20年以上にわたり、エレクトロニックとアコースティックのタペストリーを編み込むようにして、ポップかつ実験的な手法で独自のポップ・サウンドを作り上げるデンマークの孤高のバンド、エフタークラング。


2021年の『Windflowers』に続き、通算7作目のスタジオ作品となる『Things We Have In Common』をリリース。この3年ぶりのアルバムで、2019年の『Altid Sammen』で始まり、『Windflowers』と続いたひとつの輪を閉じます。この3作において、よりシンプルで包括的な表現への扉を開くものであり、人間のつながり、人間と自然の関係、集団的な精神性と帰属というテーマを探求してきました。


『Things We Have In Common』において、マッズ・ブラウアー、ラスマス・ストールバーグ、キャスパー・クラウセンのトリオとともにエフタークラングを結成した創設メンバーで、2007年の2ndアルバム『Parades』を最後に脱退したピアニスト/作曲家のルネ・ムルゴーが久しぶりに深いレベルで関わり、9曲中7曲を共作しています。


バンドから遠ざかっていた間に、ルネはモルモン教会で育った女性と恋に落ち、スピリチュアルな側面に目覚め、身も心もモルモン教を受け入れました。しかし時が経つにつれ、彼は新たに見出した信仰を守り続けることが次第に難しくなり、やがて彼の信仰は答えのない疑問の重圧に押しつぶされそうになりました。そして2022年、ルネはモルモン教と決別した。


本作ではエフタークラングの主要メンバーである3人は、ルネのアイデアや音世界を受け入れる余地を作るために一歩引いています。それぞれ別々の道を歩んだ旅の先で、音楽の中で見つけた共通の居場所。"どこにも属さない、誰とも属さない状況で存在すること、そしてその中で一緒にいること"という、彼らの遊牧民的な帰属意識を表現したアルバム。


ルネ・ムルゴーの他にも多くのミュージシャンが参加。ベイルートことザック・コンドンをはじめ、フィンランド人ドラマー、タトゥ・ロンコ、ベネズエラ人ギタリスト、ヘクトル・トスタ、グアテマラ人チェリスト/シンガー、マベ・フラッティが重要なコラボレーターとなっています。またヨハン・ヨハンソンやダスティン・オハロランなどとの仕事で知られるイタリア人エンジニア、フランチェスコ・ドナデッロもこのアルバムに重要な足跡を残しており、「Animated Heart」と「To A New Day」で歌っているサウス・デンマーク少女合唱団も同様に重要な役割を果たした。


1stアルバム『Tripper』からちょうど20年。実験的な冒険心を持ち、変化し続けることを恐れないエフタークラングが辿り着いた場所。キャリア最高峰を更新するような、とても壮大で美しい作品です。

 

「Sentiment」 MV



【新作情報】 Efterklang 『Things We Have In Common』 - New Album 


デンマークのエレクトロニカ・アート・ポップのレジェンド、エフタークラング最新作長い精神的な旅の先、音楽の中で見つけた共通の居場所



<トラックリスト>

1. Balancing Stones

2. Plant

3. Getting Reminders

4. Ambulance

5. Leave It All Behind 


配信リンク/予約:  https://efterklang.lnk.to/TWHICYD


オススメ曲②③⑥



【公演情報】  Efterklang ''Japan Tour  2024''



【東京公演】

■日時: 2024年10月15日(火) 開場 18:30 / 開演 19:00

■会場: 新代田 FEVER https://www.fever-popo.com/


■料金: 前売 6,500円 / 当日 7,000円(共に1ドリンク600円別途)


■出演:

Efterklang

Tenniscoats


■チケット:イープラス https://eplus.jp/sf/detail/4123290001-P0030001

※スタンディング/整理番号順入場


■問い合わせ先 : Lirico [lirico@inpartmaint.com]



【京都公演】

■日時: 2024年10月17日(木) 開場 18:30 / 開演 19:00

■会場: CLUB METRO https://www.metro.ne.jp/


■料金: 前売 6,000円 / 当日 6,500円(共に1ドリンク別途)


■出演:

Efterklang

Tenniscoats


■チケット:イープラス https://eplus.jp/sf/detail/4125930001-P0030001

※スタンディング/整理番号順入場


■協力:night cruising


■問い合わせ先 : Lirico [lirico@inpartmaint.com]



【名古屋公演】

■日時: 2024年10月18日(金) 開場 18:30 / 開演 19:00

■会場: KD JAPON https://kdjapon.jimdofree.com/


■料金: 前売 6,000円 / 当日 6,500円(共に1ドリンク別途)


■出演:

Efterklang

Tenniscoats


■チケット:メール予約 [kdjapon@gmail.com]

※公演名・お名前(カタカナ)・人数・連絡先をご明記のうえお申し込み下さい。

※スタンディング/整理番号順入場


■問い合わせ先 : Lirico [lirico@inpartmaint.com]



【東京公演】

■日時: 2024年10月20日(日) 開場 18:00 / 開演 18:30

■会場: 表参道 WALL&WALL http://wallwall.tokyo/


■料金: 前売 6,500円 / 当日 7,000円(共に1ドリンク700円別途)


■出演:

Efterklang

aus


音響:Fly sound


■チケット: Peatix https://efterklang20241020.peatix.com

※スタンディング/整理番号順入場



【Efterklang: プロフィール】


デンマークのコペンハーゲンの3人組バンド。マッズ・ブラウアー、キャスパー・クラウセン、ラスマス・ストールバーグという幼少期からの友人3人によって、2000年に結成。2003年に自主レーベルRumraketよりEP『Springer』でデビュー。


2004年にはUKのレーベルLeafと契約し、1stアルバム『Tripper』をリリース。エレクトロニカとチェンバー・ミュージックが高次元で融合したサウンドは国際的に高い評価を得た。2010年には世界的名門レーベル4ADと契約し、3rdアルバム『Magic Chairs』をリリース。


2012年に4thアルバム『Piramida』をリリースした後、バンドは伝統的なアルバム・サイクルから離れ、フィンランドのパーカッショニスト、タトゥ・ロンコ(Tatu Rönkkö)とリーマ(Liima)を結成し、2作のアルバムをリリース。


またコペンハーゲン・オペラ・フェスティバルの一環として、没入型オペラ『LEAVES: The Colour of Falling』を共作。2019年にはベルギーのバロック・アンサンブルB.O.Xとのコラボレーションによる全編デンマーク語のアルバム『Altid Sammen』をリリース。2021年の『Windflowers』に続き、2024年最新作『Things We Have In Common』をリリース。映画のような魅惑的な楽曲と、不朽の実験性と包容力で、長年にわたって熱狂的なファンを増やしてきた。

Nilüfer Yanya、新作アルバム『My Method Actor』を発表    



  ロンドンのNilüfer Yanya(ニルファー・ヤンヤ)はクラブビートからネオソウル、ラテンミュージック、ヒップホップ、グランジをはじめとするオルタナティヴロックまでセンス良く吸収、2020年代のニュー・ミュージックの境地を切り拓く。ステージでの佇まいからは偉大なロックスターの雰囲気が醸し出されている。

 

すでに前作アルバム『Painless』はピッチフォークのBest New Albumに選ばれているが、ピッチによる見立ては的中だったかもしれない。ともあれ、次のアルバムでロンドンのアーティスト、ニルファーヤーニャは、ほぼ確実に世界的なロックシンガーとして目されるようになるだろう。

 

ロンドンのシンガーソングライターNilüfer Yanya(ニルファー・ヤーニャ)は2024年4月下旬に、イギリスのレーベル、Ninja Tuneとの契約を結んだ。この契約ははっきりいうと、晴天の霹靂である。なぜならブレインフィーダーのような傘下からの昇格ではなく、横のスライドのような意味を持つからだ。もっと言えば、ロンドンのダンスミュージックの老舗への浮気とも言える。もしかすると、ニルファーによる”オルタナティヴ宣言”と言っても差し支えないかもしれない。

 

『Painless』まではATO/PIASに所属していたシンガーの新契約は、アーティストにとって新しい旅の始まりを意味する。このニュースとともに新曲「Like I Say (I runaway)」を発表した。

 

この新曲は、2022年リリースのアルバム『PAINLESS』以来の作品である。「Like I Say (I runaway)」は、ヤーニャの妹モリー・ダニエルが監督したミュージック・ビデオと共に発表された。ニルファーが家出した花嫁に扮するこの曲は歪んだディストーションギターが特徴的。 90年代のオルタナティヴ・ラジオを彷彿とさせるコーラスの下で歪んだギターのクランチが強調されている。

 

シングルのテーマについて、ニルファーは次のように語っている。


「時間は通貨のようなもの。二度と取り戻せない。それに気づくのはとても大変なことなの」


ニューシングルは、ヤンヤのクリエイティブ・パートナーであるウィルマ・アーチャー(スーダン・アーカイブス、MFドゥーム、セレステ)との共同作業で書かれた。これらのミュージシャンは過去に『PAINLESS』やデビューアルバム『Miss Universe』でコラボレーションしている。

 

 

「Like I Say (I runaway)」- Best New Tracks

 

 

2nd Single- 「Method  Actor」

 

  ニルファー・ヤンヤは「Method Actor」の発表とともに『My Method Actor』を正式に発表した。ニューヨーク・タイムズ紙が「対照的なテクスチャーを楽しむ」と評したほか、ザ・フェイダー紙が "衝撃的な復活 "と評した最近のシングル「Like I Say (I runaway)」に続くものだ。


ヤンヤはクラブビートからネオソウル、オルタナまでをセンス良く吸収し、2020年代のニューミュージックの境地を切り拓く。簡潔性に焦点を当てたソングライティングを行う彼女だが、そのなかにはスタイリッシュな響きがある。そして音楽そのものにウィットに富んだ温かさがある。それは、シニカルでやや刺々しい表現の中に含まれる奥深いハートウォーミングな感覚でもある。これはアルバムの前に発表された「Like I Say(I Runaway)」によく表れている。


アルバムのリードカットでタイトル曲でもある「メソッド・アクター」は、イントロから次に何が起きるのかとワクワクさせるものがある。やがてオルタナティブロックから多角的なサウンドへとつながり、先が読めない。アウトロでは予想外の展開が待ち受けている。それはたとえば、ショートストーリーのフィルムの流れをぼんやりと眺めるかのような不可思議な感覚に満ちている。


このシングルではアーティストが無名の登場人物の立場になって、4分弱のミニ・ライフ・ストーリーを描いている。付属のビジュアライザーは、スペインのベニドームにある古いホテルで撮影され、ニルファーが曲のストーリーを共有するために座っている様子を捉えたワンテイクのビデオである。このビデオは下記よりご覧いただける。

 


「Method  Actor」- Best New Tracks


 

