Peel Dream Magazine(ピール・ドリーム・マガジン)は、ノスタルジックなチェンバーポップ/バロックポップをエレクトロニックと融合させ、独特な音楽的な世界観を構築する。

 

4枚目のアルバム『Rose Main Reading Room』 のリリースに先駆けて、2曲の新曲「Central Park West」と「Dawn」を公開した。ピール・ドリーム・マガジンのジョー・スティーヴンスはプレスリリースで次のように語っている。

 

「『Central Park West』は、私が一人でマンハッタンを散歩した時の一人称の記録だ。この曲の多くは自然史博物館を題材にしている。自然史博物館は、奇妙なジオラマと静かな低い照明でいつも私を魅了してきた。また、セントラル・パーク、アッパー・ウエスト・サイド、42丁目にあるニューヨーク市立図書館のローズ・メイン閲覧室(このアルバムの名前にちなんでいる)なども歩いた」

 

 

 「Central Park West」

 

 

ミュージック・ビデオでは、アナログの時代のマンハッタンやニューヨーク、そしてバックストリートの情景が映像に収められている。その中には、セントラルパークを闊歩する騎馬兵、広場でスケートをする人々、エンパイア・ステート・ビル、馬に乗ったジョン・レノン、ブロードウェイのネオンサイン、子供を引き連れて歩くジョン・レノン、戦前は億万長者の街だったバワリーにあるCBGB、パンクバンドのステージ、チャイナ・タウン、ダウンタウンにあるヒップホップアート、ストリートに屯する人々をはじめとする、貴重なカットが収められている。 撮影時期は1970年代の終盤の映像であると推測される。ノスタルジックな雰囲気がある。

 

「この曲は、フルート、バンジョー、アコースティック・ギターによる一種の森のサウンド・パレットを想起させ、コスモポリタンなものとの並置が楽しく感じられる。『Central Park West』のバックには、ニューアルバムからのもう1曲、フィリップ・グラスにインスパイアされたような「Dawn」が続く。Dawnは本当にシンプルな曲で、始まりについて歌っているんだ。」

 

「Dawn」はスティーヴ・ライヒの「Octet」の系譜にあるミニマルミュージックにインスピレーションを受けていると推測される。

 

余談として、ライヒは2008年に日本の武満徹作曲賞の審査員を務めた際、無名のテープミュージック制作者に賞を与えた。「Dawn」については、木管楽器をサンプリングし、反復させる。アナログのテープ・ミュージックのようなレトロな音の質感がある。途中からボーカルが入るが、グロッケンシュピールを重ね合わせ、重層的なミニマル・ミュージックを構築している。

 

ライヒの音楽の多くは、モチーフの音形を組み替えたり、リズムの配置を組み替えたりする「variation」の手法により構築されている。電子音楽という側面で後世のミュージシャンに大きな影響を及ぼしたのは自明だが、依然として作曲の観点で学ぶべき点は多いように思える。

 

コードを分散和音として処理したり、連続した駆け上がりの旋律に組み上げたり、音形から一つの音を抜いたり、付け加えたり、音形をスラーで引き伸ばしたり、逆向きに音形を配置したり、主旋律に対して、鏡形式のカウンターポイントを配置したり、装飾音を加えたりという技法はドイツ/オーストリアの古典派の墓にある。その一方、作曲に行き詰まったときに活用できる。

 

 

「Dawn」

 


Peel Dream Magazineの新作アルバム『Rose Main Reading Room』は9月4日にTopshelfからリリースされる。



beabadoobee

ニューアルバム『This Is How Tomorrow Moves』のリリースを控えて、ビーバドゥビーが最後の1曲を公開した。


「Beaches」は、彼女が最近リリースした「Ever Seen」、「Take A Bite」、「Coming Home」に続くもので、アルバムの最新曲のひとつでもある。リック・ルービンのマリブ・スタジオ、シャングリラでのレコーディングの最中に書かれたこの曲は、ボーが体験した周辺地域とビーチに向かう楽しさにインスパイアされたという。


「マリブで初めて海に飛び込んだときのことを、ただ足を入れようと思ったの。でも、みんなが『体ごと入ればいいじゃない。飛び込んで!』って。そしてそれが、このレコーディングの機会全体を象徴するものになった。中途半端な気持ちでやらないで、思いっきりやるのよ!」


明日8月9日(金)にDirty Hitからリリースされるアルバム全体について、彼女はこう語っている。


「このアルバムは大好きよ。このアルバムは、この新しい時代、自分が今いる場所についての新たな理解をナビゲートする上で、他の何よりも私を助けてくれた気がする。それは女性になるということだと思う。この曲では、自分の行動をより意識していると思う」と彼女は付け加え、「以前のレコードでは、一貫して他人の行為に対する自分の反応について、非難合戦のように歌っていた。それでもこのアルバムでは、自分の責任も必然的にあることを受け入れている。幼少期のトラウマであれ、人間関係の問題であれ、何事もタンゴには2人必要なんだ」


「Beaches」

Toro y Moi announces new album "Hole Erth"

 

 

Toro Y Moi(チャズ・ベア)がニューアルバム『Hole Erth』で帰ってくる。このアルバムは9月8日にDead Oceansから発売される。『Mahal』に続く8作目のフルアルバム。

 

このアルバムは、アンセミックなポップ・パンクとオートチューニングのメランコリックなラップをクロスオーバーし、彼の多彩な音楽の趣味を反映させている。、チャズ・ベアの音楽史-パンクやエモに没頭した幼少期、現代ラップ界の大物たちのプロデュースを手がけた過去を網羅している。



ベン・ギバード、ポーチズ、ケヴィン・アブストラクト、グレイヴ、ケニー・メイスン、ドン・トリヴァー、ダックワース、イライジャ・ケスラー、レフなど、豪華なゲストが参加している。


リード・シングルの「Tuesday」は西海岸のポップ・パンクをラップ側から解釈したようなナンバー。この曲についてチャズ・ベアは次のように説明している。


「この郊外のアンセムを楽しんでもらいたい。大人になってからは、メインストリームとアンダーグラウンドのアーティストの境界線はしばしば物議をかもしたが、今ではその境界線は曖昧になり、何が好きなのかさえわからなくなってしまった...ときもある」

