Aran Sparhawk

来月、Aran Sparhawk(アラン・スパーホーク)はミミ・パーカーの喪失感から生まれたソロ・アルバム『White Roses, My God』をリリースする。スパークはセカンド・シングル 「Get Still」を公開した。以前としてLowの代名詞であるスロウコアからの影響もあるが、それは亡き妻へのレクイエムのようなもので、全体的にはシンセサイザーをベースにしたインディーロック風のアプローチが敷かれている。


「Can U Hear 」と同様、深いサブベース、エレクトロニック・ドラム、オートチューニングされたアラン・スパーホークの声など、合成音で構成されている。メロディーの中に、ローの美しさの亡霊を聴くことも無理難題ではないだろう。スパーホークは、ロウの後期のレコードのエレクトロニックな探求を理屈抜きに押し進め、その過程で奇妙で力強いものを見出している。


何十年もの間、アラン・スパーホークとその妻ミミ・パーカーは、偉大なアメリカン・インディ・ロック・バンドのひとつであるLowのクリエイティブ・コアだった。2年前、パーカーは癌との闘病の末に他界した。

 

アラン・スパーホークの新作アルバム『White Roses, My God」はSUB POPから9月27日に発売予定。

 

 

 「Get Still」

 

 

Geordie Greep
©Yis Kid


ブラック・ミディのボーカリスト/ギタリストのジョーディ・グリープが、ソロ・デビュー・アルバム『The New Sound』を発表した。

 

このアルバムは10月4日にラフ・トレード・レコードからリリースされる。このニュースに合わせて、彼はリードシングル「Holy, Holy」とイーサンとトムが監督したミュージックビデオを公開した。


本日のリリースは、Greepがブラック・ミディは "無期限で終了した"との電撃的な発表から1週間後に行われた。

 

「『ザ・ニュー・サウンド』のレコーディングでは、初めて誰にも答えられなかった。「そして、私が抱いた全ての衝動に、その結論に至るまで従うことができた。バンド(ブラック・ミディ)をやっていると、"何でもできる "という感覚を持つことが多いけど、そのアプローチにはある種の制限もあるんだ」


「このアルバムの主なテーマは絶望なんだ。頼りない語り手ではなく、すべてをコントロールできていると自分をからかっているが、そうでない人物の声が聞こえるだろう」とGreepは付け加えた。(”頼りない語り手”とは、パトリック・モディアノに代表されるような現代的な書き手の文体のことをいう。)


ザ・ニュー・サウンドの制作には30人以上のセッション・ミュージシャンが参加し、録音現場は、サンパウロやロンドンまで及んだ。

 

「いくつかのトラックはすでに別の場所でレコーディングしていたんだけど、ちょっと合わなかったから、新しいメンバーで録り直したんだ」とグリープは説明した。

 

「曲の半分はブラジルで、地元のミュージシャンを土壇場で集めてみたんだ。彼らは私が作ったデモに興味を持ってくれただけで、私がやったことを聴いたことはなかった。トラッキングはすべて1日か2日くらいで終わった。その後、ロンドンでオーバーダビングをしたんだ」



「吹き込み過ぎないようにという意味で、長さを心配していた。でも、音楽を聴いて、それが何を意味するのか、何をしようとしているのか、良くも悪くも事前に知っていることに、本当にうんざりしているんだ。私の好きな音楽はすべて、リスナーが何が起こっているのかを理解するためのものだ。ピーター・ハミルやナット・キング・コールのような私の好きな歌手は、文字通り唯一無二の存在。それが大好きなんだ。特に歌詞は、明確ではない部分もあるけれど、他方、抽象的な考えではないことがわかる」


 

「Holy, Holy」

 

 


Geordie Greep 『The New Sound』

 

 Label: Rough Trade

Release: 2024年10月4日

 

Tracklist:


1. Blues

2. Terra

3. Holy, Holy

4. The New Sound

5. Walk Up

6. Through A War

7. Bongo Season

8. Motorbike

9. As If Waltz

10. The Magician

11. If You Are But A Dream

 

Foreigner


10月4日に発売予定のフォーリナー作品集『Turning Back The Time』は、バンドの最初の6枚のアルバムから選りすぐりの曲が収録されている。そのすべてがプラチナ・アルバム以上の評価を得ている。世界的な大ヒット曲ばかりで、最後には未発表のタイトル曲が収録されている。

 

タイトル曲「Turning Back The Time」は8年ぶりのフォーリナーの新曲。ロックンロールとの出会いや、バンドのスターダムの初期を懐かしく回想している。


「Turning Back The Time」は、ルー・グラムとミック・ジョーンズのコラボレーションから始まった。グラムは2003年にフォーリンガーを脱退。ジョーンズはバンドに残ったが、パーキンソン病を患っているため、最近は演奏していない。

 

最近、ジョーンズはマルティ・フレデリクセンとともにこの曲を作り直した。ジョーンズとグラムは1996年にこの曲のデモを一緒にレコーディングしており、グラムのヴォーカルはそのオリジナル・デモに由来する。ジョーンズは、米・ビルボード誌の取材に対して次のように語った。


「ルー・グラムと私が一緒に書いた曲の中には、日の目を見なかったものがたくさんある。「Turning Back The Time」はマルティ・フレデリクセンとの共作。マルティと私は最近、この曲を見直して作り直した。時間が経ったからこそ、新鮮な視点でこの曲に立ち返ることができた。ロックの殿堂入りを間近に控え、この曲を世界に聴いてもらうのに理想的なタイミングだと思った」

 

「Turning Back The Time」

Jade Hairpins

夏のヨーロッパ・ツアーを控えた本日、ジェイド・ヘアピンズが新作アルバム『Get Me the Good Stuff』のタイトル曲を公開した。   


フレディ・マーキュリー風の不条理な歌詞の中に、ヘアピンズのサーカスのような言葉遊びが盛り込まれたこの曲は、パンチの効いた爽快なレイバーで、良いものを手に入れたいというせっかちな要求を笑顔で表現している。


ジョナ・ファルコは「Get Me the Good Stuff」について次のように説明している。


「ヘアピンズはついに壁の花から花束への旅を完成させ、最も深いところから最も良いものを手に入れた。ハッピー・マンデーズがワールドカップの決勝戦を演奏したが、ファンがバンドで選手が観客だったという、非物質的な過去のビッグ・パンチ。世界は逆さまであり、地球の中心は45人の訓練されていない声の合唱団であることがわかった。推測し、想像し、技巧を凝らし、舞台を埋め尽くし、ショーになりきる」


Jade Hairpinsのニューアルバム『Get Me the Good Stuff』はMergeから9月13日に発売予定。


「Get Me the Good Stuff」

 Arve Henriksen 「Kvääni」

Label: Arve Music

Release: 2024年8月16日


Review

 


今年、ECMから『Touch Of Time』を発表しているアルヴェ・ヘンリクセンであるが、立て続けに自主レーベルからフルレングスのリリースを控えていたとはかなり驚きだった。新作アルバム「Kvääni」は、Laraajiを彷彿とさせるニューエイジ/アンビエントの作品であり、エレクトロニックジャズやストーリーテリングのような試みも行われている。推察するに、ECMでは出来ない音楽を、このアルバムで試してみたかったのではないだろうか。ジャズとは、スタンダードな作風を継承するのみならず、既存にはない前衛的なチャレンジを行う余地が残されているジャンルである。そのことを裏付けるかのように、短い曲が中心であるものの、様々な試みが本作に見出だせる。それは音楽のこれまで知られていなかった意外な側面を表すものでもある。


例えば、音楽は、言葉と音階やリズムという構成要素によって生ずるが、このアルバムを聴くかぎり、言葉がなくとも、何らかのイメージや思想形態、そして作品に込められた真摯な思いのようなものをテレパシーのように伝えることができることが分かる。


シンセサイザー、民族音楽の楽器、そして、トランペットの編集的なサウンドプロダクションを通して伝わってくるのは、アルバムの全体には東洋の神秘思想や、奥の院にある神秘主義への傾倒が通底しているということだ。さながら小アジアの寺院を観光で訪れ、その秘教の神秘主義の一端に触れるような不思議な味わいを持つ。曲自体は、それほど長大になることも冗長になることもなく、一貫して端的さが重視されている。およそ4分半以下にまとめられたシンプルなスピリチュアルジャズの中には、その枠組みから離れ、神秘的な源泉に迫るものもある。