3rd Single -  「Call It Love」

©︎Molly Daniel


  ニルファー・ヤンヤがニューアルバム『My Method Actor』の第3弾シングル「Call It Love」を公開した。この曲は先行シングル2曲とは異なり、R&Bテイストのアプローチが組み入れられ、涼し気な印象を放つ。ギターやシンセ、ストリングス、スティールパンなどを導入し、オルトフォークにトロピカルなイメージを添えている。しかし、こういったゴージャスなアレンジは旧来にはそれほど多くなかった。以前よりも遥かにトラック自体が作り込まれている印象を受ける。

 

ヤンヤはプレスリリースでこの曲についてこう語っている。

 

「自分の直感を完全に信じるには、ある種の勇気が必要だ。この曲は、自分の天職に身を任せ、その天職が自分をどこかに導いてくれる。それがあなたを蝕み、破滅させるのです」


ヤンヤは、いつものクリエイティブ・パートナーであるウィルマ・アーチャーと二人きりでこのアルバムに取り組んだ。ヤンヤは以前のプレスリリースで、「このアルバムは、その点で最も強烈なアルバムです。なぜなら、私たち2人だけだから。私たちは誰もバブルの中に入れなかった」と説明する。


このアルバムを書いているとき、ヤンヤは20代後半にさしかかり、ミュージシャンとしてのプレッシャーと格闘していた。

 

「夢見ることは問題解決に似ていると言われるようにね。ああ、いい感じ。いい感じ。理にかなっている。でも、なぜそうなのかはわからない。これは創造的な脳の一部を使っているようなもの」

 

  「Call It Love」

 



 4th Single 「Mutations」




ニルファー・ヤンヤはプレスリリースでこの曲について次のように語っている。「 "Mutations "は状況によってもたらされる変化を扱っています。これは灰の中から蘇る不死鳥のようなものではなくて、何百万という小さな決断や行動が自分の存在を形成していく中で常に起こる微妙な変化でもある。私にとってそれは、サバイバルのようなものを意味している。単なる変容の過程というよりは、環境や周囲の環境から生まれるもので、生き残るために必要なものだ。突然変異は、あなたが経験しなければならないこと、つまり進化しなければならないことなのです」

 

『My Method Actor』はヤーニャのサード・アルバムで、2022年のアルバム『PAINLESS』と2019年のデビュー・アルバム『Miss Universe』(いずれもATOからリリース)に続くものだ。


ヤンヤは、いつものクリエイティブ・パートナーであるウィルマ・アーチャーと二人きりでこのアルバムに取り組んだ。「その点で、これは最も強烈なアルバムです」とヤンヤは語っている。


ニルファー・ヤンヤの妹、モリー・ダニエルが「Mutations」のビジュアライザー・ビデオを監督した。

 

 

「Mutations」


5th Single 「Made Out of Memory



ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター、ニルファー・ヤンヤが、ジャック・サンダースと共にBBCラジオ1のニュー・ミュージック・ショーで新曲「Made Out Of Memory」を公開した。


この曲は、2024年9月13日にリリース予定の彼女のサード・スタジオ・アルバム『My Method Actor』からの4枚目のシングルである。ヤンヤは、プロデューサーのウィル・アーチャーと共にこの曲を書いた。


「この曲は、歌詞のアイディアのように、みんなが他の人たちの思い出でできているということについて歌っているんだ。それが私たちを人間たらしめ、私たちを私たちたらしめているようなものなの」。


「歌詞を書くときは、少し深く掘り下げる必要があると思うんだけど、どんな内容になるのか前もって考えることはできないから、後で明らかになるのよ」と彼女は付け加えた。


ニュー・アルバムはウィル・アーチャーがプロデュースした11曲入り。レコーディングはロンドン、イーストボーン、ウェールズで行なわれた。2022年のアルバム『Painless』以来2年ぶりのアルバムで、彼女の新しいレーベルNinja Tuneからの最初のリリースとなる。


「Made Out of Memory

 

 

 

6th Single  「Just a Western」



今週金曜日にリリースされるニューアルバム『My Method Actor』に先駆け、ニルファー・ヤンヤが最終シングル「Just a Western」をリリースした。


「メロディーは自由な感じがするけど、歌詞は "入る道も出る道もない "というもので、自分の運命と向き合うというコンセプトなんだ」とヤーニャはプレスリリースで新曲について語っている。「私が運命を信じているかどうかはわからないが、この曲ではそれがリアルに感じられる」

 

 

「Just a Western」



Nilüfer Yanyaの『My Method Actor』は9月13日にニンジャ・チューンからリリースされる。



Nilüfer Yanya『My Method Actor』



Label: Ninja Tune

Release: 2024/09/13


Tracklist:


Keep On Dancing

Like I Say(I Runaway)

Method Actor

Binging

Mutaitions

Ready For Sun(touch)

Call It Love

Faith's Late

Made Out Of Memory

Just A Western

Wingspan

 

 

 

Nilüfer Yanya 2024 Tour Dates:


North American Tour Dates:


9/28 - Philadelphia, PA @ Underground Arts*


9/30 - Washington, DC @ Black Cat*


10/1 - New York, NY @ Brooklyn Steel*


10/2 - Boston, MA @ Royale*


10/4 - Montreal, QC @ La Tulipe*


10/5 - Toronto, ON @ Phoenix Concert Theatre*


10/6 - Cleveland, OH @ Grog Shop+


10/7 - Chicago, IL @ Metro+


10/9 - Nashville, TN @ Basement East+


10/10 - Carrboro, NC @ Cat’s Cradle+


10/11 - Atlanta, GA @ Terminal West+


10/13 - Lawrence, KS @ Bottleneck+


10/15 - Denver, CO @ Meow Wolf+


10/18 - Vancouver, BC @ Hollywood Theatre+


10/19 - Seattle, WA @ The Crocodile+


10/20 - Portland, OR @ Wonder Ballroom+


10/22 - San Francisco, CA @ August Hall+


10/24 - Los Angeles, CA @ Fonda Theatre+

 


supported by:


Lutalo & Eliza McLamb = *


Angélica Garcia & Lutalo = +


EU & UK Tour Dates:


11/24 - Brussels, BE @ Botanique Orangerie


11/25 - Amsterdam, NE @ Melkweg Old Hall


11/26 - Berlin, GE @ Kesselhaus


11/28 - Paris, FR @ La Bellevilloise


11/30 - Brighton, UK @ Concorde 2


12/2 - Bristol, UK @ Fleece


12/3 - London, UK @ HERE at Outernet


12/4 - Nottingham, UK @ Rescue Rooms


12/5 - Manchester, UK @ Academy 2

 


ニュージーランドのシンガーソングライター、Fazerdaze(アメリア・マレー名義)は、ニュー・アルバム『Soft Power』を発表した。


このアルバムは11月15日にsection1/Partisan Recordsとオーストラリア/ニュージーランドではButtrfly Recordsからリリースされる。リード・シングル「Cherry Pie」は、フランシス・カーターとの共同監督によるビデオとともに本日公開された。


「『Cherry Pie』は、10年近く前に初めてLAに海外旅行した時に、携帯電話の歌詞から始まった。31歳になった今、この曲は様々な自分を旅してきた。フランシスと私は、一人旅をするキャラクターを中心にビデオを制作し、もう役に立たないものを手放して、ついにハンドルを握り、次の時代へと舵を切った」


Fazerdazeの2017年のデビュー作『Morningside』と2022年の『Break EP』に続く新作を紹介し、彼女はこう語った。


 「ソフト・パワーへようこそ。これは、私の人生で最も暗く、孤独で、波乱に満ちた数年間に私が作り出したものです-女性として、世界、音楽業界、そして愛だと思っていたものをナビゲートしてきました。私の最も恐ろしい瞬間において、このアルバムは希望、目的、そして光を与えてくれる錨だった。『ソフト・パワー』をようやく皆さんと分かち合うことができて、とても安心し、満足しています」


「Cherry Pie」


Fazerdaze 『Soft Power』


Label: Parstisan
Release: 2024年11月15日

Tracklist:


1. Soft Power

2. So Easy

3. Bigger

4. Dancing Years

5. In Blue

6. A Thousand Years

7. Purple

8. Distorted Dreams

9. Cherry Pie

10. Sleeper

11. City Glitter


 

©︎Logan White


ナンディ・ローズ(Nandi Rose)ことHalf Waifは、新曲「The Museum」をリリースした。リード・シングル「Figurine」に続く新曲で、次作『See You at the Maypole』に収録される。


「私の小さな町のメイン・ストリートの一番上に倉庫があるんだけど、そこがシェーカー教徒の芸術を展示する美術館になっているのよ。私の家からすぐ近くだから、いつも建物の前を通ることがあるの。『ミュージアム』を書いたとき、世界が気候危機の頂点に達しようとしているときに、ミュージアムを作ることが、いかに美しい妄想であるかをぼんやり考えていた。外ではすべてが崩壊しているのに、真っ白な壁の空間で家具のかけらを保存しておくという考え方.....」


「最近、アイスランドの活火山で人々が休暇を過ごしているという報道の見出しも読んだことも記憶に灼きついている。黙示録の瀬戸際の観光。その一方で、夫と私は、家族を作り、未来を築くことについて話していた。そして私は、地球が爆発する一方で人々が自撮りのポーズをとるような、このような世界に子供を送り込むことの意味する責任としばらく格闘していました」


2021年の『Mythopoetics』に続く『See You at the Maypole』は、ANTI-から10月4日にリリースされる。

 

 

 「The Museum」




◾️HALF WAIF、ニューアルバム「SEE YOU AT THE MAYPOLE」を発表

Oscar Lang [pieces] 

 

Label: Self Release

Release: 2024年9月6日

 

 

Review

 

イギリス/ロンドンのシンガーソングライター、Oscar Lang(オスカー・ラング)は、個人的には一番好きなミュージシャンの一人である。日本の大型レコード店では、「ギターロックの鬼才」と紹介されることもあった。


それには大きな理由があり、ラングは一般的に、これまでのミュージシャンとしてのキャリアの中で、作風を一度たりとも固定したことがなく、柔軟性のあるソングライティングや作曲をおこなってきたからである。最初期は、サイケデリックなギターロック、ローファイ、スラッカー・ロック、そして、Dirty Hitから昨年発表された最新作『Look Now』では、ザ・ヴァーヴの影響下にあるポスト・ブリット・ポップから、ビリー・ジョエル調の古典的なピアノ・バラードに至るまで、広汎にわたる音楽性を発揮し、毎度のようにリスナーに驚きをもたらしてきた。


[pieces] はアーティストの駆け出しの頃の録音を集めたもので、ベッドルームでの作品を中心に構成されている。オスカー・ラングのファン向けのマニアックなアルバムだろうと思いきや、意外なことに、先週発売されたアルバムの中では一線級のクオリティを誇っている。既発の2作のフルレングスとは異なり、70年代のUKのフォークミュージックからの影響や、昨年のアルバムの素晴らしいピアノバラード曲がどのように完成へと導かれていったのか。オスカー・ラングの最初期のデモソング集を聴くと、その音楽的な変遷を捉えることが出来るかも知れない。