 

 

 「Tuesday」- Best New Tracks



アルバムの発表に合わせて、トロ・イ・モイはロサンゼルスのハリウッド・フォーエヴァー墓地でのヘッドライン公演とザック・フォックスのサポートDJセット、翌月のニューヨークのノックダウン・センターでの公演を発表した。

 

これらの公演は、8月にカリフォルニア州バークレーのグリーク・シアターで行われるヘッドライン公演の発表に続くものである。彼にとってこれまでで最大の公演であり、2019年にサンフランシスコのThe Fillmoreで2晩を完売させて以来、この地域では初のヘッドライナー公演となる。



2nd single- 「Heaven」



トロ・イ・モイはケヴィン・アブストラクトとレヴとタッグを組み、ブロークン・ソーシャル・シーンの「Anthems for a Seventeen Year-Old Girl」のサンプルを挿入した新曲「Heaven」を発表した。この曲はリードシングル「Tuesday」に続く、Toro y Moiの次のアルバム『Hole Erth』のプレビュー第2弾となる。インディア・スリーム監督によるビデオは以下より。


トロ・イ・モイはこのニューシングルについて次のように語っている。


「ミュージシャンとして、ソングライターが...何もないところから出てきた。あるいは、数分から数時間のうちに書かれた曲で、淡々とした魔法がかかっている。『Heaven』はまさにそれだ。サンフランシスコのディファレント・ファーでの『ホール・アース』セッションの初日に書かれた」


「私はエンジニアのグレース・コールマンに、私のスタジオのデモの中からランダムにセッションを開いてくれるように頼んだ。セッションを始めてから1時間も経たないうち、私は2番目のヴァースをラップしている自分に気づき、完成させる価値のある曲ができたかもしれないと思った」


「プロダクションやミックスについてそれほど難しく考えないで、ただ、自分の考えに耳を傾ける。私は、最終的に、処理する瞬間について書き、ミュージシャンの旅は絶え間ない修行であり、ある側面に注意を払うだけで、何かが抜け落ちてしまう余地があることに気づいたんだ。提示された選択肢がすべて詩的に両極端であるとき、人はどのように決断を下すのだろうか?」

 

 

「Heaven」

 

 

・3rd、4th Single「Hollywood」/ 「CD-R」

Toro y Moi
Toro y Moi

西海岸のチルウェイブの象徴的なミュージシャン、Toro y Moi(トロ・イ・モア)の次回作『Hole Erth』が約1ヶ月後に発売される。今回、チャズ・ベアは次回作から2曲をドロップした。

 

「Hollywood」では、Toro y Moiが「エモ・トラップの領域に入っていることがわかる」とBrooklyn Veganは指摘している。この曲には、デス・キャブ・フォー・キューティーとザ・ポスタル・サービスのベン・ギバードがヴォーカルとして参加している。「私は以前からベンの音楽のファンで、彼がアルバムに参加するのは的確だと思った。怒りやノスタルジアをテーマにしているから、『Hollywood』は完璧にフィットしていると感じた」

 

 「Hollywood」

 

同時に公開された「CD-R」は、チャズ・ベアが言うには、「プレイリストやストリーミングの前の時代、アルゴリズムではなく人々によってキュレーションされていた時代に敬意を表した曲」であるという。トラップをベースにテクノ風のIDMを結びつけている。両曲とも下記で聴くことができる。


ニューアルバム『Hole Erth』は9月6日にDead Oceansからリリースされる。ゲスト・ミュージシャンも豪華なので注目したいところだ。Duckwrth、Elijah Kessler、Don Toliver、Porches、Kenny Mason、Kevin Abstract、Lev、Glaiveらが参加している。チャズ・ベアーは、10月3日のKnockdown Centerでのニューヨーク公演を含む、アルバムのツアーを間もなく行う予定。

 

「CD-R」


 

 

Toro Y Moi によるニューアルバム『Hole Erth』は9月6日にDead Oceansからリリースされる。



Toro Y Moi Tour Date:


8/9 – Vancouver, BC @ Vogue Theatre
8/10 – Seattle, WA @ Thing Fest
8/11 – Portland, OR @ The Best Day Ever Festival
8/13 – Berkeley, CA @ Greek Theatre (with Aminé)
9/20 – Los Angeles, CA @ Hollywood Forever with Zack Fox (DJ Set)
10/3 – Queens, NY @ The Knockdown Center
10/18 – 10/19 – Miami, FL @ III Points Festival




Toro Y Moi 『Hole Erth』

Label: Dead Oceans

Release: 2024年9月8日


Tracklist:

1. Walking In The Rain

2. CD-R

3. HOV

4. Tuesday

5. Hollywood (Feat. Benjamin Gibbard)

6. Reseda (Feat. Duckwrth & Elijah Kessler)

7. Babydaddy

8. Madonna (Feat. Don Toliver)

9. Undercurrent (Feat. Don Toliver & Porches)

10. Off Road

11. Smoke (Feat. Kenny Mason)

12. Heaven (Feat. Kevin Abstract & Lev)

13. Starlink (Feat. Glaive)

 

 

 

Toro Y Moi:

 

トロ・イ・モワは、サウスカロライナ出身でベイエリアを拠点とするチャズ・ベアによる12年以上にわたるプロジェクトである。

 

2008年の世界的な経済破綻をきっかけに、Toro y Moiはチルウェイヴとして広く知られるサブジャンルの旗手として頭角を現した。その後10年間、彼の音楽とグラフィック・デザインは、その特別な呼称をはるかに、はるかに凌駕してきた。偉大なレーベル、Carparkとの9枚のアルバムを通して、彼はサイケ・ロック、ディープ・ハウス、UKヒップホップ、R&B、そしてその枠を超え、むしろ象徴的で明るくきらめくToro y Moiの指紋を失うことなく探求してきた。

 