音楽には、表側に鳴り響くものとは別に、裏側に鳴り響く何かを聴取する魅力がある。それは音楽の持つ源泉に触れることを意味する。ノルウェーのトランペット奏者、アルヴェ・ヘンリクセンは、神秘主義の音楽を一つの入り口として、宇宙のミクロコスモスに近づこうとする。その試みはララージや、生前のファラオ・サンダース、テリー・ライリーに近いものであろう。

 

アルバムの冒頭部「1-Kvenland」では、チベット・ボウルのようなアジアの民族音楽の打楽器の音響を始まりとして、神秘主義の扉を押し開くかのようである。現代社会の喧騒の中で生活していると、瞑想的な側面に触れる機会は自ずと少なくなってしまう。それは、この世に本当の音楽がきわめて希少だから。そして、アルヴェ・ヘンリクセンは、これらの未知の扉をゆっくりと開こうと試みる。その響きはチベット寺院の祈りのようであり、無限的な音楽が内包されている。


本作の序盤では、「編集的なサウンド」という、アルヴェ・ヘンリクセンのジャズの主要な特徴を捉えられる。「2-Ancestors From North」は、流浪の旅人をどこかの異郷で見かけるようなエキゾチズムがあり、それを空間的なジャズーーアンビエント・ジャズーーという新しい形で表現している。


全体的なスピリチュアル・ジャズの枠組みにおいて、ECMのマンフレッド・アイヒャーがもたらしたミニマルミュージックを基にしたエレクトロニックやテクノの要素が加わることもある。


「3-Secret Language」は、序盤の重要なハイライトであり、ノルウェーのJan Garbarek(ヤン・ガルバレク)が、2004年のアルバム『In Praise Of Dreams』 でもたらしたエレクトロニックジャズの要素を、トランペット奏者として踏襲している。これらの瞑想的かつ催眠的なエレクトロニックの要素が、ヘンリクセンの巧みなブレスと巧みに合致しているのは言うまでもない。

 

トランペット奏者のソロアルバムであるのにもかかわらず、純粋なエレクトロニックも収録されている。それはやはり、ララージやテリー・ライリーのようなニューエイジ系のサウンドに縁取られることが多い。


「4-Raisinjoki」は、レトロなシンセサイザーの音色を組み合わせ、アジアの民謡、あるいは東ヨーロッパの民謡のような一般的に知られていないワールドミュージックが繰り広げられる。簡素でありながら、無限の音楽が含まれているような奇異な感覚、まさしく万里の長城を登るときや、小アジアの隠された秘教の寺院の回廊を歩く時に感じるような神秘性を体感できる。「5-Sappen」は、従来のヘンリクセンの作曲の延長線上にある一曲。枯れたトランペットのミュートのブレスの渋い味わいがECMのエキゾチックジャズの魅惑的な響きとピタリと重なり合う。


「6-Voices From The Highlands」では山岳地帯をモチーフにしている。アラビア風の旋法が登場し、エキゾチズム性に拍車が掛かる。アルメニアの楽器、ドゥドゥクのような民族音楽の要素を強調している。従来の作品の中で、最もエキゾチックといえ、グルジエフのような秘教的な雰囲気が含まれている。そして、通奏低音をもとにして、色彩的なタペストリーを織り上げていく。


「7-Hansinkentta」では、ダルシマー/サントゥール/ツィターの楽器の特性を捉え、インド風の旋律で縁取っている。さらに、これらの弦楽器の演奏の上に、ドイツのクラフトワークのような原始的な電子音楽が付け加えられる。音の旅のようなニュアンスと神秘性を象徴付ける一曲として楽しめる。


中盤では、スピリチュアル・ジャズの瞑想的な響きを体験できる。「8-Invisible People」は、思弁的なトランペットの主旋律に導かれるように、複合的な対旋律が折り重なり、絶妙なハーモニーを形成する。ミュートとレガートを織り交ぜたヘンリクセンの演奏は、一般的なマイルスやエンリコ・ラヴァの系譜にある主流の演奏法とは明らかに異なる。スタッカートのような気高い演奏ではなく、むしろ徹底して感情は抑制され、厳粛な音の響きが重視される。少しだけ物悲しく、哀感溢れる演奏は、現代の混乱する世界情勢に対する演奏家の深い嘆きのような感慨が込められているのではないか。それは明確な言葉よりも、深く心を捉える瞬間もあるのだ。


「9-Kjelderen」は、アルバムの中で最も奇妙な一曲で、ジャズとしては問題作の一つである。ドローン風の効果音は、ホラー映画のサウンドトラックのような冷んやりとした感覚を呼び覚ます。隠された地下トンネルを歩くかのような、もしくは異世界のゆっくりと次元に飲み込まれていくような、おぞましくも奇異な感覚に満ちている。


更に「10-A New Story Story Being Told」において、ヘンリクセンは、勇猛果敢にも、東アジアの民族音楽をベースにして、アヴァンギャルドミュージックの最前線に挑む。旋律性や調性を度外視したフリー・ジャズの形式を、民族音楽の観点から組み直している。どことなく調子はずれな響きは、何を脳裏に呼び覚ますだろうか。

 

 

アルバムの後半部は、実験音楽、現代音楽、トランペットの音響の革新性、スポークンワードのサンプリング等、多彩な音楽性が発揮されている。「11-Creating New Traditions」では、カール・シュトックハウゼンのトーンクラスターの作風を踏まえた実験的な電子音楽を聴くことができる。


「12-Heritage」は、トランペットの音響の未知なる可能性を編集的なサウンドで抽出している。かと思えば、「13-The Mountain Plateau」では、民族音楽風の作風に舞い戻ったりと、変幻自在なサウンドを織り交ぜ、異なるモチーフを出現させる。「14-Moliskurkki」では、野心的な試みが見出される。エレクトリックジャズの先鋭的な側面を強調させ、ミニマルミュージックの構造性を作り上げ、無調の旋律のレガートをトランペットのブレスで強調させる。これらは、アフロジャズの原始性と現代的なエレクトリックジャズの融合を図っていると推察できる。

 

ポピュラー・ソングにスポークンワードをサブリミナル効果のように挿入する最近の音楽的な手法は、新しい作風の台頭のように見る人もいるかもしれない。しかし、実際は新しくはなく、2007年にHeiner Goebbelsが「Landshaft mit entfernten Verwandten」において、現代音楽や舞台音楽として、いち早く実践していたのだった。おそらく、これまでニュージャズの最前線を追求してきたアルヴェ・ヘンリクセンにとって、スポークンワードを物語のように導入することは、古典に近いニュアンスがあると思われる。「15-My Father From Isolagti」は、老人の声が悲しげな雰囲気を帯び、空間的な印象を呼び覚ます。それらの後に、ヘンリクセンのトランペットが登場するが、それは物語性の延長か、はたまた音楽の印象を強化するような役割を担っている。

 

終盤においてヘンリクセンは実験音楽の最前線に挑んでいる。 「16-Truth and reconciliation」では、アコーディオンの先祖であるコンサーティーナの音響を踏まえ、シュトックハウゼンのトーンクラスターと融合させる。この曲を聞くかぎりでは、金管楽器奏者のヘンリクセンは、作曲家/編曲家としてのみならず、電子音楽家としても深い音楽的な知識と理解、何より、実践力を兼ね備えていることが痛感出来る。この曲はむしろ、アヴァンギャルド・ジャズというよりも、ライヒやグラスの先にある現代音楽の新しいスタイルが断片的に示されていると言えよう。

 

しかし、前衛的なミュージック・セリエルの後、パイプオルガンのような敬虔な音響が登場する。シュールレアリズムや形而下にある概念を音楽で表現したような奇妙な音楽が続いている。


それらの前衛性は、トランペットの音響の潜在的な側面に向けられることもある。「17-On A Riverboat To Bilto」では金管楽器のルーツや楽器の出発に回帰する。イントロのドローン/ノイズに導かれるように、原始的な響きが始まる。細やかなブレスのニュアンスの変化からもたらされるヘンリクセンのトランペットの演奏には、音楽に対する深いリスペクトのような感覚が滲む。

 

この曲を起点とし、本作の最終盤では、原始的な音楽に接近する。原始的というのは、楽曲構成が未発達であり、旋律的ではなく、リズムも希薄であるということ。古来の西欧諸国の音楽は、スペイン国王のアルフォンソが音楽に旋律性をもたらし、英国圏のデーン人に伝えるまで、グレゴリオ聖歌のモノフォニーという要素が、その後分岐するようにしながら発展していったに過ぎない。以降、多声部のカウンターポイントが体系化され、教会旋法からポリフォニーが発生し、イタリアンバロックにおいて対旋律が洗練され、以後、ドイツの古典派やヨーロッパのロマン派、新古典派の作曲家が和声法や対位法を洗練させ、19世紀ごろにアフリカ発祥のリズムが加わり、以降のポピュラーやジャズ、ミュージカルという形式に変遷していった。

