニューヨークは、その時代ごとに音楽文化を様変わりさせてきた。

 

パティ・スミスにせよ、ラモーンズのような存在にせよ、また、バックストリートで屯していたヒップホップミュージシャン、あるいは2000年以降のミレニアム世代のフォークミュージックを象徴するビックシーフ、あるいはBODEGAのようなポスト世代のパンクバンドですら、彼等は20世紀の経済発展の象徴とも言えるニューヨークの街角で生活し、資本主義の価値観が蔓延する中で、それぞれが人間としてどのように生きるのかというテーマを探し求めてきた。 


なぜそこまでをするのか、と考える人もいるかもしれない。そして、それは摩天楼の世界があまりに強大であるがゆえ、個人やグループとして音楽を作るということが、異質なほど切実な意味を持つようになるからだ。音楽やそれに付随する何らかの芸術作品を制作し、ライブハウスやファンと交流すること、それは自分の存在を確認するためでもあった。これは専業か否かという問題ではなく、音楽そのものがもの凄く切実な意味を持っていた。そうでもしなければ、個人という存在すらかき消されてしまうことがある。これが資本主義社会の実態なのである。

 

今後の社会情勢がどのように移ろい変わっていくにしても、大局というのはそれほど大きくは変化しないのではないだろうか。近年、後期資本主義という概念を提唱する経済学者もいたかもしれないが、結局、これらは手を変え品を変えといった具合に、別のルートをぐるぐる回っていくのだろう。ある資本主義の形態に限界が来ると、次の資本形態に移行していく。確かにそうかもしれない。繰り返しが今後も続く事が予測される。しかし、人間はいつも制限的な社会の中で暮らさねばならないが、こういった外的な環境に左右されない普遍性というものが存在する。いつの時代もそれに人々は癒やされ、心を躍らせる。そして外側の風景などは移ろい変わっていくだけの、ただの風物のようなものであると気が付かずにはいられない。こんなことを言うのは、いま現在、世界でカオスをもたらす原因が再び発生しようとしているからである。

 

 

そして、政治は敵対意識や反抗意識を市民に植え付けるが、もし、世界の中に融和や協調という概念が生じるとすれば、それはやはりリベラルアーツを始めとする分野、それから音楽のようなものを通してと言わざるを得ない。最近では日本の大手銀行の社員研修で芸術鑑賞をするという話題があったが、''なぜ仕事に関係のないことをするのか''と疑念を抱く人もいるに違いない。そういうことをするのは、この世界には無数の道筋があるということを確認するためなのだ。それは、何らかの苦境に陥った時、安心や癒やしの瞬間をもたらす場合がある。もし、この世の中のすべての生産物が何らかの経済的な利益を生み出すため”だけ”に存在しているすれば、利益を生み出さないものは存在価値がないということになる。しかし、人生が順風満帆であるときにはわからないけれど、利益を生み出さなくとも意義を持つ生産物は限りなく存在する。そういうことを理解したとき、本当のものの価値を知ることになる。そして、同時に、この世界の多くのものが相対的な価値という杓子定規で計測されているに過ぎないことに気がつく。

 

 

フローリストの音楽は少なくとも、こういった相対的な価値に軸足を置いていない。 流行り廃りというのは確実に存在し、昨日までは絶対的な価値を持つとされていたものが、数年経つと、なんの価値も見出されないようになる事例がよくある。そして、これが相対的な価値を元にした世界のかなり残酷な一面なのである。


しかし、上記のようなことを踏まえた上で大切にすべきポイントがある。それは、好き、熱中する、もしくはワクワクする、というような独自の評価軸を人生の指針にするということである。誰かの意見やお墨付きをもらわなくとも、自分の感覚を重要視してゆっくりと歩いていくべきなのだ。そして、水かけ論のようになってしまうけれど、『Jerrywish』は四人組のフォークバンドの”好き”という感覚が重要視されている。彼等は音楽に心から夢中になっているし、そして、彼らは音楽の力を心から信じている。

 

 

現在の米国の社会情勢はカオスに陥っている印象である。考えの相違によって何らかの分断が起きていても不思議ではない。例えば、フォークミュージックの象徴であるニール・ヤングは、グラストンベリーに出演するため、アメリカを出国したあと、母国に帰れなくなるのではないかと懸念しているのだという。また、ノーベル賞受賞者のボブ・ディランは、近年は公の発言を控えている印象であるが、社会的な提言を言いたくて、うずうずしているかもしれない。


そして、フローリストに関して言えば、彼等の伝統的なフォーク音楽を受け継いで、それらを未来の世代に伝える重要な継承者のような存在である。そして、このアルバム『Jerrywish』では、幻想主義を交えながら、現実世界を俯瞰し、2020年代を生きるミュージシャンとして何を歌うべきかという点に照準が絞られている。