ベアーはグラフィックデザイナーとしても活動している。ナイキ、ダブラブ、ヴァンズなどのブランドとコラボレートしてきた。ソングライター、プロデューサーとしても、タイラー、ザ・クリエイター、フルーム、トラヴィス・スコット、HAIM、ティーガン&サラといったアーティストとコラボしている。

 

©Alexa Viscius

 

シカゴのソングライター、Tasha(ターシャ)がニューシングル「So Much More」をリリースした。「The Beginning」と「Michigan」に続く三作目のシングルとなる。


インディーロック調のイントロからハイパーポップ風のアンセミックなサビに繋がっている。現代の後期資本主義の中で、欠乏感に意識を向けるのではなく、本質的な豊かさを思い出すことの重要性が歌われている。

 

アルバムのタイトル曲「So Much More」は、恐れや自暴自棄になるのではなく、豊かさのマインドセットを持ち続けることを自分に思い出させることを歌っている」とターシャは声明で説明している。

 

「今あるものに感謝しながら、これからもっと良いことが起こる可能性を信じるということについて。私がそれに目を向け、心を開いているとき、不思議と美しさと愛があふれている。資本主義は欠乏マインドを糧とし、失うこと、欠乏すること、あるいは、誰かが自分より「多く」持っていることを恐れ、持っているものを内側にため込むことを奨励している。しかし、この曲は(そして、実際アルバム全体についても)、エンディングの「あなたはこれだけでなく、もっと多くを手に入れることができる」という宣言において、その考え方に抵抗している」

 

ミュージックビデオでは、ターシャがシカゴのマーケットのような場所で弾き語りをする姿が収録されている。映像では、原曲の開放的な感覚と開けていくようなイメージが上手く演出されている。 


Tashaの新作アルバム『All This And So Much』はBayonetから9月20日に発売が予定されている。

 

「So Much More」

E L U C I D

ニューヨークのラッパー/プロデューサー、E L U C I Dがニューアルバム『REVELATOR』を発表した。Fat  Possumから10月11日にリリースされる。E L U C I Dは昨年、Armand Hammer、billy woods、JPEGMAFIAとのコラボレーションアルバム「We Buy Diabetic Test Strip」を発表している。


ビリー・ウッズをフィーチャーしたアルバムのリードシングル「Instant Transfer」はトラップのスタイルの巧みなラップでリスナーを惑乱させる。放送禁止用語のNワード等はお手のもの。同時に公開された「Slum of A Disregard」は、コラボレーションアルバムの経験を活かしたドラッギーなアブストラクトヒップホップだ。先鋭的なラッパーとしての才覚を遺憾なく発揮している。


『REVELATOR」は生々しく、ひび割れるような衝動が地下送電線のように還流している。ELUCIDが作り上げたオーディオアウトバーンからのオフランプが権力者や加担者の家をブルドーザーで破壊する。金の前掛けをつけた反逆者ロバート・モーゼス。『REVELATOR』は、目をそらすことを拒否する。今を生きるエネルギーに満ちている。殺人仮面のカルペ・ディエム。


『REVELATOR」のパッケージは、長年アーマンド・ハマー/バックウッズのアートディレクターを務めたアレクサンダー・リヒターがデザインした。



「INSTANT TRANSFER (feat. billy wood)」- Best New Track
 


「SLUM OF A DISREGARD」

 



E L U C I D『REVELATOR』


Label: Fat Possum

Release: 2024年10月11日


Traclklist:


THE WORLD IS DOG

CCTV (feat. Creature)

YOTTABYTE

BAD POLLEN (feat. billy woods)

SLUM OF A DISREGARD

RFID

INSTANT TRANSFER (feat. billy wood)

IKEBANA

IN THE SHADOW OF IF

SKP

HUSHPUPPIES

14.4 (feat. Sketch185)

VOICE 2 SKULL

XOLO

ZIGZAGZIG

 I Love Your Lifestyle 「Summerland(Torpa or Nothing)」

 


 Label: Counter Instuitive  

 Release: 2024年8月2日


Review


スウェーデンのI Love Your Lifestyleは、いわゆる「ポストエモ/リバイバルエモ」として名高いバンド。


これらのジャンルは、2010年前後、Snowing、Algernon Cadwallader、Midwest Penpalsといった米国の中西部周辺の先駆的なバンドが中心となり、「Twinkle Emo」というベースメントの奥深いパンクブームになった。速弾きのギターアルペジオ、メロディックハードコア、スクリーモの作風を反映させたドライブ感のあるパンクで、ジャンルのファンの心を見事に捉えることに。これはメロディックパンク/メタル/エモの中間にある音楽として親しまれた経緯があり、スクリーモのネクスト・ジェネレーションに当たる。たが、オーバーグラウンドでは流行らなかった。

 

ただ、中西部の系譜が完全に断ち切られたというわけではなさそうだ。ここ10年ほど、フランス、イタリア、スウェーデンのアンダーグランドシーンで、エモ/ポストハードコアバンドが多数活躍し、スタジオライブや小さなライブスポットでパンクファンの期待に応えてきた経緯を見る限り、I Love Your Lifestyleがスウェーデンから2010年代に登場したのは自然な成り行きだった。


『Summerland (Torpa or Nothing)』は、妙な言い方になるかもしれないが、ストレートなポストエモのアルバム。2010年代のトゥインクルエモの後継的な作品として楽しめよう。ただ、今作で彼らは現地語で歌詞を部分的に歌っているため、北欧のバンドとしてのスペシャリティが含まれている。


例えば、日本のリスナーがデンマーク語の音楽を聴く時、エキゾチックな魅力を覚えるのと同様に、『Summerland (Torpa or Nothing)』の序盤ではスウェーデン語の持つさわやかな響きがアップテンポなパンクソングと合致している。


ギターアルペジオのタッピング(ライトハンド奏法)、つまり、ヘヴィメタルの影響を伺わせる収録曲もあるが、どちらかというなら、ロック的な響きを持つパンクが多いため、コアなリスナーでなくても取っ付きやすさを覚えるのではないか。本作全般を通してボーカルやコーラスを用いてシンガロング必須のフレーズを組み上げ、言葉の持つ力でタイトル「夏の楽園」の雰囲気を作り出す。パンクバンドでありながら、彼らは言葉の持つパワーを心から信じ切っている。

