■ 90年代のテクノ・ミュージック  

Plaid  90年代のテクノの立役者

デトロイトで始まり、隣接するシカゴを経て、海を渡り、イギリスに輸出されたテクノミュージック。現在でもハウスと並んで人気のあるダンス・ミュージックである。Kraftwerkから始まった電子音楽のイノベーションは、NEUの実験的な音楽の位置づけを経て、アメリカ、イギリスに渡り、それらの前衛的な性質を残しつつも、ベースメントの領域で独自の進化を辿るようになった。元々、アメリカではブラックミュージックの一貫として始まったこのジャンルがイギリスに渡ると、白人社会の音楽として普及し、80年代の後のクラブカルチャーを後押しした。


1990年代のテクノ・ミュージックは、新しもの好きのミュージシャンがラップトップで制作を始めた時期に当たる。90年代のテクノが以前のものと何が異なるのかといえば、その音楽的な表現を押し広げ、未知の可能性を探求するようになったことだろうか。

 

このジャンルを一般的に普及させたデトロイトのDJ、ジェフ・ミルズは、この年代において「テクノはストーリーテリングの要素を兼ね備えるようになった」と指摘している。いわば、それまでは4つ打ちのハウスのビートのリズムをベースに制作されるDJの音楽という枠組みにとどまっていたテクノは、ナラティヴな性質を擁するに至る。そのおかげか、たとえ全体的なイメージが漠然としていたとしても、制作者やDJは、音楽の概念的なイメージをリスナーに伝達しやすくなった。

 

近年でも、これらの「ストーリーテリングの要素を持つテクノ」という系譜は受け継がれていて、Floating Pointsの最新作『Cascade』、ないしは、Oneohtrix Point Neverの『Again』ということになるだろうか。さらに言えば、それは、単にサンプラーやシンセで作曲したり、DJがフロアで鳴らす音楽が、独自形態の言語性を持ち、感情伝達の手段を持ち始めたということでもある。

 

さらに、ジェフ・ミルズの指摘と合わせて再確認しておきたいのが、(Four Tetが今でもそういった制作方法を行うことがあるように)電子音楽がサウンド・デザインの要素を持ち始めたということだろう。これらは、シンセのプリセットや製品の進化と並行して、従来になかったタイプの音色が付け加えられるようになり、純粋なリズムのための音楽であったテクノが旋律の要素を殊更強調し、多彩な表現性を持つようになったことを意味している。「カラフルな音楽」とも換言できるかも知れない。その過程で、幅広い音楽の選択肢を持つようになったことは事実だろう。

 

ご存知の通り、2020年代では、オーケストラのような壮大なスケールを擁する電子音楽を制作することも無理難題ではなくなりつつある。これは、1990年代のプロデューサー/DJの飽くなき探究心や試作、そして、数々の挑戦がそれらの布石を形作ったのである。また、実験音楽としての電子音楽が街の地下に存在することを許容する文化が、次世代への道筋を作った。もちろん、これらのアンダーグランドのクラブカルチャーを支えたのは、XL、Warp、Ninja Tune((90年代はヒップホップ、ブレイクビーツ、ダブが多い)、そしてドイツ/ケルンのKompaktとなるだろう。

 

現在でも、上記のレーベルの多くは、主要な話題作と並び、アンダーグラウンドのクラブミュージックのリリースも行っている。要するに、売れ行き重視の商業的な音楽を発表することもあるが、基本的には、次世代の音楽の布石となる実験性の余地、ないしは、遊びの余白を残している。例えば、もしかりに、90年代のテクノミュージックが全く非の打ち所がなく、一部の隙もない音楽だったとしたら、次世代のダンスミュージックは衰退に向かっていたかも知れない。これらのレーベルには、欠点、未達、逸脱を許容する懐深さをどこかに持っていたのだ。

 

下記に紹介するプロデューサー、DJの作品は、彼らの前に何もなかった時代、最初のテクノを波を作った偉大な先駆者ばかりである。それは小さなさざなみに過ぎず、大きなウェイブとならなかったかもしれないが、2000年代以降のダンスミュージックの基礎を作ったのみならず、現代のポピュラーミュージックの足がかりを作る重要な期間でもあった。しかし、これらの解釈次第では「未知への挑戦」が次世代の音楽への布石となったのは事実ではないだろうか。




1.  SL2 『DJs Take Control』1991  XL

 

SL2は、ロンドン出身のブレイクビーツ・ハードコア・グループ。Slipmatt & LimeやT.H.C.名義でもレコーディングやリミックス、プロデュースを行っている。

 

SL2は当初、DJのマット・「スリップマット」・ネルソンとジョン・「ライム」・フェルナンデス、ラップボーカリストのジェイソン・「ジェイ・J」・ジェームスの3人で結成された。SL2という名前は、創設者たちのイニシャルに由来する。1985年に活動を開始し、93年に解散するも、1998年に再結成し、現在に至る。

 

『DJs Take Control』は、Food MusicとXLの2つのバージョンが存在する。'89年にイギリスで合法的に開催されたオリジナル・レイヴ「RAINDANCE」のレジデントであったSLIPMATTとLIMEを中心とするハードコア・ユニット・SL2が'91年にリリースした作品。Food MusicからのリリースとXLのリリースの二バージョンが存在する。Food Musicのオリジナル・バージョンは2018年に再発された。