すべてが理想の通りにいったとはいえないかもしれないが、エミリー・ スプラグを中心とするバンドは、より良き社会を作り上げるため、軽やかなフォーク音楽に乗せて、建設的な提言を行っている。そしてそれは、ヤングやディランと同じように、社会を変えるような大きなパワーを持っている。また、本来は地球の人々が一つに繋がっているという理想主義的な概念を捉えられる。条件や環境、価値観の違いを乗り越えるという考え、それらはジョン・レノンに近いものである。同時にそれは、現実社会では容易には達成しがたいので、リベラルアーツや音楽という形で多くのクリエイターたちが提言してきた、ないしは伝えてきた内容でもあるのだ。

 

 

フローリストは、ニューヨークの山岳地帯のキャッツキルのプロジェクトとして知られている通り、自然主義者としての側面を持っている。それはアルバムの全体に通奏低音のように響きわたり、生き物全般を愛するという普遍的な博愛主義に縁取られている。アルバムはオーガニックな質感を持つアコースティックのフォークミュージックで始まり、「Levitate」はその序章となる。


「Levitate」は、音楽の助走のような役割を果たし、風車小屋の水の流れを補佐するかのように、アルバムの世界を少しずつ広げていく。


アルペジオを中心とする滑らかなフォークギターに合わせて、エミリー・スプラグは、心を和ませるような和平的な歌を歌い上げて、混乱した世界に規律をもたらす。こういった音楽は、世界と自分の生きている社会がどこかで繋がっていることを知らないと作れない。そしてまた、自分たちの音楽が聴き手にどんな影響を及ぼすのかを考えないと到達しえない。実際的に、スプラグはディランの影響下にある渋いボーカルを披露し、牧歌的な世界観を押し広げていく。

 

野原や牧草地のような情景を思わせる伸びやかな音楽で始まり、「Have Heaven」では、まるで小川の縁に堰き止めている小舟に乗り、実際に櫂を漕ぎながら、歌をうたうかのように雰囲気だ。ローファイなサウンド処理、マイクでドラムの近い音域を拾う指向性など、VUのような音楽作りを元に、どことなくシネマティックで幻想的なフォーク・ミュージックが構築される。音楽そのものが実際的な情景を呼び起こすのが素晴らしい点で、聞き手は映画「草原の実験」のように自由に発想をめぐらすことが出来る。バンドとしての音の運びもお見事としかいいようがなく、ロマンティックな感覚を滑らかなフォークミュージックによって表現している。ここでは、そよ風に揺られて、歌をつむぐような独特なサウンドスケープを呼び起こすことがある。そして印象的なフレーズ「私の中には天国がある」という、啓示的な歌詞を幻想的に歌う。 


 

「Have Heaven」

 

 

アルバムは一連なりの川の流れのように繋がっている。「Jellyfish」について、スプラグは次のように語る。


「Jellyfishはアルバムのタイトル曲であり、また、世界観を押し広げるための役割を担っている」


「この曲は、私たちの世界の神秘に驚嘆すると同時に、人間の手によってその多くが破壊されたことを嘆いている。 私たちの心と自然界との間に一本の線を引き、この曲とレコードの重要なテーマを確立している」


「この曲は、リスナーに対して、私たちは幸せと愛に値するというパワーセンターを思い出させることで終わっている。これは、以前の歌詞を反映している。"地球のすべてを破壊する "という歌詞は、物事がどのように見えるかについての考察である」 


制作者の言葉の通り、タイトル曲は人生の嘆きのなかで本質的な概念とはなんなのかを思い出させる。暗さと明るさの感情の合間を行き来するフォークミュージックをベースにし、少し遊び心のある水の音のサンプリングなどを介して、魅惑的な音楽が繰り広げられる。

 

 

「Started To Glow」は、具体的な曲名が思い浮かばないが、ビートルズの初期の楽曲を彷彿とさせる。柔らかいアコースティックギターのストロークが音楽的な開放感をもたらし、そしてソフトな感じのボーカルが乗せられる。 曲はどこまでも爽やかで、ピアノのユニゾンのフレーズを相まってどこまでも精妙かつ静謐である。ギターの開放弦を強調したコードの演奏は滑らかであるが、ボーカルも他のアンサンブルとの息の取り方をよく配慮していて、ボーカルとギターそれぞれが主役として入れ替わる。これが音楽の休符の重要性を示唆するにとどまらず、癒やしの瞬間をもたらす。時々、これらのフレーズの合間に入るアンビエント風のシンセも幻想的な雰囲気を与えている。録音全体にもさりげない工夫が凝らされ、テープディレイの処理が入ることも。これらは実験的な要素もあるが、全体的な音楽の聴きやすさが維持されている。

