©Andy Willsher

ヴォーカリスト/ギタリストのアラスデア・マクリーン、ベーシストのジェイムス・ホーンジー、ドラマーのマーク・キーンによるThe Clientele(ザ・クリアンテル)が新曲「Trains in the Night」を発表した。

 

「Trains in the Night」は典型的なClienteleで、緻密でありながらドリーミーであり、音楽の質感と歌詞のディテールに富み、牧歌的な情景が華やかなサイケデリック・ギターのパッセージに変わるまで続く。

 

この曲は、『I Am Not There Anymore』の代表曲「Claire's Not Real」の7インチに収録されている「Still Corridor」に続き、バンドにとって独特の生成期を探求している。ザ・クリアンテルのレコーディング・プロセスにコンピューターが加わったことで、多くの時間とスペースが生まれ、彼らの華麗なチェンバー・ポップがポストバップ・ジャズ、ボサノヴァ、現代クラシック、エレクトロニック・ミュージックとの融合を可能にした。

 

先月、ザ・クリエンテールはノースカロライナで開催されたマージ・レコード35周年記念フェスティバル「Merge 35」に出演した。「Trains In The Night」はフェスティバルのパスホルダーに配布されたが、今日まで他では入手できなかった。



「Trans in the Night」

 Fennesz 「Venice 20」

 



 
Label: Touch
Release: 2024年8月23日



オーストリアの実験音楽家や現代音楽の大家で、坂本龍一とのコラボレーション・アルバム「Cendre」でよく知られるクリスチャン・フェネスの2004年の名作「Venice」の20周年記念リマスター盤『Venice 20』は、以前よりも音がクリアになり、当時、クリスティアン・フェネスが何をやろうとしていたのかが手に取るように分かるようになった。2000年代には、フェネスの音楽は、とっつきづらく難解なイメージに縁取られていたが、このアルバムでフェネスが試そうとしたことは、私達が考えていた以上にポピュラーな音楽だったのかもしれない。

 

このアルバムの発売後、以降、Pitchforkの編集長を最も長く務め、ウォール・ストリートジャーナル等の執筆も手掛けたマーク・リチャードソン氏がフェネスのインタビューを行った。しかし、この時のインタビューは、非常にためになるものがあった一方、かなりユニークな内容が含まれていた。特に、ビーチ・ボーイズを比較対象にしたことに関し、フェネス氏は少しだけ困惑するような気配があったのである。ただおそらく、チルウェイブの萌芽や楽園的な音楽が含まれていることを指摘したかったのではないかと思われる。また、同インタビューでフェネスは、「なぜノイズを作るのか」というマーク・リチャードソン氏の問いに対して「私は美しいものを作るためにノイズを制作する」と述べていたが、この言葉の趣旨や真意は、今回の二度目のリマスターでより明らかとなるはずである。というのも、2000年頃のオリジナル盤の音源は荒削りで、かなり精度の高いスピーカーでもなければ、全体的な音像を把握することは難しかっただろうからである。もちろん、当時はアンビエントというジャンルはそれほど主流ではなかっただろうし、ドローンというジャンルもなかったので、こういった音楽をどのように説明するのか分からなかったのは当然のことだと言える。

 

実験音楽としては名盤の呼び声の高い作品なので、今更くだくだしく述べるまでもないが、おそらく、この時代にこのアルバムに何らかの形で興味を抱いたということ自体が先見の銘があった。というのも、主要なマガジンの評価は平均的で、Mojoは3/5という評価を下すにとどまっていた。しかし、以降の現代音楽界での活躍や、実験音楽界で象徴的なミュージシャンとなったことを考えると、このアルバムの評論に関しては、Pitchforkだけが正当な評価を下していたことになる。そして、今回の二度目のリマスタリングで音質面での不安要素が取り払われて、音楽の全容が明瞭となり、精妙でクリアな印象に縁取られている。現在まで不透明であった音質が、最新のリマスターで澄明に変化した。つまり、このアルバムは2度生まれ変わることになったのだ。

 
今考えると、「Venice」の音楽はあまりに予見的で、時代の先を行き過ぎていたかもしれない。2000年代はじめといえば、ドイツを中心にグリッチミュージックが出てきた頃である。しかし、まだそれは大雑把に言えば、テクノ/ハウスという枠組みの中で実験音楽が動いているに過ぎなかった。反面、フェネスの音楽は、単なるギターロック、テクノ/ハウスやノイズというのには惜しく、例えば、2010年代のカナダのTim Heckerのようなダウンテンポ、ノイズ・アンビエントに近い、非常に画期的な音楽性も含まれていた。現代の「アブストラクト」と呼ばれる音楽であり、これはヒップホップにも登場するが、フューチャー・ベースのようなジャンルの源流に位置する。
 
 
また、このアルバムのいくつかの収録曲は、メインの出力がモジュラーシンセかエレクトリックギターであるかを問わず、2020年代の実験音楽の先鋒であるドローン音楽を予見している。フェネスは、リヒャルト・ストラウスの「2001年 宇宙への旅」のように、音楽の時間旅行を試み、この2004年の時点から、十年後、あるいは、二十年後に流行する音楽を「偶発的に見てしまった」と言えるかも知れない。そして、むしろ、このアルバムは、2024年の音楽として聴くと、ぴったり嵌るというか、今こそ聞かれるべき作品なのではないかとすら思えてくる。

 
アルバムには、ニューロマンティックの象徴的なグループ、JAPANからソロ活動に転じた後に前衛音楽の大御所となったデイヴィッド・シルヴィアンがボーカルを提供した「Transit」等、後から考えると、微笑ましくなるような曲もある。さらに、このアルバムには、ドローンミュージックとして聴いても、2020年代の音楽に比肩する楽曲もある。「City Of Light」、「Onsay」などはその好例であり、現代のドローンミュージックの一派が一つの体系を築く上でのヒントとなったはずだ。また、「Circassian」はポスト・ロック/ギターロックの音響派に近い作風である。


また、当時、ドイツを中心に発生したコンピューターのエラー信号からビートを抽出するグリッチ・サウンドの影響も含まれているのは、当時、クリスチャン・フェネスがヨーロッパのアンダーグラウンドのダンスミュージックや電子音楽の流行の流れを的確に読んでいたことを暗示する。「The Stone of Impermanence」や11曲目以降の収録曲は、アーティストにしては珍しく衝動的というか、若気の至りで制作したという印象も受ける。しかし、ある意味では、理想的な実験音楽は、完璧性から導き出されることはほとんどなく、それとは対象的に、不完全性から傑出した作品が生み出されることを考えると、こういった曲があるのも頷けるような部分はある。前衛音楽は、短所を活かし、最終的にはそれらをすべて長所に反転させることを意味している。

 
本作のオープニング「Rivers of Sound」、「The Point of All」、「Asusu」等、不朽の電子音楽の名曲も収録されている。このアルバムには、以降の20年の電子音楽の未来が集約されていると言っても大げさではないだろう。少なくとも、アルバムのこれまでとは一味違う魅力を堪能出来るはずである。しかし、ギターロックにしても、テクノにしても、現代には同じような音楽がたくさん存在するが、このアルバムは実のところ、それらと明らかに一線を画している。同時に、きわめて機械的なのに、深い抒情性がある。もしかすると、当時のクリスチャン・フェネスさんは、現代人がすっかり忘れた感覚を持っていたのだろうか。
 
 
 
 
 
90/100
 
 
 
 
 
 






最新のリマスターに関して


デニス・ブラッカム:

「2024年まで早送りして、2003年に使ったのと同じオリジナル・マスター・ミックスを使って、このアルバムの新しい拡張版、『Venice 20』を作ることにした。あれから20年あまりが経ち、オーディオ制作、レコーディング、マスタリングの技術は大幅に進歩した」



ジョン・ウォゼンクロフト:

「...作品全体には、本質的に時代を超越した静けさと風格がある。これはもちろん、デヴィッド・シルヴィアンとの『Transit』でのコラボレーションに象徴される。私は、ジャケット・アートが絵画のようなレベルで、音楽のように永続することを願っていた。私が絵を描けるとは決して言わないし、写真が絵画のように長く持ちこたえられるとも思っていないからだ。クリスチャンとの仕事はいつも私を感動させる」



クリスチャン・フェネス:
 

「アコースティック・ギターやエレクトリック・ギターの短いレコーディング、新しく導入したソフト・シンセやサンプラーを使った実験、フィールド・レコーディングなどだ。この街の音と音響は私を魅了した」
 