レイヴミュージックをベースにしたサウンドであるが、ハードコア、UKブレイクビーツの先駆的な存在である。以降のJUNGLEのようなサンプルとしてのダンスミュージックの萌芽も見出だせる。クラブ・ミュージックの熱気、そしてアンダーグラウンド性を兼ね備えた画期的な作品だ。

 

 


 

 


 

2. Kid Unknown 「Nightmare」1992 Warp

 

 Kid Unknownは、ポール・フィッツパトリックのソロプロジェクト名で、マンチェスターの伝説的ナイトクラブ、ハシエンダのレギュラーDJだった。

 

1992年にワープから2枚のシングルをリリースした後、ニッパー名義でレコーディングを行い、LCDレコーズを共同設立している。

 

 1992年にWarpから発売されたEPで、イギリス国内とフランスで発売された作品であると推測される。当初は、ヴァイナルバージョンのみの発売。イギリスのブレイクビーツ/ダブの最初期の作品で、おそらくハシエンダのDJであったことから、マンチェスターのクラブミュージックの熱気が音源からひしひしと伝わってくる。DJのサンプラーやシンセの音色もレトロだが、原始的なビートやフロアの熱気を音源にパッケージしている。

 

このEPを聞くかぎりでは、最近のEDMはパッションやエネルギーが欠落しているように思える。知覚的なダンスミュージックというより、どこまでも純粋な感覚的なダンスミュージック。

 

 

 

 

3. John Bertlan 『Ten Days Of Blue』1996   Peacefrog Holding  

 


デトロイト・スタイルのテクノをレコーディングするプロデューサーとして、ジョン・ベルトランほど優れた経歴を持つ者はいない。

 

ミシガン/ランシング近郊を拠点に活動するベルトランは、デリック・メイ(インディオ名義)と仕事をし、カール・クレイグのレーベル、レトロアクティブから数枚のレコードをリリースしている(マーク・ウィルソンと共にオープン・ハウス名義)。ジョン・ベルトランは、ワールド・ミュージックやニューエイジ・ミュージックから着想を得て、PeacefrogやDot(Placid Anglesとして)といったホームリスニング志向のレーベルから作品をリリース。90年代初頭にアメリカのレーベル”Fragmented”と”Centrifugal”からシングルをリリースした後、1995年にR&Sレコードからデビューアルバム『Earth and Nightfall』をレコーディングした。

 

『Ten Days Of Blue』は2000年代以降のテクノの基礎を作った。ミニマル・テクノが中心のアルバムだが、駆け出しのプロデューサーとしての野心がある。現在のBibloのような作風でもあり、他のアコースティック楽器を模したシンセの音色を持ちている。かと思えば、アシッド・ハウスや現在のダブステップに通じるような陶酔的なビートが炸裂することもある。サウンド・デザインのテクノの先駆的な作品であり、時代の最先端を行く画期的なアルバムである。


 

 


 4. Plaid 『Not For Threes』1997  Warp

  

エレクトロニック・ミュージックの多様なサブジャンルを探求する時でさえ、イギリスのデュオPlaidは繊細なタッチを保っている。アンディ・ターナーとエド・ハンドリーは、UKのパイオニア的レーベルであったワープ・レコードの初期に契約し、ザ・ブラック・ドッグの後継者として、1991年にロンドンでこのプロジェクトを立ち上げた。

 

プレイドは、1997年の『Not For Thees』を皮切りに、カタログの大半をワープからリリースしている。このアルバムでは、メロウなブレイクビーツと格子状に脈打つメロディーをバックに、ビョークが歌い、「Lilith」では狼のように戯れに吠える。常に微妙に形を変えながら、

 

プレイドはその後、バブリーなアンビエンス(2001年の『Double Figure』)、シネマティックなムード(2016年の『The Digging Remedy』)、グリッチ的な複雑さ(2019年の『Polymer』)に及んでいる。ターナーとハンドリーは、2022年の『Feorm Falorx』で、架空の惑星で無限のフェスティバルを演奏する自分たちを想像し、これまでで最も弾力性のある作品を制作した。アルバムでは、ニューエイジサウンドに依拠したテクノ、ドラムンベース、アシッド・ハウス、トリップ・ホップ等、多角的なダンスミュージックを楽しむことが出来る。

 

 

 

 

 

5.  Aphex Twin 『Digeridoo』 1993  Warp


テクノの名作カタログを数多くリリースしているAphex Twin。メロディアスなテクノ、ドラムンベースのリズムを破砕し、ドリルに近づけたダンスミュージックの開拓者である。


最近では、「Come To Daddy EP」、『Richard D Jamse』等のテクノの名盤を90年代に数多く残したが、実のところ、ハウス/テクノとして最も優れているのは『Digeridoo』ではないか。ゴア・トランス、アシッド・ハウスといった海外のダンスミュージックを直輸入し、それらをUK国内のハードコアと結びつけ、オリジナリティ溢れる音楽性へと昇華させている。いわば最初期のアンビエント/チルウェイブからの脱却を図ったアルバムで、むしろ90年代後半の名作群は、この作品から枝分かれしたものに過ぎないかもしれない。2024年にはExpanted Versionがリリースされた。名作が音質が良くなって帰ってきた!!