特に昨年のアルバム『Look Now』で初期の集大成をなしたピアノバラードと、メロディー構成の天才的な才覚は、この一、二年で突発的に出現したのではなくて、若い時代からのピアノの演奏の経験の延長線上にあったことが痛感できる。オープナー「could november everything」を聞けば、ラングのメロディーセンスと作曲そのものをピアノの演奏と結びつける才覚は、活動最初期から傑出していることが理解出来る。そして彼は、それを70年代のビンテージのUKフォークと結びつけている。早書きの作品なのかもしれないが、ここには、この後、ソングライターとして一歩ずつ成長を続けるオスカー・ラングの出発点を見出すことが出来るはずである。

 

現在では商業的なロックや、ポピュラーソングなど、ライブでの聞こえかたを意識した作曲も行うラングであるが、瞑想的なピアノバラードが最初期のソングライターの音楽的なテーマであったことが伺える。そして、やはり、このアーティストの作曲の基礎となるのが、ピアノとギターであったことが分かる。「holding u」では、ジョン・レノンのデモトラックのようなフォーク・ソングを意識しているし、さらに、「confused」においては、デビュー・アルバムの頃のサイケフォークの片鱗を把捉出来る。これはデビュー作でアコースティックからエレクトリック・ギターに作曲の方向性が組み替えられたことで、実際的にオスカー・ラングの音楽の印象が華やかになったのである。「im doing great」では、エド・シーラン以降の作曲からプロデュースまでを独力で行うという現代的な音楽の制作プロセスを受け継いだ上で、それを次世代のポピュラーシンガーとしてどのように組み上げていくのか。その過程や変遷を捉えることが出来る。


そして、音楽的なバリエーションの多彩さは後付けのものではなく、最初期の時代からしっかりと備わっていたことが分かる。現在では、ハイファイに変化したオスカー・ラングの音楽は、最初期にはテープ音楽のようなローファイの側面の影響も内包されていたことは、「too scared」を聞けば明らかである。もちろん、デビューアルバムのサイケデリックな音楽性の片鱗を同曲に見出すこともさほど困難ではない。同様に、続く「hope full-e」では、ローファイ/ミッドファイの影響をとどめている。また、直截的に二作のフルレングスに登場することはなかったが、オスカー・ラングのソングライティングには、ネオソウルからの影響も含まれていることが『pieces』を聴くとはっきりする。Samphaを彷彿とさせるメロウなイントロからミッドファイの影響を絡めたポップソングには新旧のUKロックやフォークの多彩な側面が反映されている。


デモソング集なので、脈絡がなく、とりとめのないように思える本作。しかし、アーティストの音楽的な興味がどのように変遷していったのかを断片的に捉えるのに最適で、意外とオリジナルアルバムのような流れを持ち合わせていることに大きな驚きを覚える。「just 2 b with u」も同様に、オスカー・ラングのソングライティングに、ローファイやスラッカーロックの影響がちらつくことを示している。ただ、それは単なる荒削りな駄曲に終わらず、ホーンセクションのアレンジを見るとわかる通り、この時代にはプロデューサー的な才覚が立ち表れていることに驚く。アルバムの最後に収録されているラフなデモソング「fadein」もオルタナティヴフォークとして聞かせる一曲で、この歌手らしい独特の雰囲気が音楽からぼんやり立ち上ってくる。それはまだ完全な形にはなっていないかもしれないが、以降の良質なポップソングやロックソングの萌芽は、これらのベッドルームの録音の時代から目に見える形で出現していたのである。



80/100




 


Wild Pink(ジョン・ロス率いるバンド)は、新曲「Eating the Egg Whole」をリリック・ビデオで公開した。10月上旬にFire Talkからニューアルバム『Dulling the Horns』の収録曲。前作シングルと同様にアメリカン・ロックのワイルドな感覚が軽快なギターロックの中に揺らめく。


ロスはプレスリリースでこの新曲についてこう語っている。「この曲は、Netflixでマイケル・ジョーダンのドキュメンタリーを観ていた時にできたんだ。僕はオリオールズのファンとして育ったんだけど、ジョーダンとDMVのスポーツのつながりが勝手に生まれたんだ。この曲は、テレビを見たり、スマホをスクロールしたりすることがいかにリラックスできないかということを歌っている。ライヴで演奏するのがとても楽しい曲で、今ではお気に入りの曲のひとつだ」


ワイルド・ピンクの前作アルバム『ILYSM』は2022年にロイヤル・マウンテンから発売され、2021年の『A Billion Little Lights』に続く作品だった。

 

『ILYSM』は、ロスの癌診断にインスパイアされた。『Dulling the Horns』は、そのトラウマの向こう側にいるロスを発見する。以前のプレスリリースでロスは説明している。「君はズームアウトする。でも、『Dulling The Horns』は、物事にどう対処し、前進し、ただ創作を続けるにはどうしたらいいかを考える気持ちから生まれた」 

 


「Eating the Egg Whole」

 


 


アメリカのフォークシンガー、Cass McCombsがサプライズアルバム『Seed Cake On Leap Year』をDominoからリリースした。本作はアーティストの初期の未発表曲を収録。渋さと円熟味を兼ね備えたアルバムで、シンガーソングライターの若い時代の音楽的な魅力を再訪出来る。

 

1999年から2000年にかけてキャス・マコームスがバークレーに住んでいた頃、サンフランシスコのフルトン924番地にあるジェイソン・クイーバーのアパートで録音された初期の未発表曲集『Seed Cake On Leap Year』。1990年代後半のサンフランシスコのベイエリアには、Papercuts、Casiotone for the Painfully Alone、Chris Cohen's Curtains、Mt.Egyptなど、特別なアーティストのコミュニティが存在した。最大限の誠実さと親密さがモットーで、音楽は親しい友人とだけ共有されることが多かった。グラフィティ・ライター、スケーター、60年代の古株たちは、決して遠い存在ではなく、心の片隅にもいなかった。


常に前へ、前へと進むというマインドセットを貫いたマッコムスのキャリアにおいて、この時期は短いながらも実りの多い時期であった。『Seed Cake On Leap Year』の驚くべき点は、これらの楽曲がいかに生き生きと生々しく、洞察と驚きに満ち、まだ来ていないものすべてと対話しながら残されているか、ということ。

 

 

 

 

Cass McCombs  『Seed Cake On Leap Year』


Tracklist:

1I’ve Played This Song Before

2Anchor Child

3Baby

4Gum Tree

5Wasted Again

1If I Was A Stranger

2You’re So Satanic

3Always In Transit

4What Else Can A Poor Boy Do

5Northern Train


Charlotte Day Wilson


カナダのシンガー・ソングライター、Charlotte Day Wilson(シャーロット・デイ・ウィルソン)が、最新アルバム『Cyan Blue』収録曲のリワーク3曲を収録した『Live at Maida Vale EP』をリリースした。このEPでは、ジャズ風のアレンジに加えて、シンガーの圧倒的な歌唱力を堪能できる。


特別バージョンのEPには、「Cyan Blue」、「Sleeper」、「I Don't Love You」のライヴ・バージョンが収録されており、いずれも象徴的なMaida Valeスタジオで行われたベンジーBのBBCラジオ1の番組のために録音された。


シャーロット・ウィルソンの瑞々しいヴォーカルとスタインウェイ・ピアノを前面に押し出したストリップ・ダウン・セットは、多くの人に愛された彼女のアルバムに新鮮なテイクを提供している。最新作『CYAN BLUE』は、長年のコラボレーターであるジャック・ロションとレオン・トーマスと共に制作され、メランコリアとサウンドの実験的なブレンドが賞賛されている。

 

 

  

 


ドクター・ドレーとエミネムの2022年スーパーボウル・ハーフタイム・ショーにスペシャルゲストとして出演したケンドリック・ラマーが再び、2025年2月9日にニューオーリンズのシーザース・スーパードームで開催される試合中盤のスペクタクルのヘッドライナーを務める。このショーはFOXで生放送され、ジェイ・Zとロック・ネイションがプロデュースし、6年目を迎える。


「ラップ・ミュージックは今でも最もインパクトのあるジャンルだ。その理由を世界中に思い出させるために、僕はそこにいる」とラマーは語り、ジェイ・Z、ジェシー・コリンズ、そしてスヌープ・ドッグ、エミネム、メアリー・J・ブライジ、50セントといったゲストと共に、2022年の番組でエミー賞の優れたライブ・バラエティー・スペシャル部門を受賞した。


今度のショーは、ラマーと長年のコラボレーターであるデイヴ・フリーのpgLang社がクリエイティブ・ディレクターを務める。エミー賞3部門にノミネートされ、1億2930万人の平均視聴者数を記録したスーパーボウルLVIIIでのアッシャーの出演に続くものである。


アメリカンフットボールのプロリーグ「NFL」の優勝決定戦であるスーパーボウルは、国内外の観客を多く引きつけ、全米視聴率ランキングを独占。スーパーボウルが開催される2月の第一日曜日は「スーパーサンデー」と呼ばれ、「街に人がいなくなってピザ屋のバイクしか走らなくなる」「ハーフタイムにトイレ休憩の人が殺到し水道管が破裂する」などの都市伝説を中心とした“スーパーボウル現象”が囁かれるほどの人気を誇る。2015年のForbesの発表によると、5億8,000ドルのブランド価値があるとされる。放映権料は各テレビ局が年間約10億ドルを支払うと言われている。レギュラーシーズンの各試合、プレイオフなども含めた試合の放送に対して、NFLに決められた条件で放映権料を支払う。テレビ中継の視聴率は、40%以上を記録する。



 【Jazz Age】Vol. 3  Sonny Rollins  ハード・バップ、ビバップの飽くなき開拓者 カリプソとジャズのクロスオーバー


  モダンジャズの開拓者、ソニー・ロリンズは、当初、マイルス・デイヴィスの人脈から登場したプレイヤーという側面では、先に紹介したビル・エヴァンス、そしてジョン・コルトレーンに近い人物である。

 

  そして、ドラッグ関連での私生活の悪辣っぷりは、この当時のジャズ・プレイヤーの象徴的なエピソードと言えるだろう。もうひとつ現実的な側面では、駆け出しのミュージシャンにはそういったものは高価で彼の給料ではまかないきれなかったのだろう。しかし、必ずしもソニー・ロリンズは生涯にかけて品行方正であったなどとは言えないが、やはり音楽家、演奏家としては傑出していたといわざるをえない。


  ソニー・ロリンズの最も優れた点を挙げるとするなら、ジャズの文脈でいえば、ハードバップ、そして、ビバップを生涯に渡って探求しつづけたこと、さらにリズムやビートに核心をもたらしたこと、次いで、彼のルーツであるカリプソやボサノヴァをはじめとするラテン音楽をジャズの文脈に引き入れたことだろう。