 
「私の部屋からは、夜、窓を開けると会話がはっきりと聞こえたが、それが隣の家から聞こえてきたのか、数ブロック先から聞こえてきたのかは定かではなく、まるでヴェニスの音波が独自のルールに従っているかのようだった。威厳のある衰退、腐敗、死、そして再生を暗示するような表現として、アルバム・タイトルとしてのヴェニスのアイデアが浮かんだのはこの頃だった。「Transit」のデヴィッド・シルヴィアンの歌詞とヴォーカル・パフォーマンスは、私にとってこのアイデアを完璧に表現していた。この作品は、現在進行中の素晴らしいコラボレーションのハイライトであり続けている」 
 
 
 
 
Venice:
 
 
2004年にリリースされ、ベストセラーとなったフェネスの「Venice」の20周年記念再発盤が、デニス・ブラッカムによるリマスタリングで、CDやレコードには未収録の新曲や追加曲を含むデラックス・バージョンとして登場。DVDフォーマットのエディションには、フェネス自身、デニス・ブラッカム、ジョン・ウォゼンクロフトによるテキストと、2004年のオリジナル・セッションの未公開写真が掲載されたブックレットが付属する。ブックレットにはデヴィッド・シルヴィアンの「Transit」のオリジナル手書きの歌詞も掲載。この「デヴィッド・シルヴィアンとの見事なコラボは、シルヴィアンのアルバム『Blemish』での素晴らしいデュオ・トラックから続いている。控えめなリスニング体験の真ん中に位置する「Transit」は、文字通りスピーカーから飛び出し、アルバムのポップな特徴だけでなく、抑制された瞬間も際立たせている。


いよいよ世界的なアヴァンギャルドロックの真打ちが再登場する。カナダの伝説的なポストロックバンド、Godspeed You! Black Emperorが新作アルバム「NO​ ​TITLE AS OF 13 FEBRUARY 2024 28​,​340 DEAD」を発表した。このアルバムはカナダ/ケベック州の名門インディーズレーベル、Constellationから発売される。2021年のアルバム以来となる3年ぶりの待望の新作の瞬間を見届けよう。

 

アルバムは、2024年にthee mighty hotelatango winter of bombsでレコーディングされた。ミックスはJace Lasek.が手掛け、最終のマスターは、Harris NewmanがGrey Marketで手掛けた。

 

本作のレコーディングには、Thierry Amar (electric bass + contrebasss)、David Bryant (electric guitar + tape loops)、Aidan Girt (drums)、Timothy Herzog – drums + glockenspiel、Efrim Manuel Menuck(electric guitar + tape loops)、Michael Moya (electric guitar)、Mauro Pezzente (electric bass)、Sophie Trudeau (violin)が参加している。



アルバムから最初のリードシングル「Grey Rubble-Green Shots」が公開されている。聖書的な主題と現代の政治情勢を重ね合わてきたバンドの目はやはりというべきか、イスラエルとガザの戦争、ヒズボラの対イスラエル戦線に向けられているようだ。イランや中東全体に戦火が及べば、NATOが加勢しヨーロッパに動乱が拡大する虞もある。もちろん動乱の火種は中国やロシア、台湾近辺にも燻っている。ある意味ではその最後の鍵を握るのが、アメリカの動向であり、次の大統領選、そして国民なのである。他国は所詮それに追随し、賛同する従属的な役割しか持たない。
 

リードシングル「Grey Rubble-Green Shots」のイントロでは黙示録のラッパのような響き、不穏でありながら啓示的なギターのトレモロが響き渡り、音響派のサウンドへと暫時的に移行していく。サウンドはアメリカのMONOに近い感じではあるが、ストリングのトレモロ、そして、終末的な雰囲気など、やはりモントリオールのロックバンドらしさがアンサンブル全体に揺曳する。

 

 


GY! BEの声明は下記の通り。


明白な真実==。

私たちはその中を漂い、議論を重ねた。

毎日が新たな戦争犯罪で、毎日が花の開花だった。

私たちは一緒に座って、一つの部屋でそれを書いた、

そして、別の部屋に座って録音した。

タイトルなし=小さな体が倒れながら、どのようなジェスチャーが意味をなすのか、どのような背景があるのか、どのような壊れたメロディがあるのか。

そして、線上の一点を示すための集計と日付、負のプロセス、増え続ける山。

灰のベッドに沈む太陽

私たちが一緒に座って議論している間

旧世界秩序はかろうじて気にかけるふりをした。

新世紀はさらに残酷になるだろう。

戦争が始まる。

諦めないで。

どちらかを選んで。

頑張って。

愛とともに。


-GY!BEより



「Grey Rubble-Green Shots」



Godspeed You! Black Emperorは、1994年、カナダ/ケベック州モントリオールで結成。当初、メンバーは弦楽器を含む9人編成で活動していた。現代のポスト・ロックの先駆的な存在である。1997年、デビュー・アルバム『F#A#oo』発表した(当初は限定500枚のリリース)。1999年にはNMEのカバーストーリーを飾り、国際的なロックバンドとして知られるようになる。その後、BBCのJohn Peel Sessionにも登場し、伝説的な名演を行っている。2003年にメンバー間の音楽性の違いにより解散してしまうが、2010年に再結成し、精力的に世界ツアーを行なっている。

 

徹底した非商業主義派で、CDジャケットにはタイトルもグループ名も表記せず、メンバーについての情報も基本的には非公開である。グループ名はかつて日本国内の実在した暴走族グループ「ブラック・エンペラー」のドキュメンタリー映画「ゴッド・スピード・ユー! ブラック・エンペラー」に由来している。

 

 

Godspeed You!  Black Emperor  「"NO​ ​TITLE AS OF 13 FEBRUARY 2024 28​,​340 DEAD"」


Label: Constellation

Release: 2024年10日4日


Tracklist:

1.SUN IS A HOLE SUN IS VAPORS

2.BABYS IN A THUNDERCLOUD

3.RAINDROPS CAST IN LEAD

4.BROKEN SPIRES AT DEAD KAPITAL

5.PALE SPECTATOR TAKES PHOTOGRAPHS

6.GREY RUBBLE - GREEN SHOOTS 06:53


godspeed you black emperor is/was/is =


Thierry Amar – electric bass + contrebasse

David Bryant – electric guitar + tape loops

Aidan Girt – drums

Timothy Herzog – drums + glockenspiel

Efrim Manuel Menuck – electric guitar + tape loops

Michael Moya – electric guitar

Mauro Pezzente – electric bass

Sophie Trudeau – violin

Karl Lemieux + Philippe Léonard – 16mm film projections


all of it recorded at thee mighty hotelatango winter of bombs 2024.

engineered + mixed by Jace Lasek.

mastered by Harris Newman at Grey Market.


世間の喧騒から離れ、静けさと本当の言葉に耳を傾ける。フランスの音響作家、Felicia Atkinsonは、ピアノ、ギター、パルス音を用いたダンスミュージックまで多角的な音楽を制作し、上述したことを実践してきた。


本日、フェリシア・アトキンソンは、ニューシングル「The Healing」を彼女自身の自主レーベル、Shelter Pressからリリースした。


ポストクラシカル調のピアノ、フィールドレコーディング、そしてスポークワードを交えた知的な音楽を楽しむことが出来る。
 
 
以前、アトキンソンは、The Quietusの「目をつむり、見て」と題された過去のインタビューにおいて、アンリ・ルソー、高田みどりからの影響、日本の切り花や生花からの影響を参照している。それはアトキンソンの音楽制作の道しるべとなり、ある空間の中でどのように音楽が聞こえるべきなのか、音の各々のマテリアルがどこに配置されるべきか、という考えに反映されている。


これらはすべて、印象派/抽象派としての美しい音楽をアトキンソンが作曲するための足掛かりとなるイデアでもあろう。そしてまた、「そこにあるべきものが自然な形で存在する」、あるいは、「過度な脚色や華美さを平すように削ぎ落としていく」という日本の伝統的な建築形式や芸術様式の美学の反映を意味する。これはまた、侘び寂びと呼ばれる日本の美学の原点でもある。


ニューシングル「The Healing」のピアノの瞑想的な響きはほのかなペーソスが伴うが、それはミュージシャンの美学と結びつけられると、ふしぎと凛とした響きに変わり、聞き手に癒しと安らぎのひとときをもたらす。過剰な表現からの逃避。それはまた眩い光の裏側にある影の心地よさでもある。