6. Oval 『94 Diskont』 1996   Thrill Jockey

 

オーバルは1991年に結成された。マルクス・ポップ、セバスチャン・オシャッツ、フランク・メッツガー、ホルガー・リンドミュラーによるカルテットとしてスタートし、2年後にリンドミュラーが脱退した後、95年にマーカスポップによるプロジェクトになった。彼のソフトウェアベースの音楽は、ライブボーカルやクラブ対応ビートなどの要素が最終的に追加され、より従来の美しさとより混沌としたアイデアの両方を含むようになる。


1994年の『Systemisch』でCDをスキップする実験を行ったが、この1995年の続編では、そのテクニックを本当に叙情的に表現している。24分に及ぶ「Do While」はベル・トーンとスタッカート・チャイムで表現され、「Store Check」のラジオスタティックから「Line Extension」のシューゲイザーに至るまで、アルバムの他の部分も同様に催眠術のよう。これほど実験的な音楽が、温かな抱擁のように聴こえるのは珍しい。このアルバムはIDMの先駆的な作品であり、ダンスミュージックをフロアにとどまらず、ホームリスニングに適したものに変えた。2000年代以降のグリッチサウンドの萌芽も見出されるはずだ。

 



7. Dettinger 『Intershop』1999   Kompakt    * 2024年にリマスターで再発

 

Dettinger(デッティンガー)はドイツのレコード・プロデューサーで、ケルンを拠点とするレーベルKompaktと契約している。1998年の『Blond 12「』、1999年のアルバム『Intershop』(Kompakt初のシングル・アーティストLP)、『Puma 12」』、『Totentanz 12"』、2000年のアルバム『Oasis』などをリリース。


デッティンガーのトラックは、KompaktのTotal and Pop AmbientシリーズやMille PlateauxのClick + Cutsシリーズなど、様々なコンピレーションに収録されている。ペット・ショップ・ボーイズ、クローサー・ムジーク、ユルゲン・パーペなどのアーティストのリミックスも手がけている。また、フランク・ルンペルトやM.G.ボンディーノともコラボレーションしている。


『Intershop』については、アンビエントテクノの黎明期の傑作とされる。いかにもジャーマンテクノらしい職人的な音作りが魅力。それでいて天才的なクリエイティビティが発揮されている。Krafwerkの末裔とも言えるような存在。現在のテクノがこの作品に勝っているという保証はどこにもない。すでに2000年代のグリッチノイズも登場していることに驚く。テクノの隠れた名盤。

 

 

 


8.Orbital 『Orbital』(The Green Album)1991  London Records

 

表向きの知名度で言えば、Autechreに軍配があがるが、個人的に推すのがオービタル。アンダーワールド、ケミカル・ブラザーズ、プロディジーらと並び、1990年代のテクノシーンを代表するアーティストのひとつである。ライヴではライト付きの電飾メガネを付けてプレイするのが大きな特徴。

 

1990年代以来、ケント州のデュオ、オービタルは、複雑でありながら親しみやすいエレクトロニック・ミュージックを提供し、ダンスフロアのために作られた曲のために、渋いテクノと陽気なディスコの間を揺れ動いてきた。フィルとポールのハートノール兄弟は、M25に敬意を表して自分たちのプロジェクトを名付け、最初のシングル「Chime」を父親の4トラック・レコーダーで制作した。

 

1993年の『Orbital 2』でブレイクした彼らは、ディストピア的なサウンドと複雑なリズムを組み合わせたテクノ・アルバムを発表。その後のLP『The Middle of Nowhere』(1999年)や『Blue Album』(2004年)では、ハウスやアンビエント・テクノの実験を続け、2004年に解散。2012年に再結成された『Wonky』は、彼らの最もダイナミックな作品を生み出した活気に満ちたLPで、この傾向は2018年の『Monsters Exist』でも続いている。技術的に熟達しながらも果てしない好奇心を持つオービタルは、エレクトロニック・ミュージックの柱として君臨している。

 

グリーンアルバムはシンプルなミニマル・テクノが中心となっているが、このジャンルの感覚を掴むために最適なアルバムなのではないか。音色の使い方のセンスの良さ、そして発想力の豊かさが魅力。


 




9.  横田進  『Acid Mt.Fuji』1994 Muscmine Inc.


横田は日本出身の多彩で多作な電子音楽家・作曲家である。当初は1990年代を通じてダンス・ミュージックのプロデュースで知られていたが、2000年代に入ると、舞踏のように忍耐強く、小さなジェスチャーと徐々に移り変わる静かな音のレイヤーで展開するアンビエントで実験的な作品で、世界的なファンを獲得した。

 
初期のリリースは、アシッドトランスの『The Frankfurt-Tokyo Connection』(1993)から、デトロイトにインスパイアされた爽やかなテクノやハウスの『Metronome Melody』(Prismとして1995)まで多岐にわたる。

 
1999年に発表されたループを基調とした幽玄な瞑想曲『Sakura』は批評家から絶賛され、以来アンビエントの古典とみなされるようになった。その後、2001年の『Grinning Cat』や2004年のクラシックの影響を受けた『Symbol』など、アンビエントやダウンテンポの作品が多く発表されたが、2009年の『Psychic Dance』など、テクノやハウスのアルバムも時折発表している。


後には、ミニマル音楽等実験音楽を多数発表する横田さん。このアルバムではテクノとニューエイジや民族音楽等を結びつけている。心なしか東洋的な響きが込められているのは、ジャパニーズテクノらしいと言えるだろうか。日本のテクノシーンは、電気グルーヴやケン・イシイだけではないようだ。

 

 

 


10.   Thomas Fehlman   『 Good Fridge. Flowing: Ninezeronineight』1998  R&S


トーマス・フェールマンは、ポスト・パンクやハードコア・テクノ等、長年にわたってさまざまなスタイルでプレイしてきたが、アンビエント・ダブの巨人として最もよく知られている。

