Isik Kural

グラスゴーの音響作家、イシク・クラルの音楽は、未来の記憶の場所から届く。彼のつつましく親密な歌は、つかの間の瞬間をコラージュし、文学的な引用や人生のサイレント映画からのちらつきで彩られ、完璧に詩的で不完全な世界の印象主義的スナップショットを作り出す。イシクの音楽は、日常生活の素朴な驚きが顔を覗かせ、想像力が常に発見のために熟しているような、優しく限界のある状態にチューニングを合わせる。


トルコで生まれたイシクは、10代の頃からナイロン弦のギターで音楽を作り始め、徐々にフィールド・レコーディングやシンセサイザーを加えていった。イスタンブールの自宅からマイアミに移り、音楽エンジニアリングを学んだ後、ニューヨークで過ごし、最終的にはスコットランドに上陸、グラスゴー大学でサウンドデザインとオーディオビジュアル実践の修士号を取得した。


移動中、イシクの活動は、伝統的なソングライティングとより実験的なアプローチを融合させることで発展していった。時にはギターでメロディーを選び、時にはアンビエントのライブ演奏からメロディーが生まれる。詩は文学のパルプを加工したものから生まれ、歌はループや周囲の世界の録音から雰囲気を紡ぎ出した。


イシクの音楽は、イタリアのレーベル、Almost Halloween Recordsからリリースされた、声、シンセサイザー、ギター、ピアノ、グロッケンシュピールから作られたアルバム、2019年の『As Flurries』で流通し始めた。2022年、イシクはRVNG Intl.から初の作品『in february』を発表した。この作品は、偶然のループ、ミュージシャンのステファニー・ロクサーヌ・ウォードとのヴォーカル・コラボレーション、pka spefy、トルコの詩人グルテン・アキンの作品やアン・カーソンによるソフォクレスの翻訳など、さまざまなテキストを引用して作られた魅惑的なレコードであった。


新譜『Moon in Gemini』では、『in february』や『Peaches』で聴かれた想像力豊かなインストゥルメンタル・テクスチャーをベースに、よりヴォーカルを前面に押し出したサウンドを披露している。民謡の形式を彷徨いながら、イシクは自然のイメージと人生に対する素朴な考察に溢れた愉快で風変わりな物語を語り、多くのトラックで再びスペフィと共演することになった。気まぐれなアンビエント表現が2人のソングライティングに織り込まれ、これらの音のスクラップブックは、限りない遊び心の中でゆがんだり揺れたりする。


フルート奏者のテンジン・スティーヴン、ハープ奏者のカースティン・マッカーリー、クラリネット奏者のジュリア・タンボリーノとのコラボレーションにより、静寂なピアノとフィールド・レコーディングがさらに豊かさを増している。『双子座の月』の14曲からなる組曲には、優しいパスティーシュがまとまり、イシク・クラルは聴き手を可能な限り深い白昼夢へといざなう。

 


『Moon In Gemini』/RVNG



トルコ出身で、現在グラスゴーを拠点に活動するイシク・クラルのアルバムは、シンセ、アコースティックギター、フルートの演奏などを駆使し、オーガニックでナチュラルな電子音楽の世界を提供する。クラルの音楽には、包み込むような温かさと広がりがあり、そしてグラスゴーの牧歌的な風景を「サウンドスケープ」として呼び起こす。このアルバムにはストーリー性が含まれ、牧歌的な風景で始まったかと思えたアルバムは、収録曲ごとに異なるサウンドスケープを描き、やがて製作者が志向する夜の月の光景で終わる。特に、多彩なフィールドレコーディングが散りばめられ、それがアコースティックギターや電子音のマテリアル、そして制作者自身のふんわりとした穏やかなボーカルと結びつき、現代のいかなる音楽とも似て非なるスペシャリティーを構築していく。クラルのボーカルはどちらかと言えば、少し癖があるため、好き嫌いが二分されるかもしれないが、彼のボーカルは電子音楽やアコースティックギター、木管楽器(フルート)を中心に構成される音楽的な感性と驚くほど見事に溶け合い、4つ目の楽器の音響的な役割を担っている。


イシク・クラルの構築する電子音楽は、IDMに属する。そして、知的な創造性を掻き立てるものでありながら、深い情感を呼び覚ますものでもある。何より、イシク・クラルの導き出す電子音楽は、水のように柔らかく、秋風のように爽やかだ。さらに何より重要なのは、彼の音楽の中には、グラスゴーの緑豊かな風景や教会のような光景、そして同じように、ケルト民謡の原初的な魅力が含まれるということである。「1- Body Of Water」では、アコースティックギターの演奏をもとに、電子音楽のキラキラとしたマテリアルを配して、そして木管楽器の演奏を付け加える。そして、パンフルートのような音色をベースにしたシンセリードを古めかしいオルガンに見立て童話的な音楽世界を築き上げていく。スコットランドの美しい風景や和やかな光景をかなり見事に電子音楽という形で縁取ってみせている。喧騒から解き放たれ、そして「内的な静けさ」を思い出すための音楽であり、それはまた瞑想的な感覚に充ちている。

 

「2- Prelude」では、ケルト民謡で使用されるようなアンティークな音色を持つアコースティックギターにシンセのパンフルートのアルペジオの伴奏を付け足して、やはり他のどの音楽にも似ていない特異なIDMを作り上げる。 そして、甘い感覚を持つイシク・クラルのボーカル、鳥のさえずりのフィールドレコーディングを付け加えて、自然味溢れる音響空間を構築していく。何の変哲もないミニマル・ミュージックの構成であるが、ときどき、彼の紡ぎ出すシンセのアルペジオからは、センチメンタルな感覚やノスタルジア、そして童話的な雰囲気が立ち上ってくる。これらはアンビエントのような抽象的な音像として組み上げられていくが、そして、実際的に、治癒的な電子音楽としての効果を発揮することがある。クラルの音楽にはまったく棘や毒がない。それは、イシク・クラルの音楽が「自然を見本にしている」からであり、人工物から距離を置いているからでもある。これらの癒やしは、コンクリートジャングルに疲弊した人の心を温かく包み込む。

 