「The Healing」


米・ビルボードが報じたところによると、10年以上の休刊を経て、SPINが季刊誌として復刊することが8月27日(火)に発表された。復活した雑誌は、SPINの創刊者で編集長のボブ・グッチョーネ・ジュニアが再び運営し、編集スタッフ全員が監修予定。


スピン (Spin) は、アメリカ国内では『ローリング・ストーン』誌と並ぶ大手音楽雑誌である。1985年にボブ・グッチョーネ・ジュニアによって創刊された。


創刊当初は、カレッジ・ロック、グランジ、インディー・ロックや、当時台頭し始めたヒップホップに重点を置き、カントリー・ミュージックやヘヴィメタルなどの他のジャンルを取り上げず、オルタネイトなマガジンとして国内で人気を博した。これは、既存の音楽雑誌『ローリング・ストーン』とは違う方向性の音楽雑誌として、全米の音楽ファンに受け入れられたことを意味する。


1987年末の時点で、発行から2年で発行部数は15万部に達した。また、10点満点で1点ごとに配点される評点制度をいち早く導入した雑誌でもある。2012年に印刷版の発行を中止し、Webマガジンに移行している。2020年よりネクスト・マネージメント(NEXT Management)により運営されている。


「これは単なる原点回帰ではなく、未来への大胆な飛躍です。多くの読者の共感を得たSPINの生々しく、フィルターを通さない精神を取り戻し、進化する音楽とカルチャーの状況を反映した現代的なひねりを加えています。『The Onion』や『Nylon』、さらには『LIFE』のような他の雑誌が活字媒体に戻るのを見るのはエキサイティングなことだ。今日の騒がしいデジタルのエコシステムにおいて、印刷物はあらゆる年齢の読者にとって楽しく新しい役割を果たしている」


SPINの記念すべき復刊号は、スキ・ウォーターハウスのインタビュー、ジェーンズ・アディクションのベーシスト、エリック・エイブリーの記事で、「バンドの栄枯盛衰と再起」、依存症との闘いを語っている。


SPINは、購読者向けの宅配に加え、バーンズ&ノーブル、Books-A-Million、Indigo/Chapters(カナダ)、ハドソンニュース、ニューヨークの独立系店舗、全米の独立系レコード店などの店舗でも販売される。


グッチョーネは1985年にSPINを創刊し、1997年にミラー・パブリッシングに4350万ドル(現在の62億円に相当)で売却するまで、同誌を傑出した音楽出版物として確立した。2012年末、SPINはBuzzmedia(後にSpinMediaとなる)に買収され、印刷雑誌の発行を停止した。


2016年、SpinMediaの音楽ブランド(SPIN、VIBE、Stereogum)はHollywood Reporter-Billboard Media Groupに買収され、同グループは2020年にSPINとStereogumをプライベート・エクイティ企業のネクスト・マネジメント・パートナーズに売却した。グッチョーネはその後まもなく、クリエイティブ・アドバイザーとしてSPINに復帰した。


最近ではイギリスの老舗雑誌NMEも視覚的なおしゃれさに重点を置いたファッショナブルな紙媒体のマガジンを復刊している。

©︎Simon Emmett


オアシスが2025年夏に再結成コンサートを開催することを発表した。これらの公演は、オアシスが2009年にイギリスで開催されたVフェスティバルのヘッドライナーを務めて以来の公演となる。


最初の再結成公演は、2025年7月と8月にイギリスとアイルランドで予定されている。特に、カーディフのプリンシパリティ・スタジアム(ラグビーのウェールズ代表のスタジアム)、マンチェスターのヒートン・パーク(同地にある風光明媚な公共公園)、ロンドンのウェンブリー・スタジアム(サッカーのイングランド代表の公式スタジアム)、エディンバラのスコティッシュ・ガス・マーレイフィールド・スタジアム、ダブリンのクローク・パークで複数回の公演が予定されている。


プレスリリースによると、来年後半にオアシスがヨーロッパ以外の大陸でコンサートを行う追加計画が進行中だという。


オアシスが新たに発表した再結成公演のチケットは、8月31日(土)より発売される。イギリスでは現地時間午前9時からチケットマスターで、ダブリンでは現地時間午前8時からチケットマスターで発売される。


8月27日午前8時の最初の発表で、バンドは壮大な一連のツアー日程を発表する前に、「これがそうだ...これが起こるんだ」と書いた。


銃声は静まり返った。

星は一直線に並んだ。

大いなる待望は終わった。

ぜひ見に来てほしい。

テレビ中継はありません。



Oasis 2025 Tour Dates:

07/04 – Cardiff, UK @ Principality Stadium

07/05 – Cardiff, UK @ Principality Stadium

07/11 – Manchester, UK @ Heaton Park

07/12 – Manchester, UK @ Heaton Park

07/19 – Manchester, UK @ Heaton Park

07/20 – Manchester, UK @ Heaton Park

07/25 – London, UK @ Wembley Stadium

07/26 – London, UK @ Wembley Stadium

08/02 – London, UK @ Wembley Stadium

08/03 – London, UK @ Wembley Stadium

08/08 – Edinburgh, UK @ Scottish Gas Murrayfield Stadium

08/09 – Edinburgh, UK @ Scottish Gas Murrayfield Stadium

08/16 – Dublin, IE @ Croke Park

08/17 – Dublin, IE @ Croke Park



オアシスの再結成は何年も前から期待されていたが、つい先週まではその可能性は低いと思われていた。ノエルとリアムのギャラガー兄弟によってマンチェスターで結成されたオアシスは、ブリットポップ時代を代表するバンドのひとつとなった。1994年から2008年にかけて、彼らは絶賛された『Definitely Maybe』や『(What's the Story)モーニング・グローリー』を含む7枚のスタジオ・アルバムをリリースした。リズム・セクションは頻繁に入れ替わったものの、オアシスの中核はノエルが主要ソングライター、リアムがリード・ヴォーカリストのギャラガーズであり続けた。しかし、兄弟間の激しい対立は、公私ともに確執を生み、しばしば彼らの音楽的功績に影を落とした。


2009年、ノエルとリアムは仕事上の関係で越えがたい行き詰まりに達し、オアシスは決定的に解散した。2009年、ノエルはオアシスのウェブサイトにこう綴った。「人々は好きなことを書いたり言ったりするだろうけど、僕はリアムとこれ以上一緒に仕事を続けることができなかったんだ」 リアムはオアシスの残りのメンバーとビーディ・アイを結成し、ノエルはソロ・プロジェクト、ノエル・ギャラガー・アンド・ザ・ハイ・フライング・バーズをスタートさせた。



リアムは2014年にビーディ・アイを解散し、その後3枚のソロ・アルバムをリリースしている。最近では、リアムは同じマンチェスター出身のミュージシャンであるザ・ストーン・ローゼズのジョン・スクワイアと手を組み、シンプルに「リアム・ギャラガー・ジョン・スクワイア」と題されたコラボレーション・アルバムを発表した。ノエルは昨年の『Council Skies』を含め、ハイ・フライング・バーズ名義で4枚のアルバムをリリースしている。


2009年の解散後、オアシスはシングルコンピレーション『Time Flies』、ドキュメンタリー映画『Oasis』、そして最近では、ブリットポップ絶頂期のネブワースでの歴史的なパフォーマンスを追ったコンサート&ドキュメンタリー映画『Oasis Knebworth 1996』を発表した。また、2020年には2000年代半ばのデモ音源「Don't Stop...」が発掘され、バンドにとって11年ぶりの公式リリースとなった。


それでも、兄弟はマスコミやそれぞれのツイッター・アカウントの両方で常にお互いをいじめており、リアムとノエルが和解する可能性は年を追うごとに低くなっているように思えた。ノエルは最近、再結成を提案したデイヴ・グロールに「オアシスのことで首でも巻いてろ」と言い、ザ・1975のマティ・ヒーリーが「大人になって」「グラストンベリーのヘッドライナーを務めるべきだ」と言った後、ノエルは彼を "だらしないクソ野郎 "と呼んだ。



しかし、ノエルとリアムがお互いに抱いていた氷のような憎しみは、どうやら解けつつあるようだ。今年の夏はオアシスのデビュー作『Definitely Maybe』の30周年記念の年であり、リアムはこのアルバムをフルで演奏するUKおよびEUツアーに乗り出した。リアムはノエルの席を毎回確保していたようで、ツイッターにこう書いている。「希望は力強いものだと思うよ」