 

オープナーを飾る「Torpa」はインディーロックの延長線上にあり、スウェーデン語の巻き舌の発音を交えて個性的な空気感を作り出す。シンプルな構成だが、ギターの細やかなフレーズを重ね合わせ、対旋律的なベースがエモの雰囲気を生み出す。バンドアンサンブルならではの連携の取れたサウンドで、時々、変拍子を交え、穏やかな雰囲気を持つエモサウンドへ昇華させる。


特に、ボーカルやコーラスの重ね方にフックがあり、ライブではシンガロングを誘発しそうだ。曲の途中に入るツインギターにはThin Lizzyのようなメタリックな叙情性がある。Get Up Kids、Reggie and the Full Effectからの影響もあり、ムーグシンセがその中に可愛らしい印象をもたらす。

 

続く、「Givet」ではスウェーデン語としてのエキゾチックなパンク性が味わえる。このサウンドは、Perspective, A Lovely Hand To Holdの系譜にあるスポーティーなイメージを持つドライブ感のある性急なポスト・エモであるが、彼らは、スウェーデン語の他言語と異なる独特な発音を元に、米国のパンクバンドとはひと味異なるスペシャリティをもたらす。一般的に北欧の言語は、さわやかな響きが込められているが、これがコーラスの要素と合致し、エバーグリーンな印象を付与する。サビでは高いトーンのボーカルを披露し、曲全体の若々しさに拍車を掛ける。その後、ディストーションギターを一つの起点とし、この曲はメタリックな激情性を持つポストハードコアへと移行していく。取り分け、コントラストという側面において目を瞠らせるものがあり、ギターラインとボーカルの対比からエモーショナルな感覚が呼び覚まされる。

 

 

彼らの音楽のエバーグリーンな感覚は続く「Barnapsgatan」で最高潮に達する。クリーントーンを用いたギターが牽引するこの曲では、トゥインクルエモの代名詞であるギターアルペジオが際立っている。アメリカン・フットボールの系譜にあるミニマルな構成を持つエモをよりパワフルなサウンドに置き換えている。この曲はCap ’N Jazzの系譜にあるエモのルーツを辿っている。


しかし、I Love Your Lifestyleの場合は、シカゴの伝説的なバンドの代表曲「Little League」、「In The Clear」に象徴されるポストハードコアを踏襲、スウェーデン国内のポップスやフォーク音楽へ組み替えている。つまり、北欧のバンドならではの試みが用意されているというわけだ。


同じように「Dunkehalla」は、Cap ’N Jazzの系譜にあるナンバーだが、これにスウェーデンのポピュラー音楽の要素を付け加えている。ここでは、メインボーカルとコーラスの対比によって、このジャンル特有の熱狂性を呼び起こそうとしている。 それと同時に、バンドはこの曲で北欧のポップ・パンクという、これまで一般的に知られなかった音楽を対外的に紹介している。

 

Rodan、Helmetの系譜にある最初期のポストロック/マスロックの影響下にある「Lucking Out」ではバンドの意外な音楽的な要素を捉えられる。ただ、彼らのサウンドは一貫してポピュラーなパンクに重点が置かれている。コーラスでは、女性ボーカルのコーラスを導入してバリエーションをもたらす。これらは、Taking Back Sunday、Saves The Day等を中心とする2000年代の黄金時代のアメリカのインディーロックからの影響も込められているようだ。ただ、それらはバンドの陽気な感覚により鮮明なイメージをもたらすことがある。同じように、ミレニアム年代の米国のインディーロックバンドの音楽性を反映させたポストエモ/リバイバルエモの曲が続く。

 

「Fickle Minds」はファンにとってはお約束のようなナンバーであるが、オルタネイトなコードを対比的に導入することで、従来のI Love Your Lifestyleとは少し異なるサウンドが作り出されている。しかし、バンドサウンドはマニアックになりすぎることはなく、ストレートなパンクスピリットに縁取られている。同曲を聴き、Promise Ring、Jimmy Eat World、Get Up Kidsといった、黄金世代のエモを思い浮かべる人も少なくないと思われる。興味深いのは、曲の後半にはジャングルポップ/パワーポップに近いメロディーが含まれ、甘酸っぱい空気感が漂うことである。

 

アルバムのクローズは、エバーグリーンなパンクソングで締めくくられている。 「Plot Twist」はメロディック・パンク/メロディック・ハードコアの系譜にある。デビューから10年後に、こういった若々しくエネルギッシュなパンクを制作することは簡単なことではない。ジャンルを問わず、バンドを組んだ当初の熱狂性を長い間維持しつづけるのは容易くないものと思われる。


I Love Your Lifestyleの最新作『Summerland(Torpa or Nothing)』は、EPに近いシンプルな構成を擁しているため聞きやすい。同時に、パンクバンドとしてのパッションやパトスを捉えられる。曲構成はコンパクトなサウンドを重視しているが、その反面、バンドとしてはスケールの大きさを感じる。何よりパンクロックの純粋な楽しさが凝視されているのが本当に素晴らしい点だ。

 

 

82/100

 

 

©Johanna Hvidtved


Jordana(ジョーダナ)が新作アルバム『Lively Premonition』のリリースを発表した。LAを拠点に活動するこのソングライターの『Face the Wall』に続く作品は、10月18日にGrand Juryからリリースされる。

 

このアルバムには、以前に発表された曲「We Get By」と新曲「Like a Dog」が収録されている。


「この曲は、誰かに完全に見惚れてしまい、その人から少しでも注目されると、さらに欲望が強くなってしまうことについて歌っている "とジョーダナは声明の中で「Like a Dog」について語った。「たとえそれが非人道的な扱いを受けることを意味するとしても...犬のように」


『Lively Premonition』は、プロデューサーのエメット・カイと共に2023年にかけて制作された。

 

「愛、失恋、欲望、パーティへの参加、自己受容、人脈、そして何度も自分を再発見するサイクルをテーマにしている」とジョーダナは説明した。このアルバム全体は、生意気な歌詞と楽器の決定がたくさん混ざったトリックのミックスバッグよ。私たちはここでたくさんのリスクを冒している」