イシク・クラルの表現する童話的な世界は、さながら絵画を描写的な音楽として切り取ったかのようであり、アルバムの中盤で、その物語は広がりと奥行きを増していく。「3- Almost A Ghost」に見受けられるように、彼の描く幽霊は、カンタベリーの大聖堂に出没するようなおぞましいものではなく、妖精やピクシーのような、いたずら好きの少し可愛らしいお化けである。それはまた、「指輪物語」に登場する民間伝承の考えに近い。それらは、ぼんやりとしていて、抽象的であるが、ヘンリー・ダーガーが絵本で描いたような天使的で祝福的な音楽という形で部分的に出現する。同じように、リュートのようなギターの響きを基に、ピアノの断片的な演奏やボーカルのコーラスをミュージック・コンクレートとして散りばめて、色彩的な音楽の世界を構築していく。それらに脚色的な効果を添えるのが、ハープのグリッサンド、オーケストラのグロッケンシュピール、そしてアーティスト自身のボーカルである。これらの器楽的な音響効果は、実際の音楽性に制作者が意図する幻想的な感覚を付与し、ピクチャレスクな効果を及ぼすことに成功している。最終的には、mum(ムーム)のような可愛らしいおとぎ話の世界を作り上げるのだ。 


 

 「Prelude」 

 

 

 

これらの童話的な音楽と並行して、アンビエント・ピアノの作風に転じる場合もある。続く「4- Grown One Lotta」では、ウィリアム・バシンスキーの「Reflection」のようなピアノのミニマリズムを参照しつつ、緻密でありながら先鋭的な作風を作り上げる。ヒップホップやブレイクビーツの編集的なサウンドをピアノの音響効果に適用するという側面では、ブルックリンのラップカルチャーに触発されたバシンスキーの現代的なアンビエントの延長線上に属する。短いピアノのサンプリングの素材も、イシクの手に掛かると、アナログレコードの音飛びのようなブレイクビーツの原初的なDJの手法によってトリップ感のあるアンビエントに昇華される。いわば童話的な音楽を制作する作家クラルは、「ストリートの音楽とオーケストラホールの音楽を結びつける」という画期的な作曲法を、この実験的な音楽の中で実践しているのである。

 

また、「映像的な音楽」という本作のモチーフは、その後も度々登場する。「5- Interlude」では、ローファイ・ヒップホップをベースにし、それらをノスタルジックで切ない感覚を持つ電子音楽へと昇華させている。逆再生のテープ・ループ、それから水の音のように柔らかなシンセに続いて、少し甘ったるい質感を持つクラルのボーカルがアンビエントともミニマルテクノとも言いがたい独自に音響空間を作り上げる。それらのシンプルな音色や録音の集積は、やがて教会のオルガンのような祝福的な音楽をアンビエントとして構築していく。近年の実験音楽では、コンサートホールで鳴り響くオーケストラ音楽を部分的なミュージックコンクレートやカットアップコラージュのような音楽的な作曲法によって構築するという手法が、ドローン音楽という一つのウェイブやシーンを作り上げているが、イシク・クラルの電子音楽は、一貫して細やかであり、大掛かりな演出になることはない。さながらグラスゴーの小さな礼拝堂で日曜の安息日に鳴り響くような祝福的な祭礼の為の音楽を、クラルは電子音楽として再現させようとしているかのよう。それは非常に細やかなもので、派手な舞台装置や演出とは全く無縁のものなのである。


かと思えば、彼の音楽は、曲が進むごとに、物語の舞台となる場所や背景のイメージが立ちどころに変わっていき、映像のバックグラウンドや演劇の舞台の書き割りのように、ゆっくりと推移していく。ここには、ウィリアム・シェイクスピアの演劇のように、王侯も商人も未婚の女も登場しないが、最小限の登場人物で驚くべき多彩な音楽表現が構築される。前曲の屋内で鳴り渡る音楽の直後、屋外の木陰に鳴り響く自然の音楽をテーマとして縁取っているのである。

 

「6-Redcurrents」は、教会から一歩外に出て、鳥のさえずりや木々のざわめきを目に止める時のような安らぎが込められている。イシク・クラルの電子音楽は一貫して「穏やかな平和」をモチーフにしており、それらはリンゴの実が木から落ちる時、重力の概念を発見したニュートンのような気づきと発見に満ちている。実際的には、パルス音をドローンのように連続させているが、やはり聞き苦しいものやざわめきやノイズからは一定の距離を置いており、内的な静けさと瞑想性にポイントが置かれている。最終的に、精妙な感覚を持つ重層的なサウンドスケープが曲の最後に鳴り渡る頃には、この音楽作品がバレエや劇伴のための音楽という副次的な役割を持つ作品なのではないかと思わせるものがある。電子音楽としての前衛的な試作は、続く「7-Mistaken for a Snow Silent」にも見出すことが出来、水のような音のサウンドデザイン、リング・モジュラーによる色彩的な音の構築、そして、ピアノの断片的なサンプリング、アコースティックギター、そして、イシクのボーカルという多角的な構成要素によって、遊び心のある音楽が作り出されている。聴いているだけで、何だか優しい気分に浸れるような稀有な音楽である。


情景的な音楽は、それ以降も続いている。グラスゴーの村の小さなお祭りのようなワンシーンを電子音楽で縁取った「8-Gul Sokagi」は、ケルト民謡を題材に、リュートのようなギター、生活風景の反映であるフィールド録音、木管楽器やアコーディオンのような音色を交えて、夢想的で童話的な音楽世界を見事に築き上げている。これらは、東ヨーロッパの民謡をスコアとして実際に取材をして集めたバルトークのような音楽的な手法であるが、クラルの場合は、より聞きやすくて親しみやすい。そして、ターンテーブルの音飛び(チョップ)の技法を交え、それらをモダンな作風に置き換えている。「9-Stem of Water」は、やはり同じように童話的で可愛らしい雰囲気をボーカルとして反映した一曲で、パンフルートの音色でこれらの夢想的な感覚を押し出している。それは同時に、緑豊かな土地に流れる川のせせらぎのような清々しさと安らぎに浸され、音楽そのものが一つのストリームのようにゆったりと流れていく。

 

 

アルバムの後半では同じようにフィールド・レコーディングとピアノの演奏の要素をかけ合わせ、「10-After a Rain」に見出されるような情景的な変遷を描き出そうとしている。これらは、2010年代のフォークトロニカ/トイトロニカのような音楽性と結びつき、アルバムの音楽世界を深化させる。その音楽は、ピアノやハープのサンプリングを多角的に配置することで、やはり色彩的な感覚に縁取られ、サウンド・デザインに近い指向性を持っている。終盤では、これらの音楽性が停滞したり、マンネリズムに陥る場合もあり、それがリスニングの際の難点となるだろう。その一方、その安らいだ電子音楽は、治癒の音楽ーーヒーリングーーに近い意味を帯びる。「11-Behind The  Flowerpoint」は、JSバッハの「平均律クラヴィーア」を電子音楽に置き換え、それらをボーカルトラックとして組み替えるという実験性が込められている。

 