 

そして、現代の商業音楽の基礎を作ったのは、ニューヨークのジョージ・ガーシュウィン、近代和声を確立したラヴェル、ドビュッシーのようなフォーレのもとで学んだ作曲家だろう。また、日本の元旦に流れる「波の盆」のような和風な曲ですら、JSバッハの曲をヨナ抜き音階に再構成し、日本の伝統的な民謡のリズムや音階を付与したものに過ぎない。西洋にせよ、東洋にせよ、最近のポピュラー音楽など、悠久の歴史にとっては、束の間の瞬きのようなものなのだ。


想像しがたいことに、現在のような音楽は、多く見積もっても一世紀半くらいの歴史しか持たず、それ以前の系譜の方がはるかに長い。多くの人は、現在の感覚が全てだと思うからか、それを忘れているだけなのだろうか。しかし、あらためて、そのことを考えると、「18-New Awareness」のような曲は、音楽の原点回帰ともいえ、歴史の原始的な魅力を呼び覚ます。「19-Kaipu」も同じように、ECMのニュージャズを見本にして、音楽の原初的な一端を表現している。

 

最後の「20-Nature Knowledge」は何かしら圧倒されるものがある。この曲は、サントゥール/ダルシマーの弦楽器や鍵盤楽器のエキゾチズムとルーツを的確に捉えている。


ハープシコードやフォルテピアノを始めとする西洋楽器は、オーストリアのハプスブルグ家のお雇いの技術者が財閥の命令によって開発したのが由来である。しかし、原初的なモデルが存在し、それがダルシマー/サントゥールのような弦楽器だ。(日本の”琴”の同系に当たる。)この話は、西洋文化や音楽自体が小アジアやアナトリアのような地域から発生したことを伺わせる。

 

この曲では、そういった音楽の長きにわたる文化の混淆に触れることが出来る。サンプリングやエレクトロニック、ミュージック・コンクレートといったモダンな要素は限定的に留められていて、作品の最後になって、音楽的なスピリットがぼんやりと立ち上ってくるような気がする。


こう言うと、神秘主義者のように思われるかもしれない。しかしながら、音楽の最大の魅力というのは、論理では説明出来ず、文章化はおろか体系化もできぬ、密教の曼荼羅のような部分にある。本作の最終曲では、霊感の源泉のような得難い感覚が示唆されている。まさしく、それこそ、今は亡きジャズの巨匠、ファラオ・サンダースが追い求めていたものだったのだろうか。

 

 


86/100




 

 

 

 Details:

 

「1-Kvenland」A

「2-Ancestors From North」B

「3-Secret Language」A+

 「4-Raisinjoki」B

 「5-Sappen」B+

 「6-Voices From The Highlands」A

 「7-Hansinkentta」A

 「8-Invisible People」B+

 「9-Kjelderen」B

「10-A New Story Story Being Told」B+

 

 

 「11-Creating New Traditions」B−

 「12-Heritage」B

「13-The Mountain Plateau」 C+

「14-Moliskurkki」B

 「15-My Father From Isolagti」B+

 「16-Truth and reconciliation」C+

 「17-On A Riverboat To Bilto」B

 「18-New Awareness」A+

「19-Kaipu」A

 「20-Nature Knowledge」A+

 

Our Girl

 

ブライトンのインディーロックバンド、Our Girl(アワー・ガール)は、近日発売予定の同名アルバムのタイトル曲「The Good Kind」を公開した。

 

この曲について、アワー・ガールのシンガー/ギタリスト、ソフ・ネイサンは次のように語っている。「私には特に鮮明な記憶というものがあって、忘れてしまったように見える酸のイメージが、ある匂いや味や音によって突然呼び起こされるんだ!普通は、もっと理解しにくいものが原因なんだけど、この曲はエラ・フィッツジェラルドがラジオから流れてきたときのことを書いたんだ。


このアルバム『The Good Kind』は、セクシュアリティ、人間関係、コミュニティ、病気といったテーマを探求している。アワー・ガールのトレードマークであるダイナミクスは、ヘヴィなギターや高鳴るリード・ラインから、耳に残るコーラスや親密なヴォーカルまで、アルバム全体に浸透している。温かさと誠実さに満ちた『The Good Kind』は、どんな反対にも負けず、大切なことをやり遂げるという決意の賛美である。ドラムのローレン・ウィルソンは、「曲の多くは、挫折を乗り越え、それをスーパーパワーに変えることについて歌っている」と言う。

 

Our Girlのニューアルバム「The Good Kind」は11月8日にBella Unionから発売される。



「The Good Kind」

 

The Hives

「Rigor Mortis Radio」(昨年リリースされた『The Death of Randy Fitzsimmons』収録)の新しいビデオでは、スウェーデンのロックバンドが「Bob Fosse Meets NSYNC」と形容されるド派手な振り付けを披露している。


ミュージックビデオは、ザ・ハイヴスのオリジナル脚本、アイデア、脚本をもとに、フィリップ・ニルソンが監督を務めた。バンドが南ロンドンのランベスで、20世紀のジャズ・ダンス界で最も影響力のある人物ボブ・フォッセにインスパイアされ、巧みに振り付けられたダンスを披露している。

 

ボブ・フォッセは『パジャマ・ゲーム』、『スウィート・チャリティ』、『How To Succeed In Business Without Really Trying』などのミュージカルの振り付けを担当し、後に『キャバレー』の演出でオスカーを受賞した。


「この映像は1年以上前に発表されるはずだったんだけど、されなかったんだ。当時、VHSがレプラコーンに盗まれたなんて言っていたんだけど、驚いたことにそんなことはなかったよ! ハイヴスは未来人だから、テクノロジーが僕らのアイデアに追いつくのを待つしかなかったわけなんだ。私たちはプロのダンサーではないので、演技やポイズについてはお見逃しください!!」


ザ・ハイヴスは、夏の間、グリーン・デイとフー・ファイターズのオープニングを務め、秋にはアズベリー・パークのSea.Hear.Nowとシカゴのライオット・フェスト、そして9月24日のキングズ・シアターでのニューヨーク公演を含むヘッドライナー・ツアーを行う。



「Rigor Mortis Radio」

Tony Levin

キング・クリムゾンやピーター・ガブリエルとの共演で知られる伝説的ベーシスト、Tony Levin(トニー・レヴィン)がニューアルバム『ブリンギング・イット・ダウン・トゥ・ザ・ベース』を発表した。

 

本作には、ロバート・フリップ(キング・クリムゾン)、マイク・ポートノイ(ドリーム・シアター)、ヴィニー・コライウタ(フランク・ザッパ、ジョニ・ミッチェル)などが参加している。


このアルバムは、レヴィンがエイドリアン・ベリュー、ダニー・キャリー、スティーヴ・ヴァイらとキング・クリムゾンの音楽を祝う待望のツアー "BEAT "をスタートさせた翌日、9月13日にFlatiron Recordingsからリリースされる。レヴィンによれば、「このアルバムは長年の念願であり、何十年とは言わないまでも、何年も前から多くの曲に取り組んできた」という。


「率直に言って、もっと前にできたはずだ」とレヴィンはプレスリリースで語った。ツアーが多くて、ライブをするのが大好きなんだ。ただ、5、6年間取り組んできたアルバムを完成させるために家で作業する時間があまりなかったのさ」レヴィンは、こう付け加えた。「でも、1年前の5月、自分のスケジュールを見たら、ピーター・ガブリエルとのツアーが1年近く続いていて、2023年11月にはスティック・メンのツアーがあり、1月にはレヴィン・ブラザーズのツアーがあった。ツアーを断る勇気があれば、10年前にそうなっていたかもしれないね」


アルバムの楽曲について、レヴィンは次のように説明している。「プログレの流れを汲む作品と、ベースを基調とした作品があったんだけど、アルバムの中盤あたりで、プログレを捨てるという難しい決断をした。ベースについて歌う曲ではなく、各曲はベース・リフかベース・テクニックをベースにしていて、その上で素晴らしいリズム・セクションを招いて演奏してもらったよ」