先週、バンドは『Definitely Maybe』を記念した特別ビデオを公開し、ノエルは衝撃的なことに兄を大絶賛した。「彼が歌うと、いい曲に聴こえるのは事実だ」 「僕は "Cigarettes & Alcohol "や "Rock'n'Roll Star "などは歌えない。彼のようなアティチュードがないんだ。僕の歌声は火曜日にギネスを半分飲むようなもの。リアムは金曜日にテキーラを10ショットだ」


今週末のレディング&リーズ・フェスティバルでのリアム・ギャラガーのヘッドライナー公演を前に、『サンデー・タイムズ』紙はオアシスの再結成が間近に迫っていると報じ、興奮を呼び起こした。リアムはツイッターでこの憶測を確信したかのように、記事についてのコメントに生意気な返信をした。「前線で会おうぜ、ビッグ・ファニー」


その後、バンドは告知タイマーを投稿し、再結成の憶測をさらに煽った。そして今、オアシスは16年ぶりのライヴが本当に行われることを確認した。間違いなく、たぶん。ただ、兄弟が再結成までの10ヶ月間、一緒にいることができればの話だが...。



ウィリアム・バシンスキーの新アルカディア・アーカイヴ・シリーズ第1弾が9月23日に発売される。このアーカイヴシリーズからショートバージョンが公開された。この作品では彼の2003年の初期の傑作「Melanchomia」の音楽性の萌芽を見出すことができる。下記よりご視聴ください。


1982年9月、ニューヨーク・ブルックリンの高級住宅地として知られるダンボ地区にある彼の最初のロフトで録音された『September 23rd』は、大きなインスピレーションと影響力を持つようになったカタログの初期の作品であり、最近発掘されたものである。


バシンスキーが1970年代半ばの高校時代に作曲したピアノ曲をもとに作られた『セプテンバー23rd』は、すぐに大きく異なる作品へと進化した。バシンスキーはこう説明する。


「オリジナルのピアノ・レコーディングは、私の階下の隣人、ジョン・エパーソン(後に世界的に有名なドラッグ・アーティスト、リプシンカとして知られる)のピアノで行われた。高校時代から取り組んでいた曲を即興で演奏しながら、ピアノの上に置いた小さなポータブル(おそらくラジオシャック製)カセットデッキで録音した。かなりひどいものだったけど、ジョン・ジョルノ/ウィリアム・バロウズのカットアップ奏法をやったとき、突然、フリッパートロニクスのループとフィードバック・ループのテープ・ディレイ・システムにかけるものができたんだ。ニューヨークの若くてイカれたクイーンにとって、とても多作な時期だった」


ウィリアム・バシンスキーの音楽キャリアは50年近くに及び、偉大なメランコリーの共感的な作品を取り上げ、深淵な悲劇的世界を作り上げるという不思議な才能を発揮してきた。9月23日の発見は、バシンスキーの出自と拡大する歴史的遺産に魅惑的な輝きを与えている。






ウィリアム・バシンスキーはテキサスの大学でジャズ(サックス)を専攻したのち、ニューヨークに移住し、未曾有の実験音楽をフィールドを切り開き、同地の前衛音楽シーンの象徴的なアーティストとなった。


遅咲きのミュージシャンで、彼の作品が最初に公にリリースされたのは40代以降であった。このエピソードはバシンスキーがブライアン・イーノよりも弟のロジャーに近い大器晩成のタイプであることを示唆する。そして彼の音楽は何かに似ているようでいて、実際はどの音楽にも似ていない。


ウィリアム・バシンスキーの代表作には、水の中をイメージしたデビュー作「Water Music」(2001)、アメリカの同時多発テロを題材にした「The Disintegration Loops」(2003)、ループと逆再生を駆使し、都市的な音響をアンビエントとして解釈した「92982」など枚挙にいとまがない。ミュージシャンとしては、カセットテープを使ったアナログの制作方法を図ることで知られている。



また、バシンスキーはヒップホップの伝説デラソウルと並んで、サンプリングの名手であり、彼の作品にはラジオの交響楽団のオーケストレーションを再編集したものまで存在する。最近ではノイズミュージックや近未来的な質感を持つ実験音楽も制作している。




William Basinski 「September 23rd」


Label: Temporary Residence
Release: 2024年9月23日


Tracklist:

1. September 23rd

Enumclawが新曲 「Grocery Store」を発表  今週末にニューアルバム「Home In Another Life」が発売


Enumclaw(イナムクロー)が新曲 「Grocery Store」を発表。この曲は、Run For Cover Recordsから8月30日にリリースされるアルバム『Home in Another Life』のラストプレビュー。リリックビデオが公開されているので下記よりご覧ください。


パンクやハードロック、オルタナティヴロック風の先行シングル「Not Just Yet」に続いて、このニューシングルはダイナソーJR.の90年代のディストーションギターを前面に押し出したロックに回帰している。ポーカルとギターは、イーナムクロウにしては珍しく甘くロマンティックなムードを掻き立てる。リリックについては、サリーについての馬鹿らしさについて歌われている。



「Grocery Store」

 Fontaines D.C.  『Romance』


Label: XL Recordings

Release: 2024年8月24日


Review


結局、現代のロック・バンドと連動するように、ポスト・パンクバンドとしてダブリンから出発したフォンテインズ・ダブリン・シティは、PartisanからXLに移籍後第一作において、彼らのフレンドであるThe Murder Capitalの最新作に触発されたか、シンセサイザーやメロトロンを駆使したダイナミックなサウンドに移行している。それに加えて、現在はロンドンに活動拠点を移してはいるものの、ダブリンのバンドの伝統性である叙情性や哀愁を追い求めることになった。そして全体的なプロダクションとしてはアークティック・モンキーズのように、起伏のあるサウンドを意識しているように感じられる。これは、彼らがライブ・バンドとしてのみならず、ビートルズのようにレコーディング・バンドとして歩みはじめたことをカタログとして刻印する。

 

一つの作品ごとに着実にステップアップを図ってきたフォンテインズD.C.。このアルバムは端的に言うと、現時点のバンドの最高傑作に挙げられる。彼らはごつごつとした無骨なポストパンクバンドとして台頭したが、今や力や勢いのみで、フルアルバムを制作することは本格派のロック・バンドとして活躍する上では、遠回りになることを肌身で感じ取ったのだろう。映画のオープニングのような形で始まり、メロトロンのクラシカルな響きのイントロからアークティック・モンキーズの最初期を彷彿とさせるロックバンガーへと変化する「Starbuster」はフォンテインズD.C.のライブでは今後不可欠なアンセムナンバーである。この曲では、オアシスやカサビアンといったダイナミックな展開力を持つUKロック伝統性を継承し、そこに「ゾンビ・ボイス」のコーラスを追加している。都会の若者の暮らしを親しみやすいロックソングとして的確に表現し、酔い潰れた後の酩酊や脱力感が曲の中盤まで支配するが、そこから開放的で清涼感のあるUKロックへと移行する瞬間は本作のハイライトとなりえる。


続く「Here's The Thing」では、彼らのメロディアスなロック・バンドとしての意外な才覚が伺える。現時点で、都会の夜の幻想的な雰囲気や、そこから亡霊がでてきそうな空気感を作り出す。そして最初期から培われたポスト・パンクバンドとしてのパンチ力を付け加えている。叙情性とメロディアス性、そして、ポスト・パンクを巡るように、UKロックの一つの重要なテーマである孤独感や都市に棲まう亡霊に対して語りかけるような音楽、これらが組み合わされ、新しいフォンテインズD.Cの新しい代名詞が生み出されたといえるはずである。

 

中盤の三曲は、これまでのバンドの音楽性とはカラーが明らかに異なる。シンセ・ポップやAOR、フォーク等、前作よりもバンドの音楽が多彩性を増したことを象徴付けている。瞑想的な響きからラウドなロックソングへと移行する「Desire」は、バンドの新しいスタイルが誕生したことを伺わせる。「In The Modern World」はフォークミュージックを基にして、瞑想性のある音楽を作り上げる。「Bug」はオアシスの代名詞を基に、それらをアイルランドの音楽で縁取ろうとしている。この三曲は、まだオアシスほどの良質なメロディー性には乏しいが、バンドの新しいチャレンジを感じる。全体的に洗練されていないという難点もあるけれども、より磨きを掛けると良い曲がでてきそうだ。

 