 

 

「Like A Dog」
 

 

 

Jordana 『Lively Premonition』


Label: Grand Jury

Release: 2024年10月18日

 

Tracklist:


1. We Get By

2. Like A Dog

3. Heart You Hold

4. This Is How I Know

5. Multitudes of Mystery

6. Raver Girl

7. Wrong Love

8. Anything For You

9. The One I Know

10. Your Story’s End

©︎Cliford Usher

Dawn Richard(ドーン・リチャード)は、マルチ・インストゥルメンタリスト、プロデューサー、コンポーザーのSpencer Zahn(スペンサー・ザーン)とタッグを組み、セカンド・コラボレーション・アルバム『Quiet in a World Full of Noise』をMergeから10月4日にリリースする。本日、リード・シングル「Breath Out」に続く新たなシングル「Traditions」を発表した。

 

プレスリリースの中で、スペンサー・ザーンはこの曲のプロデュースについてこう語っている。
 
 
「この曲でのドーンの親密なヴォーカル・スタイルは、私を彼女の世界に引き込むと同時に、私自身の人生や家族のことを考えさせる。この曲のドーンの親密なヴォーカル・スタイルは、私を彼女の世界に引き込むと同時に、私自身の人生や家族のことを考えさせる」

さらにこのアルバムに込められた意図について、リチャードはこう語っている。「今、誰もが少し圧倒されている。このアルバムが、人々が内省の機会を必要とするとき、人生に静寂を必要とするとき、これまで以上にかけるレコードになることを願っている」
 

『Quiet in a World Full of Noise』は、彼らの前作『Pigments』(2022年)に続くコラボレーション・アルバム。リチャードはプレスリリースの中で、このアルバムは "私がこれまで制作した中で最高のプロジェクトのひとつで、アーティストとしてこれまでで最も追い込まれた作品だったと述べている。
 
 
 
「Traditions」
Bright Eyes

 

Bright Eyesはニューシングル「Rainbow Overpass」をリリースした。

 

「タイトルのように、この曲は大胆な雰囲気で、威勢のいいアコースティック・ギターと大きなコーラスによって生命を吹き込まれている」


「また、この曲にはザ・ソー・グロスのアレックス・オレンジ・ドリンクが参加しており、共作に協力している。アレックスと私は多くの曲を一緒に書いたが、『Rainbow Overpass』だけは彼がヴァースで歌っている」とブライト・アイズのコナー・オバーストはこの曲について語っている。


「彼らはパンクロックとビースティーズで育ったから、他の声がたくさん入っているんだ。それが好きなんだ。エネルギーが生まれる。アドレナリンや生のエネルギーがあるライブの状況になるまで、音楽が平坦に感じられることがある。ツアー中にそうなるような逆の作業をする代わりに、そのエネルギーをレコードに取り込もうとしたんだ」


この曲は、ネブラスカ出身のバンドの10枚目のスタジオ・アルバム『Five Dice, All Threes』に収録されている。トリオの2020年の『Down in the Weeds, Where the World Once Was』に続くものである。新作アルバムは9月20日にデッド・オーシャンズからリリースされる。

 

 「Rainbow Overpass」

 

Fontaines D.C.


ダブリンのロックバンド、Fontaines D.C.が、リリース予定のLP『Romance』からニューシングル「Here's the Thing」を発表した。

 

前作「Starbuster」と「Favourite」に続く三作目のリードシングルは、ルナ・カルムーンが監督したビデオ付きでリリースされた。この曲は音源では2分43秒の長さだが、MVでは拡大版の7分半にも及ぶ映像に拡大されている。映像の途中にはシネマティックな映像が導入されている。

 

「この曲は、痛みと無感覚の間を行ったり来たりしながら、何を欲しているのかを紆余曲折するような不安な曲だ」と説明している。とフロントマンのグリアン・チャッテンは声明を発表した。


Fontaines D.C.による『Romance』はXL Recordingsより8月23日にリリースされる。

 

 

 「Here's the Thing」

Adrian Lenker ©Alexa Viscius


エイドリアン・レンカーが、最近のアルバム・レコーディング・セッションから「Once A Bunch」を単独シングルとして発表した。

 

この曲は、「Bright Future」のセッションで録音され、当初はアルバムの日本盤CDにのみ収録されていた。今回初めてデジタル・リリースされる。今年後半には、「Once a Bunch」の7インチ・エディションがインディーズ・レコード店を通じてリリースされる予定だ。

 

今年初め、エイドリアン・レンカーは4ADから愛すべきアルバム『ブライト・フューチャー』をリリースした。「特徴的な残忍さと勇敢さ」(ローリング・ストーン誌)と称賛されたブライト・フューチャーは、ファンや批評家の心を掴み、ピッチフォーク、DIY、NME、アンカット、ニューヨーク・タイムズ、MOJOなどから高い評価を得た。

 

最新アルバムのリリースに先立ち、レンカーは「Free Treasure」を発表。Bandcamp限定EPのサプライズ・リリースの後にリリースされ、全収益はパレスチナ児童救済基金に寄付された。彼女は『I Won't Let Go Of Your Hand』が約75,000ドルの寄付金を集めたことも明かしている。

 

 「Once A Bunch」

 

 


 

King Gizzard & The Lizard Wizard

オーストラリアのロック・バンド、King Gizzard & The Lizard Wizard(キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード)は、今週金曜日にニュー・アルバム『Flight b741』をリリースする。

 

彼らが影響を受けたバンドにスティーヴ・ミラー・バンドを挙げているように、このアルバムは彼らの26枚目のアルバムであり、70年代初頭のようなカッティング・ルーズで楽しい作品となっている。


「ジョーイがアコースティック・ギターでメイン・リフを弾いているボイス・メモを送ってくれたのを覚えているよ」

 