「Floating in Dark Waters」では、キング・クリムゾンの創始者ロバート・フリップが彼に提供したサウンドスケープが使われている。


「キング・クリムゾンとよくツアーをしていた頃、今世紀に何度かツアーがあったんだけど、ロバートがショーの前に作ったループするサウンドスケープを演奏して、観客はそれを聴きながら入場したんだ」とレヴィンは回想した。それで、ロバートは、『トニー、僕のサウンドスケープに合わせてベースを弾いてほしい』と言ってくれた。これらのサウンドスケープは無調であることが多かったが、調性であることもあった。そのとき、ベースとサウンドスケープだけで、アルバムの中でとても面白い作品になると思ったんだ」


マイク・ポートノイは "Boston Rocks "でドラムを叩き、ドラマーのヴィニー・コライウタは "Uncle Funkster "で演奏している。アルバムのほとんどの曲はインストゥルメンタルだが、数曲は女性ヴォーカリストをフィーチャーしている。

 

「Bringing It Down to the Bass- Trailer」




Tony Levin 「Bringing It Down to the Bass」

Label: Flatiron Recordings

Release: 2024年9月13日

 

Tracklist:

1. Bringing It Down to the Bass

2. Me and My Axe

3. Road Dogs

4. Uncle Funkster

5. Boston Rocks

6. Espressoville

7. Give the Cello Some

8. Turn It Over

9. Beyond the Bass Clef

10. Bungie Bass

11. Fire Cross the Sky

12. Floating in Dark Waters

13. On the Drums

14. Coda


 Wishy 「Triple Seven」


Label: Winspear

Release: 2024年8月16日




Review  

 

インディアナポリスの四人組……、いや、五人組は、学生時代にケヴィン・クラウターとニーナ・ピッチカイツを中心に結成された。学生バンドから出発したバンドのソングライティングは、放課後のインディーロック性に根ざしている。EP「Paradise」ではシューゲイズ/ドリーム・ポップと紹介されることもあったウィッシーのサウンドは、デビューアルバムにおいてカレッジ・ロックに近い音楽性へと進化している。デビューバンドらしい初々しさ、そして荒削りなロックソングは、彼らの音楽の魅力のほんの一部分にすぎない。Lemonheads、R.E.M,GBV、Cocteau Twins等、甘酸っぱい感じのインディーロックソングが「Triple Seven」には凝縮されている。

 

ウィッシーのサウンドの魅力は、洗練されていることではなく、荒削りであること。それから、完成されていないということ。それはバンドの未知数の潜在的な可能性を象徴付けている。バンドのデビュー作は、80年代のカレッジ・ロックのような、わかりやすいフックのあるソングライティングに加えて、若いバンドのはつらつとした感覚を10曲に詰め込んでいる。

 

「Sick Sweet」は、ネオ・アコースティックギターの後、甘酸っぱい旋律を持つディストーションギターというギターポップ/ネオ・アコースティックの要素が、ケヴィン・クラウターのヴォーカルと合致している。着古されたように思える懐古的な音楽も、彼らの手にかかると、なぜかしれないが、新しい雰囲気に変化するのは驚くべきこと。そして、ピクシーズのジョーイ・サンティアゴの系譜にあるチョーキングをもとにしたオルタネイトなギターは、中西部としてのバンドの姿ーーカントリー性ーーを浮かび上がらせる。80年代のダンスミュージックの系譜にあるシューゲイズの影響は、続くタイトル曲に示されている。彼らは、ダンスビートを基底に、それらをギターポップで彩るというこのジャンルのスタイルの基本に立ち戻っている。


更に、デビューEPの系譜にある親しみやすく口ずさめるメロディーが夢想的な空気感を生み出す。これらは、シューゲイズとドリームポップが地続きであることを、あらためて思い出させてくれる。Lemonheadsの影響下にあるパワーポップのナンバー「Persuation」も聴き逃がす事が出来ない。カレッジロックの範疇にある8ビートのシンプルなリズム、ローファイの質感を帯びる乾いたギター、それからドリームポップのような陶酔感を呼び覚ますボーカルの融合は、彼らがシューゲイズの子孫であるだけではなく、「カレッジ・ロックの末裔」であることを表す。アルバムの序盤で、彼らは、あらためてオルトロックのシンプルな魅力に焦点を当てている。

 

一見すると、荒削りなように思えるデビューアルバム。しかし、彼らの輝かしいセンスが垣間見える瞬間もある。「Game」では、苛烈なディストーション/ファズサウンドをもとに、韓国のシューゲイズプロジェクト、Parranoulのデビュー作に見られたような切ない感覚を織り交ぜる。80年代や90年代のメタルやハードロックに触発されたギターに、本作の冒頭と同じように、英国圏のネオ・アコースティック/ギター・ポップの要素を織り交ぜることで、Corneliusに近いアブストラクトなエモーションを作り上げる。フレーズの繋ぎ目で何度も移調を繰り返し、抽象的ではありながら甘い幻想的なメロディーを作り上げる。更に同曲では、他曲よりもドラムのプレイが冴え渡り、これらの激しいサウンドのテンションを巧みに背後から補佐しながら、バンド全体の司令塔のような役割を果たしている。ウィッシーが単なる二人のプロジェクトではなく、全体のグループとして録音を行った成果が、こういった一体感のあるサウンドを形作り、目の前に迫ってくるかのような迫力のあるダイナミクスを呼び起こしたのだろうか。


これらのオルタナティヴロックの真髄にあるソングライティングに加えて、ニューヨークやロサンゼルスの都市部のバンドとは少し異なるカントリー性が反映された曲も収録されている。「Love On The Outside」では、カントリーをもとにオルトロックソングを組み上げるという、R.E.Mが行ったソングライティング性を巧みに継承している。ペダル・スティールこそ使用されないが、彼らの持つ素朴な感覚が曲に乗り移り、80年代後半や90年代初頭のUSオルタナティヴロックの原点に立ち戻る。それらは、Pavementのような温和な空気感を呼び起こす場合もある。曲に満ち渡る友愛的な雰囲気は、聴いていると、微笑ましいような温かさが感じられる。

 

ロンドンのバンド、Whitelandsの雰囲気に近いドリーム・ポップに傾倒した曲も収録されている点に注目したい。「Little White」では、Cocteau Tiwns(コクトー・ツインズ)、Pale Saints(ペール・セインツ)のようなドリーム・ポップバンドの音楽が現代の音楽的な感性に上手く合致していることを表している。彼らは、上記のバンドの音楽性を次世代に受け継ごうとしているらしい。フィードバックを活用したディストーションサウンドの向こうから、おぼろげに立ち上るピッチカイツのボーカルは、バンドの多彩性の特性が反映されているように思える。当然のことながら、この曲には、90年代のUnderworldのような英国のダンスビートからのフィードバックも含まれている。ダンスミュージックのグルーヴをもとに夢想的な感覚を作り上げていく。その手腕はデビューバンドらしからぬ鋭い才覚が含まれていると見て違和感がない。


「洒脱」と呼ぶべきラフに着崩したようなインディーロックソングもまた、デビューアルバムのもう一つの魅力になるに違いない。「Busted」は、彼らがR.E.M、Lemonheadsのようなバンドと併せて、ストロークスのようなガレージロックリバイバルのバンドからの影響を持つことをうかがわせる。これらは、カナダのロックバンド、Colaのようなガレージ・ロックのリバイバルの系譜にあるサウンドと、Wishyらしいカレッジロックの系譜にあるサウンドと結び付けられ、スペシャリティがもたらされる。バンドのメンバーの音楽的な多彩さが見え隠れする一曲である。


また、続く「Just Like Sunday」はブリット・ポップを踏襲しつつ、それらを彼らの得意とするカントリー/フォークの要素ーーアメリカーナーーという形に置き換えている。イントロのアコースティクギターは、オアシスの名曲を彷彿とさせるが、それらをインディアナポリス風の田舎性で縁取る。時折、曲そのものから草原を駆け抜ける微風のようなサウンドスケープが呼び覚まされる。これらの想像力を掻き立てるサウンドは、彼らの思い出と十代の記憶によるものなのだろうか。しかし、それらは最終的に売れ線のナンバーへ移行するのに興味が惹かれる。


若さというのは、その一瞬にしか発揮されず、10年後に戻ってくることはない。10年後に同じような音楽をやろうとしても、なぜか同じものにならないことが多い。なぜなら、人間は同じようでいて、同じであることはほとんどありえないのである。してみると、彼らの数年の記憶、そして、短い期間に内在する人間関係のようなものを、アルバムという記録に残しておくことは、Wishyにとって重要なことだったのではないだろうか。「Honey」は、バンドとしての若さを象徴付ける一曲で、「スタンド・バイ・ミー」のような青春の雰囲気に浸されている。