  これはソニー・ロリンズが現代のヒップホップミュージシャンのようにビートの革新性に夢中になっていたことを裏付ける。また、ロリンズはいっとき、クラシカルなニューオリンズ・ジャズに傾倒したこともあったが、基本的には、ハード・バップ、そして時々気まぐれに、モード奏法をベースにしたジャズをレコーディングしたのだった。そしてまた、ソニー・ロリンズの作品を語る上で最重要なのは、アーカイブやコンピレーションは例外として、彼が作品として冗長なものをほとんど残さなかった。ライブ録音を含めて基本的には、現在のミニアルバムやEPのような小規模の構成を持つ作品がきわめて多いことに気がつく。ここにロリンズの作曲家としての流儀が込められている。簡潔さを重視し、退屈なものはいらないということだ。

 

  そういった他人には譲れないプライドにも似た感覚、わが道を行くというような矜持にも似た思いは、流動的なリズムを持ち、そして絶えず調性や旋法が移り変わるバップ/ハードバップのジャズの形式に、彼の心を惹きつけた主な要因でもあったのだろう。もちろん、作曲家の音楽と人生が無関係であることはないことを見ると分かる通り、実際的に、そういった冒険心やアバンチュール好きの精神は、彼の転変多き人生に色濃く反映されていると見ても違和感がない。


  ロリンズは音楽の英才教育を受けた。9歳のとき、ピアノを習い始め、11歳の頃には、アルト・サックスを演奏しはじめ、ハイスクールではテナー・サックスを演奏しはじめた。派手さ、そしてなにより華美な感覚を愛する心は、ソニー・ロリンズのサックス・プレイヤーとしての基礎や素地を形成することになる。19歳になろうというとき、ソニー・ロリンズは最初のレコーディングを行い、自作曲「Audobon」を制作した。すでにこの頃にはバド・パウエルと共演を果たしている。若い頃、ロリンズは英雄にあこがれていた。彼の若い頃のメンターは、チャーリー・パーカー。その後、マイルス・デイヴィスのバンドに参加し、バンドリーダーとして録音を行う。1951年。デイヴィスと出会って一年後のことだった。最初の年代では、憧れのチャーリー・パーカーと共演を果たす。ようやく念願がかなったのは、二年後のことである。これもやはりマイルス・デイヴィスとの共演から発生した偶発的な出来事であった。


  ビル・エヴァンスの私生活のスキャンダラスな薬物問題とおなじように、最も流れに乗っていたロリンズの人生に暗雲が差し込んだことがあった。それがすなわち、「音楽家としての生命の危機」である。マイルス・デイヴィスのバンドでジャズプレイヤーとして活躍後、彼はヘロインの依存治療に追われる。実際的には、薬物依存を克服するまで、音楽家としてのキャリアを中断させる。その頃のロリンズにとって、ニューヨークはあまりに巨大で手に負えない都市だったのか。ニューヨークからシカゴに移んだソニー・ロリンズは、ほどなくタイプライター修理工場で勤務した。肉体労働者に混じり汗水を流すロリンズの目の端を幻影がかすめる。数年前、彼は音楽家であったが、その頃は何者でもなくなっていた。ジャズ・プレイヤーとして最も注目を浴びていた数年前のことが、まるで幻や夢のように背後に遠ざかっていく。


  しかし、そういった実際的な暮らしから汲み出されたきたもの、泥臭い感覚や地に足が付いた感覚、何かの完成させるためには近道はありえず、一歩ずつ足取りを進めていく意外の道はひとつも存在しないこと。こういった工場勤務時代のロリンズの経験は間違いなく、その後のジャズ・プレイヤーとしての大成への布石となったと言える。


  彼は、この時代、着実に何かを積み重ね、成功を掴むためには小さな体験を繰り返すことを学んでいたのだろう。1956年、初のリーダーとして録音したアルバム「サキソフォン・コロックス」で最初の成功を掴み、ジャズプレイヤーとしてようやく日の目を見ることになる。ブルーノート、コンテンポラリー、そしてリバーサイドなど名門のレーベルにカタログを残し、そしてカーネギーホールでのコンサートを成功させた。ロリンズの最初の黄金時代である。

 

 

  その後、ロリンズはしばらく表舞台から姿を消した。一般的な理由は「自分の演奏を見つめなおす」という他の人々から見ると、解せないようなものだった。1950年代後半には、まったくライブや録音から遠ざかり、数年間、みずから練習に精励していたという。以後、再び、1960年代に入り、RCAと契約を結び、ジム・ホールなどを招聘し、彼の代表作の一つである『The Bridge』に制作に取り掛かる。同年、『What’s New』を発表し、量産体制に入った。この頃、ちょうどアヴァンギャルド・ジャズの最初のウェイブが沸き起こったが、新し物好きのロリンズはもちろん、その流れに無関心ではいられなかった。ドン・チェリーとの共同作業は、『Our Man In Jazz」という目に見える形になり、以降のフリージャズ運動の先駆けとなった。


◾️「フリージャズ」の開拓者たち オーネット・コールマンからジョン・コルトレーンまで


  以降は、ライブ活動もより旺盛になった。カナダのニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演後、日本に来日し、モヒカン・ヘアの斬新さで人気を獲得する。当時、ロリンズがこういったモヒカンの髪型にしたのは、明確な理由があるらしく、当時マイノリティであったアフリカ系アメリカ人としての誇りを示すと共に、ネイティヴアメリカンの苦悩に無関係ではいられなかったという理由による。以降、インパルス!、マイルストーンなど、名門ジャズレーベルを渡り歩く中、映画音楽やコラボレーターとしての才覚を遺憾なく発揮するようになる。ローリング・ストーンズの『Tattoo』にも参加し、ミック・ジャガーをして「ロリンズこそ最高のサックス奏者」と言わしめた。彼の全盛期の音楽的な貢献には、ジャズを他のジャンルと融合させ、単一の表現から解放するという趣旨があった。もちろん、ストーンズの代表的なカタログへの参加により、ロックとジャズを架橋しただけではなく、クラシックとジャズのクロスオーバーにも取り組んだ。1986年、読売交響楽団とコラボし、「テナー・サックスとオーケストラのための協奏曲」でジャズとクラシック音楽の垣根を取り払うことに一役買ったのである。

 

  WW2の以前から大きな世界の政変の流れを見てきたソニー・ロリンズにとって、時代の変遷と音楽は常に連動しており、無関係ではありえなかったように思える。もちろん、2024年現在もまた、ソニー・ロリンズにとって、これは未来に引き継がれるテーマなのかもしれない。特に、21世紀初頭の同時多発テロは、演奏家に大きな衝撃をもたらした。数ブロック先で事件を目撃したというロリンズ。音楽家は、20世紀の資本主義の象徴であるワールドトレードセンタービルの崩壊をどのように見ていたのだろう。噴煙が上がり、一帯が封鎖され、無数のパトカー、警官、崩落するビルから命からがら逃れる人々。濛々たる噴煙がニューヨークのブロック全体に立ち込める中、ブルックリン橋を足早に渡っていく人々。崩れ落ちたビルの最下層で救出にあたる救急職員。その合間に取材を行う独立ジャーナリストたち……。少なくとも、アメリカという国家が大きく転変したのは、2001年だった。当時、ロリンズは素晴らしいことに、音楽の持つ生命力で人々に勇気を与えることを選んだ。その後予定していたボストンのライブを続行、2005年には、9.11の追悼的な意味を持つコンサートアルバムを発表している。現在でもロリンズが偉大である理由は、音楽の力によって世界を変えようとしたことだ。

 

 

 

■ソニー・ロリンズの代表作 ビバップ、カリプソ曲から映画のサウンドトラックまで

 

 

『Saxopohone Colossus』 Concord Music Group 1957

 


1956年6月22日、ニュージャージー州ハッケンサックのスタジオで、プロデューサーのボブ・ワインストックとエンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーと共にモノで録音された。ロリンズは、このアルバムで、ピアニストのトミー・フラナガン、ベーシストのダグ・ワトキンス、ドラマーのマックス・ローチを含む、カルテットを率いた。ロリンズはレコーディング当時、クリフォード・ブラウン/マックス・ローチ・クインテットのメンバー、レコーディングはバンドメイトのブラウンとリッチー・パウエルがシカゴでのバンド活動に向かう途中で交通事故で亡くなる4日前に行われた(ブラウンとパウエルを乗せた車にロリンズは同乗していなかった)。


母方がヴァージン諸島出身で、若い時代からロリンズはカリプソ「トリニダード・トバゴの音楽で、レゲエの元祖)に親しんできた。本作ではカリブの陽気なリズムや音楽、そしてカーニバル音楽の性質を持つ。「St.Thomas」を中心に5曲というシンプルな構成でありながら、ソニー・ロリンズの陽気なバップをベースにした流動的なフレージングやブレスがきらりと光る。一方、メロウなニューオリンズジャズを踏襲した「You Don't Know What」もジャズバラードとして秀逸。また、マイルス・デイヴィスバンドのモード奏法を踏まえた「Moritat」もスタイリッシュで洗練された響きがあり、モダン・ジャズの流れの基礎を作った必聴ナンバー。

 

 

  

 

 

 

『The Bridge』 Sony Music 1962


ソニー・ロリンズは1959年から活動を停止したが、ウィリアムズバーグ橋で人知れずサックスの練習を重ねていたというエピソードがある。「The Bridege」及びアルバム・タイトルは、その練習場所にちなんでいる。

 

そして、1961年11月、公衆の面前での演奏を再開した。ほどなく、RCAビクターのプロデューサー、ジョージ・アヴァキャンがロリンズとの契約を取り付けた。「Without A Song」は、ロリンズのコンサートでしばしば演奏された曲で、アメリカ同時多発テロ事件から4日後のボストン公演でも披露され、同公演を収録したライブ・アルバムのタイトルにもなった。「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」は、ビリー・ホリデイが1941年に発表した曲のカバー。


本作では、エラ・フィッツジェラルドの伴奏ギタリストとして知られていたジム・ホールが重要な役割を果たしている。ホールの1999年のインタビューによれば、ロリンズはピアノの和音よりもギターの和音の方が隙間があって触発されやすいと考え、サックス・ギター・ベース・ドラムのカルテットで制作することを決めたという。 


『The Brigde』はチャーリー・パーカーの後の世代のビバップの作風が色濃いが、この作品ではジャズそのものの持つメロウな響きに焦点が置かれている。いわば、ロリンズのジャズ作品の中では落ち着いた雰囲気があり、ゆったり聴くことができる。

 

アルバムの冒頭では、「Without A Song」に象徴されるように、ビバップの楽しげな響きが特徴となっているが、アルバムの中盤では、ジャズバラードに近いR&Bに近い響きが押し出されている。タイトル曲のハード・バップに属する旋法や調性の運び、そして演奏の持つ強烈な個性も捨てがたいものがあるが、他方、ギターとの室内楽のような上品な響きを持つ「Where Are You」のようなナンバーにこそ、ロリンズのサックス奏者の醍醐味が凝縮されている。「God Bless The Child」のコントラバスの精細感のある演奏、モンゴメリーの系譜にあるギター、それらをリードするロリンズのサックスの演奏もジャズの潤沢な時間をもたらすアルバムのラストを飾るスイング・ジャズ「You Do Something To Me」はジャズライブなどで映えるような曲で、楽しげな雰囲気がある。一つも蛇足がなく、完結な構成でまとめ上げられている。