「彼のソファーから私のソファーへ。元々はもう少し複雑なアレンジだったと思う。最終的にまとまったのは、"I lied to god "のブリッジに近かったかもしれない。とにかく、自分ではよく理解できなかったし、グルーヴも感じられなかったと思うけど、スタジオでみんなと一緒にレコーディングしたら、すごくグルーヴしたんだ。ヴァースとコーラスのチェンジは素早く、リアルタイムで行われた。この曲はジョーイのベイビー。ジョーイはちゃんとやるのが好きなんだ」


セッションの2週間後にジョーイから電話があって、"この曲はクソだからカットしよう "って言われたんだ」とマッケンジーは続ける。

 

「僕とアンビー(この曲を気に入っていた)は、その後2日間スタジオでボーカル・パートとオーバーダブを作り、この曲を救おうとした。ギター・ソロ・タイプのセクションは、アウトテイクから切り出したパートをダビングし、ギター・ソロを吹き込んだ。それは100ドルのハーモニー・アコースティック・ギターで、絶対に使うようには設計されていないアウトボード機器を通して演奏した」

 

「スタジオは楽しい。彼が気に入ってくれるといいんだけど.....。そのテープをプリントして、『頼む、これはレコードに入れないといけないんだ』というメモと一緒に彼に送った。ジョーイは承諾してくれた(ただし、自分のパートをすべてやり直した後だった)。そんなわけで、グルーヴは復活したんだ」

 

 

 「Field of Vision」

 Samm Henshaw    「for someone, somewhere, who isn't us」EP

 

Label: AWAL(Dorm Seven)

Release: 2024年8月2日

 

Review

 

実を言うと、UKソウルの重要な担い手、ブラックミュージックの本物の継承者は、ロンドンに登場している。サム・ヘンショーは、2022年の1stアルバム『Untidy Soul』において、古典的なソウルミュージックの魅力を探訪していたが、続くEPでも彼の音楽的なテーマにもそれほど大きな変更はない。

 

現在のソウルミュージックは、数知れない形式に枝分かれしている。ジェシー・ウェアのように、ミラーボール華やかりし時代のバブリーな雰囲気を持つディスコソウルの刺激性を追い求める一派、ロイシン・マーフィーのように、エレクトロニックやベースメントのクラブミュージックを反映させたソウルに取り組む一派、その他にも、ファビアーナ・パラディーノのように、80年代のアーバン・コンテンポラリー的な手法を交えた編集的なサウンドをもたらす一派、ガール・レイのように、バンドアンサンブルを通じてディスコ・ソウルを追求する一派、さらに、ターンテーブル/DJの手法交えてソウルの醍醐味をもたらすJUNGLEのような一派、その他にも、ヒップホップとソウルの融合を主題に据えるサンファ......。事例を挙げるときりがない。モダン・ソウルの手法は無数に分岐していて、アーティストの数だけ答えが用意されている。

 

ヘンショーのソウルミュージックは素直で聴きやすい。彼の掲げる現代的なR&B運動とは、70年代のファンクソウルを、それ以前の古典的なソウルと結びつけ、トランペット等の演奏を交え、陽気なジャズのテイストを添えるということだ。軽やかでエネルギッシュな感じは、アフロソウルの重要な継承者であるエズラ・コレクティヴにも似ている。ただ、ヘンショーのソウルはマイルドで、聴きやすく、親しみやすい。ノーザン/サザンからの影響を問わず、ブラックミュージックのメロウさを追求している。要は万人受けするような音楽性であるとも指摘できる。

 

極論を言えば、モータウン・レコードの特徴的なソウルをジャズのアレンジを交えて復刻させたような感じ。こういったソウルに大きな抵抗を覚える人は少ないと思われる。彼のテーマは、ブラック・ミュージックが人類の普遍的な愛を呼び覚ますという、重要な考えを継承するというもの。いかなる時代もソウルミュージックは、人類全体に無償の愛を伝えるために存在して来た。 

 

 

「Troubled Ones」- Best Track

 

 

 

サム・ヘンショーのボーカルにヒップホップ的な話の技法が含まれていないのかと言えば、偽りとなるだろうか。 ヘンショーのボーカルは、稀にラップのニュアンスに近づくことがある。しかし、それは苛烈な感じには至らず、往年の名ソウルシンガーのように、マイルドな表現やリリックにポイントが置かれていて、オーティス・レディングやサム・クックのように、古典的な系譜に属する歌手としてのオーラを感じさせる。ビブラートが伸ばされた時、音程がわずかに揺らめき、メロウな陶酔をもたらす。偉大なソウルシンガーはどのような時代も、社会的な制約がある中で、ひどい目に合うことがあっても、また表現に何らかの制限が加えられたり、ラジオでのオンエアが禁止されたとしても、高らかな感覚を守り続けていた。彼も同様である。

 

ヘンショーは、前作「Untidy Soul」において、軽やかで明るい印象を持つソウルミュージックを制作したが、続くEPでより深いディープなソウルの世界へと踏み入れている。「Troubled Ones」では、背景にゴスペルのコーラスを配し、堂々たる雰囲気でソロシンガーとしての歌を紡ぐ。前作では、オルタネイトな表現も見受けられた気がしたが、今回のEPにおいて、彼は往年の名シンガーに引けを取らぬ素晴らしい歌唱力を披露している。その歌声には惚れ惚れとさせる何かがあり、ソウルミュージックの不可欠な要素であるメロウな感覚に充ちている。


彼は、現代的なソウルシンガーとしての立ち位置を取りながらも、黒人霊歌へのリスペクトを欠かさない。自分の前に無数のソウルシンガーがいて、その後に自分が続いていることを知っている。時々、ターンテーブルのビートやブレイクビーツの手法も披露されるが、それは楽曲の枠組みに収まっている。そして、ピアノやコーラス、ギターの演奏を交えて、音楽の楽園を作り上げる。楽曲の制作が、いきなり高い場所にたどり着くことはなく、礎石となる音楽の要素をひとつずつ丹念に積み上げていくことにより、ゆっくりと出来上がって行くことが分かる。

 