 

1957年、スイスのチューリッヒに生まれた彼は、1980年にハンブルクでホルガー・ヒラーとともに影響力のあるジャーマン・ニューウェーブ・グループ、パレ・シャウムブルクを結成。


90年代初頭には、モリッツ・フォン・オズワルド、フアン・アトキンス、エディ・フォウルクスらとともに2MB、3MBというグループでスピード感のあるストリップダウンしたレイヴを作り始め、デトロイトとベルリンのそれぞれのテクノ・シーンのつながりを正式に築くことに貢献した。

 

1994年にリリースした『Flow EP』などで、フェールマンはよりアンビエントなテクスチャーの探求を始め、ケルンのレーベル”Kompakt”からリリースした数多くのアルバムに見られるような瑞々しいパレットを確立した。パートナーのグドゥルン・グートとのマルチメディア・プラットフォーム「Ocean Club」のようなサイド・プロジェクトの中でも、フェールマンはアレックス・パターソンのアンビエント・プロジェクト「The Orb」の長年のコラボレーターであり、時にはゲスト・ミュージシャンとして、時には(2005年の『Okie Dokie It's The Orb On Kompakt』のように)グループの正式メンバーとして参加している。


『 Good Fridge. Flowing: Ninezeronineight』はベテランプロデューサーの集大成のような意味を持つアルバム。ジャーマンテクノの原点から、UKやヨーロッパのダンスミュージック、そしてテクノ、アンビエント、ハードコアテクノ、アシッド・ハウスまでを吸収したアルバム。98年の作品とは思えず、最近発売されたテクノアルバムのような感じもある。ある意味ではジャーマンテクノの金字塔とも呼ぶべき傑作。

 


 

◾️2000年代のテクノミュージックをより良く知るためのガイド

 

Benefits


ミドルスブラのBenefitsがニューシングル「Land Of The Tyrants」を発表した。90年代のエレクトロソングに依拠しているが、キングズレイ・ホールのスポークンワードが独特な緊迫感を帯びている。


スティーヴ・アルビニの追悼のために公開されたBIG BLACKのカバー「The End of the Radio」と同様に、明確なシャウトはないが、ジェフ・バーロウ(Portishead)のレーベル''Invada''からのデビューアルバム『Nails』と変わらず、リリックには内的な怒りが込められているようだ。


ベネフィッツは昨年、デビューアルバムの発表後、グラストンベリーに急遽出演した。NMEによると、その後ベネフィッツはドラマー交代(最初は女性ドラマーが在籍していた)を経て、現在はフロントマンのキングスレイ・ホールとエレクトロニクスの名手ロビー・メジャーの2人組の編成に落ち着いた。デュオとして初の新曲を披露したベネフィッツは、最初のアルバムで捉えた魅力を維持させながら、新しい音楽的領域へとサウンドを押し進めたいと語っている。


その結末がニューシングル「Land Of The Tyrants」で、キングズレイ・ホールが現代生活やアイデンティティの操作に対する不満を、アンダーワールドを彷彿とさせる90年代のダンス風のリズムに乗せて吐き出す。


このシングルリリースと合わせて、ティーサイドの映画監督ジョン・カークブライドが監督した、80年代の映画『ロング・グッド・フライデー』からインスピレーションを得た、洗練された新しいビデオが公開済み。キングズレイ・ホールはこのミュージックビデオについて次のように説明している。


「僕はボブ・ホスキンスになりきるのは苦手だけど、ロビーはピアース・ブロスナンになりきるのは驚くほどうまいのさ。ボンド映画を作る人たちが連絡を取りたければ、僕らのDMはいつもオープンだよ。『ロング・グッド・フライデー』のラストシーンを再現したいとか、真夜中に馬鹿げたアイデアを思いつき、それが数日後、ラップトップのスクリーンで、ちょっといびつなエッジを残しながら具現化するのを見るのは、本当に嬉しいものだよ。私たちの素晴らしい友人であるマーティン・フォックスは、素敵なモーターである彼の車を私たちに貸してくれた」



「Land of The Tyrants」





今年5月にリリースされ、好評発売中のアンビエント/ドローン·ミュージシャン、Chihei Hatakeyama(畠山地平)とジャズ・ドラマーの石若駿とのコラボレーション。この共同制作は彼らがラジオ番組で共演したことから始まった。今回、第二弾となる『Magnificent Little Dudes Vol.2』のデジタル・リリースが、10月18日(金)に決定したことが明らかになった。


すでに収録曲の「M6」が配信スタートしていたが、この度新たに「M5」もリリースになった。石若駿のアヴァンギャルドジャズのニュアンスを持つドラム、そして、畠山地平のシューゲイズに依拠した抽象的なサウンド・デザインが光る。全体的にはポストロックとしても楽しめる。

 

同楽曲について、畠山は次のように話している。


「『M5』はシュゲイザー・サウンドを目指して制作しました。実際のところシュゲイザーになっているかというとあまりなっていないような気もしましたが、他の曲に比べてロック的なことは間違いありません! 」

 

「この曲は私が若頃にやりたかったことに一番近いように思います。タイムマシーンがあるならば、若い自分に20年後に良いドラマーとセッションする機会があるぞと伝えたいですね!  実際のこの『M5』が今回のシリーズでは一番お気に入りのトラックです。音楽を始めた頃はメタル・ミュージックだったので! 」