 

時代感を失わせるようなジャズの陶酔感のある響きを体験することができる。1950年代、ウィリアムズバーグ橋でサックスの演奏をしていたジャズの巨人の姿が目に浮かんできそうである。

 

 



『What's New?』 BMG France   1962 

 

ハードパップなどの新しいジャズの形式を追求する中で、ソニー・ロリンズの重要な音楽的なルーツであるカリプソやラテン・ミュージックに回帰したのが本作である。ロリンズが1970年代に展開させていくファンク・ソウルやマーヴィンやクインシーに代表されるアーバン・コンテンポラリーとジャズの「クロスオーバーの原点」を今作には発見できる。アルバムの冒頭を飾る「If Ever I Would Leave You」ではカリプソのリズムとビバップのスケールやリズムを結びつけようという試みが見受けられる。さらに、「Don't Stop the Carnival」ではカリプソのカーニバルの音楽とマイルス・デイヴィスのモード奏法を融合させ、エスニックジャズを予見している。

 

さらに本作の中盤でも、南米のラテン音楽の陽気で開放的な音楽性が色濃く反映されている。「Jungoso」、「Bluesongo」では、彼のアフリカ系アメリカ人のルーツを音楽という形で押し出し、それらを楽しげな演奏によって彩っている。さらに1948年公開の映画の主題歌「The Night Has a Thousand Eyes」ではボサノヴァをジャズと融合させ、クロスオーバーの飽くなき可能性を探求している。もちろん、陽気なサックスフォンの響きを心ゆくまで堪能できるはず。


発売当時は、アメリカ盤が「Don't Stop the Carnival」を除く5曲入り、イギリス盤や日本盤が「If Ever I Would Leave You」を除く5曲入りだったが、現行の日本盤CDは6曲入りの完全版として販売されている。また、日本では『ドント・ストップ・ザ・カーニバル』という邦題がついていた時期もあったという。 「Don't Stop the Carnival」は、『Saxpohone Colossus』の一曲目に収録されている「St. Thomas」と並ぶ、ロリンズの代表的なカリプソ曲。ライブでもしばしば演奏された。





『Alfie』 (Original Music From The Score) GRP/UMG   1966

 

 

すでにミュージカルという側面では、映画音楽とジャズはその成り立ちからして密接に結びついているが、あらためてジャズが映画音楽として有効であることを示したのが「Alfie」のサウンドトラックである。特に、「He's Younger Than You Are」は映画音楽として秀逸である。


今作『Original Music From The Score “Alfie”』は、1966年に公開されたイギリス映画「アルフィー」のために作曲されたソニー・ロリンズのオリジナル盤であると同時にサウンドトラックである。編曲と指揮はオリバー・ネルソンが担当し、バックメンバーにはケニー・バレル(ギター)、J.J.ジョンソン、ジミー・クリーブランド(トロンボーン)、フランキー・ダンロップ(ドラム)、ロジャー・ケラウェイ(ピアノ)らが参加。このアルバムはR&Bビルボード・チャートで17位を記録し、評論家のロヴィ・スタッフはオールミュージックで5つ星のうち星4.2の評価を与えている。映画としては評価が芳しくない作品だが、ロリンズの音楽が映像に最適であることを象徴付けるサウンドトラック。もちろん、ソニー・ロリンズのジャズはBGMとしても十分楽しめる。

 

 

 

 『Old Flames』 Fantasy Inc.  1993


70年代以降は、ファンク・ソウルやアーバン・コンテンポラリー、そして当世のポップスなど様々な音楽とジャズとの融合を試み、少しだけライトでポップな音楽家になったかと思えたロリンズ。

 

突如、1990年代のアルバムで再びジャズのスタンダードな響きを刻印したアルバムを発表する、それが『Old Flames』である。 ロリンズがクリフトン・アンダーソン、トミー・フラナガン、ボブ・クランショウ、ジャック・デジョネットと共演し、ジョン・ファディス、バイロン・ストリップリングス、アレックス・ブロフスキー、ボブ・スチュワートがアレンジした2曲を加えた。

 

依然として、コンパクトな構成のアルバムをリリースするというロリンズの流儀に変更はない、シンプルな7曲が収録されている。そして、ビバップ、ハード・バップを徹底的に追求したサクスフォン奏者の集大成のような意味を持つアルバム。長い歳月を経て、チャールズ・ロイドのように渋さのある演奏法をロリンズは選び、円熟味のあるモダン・ジャズを完成させている。それに加えて、ロリンズは20世紀のミュージカルのような音楽性をジャズに付加している。取り分け「I See Your Face Before Me」は、静謐な味わいを持った素晴らしいナンバーである。

 








【Interview】 Peel Dream Magazine   ~ジョセフ・スティーヴンスが新作アルバムを解説  「ミディアム・ファイ+ 」からの卒業~

Peel Dream Magazine

 

 

LAを拠点に活動するPeel Dream Magazineは、米国のポップミュージックに新たな意義をもたらす。グループは、Topshelf Recordsと契約を結び、ニューアルバムの制作に着手した。現在、PDMは西海岸を拠点に活動をしているが、シンガーソングライターでグループの支柱的な存在であるジョセフ・スティーヴンスさんは、ニューヨークのセントラルパークにほど近い地域で育ったという。

 

ニューアルバム『Rose Main Reading Room』では、前作とは対象的に「ニューヨーク的な作風になった」とスティーヴンスは説明する。本作にはNYの都市の洗練性や歴史的な文化性が反映されているほか、ウォーホールのポップアートのように「音楽自体をどのように見せるべきか?」というイデアが従来のスタイルとは違うニュアンスをもたらしたことは疑いがない。

 

『Rose Main Reading Room』は発売後、世界の熱心な音楽ファンの間で少なからず注目を集めている。事実、米国のオルタナティヴ・ポップの潮流を変えてもおかしくない画期的なアルバムだ。

 

今回のQ&Aのインタビューでは、ジョセフ・スティーヴンスさんに最新アルバムを解明してもらうことが出来ました。その中では、”「ミディアム・ファイ+ 」からの卒業”というテーマが浮かび上がってきた。また、話の中では従来の「ポスト世代の音楽からの脱却」という考えも垣間見えるような気がする。日本語、英語の両方のエピソードを下記よりお読みいただくことが出来ます。

 

 

ーー9月4日に4枚目のフルアルバム『Rose Main Reading Room』が発売されました。前作から2年ぶりのアルバムですが、先行シングルを聴いたかぎりでは、見違えるように良くなっている感じがします。曲作りや制作過程で何か大きな変化はありましたか?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス):それについてはイエスでもありノーでもあるかな。レコードを出すたびに、曲作りのアプローチを少しずつ見直しているような気がするけど、今回の曲では、これまでの曲と劇的に違うアプローチは取らなかった。

 

私はたいてい自宅で1人で作曲して、実際のレコーディングの出発点となるデモを作り上げることが多いんだ。『Pad』では主にオルガンで作曲し、今回のアルバムでは主にギターで作曲した。新譜のハーモニー感覚は、ミッドセンチュリーのバロック・ポップ/ボサノヴァ的な感触が強かった『Pad』よりもずっとストレートなんだ。

 

今までのアルバムでは、すべて自宅で作業をやっていたんだけど、今作ではLA近郊のスタジオをいくつか回って特定の楽器を録音したり、ドラムや雑多なものをバレー(LAの一部)にあるドラマーのイアンの実家のガレージで生録音したりした。また、レコーディング中にオリヴィアとリアルタイムでボーカル・パートをたくさん作ったので、そうでなければ生まれなかったような自然発生的な展開もあった。


このアルバムは間違いなく、これまでで最も共同作業が多かった。それと同時に、ピール・ドリーム・マガジンのアルバムの中で最もライブ・レコーディングの音が多くなっている。テーマの多くは、これまでよりも個人的で直接的なものだった。すべてを難解なものにしたくなかった。シンプルな思い出や、ニューヨークを取り巻く温かい感情について表現したいと思ってたんだ。




American Museum of Natural History

ーーこのアルバムの主なテーマはニューヨークの歴史文化、より厳密に言えば、''アメリカ自然史博物館''のようです。 「Central Park West」のミュージックビデオもジョン・レノンが登場したり、古いセントラルパークの映像がとても印象的ですよね。この歴史的な興味やインスピレーションはどこからやって来たのでしょう? 音楽やビデオで表現したかったことは何ですか?


Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス):  実は、セントラル・パークには赤ん坊の頃から通っていたから、私にとって本当に特別な意味が込められているんだ。あの場所はニューヨークの不思議な渦に包まれているけど、同時に、私自身の人生全般にもそれは当てはまると思う。私は、かねてからニューヨークという都市が人類史上の他の大都市と肩を並べるような「古代性」を携えているのがずっと好きだったんだ。

 

現在、この施設は無料で一般に公開されていて、人々の生活を豊かにし、歴史や芸術の断片を伝えるのに役立っている。これらの施設をぼんやり眺めていると、そこには驚きがあって、民主的であり、そして、時には楽観的な気持ちになることがある。現代社会においては、芸術や文化はとても安っぽく、危ういものに思えることがあるんだけど、世界の偉大な文化の中心地を訪れることができれば、時代を超えて信頼できる形で芸術や文化に触れることができるはずさ。

 

私はいつも、驚きと洗練された楽しさに満ち溢れた人生を送りたいと思っているんだけど、ニューヨークはそのための「素晴らしい手段」でもある。ニューヨークやアメリカ自然史博物館を題材にした曲がいくつかあるんだけど、リスナーをニューヨークの小さなツアーに連れて行きたかった。『セントラル・パーク・ウェスト』は、私がニューヨークの素晴らしい文化施設のいくつかを散策している様子を一人称で描いたものです。ミュージック・ビデオでは、NYのストリートを縦横無尽に行き交う、さまざまな種類の人々という人間の大海原を伝えたいと思った。それから、ドライで楽しい方法で、この街の風変わりさと試金石を紹介したかったんだ。


 

「Central Park West」 MV



ーー今回のレコーディングでは、オリヴィアのヴォーカルが加わったことで、楽曲がより華やかな雰囲気になったように思いました。ニューアルバムに関して、彼女の最大の貢献を挙げるとしたら何でしょう??



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス) :  男性ヴォーカルと女性ヴォーカルの二重性は、シューゲイザーとイングリッシュ・トゥイーに根ざしたサウンドの中心的な要素だと思う。オリヴィアが参加してくれたおかげで、『Oblast』のような瑞々しいヴォーカル・バッキング・パートを作ることができたし、私のヴォーカル・レンジがメロディに合わない曲でも、彼女がリード・ヴォーカルを取るか、デュエットのような形で歌うことができた。彼女の最大の貢献は、その音楽性と多才さにあるだろうね。


 
ーー Peel Dream Magazineがデビューした当初、あなたはYo La Tengo(ヨ・ラ・テンゴ)のようなローファイ・スタイルのロックをやっていましたよね。2018年頃からバンドのスタイルが少しずつ変わっていきましたが、これは当時のあなたの音楽的な好みを反映したものだと考えてよろしいですか?