 

本作は、夏休みの終わりに、米国の中西部の田舎道でティーンネイジャーの若者たちが笑って戯れあうような素晴らしい空気感に満ちている。そこに何を見出すかは、リスナー次第ということになろう。しかし、それは、夕日を浴びて、彼らの背後の影となり、長い長い一連なりの道を形作っている。「Honey」、「Spit」は、バンドがぜひとも収録しておきたかった曲ではないだろうか。そして、十年が経った時、ふと、自分たちの歩んできた道を振り返った時、これらのデビューアルバムの収録曲は、バンドのメンバーにとって美しいレガシーとなるに違いない。

 

 

 

82/100

 

 


 

WishyのデビューEP「Paradise」の特集についてはこちらからお読みください。

 

Details:

 

「1.Sick Sweet」B+

「2.Triple Seven」A+

「3.Persuasion」B

「4.Game」A−

「5.Love On The Outside 」B

「6.Little While」B−

「7.Busted」B+

「8.Just Like Sunday」C+

「9.Honey」A

「10.Spirit」 B+

 

Gyrofield

『These Heavens』はドラムンベースとジャングルのプロデューサー、Gyrofield(ジャイロフィールド)のXLのレーベルデビュー作となる。EDM主体のサウンドであるが、このプロデューサーの魅力はそれだけに止まらない。


EPは4曲入りで、XLを代表するハウス・バッグ・シリーズの一環としてリリースされる。シングル「Lagrange」は下記で試聴できる。


香港生まれでブリストル在住のプロデューサー、本名キアニ・リーは、These Heavensについての声明の中で次のように述べている:「私は、ダンサブルな音楽を作ることに多くの価値を見出しているが、その一方で、アトモスフェリックでスペーシーなサウンドや、楽器の重要な使い方、音楽のビートとエネルギーを引き立てる構成にも触れている。


「ドラムンベースの大ファンなんだけど、I Hate ModelsやDjRUMのようなエレクトロやテクノから、シンセ・アンビエント、ポストロック、ビョークのような実験的ポップまで、このアルバムに影響を受けている。」


「このEPを構成する4つのトラックは、科学という厳しい学問の原動力となる、極めて人間的な感情や思考について歌っている。私たちは知識を求め、私たちの頭上にある星々や宇宙を理解しようとする。私たちは天を理解することに愛と夢を注いでいる。」



「Lagrange」



Gyrofield 「These Heavens」 EP


Label: XL Recordings

Release: 2024年8月30日

1. Vega 
2. Occam's Razor 
3. Lagrange 
4. Cold Cases


Alex Henry Foster

 

今年4月にカナダ在住の日本人アーティストMomokaとアルバム『Kimiyo』を発表したAlex
Henry Foster(アレックス・ヘンリー・フォスター)が、今年9月20日に新作『A Measure Of Shape And Sounds』をリリースする。

 

昨年の心臓手術から、1年間の療養期間を経て、思うように活動できなかった期間を取り戻すかのように精力的に創作活動を続けているAlex Henry Foster。今回の作品は、普段のポストロックやプログレッシブロックのサウンドではなく、また、コラボ作品であり、アメリカ&カナダのビルボードのカテゴリーで最高2位を記録した『Kimiyo』のようなシューゲイザー、平板なアヴァンギャルドとも異なる、インストゥルメンタルを中心としたアンビエントなアルバムだ。

 

新曲「Sorrowful Bouquet」は、シカゴ音響派の系譜にあるナンバーで、ギターサウンドの限界に挑戦している。繊細で叙情的なクリーントーンから始まるギターはやがて極大の宇宙的な音像を構築し、Explosions In The Sky、Mogwai、Tim Heckerのような抽象的で風景的なポスト・アンビエントのサウンドにたどり着く。ギターの演奏を通じて、ドローンの手法も取りいれられている。

 

これまで、バンドとしてMBVのようなサウンドに挑戦し、モントリオール・ジャズ・フェスティバルを始めとする大型のイベントにも出演経験のあるアレックス・ヘンリー・フォスターであるが、God Speed You Black Emperror!の系譜にあるギターロックサウンドに挑んでいる。

 

アレックス・フォスターはアルバム、及び、この新曲について次のように話している。

 

「アルバム『A Measure of Shape and Sounds』の本質が、人生の無常と、自分の存在意識を受け入れることに伴う、衰えの感覚についての深い内省にインスピレーションを受けたのと同じように、楽曲「Sorrowful Bouquet」は、静けさと平和を呼び起こす。時間の概念的な力や、物理的な限界や具体的な視点に対する幻想的なコントロールを失い、自分が何者であるかを解放的に反映するときに感じる感情的な自由、すなわち、自分自身の限界を通して作り出した音波の断片を受け入れる可能性を与えている」

 


「Sorrowful Bouquet」のミュージックビデオは、アジア圏の侘び寂び哲学の美学に基づいて、日本の鳥取県で撮影された。

 

その映像は、方向性を見失った精神状態を視覚的な比喩で文脈化したものであり、波打ち、変調する無限の砂の海は、親密でありながらグローバルな現実感覚の不安定さを象徴している。それを囲む水は、解放へと続く道を映し出していて、一方で、風のはかなさは、さまざまな要素を散乱させながら、日常の感覚のバランスを整える不思議な昇華をもたらしている。

 

不思議なことに、この新曲は、鳥取砂丘のイメージと劇的に合致している。砂丘と海という二つのイメージを元に幻想的な音楽性を際立たせる。制約のない曲代のギターサウンドの拡張は、地上という概念を離れて、宇宙的なもの、つまりマクロコスモスの概念と密に結び付けられる。

 



「Sorrowful Bouquet」MV

 

 


 

 

 

Alex Henry Foster 『A MEASURE OF SHAPE AND SOUNDS』- NEW ALBUM

 



Tracklist:

 

01. Thoughtful Descent 

02. Mechanical Revision

03. A Mind’s Tapestry

04. Cinematic Insight

05.Self-Portrait 

06. Sorrowful Bouquet

07. Manic View 

08. A Gesture, A Present 

09. AlchemicalConnection


09.20.2024 リリース


Pre-order(プレオーダー) : https://found.ee/ahf-amosas

 



【アーティスト情報】

 
Alex Henry Fosterは、カナダのミュージシャン、作家、プロデューサー、作曲家であり、以前はJuno賞にノミネートされたYour Favorite Enemiesのフロントマンを務めていた。Alex Henry Fosterは、2018年に初のソロアルバム『Windows in the Sky』をリリース。このアルバムは「ポストロックの夢のような爆発」(NME)で、「ハンモックやアッシュ&スペンサー、そして、モグワイやエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイの要素を強く思い起こさせる」と評価されている。

 

彼の2枚目のアルバムは、モントリオール国際ジャズフェスティバルのソールドアウト公演で録音されたソロ作品のライブ再解釈で構成。Ben Lemelinは、カナダのマルチインストゥルメンタリスト、ソングライター、音楽プロデューサー。彼とAlexは多くのプロジェクトでパートナーとして協力。Benは、AlexのバンドThe Long Shadowsのメンバーであり、Your Favorite Enemiesではベースを担当。

 

Momokaは東京出身の日本人アーティストで、10年前にモントリオールに拠点を移し、AHFとの一貫したコラボレーターとして活躍。また、彼女自身もアーティストとして活動しており、2025年初めにソロアルバムのリリースを予定している。

 

©Park Sangjun


DJ/プロデューサー、Peggy Gou(ペギー・グー)が、今週末にロンドンのガナーズベリー・パークで開催される自身最大規模のヘッドライン・ライヴに先駆けて、ニューシングル「Find the Way」を発表した。今夏の初め、デビューアルバムをリリースした後、自身の主宰するインディペンデントレーベル”Gudu Records”に戻ってきた。

 

デビューアルバム『I Hear You』以来となるペギーの新曲「Find the Way」は、彼女のフェザー・ライトなヴォーカルと90年代のハウス・ビート、メロウなキー、催眠術のようなベースラインが融合している。
 

2024年は、ペギー・グーにとって飛躍の年となった。XLレコーディングスから待望のデビューアルバム「I Hear You」をリリースし、オブザーバー誌、NME誌、ザ・ライン・オブ・ベスト・フィット誌などで絶賛された。その他、ビルボード誌(アメリカ)、ヴォーグ誌(ドイツ)、L'Officiel Italia誌の表紙を飾った。今、最も勢いに乗っているDJ/プロデューサーである。