その後の2曲では、鳥をモチーフに美麗な音楽が作り上げられる。イシク・クラルの作曲家としての未知なる可能性が示されたのが「12-Daydream Birds」である。オーケストラ・ストリングのレガート、木管楽器のトレモロの組み合わせは、最終的に民族音楽のエキゾチズムを呼び覚まし、さながら南国のような場所で鳥たちがゆっくりと空に羽ばたいていくような奇異なサウンドスケープを呼び起こす。「13-Birds Of Evening」でもフルートの演奏とハモンドオルガンのような音色を緻密に組み合わせ、至福のひととき、芳醇な時間を作り上げる。ミニマル音楽の範疇にあるが、これらの音楽の最大の弊害である気忙しさはなく、伸びやかで開放的な気風を感じさせる。

 

アルバムのクローズ「14-Most Beatutiful Imaginary Dialogues」は、名作映画のような感動的なクライマックス/エンディングで、一連の音楽による物語の最後を締めくくるのにこれ以上はない素晴らしい一曲である。木のハンマーの軋みの音を生かしたポストクラシカル系のアコースティックピアノ、クラルのスポークンワードに近いボーカル、そして、鳥のさえずりのフィールドレコーディングという、現在の作曲家の「自家薬籠中」が登場する。ハープの美麗なグリッサンドの効果、シンセサイザーのサウンドスケープを巧みに活用しつつ、イシク・クラルは、音楽によって「ふたご座の月」を出現させる。ピアノの断片的なフレーズが重なり合う時、深い感動を呼び起こすとともに、マクロコスモスを小さな音楽空間の中に造出し、アルバムのイメージを最後の最後にあっけなく覆す。アウトロで、虫の鳴き声とオルガンの麗しい音色が絶えず増幅と減退を繰り返しながら徐々にフェードアウトする瞬間、作曲家の描写音楽としてのサウンドスケープは本作の中で最大限の効果を発揮し、一つのサイクルの終焉と実り多き美しき季節の訪れを予感させる。




85/100



Best Track-「Most Beatutiful Imaginary Dialogues」

 

 

 

◾️Isik Kuralの新作アルバム『Moon In Gemini』はRVNGより本日発売。(日本国内ではPlanchaより)ストリーミングはこちらから。

 

©Samuel Bradley


Kelly Lee Owens(ケリー・リー・オーウェンズ)が、アルバム『Dreamstate』からの3枚目のシングル「Higher」を発表した。このシングルは「Sunshine」と「Love You Got」のフォローアップとなる。以下よりチェックしてほしい。


リー・オーウェンズのコメントは以下の通り。「''Higher''がここにある!「Dreamstate」のもうひとつの側面、アルバム内のフィーリングのもうひとつの味わい。より高い視点から物事を見て感じたいという願望にインスパイアされたトラックだ」


「人生を歩むにつれて、私たちは常に困難があることをより理解するようになるが、おそらくその困難を経験するたびに、私たちはより全体像を把握し、新しい視点を得るのだろう。この曲は、陶酔的な安堵感のために静かに手を伸ばし、高揚させるためにある。あなたがこの曲を気に入ってくれることを願っている!」


オーウェンズの4枚目のスタジオ・アルバム『Dreamstate』は、10月18日にdh2からリリースされる。


「Higher」

 

 


エセル・カインが、アメリカン・フットボールの「For Sure」のカヴァーを、自ら監督したビデオとともに公開した。

 

この曲は、アイアン&ワイン、マンチェスター・オーケストラ、ブロンドシェルなどが1999年にリリースしたセルフタイトルのデビューアルバムからの楽曲をカバーした『American Football (Covers)』に収録。アメリカン・フットボールは、LPの25周年記念エディションから、オリジナル曲のリマスター・ヴァージョンも新たにリリースした。以下よりお聴きください。


ヘイデン・アネデニアことカインはプレスリリースの中で、「『For Sure』はすぐにやりたいと思った。「レコードを回すたびに、この曲の良さが際立っていて、自分のサウンドにどう反映させたいか、はっきりと分かっていたんだ。この曲の中で一番好きなのは、ペンシルバニア時代に住んでいたアパートの前を通る電車の音で、最初と最後にシンセのように伸びている。アメリカン・フットボールは、デビュー・アルバムでその瞬間を刻んだバンドのひとつであり、そのマークはとても長寿である。彼らのサウンド・ストーリーテリングは、長年にわたって数え切れないほど多くのインスピレーションを私に与えてくれたので、このカバー版への寄稿を依頼されたことは本当に光栄だった。アメリカン・フットボールよ永遠に」


アメリカン・フットボールのスティーヴ・ラモスは「For Sure」について次のように語っている。「変化と不確実性についてのシンプルで力強い声明であり、今でも真実として響いている」

 


「For Sure」



 


今年初め、POLICEのスティングは長年のギタリストであるドミニク・ミラーとドラマーのクリス・マースを中心とした新しいグループ「パワー・トリオ、スティング3.0」を結成し、今月末から北米ツアーを敢行する。

 

これを記念して、バンドは新曲「I Wrote Your Name (Upon My Heart)」を公開した。この曲では、プロデューサーのマーティン・キアゼンバウムがオルガンを弾いている。以下からチェックしてほしい。


「I Wrote Your Name (Upon My Heart)」は、スティングにとって2021年のアルバム『The Bridge』以来の新曲となる。

 


「I Wrote You Name(Upon My Heart」

 

©Bảo Ngô


米国のベッドルームポップ界の象徴的なアーティスト、mxmtoonは、11月1日にAWALからリリースされるニューアルバム「liminal space」を発表した。アルバムはこのアーティストとしては珍しくシリアスなテーマが織り交ぜられている。日々転変する世界でどのようにあるべきか、mxmtoonは音楽制作を通じて真摯に探ろうとしている。アルバムのタイトルは外側の世界を指し示し、そして対外的な世界が自分という存在とどのような関係にあるのかを詳らかにする。その中には社会的な概念が要請する女性というイメージを覆すという意図も含まれている。

 

新作アルバムの発表と同時に、このシンガーソングライターはイギリスのポップ・グループ、ケロケロ・ボニートとのコラボレーション「the situation」を公開した。(ストリーミングはこちら)「2枚目のレコードをリリースしてからのこの2年間の混乱の中で、私はしばしば果てしなく感じられる一過性の風景の中で宙吊りになっているように感じていた」とmxmtoonことマイアは説明している。

 

「自分がほとんど理解していないことに囚われたと感じるのは簡単なことで、人生は私に質問の嵐を投げかけてきた。だから、未知の世界に宙ぶらりんのまま、私はこれらの曲を書いた。自分の人生で与えられた役割をどのように果たすことを選択してきたか、そしてある時はどのようにそれについていけなかったかを解き明かそうとしたんだ」