続く2曲はダンスミュージックとオルタナティヴロックの融合を見出すことができる。ボーカルループを用いた「Motorcycle Boy」は、アコースティックギターに続いて、グリアン・チャッテンの哀愁のあるボーカルが良い雰囲気だ。昨年、ソロ・アルバムをリリースしたことは無駄ではなく、ソングライターとしての成長という素晴らしい側面をもたらしたのではないだろうか。オーケストラヒットのようなパーカッシヴなポイントを設け、この曲は、よりダイナミックなロック・バンドとして歩きはじめたフォンテインズD.C.のたくましい背中を捉えることができる。「Sundowner」は「Starbuster」と並んで、このアルバムの重要なポイントとなりえる。90年代のUnderworldのような音楽をベースにして、メロトロンの逆再生等、ビートルズの影響を感じさせながら、ブリット・ポップの抽象的な音楽性に磨きを掛け洗練させる。この曲では、二曲目の「Starbuster」と同じように、ライブステージで映える一曲を書こうというバンドの強い意識を感じる。実際的にライブステージでは幻想的なロックとして、オーディエンスの心を掴みそうだ。

 

アルバムの節々には「オアシスやアークティック・モンキーズの次世代のバンドとして何をすべきか」というバンドのソングライティングの意図を見出だせる。それは完全な形になったとまでは言えぬものの、まだまだこのバンドが成長曲線を描いている段階にあり、次の作品あたりで何か凄いものを作りそうな予感もある。良質な曲を書こうというバンドの強い意識の表れなのか、聴き応えのある曲が最後まで用意されている。「Horsess In The Whatness」では、より内省的な感覚を表すことを躊躇しなくなったことを示唆し、グリアン・チャッテンがボーカリストとしてまだまだ成長過程にあるのを感じさせる。ストリングスやシンセサイザーというバンドの新しい要素と合わせて、ポスト・オアシスとしてのバンドの意義を示そうと試みる。続く「Death Kick」ではパンチのあるオルタナティヴロックソングで、メリハリをもたらす。

 

驚いたのは、すでに今年のグラストンベリー・フェスティバルのステージで披露された「Favourite」だろう。イギリス英語のスペルを選んだのも一興であるが、 ここでは彼らのルーツへの回帰が示されている。このロックソングは、スコットランドのギターポップ、ネオアコースティックを下地にして、曲の最後においてアイルランドの伝統性(Thin Lizzy)である美麗なツイン・ギターへと移り変わり、本作の中で最も甘い雰囲気が漂う。曲の最後では彼らの音楽の背後からスピリットが僅かに立ち上ってくる。ミュージック・ビデオにも示されている通り、それは「過去へのロマンス」という形を取り、私達をまだ見ぬ美しい音楽の旅へといざなう。フォンテインズD.C.は、見事にこれらの夢想的な雰囲気を最後の最後で生み出す。最も素晴らしい一曲がアルバムの最後で出てくることは、ファンにとって本当に喜ばしいことだ。

 

 

 

85/100

 

 

 

Best Track- 「Favourite」






優れた6人組、ザ・ソリューション・イズ・レストレスを経て、ジョーン・ワッサーがソロ・アルバム『Lemons, Limes & Orchids』をいつもの別名義、ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン名義でリリースする。エレガントでリラックスしたサウンド・ミックスはジャンルの境界線上にあり、彼女の紛れもないヴォーカルがアレンジを時代を超えたソウル・R'N'Bの魅力で包み込んでいる。彼女の生涯のリファレンスがニーナ・シモンであることは偶然ではなく、彼女の献身的な姿勢と相まって、ジャズからエッセンスとエレガンスを受け継いだ作品の座標を与えている。


最初のシングル『Long For Ruin』は、セピア色のダウンテンポで、マーク・リボのようなギターがサイケデリックな重厚さと対をなしている。この曲は、アルバム全体と同様、愛と喪失について歌っているが、同時に西洋の崩壊とそれに続く集団的な混乱についても歌っている。


また、この曲は、人類が自分自身から意図的に遠ざかっているように見えることを指している。耳を傾けることも、共通の基盤や思いやり、コミュニケーション、愛を求めることもない。私たちは自滅しようとしているように見える。資源を共有することを望んでいないように見える。私たちは自分自身から、ひいては互いから距離を置いているように見える。


10枚目のスタジオ・アルバムからのセカンド・シングルは『バック・アゲイン』というタイトルで、カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイの方向性をしっかりと指し示す、ファンクとソウルをミックスしたシンコペーションのベースがドライブする。三作目として紹介するのは、これらの要素を前述のニーナ・シモンの伝統と結びつけた繊細な『フルタイム・ハイスト』だ。ピアノがリードする『ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン』は、褒められたいという欲求に溺れた人間との出会いを振り返る。


この曲は、モータウンの名曲の多くがそうであったように、ポップ・ソングの楽観主義とバラードの言葉を融合させている。誰かを説得して戻ってくるのに、これ以上の見込みがあるだろうか?



『Lemons, Limes & Orchids』は、一流のミュージシャンによって作曲された作品であることは、最初の一音で瞭然である。ワッサーの他には、グラミー賞受賞者のメシェル・ンデゲオチェロがベース、クリス・ブルース(シール、トレヴァー・ホーン、アラニス・モリセット)がギター、ダニエル・ミンセリス(セント・ヴィンセント、デヴィッド・バーン、エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ)がキーボード、パーカー・キンドレッド(ジェフ・バックリー、リアム・ギャラガー)とオットー・ハウザーが交互にドラムを叩いている。





 


ピクシーズは、近日リリース予定のスタジオ・アルバム『ザ・ナイト・ザ・ゾンビーズ・カム』からの新曲「オイスター・ベッド」を公開した。


この曲は、ロックフィールド・スタジオでのバンド活動中にブラック・フランシスが絵を描くようになったことにインスパイアされたもので、現在フランシスの自宅の廊下に飾られているアートワークを反映している。彼はこの曲について、「ここ2、3年の間に描いていたものの洗濯物リスト」と語っている。ロックフィールドでレコーディングしているときに、また絵を描き始めたんだ。


ピクシーズのニューアルバム『The Night The Zombies Come』はBMGより10月25日リリース予定。







◾️PIXIES 新作アルバム『THE NIGHT THE ZOMBIES CAME』を発表 BMGから10月に発売 中世をテーマにしたレストラン、泥沼の人々、ドルイド教、ゾンビまでを描く

ブロードキャストは新しいデモ集『Distant Call - Collected Demos 2000-2006』を9月28日にWarpからリリースする。これは彼らの正真正銘最後のアルバムになると言われている。今回、ブロードキャストは未発表デモ "Come Back to Me" を公開した。プレビューの試聴は以下から。


以前、彼らは『Distant Call』から、テンダー・バトンズのトラック "Tears in the Typing Pool" のデモ・バージョンを公開した。


2023年9月、Broadcastはデモ集『Spell Blanket - Collected Demos 2006-2009』を、故トリッシュ・キーナンの55歳の誕生日に発表した。5月にWarpからリリースされた。『Spell Blanket』はキーナンの未発表デモ集で、4トラックテープやミニディスクに録音されたデモが収録されている。


『Distant Call』は、『Haha Sound』、『Tender Buttons』、『The Future Crayon』に収録されたBroadcastの曲のデモを集めたもの。また、2006年にブロードキャストが行った "Let's Write a Song "プロジェクトに応えてキーナンがレコーディングした "Come Back to Me "と "Please Call to Book "の2曲も収録されている。



「Tears in the Typing Pool-Demo」



 Broadcast  『Distant Call - Collected Demos 2000-2006』



Label: Warp
Release: 2024年9月28日


Tracklist:

1. Tears In The Typing Pool [Demo]

2. Still Feels Like Tears [Demo]

3. Come Back To Me [Demo]

4. The Little Bell [Demo]

5. Distant Call [Demo]

6. Valerie [Demo]

7. Colour Me In [Demo]

8. Ominous Cloud [Demo]

9. Flame Left From The Sun [Demo]

10. Where Youth And Laughter Go [Demo]

11. Poem Of A Dead Song [Demo]

12. O How I Miss You [Demo]

13. Pendulum [Demo]

14. Please Call To Book [Demo]

Japanese Breakfastの再来か ロサンゼルスのLuna Li(ルナ・リー)に注目


つい昨日まですっかり忘れていたのは、このサイトを始めた翌年、なぜかハンナ・ブシエール・キムこと''Luna Li''を紹介していたことだった。


「最初の『jams EP』をリリースしたとき、何に期待していいのかわからなかった」とルナ・リーは回想する。「短いループするインストゥルメンタル曲のコレクションをリリースするのは型破りであると感じたし、確かにこれまでリリースしたものとは違っていた」と。プロデューサーや編曲家のことはさておき、ミュージシャンの才能というのは、たくさん知っていることではなく、「知らない事がたくさんある」ことなのだろうか。