 

2023年にはライヴイベントで100万人以上を動員し、インフルエンサーとしての実力を発揮しはじめると。快進撃は続いた。2024年にはコーチェラ、ウルトラ、EDC、プリマヴェーラ、フジロックなどの世界的なフェスティヴァルに次々と出演。グラストンベリーのパーク・ステージではヘッドライン・スロットを務め、プロデューサーとしての名声を世界的なものとした。

 

ニューシングルの各種ストリーミングはこちらから。


「Find the Way」

 

Sean Ono Lennon
Sean Ono Lennon

Sean Ono Lennen(ショーン・オノ・レノン)が、父ジョン・レノンの楽曲「マインド・ゲーム」のメディテーション・ミックスをリリースすると発表した。『Mind Games - The Meditation Mixes』は10月4日にCapitol/UMeからリリースされる。日本盤は10月11日に発売される。

 

ジョン・レノンが1973年に発表した平和と愛のアンセム「マインド・ゲーム」のメディテーション・ミックス9曲を、意識を拡張する写真アプリ「ルーメネイト」を通じて今年初めに独占リリースしたのに続き、ショーン・オノ・レノンがプロデュースした「マインド・ゲーム - メディテーション・ミックス」が、デジタル配信と限定盤3枚組LPとして同時にリリースされる。


ショーン・オノ・レノンは、「瞑想は究極のマインド・ゲームだと言えるかもしれない。これらの非常に抽象的な解釈は、あなたの "内なる宇宙 "を探求する手助けになることを願っています。UMGがヴァイナル・エディションを作りたいと言った時、私は興奮し、驚いた。マインド・ゲーム・プロジェクトのこの部分は自然発生的に発展し、ちょうどいい量の良い波動と妖精の粉が振りかけられたように感じる。(効果は異なるかもしれません)」

 

 

 『マインド・ゲームス:メディテーション・ミックス』は、ジョン・レノンの見すごされ、過小評価されてきた1973年のアルバム『マインド・ゲームス』を深く掘り下げた決定版、高い評価を得た『マインド・ゲームス』アルティメイト・コレクションに引きつづいてリリースされる。

 

《アルティメイト・コレクション》は7月にデジタル、アナログ盤、CD、2種類の豪華なボックス・セットとしてリリース。《スタンダード・デラックス・エディション》と、美術品であり、タイム・カプセルであり、パズルでもある《スーパー・デラックス・エディション》です。

 

このコレクションは、とりわけ、オリジナル・アルバムのすばらしいニュー・リミックスによって絶賛を浴びてきた。ショーン・オノ・レノンがプロデュースし、グラミーを3度受賞したミキサー/エンジニアのポール・ヒックスがミキシングを手がけたこのリミックスは、音質を向上させるとともに、ジョンのヴォーカルを前面に押し出しています。

 

「ローリングストーン」誌は、4つ星をつけたレコード評で、「ここでのスターは、個々の曲をより幅広いステレオのスペクトルで再構成した〝アルティメイト・ミックス〟で、ジョンのフィル・スペクターに対するこだわりを、効果的に解きほぐしている……以前のミックスは、スペクターの音の壁がじょじょに迫っているような、閉所恐怖症的で、金属的な仕上がりだった……。

 

新しいミックスはレノンの声と歌詞を強調し、曲にしばしば新たな深みを持たせている」と分析し、かたや「ゴールドマイン」誌は、次のように絶賛している。「音質的にはこれまでの再発をすべて霞ませてしまう。新しいアルティメイト・ミックスには明瞭さとより大きな深みがあり、まるで別のレコードを聴いているようだ。オリジナル・ミックスの濁った音とは雲泥の差がある……この過小評価されてきたアルバムの名誉を回復する、歓迎すべきアップグレードだ」

 

ショーン・オノ・レノンの『Mind Games - The Meditation Mixes』のご購入についてはこちらを参照。

 

 

 

Sean Ono Lennen(ショーン・オノ・レノン) 『Mind Games - The Meditation Mixes』

 

 

■国内盤

3LP<直輸入盤仕様/完全生産限定盤> 
UIJY-75284/6
価格:17,600円税込

●180gクリア・ヴィニール
●3面見開きの鏡面仕上げジャケット仕様

<日本盤のみ>
英文説明及びフプレスリリース翻訳付/歌詞対訳付
日本盤LP帯の意匠をモチーフにした巻き帯付き

<収録曲>


3LP


LP1

 
SIDE A
1. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – マインド
2. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – マジック

SIDE B
1. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – スペース
2. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – シード
3. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – イエス

LP2

 
SIDE A
1. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – スピリット
2. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – ラヴ

SIDE B
1.マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – サレンダー

LP3


SIDE A
1. マインド・ゲームス・メディテーション・ミックス – ピース

SIDE B


マントラ1
マントラ2
マントラ3
マントラ4
マントラ5
マントラ6
マントラ7
マントラ8
マントラ9

Weekly  Music Feature -  Pom Poko   

 Pom  Poko


純粋なノルウェーのパンキースウィートネス。パンクなアティテュードにポップ史のオタク的知識が加わり、Le Tigre、Deerhoof、Duchess Saysと比較される爆発的なパッケージとなった。甘く歌い上げるヴォーカルに、激しいグルーヴ、軋むようなギター、クレイジーなリフがミックスされ、ポンポコをライブスペースで圧倒的な存在にしている。男性ホルモンを減らし、甘味料たっぷりのアイスクリームを食べ、糖分を増やし、いずれ到来するK-PUNKの爆発に備えておこう。


ポンポコは成長し続けている。内省的で人生を肯定するポストパンクの記念碑『Champion』では、ヴォーカル/作詞のラグンヒル・ファンゲル・ヤムトヴェイト、ベースのヨナス・クロヴェル、ギターのマーティン・ミゲル・アルマグロ・トンネ、ドラムのオラ・ジュプヴィークが、密閉されたタイトな4人組ロックという楽器編成という点でも、従来で最も親密な関係を築き上げる。多くのバンドが互いを「ファミリー」と呼ぶのは少し陳腐な表現に過ぎるが、Pom Pokoの場合、何年にもわたり世界の隅々をツアーし、大胆にも大衆的なソングライティング・プロセスを導入した結果、彼らは本当に高度にシンクロした1つのユニットへと進化したことは確かだ。


「このアルバムが出るころには、バンドを結成して8年になる。まるで進化しているみたい。いつもバンドと一緒にいるわけじゃないし、自分たちが築き上げたものに対する感謝の念が湧いてくる。奇妙で、素敵な小さなギャングのよう。パワーパフガールズの一員になったような感じだ」


『Champion』は、2019年の鮮烈なデビュー作『Birthday』、2021年の絶賛された『Cheater』に続く、ポンポコの3枚目のアルバムである。どちらのアルバムもバンドのサウンドを確固たるものにした。ポスト・パンクからマス・ロック、そしてその中間にあるものまで、様々なサウンドを奏でるバンドの痛烈なノイズの猛攻を、ラグンヒルドの甲高くも澄んだ歌声が際立たせている。


「私たちは、バンドに生活のすべてを捧げているような、非常識な量のツアー中にバースデーを作りました」とドラムのオラ。「現実的な理由から、私たちは最近、お互いの定期的な交流から離れなければいけなかった。マーティンがパパになったから、しばらくリハーサルができなかった。安っぽく聞こえるかもしれないけど、自分が何を手に入れたかなんて、なくなってみないとわからないもの。これまでずっと、ポンポコと一緒に演奏していたときの感覚は、バンドで演奏するときの一般的な感覚だと思い込んでいたんだけど、そうじゃなかった。実は、このバンドでしか発生しない、ほかでは得難いスペシャルな感覚だったんだ」


一緒に演奏することへの感謝の念の高まりは、そのまま音楽にも反映されている。ポンポコは相変わらず鋭いエッジを保っているが、辛辣なギターの爆音と弾力性のあるベースラインの切れ味には、新たな成熟が滲み出ている。「『Champion』には、以前のアルバムよりスペースがあり、実験する余地が残されていた」とギターのマーティンは言う。「でも、曲作りやプロダクションの面では、他の多くの作品ほど即興的ではなく、より要点を押さえたものになっているはずだよ」


ポンポコはこのアルバムで初めてセルフ・プロデュースを行なったが、それは彼らの創造的な自由感をさらに高めるものだった。


「テレパシーのように仕事ができるようになった」とオラは話す。「アルバム制作中、スタジオではほとんど話さなかったし、お互いに伝えなければならない芸術的な意図もほとんどなかった。それでも、みんな、自分が何をすべきかわかっていたんだ」 