「Under God」では、カーティス・メイフィールドの系譜にあるジャズとファンクソウルの融合を見出だせる。ファンクのリズムに、ヒップホップからの影響を交えたドラム、いわば、古典と現代のクロスオーバーを図りながら、サム・ヘンショーの時代を超越した歌がそれらの合間に滑り込む。ヘンショーは、現代的なジャズやソウル、ヒップホップの影響を交えながら、サザン・ソウルのようなディープな味わいのあるボーカルラインを丹念に紡いでいく。また、コーラスにも力が入っている。ときおり移調を交えたり、フォーク調のギターを加えたり、ヒップホップや、それに類するポップスの語法を付加しながら、しなやかなソウルを作り上げてゆく。特に、ドラムのビートやベースが盤石な音楽の基礎を作りだしているため、彼は安心して伸びやかな歌を歌えるというわけである。アウトロのコーラスもフェードアウトで終わるという側面ではやはり、60、70年代のビンテージソウルのソングライティングを継承している。  

 

ニューヨーク・タイムズの記者が独自に発掘した素晴らしいソウルシンガー、ニューヨークのマディソン・マクファーリンは、「ソングライティングの基本にリズムがある」と述べていた。そして、ヘンショーの作曲も同様に、リズムやビートが基本となっていて、その後に他のマテリアルを構築する。


ジャズ風のピアノのアルペジオで始まる「Water」も素敵なナンバーである。ヘンショーは、その後、ハミングで入り、その後、ラップに近いボーカルを披露し、曲のリズムを作り出す。つまり、イントロのボーカルの入り方が絶妙なのだ。抜群のリズムのセンスを見せた後、彼の音楽の主要な特徴であるスタイリッシュでアーバンなボーカルを披露する。70年代のファンクソウルの影響下にあるエレクトロニックピアノ(ローズ・ピアノ)が旋律的、あるいは脈動的な側面でも良いウェイブを作る中、彼は心地よさそうにボーカルラインを紡いでいる。この現場のメロウな雰囲気がレコードに乗り移り、渋さとディープなソウルが緻密に築き上げられていく。


イントロでは、中音域を中心とするアルトのボーカルが目立つが、ギターラインに押し上げられるようにして高音部の歌唱が入ると、シンガーの持つ天才的な歌唱力が露わとなる。背後のローズ・ピアノやホーンセクション、メロウなコーラス、ジャズ風のピアノ、すべてが完璧である。そして、アウトロにかけて、ジャズピアノが優勢となり、静かなフェードアウトの曲線を描く。


しかし、古典的な性質を背景にしているとはいえ、サム・ヘンショーのソウル・ミュージックが単なるアナクロニズムに堕することはない。


彼は、現代の歌手としての役割を認識している。現代のロンドンで隆盛であるネオソウル風のポピュラーミュージックが収録されていることは、現代のリスナーにとっての救いで、なおかつまた、このシンガーが同地のミュージック・シーンの重要な担い手であることを裏付けている。


「Bees N Things」では、ヒップホップ、チルアウトのリズムが特徴的であるが、彼はその背後のトラックに対して、大胆にもメロウな歌唱法を披露している。リズムの観点ばかりに目を奪われると、メロディーという側面がないがしろになる場合もあるかもしれないが、彼は二つの音楽的な要素のいずれも軽視することがない。前曲と同じように、ジャズピアノのアレンジを交えて、稀に心を奪うような美しいビブラートを披露する。これが、ソウルミュージックの普遍的な精妙な感覚、そして魅惑的なウェイブをもたらし、聞き手に共鳴をもたらすことは言うまでもない。

 

古典的なR&Bをテーマに選ぶと、シリアスになりすぎることもあるが、少なくともこのEPではその難点から逃れている。KIRBYをゲストに招いた「Fade」は、コーラスグループの時代の旋律性に焦点を絞り、モータウンのビート、そしてメロウなコーラスという王道のスタイルにより表現している。これらが現代のミュージックシーンへ大きなエフェクトを及ぼすとまでは明言出来ないが、少なくとも薄れかけたソウルの醍醐味を蘇らせるものとなっているのは事実だろう。


R&Bがコマーシャリズムに絡め取られたのは80年代のジャクスンの時代で、これらは日本の音楽評論家が各著で指摘している通り、ブラック・ミュージックそのものの意義が商業性の余波を受け、表現そのものが弱くなり、薄められてしまったことに要因がある。少なくとも、ヘンショーの音楽は、ポピュラーに希釈されたソウルではなく、リアルなソウルの核心を捉えている。

 

「メロウなソウル」という常套句は、現代の音楽業界において、R&Bの一種の宣伝材料のようになっている。しかしながら、残念ながら、その多くが単なる売り文句やキャッチフレーズにとどまることを考えると、ヘンショーの音楽を聴いて、ブラックミュージックの持つ本物の魅力、心を震わせるような歌の美しさの一端に触れることは、かなり有意義ではないかと思われる。

 

クローズ「The Cafe」もまた素晴らしい一曲である。ギターの演奏を背景に、彼はソウルとヒップホップを下地にし、理想的なR&Bの究極の形を示している。流れるような美麗なバイオリンのパッセージを背後に、ゴスペルの歌唱の伝統性を用い、音楽を高らかな領域まで引き上げている。

 

 

86/100 

 

 

Best Track 「The Cafe」

 

 

* Samm Henshaw 「for someone, somewhere, who isn't us」EPはAWALより発売。ストリーミングはこちら

 

 

Tracklist:

 

1.Troubled One

2.Under God

3.Water

4.Bees N Things

5.Fade (Feat. KIRBY)

6.The Cafe

 

©Ian Laidlaw

The Belair Lip Bombs(ザ・ベレア・リップ・ボムズ)がオーストラリアのバンドとして初めてサードマン・レコーディングスと契約を交わした。

 

バンドはサードマンとの記念すべき契約について次のように語った。「サード・マンとの契約は、僕らにとって夢のようなことで、特にレーベル初のオーストラリア人バンドとなった。レーベルのみんなは伝説的な存在で、彼らがリリースのひとつひとつにどれだけ愛情を注いでいるかは明らかだ。サードマン・ファミリーの一員になれて、これ以上嬉しいことはありません!」