それでは、ハンナ・ブシエール・キムとは何者なのか。カナダ・トロントを拠点に活動するシンガー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリストは、現在、トロントからロサンゼルスに移住し、ソングライティングを行う。COVID-19の流行初期の数ヶ月間を、キムは未来の希望のために費やしていた。ハープ、キーボード、ギター、ヴァイオリンを演奏する彼女の自宅でのジャム・セッションの一連のビデオがソーシャルメディアで拡散された後、一躍脚光を浴びたのだ。


ハンナ・キムは、元々バンドに所属していたというが、以後、ソロシンガーソングライターに転向した。バンドでは才能を持て余したのか、もしくは初めからそう定められていたのか。”Veins”として作曲を始めた後、2015年に自主盤のレコード『Moon Garden』をリリースした。以降、Luna Liとして活動を始めると、、2017年にデビュー作『Opal Angel』をセルフリリース。AWAL RecordingsとIn Real Lifeと契約後、2021年にパンデミック中に作曲したバイラル・ジャム・セッションのコンピ『the jams extended play』でデビュー。ルナ・リーとしてのデビューアルバム『Duality』は、2022年にAWAL(カナダ)とIn Real Life(その他の地域)からリリースされた。


実際的にJapanese  Breakfast(ミシェル・ザウナー)の名前を挙げたのは、ルナ・リーがザウナーによって知名度を引き上げられた側面があるからだ。これらの2020年の伝説的なビデオは、アーティストとしての成功に欠かせないものであっただけでなく、最終的には800万回以上のストリーミングを記録し、ジャパニーズ・ブレックファストのツアーの帯同にもつながった。キムが自分の気持ちを共有し、「それを本当の形で表現する」ために必要なプロセスだったという。


キムは音楽的に豊かな環境で育った。母親は一緒に音楽教室を経営しており、彼女はそこでバイオリンとピアノの古典的な訓練を受け、後にハープとギターを手にした。もちろん、普通の音楽ファンらしい性質もあった。10代の頃、キムはテーム・インパラとフロントマン、ケヴィン・パーカーに夢中になった。彼女が初めて買ったギターは、パーカーが弾いているのと同じ"Squier J. Mascis"だった。高校卒業後、彼女は、クラシック・ヴァイオリンを学ぶため、マギル大学に進学したが、キャリアを追求するために1学期で中退した。実際的には、バンドをやるためだった。しかし、そのあともしばらくの間、暗中模索が続いた。つまり、依然として、音楽に対する思いやビジョンは不透明なままだった。「私はどんな音楽をやるのだろう、どうやって音楽の仕事をしていくのだろうという疑問が常に念頭にありました」と彼女は振り返る。


子供の頃に聞いた音楽が後の全てを決定づけるという一説がある。ある意味では、ミュージシャンというのは、子供の頃の理想や幻想を追い続けるロマンチストなのだ。そして彼らは、子供が蝶を追いかけるように、山のてっぺんへと登っていき、誰も辿りつけないところまで行く。歳をとり、後天的に才能が花開くケースもあるが、実際的に、私が知っている多くの音楽的な才能に恵まれた人々は、幼い頃、何らかの形で音楽に親しんでいる。子供時代の経験は無駄なことは一つもないのだ。聖歌隊で歌った人々、音楽教育を施された人々、両親が音楽愛好家であり、日頃から良質な音楽に触れる環境があった人々、ストリートでリアルな音楽に触れた人々……。彼女の生涯をかけた輝かしい音楽教育は、クラシックの弦楽器とモダン・ロックのサウンドが融合した音楽のみずみずしいサウンドという形で結実している。デビューアルバム『Duality』を見るとわかるとおり、彼女がビデオで表現しようとしたときの本物の感情が、音楽でも明瞭に表現されている。最初のアルバムの制作には、およそ4年の歳月が費やされ、プロジェクトは様々なムードやテーマに跨ることもあり、また、時には1曲の中で完結することもあった。 

 

 

 SOCAN  Interview  2024

 

 

 

限られた人だけに受けいられるポピュラー音楽ほど不完全なものはない。一部の幸福な人のために音楽は存在するのではないのだから。明日がわからない人、今まさに悲しんでいる人、傷んだ人の心を癒さずして、「スター」を名乗れるのだろうか。ルナ・リーが歩んできた道は、直線ではなかった。むしろギザギザで曲がりくねった道を歩んだ事が、その心に聖なる火を灯すことになった。だから、リーの音楽が不幸な人から幸せな人の心まで響きわたるのはそれほど不思議なことではないのである。「私が曲を書くときは、決してひとつの表現にはなりえないと感じている。たとえ、それがハッピーな曲であっても、私はいつも悲しみの要素を大切にしている」とキム。デビュー・アルバムのタイトル曲は、ギター・ラインの間にドラマチックな間があり、徐々に壮大で爆発的なコーラスへと盛り上がっていくメロウなトラックが特徴だ。


ルナ・リーのソングライティングにおける考えには大いに共感すべき点がある。音楽の最大の魅力は、それまでなんの関係もなかった、人種、階級、考え、趣味趣向も異なる人々が一つに繋がるということだ。リーの場合は音楽を通じて、"世界の人々と思いをシェアする"ということだった。結局のところ、『Duality』に収録されている曲は、彼女がキャリアをスタートさせてから音楽作りのプロセスがどのように変化したかを反映していた。「駆け出しの頃は、自分のアートは、自分自身を表現するものでしかなく、自分の感情を吐き出す方法だと感じていた。それはセラピーでもあった」とキムは言う。「もちろん、今でもそうなんだけど、今は自分の''音楽で人々とつながることができる''という特別な思いがある。自分の音楽を、他人とつながるための方法であると考えるようになった。感情を分かち合い、エネルギーを分かち合うためにね......」


現在、二作目のアルバム「When a Thought Grows Wings (思考が大いなる翼に育つ時)」のリリースに向けて、ルナ・リーは着実にスターへの階段を昇っている。第二章は、「メタモルフォーゼ」という驚くべき手段によって行われる。それは、八年間連れ添ったパートナーとの別離による悲しみを糧にし、音楽を喜びに変えることを意味する。彼女は過去にきっぱりと別れを告げた。

 

トロントの家族、そして、恋人との辛い別れの後、リーは夢のある都市ロサンゼルスを目指した。映画産業の街、ビーチの美しさと開放感は、彼女の感性に力強い火を灯した。最早、リーのソングライティングにはデビューEPの頃のような迷いはない。彼女は自分がなすべきことをわかっている。自分の音楽が何のために存在するのか、何のためにバンドを飛び出してソングライターになったか。リーは理解している。


世界を制覇するには欠かさざるものが三つある。勇敢さと大胆さ、そして、勢いだ。そのため、今、彼女は、Yaejiのようにオックス(斧)を肩にかけ、世直しの旅を始める。時は来た。ジャパニーズ・ブレックファーストの再来を心から祝福しよう。




Luna Li  「When a Thought Grows Wings」- In Real Life Music / AWAL

 


デビューアルバムではベッドルームポップ/ネオソウルと、AWALに所属するLaufeyを彷彿とさせるソングライティングを行っていたルナ・リーだったが、セカンドアルバムでは、驚くべき転身を果たす。

 

ハープのグリッサンドやエレクトリックピアノの演奏を交え、クレイロやミシェル・ザウナーのようなポスト・バロック・ポップ、西海岸のチルウェイブの象徴的なプロデューサー、Poolsideのようなリゾート感覚を持つダンスミュージック、ネオソウルを中心とするメロウさにドラムのサンプリングを配するブレイクビーツの要素を交え、特異なポピュラーミュージックを築き上げる。

 

まず間違いなく、若者向けのインフルエンサーの意味合いを持つ「AWALらしいポップス」と言えるようが、ミシェル・ザウナーのように、ビートルズからのアートポップの影響、「Hotel Calfornia」の時代のイーグルスのソフィスティ・ポップの影響も加わり、唯一無二の音楽性が組み上げられ、「さすが!」と言わせるような作品に仕上がっている。モダンでスタイリッシュなソングライティングは、2020年代のポピュラーアーティストの象徴的な作風で、ソーシャルメディア全盛期の需要に応えみせたといえる。その反面、一度聴いただけでこのアルバムの全体像を把握することは容易ではない。このアルバムは快活であるが、軽薄ではないのだ。トラック全体の作り込み、ボーカルの多様な歌唱法、対旋律的なフレーズの配置、そして、それらを包み込むゴスペルに比するソウルフルな雰囲気が絶妙に合致している。セカンドアルバムは、聞き手を陶酔させる中毒性と、静かに聞き入らせる深度を兼ね備えた稀有な作品である。もちろん、そこにソングライターとしての観念体系も加わった。「思想の翼が育つ時」というタイトルは大げさではない。シンガーが生まれたトロントを離れ、ロサンゼルスに向かい、その先で新しい生活を築くという人生の重要な期間が音楽によって見事に象られている。そして、それらの人生の一側面を示す音楽が鷹の羽のように大空にゆうゆうと羽ばたいている。