 

制作者のコメントでは「タイトル曲が暗め」ということであるが、「This Was A Gift」は、より物憂げなトーンに縁取られている。しかし、曲自体は内省的な雰囲気があるとしても、ドラムがそのメロディーをリズム的な側面から支えることで、曲全体の印象をダイナミックにしている。


「This Was A Gift」はドラムが傑出している。他の曲では、ジャズで使われるブラシの音色が登場することもあるが、この曲ではスティックでゆったりとしたリズムを作り出している。スネアにリバーブ/ディレイを施し、程よい広さの音像を作り上げ、空間的なアンビエンスを維持している。大切なのは、ドラムのフィルが曲の憂鬱なイメージをドラマティックにしていることだろう。つまり、パーカッションがボーカルの旋律の情感を上手く引き出そうと手助けしている。


ドラムがボーカルのフレーズとユニゾンを描き、三連符のように省略されて演奏されたりもする。バンドの演奏の連携がうまく取れていて、音楽自体が高い水準に達しているが、それを感じさせず、気楽に演奏しているのがクール。さらに、ローズピアノも登場し、アクセントをつけるため、きらめきのあるフレーズが導入される。どの楽器も乱雑に演奏されるのではなく、各々の楽器が器楽的に重要な役割を担い、しかもタイトにまとめ上げられているのが素晴らしい。

 

 

アルバムの前半ではモダンなフォークバンドとしての姿を見出だせる。一方で、中盤の収録曲において、Floristは古典的なコンテンポラリーフォークにも取り組んでいる。


「All The Same Light」ではボブ・ディラン風のフォークソングとして楽しめる。ただやはり、男性的な音楽であったフォーク音楽は時代が変わり、レッテルや性別を超えた中性的な音楽に代わりつつあるのを実感せざるをえない。これらは完全に女性のものになったとは言えないけれど、少なくとも、従来のカントリー/ブルーグラスのヒロイックな男性シンガーという枠組みだけではこの音楽を語りつくせないものがある。


フォーク音楽は、古くは男性的なロマンやアウトサイダーの心情を反映してきたが、類型的な表現から個人的な表現へと少しずつ変化してきている。そして、それらは西部劇的な英雄というイメージのあったフォーク歌手の従来の固定概念から脱却し、一般的な音楽へと変化しつつあるのかもしれない。これらはアメリカのフォークミュージックの源泉を再訪する意味がもとめられる。


「Sparkle Song」も同じタイプの曲として楽しめるはず。おそらくフローリストはアルバムの制作するときに、スムーズな流れを断ち切らないように、前の曲の雰囲気を重視した上で、その雰囲気を壊さないように曲を慎重に収録している。それは実際的に、アルバムの楽しむ際に、聴きやすさをもたらすにとどまらず、何度もリピートしたいという欲求すら生じさせるのである。

 

 

一作品として語る上で、アルバムの真の醍醐味や凄さは、終盤のいくつかの収録曲に見出せる。フローリストが掲げる全体的なモチーフやテーマも、聴きすすめていくうち、なんとなく直感的に掴めてくるようになるはず。例えば、絵画や文学も同様であるが、はじめは手探りで不思議な世界を垣間見ていくと、なんとなく全体像が掴めてくるという感じ。そして、このアルバムは、音楽の持つ世界にじっくりと浸らせてくれる懐深さがあるということも重要だろうか。


それがなんに依るものかは明言出来ないが、少なくとも、アルバムをハンドクラフトのように制作する根気強さ、音楽に対する普遍的な信頼感、さらには前述したようなニューヨークに綿々と受け継がれる文化的な感覚が、こういった奥深いフォークミュージックの世界を形作ったのかもしれない。曲単体では即効性がないように思えるかもしれないが、必ずしもそうではないことが分かる。フローリストの曲はフルレングスとして聴くと、その真価が掴めるようになる。いうなればフローリストの音楽は聴けば聴くほど、深〜い味わいが滲み出てくるのである。

 

「Moon, Sea , Devil」、「Our Hearts In A Room」はフローリストの代表曲となる可能性があるだけではなく、2020年代のインディーフォークミュージックの名曲であるため、この音楽のファンは出来るだけ聞き逃さないようにしていただきたい。


「Moon, Sea , Devil」は同地のビック・シーフとも共鳴するような音楽であるが、フローリストの曲はよりオープンで、オーガニックな雰囲気に満ちている。そして、フローリストの音楽は、このアルバム全体を通して泣かせる要素を出来るかぎり避けているが、パーソナルでセンチメンタルな心情をバンド全体で共有したとき、心を揺さぶられるような崇高な感覚が現れる。


