来月、Aran Sparhawk(アラン・スパーホーク)はミミ・パーカーの喪失感から生まれたソロ・アルバム『White Roses, My God』をリリースする。スパークはセカンド・シングル 「Get Still」を公開した。以前としてLowの代名詞であるスロウコアからの影響もあるが、それは亡き妻へのレクイエムのようなもので、全体的にはシンセサイザーをベースにしたインディーロック風のアプローチが敷かれている。
「Can U Hear 」と同様、深いサブベース、エレクトロニック・ドラム、オートチューニングされたアラン・スパーホークの声など、合成音で構成されている。メロディーの中に、ローの美しさの亡霊を聴くことも無理難題ではないだろう。スパーホークは、ロウの後期のレコードのエレクトロニックな探求を理屈抜きに押し進め、その過程で奇妙で力強いものを見出している。
「ルー・グラムと私が一緒に書いた曲の中には、日の目を見なかったものがたくさんある。「Turning Back The Time」はマルティ・フレデリクセンとの共作。マルティと私は最近、この曲を見直して作り直した。時間が経ったからこそ、新鮮な視点でこの曲に立ち返ることができた。ロックの殿堂入りを間近に控え、この曲を世界に聴いてもらうのに理想的なタイミングだと思った」
「Turning Back The Time」
夏のヨーロッパ・ツアーを控えた本日、ジェイド・ヘアピンズが新作アルバム『Get Me the Good Stuff』のタイトル曲を公開した。
Jade Hairpinsのニューアルバム『Get Me the Good Stuff』はMergeから9月13日に発売予定。
「Get Me the Good Stuff」
Arve Henriksen 「Kvääni」
Label: Arve Music
Release: 2024年8月16日
Review
今年、ECMから『Touch Of Time』を発表しているアルヴェ・ヘンリクセンであるが、立て続けに自主レーベルからフルレングスのリリースを控えていたとはかなり驚きだった。新作アルバム「Kvääni」は、Laraajiを彷彿とさせるニューエイジ/アンビエントの作品であり、エレクトロニックジャズやストーリーテリングのような試みも行われている。推察するに、ECMでは出来ない音楽を、このアルバムで試してみたかったのではないだろうか。ジャズとは、スタンダードな作風を継承するのみならず、既存にはない前衛的なチャレンジを行う余地が残されているジャンルである。そのことを裏付けるかのように、短い曲が中心であるものの、様々な試みが本作に見出だせる。それは音楽のこれまで知られていなかった意外な側面を表すものでもある。
「6-Voices From The Highlands」では山岳地帯をモチーフにしている。アラビア風の旋法が登場し、エキゾチズム性に拍車が掛かる。アルメニアの楽器、ドゥドゥクのような民族音楽の要素を強調している。従来の作品の中で、最もエキゾチックといえ、グルジエフのような秘教的な雰囲気が含まれている。そして、通奏低音をもとにして、色彩的なタペストリーを織り上げていく。
更に「10-A New Story Story Being Told」において、ヘンリクセンは、勇猛果敢にも、東アジアの民族音楽をベースにして、アヴァンギャルドミュージックの最前線に挑む。旋律性や調性を度外視したフリー・ジャズの形式を、民族音楽の観点から組み直している。どことなく調子はずれな響きは、何を脳裏に呼び覚ますだろうか。
アルバムの後半部は、実験音楽、現代音楽、トランペットの音響の革新性、スポークンワードのサンプリング等、多彩な音楽性が発揮されている。「11-Creating New Traditions」では、カール・シュトックハウゼンのトーンクラスターの作風を踏まえた実験的な電子音楽を聴くことができる。
ポピュラー・ソングにスポークンワードをサブリミナル効果のように挿入する最近の音楽的な手法は、新しい作風の台頭のように見る人もいるかもしれない。しかし、実際は新しくはなく、2007年にHeiner Goebbelsが「Landshaft mit entfernten Verwandten」において、現代音楽や舞台音楽として、いち早く実践していたのだった。おそらく、これまでニュージャズの最前線を追求してきたアルヴェ・ヘンリクセンにとって、スポークンワードを物語のように導入することは、古典に近いニュアンスがあると思われる。「15-My Father From Isolagti」は、老人の声が悲しげな雰囲気を帯び、空間的な印象を呼び覚ます。それらの後に、ヘンリクセンのトランペットが登場するが、それは物語性の延長か、はたまた音楽の印象を強化するような役割を担っている。
終盤においてヘンリクセンは実験音楽の最前線に挑んでいる。 「16-Truth and reconciliation」では、アコーディオンの先祖であるコンサーティーナの音響を踏まえ、シュトックハウゼンのトーンクラスターと融合させる。この曲を聞くかぎりでは、金管楽器奏者のヘンリクセンは、作曲家/編曲家としてのみならず、電子音楽家としても深い音楽的な知識と理解、何より、実践力を兼ね備えていることが痛感出来る。この曲はむしろ、アヴァンギャルド・ジャズというよりも、ライヒやグラスの先にある現代音楽の新しいスタイルが断片的に示されていると言えよう。