 

シンガーソングライターとしての真価を見る時、大切なのは、ループサウンドを用いる時、次のフレーズを呼び込む創造性が含まれているかどうか。それが前のフレーズから飛躍したものであるほど、その人は現在のところ、「才能に恵まれている」ということになる。そして、アルバムやEPの終盤で音楽が萎んでいくのか、無限に広がっていく感覚がするのかということである。

 

ここで、天才と秀才の決定的な差が判明することがある。音楽だろうが、文学だろうが、映像だろうが、絵画であろうが、天才的な表現者は、次にやってくる何かがあらかじめわかっているように作品を制作する。彼らは、頭の上に創造の源泉を持ち、そこから情報を汲み取るというだけなのだ。そんな人々に自らの頭脳を凝らして制作するタイプの人々が叶うわけもない。そして、最初のイメージを形づくるモチーフを風船のようにふくらませながら、糸を手繰り寄せるかのように、次の展開を呼び起こすフレーズを繋げていく。そして、LEGOのブロックのように呆れるほど簡単に組み上げてしまう。

 

たとえ制作者は否定するとしても、録音現場の環境は、実際的にその作品に少なからず影響を及ぼす。それは状況が実際の音楽に乗り移ることがあるからである。カルフォルニアで制作されたものと、ニューヨークで制作されたものが異なるのは当然のことで、このアルバムには間違いなくロサンゼルスの空気感が反映されている。「1-Confusion Song」では、エレクトリック・ピアノのアルペジオをモチーフにして、コアなブレイクビーツを背景に、多彩な展開力を見せる。背景のビートに乗せられるのは、しかし、AWALのアーティストらしい柔らかく艶めかしいボーカル。ルナ・リーはセカンドアルバムで、ネオソウルの影響を活かし、ボーカルの節回しに巧みなグルーヴを加えている。ヒップホップのグルーヴとR&Bのメロウさ、そしてオルトポップの亜流性が、このアルバムの序盤の印象を決定付ける。スケールやコード感覚も絶妙であり、ほとんど停滞する瞬間はない。スムースな曲の展開の中で、ピクシーズの系譜にあるオルタネイトなコード進行や移調を巧みに交えながら、一部の隙もないオープニングを組み上げる。 

 

 

 「1-Confusion Song」

 

 

 

このアルバムではアジア系のシンガーソングライターとしてのエキゾチズムも遺憾なく発揮されている。「2-Fantasy」では、彼女が幼い頃から慣れ親しんできたハープのグリッサンドの演奏を琴のように見立てて、幻想的なイントロを作る。その後、カラオケのMIDIのようなトラックメイク、そしてアフロジャズ風のフルートを起点として、伸び上がるようにソウルフルな曲調へと繋げていく。従来から培ってきたベッドルーム・ポップのフレーズをオーガニックな雰囲気で包み込んで、現代的なソフィスティポップの理想形を作り上げていく。Poolsideのようなチルウェイブの範疇にある心地よいビートは、バレアリックの要素こそ乏しいが、ダンスミュージックのフロアのクールダウンのような安らぎと癒やし、穏やかさな感覚をもたらす。そして、Laufeyの系譜にあるR&Bの音楽性は、モダンでアーバンな質感を帯びる。コーラスワークも絶妙であり、二つのボーカルの重なりは、夕日を浴びる西海岸の波のように幻想的にきらめく。アルバムの序盤は、こういったチルウェイブに属する心地よさと安らぎに重点が置かれている。「3-Minnie Says」では、シティ・ポップに近い音楽性をトロピカルの要素と結びつける。ルナ・リーは、現実的な人生がたとえ悲しい瞬間があろうとも、楽園的な音楽性を作ることを厭わない。いや、むしろ音楽は、現実とは対極にあるものを作ることができることを示す。



「4-Golden Hair」はピアノのイントロからブレイクビーツを絡めたベッドルームポップへと移行する。オルトポップソングを書くことを念頭においているらしいとはいえ、ボーカルの節回しにはヒップホップのハナシがあり、またニュアンスがある。ここでは、TikTok世代のソングライティングと、Youtubeからキャリアを出発させたリーのヒット・ソングに対する考えを垣間見ることができるはずだ。甘いメロディーのポップ、ブレイクビーツ、R&Bを反映させたメロウさ、これらを三位一体として、アルバムの序盤の3つの収録曲と同じように流動的なフレージングを見せる。同じフレーズにこだわらず、次の展開にすんなり移行するのが、心地よさを呼び覚ます。そして、この曲に満ちるリゾート的な空気感は、二つのヴォーカルのハーモニーによって引き上げられる。驚くべきことに、それは幻想的な夕日と海岸のイメージすら呼び起こすことがある。ここには、カルフォルニアに移住したシンガーの新生活の感動が含まれている。

 

アルバムの中盤の2曲では、眠りの前の微睡みのような瞬間をオルトポップで表現している。「5-I Imagine」、「6−Enigami」では、エレクトロニックピアノの音響を基にして、メロウなアトモスフィアを作り、その背後の枠組の中で、同じようにベッドルームポップやオルトポップの甘いフレーズを歌う。そして前者ではチルウェイブ/チルアウトの作風をベースとして、彼女が信奉するテーム・インパラからのモダン・サイケの影響をバロックポップのソングライティングの枠組みとかけ合わせて、このアーティストにしか作りえないものを提供している。「6−Enigami」はハープの演奏を基にして、それを古典的なジャズをモダンな作風に置き換えている。Bjorkの「Debut」の作風を受け継ぎながら、コーラスを交えて祝福的な感覚を作り上げる。マニュピレーションによる電子音楽と、背景のストリングスの要素は、エクスペリタルポップの範疇にあるが、曲の最後ではイントロでは想像もできないような壮大な美麗さを作り上げる。 

 

 「6−Enigami」

 

 


「美学」と言えば、大げさになるが、美学というのは、すべて観念から生ずる。そしてルナ・リーの音楽的な美学が、すでにこの二作目でちらほらと見え始めている。現代的なシンガーの代表格であるクレイロ、ボリンジャーと同じように、古典的な音楽に対する憧憬が本作の中盤から後半にかけて、「ポスト・バロック」という次世代のスタイルを作り出し、圧巻のエンディングを呼び込む役割を果たす。そう、このアルバムは、一つの水の流れのようにうねりながら、オープニングから中盤、そしてクライマックスへと続き、最後の劇的な音楽への予兆となる。 

 

華麗なハープのグリッサンドからはじまる「That's Life」は、このアーティストがアイスランドのビョークの次世代に位置することを伺わせるが、その後は、60年代や70年代のフォークポップを彷彿とさせる曲調に移行する。いわば、Domino Recordingsの所属アーティストのようなノスタルジックなロックソングやポップに焦点を絞っている。この古典的なサウンドは、Real Estate、Sam Evian、Unknown Mortal Orchestraといった男性ミュージシャンがリバイバルとして復刻しているが、それらの系譜を女性シンガーソングライティングとしてなぞらえようとている。しかし、二番煎じとはいえども、ルナ・リーがもたらすベッドルームポップの旋律の甘さは、奥深いノスタルジアを呼び起こす。同じように古典的なポップスを踏まえた曲が続く。

 

「I Would Let You」では、メロディーズ・エコーズ・チャンバーに代表される、次世代のフレンチ・ポップの系譜を受け継いだ甘くメロウなナンバーとして楽しめる。幽玄なホーン、遊び心のあるハープのグリッサンド、そして弦楽器のピチカートを交えた「Take Me There」はルナ・リーの絶妙な音感から美麗なボーカルとコーラスのハーモニーを生み出される。内省的で抒情性溢れるボーカルについては、mui zyuを思わせるが、やはりその後の展開はやや異なる。ルナリーの場合は、メロトロンを使用したビートルズ風のバロックポップを起点に、やはり懐かしいポップスという現代的なシンガーソングライターの系譜に属する曲を作り上げる。そして現時点では、ハープのグリッサンドがこの歌手の強みであり、曲の後半では、R&Bのコーラスワークに加わるグリッサンドが色彩的な音響性を生み出し、うっとりしたような空気感を生み出す。