Peel Dream Magazine (ジョセフ・スティーヴンス):うん。そうかもしれないね。私にはまったく違う種類の音楽を作りたくなる時期があるし、自分の感覚に従って好きなものを作ることがとても重要なんだ。たとえば、最初のレコードを作ったときは、ヴェルヴェッツ(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)、ニック・ドレイク、ステレオラボ、ベル・アンド・セバスチャン、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに強い影響を受けた。

 

私が過去に作った音楽は意図的にローファイにしたわけではなく、私がホームレコーディストであるという理由によるもので、言ってみれば「ミディアムファイ」の感じの仕上がりになっていると思う。昔は自分が何をやっているのか無自覚だったんだけど、それ以来、制作についてかなり多くのことを学んだから、もはや「ミディアム・ファイ+α 」を卒業したと言えるだろうね。


 

ーー他の文化やメディアからの影響についてはどうですか? ニューエイジ思想やネイティブアメリカンの伝統主義に興味があるそうですね?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): ニューエイジやネイティブ・アメリカンについてのPDMの曲もあるから、そう思われるのはわかる。それでも、時々、私は「ヒッピーの時代精神」に少し乗っかってみたくなる時がある。そして、私に直接インスピレーションを与えてくれる文化や媒体について思いを馳せることがあるんだ。

 

例えば、あらゆる種類の芸術形態が同じようなものかもしれない。なぜなら、(アートは)私たちの音楽と同じように、実験的なテーマを無防備な人々に見せることができるポップなメディアなのだから......。そうやってアートを通して楽しい会話ができるというメリットもあると思うし。それから、私はよく歴史と政治にインスパイアされることがある(奇妙なことに......)。現在に新しい文脈を授けてくれたり、私の脳裏にあったある種の定説に挑戦してくれたりする過去の物語に刺激を受けているよ。 

 


ーーこのアルバムの制作過程で最も重要だった点は? また、3rdアルバムとの決定的な違いは何だと思いますか?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): 制作プロセスで最も重要だったのは、できるだけアコースティックの演奏に頼り、MIDIやバーチャルなものが必要ないときは、それを使用しないようにしたことだったと思う。


だから、ドラム、ピアノ、マレット楽器、木管楽器はほとんど生演奏で、もちろんギターも生演奏なんだ。クラシック・ギターも、ボッサ的なパートではなく、フォーキーなインディー・ロック的なものを選んだ。


アルバムはLAにある2つのスタジオとガレージで録音したんだ。そのすべてが、僕をベッドルームから連れ出し、ヴァーチャル・インストゥルメントの習慣から遠ざけ、自分の頭脳からも遠ざけてくれた。これは、自宅で大量のバーチャル・インストゥルメントを使って録音した『Pad』とは決定的に違う点でもある。オリヴィアのボーカルもまた、『Pad』から大きく制作をシフトチェンジさせてくれたよ。



ーーさて、バンドメンバーは現在、LAにいますか? ピール・ドリーム・マガジンの音楽にロサンゼルス的なものを探すとしたら、それは何でしょう?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): そうだね、バンドは今、間違いなくLAを拠点にしているよ。正直なところ、僕の音楽にあからさまにロサンゼルスっぽいものがあるかどうかはわからない。たぶんね!!

 

私は音楽を作るときにそういうことはあまり考えないし、世界中のさまざまな場所、さまざまな時代のさまざまな音楽シーンに愛着を感じている。

 

『Pad』は、文字通りフリンストーンズのようなミッド・センチュリーのヤシの木のようなエネルギーに満ちているから、おそらく最もLAにインスパイアされたレコードだったと思う。それでも、あのレコードを作った時、ロンドンで全部の音楽を作っていたショーン・オヘイゲンにインスパイアされたから不思議だった。『Rose Main Reading Room』は、自分にとってはロサンゼルスっぽくないかなあ。どちらかというと、かなりニューヨークっぽいかもしれない!! 

 

 

■ Peel Dream Magazine 『Rose Main Reading Room』  Launched on September 4 via Topshelf


Tracklist:

Dawn

Central Park West

Oblast

Wish You Well

Wood Paneling, Pt. 3

R.I.P. (Running In Place)

I Wasn't Made For War

Gems and Minerals

Machine Repeating

Recital

Migratory Patterns

Four Leaf Clover

Lie In The Gutter

Ocean Life

Counting Sheep





■Episode In English

 

LA-based Peel Dream Magazine brings a new concept to the idea of pop music in the United States. The group is newly signed to Topshelf Records and has begun work on a new album. PDM is currently based on the West Coast, but Joseph Stevens, songwriter and a pillar of the group, grew up in the area near Central Park in New York City.


The songwriter recalls that the previous album, “Pad,” had a Los Angeles feel, but the new album, “Rose Main Reading Room,” has a New York style. Like Andy Warhol's pop art, the theme of “how to present the music itself” has definitely brought a different nuance to this album. ''Rose Main Reading Room” has attracted the attention of avid music fans around the world, and is, in fact, a landmark album that will change the tide of alternative pop in the United States.


The songwriter recalls that their last album, “Pad,” had a Los Angeles feel to it, but with their new album, “Rose Main Reading Room,” they have tackled a New York style album. There is no doubt that the theme of “how the music itself is presented,” like Andy Warhol's pop art, brings a different nuance to this work. Rose Main Reading Room has garnered attention from avid music fans around the world, and in fact, it is a groundbreaking album that will change the tide of alternative pop in the United States.
 

In this Q&A interview, we were able to ask Joseph Stevens to elucidate his latest album. In the process, the idea of “graduating from medium-fi + alpha” emerged. Furthermore, I felt that I could catch a glimpse of the theme of “breaking away from the music of the post generation” in the conversation. You can read the episode in both Japanese and English below.



--”Rose Main Reading Room”, fourth full-length album, was released on September 4. It has been two years since your last album, but from what I have heard of the preceding singles, I feel that the album has improved as if it were different. Were there any major changes in the songwriting or production process?



Peel Dream Magazine(Joseph Stevens): Yes and no. I feel like I am always re-working my songwriting approach a bit with every record, but I didn’t take a dramatically different approach with these songs than anything I’ve done in the past. I write alone, usually at home, and build out demos that serve as starting points for the actual recordings. 


On ''Pad'' I wrote primarily on organ, and on this record I primarily wrote on guitar. The harmonic sensibility of the new record is much more straight-forward than it was on Pad, which had more of a mid-century baroque pop / bossa nova feel. On most of my previous records, I did every single thing at home, but on this one I went into a few studios around LA to record specific instruments, and we also recorded drums and miscellaneous things live at our drummer Ian’s parents’ garage in the Valley (a part of LA). 


I also worked on a lot of vocal parts in real time with Olivia when we were recording, which led to some spontaneous developments that wouldn’t have occurred otherwise. This record is definitely the most collaborative record to date, and has the most live-recorded sounds of any Peel Dream Magazine record yet. A lot of the subject matter is more personal and direct than it has been in the past. I didn’t want everything to be esoteric, I wanted to talk about some simple memories, and some warm feelings I have surrounding New York City.


--The main theme of the album seems to be the history and culture of New York City, especially the ''American Museum of Natural History.'' The music video for ''Central Park West'' also features John Lennon and impressive images of old Central Park. Where did this historical interest and inspiration come from? What did you want to express in your music and video?



Peel Dream Magazine:I’ve been going to Central Park since I was a baby, so it has a really special significance to me. It’s wrapped up in the wondrous whirlwind of New York City but it’s also wrapped up in my own life.


 I have always liked the way New York City carries an “ancient-ness” that puts it on par with other great cities throughout human history. There’s a wonderment there, and a democratizing, optimistic feeling when you see all of these institutions that are available to the public for free, helping to enrich peoples’ lives and pass along pieces of history and art. I think art and culture sometimes seem so cheap and perilous in the modern age, but when you’re able to visit these great cultural capitals of the world, you’re able to interact with art and culture in a way that feels timeless and trustworthy.


I want to lead a life that is full of wonder and sophisticated fun, and New York is a great vehicle for that sort of thing. There’s a few songs that reference New York or the American Museum of Natural History, and I wanted to take listeners through little tours of the city with them. 


Central Park West is just a first person account of me wandering through a few of the city’s great cultural institutions. With the music video, I wanted to convey this endless ocean of humanity that traverses the streets of NY - all different kinds of people - and to showcase the quirks and touchstones of the city in a dry, fun way. 



ーーThe addition of Olivia's vocals this time around seems to have given the songs a more glamorous feel. If you had to name her greatest contribution regarding the new album, what would it be?



Peel Dream Magazine: Well, I think that Peel Dream Magazine is actually best when there are more voices than just mine - and I think the male-female vocal duality is really central to the overarching sound, which is rooted in shoegaze and english twee, where male-female vocals are always a cornerstone. 


Having Olivia on the record allowed us to create these lush vocal backing parts such as on ''Oblast'', and it allowed us to include songs where my vocal range wasn’t really suited to the melody, because she could either take the lead vocal or do a duet kind of thing. Her greatest contribution is that musicality and versatility.


--When Peel Dream Magazine first debuted, you were doing lo-fi style rock like ”Yo La Tengo”. the band's style has changed a bit since around 2018, is it safe to assume that this is a reflection of your musical taste at that time?


Peel Dream Magazine:  Yea definitely. I have phases where I’m compelled to make completely different kinds of music, and it’s important to me that I just follow my nose and make what I want. When I made the first record, I was very influenced by the Velvets, Nick Drake, Stereolab, Belle and Sebastian, My Bloody Valentine, and to a lesser extent yea, Yo La Tengo. 


I would say the music I’ve made in the past hasn’t really been lo-fi by design - it’s more just that I’m a home recordist so they usually turn out kind of “medium-fi”. In the past I really had no idea what I was doing, but I’ve learned a lot about production since then, and I would say I’ve graduated to “medium- fi plus”



--What about influences from other cultures and mediums? I understand you are interested in New Age thought and Native American traditionalism?


Peel Dream Magazine:   I can see why you might think that here and there about New Age and Native American stuff from some PDM songs - but other than some historical interest and curiosity, I wouldn’t really say that’s true. Sometimes I like to play off the “hippy zeitgeist” a bit, which kind of involves those things. 


I’m trying to think of cultures and mediums that do directly inspire me, though. All kinds of art, for sure. Really good film is always inspiring because, like my music, it’s a pop medium that can be used to play out experimental themes to unsuspecting people. 


And you can have a fun conversation through art in that way. I’m really inspired by history and politics (weirdly), and I’m always inspired by stories from the past that provide new context to the present, or challenge some kind of set idea that was in my brain. 



--What was the most important aspect of the production process for this album? And what would you say are the crucial differences from your third album?