それらの前衛性は、トランペットの音響の潜在的な側面に向けられることもある。「17-On A Riverboat To Bilto」では金管楽器のルーツや楽器の出発に回帰する。イントロのドローン/ノイズに導かれるように、原始的な響きが始まる。細やかなブレスのニュアンスの変化からもたらされるヘンリクセンのトランペットの演奏には、音楽に対する深いリスペクトのような感覚が滲む。
このアルバム『The Good Kind』は、セクシュアリティ、人間関係、コミュニティ、病気といったテーマを探求している。アワー・ガールのトレードマークであるダイナミクスは、ヘヴィなギターや高鳴るリード・ラインから、耳に残るコーラスや親密なヴォーカルまで、アルバム全体に浸透している。温かさと誠実さに満ちた『The Good Kind』は、どんな反対にも負けず、大切なことをやり遂げるという決意の賛美である。ドラムのローレン・ウィルソンは、「曲の多くは、挫折を乗り越え、それをスーパーパワーに変えることについて歌っている」と言う。
Our Girlのニューアルバム「The Good Kind」は11月8日にBella Unionから発売される。
「The Good Kind」
「Rigor Mortis Radio」(昨年リリースされた『The Death of Randy Fitzsimmons』収録)の新しいビデオでは、スウェーデンのロックバンドが「Bob Fosse Meets NSYNC」と形容されるド派手な振り付けを披露している。
これらのオルタナティヴロックの真髄にあるソングライティングに加えて、ニューヨークやロサンゼルスの都市部のバンドとは少し異なるカントリー性が反映された曲も収録されている。「Love On The Outside」では、カントリーをもとにオルトロックソングを組み上げるという、R.E.Mが行ったソングライティング性を巧みに継承している。ペダル・スティールこそ使用されないが、彼らの持つ素朴な感覚が曲に乗り移り、80年代後半や90年代初頭のUSオルタナティヴロックの原点に立ち戻る。それらは、Pavementのような温和な空気感を呼び起こす場合もある。曲に満ち渡る友愛的な雰囲気は、聴いていると、微笑ましいような温かさが感じられる。
また、続く「Just Like Sunday」はブリット・ポップを踏襲しつつ、それらを彼らの得意とするカントリー/フォークの要素ーーアメリカーナーーという形に置き換えている。イントロのアコースティクギターは、オアシスの名曲を彷彿とさせるが、それらをインディアナポリス風の田舎性で縁取る。時折、曲そのものから草原を駆け抜ける微風のようなサウンドスケープが呼び覚まされる。これらの想像力を掻き立てるサウンドは、彼らの思い出と十代の記憶によるものなのだろうか。しかし、それらは最終的に売れ線のナンバーへ移行するのに興味が惹かれる。
今年4月にカナダ在住の日本人アーティストMomokaとアルバム『Kimiyo』を発表したAlex Henry Foster(アレックス・ヘンリー・フォスター)が、今年9月20日に新作『A Measure Of Shape And Sounds』をリリースする。
昨年の心臓手術から、1年間の療養期間を経て、思うように活動できなかった期間を取り戻すかのように精力的に創作活動を続けているAlex Henry Foster。今回の作品は、普段のポストロックやプログレッシブロックのサウンドではなく、また、コラボ作品であり、アメリカ&カナダのビルボードのカテゴリーで最高2位を記録した『Kimiyo』のようなシューゲイザー、平板なアヴァンギャルドとも異なる、インストゥルメンタルを中心としたアンビエントなアルバムだ。
新曲「Sorrowful Bouquet」は、シカゴ音響派の系譜にあるナンバーで、ギターサウンドの限界に挑戦している。繊細で叙情的なクリーントーンから始まるギターはやがて極大の宇宙的な音像を構築し、Explosions In The Sky、Mogwai、Tim Heckerのような抽象的で風景的なポスト・アンビエントのサウンドにたどり着く。ギターの演奏を通じて、ドローンの手法も取りいれられている。
これまで、バンドとしてMBVのようなサウンドに挑戦し、モントリオール・ジャズ・フェスティバルを始めとする大型のイベントにも出演経験のあるアレックス・ヘンリー・フォスターであるが、God Speed You Black Emperror!の系譜にあるギターロックサウンドに挑んでいる。
アレックス・フォスターはアルバム、及び、この新曲について次のように話している。
「アルバム『A Measure of Shape and Sounds』の本質が、人生の無常と、自分の存在意識を受け入れることに伴う、衰えの感覚についての深い内省にインスピレーションを受けたのと同じように、楽曲「Sorrowful Bouquet」は、静けさと平和を呼び起こす。時間の概念的な力や、物理的な限界や具体的な視点に対する幻想的なコントロールを失い、自分が何者であるかを解放的に反映するときに感じる感情的な自由、すなわち、自分自身の限界を通して作り出した音波の断片を受け入れる可能性を与えている」