そしてそれは、ソングライターの個人的な考えが、バンドメンバーと共有された素晴らしい瞬間であり、抽象的な概念が音楽という目に映らないかたちを通じて、しっかりと具象化された''奇跡の瞬間''なのである。

 

音楽の核心のようなコアが最後に出現する。そして、その音楽が持つコアに触れたとき、アルバムやバンドのイメージが変化する。『Jellywish』の最も感動的な瞬間ーーそれはギミック的なものとは対極にあるささやかな喜びと驚きと共に到来する。彼らが伝えたいこと……、たぶんそれは、なにかを心から純粋に愛することの尊さである。


「Our Hearts In A Room」は雄大な感じがし、フォークソングとして普遍的な光輝を放ってやまない。メインボーカルとコーラスが合わさる時、フローリストのフォークバンドとしての圧倒的な偉大さが明らかになる。そしてそういう感覚を普段は控えめにしているのがこのバンドの魅力。『Jellywish』は清涼感を持って終わる。音楽そのものがさっぱりしていて後味を残すことがない。

 

 

 

95/100

 

 

 

 Best Track- 「Our Hearts In A Room」

 


ブルックリンのシンガーソングライター、Mei Semonesがニューシングル「Zarigani」をリリースした。

 

この曲はBayonet(ビーチ・フォッシルズのボーカリストとキャプチャード・トラックスのマネージャが設立したレーベル)から5月2日に発売予定のデビューアルバム『Animaru』に収録される。

 

アーティストが得意とするボサノヴァをジャズ/フォーク/ポップスとして昇華した素敵なシングル。この曲では、アーティストが子供の頃に妹と一緒に遊んだ思い出がインスピレーションとなっている。ミュージックビデオはアーティストが住んでいるブルックリンの街角で撮影された。 


メイ・シモネスのコメントは下記の通りとなっている。

 

「Zarigani」は、私がこのアルバムで試みていたジャンルの融合を象徴している。明るく、複雑で、動きの速いボッサ・タイプのヴァースが、よりシンプルな響きのインディー・ロック的なコーラスと強く対比している。


各コーラスの前に繰り返されるメインのリックは、メロディック・マイナー・コルトレーンにインスパイアされたものだ。

 

曲名はザリガニという意味で、小さい頃に妹と小川でザリガニを捕まえた思い出に由来している。

 

 

現在、メイ・シモネスは自身初のヨーロッパツアーを開催中。本日、ベルギー/アントワープでの公演を予定している。さらに今後のツアー日程も追加で発表された。注目は日本の最大級の音楽祭”フジロックフェスティバル 2025”にも出演が決定。下記よりライブ日程の詳細をご確認下さい。

 

 

「Zarigani」

 

 

 

◆2024年のインタビュー記事はこちらからお読み下さい。

 

 

【Mei Semones:  2025 TOUR DATES】

 

Fri. Apr. 4 - Antwerp, BL @ Trix ~
Sat. Apr. 5 - Paris, FR @ Petit Bain ~
Sun. Apr. 6 - Paris, FR @ The Mixtape

Wed. May 7 - Brooklyn, NY @ Music Hall of Williamsburg*
Thu. May 29 - Philadelphia, PA @ World Cafe Live*
Fri. May 30 - Washington, DC @ The Atlantis*
Sat. May 31 - Carrboro, NC @ Cat’s Cradle Back Room*
Mon. June 2 - Atlanta, GA @ Aisle 5*
Tue. June 3 - Nashville, TN @ DRKMTTR*
Wed. June 4 - Louisville, KY @ Zanzabar*
Fri. June 6 - Columbus, OH @ Ace of Cups*
Sat. June 7 - Chicago, IL @ Lincoln Hall*
Sun. June 8 - Milwaukee, WI @ Cactus Club*
Mon. June 9 - Minneapolis, MN @ 7th St Entry*
Wed. June 11 - Ferndale, MI @ The Loving Touch*
Thu. June 12 - Toronto, ON @ Longboat Hall*
Fri. June 13 - Montreal, QC @ Bar Le Ritz PDB*
Sat. June 14 - Boston, MA @ Red Room Cafe 939*

Fri. July 11 - Dallas, TX @ Club Dada
Sat. July 12 - Austin, TX @ Parish
Tue. July 15 - Phoenix, AZ @ Valley Bar
Wed. July 16 - San Diego, CA @ Quartyard
Fri. July 18 - Los Angeles, CA @ Lodge Room
Sat. July 19 - San Francisco, CA @ The Independent
Mon. July 21 - Portland, OR @ Polaris Hall
Tue. July 22 - Vancouver, BC @ Biltmore Cabaret
Wed. July 23 - Seattle, WA @ Barboza

Sun. July 27- Minamiuonuma, Japan @ Fuji Rock Festival

~ supporting Panchiko
* with John Roseboro