Peel Dream Magazine:  I would say the biggest aspect of the production process was trying to rely on live performances as much as possible and step away from MIDI/virtual stuff when I didn't need it. So mostly live drums, piano, mallet instruments, woodwinds, and of course live guitars. Also the choice of classical guitar - not for bossa-ish parts but more for folky indie rock kind of stuff. 


And going to a few outside places to record - two studios in LA and this garage we recorded in. All of that took me out of my bedroom, and out of my virtual instrument habits, and out of my own head. That’s all crucially different from ''Pad'', which was done completely at home and with tons of virtual instruments. Olivia’s voice also presented a big production shift away from ''Pad''.



--Are the band members in LA right now?  If you were to look for something Los Angeles-like in the music of Peel Dream Magazine, what would that be?



Peel Dream Magazine: Yea the band is definitely LA-based right now. I’m not sure if there is anything that is overtly Los Angeles-like about my music, to be honest. Maybe!!


I don’t think about that sort of thing when I make music, and I feel attached to different music scenes in different places all over the world, and from different time periods. 


''Pad'' is probably the most LA-inspired record because it literally has Flinstones-y mid-century palm tree energy - but it’s funny because I was very inspired by Sean O’Hagen when I made that record, who was making all of his music in London. ''Rose Main Reading Room'' isn’t super LA-ish to me. If anything, it's pretty New York-like!!

 

 

(INTERVIEWED:  MUSIC TRIBUNE  PRESS   2024. September 6th)

 

柴田聡子
柴田聡子

柴田聡子、10月23日にリリースされるニューアルバム「My Favorite Things」。アーティスト写真、ジャケット写真を公開!(写真・守本勝英/アートディレクション、デザイン・坂脇慶)

 

今年2月に待望の新作アルバム『Your Favorite Things』をリリースした日本のソングライター、柴田聡子。LPバージョンのリリースに続いて、最新作の新ヴァージョンの発売が決定した。アルバムには、オリジナル曲の再編集(My Favorite Ver.)が収録されている。共同プロデュースは最新アルバムの録音、プロデュースでも参加している岡田拓郎さんが手掛けています。タイトルは「My Favorite Things」。リリースはAWDR/LR2、発売日は10月23日に予定されています。


このアルバムのアートワークが、新しいアーティスト写真と合わせて本日公開された。下記よりチェックしてみてください。



◾️柴田聡子 最新アルバムの新ヴァージョン「MY FAVORITE THINGS」を10月23日にリリース 11月には東京/大阪でライブが開催


◾️柴田聡子「REEBOK / REEBOK (TOFUBEATS REMIX)」が本日リリース! 小鉄昇一郎による「REEBOK」のMUSIC VIDEOも公開



柴田聡子「My Favorite Things」- New Album



DDCB-12123 | 2024.10.23 Release | 3,000 Yen+Tax
Released by AWDR/LR2


[ https://ssm.lnk.to/MyFavoriteThings ] PRE-ORDER

01. Movie Light (My Favorite Things Ver.)
02. Synergy (My Favorite Things Ver.)
03. 目の下 / All My Feelings are My Own (My Favorite Things Ver.)
04. うつむき / Look Down (My Favorite Things Ver.)
05. 白い椅子 / Sitting (My Favorite Things Ver.)
06. Kizaki Lake (My Favorite Things Ver.)
07. Side Step (My Favorite Things Ver.)
08. Reebok (My Favorite Things Ver.)
09. 素直 / Selfish (My Favorite Things Ver.)
10. Your Favorite Things (My Favorite Things Ver.)



◾️柴田 聡子 SATOKO SHIBATA

 

シンガー・ソングライター/詩人。北海道札幌市出身。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。
2010年、大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。
2012年、三沢洋紀プロデュース多重録音による1stアルバム『しばたさとこ島』でアルバムデビュー。以来、演劇の祭典、フェスティバル/トーキョー13では1時間に及ぶ独白のような作品『たのもしいむすめ』を発表するなど、歌うことを中心に活動の幅を広げ、2022年、6枚目のオリジナルアルバム『ぼちぼち銀河』をリリース。
2016年には第一詩集『さばーく』を上梓。同年、第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。詩やエッセイ、絵本の物語などの寄稿も多数。2023年、足掛け7年にわたる文芸誌『文學界』での連載をまとめたエッセイ集『きれぎれのダイアリー』を上梓。雑誌『ユリイカ』での特集も決定するなど、詩人としても注目を集めている。
自身の作品発表以外にも、楽曲提供、映画やドラマへの出演、ミュージックビデオの撮影・編集を含めた完全単独制作など、その表現は形態を選ばない。
2024年2月28日、最新アルバム『Your Favorite Things』をリリースした。


◾️柴田聡子ニューアルバム「My Favorite Things」(一部店舗にて)予約特典施策決定。


2024年10月23日(水)に発売が決定した柴田聡子「My Favorite Things」を2024年9月8日(日)までに対象店でご予約お客様に「柴田聡子 Tour 2024 “Your Favorite Things” 追加公演 2024.05.31 [DVD]」を差し上げます。

早期予約購入者特典: 柴田聡子 Tour 2024 “Your Favorite Things” 追加公演 2024.05.31 [DVD] *SPACE SHOWER TVで放送した内容に2曲追加したスペシャルDVD。

対象期間:  2024年8月5日(月) ~ 2024年9月8日(日)各店舗閉店時まで
対象店舗: TOWER RECORDS/HMV/diskunion/楽天BOOKS/COCONUTS DISK/FLAKE RECORDS/Hawaii Record  *詳しくは各店・ECショップにお問い合わせください。



◾️「柴田聡子のひとりぼっち’24 〜My Favorite Things〜」


【大阪公演】2024.11.13 [Wed] ABCホール | Open 18:30 / Start 19:00
【東京公演】2024.11.24 [Sun] ヒューリックホール | Open 16:00 / Start 17:00
Ticket | Adv. 5,000 Yen

 

Isik Kural

グラスゴーの音響作家、イシク・クラルの音楽は、未来の記憶の場所から届く。彼のつつましく親密な歌は、つかの間の瞬間をコラージュし、文学的な引用や人生のサイレント映画からのちらつきで彩られ、完璧に詩的で不完全な世界の印象主義的スナップショットを作り出す。イシクの音楽は、日常生活の素朴な驚きが顔を覗かせ、想像力が常に発見のために熟しているような、優しく限界のある状態にチューニングを合わせる。


トルコで生まれたイシクは、10代の頃からナイロン弦のギターで音楽を作り始め、徐々にフィールド・レコーディングやシンセサイザーを加えていった。イスタンブールの自宅からマイアミに移り、音楽エンジニアリングを学んだ後、ニューヨークで過ごし、最終的にはスコットランドに上陸、グラスゴー大学でサウンドデザインとオーディオビジュアル実践の修士号を取得した。


移動中、イシクの活動は、伝統的なソングライティングとより実験的なアプローチを融合させることで発展していった。時にはギターでメロディーを選び、時にはアンビエントのライブ演奏からメロディーが生まれる。詩は文学のパルプを加工したものから生まれ、歌はループや周囲の世界の録音から雰囲気を紡ぎ出した。


イシクの音楽は、イタリアのレーベル、Almost Halloween Recordsからリリースされた、声、シンセサイザー、ギター、ピアノ、グロッケンシュピールから作られたアルバム、2019年の『As Flurries』で流通し始めた。2022年、イシクはRVNG Intl.から初の作品『in february』を発表した。この作品は、偶然のループ、ミュージシャンのステファニー・ロクサーヌ・ウォードとのヴォーカル・コラボレーション、pka spefy、トルコの詩人グルテン・アキンの作品やアン・カーソンによるソフォクレスの翻訳など、さまざまなテキストを引用して作られた魅惑的なレコードであった。


新譜『Moon in Gemini』では、『in february』や『Peaches』で聴かれた想像力豊かなインストゥルメンタル・テクスチャーをベースに、よりヴォーカルを前面に押し出したサウンドを披露している。民謡の形式を彷徨いながら、イシクは自然のイメージと人生に対する素朴な考察に溢れた愉快で風変わりな物語を語り、多くのトラックで再びスペフィと共演することになった。気まぐれなアンビエント表現が2人のソングライティングに織り込まれ、これらの音のスクラップブックは、限りない遊び心の中でゆがんだり揺れたりする。


フルート奏者のテンジン・スティーヴン、ハープ奏者のカースティン・マッカーリー、クラリネット奏者のジュリア・タンボリーノとのコラボレーションにより、静寂なピアノとフィールド・レコーディングがさらに豊かさを増している。『双子座の月』の14曲からなる組曲には、優しいパスティーシュがまとまり、イシク・クラルは聴き手を可能な限り深い白昼夢へといざなう。

 


『Moon In Gemini』/RVNG



トルコ出身で、現在グラスゴーを拠点に活動するイシク・クラルのアルバムは、シンセ、アコースティックギター、フルートの演奏などを駆使し、オーガニックでナチュラルな電子音楽の世界を提供する。クラルの音楽には、包み込むような温かさと広がりがあり、そしてグラスゴーの牧歌的な風景を「サウンドスケープ」として呼び起こす。このアルバムにはストーリー性が含まれ、牧歌的な風景で始まったかと思えたアルバムは、収録曲ごとに異なるサウンドスケープを描き、やがて製作者が志向する夜の月の光景で終わる。特に、多彩なフィールドレコーディングが散りばめられ、それがアコースティックギターや電子音のマテリアル、そして制作者自身のふんわりとした穏やかなボーカルと結びつき、現代のいかなる音楽とも似て非なるスペシャリティーを構築していく。クラルのボーカルはどちらかと言えば、少し癖があるため、好き嫌いが二分されるかもしれないが、彼のボーカルは電子音楽やアコースティックギター、木管楽器(フルート)を中心に構成される音楽的な感性と驚くほど見事に溶け合い、4つ目の楽器の音響的な役割を担っている。


イシク・クラルの構築する電子音楽は、IDMに属する。そして、知的な創造性を掻き立てるものでありながら、深い情感を呼び覚ますものでもある。何より、イシク・クラルの導き出す電子音楽は、水のように柔らかく、秋風のように爽やかだ。さらに何より重要なのは、彼の音楽の中には、グラスゴーの緑豊かな風景や教会のような光景、そして同じように、ケルト民謡の原初的な魅力が含まれるということである。「1- Body Of Water」では、アコースティックギターの演奏をもとに、電子音楽のキラキラとしたマテリアルを配して、そして木管楽器の演奏を付け加える。そして、パンフルートのような音色をベースにしたシンセリードを古めかしいオルガンに見立て童話的な音楽世界を築き上げていく。スコットランドの美しい風景や和やかな光景をかなり見事に電子音楽という形で縁取ってみせている。喧騒から解き放たれ、そして「内的な静けさ」を思い出すための音楽であり、それはまた瞑想的な感覚に充ちている。

 