「”liminal space”は、苦いものを浴びながら、終わりのない廊下を彷徨う自分自身を見失うような、主体性を理解するのに苦労している人たちのためのアルバムです」と彼女は付け加えた。


アルバムの最初のリードカット「the situation」について、mxmtoonはこう語っている。


「私たちは年を取り、そしてやがて死ぬ! このアルバムに収録されている曲の多くは、少女時代と人生のサイクルというコンセプトを直接的に扱っている。「the situation」を書いたとき私は23歳で、20代前半が人生で一番ホットで楽しい時期だという考えで育ったような気がする。社会全体が、女性はピークに達した後、残りの人生を転落していくという物語を押し付けていると思う。感情的になりがちな曲を書いているときは、いつも皮肉を織り交ぜるのが好きなんだけど、『the situation』は、それがいかに馬鹿げたことかを揶揄する絶好の機会だった」

 

「特に、この曲でケロ・ケロ・ボニートと仕事ができたことは、夢のような出来事だった。KKBは2013年から聴いていて、サラのヴォーカルは『Intro Bonito』以来、私の頭にこびりついている。この曲への彼女の貢献はとても完璧で、楽しくて、全体が死ぬことについて歌っているのに、外面的に陽気であることが本当にこの曲を艶やかにしている! 彼女は本当に素晴らしい」


「the situation」




リミナル・スペース

 

「リミナル・スペース」は、スラングやサブカルチャーの概念を指し示し、2020年代始めにインターネットから唐突に出てきた言葉である。

 

私達がいつも目にする何の変哲のない光景がある瞬間を期に、それとは全く別の意味を帯びることを意味する。これは本来の設計の意図とは別の意味を持つ「副次的な建築性」、「意図せぬ建築性」というきわめて斬新な建築学的な興味をもたらすとともに、社会学としても注目すべき概念であり、社会構造に生み出された「空虚な空間」や「穴」のようなものを象徴付ける。それは都市設計に発生した経済的な失敗であり、損失でもある。しかし、それらの負の遺産や瑕疵が現代社会の中で重要な意味を持つということを、リミナル・スペースは示唆している。

 

日本の作家で、無類のジャズ愛好家でもあった中上健次は、これに近い思想を持っていた。彼の場合は「ウツホ」という概念の中にリミナル・スペースを見出していた。生前の中上は、路地裏や裏通りといった日本独自の風景の底に、空虚さと得難い魅力が混在することを主張していた。これらの概念は、西岸良平の漫画そして後に映画化された「三丁目の夕日」などにも出てくる。

 



mxmtoon   「liminal Space」

Label: AWAL

Release: 2024年11月1日 


収録曲は未公開

 


パンデミックで惜しくも延期となったアメリカン・フットボールの再来日が決定。本公演は、東京Zepp DiverCity、名古屋Club Quattro、梅田Club Quattroで2025年3月25日から三日間開催される。詳細は下記より。


2019年FUJI ROCK FESTIVALに出演し、2020年に単独ツアーが決定していたが、世界中に拡大したコロナウイルスの影響で残念ながらキャンセルとなってしまった。そして2025年の3月についに待望の来日公演が決定した。しかも今回は1999年にリリースした ポストロック/エモシーンを代表する1stアルバムにして、当時はラストアルバムとなった名盤「American Football(LP1)」のリリース25年を記念して2024年から行われている、25周年アニバーサリーツアーの一貫としての来日が決定。至極の名曲と共に表現されるサウンドスケープにご期待ください。



「Stay Home」/「The One With The Wurlitzer」- Webster Hall, NYC




American Football 25 years special LP1 anniversary shows




【オフィシャル先行予約(抽選制)】

受付期間:9/5(木)20:00〜9/16(日)23:59

受付URL:https://eplus.jp/americanfootball/

※スタンディングのみ


【プレイガイド最速先行予約(先着制)】

受付期間:9/17(火)12:00〜9/23(月)23:59

受付URL:https://eplus.jp/americanfootball/

※スタンディングのみ


《チケット購入に際して》

※お一人様4枚まで

※紙、電子チケット併用

※チケット購入者のみ個人情報の取得あり

※小学生以上チケット必要、未就学児は席が必要な場合は要チケット



◾️東京 2025/03/26 (Wed) Zepp DiverCity (TOKYO)


OPEN 18:00 START 19:00

1F スタンディング 前売り:¥7,800

2F 指定席 前売り:¥7,800

ドリンク代別

お問い合わせ

SMASH 03-3444-6751



◾️名古屋 2025/03/27 (Thu) NAGOYA CLUB QUATTRO


OPEN 18:00 START 19:00

スタンディング 前売り:¥7,800

ドリンク代別

お問い合わせ

NAGOYA CLUB QUATTRO 052-264-8211


◾️大阪 2025/03/28 (Fri) UMEDA CLUB QUATTRO


OPEN 18:00 START 19:00

スタンディング 前売り:¥7,800

ドリンク代別

お問い合わせ

SMASH WEST 06-6535-5569



更なるイベントの詳細はこちら



American Football:


エモ・シーンのレジェンド=アメリカン・フットボール。1999年にセルフ・タイトル・デビュー・アルバムをリリース後、僅かな活動期間で解散。その後アメリカン・フットボールの魅力は世界中で徐々に伝わり、アメリカの名門レーベル<Polyvinyl Records>史上最高のセールスを記録。2014年にリユニオンを果たし、各国で行われたライブは軒並みソールド・アウトし話題に。2016年には実に17年ぶりとなるセカンド・アルバムをリリース、前作同様に世界各国から好評を博した。2019年3月に待望のサード・アルバムをリリース。3作目となる『American Football (LP3)』にはパラモアのヘイリー・ウィリアムス、スロウダイヴのレイチェル・ゴスウェルらがゲスト参加。



◾️AMERICAN FOOTBALLのデビューアルバム『LP1』が25周年を迎える アニバーサリーエディション、カバーアルバムのリリースを発表
 Pinhead Gunpowder



ビリー・ジョー・アームストロングのサイド・プロジェクト、ピンヘッド・ガンパウダー(アーロン・コメットバス、ビル・シュナイダー、グリーン・デイの長年のツアー・ギタリスト、ジェイソン・ホワイトが参加)が復活した。


ピンヘッド・ガンパウダーは、1-2-3-4 Go Recordsから10月15日にリリースされるニュー・アルバム『Unt』を発表した。1997年のデビューアルバム『グッバイ・エルストン・アヴェニュー』以来のフル・アルバムであり、2008年のEP『ウエスト・サイド・ハイウェイ』以来の作品となる。本作は長年のコラボレーターであるクリス・ドゥーガンと共に2023年にレコーディングされた。