アルバムの後半部では、ラナ・デル・レイがお手本を示した映画的なポップスへと移行し、クライマックスへと続いている。アフロ・ビートを思わせるフルートの演奏をクラシック・ストリングスと重ね合わせ、美麗なハーモニクスを構築した上で、オルトポップの範疇にあるボーカルを披露するという面では、現代のトレンドに沿っているが、やはり、ミシェル・ザウナーに影響下にある甘いポップスの雰囲気が、アルバムの後半では色濃くなる。そして、今年のポピュラーの傑作といえそうなアルバムのクローズ曲へのインタリュード代わりとなる。前にも述べた通り、アルバムの中の素晴らしい一曲が、他の全ての難点や弱点を帳消しにしてしまう事例は、従来のポピュラー音楽史でも何度もあったことであると思う。

 

全体的なポピュラー・アルバムとしての評価は別としても、ジャパニーズ・ブレックファーストの系譜にある「11−Bon Voyage」は、今年度のポップスの名曲に挙げても違和感がない。その中には、ギルバード・オサリバンの「Alone Againe」のようなバロック・ポップの強烈な切なさと哀感が込められている。ボーカルのニュアンスには確かに、メロディーズ・エコーズ・チャンバーのような次世代のフレンチポップからの音楽的な影響があり、それが実際的にヨーロッパ的な華やかさを与えている。

 

ハープのグリッサンドとストリングスの駆け上がりの後、アンセミックなサビを通じて、祝福的なポピュラーを構築し、ビートルズ、オアシスの次のスタンダードを劇的に構築している。ビートルズのチェンバーポップ、オアシスのブリットポップの次世代に当たる「ポスト・バロック/ネオ・バロック」というジャンルは、すでにクレイロ、beabadoobeeの最新アルバムにも示されている通り、今後、ポップスターの音楽により多く組み込まれるようになるはずだ。


細々とした説明をするまでもなく、このクローズ曲は、今年聴いたなかで最も圧倒されるものがあった。中途半端な曲をたくさん詰め込むよりも、スペシャルな一曲がある方が俄然評価は高まるのは当然のことなのだ。

 


95/100

 

 

Best Track- 「Von Boyage」

 

 

 

 

*Luna Liの新作アルバム「Whin a Thought Grows Wings」はIn Real Life Music/ AWALから本日発売。ストリーミング等はこちら




 

Soul Asylum
©Darin Kamnetz

 

80年代以来、Soul Asylu(ソウル・アサイラム)は、パンクのエネルギー、ギターの火力、アグレッシブなものからハートフルなものまで幅広い楽曲を、騒々しく力強く組み合わせたロックグループとして知られてきた。しかし、ソウル・アサイラムは、まず間違いなく、2000年代までは「オルタナティヴロック・バンドの大御所」という扱いだったが、今や彼らにオルタネイトの称号を与えることは順当であると言えるだろうか。その答えは、次のアルバムですべて明らかにされる。ミネアポリスのバンドによる、華やかで、楽しくて、ルーズな13枚目のスタジオ・アルバム『Slowly But Shirley』には、これらバンドの魅力がたっぷり凝縮されている。



『Slowly But Shirley』では、ドラムのマイケル・ブランド(プリンス/ポール・ウェスターバーグ)、リード・ギタリストのライアン・スミス、ベーシストのジェレミー・タッペロが参加するソウル・アサイラムが、お馴染みのプロデューサーを起用したことも助けになった。 スティーヴ・ジョーダンは、1990年の『And the Horse They Rode In On』でもプロデュースを担当している。

 

初めてスティーヴ・ジョーダンと一緒に仕事をした当時、ソウル・アサイラムのメンバーは、スタジオで自分たちのサウンドをどのように表現するのがベストなのか、まだ考えあぐねていた。「彼は、スタジオで音楽を演奏するプレイヤー独自の言語を教えてくれたんだ。当時の僕らはそうではなかった。何をどういう順番でやればいいのか、まだよくわかっていなかったんだ」



それから数十年が経ち、両者は、それぞれ別の場所にいる。ジョーダンは現在、ローリング・ストーンズのドラマーであり、ソウル・アサイラムは、グラミー賞を受賞したビルボード・ホット100トップ5ヒット 「Runaway Train 」とモダン・ロックNo.1大ヒット 「Somebody to Shove 」を収録した1992年のダブル・プラチナ・アルバム『Grave Dancers Union』で商業的にブレイクし、ロック・シーンで最も刺激的で勤勉なバンドのひとつであり続けている。

 

しかし、『Slowly But Shirley』では、以前のコラボレーションを思い起こし、ミネアポリスのテラリウムでライヴ・レコーディングを行い、ニューヨークの伝説的スタジオ、エレクトリック・レディとヒット・ファクトリーでヴォーカルをオーバーダビングした。ジョーダンはドラムとタンバリンもオーバーダビングした。

 

「以来、私もスティーヴも多くのことを学んだ。でも僕らはお互いの言葉を知っていた。だから、レコードには、デジタルでカットアップしただけでは得られないフィーリングがあるんだ」


ダジャレを利かせた名前とは裏腹に、『Slowly But Shirley』にはかなり感動的な(そしてシリアスな)裏話がある。このアルバムのジャケットとタイトルは、シャーリー・「チャチャ」・マルドーニーに敬意を表している。「子供の頃、ドラッグレースが大好きだったんだ。

 

レコードのタイトルとジャケットは、ドラッグ・レーサーのパイオニア、シャーリー・"チャチャ"・マルドウニーに敬意を表している。「子供の頃、ドラッグレースが大好きだった」とデイヴ・ピルナーは続けた。「彼女はドラッグレースの最初の女性だった。彼女がレース界の男たちに立ち向かおうとしてくれたことは、私にとって大きな意味があった。私のマネージャーは彼女を呼び出し、彼女は私たちに祝福を与えた」

 

当初はラウド・ファスト・ルールズとして知られていたソウル・アサイラムは、ピルナーがまだ高校生のときに結成され、ザ・リプレイスメンツやハスカー・デューといったミネアポリスの同業者とともに、米国中西部の名高い音楽シーンの一角を占めるようになった。ソウル・アサイラムは「Grave Dancers Union』でメインストリームに躍り出た後、バンドはその勢いのまま、世界的ヒット曲「Misery」をフィーチャーした1995年の『Let Your Dim Light Shine』でプラチナ認定を受け、ケヴィン・スミスのカルト映画『CRA』のサウンドトラックにも参加した。1995年、ソウル・アサイラムは名実ともに世界的なロックバンドと見なされるに至った。

 

新作アルバムのリード・シングル「Freak Accident」について、デイヴ・ピルナーはプレスリリースで次のように語っている。「ジョークはいつも僕の上にある。誰もが間違いを犯すこともあるはずさ」

 

 

「Freak Accident」

 

「Freak Accident」

 

Label: Blue Elan

Release: 2024年9月27日


Tracklist: 


1.The Only Thing I'm Missing

2.High Road

3.You Don't Know Me

4. Freeloader

5.Tryin' Man

6.Freak Accident

7.If You Want It Back

8.Waiting on the Lord

9.Trial By Fire

10.Makin' Plans

11.Sucker Maker

12. High & Dry

 

Why Bonnie
Why Bonnie

今年、Fire Talkは数かぎりないオルタネイトなロックアーティスト、及び、バンドを輩出した。Packs、Bnny、Colaの良作を次々に送り込んでいる。2024年下半期の序盤の総仕上げとなるのは、ブレア・ハワートンによるプロジェクト、Why Bonnieの『Wish on the bone』となるだろう。

 

セカンド・アルバムで目指したのは”チェンジ”という概念。二作目のアルバムでは、兄弟との別れ等、人生の成長というテーマが織り交ぜられている。ハワートンの念頭には、おそらく音楽は、人間としての成長とともに変わらざるを得ないというものであると思う。それは、マニアックなオルタナティヴロックから万人受けするようなポピュラーな音楽に近づいたとも言える。

 

8月30日にFire Talkから発売予定のアルバム『Wish on the Bone』に収録される新曲「Three Big Moons」を発表した。このニューシングルは、Why Bonnieの現時点の代名詞であるアメリカーナの幻想的な雰囲気を帯びている。ブレア・ハワートンによれば、「孤独がいかに慰めにも孤独にもなり得るかを歌っている」という。この曲のミュージックビデオは以下よりご覧下さい。

 


「Three Big Moons」