『Magnificent Little Dudes Vol.2』は10月18日(金)にデジタルで先行リリース。その後、CD /2LP(140g)フォーマットがリリース予定となっている。




畠山地平&石若駿  M5-New Single



シングル「M5」配信中: 

https://bfan.link/m5-2


畠山地平&石若駿(Hatakeyama Chihei & Shun Ishiwaka) 『Magnificent Little Dude Vol.2』

 



<トラックリスト>

1. M3 (feat. Cecilia Bignall)

2. M2

3. M5

4. M6


アルバム『Magnificent Little Dudes Vol.2』予約受付中!  

https://bfan.link/magnificent-little-dudes-volume-02


シングル「M6」配信中:

https://bfan.link/m6




バイオグラフィー <Chihei Hatakeyama / 畠山地平>


2006年に前衛音楽専門レーベルとして定評のあるアメリカの<Kranky>より、ファースト・アルバムをリリース。以後、オーストラリア<Room40>、ルクセンブルク<Own Records>、イギリス<Under The Spire>、<hibernate>、日本<Home Normal>など、国内外のレーベルから現在にいたるまで多数の作品を発表している。


デジタルとアナログの機材を駆使したサウンドが構築する、美しいアンビエント・ドローン作品を特徴としており、主に海外での人気が高く、Spotifyの2017年「海外で最も再生された国内アーティスト」ではトップ10にランクインした。2021年4月、イギリス<Gearbox Records>からの第一弾リリースとなるアルバム『Late Spring』を発表。


その後、2023年5月にはドキュメンタリー映画 『ライフ・イズ・クライミング!』の劇中音楽集もリリース。映画音楽では他にも、松村浩行監督作品『TOCHKA』の環境音を使用したCD作品『The Secret distance of TOCHKA』を発表。


第86回アカデミー賞<長編ドキュメンタリー部門>にノミネートされた篠原有司男を描いたザカリー・ハインザーリング監督作品『キューティー&ボクサー』(2013年)でも楽曲が使用された。


また、NHKアニメワールド:プチプチ・アニメ『エんエんニコリ』の音楽を担当。2010年以来、世界中でツアーを精力的に行なっている。2022年には全米15箇所に及ぶUS ツアーを、2023年は2回に渡りヨーロッパ・ツアーを敢行した。


2024年5月、ジャズ・ドラマーの石若駿とのコラボレーション作品『Magnificent Little Dudes Vol.1』をリリース。10月には同作のVol.2の発売が決定している。



<Shun Ishiwaka / 石若駿>

 

1992年北海道生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。


2006年、日野皓正special quintetのメンバーとして札幌にてライヴを行なう。2012年、アニメ『坂道のアポロン』 の川渕千太郎役ドラム演奏、モーションを担当。


2015年には初のリーダー作となるアルバム「Cleanup」を発表した。また同世代の仲間である小西遼、小田朋美らとCRCK/LCKSも結成。さらに2016年からは「うた」をテーマにしたプロジェクト「Songbook」も始動させている。近年はゲスト・ミュージシャンとしても評価が高く、くるりやKID FRESINOなど幅広いジャンルの作品やライヴに参加している。


2019年には新たなプロジェクトAnswer To Rememberをスタートさせた。2023年公開の劇場アニメ『BLUE GIANT』では、登場人物の玉田俊二が作中で担当するドラムパートの実演奏を手がけた。


2024年5月、日本を代表するアンビエント/ドローン·ミュージシャン、畠山地平とのコラボレーション作品『Magnificent Little Dudes Vol.1』をリリース。10月には同作のVol.2の発売が決定している。

The WAEVE 



 ザ・ウェーヴの新作『シティ・ライツ』と彼らのデビュー作『2023』を並べてみると、2枚のまったく異なるレコードが浮かび上がってくる。グラハム・コクソンとローズ・エリナー・ドーガルの初共演作で、2人は不穏と恐怖の影に美と優しさが存在する、時に夢のような世界を作り出した。


 2人のヴォーカル、モジュラー・シンセ、コクソンのサックスは、ブロードキャスト、トーク・トーク、70年代フォークの影を引き寄せるのに役立つ一方で、プログレやポスト・パンクの影響を受けた、より複雑な下草に引っかかることを可能にしている。

 

 これらの要素は『City Lights』でも健在だが("Simple Days "のアコースティック・ドリフト、"You Saw "の浮遊感溢れるモーターリク・ポップ、"Druantia "の8分に及ぶプログレッシブ・ロックの冒険など)、今回はより大胆で広がりのある、自信に満ちたものに仕上がっている。

 

 ジェームス・フォードとの共同プロデュースにより、タイトル曲の煽情的なアート・ロックのスコールや「Broken Boys」のキャバレー・ヴォルテールのような騒々しさなど、よりトゲトゲしく、よりアグレッシブな作品に仕上がっている。以前はイメージや寓話を通して感情やメッセージを投影していたかもしれないが、ここでは何を、あるいは誰について歌っているのかがより明確になっている。


「今回はバンドにアイデンティティがあったから、自分たちがどう動くか、もう少し枠組みがあったんだ。しかし、明らかに状況はかなり異なっていた...」


 2020年当時、コクソンとドーガルは漂流していた。ある夜、ロンドンのジャズ喫茶で行われたチャリティ・ギグの楽屋で出会ったドゥーガルは、一緒に曲を書こうと提案した。レトロ・ポップ・トリオ、ザ・ピペッツのメンバーだったドーガルは、前年に3枚目のソロ・アルバム『A New Illusion』をリリースしており、コヴィッドの襲来と同時にLAからロンドンに戻ってきたコクソンは、流動的な状態にあった。ローズが "一緒に書いてみない?"と言ってくれるまで、いつまた仕事をするのか、また書いてみるのか、わからなかったんだ」とギタリストは言う。