『Unt』からのファースト・シングルは、アルバムのオープニングを飾るタイトル曲で、古典的なピンヘッド・ガンパウダーのよう、つまり古典的なグリーン・デイでもある。グリーン・デイは20年ぶりのベスト・アルバムをリリースしたばかりだが、ビリー・ジョーの90年代ポップ・パンクを聴きたいなら、このピンヘッド・ガンパウダーの新作がお薦めだ。新曲は以下から。


この発表と共に、アーロン・コメットバスはこう書いている。


「Pinhead Gunpowderは1990年に曲作りを始め、翌年の春に最初の7インチを作った。以来ほぼ毎年、僕らは演奏するために集まってきた。5枚のアルバムと11枚のEPをレコーディングした年もあれば、ライヴをやった年もある」


「しかし、2010年以降、私たちは自分たちのためだけに演奏するようになった。新しいアルバムのための作曲」や「ツアーの準備のためのリハーサル」ではなく、私たちは毎年地下室に戻った。最初にお互いのために音楽を作ったことを思い出しながら、自分たちが建てた家に住んだ。世界中、少なくともオークランド、シンガポール、ニューヨークで演奏したが、お互いのためだけに演奏した。私たちはバック・カタログのリイシューにも取り組み、お互いのことをより好きになり、これまで以上に家族のように思えるようになった」


「新譜とツアーは時間の問題だったが、メンバーの他のバンド・プロジェクトと家族の間で、それを見つけるのは難しかった。ようやく実現したときは、みんな驚いたよ。最もキャッチーで、最も協力的で、最も切実な、今までで最高の作品になったと思う」


彼らは10月に『アメリカン・イディオット』20周年記念ボックス・セットをリリースする予定だ。







 

Pinhead Gunpowder 『Unt』


Label: 1-2-3-4 Go Records
Release: 2024年10月15日


Tracklist:

1. Unt
2. Difficult But Not Impossible
3. Scum Of The Earth
4. Oh My
5. Nothing Ever Happens
6. Draw It In
7. Shine
8. ¡Hola Canada!
9. Here Goes The Neighborhood
10. Mumbles
11. Green
12. Chowchilla
13. Trash TV
14. Song For Myself

 

渡邊琢磨

 

2024年度カンヌ国際映画祭監督週間にて栄えある【国際映画批評家連盟賞】を受賞した、山中瑶子監督の最新映画『ナミビアの砂漠』のオリジナル・サウンドトラックのデジタル配信リリースが決定した。


オリジナルスコアは、作曲家/ピアニストの渡邊琢磨が担当。マスタリングはシカゴの大御所で、Gastre del Solの活動、ソロアーティスト、更に映画音楽でも活躍目覚ましいJim O'Rourke(ジム・オルーク)が手がけた。サウンドトラックは9月6日(金)に発売される。詳細は下記より。

 

渡邊琢磨は『ナミビアの砂漠』のラッシュを観ながらピアノや電子音による即興演奏をレコーディングし、後日その音を変調/加工するなどの実験を通して、プリズム状に疾走するテクスチャー、不安定で虚無的なドローン、瞬くようなパルスを構築。映画の効果にとどまらぬサウンドスケープをつくり出した。デジタルリリースのためにオルタネイト・テイクを追加した全7曲を収録。

 



■詳細 映画『ナミビアの砂漠』(監督: 山中瑶子)


[公式ウェブサイト] https://happinet-phantom.com/namibia-movie/
 

 

■映画 「ナミビアの砂漠」とは??

 

わずか19歳という若さで撮影、初監督した『あみこ』(2017)は PFF アワードで観客賞を受賞、その後、第68回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に史上最年少で招待されるなど、各国の映画祭で評判となり、坂本龍一もその才能に惚れ込むなど、その名を世に知らしめた山中瑶子。

 

あれから7年、山中監督の本格的な長編第一作となるこの『ナミビアの砂漠』の主役に抜擢されたのは、テレビドラマ「不適切にもほどがある!」でお茶の間でも話題沸騰、今年も『あんのこと』、『ルックバック』と出演作が続々公開されるなど飛ぶ鳥を落とす勢いの新時代のアイコン、河合優実。公開当時まだ学生だった彼女は『あみこ』を観て衝撃を受け、山中監督に「いつか出演したいです」と直接伝え、「女優になります」と書いた手紙を渡したという。

 

『ナミビアの砂漠』は、運命的に出会った山中瑶子と河合優実、ふたつの才能が、ついに念願のタッグを組み、“ 今” の彼女たちでしか作り出せない熱量とセンスを注ぎ込んで生み出された。

 

河合が扮するカナの二人の恋人を演じるのは金子大地と寛一郎という、山中監督と同世代で今の日本映画界をけん引する若き俳優たち。カンヌ国際映画祭でも「若き才能が爆発した傑作」と絶賛され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞する快挙を成し遂げた。2020年代の〈今〉を生きる彼女たちと彼らにとっての「本当に描きたいこと」を圧倒的なパワーとエネルギーで描き切った『ナミビアの砂漠』が、先の見えない世の中に新しい風を吹き込む!

 

 

『ナミビアの砂漠』 本予告

 

 

 

■『ナミビアの砂漠』オリジナル・サウンドトラック



発売日:2024年9月6日(金)
品番 : DDIP-3100
アーティスト:渡邊琢磨
タイトル:『ナミビアの砂漠』オリジナル・サウンドトラック
フォーマット: デジタル配信
レーベル:Inpartmaint Inc.
ジャンル: SOUNDTRACK / ELECTRONIC 

 

配信リンク: https://inpartmaint.bio.to/hGQDhr


 


 

【渡邊琢磨(ワタナベ・タクマ)プロフィール】



宮城県仙台市出身。高校卒業後、米バークリー音楽大学へ留学。帰国後、デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアーへの参加など国内外のアーティストと多岐にわたり活動。自身の活動と並行して映画音楽も手がける。近年の作品には、染谷将太監督『まだここにいる』(19)、岨手由貴子監督『あのこは貴族』(21)、黒沢清監督『Chime』(24)、山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』(24)、黒沢清監督『クラウド Cloud』(24)などがある。

共演、コラボレーションなど:ジョナス・メカス、デヴィッド・シルヴィアン、ジョアン・ラ・バーバラ、フェリシア・アトキンソン、キップ・ハンラハン、石橋英子、リゲティカルテット、ジム・オルーク、山本精一、三浦透子、ヴラディスラフ・ディレイ、山本達久、キット・ダウンズ。

 Oceanator 『Everything Is Love And Death』

 


 

Label: Polyvinyl 

Release: 2024年8月30日

 

Review 

 