「2- Prelude」では、ケルト民謡で使用されるようなアンティークな音色を持つアコースティックギターにシンセのパンフルートのアルペジオの伴奏を付け足して、やはり他のどの音楽にも似ていない特異なIDMを作り上げる。 そして、甘い感覚を持つイシク・クラルのボーカル、鳥のさえずりのフィールドレコーディングを付け加えて、自然味溢れる音響空間を構築していく。何の変哲もないミニマル・ミュージックの構成であるが、ときどき、彼の紡ぎ出すシンセのアルペジオからは、センチメンタルな感覚やノスタルジア、そして童話的な雰囲気が立ち上ってくる。これらはアンビエントのような抽象的な音像として組み上げられていくが、そして、実際的に、治癒的な電子音楽としての効果を発揮することがある。クラルの音楽にはまったく棘や毒がない。それは、イシク・クラルの音楽が「自然を見本にしている」からであり、人工物から距離を置いているからでもある。これらの癒やしは、コンクリートジャングルに疲弊した人の心を温かく包み込む。

 

イシク・クラルの表現する童話的な世界は、さながら絵画を描写的な音楽として切り取ったかのようであり、アルバムの中盤で、その物語は広がりと奥行きを増していく。「3- Almost A Ghost」に見受けられるように、彼の描く幽霊は、カンタベリーの大聖堂に出没するようなおぞましいものではなく、妖精やピクシーのような、いたずら好きの少し可愛らしいお化けである。それはまた、「指輪物語」に登場する民間伝承の考えに近い。それらは、ぼんやりとしていて、抽象的であるが、ヘンリー・ダーガーが絵本で描いたような天使的で祝福的な音楽という形で部分的に出現する。同じように、リュートのようなギターの響きを基に、ピアノの断片的な演奏やボーカルのコーラスをミュージック・コンクレートとして散りばめて、色彩的な音楽の世界を構築していく。それらに脚色的な効果を添えるのが、ハープのグリッサンド、オーケストラのグロッケンシュピール、そしてアーティスト自身のボーカルである。これらの器楽的な音響効果は、実際の音楽性に制作者が意図する幻想的な感覚を付与し、ピクチャレスクな効果を及ぼすことに成功している。最終的には、mum(ムーム)のような可愛らしいおとぎ話の世界を作り上げるのだ。 


 

 「Prelude」 

 

 

 

これらの童話的な音楽と並行して、アンビエント・ピアノの作風に転じる場合もある。続く「4- Grown One Lotta」では、ウィリアム・バシンスキーの「Reflection」のようなピアノのミニマリズムを参照しつつ、緻密でありながら先鋭的な作風を作り上げる。ヒップホップやブレイクビーツの編集的なサウンドをピアノの音響効果に適用するという側面では、ブルックリンのラップカルチャーに触発されたバシンスキーの現代的なアンビエントの延長線上に属する。短いピアノのサンプリングの素材も、イシクの手に掛かると、アナログレコードの音飛びのようなブレイクビーツの原初的なDJの手法によってトリップ感のあるアンビエントに昇華される。いわば童話的な音楽を制作する作家クラルは、「ストリートの音楽とオーケストラホールの音楽を結びつける」という画期的な作曲法を、この実験的な音楽の中で実践しているのである。

 

また、「映像的な音楽」という本作のモチーフは、その後も度々登場する。「5- Interlude」では、ローファイ・ヒップホップをベースにし、それらをノスタルジックで切ない感覚を持つ電子音楽へと昇華させている。逆再生のテープ・ループ、それから水の音のように柔らかなシンセに続いて、少し甘ったるい質感を持つクラルのボーカルがアンビエントともミニマルテクノとも言いがたい独自に音響空間を作り上げる。それらのシンプルな音色や録音の集積は、やがて教会のオルガンのような祝福的な音楽をアンビエントとして構築していく。近年の実験音楽では、コンサートホールで鳴り響くオーケストラ音楽を部分的なミュージックコンクレートやカットアップコラージュのような音楽的な作曲法によって構築するという手法が、ドローン音楽という一つのウェイブやシーンを作り上げているが、イシク・クラルの電子音楽は、一貫して細やかであり、大掛かりな演出になることはない。さながらグラスゴーの小さな礼拝堂で日曜の安息日に鳴り響くような祝福的な祭礼の為の音楽を、クラルは電子音楽として再現させようとしているかのよう。それは非常に細やかなもので、派手な舞台装置や演出とは全く無縁のものなのである。


かと思えば、彼の音楽は、曲が進むごとに、物語の舞台となる場所や背景のイメージが立ちどころに変わっていき、映像のバックグラウンドや演劇の舞台の書き割りのように、ゆっくりと推移していく。ここには、ウィリアム・シェイクスピアの演劇のように、王侯も商人も未婚の女も登場しないが、最小限の登場人物で驚くべき多彩な音楽表現が構築される。前曲の屋内で鳴り渡る音楽の直後、屋外の木陰に鳴り響く自然の音楽をテーマとして縁取っているのである。

 

「6-Redcurrents」は、教会から一歩外に出て、鳥のさえずりや木々のざわめきを目に止める時のような安らぎが込められている。イシク・クラルの電子音楽は一貫して「穏やかな平和」をモチーフにしており、それらはリンゴの実が木から落ちる時、重力の概念を発見したニュートンのような気づきと発見に満ちている。実際的には、パルス音をドローンのように連続させているが、やはり聞き苦しいものやざわめきやノイズからは一定の距離を置いており、内的な静けさと瞑想性にポイントが置かれている。最終的に、精妙な感覚を持つ重層的なサウンドスケープが曲の最後に鳴り渡る頃には、この音楽作品がバレエや劇伴のための音楽という副次的な役割を持つ作品なのではないかと思わせるものがある。電子音楽としての前衛的な試作は、続く「7-Mistaken for a Snow Silent」にも見出すことが出来、水のような音のサウンドデザイン、リング・モジュラーによる色彩的な音の構築、そして、ピアノの断片的なサンプリング、アコースティックギター、そして、イシクのボーカルという多角的な構成要素によって、遊び心のある音楽が作り出されている。聴いているだけで、何だか優しい気分に浸れるような稀有な音楽である。


情景的な音楽は、それ以降も続いている。グラスゴーの村の小さなお祭りのようなワンシーンを電子音楽で縁取った「8-Gul Sokagi」は、ケルト民謡を題材に、リュートのようなギター、生活風景の反映であるフィールド録音、木管楽器やアコーディオンのような音色を交えて、夢想的で童話的な音楽世界を見事に築き上げている。これらは、東ヨーロッパの民謡をスコアとして実際に取材をして集めたバルトークのような音楽的な手法であるが、クラルの場合は、より聞きやすくて親しみやすい。そして、ターンテーブルの音飛び(チョップ)の技法を交え、それらをモダンな作風に置き換えている。「9-Stem of Water」は、やはり同じように童話的で可愛らしい雰囲気をボーカルとして反映した一曲で、パンフルートの音色でこれらの夢想的な感覚を押し出している。それは同時に、緑豊かな土地に流れる川のせせらぎのような清々しさと安らぎに浸され、音楽そのものが一つのストリームのようにゆったりと流れていく。

 

 

アルバムの後半では同じようにフィールド・レコーディングとピアノの演奏の要素をかけ合わせ、「10-After a Rain」に見出されるような情景的な変遷を描き出そうとしている。これらは、2010年代のフォークトロニカ/トイトロニカのような音楽性と結びつき、アルバムの音楽世界を深化させる。その音楽は、ピアノやハープのサンプリングを多角的に配置することで、やはり色彩的な感覚に縁取られ、サウンド・デザインに近い指向性を持っている。終盤では、これらの音楽性が停滞したり、マンネリズムに陥る場合もあり、それがリスニングの際の難点となるだろう。その一方、その安らいだ電子音楽は、治癒の音楽ーーヒーリングーーに近い意味を帯びる。「11-Behind The  Flowerpoint」は、JSバッハの「平均律クラヴィーア」を電子音楽に置き換え、それらをボーカルトラックとして組み替えるという実験性が込められている。

 

その後の2曲では、鳥をモチーフに美麗な音楽が作り上げられる。イシク・クラルの作曲家としての未知なる可能性が示されたのが「12-Daydream Birds」である。オーケストラ・ストリングのレガート、木管楽器のトレモロの組み合わせは、最終的に民族音楽のエキゾチズムを呼び覚まし、さながら南国のような場所で鳥たちがゆっくりと空に羽ばたいていくような奇異なサウンドスケープを呼び起こす。「13-Birds Of Evening」でもフルートの演奏とハモンドオルガンのような音色を緻密に組み合わせ、至福のひととき、芳醇な時間を作り上げる。ミニマル音楽の範疇にあるが、これらの音楽の最大の弊害である気忙しさはなく、伸びやかで開放的な気風を感じさせる。

 

アルバムのクローズ「14-Most Beatutiful Imaginary Dialogues」は、名作映画のような感動的なクライマックス/エンディングで、一連の音楽による物語の最後を締めくくるのにこれ以上はない素晴らしい一曲である。木のハンマーの軋みの音を生かしたポストクラシカル系のアコースティックピアノ、クラルのスポークンワードに近いボーカル、そして、鳥のさえずりのフィールドレコーディングという、現在の作曲家の「自家薬籠中」が登場する。ハープの美麗なグリッサンドの効果、シンセサイザーのサウンドスケープを巧みに活用しつつ、イシク・クラルは、音楽によって「ふたご座の月」を出現させる。ピアノの断片的なフレーズが重なり合う時、深い感動を呼び起こすとともに、マクロコスモスを小さな音楽空間の中に造出し、アルバムのイメージを最後の最後にあっけなく覆す。アウトロで、虫の鳴き声とオルガンの麗しい音色が絶えず増幅と減退を繰り返しながら徐々にフェードアウトする瞬間、作曲家の描写音楽としてのサウンドスケープは本作の中で最大限の効果を発揮し、一つのサイクルの終焉と実り多き美しき季節の訪れを予感させる。




85/100



Best Track-「Most Beatutiful Imaginary Dialogues」

 

 

 

◾️Isik Kuralの新作アルバム『Moon In Gemini』はRVNGより本日発売。(日本国内ではPlanchaより)ストリーミングはこちらから。

 

©Samuel Bradley


Kelly Lee Owens(ケリー・リー・オーウェンズ)が、アルバム『Dreamstate』からの3枚目のシングル「Higher」を発表した。このシングルは「Sunshine」と「Love You Got」のフォローアップとなる。以下よりチェックしてほしい。


リー・オーウェンズのコメントは以下の通り。「''Higher''がここにある!「Dreamstate」のもうひとつの側面、アルバム内のフィーリングのもうひとつの味わい。より高い視点から物事を見て感じたいという願望にインスパイアされたトラックだ」


「人生を歩むにつれて、私たちは常に困難があることをより理解するようになるが、おそらくその困難を経験するたびに、私たちはより全体像を把握し、新しい視点を得るのだろう。この曲は、陶酔的な安堵感のために静かに手を伸ばし、高揚させるためにある。あなたがこの曲を気に入ってくれることを願っている!」


オーウェンズの4枚目のスタジオ・アルバム『Dreamstate』は、10月18日にdh2からリリースされる。


「Higher」