Alex Henry Fosterは、カナダのミュージシャン、作家、プロデューサー、作曲家であり、以前はJuno賞にノミネートされたYour Favorite Enemiesのフロントマンを務めていた。Alex Henry Fosterは、2018年に初のソロアルバム『Windows in the Sky』をリリース。このアルバムは「ポストロックの夢のような爆発」(NME)で、「ハンモックやアッシュ&スペンサー、そして、モグワイやエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイの要素を強く思い起こさせる」と評価されている。
彼の2枚目のアルバムは、モントリオール国際ジャズフェスティバルのソールドアウト公演で録音されたソロ作品のライブ再解釈で構成。Ben Lemelinは、カナダのマルチインストゥルメンタリスト、ソングライター、音楽プロデューサー。彼とAlexは多くのプロジェクトでパートナーとして協力。Benは、AlexのバンドThe Long Shadowsのメンバーであり、Your Favorite Enemiesではベースを担当。
DJ/プロデューサー、Peggy Gou(ペギー・グー)が、今週末にロンドンのガナーズベリー・パークで開催される自身最大規模のヘッドライン・ライヴに先駆けて、ニューシングル「Find the Way」を発表した。今夏の初め、デビューアルバムをリリースした後、自身の主宰するインディペンデントレーベル”Gudu Records”に戻ってきた。
デビューアルバム『I Hear You』以来となるペギーの新曲「Find the Way」は、彼女のフェザー・ライトなヴォーカルと90年代のハウス・ビート、メロウなキー、催眠術のようなベースラインが融合している。
Sean Ono Lennen(ショーン・オノ・レノン)が、父ジョン・レノンの楽曲「マインド・ゲーム」のメディテーション・ミックスをリリースすると発表した。『Mind Games - The Meditation Mixes』は10月4日にCapitol/UMeからリリースされる。日本盤は10月11日に発売される。
「2- My Family」は、Deerhoofの影響も含まれているかもしれないが、少年ナイフ、Melt Bananaといったガールズパンクバンドの音楽性を受け継いでいるように感じられる。そして、その中に、グリーン・デイのような男性中心のバンドとは相異なるファンシーな音楽の印象をもたらそうとしている。表面的には、パンクロックの印象が目立つが、その中にジャングルポップ、パワー・ポップの甘酸っぱい魅力が凝縮されている。甘いメロディーと夢想的な感覚については、Fastbacksの系譜に位置づけられると言える。それらをマスロックやポストロックの変拍子を織り交ぜたテクニカルな曲構成によってバリエーションをもたらし、モダンな感覚を添える。
「4- You're Not Helping」に見出されるような、ちょっとシュールで斜に構えたような感じは、従来のガールズパンクバンドの直系にあるといえようが、もう一つのアート・ロックバンドとしての性質が垣間見える瞬間もある。そして、「音楽でしっかり連携が取れていたので、録音現場で会話をする必要がなかった」というエピソードは、この曲にはっきりと反映されている。
「8- Never Saw It Coming」では、70年代のX-Rey Specsのようなコアなポストパンクの影響を受け継ぎ、アート・ロックに近い音楽性へと昇華させている。また、バンドの趣味なのかもしれないが、曲の中には心なしか、アメリカンコミックやスチームパンクのようなサブカルの匂いが感じられる。それはセサミストリートのようなユニークな音楽性とパンクによって縁取られる。
「9- Druid, Fox And Dragon」は、初期のDeerhoofの系譜にあるアートパンクであるが、たとえ後追いのような内容であるとしても、バンド全体のファンシーでユーモラスなイメージや、高い演奏力において、じっくり聞かせるものがあるため、単なるフォロワー以上の意義を見出すことができるはずである。そしてやはり、楽器全体の音作りは、IDLESに匹敵するくらいのマニア性とこだわりがあるのだが、しかし、ライヴで矢面に立つフロントパーソンのボーカルは、一貫してビートルズのようなわかりやすさ、歌いやすさが重視されている。そのため、曲全体はまったく難解にもならなければ、複雑怪奇にもならない。そして、どれほど複雑な構成をセクションに交えようとも、美しい旋律性が損なわれることはない。これはバンドとしての全体的な役割がはっきりしており、さらに言えば、音楽で会話が出来ているからなのかもしれない。
アルバムの後半にも凄まじい曲が収録されている。音源からバンドの演奏の卓越性がストレートに伝わってくる事例として、例えば、Hiatus Kaiyoteの最新アルバムが挙げられるが、「10 - Big Life」はそれに匹敵するか、もしかすると、上回る瞬間もあるかも知れない。ロンドンのIDLESのような実験的なベースやギターの音作りを起点に、Led Zeppelinの「Achiless Last Stand」を彷彿とさせるトロットのようなリズム、鋭い風車のようなドラミングのタム回しが炸裂する。