Elise Okusamiのソロ・プロジェクト、Oceanatorの最新作『Everything Is Love And Death』は前作と同様に、70年代終盤から80年代の産業ロックに焦点を置いたロックソングアルバムである。オーシャネーターのソングライティングには、80年代の西海岸のLAロックや、ボストンのロックシーンへの憧憬のようなものがちらつく。基本的には、スリーコード(パワーコード)を中心にオクサミのギターサウンドは構築されていることもあってか、パンキッシュなテイストを漂わせる。ただ、やはり良い曲を書くセンスがあり、またそれを具現化する能力も持っているのだが、もしかすると、バンド単位の方がよりオクサミの音楽は輝く可能性があるかもしれない。

 

ただ、オクサミのロックソングに対する情熱は間違いなく本物である。アルバムの冒頭を飾る「First Time」は、アルバムを聴く際の掴みとしては十分である。硬質なメタリックなギターと、シンプルな8ビートのドラムが組み合わされ、そして80年代の産業ロックに見受けられる夢想的な感覚が織り交ぜられる。女性シンガーらしからぬ硬派な音楽性により、この曲はグイグイと求心力を持ち始め、叙情的なメロディーラインを織り交ぜながら、曲の後半ではハードロックの曲調へと変遷していく。もちろん、シンガーとしての特色であるワイルドな感覚は、この曲、ひいてはアルバム全体の重要なテーマ/モチーフとして、本作全体をリードしていく。同じようにメタリックな性質を帯びるハードロックソングが続く。「Lullaby」では、AC/DCのようなシンプルなギターリフ、そして、アメリカン・ロックの系譜にある音楽性を受け継いでいる。これが時に、RunawaysのようなもうひとつのUSロックの系譜を浮かび上がらせる。

 

アルバムの中で最も刺激的なのは、「Cut String」である。 オレンジ・カウンティのパンクを受け継ぎ、それらにAORのサウンドのテイストを添えている。モダンなギターロックとしては、Nilfure Yanyaの「Painless」の収録曲とおなじように、アーバンなR&Bとの融合性も感じさせるが、オーシャネーターの場合は、それほどR&Bの影響はなく、一貫して80年代のハードロックやメタルに焦点が絞られている。しかし、驚くほど暑苦しい感じにはならず、さらりとした切なさを織り交ぜ、まさしくポリヴァイナルらしい音楽性を組み込むことに成功している。これまでオーシャネーターが書いてきたロックソングの中では、おそらく最も革新的な響きが含まれている。また、アーティストとしての温和な性質が彼女が書くロックソングの中にさりげなく立ち現れることがある。「Happy New Year」は、前作『Nothing Ever Fine』の作風の延長線上にあり、ハードロックやメタル、そしてメロディックパンクの中間にあるキャッチーな音楽性が特徴である。そして、この曲には、やはり前作の主要曲と同じように、ストリートの感覚や、産業的なものに対する愛着、それはとりもなおさず、自動車産業の発展とともに成長してきたアメリカンロックの核心に迫るものでもある。つまり、UKロックと決定的に異なるのは、デトロイト等の街にある産業的な響きが、これらのロックソングには内包されているということである。「Get Out」もまたバイクで疾走するようなワイルドな感覚が最大限に引き出されている。

 

 

表面的なワイルドな感覚を愛する人間性に加えて、アルバムの中盤ではセンチメンタルな側面が示されることもある。「Home For Weekend」ではオーケストラの鍵盤楽器であるクレスタを中心に内的な世界を音楽により表現している。アルバムの序盤とは打って変わって、ナーバスな側面をバラードソングという形で表現している。また、現代的なオルトポップソングに近い曲が続き、「Be Here」では、フィーダー/リバーブを合わせた抽象的なギターラインと8ビートのドラムを背景にシンセポップに近い音楽性を選んでいる。これは本作を期に、ロックという形だけではなく、ポップの音楽性に新しく挑戦した瞬間を捉えることができる。実際的に、このSSWの特徴である淡い叙情性がボーカルに乗ると、エモーショナルな感覚を呼び起こすことがある。かと思えば、やはり続く「All The Same」では、80年代のハードロックやRunawaysのロックンロールスタイルに回帰している。ポイントはオクサミの音楽はロックではなく、ロール、要するにダンス・ミュージックの一貫として制作されている可能性があるということである。

 

アルバムの終盤では、このアーティストのロックに対する愛情が見事なエネルギーとして結実する瞬間がある。「Drift Away」は、やはりアルバムの重要なテーマであるワイルドな感覚を元にして、ハードロックの魅力を蘇らせることに成功している。ロックとはエネルギー体なのであり、それが力強く、はつらつとしていることが重要であるが、オーシャネーターはこの水準をなんなくクリアし、それらをエネルギッシュなロックンロールとして余すところなく詰め込む。 同じように、この曲では、ヘヴィ・メタル好きの性質が、ボーカルのオズボーン的なニュアンスに乗り移っている。Black Sabbathのごとき重量感のあるヘヴィ・ロックの要素は、オクサミがトニー・アイオミのようなギタリストから影響を受けていることをうかがわせるものである。


本作のクローズ「Won't Someone」も不思議な一曲である。メロトロンの演奏を背後に配して、抽象的な音楽世界を構築している。そして、スロウコアやサッドコアのような曲展開を経たかと思えば、やはり最後の最後でハードロック/メタルのラウドネスが激しく放出され、スパークを放つ。次に何が出てくるのか読めないのが、Oceanatorの曲の魅力だ。それは今後もこのアーティスト、ひいては、それにまつわるプロジェクトの最大の長所となりえるだろう。他人が何を言おうが、そんなことは全然関係ない。これからも「好きなもの」を突き詰めていくべし。

 



72/100



 

Best Track 「Cut String」

■Best New Tracks Naima Bock 「Feed My Release」 (September Week 1)


Naima Bock(ナイマ・ボック)は、ニューシングル「Feed My Release」を発表した。ささやかなアコースティックギターの弾き語りのスタイルを選び、古典的なフォークソングに回帰している。ブラスの演奏を追加し、ワールドミュージックの要素を控えめに押し出している。


ここにブラジルのサンパウロ近郊で育った歌手のコスモポリタンとしての姿を窺い知れる。同曲を聴くと分かる通り、音楽というスタイルは、制作者の人間性を鏡のように生々しく映し出す。音楽という媒体は万物を表し、製作者のいかなる些細な性質をも見落とすことがない。どのような脚色や演出が施されようとも、目を閉じれば、その本質は鮮明に浮かび上がって来る。


先行公開された2曲のシングルと同じように、オーガニックな雰囲気を持つ柔らかなポップスであることは明瞭だが、より大切なのは「この音楽には不自然さがない」ということである。背伸びをすることも偶には必要だけど、アーティストは等身大の自分自身を見つめるかのように、サラリとしたボーカルを披露する。そしてこの点に意外と胸に迫る何かが込められている。