 

「ファースト・アルバムを聴くと、僕とグラハムがレコード制作を通してお互いを知っていくのがわかるんだ。一緒に曲を書き、レコーディングをする過程で、コクソンとドゥーガルはお互いを知るようになっただけでなく、恋に落ち、2022年8月には娘のイライザがこの世に誕生した。

 

「最初のアルバムは、世の中で起こっていることの窮屈さから逃れるための方法だった。「このアルバムは、より家庭的な制約に立ち向かうためのものだったと思う。それが、いくつかの曲の切迫感にもつながっているんだ」


 しかし、オープニングのタイトル・トラックの最初の数小節を聴けば、この曲が独りよがりの満足のレコードでないことは明らかだ。この曲のベルリン時代のデヴィッド・ボウイのような眩しさで描かれる夜の外出には、影に潜む恐ろしい怪物や、常に頭をもたげようとしている不安がある。

 

 この光と影の組み合わせが、『シティ・ライツ』を聴き応えのあるものにしている。I Belong To's "のようなポップで軽快な献身宣言や、ある朝コクソンが娘に叩きつけたコードから始まった "Sunrise "の牧歌的な素晴らしさなど、穏やかな瞬間には必ず現実があり、不和や厳しさが牡蠣の中にある。


 グラハム・コクソンはアルバムの制作について次のように説明する。「このアルバムは間違いなく、より神経質で、より不機嫌だ。醜いものであれ美しいものであれ、私はいつも感情をストレートに表現してきた。音は必ずしも聴き心地がよくなければならないとは思わない。本当に素敵なものの隣に不快感を置くというダイナミズムは、私がいつも興味を持っていることなんだ」

 

「Song For Eliza May」は間違いなくアルバムのハイライトのひとつだ。フェアポート/レッド・ツェッペリン3世フォーク・ロックの嵐が吹き荒れる中、ドゥーガルが自分たちがこの世に送り出した娘が直面するかもしれない危険や困難について詳しく語り始める。

 

 ダガールにとって、娘の誕生について率直に書くという決断は、当初は難しいものだった。「出産について言及することにしばらくは抵抗がありました。でも実際、その経験をもっと大きなテーマを探求するのに使えると気づいたの。ニュースで起きていること、残虐な行為、世界が崩壊していく様子を見てね。そしてそれと並行して、人生がどのように進化していくのか、自分自身の感覚がどのように発展してきたのかを考える。それは曲作りのプロセスにとって本当に良い手段となった」

 

 コクソンのギター・プレイもより際立っている。Moth To The Flame」のロボティックなニューウェーブではロバート・フリップのようなグライドを、「Girl Of The Endless Night」ではバート・ヤンシュのような巧みなフィンガー・ピッキングでオールド・ワールド・テイストを、そして至福のフロイド・スライド・ギターでアルバムを地平線の彼方へと送り出している。

 

 ファースト・アルバムの暫定的な歩み以上に、『City Lights』はグラハム・コクソンとローズ・エリナー・ドーガルを如実に表している。ミュージシャンとしての彼ら、そして人間としての彼ら。最初の曲から最後の曲までの旅が終わりに近づくにつれ、このアルバムが彼らの物語を語るレコードでもあり、一緒に音楽を作ることが彼らをどこに連れて行ったかという物語でもあることに気づくかも知れない。




Though there’s been little over a year between the two releases, line up The Waeve’s new album City Lights next to their 2023 debut and two very different records emerge. On Graham Coxon and Rose Elinor Dougall’s first record together, the pair conjured up an at times dreamlike world where beauty and tenderness existed under a shadow of disquiet and dread. The pair’s vocals, modular synths and Coxon’s saxophone helping to draw together shades of Broadcast, Talk Talk and 70s folk, while allowing them to get snagged on a knottier undergrowth of prog and post-punk influences.

 

While those elements are still present on City Lights (witness "Simple Days’" beatific acoustic drift, "You Saw’s" floating motorik pop or the eight-minute progressive rock adventuring within "Druantia,") this time around they’ve solidified into something bolder, more expansive and self-assured.

 

Co-produced by James Ford, it’s at times spikier and more aggressive, as on the title track’s agitated, art-rock squall or "Broken Boys’" Cabaret Voltaire-like racket, and swaps out the more oblique lyrical imagery of its predecessor for something more personal and direct. Where before they might have projected an emotion or a message through imagery or allegory, here it’s much clearer what, or who, they might be singing about.

“The band had an identity this time around so we had a little bit more of a framework to know how we might operate,” notes Dougall of their differing approaches. “But obviously, the circumstances were quite different…”

 

Back in 2020, Coxon and Dougall were adrift. When they met backstage at a charity gig at London’s Jazz Café one night, Dougall suggested they write some songs together. Formerly of retro-pop trio The Pipettes, Dougall had released her third solo album A New Illusion the previous year and having relocated from LA back to London just as Covid struck, Coxon was in a state of flux. “I didn’t know when I was going to work again or try writing again until Rose came out and said, ‘How about we try writing together?’” says the guitarist.