プロデューサーとコミュニケーションを取ろうとすると、たくさんのアイデアを詰め込んでしまいがちなのかもしれない。今回初めてバンドとコラボレートしたアリ・チャント(PJハーヴェイ、オルダス・ハーディング、ドライ・クリーニング)がミックスを担当した『Champion』は、ポンポコの特徴的なサウンドを継承しつつ、コントロールされ、実現的で、成熟した作品となっている。


とはいえ、アルバムのタイトル曲には少々皮肉な意味が込められているらしい。チャンピオンになること、目標に秀でることとはどういうこと? その目標が変わったらどうなるの? 楽しく甘いサウンドのインディー・ロックの中で、ボーカルのラグンヒルドは、人生は自分で切り開くものだということ、つまり、実は自分なりのルールでプレーしてもいいということを歌っている。


「チャンピオンという言葉は最初から念頭にあった」とボーカリストのラグンヒルドは説明する。新曲の制作中、即興的で無意識的なジャム・セッションの最中に歌詞をふいに思いつくこともあり、それがポンポコの音楽に超現実的な輝きを与えることになった。


「ある晩、自分のアパートで、このタイトルの歌詞を作った。アパートの前に大きな駐車場があって、そこに座って外を眺めていた。すると、バンに乗っていて、ツアーをしていて、今まで行ったことのある駐車場のすべてのイメージが鮮やかに浮かんできた。この曲は、''歳をとって、もう世界を征服する必要はない''という実感について歌っている。すべて自分たちのためにやっている。20年続くバンドでいられたら本当に素晴らしいこと。私達はトップではないけど、同時にチャンピオンでもある」



Pom Poko 「Champion」-  Bella Union

 

ノルウェー/オスロの四人組、Pom Pokoは、Deerhoofの後継的なアートロックバンドで、他にも、Fastbacks、The Dismemberment Plan、Jaga Jaggistといったバンドに近いユーモラスな音楽性が特徴だ。これらのバンド名を知っている人ならば、ニヤリとしてしまうようなグループである。

 

オスロのポンポコは、三作目のスタジオアルバム「Champion」で素晴らしい結果を残している。ポンポコのサウンドは、基本的にはパンクやポストパンクに属するが、マスロックやポストロックの系譜にある変拍子を主要なモチーフの合間に挿入することで、楽曲に奥行きと変化を与える。ポンポコのサウンドの土台を作るのは、ジョン・ボーナム級のタム回しの技巧を誇るドラム、そして、ミュート奏法やルート弾き、ジャズコードを弾きこなすセンス抜群のフィンガー・ベースである。また、ディアフーフように、絵本的な世界観を表すミニマルミュージックの系譜にあるギター、そして、北欧神話や童話のようなイメージを持つボーカルというように、ノルウェーのバンドらしさが満載である。そして、これらのちょっと風変わりな音楽性に強い説得力を及ぼしているのが、歴代のプログレバンドやハードロックバンド、そして、アートロックバンドのような「アンサンブルとしての卓越性」である。Jaga Jaggistにとどまらず、オーストラリアのHiatus Kaiyoteのような近未来的な音楽性も含まれている。ただ、それは、ハイエイタスのようにフューチャーソウルの範疇で行われるのではなく、北欧神話やクトゥルフ伝説のような幻想性やファンタジックな音楽性によってもたらされる。それに親和性をもたらすのが、ラグンヒル・ファンゲル・ヤムトヴェイトのファンシーな印象を持つボーカルだ。

 

アルバムには、社会的に先進的な気風を持つ「ノルウェーという国家性」が力強く反映されているように感じられる。これはスウェーデンやノルウェーといった国家が、どれだけ社会的に進んでいるかを見ると良く分かる。ポンポコの音楽は、これまで多数の先進国に植え付けられて来たある種の「呪縛」から人々を開放させる力を持っている。既存の概念とは違う別軸の考えがどこかに存在すること、あるいは、主流とは異なる見解がどこかに存在することを示唆する。


これらは、かつてパンクバンドやインディーズミュージシャンの重要な役割であったが、いつしか、そういったミュージシャンの間でも奇妙な敵対意識が生み出され、一部のグループの間での競争主義や、ナンバーワン主義のようなものが蔓延していくことになった。あまつさえ、主流派の考えに流される動向も見出される。それでも、トップに上り詰めなければ意味がないという考えの先にあるものが何だったのか、今、現代社会全体は再検討する時期に差し掛かっているのではないか。それは他者を蹴落とすような先進性のかけらもない野蛮さや暴虐性、そして、目標が達成されなかった時に生ずる虚しさ以外、何物も生み出すことはなかったのである。


その先には、争いやドラスティックな戦争という事象に繋がっていく。これもまた、自分と他者、味方と敵という二元的な考えから発展している。結局、そういった競争主義がもたらすものは、勝者と敗者という対象性、網からこぼれ落ち、主流から踏み外した人々が感じる虚無主義でしかない。つまり、競争主義や資本主義社会の基底に大きな空隙を生じさせ、無数のニヒリストたちを発生させたのである。現代社会や後期資本主義が生み出した最大の負の遺産を挙げるとするなら、二元的な考えから汲み出されるニヒリズムである。そして、今、主流派がニヒリストの台頭に怯えるとすれば、''それを誰が生み出したのか''を考える必要があるかもしれない。

 

ポンポコは、言葉で音楽を捻じ曲げたりはしない。 また、アルバムの歌詞の中でも、ドラスティックな表現や明け透けなテーゼのようなものも、ほとんど登場しない。しかし、そういった宣伝的なキャッチフレーズや、ましてやプロパガンダのような謳い文句が登場する音楽よりも説得力が込められている点に、頼もしさと深い感動をおぼえる。時々、アルバムの曲に登場する「Family」、「Go」、「Champion」という、端的であり、その場では意味をもたないようなシュールな表現が、実際的には、しっかりと文脈で繋げられた文章よりも歌の中に浸透している。

 

 

 「1-Growing Story」

 

 

 

リリックにとどまらず、音楽的な側面でも素晴らしさが際立っている。ポンポコの曲には、「1-Growing Story」を見ると分かる通り、ミレニアム時代までの4ADのサウンドが貫流している。バンドのサウンドには上記のコアなバンドと併せて、Throwing Musesに近い要素が含まれている。これは何も偶然ではなく、レーベルボスのサイモン氏がこれらの4ADのコンセプトを的確に捉えているのだろう。この曲には、オレンジカウンティのパンクの奔放さから、70年代のイギリスのポスト・パンクのひねりのある感性に至るまで多角的に吸収しつつ、オルタネイトなロックの醍醐味を示そうとしている。それは先にも述べたように、「主流派とは異なる考えが存在する」という癒しを意味する。ポンポコは、ユニークでユーモラスなサウンドを介して、現代社会の一元的な考えから開放し、そして、それに固執することの虚しさを、やんわりと教唆するのである。それが音楽としての自由な感覚を生み出し、そして開放的な気風をもたらす。

 

アルバムを聴いていると、今までとは違った見方があるかもしれないと思わせることもあるし、そして、もう一つ、フレンドシップが音楽という形で築き上げられていることも見過ごせない。結局、敵か見方かと見定めるような視点は、二元的なものの見方から生ずる。しかし、このアルバムは、右にも、左にも、上にも、下にも、斜めにも他の考えがあると示唆している。


「2- My Family」は、Deerhoofの影響も含まれているかもしれないが、少年ナイフ、Melt Bananaといったガールズパンクバンドの音楽性を受け継いでいるように感じられる。そして、その中に、グリーン・デイのような男性中心のバンドとは相異なるファンシーな音楽の印象をもたらそうとしている。表面的には、パンクロックの印象が目立つが、その中にジャングルポップ、パワー・ポップの甘酸っぱい魅力が凝縮されている。甘いメロディーと夢想的な感覚については、Fastbacksの系譜に位置づけられると言える。それらをマスロックやポストロックの変拍子を織り交ぜたテクニカルな曲構成によってバリエーションをもたらし、モダンな感覚を添える。


「3- Champion」は、今年聴いたインディーロックの中でベスト・トラックに挙げられる。''私達はトップではないが、チャンピオンである''という考えは、現代社会において最も先進的な考えかもしれない。少なくとも、競争主義社会の中でもみくちゃにされ、存在意義を見失い、内的な悲鳴を抑え込む人々にとって、救いのような意味を持つ。それをカーペンターズの影響下にある慈愛的な音楽性を基にして、ポストロックという形式に繋げたことは大いに称賛されるべきだ。