 

ナイマ・ボックは「Feed My Release」について次のように語っている。

 

「『Feed My Release』は、ほとんど後悔について歌っている。ヴァイオリニストのオリバー・ハミルトンと一緒に歌い始めるまでは、長い間レコーディングする価値がないと思っていた曲なんだ」

 

「その後、ホリー・ウィテカーが素晴らしい歌声で加わり、キャシディ・ハンセン、クレム・アップルビー、マイター・ウェグマンも銘々のパートを加えて、今の形の曲が誕生した!! この曲はとても共同作業的なアレンジ&レコーディングで、みんなの貢献は本当にそれぞれのものなんだ」

 

ナイマ・ボックはロンドンのバンドGoat Girlを飛び出し、ソロ・アルバムで全く別の音楽性へと突き進んだ。ファースト・アルバムは、アメリカの主要メディアから大きな支持を獲得している。セカンド・アルバム『Below A Massive Dark Land』は9月27日にSUB POPから発売予定。

 

 

 「Feed My Release」

 

 

■Naima Bock(ナイマ・ボック) 、セカンドアルバム「Below a Massive Dark Land」を発表 9月27日にSub Popからリリース

 

©Frank Hamilton


ボルチモアのシンセ・ポップバンド、Future Islands(フューチャー・アイランズ)は、新しいワンオフ・シングル「Glimpse」を発表した。

 

この曲は、2024年初めにリリースされたバンドの最新アルバム『People Who Aren't There Anymore』のセッション中にレコーディングされた。フューチャー・アイランズとスティーヴ・ライトが共同プロデュースし、クリス・コーディとスティーヴ・ライトがミックスした。ジェイラ・スミスが制作したアニメーション・ビデオは以下からご覧下さい。

 

今年初め、4人組は7枚目のスタジオ・アルバム『People Who Aren't There Anymore』(4AD)をリリースした。批評家からも絶賛されたこのアルバムは、バンド史上初の全英トップ10入りを果たした。

 

20年近いキャリアを持つにも関わらず、自分たち自身とお互いに挑戦し続けるフューチャー・アイランズにとって、この最新作は新たな章の到来を告げるものだった。これまで彼らは、高いエネルギーのアンセムを追求してきたが、今回は内側に向き直り、新たなレベルの獰猛さを解き放った。



フューチャー・アイランズは今月末、バンクーバーでのソールドアウト2公演を皮切りに北米を回り、ニューオーリンズで幕を閉じる。

 


「Glimpse」

 
TV On The Radio


数年間活動を休止していたTV On The Radioが、デビュー・アルバム『Desperate Youth, Bloodthirsty Babes』の20周年記念リイシューと5年ぶりのライヴを発表した。

 

再発盤には5曲のボーナス・トラックが収録されており、そのうちの1曲、"Final Fantasy "を公開した。Desperate Youth, Bloodthirsty Babes (20th Anniversary Edition)は11月15日にTouch & Goからリリースされる。ボーナス・トラックと再発盤のトラックリスト、ライヴの詳細は以下をチェック。


TV On The Radioは2019年以来のライヴを発表しており、11月下旬から12月上旬にかけてニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンでレジデンスを行う。これらのライヴのラインナップは、ツンデ・アデビンペ、カイプ・マローン、ジャリール・バントンで、この3人が新しいプレス写真に写っている。プレスリリースによると、「創立メンバーのデイヴ・シテックはライブに参加できない」とのことだが、欠席についての詳細は明かされていない。


「Final Fantasy」は、Desperate Youth, Bloodthirsty Babesの曲 "Bomb Yourself "の初期のデモである。バンドのラスト・アルバム『Seeds』は10年前の2014年に発表された。




『Desperate Youth, Bloodthirsty Babes』20th Anniversary Edition

 


 Tracklist:


1. The Wrong Way

2. Dreams

3. King Eternal

4. Ambulance

5. Poppy

6. Don’t Love You

7. Bomb Yourself

8. Wear You Out

9. Staring At The Sun

10. You Could Be Love

11. Staring At The Sun (Demo)*

12. New Health Rock (single)*

13. Modern Romance (from the “New Health Rock” single)*

14. Final Fantasy (2004 recording)*

15. Dry Drunk Emperor (2005 recording)*


*bonus tracks


TV on the Radio Tour Dates:


November 25 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 26 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 29 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 30 - New York, N.Y. @ Webster Hall

December 4 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 5 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 7 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 10 - London, UK @ Islington Assembly Hall

December 11 - London, UK @ Islington Assembly Hall

December 12 - London, UK @ Islington Assembly Hall


 

 

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全英オフィシャル・アルバム・チャートで7位を記録したアルバム『Glasgow Eyes』の成功を受けて、ジーザス・アンド・メリー・チェインがニュー・シングル「Pop Seeds」をリリースした。


Fuzz Clubからリリースされたこの曲は、『Glasgow Eyes』のセッション中にレコーディングされたもので、バンドの原点を懐かしむことができる。


「Pop Seeds」は40年以上前のバンド結成の契機となった初期の心象風景を思い起こさせる。『Glasgow Eyes』のエレクトロニカ調のダークな雰囲気とは異なり、ジム、ウィリアム・リードの楽観主義を反映させた爽やかなサイケデリアを披露している。このリリースは、彼らの回顧録『Never Understood』の発売と同時に行われ、『Never Understood』は2種類の限定版でリリースされる。


レコード・ストア・エディションは、別のアートワークが施され、ウィリアム・リードがデザインした特注のスリップケースに収録。1500枚限定で、10月3日に発売。ホワイトラビット・エディションは11月21日に発売。オーディオブックの抜粋と4枚の限定ポストカードを収録した12インチレコードが追加。500枚限定プレスの1枚1枚にウィリアムとジム・リードのサインが付属。



「Pop Seeds」




 


昨年度のマーキュリー賞を受賞した今をときめくエズラ・コレクティヴが、M.アニフェストとムーンチャイルド・サネリーをフィーチャーした新曲 「Streets Is Calling」をリリースした。「Streets Is Calling」は、「Ajala」とヤズミン・レイシーをフィーチャーした「God Gave Me Feet For Dancing」に続くリリースで、バンドの次のアルバム『Dance, No One's Watching』に収録される。


この曲についてフェミ・コレソは、「"Streets Is Calling "は、みんなから電話やメッセージをもらった時の嬉しい気持ちを歌っている。ストリートからの電話だ。ダンスフロアに直行し、それらを自分たちのものにするんだ」