フロントウーマンのMaisie Everett(メイジー・エヴェレット)が率いるBelair Lip BombsはギタリストのMike Bradvica、ドラマーのLiam De Bruin、ベーシストのJimmy Droughtonを擁する。彼らのデビューアルバム『Lush Life』は昨年、Cousin Willからリリースされた。今後、ジャック・ホワイトのレーベルから再発される。フィジカル盤は10月18日より発売される。


このアルバムについて、エヴェレットはこう語っている。


「アルバムのタイトルは『Lush Life』で、この言葉はアルバムを通して何度か言及されている。このアルバムで探求されているテーマやモチーフは、そこにないものへの憧れや、その何かが何なのかよくわからないということがよくあるんだ。Lush Life」という言葉は、何もかもが簡単な(しかし実際には存在しない)絵に描いたような完璧な世界を描写しているようなもの」


「私はこの曲を完璧なものにしたかったし、スタジオではメロディーやハーモニーの面でいろいろなことを試した。とても楽しかった。当時は別のバンドで演奏していて、常にツアーに出ていたから、アルバムを直線的に仕上げるのは難しかった。でも、時間をかけて作ってよかったと思っている」

 


2001年にデトロイトで始まったThird Man Recordsは、ジャック・ホワイトのレコード会社として知られ、現在はナッシュビルに豪華な社屋と工場を所有している。デトロイトは工業の街で、自動車生産の重要拠点でもあるが、20世紀半ばからレコード生産のメッカとしても知られてきた。

 

サードマンは、デトロイトの工業的な特色を受け継ぎ、次世代へとその技術を継承しようとしている。ブルー・ノートとの生産ラインの共有や独自のレコードの工業的な生産技術を擁する。これはレーベル・オーナーのレコード生産に対する流儀やこだわりが色濃く反映されている。


レコード企業は社会における工業生産の役割の一端を担う。第二次産業の分野でどのような役割を果たすのか。これは、紙出版とデジタルパブリッシングとの関係に近似している。紙の出版が無くならないのと同様、レコード生産も欠かさざる産業である。ストリーミングサービスの最盛期、ジャック・ホワイト氏は彼自身の事業を通じて、その意義を問いかけようとしている。

 

Half Waif


ナンディ・ローズのソロ・プロジェクトであるHalf Waif(ハーフ・ウェイフ)が、ニューアルバム『See You at the Maypole』を発表した。2021年の『Mythopoetics』に続くこのアルバムは、ANTI-から10月4日にリリースされる。ナンディ・ローズはニュージャージのインディーロックバンド、Pinegroveのオリジナルメンバー。

 

本作のリードシングル「Figurine」は、鳥の声で始まり、オーガニックな雰囲気を持つポップソングへと繋がっている。曲の冒頭では、アーティストが愛するものについて歌われ、それはとりもなおさず生命への感謝でもある。デリック・ベルチャムが監督し、ローズのニューヨーク北部の自宅で撮影され、コラ・ラデラが振り付けを担当したビデオと同時公開されている。アルバムのアートワーク(アニカ・タックスミスによる)とトラックリストは以下よりご覧下さい。


人生で体験せざるをえなかった悲しみが原動力となり、最終的には解決の糸口になることもある。「Figurine」は、『See You at the Maypole』の大部分と同様、流産をきっかけに書かれた。「誰もが流産を経験するわけではないけど、この曲は大切なものを失った後、どのように前に進むか、どのように再び自分の顔に光を見出すかを歌ったものだった」とローズは語った。


ナンディ・ローズは、2024年のEP『Ephemeral Being』に続く新作アルバムを、長年のコラボレーターであるズビン・ヘンスラーと共に制作した。

 

この作品には、パーカッショニストのジェイソン・バーガーとザック・レヴィーン、ギタリストのジョシュ・マーレ、ヴァイオリニストのハンナ・エパーソンとエレナ・ムーン・パーク、クラリネット奏者のクリスティーナ・チューシュラー、トロンボーン奏者のウィレム・デ・コッホ、ハープ奏者のレベッカ・エル・サレー、アップライトベーシストのスペンサー・ザーンらが参加している。

 

 

「Figurine」

 

 

 

Half Weif 『See You at the Maypole』


Label: ANTI-

Release: 2024年10月4日

 

Tracklist:


1. Fog Winter Balsam Jade

2. Collect Color

3. I-90

4. Figurine

5. Heartwood

6. Big Dipper

7. Shirtsleeves

8. Sunset Hunting

9. Dust

10. Slow Music

11. Ephemeral Being

12. Violetlight

13. Velvet Coil

14. The Museum

15. King of Tides

16. Mother Tongue

17. March Grass

 

 

悲しみという密室が無限に感じられる中、ローズは信頼できる友人であり、過去10年間の長年のコラボレーターであるズビン・ヘンスラーに曲を持ち込んだ。

 

2人は『Mythopoetics』では他のメンバーから離れ、ひとつひとつの音や装飾を慎重に作り上げたが、『See You At The Maypole』ではそれとは別の何かが必要だった。ローズは、キャンバスに水しぶきを散らしたり、ステッチを落としてしまったりしても、それがいずれにせよ美しくなることを知り、完璧さへのグリップを緩めることを学んでいた。

 

人生で最も重い素材を、どうしたら空気のように感じられるだろう? ライブテイクも、早朝にささやくようなボーカルも、歪んだ電話の録音も、すべて残された。それは、クレヨンの折れた線が滲んだ子供の塗り絵となった。


『The Wild Edge of Sorrow: The Sacred Work of Grief』(フランシス・ウェラー著)の中で、著者は儀式空間の重要性を強調している。これらの歌の多くは孤立して書かれたものだが、ローズの子守唄はやがて、自分だけの冬を経験する人々への集合的な呼びかけとして開花することになる。『See You At The Maypole』は、慟哭のための部屋であり、カタルシスだけでなく、繋がりのための部屋でもある。車の中で一人、肺を破裂させながら歌い続けるようなもの。

「これは私だけの物語ではない。人生の喪失、夢の喪失、信頼と希望と信仰の喪失。再び戻る道を見つける物語なのだ」 -ANTI