 

Throwing Muses、Frankie Cosmosのように、シュールで穏やかなインディーロックとしても楽しめるが、何より、この曲のヤムトヴェイトのボーカルには泣かせる何かがある。そして、バンドアンサンブルを見てもまったく非の打ち所がない。他者の個性を尊重した上で、自分の個性を発揮している。ギターやドラムのタイトさも凄いが、フィンガーベースの卓越性に注目である。

 

 

「Champion」- Best Track

 

 

「4- You're Not Helping」に見出されるような、ちょっとシュールで斜に構えたような感じは、従来のガールズパンクバンドの直系にあるといえようが、もう一つのアート・ロックバンドとしての性質が垣間見える瞬間もある。そして、「音楽でしっかり連携が取れていたので、録音現場で会話をする必要がなかった」というエピソードは、この曲にはっきりと反映されている。


曲のイントロでは、Deerhoof、Le Tigreのようなワイアードなサウンドを起点として、四人の間で対話をなすかのように音楽が徐々に変遷していく。アート・ロックからポスト・パンク、そして再びワイアードなアート・ロックへとセクションごとに音楽性を変化させる。ときどき、ベースに激しいオーバードライヴを掛けているが、しかし、ヤムトヴェイトの親しみやすいボーカルにより、マニア性が中和されて、聞きやすさが保たれる。これは文章の読みやすさの配慮と同じように、聞き手に対する音楽の聴きやすさの配慮がなされている。つまり、一般的に理解しがたくて、難解な音楽性も登場する反面、全体的にはわかりやすさが重視されている。

 

 

冒頭で述べたように、童謡的な音楽、あるいはまた北欧神話のような幻想的な物語の特性は、続く 「5− Pile of Wood」に力強く反映されている。しかし、それは一貫して一部のマニア向けのものではなく、一般性に重点が置かれている。また、ボーカルに関しては、小さな子供に絵本やおとぎばなしを読み聞かせるような''柔らかく優しげな音楽''の印象を立ち上らせる。そして、音楽性の抑揚の変化も軽視されることはなく、The Clienteleの最初期のようなアートロックの柔らかさを押し出したと思えば、それとは対象的に、Deerhoofのパンキッシュな側面を暗示したりというように、コントラストを用いながら、多角的なサウンドが構築されている。これらはやはり、バンドの卓越した演奏技術や音作りの職人性から生じている。それらがこの上なく洗練されているから、こういった個性的でありながら、親しめる音楽が作り上げられるのだろう。 

 

夕暮れの波の静かな満ち引きのように、幻想的で美しいサウンドがアルバム全体の流れを形づくり、強い印象を持つ序盤、それとは対象的に静かな印象を持つ中盤部というように、作品全体としての起伏やアクセントをもたらし、後半部への連結や繋ぎのような役割を果たしている。

 

「6- Bell」は、古典的な米国南部のフォーク・ミュージックをベースにしている(と思われる)。Lynyrd Skynyrd(レナード・スキナード)のような米国南部のフォーク・ミュージックを夢想的で幻想的なインディーロックへと昇華させ、それらを幻想的で落ち着いたイメージで包み込んでいる。この曲でも、クロヴェルのベースのプレイの傑出した演奏が見出される。ボーカルと対旋律を描くのは、ギターでなくベースである。これらの演奏は、この楽器のリズムとは異なる主旋律の補佐としての重要な役割を果たしている。そして、それらを引き立てるようにギターの繊細なアルペジオが加わり、緻密なアンサブルが構築される。曲の中盤と後半では、ボーカルの祝福的な響きが心を捉える。本作の中で最も癒やしに満ち溢れたナンバーである。

 

アルバムは後半に差し掛かると、まるで本質的なテーマに迫っていくかのように、パンクバンドとしての勢いを取り戻す。ガールズパンク、アート・ロック、ポスト・ロックという3つの音楽性を元にして、ユニークな音楽性を組み上げていく。「7-Go」はギターのイントロをベースに、パンキッシュな印象を持つバンガーへと変化していく。オレンジカウンティのパンクバンドのように、開放的な感覚やアンセミックなフレーズを散りばめつつ、個性的な楽曲を作り上げていく。もちろん、中には、シンガロングを誘発するようなフレーズも登場することがある。

 

「8- Never Saw It Coming」では、70年代のX-Rey Specsのようなコアなポストパンクの影響を受け継ぎ、アート・ロックに近い音楽性へと昇華させている。また、バンドの趣味なのかもしれないが、曲の中には心なしか、アメリカンコミックやスチームパンクのようなサブカルの匂いが感じられる。それはセサミストリートのようなユニークな音楽性とパンクによって縁取られる。

 

 

 「9- Druid, Fox And Dragon」は、初期のDeerhoofの系譜にあるアートパンクであるが、たとえ後追いのような内容であるとしても、バンド全体のファンシーでユーモラスなイメージや、高い演奏力において、じっくり聞かせるものがあるため、単なるフォロワー以上の意義を見出すことができるはずである。そしてやはり、楽器全体の音作りは、IDLESに匹敵するくらいのマニア性とこだわりがあるのだが、しかし、ライヴで矢面に立つフロントパーソンのボーカルは、一貫してビートルズのようなわかりやすさ、歌いやすさが重視されている。そのため、曲全体はまったく難解にもならなければ、複雑怪奇にもならない。そして、どれほど複雑な構成をセクションに交えようとも、美しい旋律性が損なわれることはない。これはバンドとしての全体的な役割がはっきりしており、さらに言えば、音楽で会話が出来ているからなのかもしれない。

 

アルバムの後半にも凄まじい曲が収録されている。音源からバンドの演奏の卓越性がストレートに伝わってくる事例として、例えば、Hiatus Kaiyoteの最新アルバムが挙げられるが、「10 - Big Life」はそれに匹敵するか、もしかすると、上回る瞬間もあるかも知れない。ロンドンのIDLESのような実験的なベースやギターの音作りを起点に、Led Zeppelinの「Achiless Last Stand」を彷彿とさせるトロットのようなリズム、鋭い風車のようなドラミングのタム回しが炸裂する。

 

これは、ポンポコがバンドとしての頂点に到達した瞬間であり、長らく忘れ去られていたハードロックやプログレッシヴ・ロックの核心が示されている。ただ、そういったハードな側面で終わらないのが、このバンドの醍醐味である。クローズ「11- Fumble」では、冒頭のような、カーペンターズの系譜にある慈愛的なインディーロックへと回帰している。そして、ヨーデルやスキャットのような特殊な歌唱法を元に、孤高のインディーズ・ミュージックを構築している。「Champion」は、Jaga Jaggistの主要作品と同様に、北欧のインディーズロックがいまだに主要な市場を誇る国々の音楽にまったく引けをとらぬ高水準の内容であることを示唆している。





95/100

 


 

 

 Best Track- 「Big Life」

 

 

 

*Pom Poko 「Champion」はBella Unionから本日発売。ストリーミング等はこちらから。

 

 

 

Details: 

 

「1-Growing Story」A

「2- My Family」B

「3- Champion」SS

「4- You're Not Helping」B

「5− Pile of Wood」A

 「6- Bell」S

 「7-Go」A

 「8- Never Saw It Coming」A

 「9-Druid, Fox And Dragon」B

 「10- Big Life」S

 「11- Fumble」 A

 

©Young Ha Kim

Angie Mcmahon(アンジー・マクマホン)は、最新アルバム『Light, Dark, Light Again』と同時期に書かれた5曲を収録した『Light Sides EP』を発表した。リリースは9月13日に予定されている。


「Untangling」は、マクマホンのライブ・バンドとのツアーの合間に、パケナムにあるアレックス・オゴーマンのスタジオでレコーディングされた:ドラムはラクラン・オケイン、ギターはジェス・エルウッド、キーはステラ・ファーナン、ベースはアレックス・オゴーマンだ。「マクマホンは声明の中で、「この曲は、私の人生に深く関わっている人について書かれた」と説明する。

 

直近のシングル「Just Like North」に加え、新曲「Untangling」が収録されている。以下からチェックしてほしい。

 

 

 「Untangling」


 

 

 

Angie McMahon 「Light Sides EP」


Label: AWAL

Release: 2024年9月13日

 

Tracklist:

1. Beginner

2. Just Like North

3. Untangling

4. Interstate

5. Take Up Space