エズラ・コレクティブは、大絶賛を浴びたアルバム『Where I'm Meant To Be』で、31年の歴史の中で初めてマーキュリー賞を受賞したジャズ・アクトとなった。その他、11月15日にロンドンのOVOアリーナ・ウェンブリーでヘッドライナーを務める初のUKジャズ・アクト。昨年、ビルボード・トーキョーでの来日公演も行い、名実ともにUKジャズナンバーワンのグループになった。


エズラ・コレクティブの新作アルバム『Dance, No One's Watching』は9月27日にパルチザン・レコードからリリースされる。


「Streets Is Calling」



 Enumclaw 「Home In Another Life」

 

Label:Run For Cover

Release: 2024年8月30日

 

Review

 

アラミス率いるワシントン/タコマ出身のインディーロック・バンド、Enumclaw(イナムクロウ)がパワフルでダイナミックなロックソング集を引き下げて帰ってきた。『Save The Baby』よりハードロックなアルバムで、ドラムやベース、ギターのミックス/マスターは以前よりも明らかにヘヴィネスを強調している。イナムクロウはファイティングスピリット溢れるサウンドで、生半可なリスナーをノックアウトしにかかる。本作の迫力のあるディストーションギターは、80年代のUSハードロックやメタルの直系に当たり、グランジはもちろん、Dinasour Jr.のJ マシスとルー・バーロウの息のとれたコンビネーションを思わせる叙情的なオルトロックへの愛情が余さず凝縮されている。ワイルドさと繊細さを兼ね備えたロックサウンドに心酔しよう。

 

ワシントン/タコマのバンドの一番の魅力は、大型のハーレーで荒野をひとり突っ走るようなギターサウンドの迫力、安定感のあるドラム、ベース、そして、繊細さとダイナミックさを兼ね備えたアラミスの絶妙なボーカルスタイルにある。これはデビュー・アルバムと同じように、『Home In Another Life』の主眼ともなっている。彼らのロックサウンドは、以前よりも磨きが掛けられ、そして病気のことなど、人生の変化やその中で感じられる恐れが歌われることもある。

 

「I'm Scared I'll End Up All Alone」は孤独に対する恐れがタイトルに据えられ、それらの恐ろしさをかいくぐるようにして、パワフルなハードロックソングが紡がれていく。アラミスのボーカルをバックアップするのは、J Mascisのようなトレモロを活用した苛烈なディストーションサウンドのギター、そして、パンクロックの影響下にあるリズム・セクションである。彼らのサウンドは、驚くほど直情的であるものの、また同時に、グランジ誕生前夜のハードロックバンドがそうであったように、痛快なロックソングの原初的な魅力を呼び覚ます。「Not Just Yet」でも、イナムクロウの志すサウンドに全くブレはない。デビュー・アルバム『Save The Baby』の頃から引き継がれるパワフルなロックが哀愁のあるオルタナティヴの要素と結び付けられ、パンキッシュな響きを織り交ぜ、タイトルの部分でシンガロング性を沸き起こす。以前よりもドラムやギターの音像はコンプレッサーにより極大になり、迫力味とリアリティを帯びることがある。


ただ、『Home In Another Life』は、デビューアルバムのようなハードロック一辺倒のサウンドというわけではない。「Sink」では、Dinosaur Jr.の90年代のサウンドに触発されており、アコースティックギターをメインに、オルタナティヴ・フォーク寄りのアプローチに傾倒している。これがルー・バーロウのソングライティングと同様に、ローファイの要素と結び付けられ、エモーショナルな一面を強調させ、おのずとアルバムの序盤の収録曲の流れに少しの変化を及ぼしている。デビュー作よりも、多彩な音楽を制作しようというバンドの意図も伺い知れる。続く「Spots」ではオーバードライブを掛けたベースを元にして、グランジロックの原点に立ち返ろうとしている。このジャンルは、泥臭い感覚やファッションに象徴される汚れた感覚が特徴であったが、イナムクロウはそれらのグランジの中核にあるサウンドを受け継いでいる。



イナムクロウのサウンドには、オルタナティヴロックやパンク、そしてグランジの他、90年代ごろのエモのテイストが漂うこともある。「I Still Feel About Masturbation」は、これまでにバンドが書いてきた曲の中で最も若く、そして切ない感覚に縁取られている。エモに内在する若さと内省的な感覚を織り交ぜ、バンド特有のパンキッシュなサウンドで彩っている。その他、アメリカン・フットボールやそのフォロワーのサウンドに近い「Haven't Seen That Family In A While, I'm Sorry」では、セッションを基軸に精細感のあるロックサウンドを構築している。この曲もまた、デビュー・アルバムには見受けられなかったバンドの新たな挑戦を刻印している。同じように、中盤のハイライトをなす「Grocery Store」では、エモの系譜にあるロックサウンドが続いている。フェイザーを掛けたギターサウンドに乗せ、アラミスは「サリーの馬鹿らしさ」について歌っている。A-Bというシンプルな構成から繰り広げられるロックサウンドは、90年代のグランジやDinasour Jr.のサウンドの継承の範疇にあるが、と同時に、彼らがデビュー時に話していた「オアシスのようなロックバンドになりたい」という憧れが、ブリット・ポップに近い清涼感のあるサウンドと結び付けられている。実際的に、アルバムの中では最も心を揺さぶられるような一曲である。そしてまたイナムクロウの新しいアンセムナンバーの誕生である。


 

アラミスはこれまでそれほど高い音程を歌ってこなかったが、続く「Change」において珍しく高いピッチを披露している。しかし、それは歌というより、彼の内的な苦悩をを外側に押し出した叫びであり、何か胸を鋭くかきむしられる思いがする。イナムクロウのサウンドは洗練されているわけでもなければ、ヒット・ソングの明らかな予兆があるわけでもない。しかし、にもかかわらず、部分的には惹きつけられるものがあり、夢中になってしまう箇所もある。これはイナムクロウがバンドセクションの中で、不器用でありながらも何ができるかを模索している最中だからであり、その範疇でグループとしての様々な体験を織り込んでいるからなのかもしれない。


そんな中で、ロックソングとして最も心をかき乱される瞬間がある。「This Light Of Mine」は、フロントパーソンの私生活の暗い部分から放たれる強固な光であり、また、内側からメラメラと燃え立つ、抑え難い生命力の輝きでもある。これをかき消すことは誰にも出来ない。それが彼とバンドが生きている証なのだから……。この曲の哀愁のあるサウンドは、90年代のPearl Jam、Alice In Chains、Soundgardenのグランジの核心に接近する箇所もあり、バンドとして新しいフェーズへと到達した瞬間である。もし、これらのワイルドさと繊細さを兼ね備えたサウンドに更なる磨きが掛けられると、ポスト・グランジのバンドとしてかなり良い線を行くかもしれない。

 

 


80/100


 

 

Best Track-「The Light Of Mine」