 

“When I listen to the first album, I can hear me and Graham getting to know each other through making the record,” says Dougall today. Through the process of writing and recording together, not only did Coxon and Dougall get to know each other, they fell in love, and in August 2022 welcomed their baby daughter Eliza into the world.

 

“The first record was a way of escaping the constrictions of what was going on in the world,” says Dougall. “I think this one was a way of railing against the more domestic constraints that we had. That’s partly where some of the urgency of some of the songs come from.”

Domesticity isn’t always the richest of wellsprings when it comes to artistic inspiration, but from the first few bars of the opening title track, it’s clear this isn’t a record of smug contentment. The night out detailed in the song’s Berlin-era Bowie dazzle has scary monsters lurking in its shadows, anxieties always ready to rear their head.

 

That combination of light and shade is what makes City Lights such a rewarding listen. For every moment of serenity – "I Belong To's" wonky pop declaration of devotion or the pastoral splendour of "Sunrise", which began life as chords Coxon strummed to their daughter one morning - there’s a bump of reality, some discord and grit in the oyster.

 

“This album is definitely more neurotic and more grumpy - and that comes from me!” laughs Coxon. “I’ve always liked to be pretty straightforward about feelings, whether they’re ugly or beautiful, and I’ve always approached sound in the same way. I don’t always think that sound needs to be comfortable to listen to. That dynamic of putting discomfort next to something that is really lovely is something that I’ve always been interested in.”

 

"Song For Eliza May" is undoubtedly one of the album’s highlights. A mandolin strummed ode to their daughter during which a surging Fairport/Led Zeppelin III folk rock storm begins to build as Dougall starts to detail dangers and difficulties the person they’ve brought into the world might face.

 

For Dougall, the decision to write quite frankly about the birth of their daughter was initially a difficult one. “I was really resistant for a while to even consider referencing it," she says. “But actually, when I realized that I could use that experience to explore bigger themes - watching what’s happening in the news, all these terrible atrocities and the world falling apart. And in tandem with that, thinking about how life evolves and how my own sense of self has developed. It became a really good vehicle for the song-writing process.”

 

Coxon’s guitar playing is more prominent, too. Not overtly, it’s more deconstructed to help build up layers - a Robert Fripp-like glide in "Moth To The Flame’s" robotic new wave, some deft finger picking a lá Bert Jansch to really dredge up an olde worlde feel for "Girl Of The Endless Night," or some blissful Floydian slide guitar to help send the album off over the horizon.

 

Even more so than on the tentative steps of their first album, City Lights is a true representation of Graham Coxon and Rose Elinor Dougall. Who they are as musicians and who they are as people. As the journey from the first song to the last comes to an end, you realize that it’s also a record that tells their story, the story of where making music together has taken them.   -Transgressive


 『City Lights』 

 

 

・グラハム・コクソンとローズ・エリナー・ドーガルのセカンドアルバム。ロンドンの音楽文化の奥深さ

 

 実は、Blurが再始動する以前から、グラハム・コクソンは新しいプロジェクト、The WAEVEを立ち上げていたことをご存知だろうか。それはブラーのドラマーであるDave Rowntree(デイヴ・ロウントゥリー)がソロ・アルバムを発表した時期と大方重なっていた。The Waeve(ザ・ウェイヴ)は、グラハム・コクソンとその妻であるローズ・ドーガルのデュオとして発足した。グラハム・コクソンの英国の音楽シーンでの目覚ましい活躍については最早くだくだしく説明するまでもないだろう。ローズ・ドーガルについては''ローズ・ピペット''というガールズ・グループで活動していた。異なる才能の化学反応、似た性質を持つ二人の男女のユニットであるThe WAEVEの音楽性は、70年代後半のニューウェイヴから、80、90年代のポピュラーミュージックを踏襲し、次いで現代的なポピュラー・ミュージックのニュアンスや文脈をもたらすという趣旨である。


 ファースト・アルバム『The WAEVE』を聞けば分かる通り、このユニットは単なるサイドプロジェクトのようなお遊びのためのプロジェクトではない。いわばブラーのアート・ロックの側面を受け継ぎ、そして、ニューウェイヴやノーウェイヴのニュアンスから、ビートルズ時代のチェンバーポップ、90年代のオアシスのブリット・ポップ、2010年代以降のエクスペリメンタルポップを隈なく吸収し、それらを現代的なポピュラーミュージックとして昇華するという趣旨である。楽曲のスタイルは、二人の音楽的な見識の深さを反映するかのように幅広い。グラハム・コクソンのボーカルの渋さ、そして、一方、クリアで清涼感のある高いトーンを主な特徴とするローズ・ドーガルの対象的な声の性質により、聴き応え十分のポピュラーソングが生み出される。その中には、現代のパンクバンドが失いかけている反抗心もある。しかし、グラハム・コクソンがこのニューウェイヴというアウトプットの形式を選んだのは、おそらくこのジャンルにはまだ未知の潜在的な可能性が眠っていて、そして最も夢のある音楽だからである。

 

 

 The WAEVEの音楽には表向きに聞こえるものよりも、かなり深甚な文化性が内包されている。それは、先日、ラフ・トレードが公開した大掛かりなロンドンの音楽の数十年の歩みを収めたプレイリストを見ると分かる通り、70年代から20年代にかけてのUKミュージックの50年の流れを現代人としてあらためて俯瞰するかのようである。1970年代頃、一大的なムーヴメントとなったロンドン・パンクというジャンルは、三大バンドを始め、無数のサブジャンルとフォロワーを輩出したが、他方、ジョニー・ロットンのバンドがメジャーレーベルと契約した頃から、急速に最初のウェイブは衰退していくことになった。それは、簡単に言えば、パンクバンドが次々とメジャーレーベルと契約を交わしたことに大きな原因があった。パンクバンドが商業的な成功を収めていく中、音楽性そのものに精神性が失われていったことが要因であった。

 

 しかしながら、この最初のロンドンのパンク・ウェイブが衰退しかけた頃、もうひとつのジャンルがニューヨークと連動するようにして台頭した。それが、現在では「Post Punk」と称されるウェイヴであり、Crass、The Fall、1/2 Japanese、PILを始めとするムーヴメントを発生させた。その最終形が、当時、公務員と音楽家の兼業をしていたイアン・カーティス率いるJoy Division。ニューウェイヴのサウンドには特徴があり、Kraftwerk、NEUといったヨーロッパの実験的な電子音楽、ポピュラーミュージック、先行していたパンクロック、これらの3つの文脈を結びつけるというものである。更に的確に言えば、「アート・ロック」の音楽性が含まれていた。

 

 それが、1980年代後半からのマンチェスターのハシエンダ(カタログ形式のリリース番号の発祥)のクラブカルチャー、及び、米国のノーザン・ソウルを受け継いで登場したStone Roses、Smithという最初の形になり、以後、それらの総決算としての90年代初頭のブリット・ポップのブームが沸き起こった。メインストリーム、アンダーグラウンド問わず、イギリスの音楽の系譜を結実させたのが、1990年代のバンドであり、それはまた、60年代のビートルズ、ストーンズのチェンバーポップという側面をも映し出していた。しかし、このウェイヴは、音楽産業が最も盛んだった時代の流れを受け、宣伝的な側面も含まれていたことは改めて指摘しておくべきだろう。以降、新しい音楽はいくつも登場したが、どうしても「宣伝のための音楽」という範疇から逃れられないという長年の課題を抱えざるを得なかった。これは現在の音楽業界が抱える問題でもある。企業としての利益性を重視せざるを得ない側面があるからである。

 

 

 ある意味では、イギリスの音楽は、過去を振り返って懐かしむというより、何らかの別のジャンルを吸収したり、もしくは、クロスオーバーを図ることで、音楽をアップデートさせてきた。それは、むしろ過去を全て肯定するというより、半ば否定しつつ、新しい表現を生み出すという、英国人らしい気風を象徴付けている。この点においては、ブライアン・イーノがプロデュースを務め、主導したニューヨークの「No Wave」の動きと連動するような傾向があったと言える。これは単に、アナクロニズム(時代錯誤)に陥ることが、現代人としての沽券に関わると考えるミュージシャンが一定数いたことを表す。要するに、現代人として生きるからには過去の遺産をそのまま提示するのではなく、「新しい意味を与えたい」という欲求を抱えざるを得ない。The WAEVEは、これらの系譜に属し、過去を半ば否定し、新しい表現を生み出すようなタイプのユニットである。もちろん、往年の音楽を踏襲しつつ、それに敬意を払いながらも、その中には、自分たちが過去に埋没することを拒絶する何かが存在する。これがおそらく、グラハム・コクソンが示したいもので、それは表向きの人気バンドのギタリストという姿とは異なる、もう一人のミュージシャンの実像のようなものをありありと浮かび上がらせるのだ。

 

 セカンドアルバムの冒頭を飾る「1-City Light」では、ニューウェイヴ、あるいはニューヨークのノーウェイヴの系譜にある不協和音が、現代的なポスト・パンクサウンドの向こうに揺らめく。それはエレクトリック・ギターのノイズ的な側面に立ち現れたかと思えば、曲の中盤部のギターソロの代わりに登場するサクソフォンのジョン・ゾーンのような前衛的なフリージャズの文脈中に登場することもある。しかし、包括的な音楽のディレクションは、一貫して絶妙なバランスが保たれている。音楽そのものが危うくなることを許容しつつも、グラハム・コクソンのボーカルは、ポピュラリティと歌いやすさにポイントが置かれている。それはパブ・カルチャーのような気風を反映させたり、もしくは、The Clashの『London Calling』の作風に見受けられるブリクストンの夜の雰囲気を音楽的な表現としてかたどった秀逸なロックソングとして繰り広げられる。大げさに言えば、The WAEVE(ザ・ウェイヴ)はノスタルジアとモダニズムの中間を歩くような音楽で聞き手の心を鷲掴みにする。全体的なサウンドプロダクションとしては、70年代のニューウェイヴの性質が押し出されている。そして、このアルバムの一曲目を通じて、The Waeveは失われた夢のある音楽、未知の可能性に充ちた音楽を私達に見せてくれる。


 そうかと思えば、コクソンの妻であるローズ・ドーガルがメインボーカルを取る「2-You Saw」は、一曲目とはまったく対象的なトラックである。ドーガルの清涼感のあるボーカル、そして音楽性は、80年代のガールズ・グループに象徴付けられる楽しげな音楽の気風をもたらす。これらは、70年代のX-Rey Specsや、それ以降のアメリカのミラーボールの華やかで煌びやかなディスコサウンド、そしてアート・ロックという複数の音楽形式を取り巻くようにして進行していく。全体的には、長調の曲であるが、アルバムの一曲目と同じように、部分的に単調の旋律進行や不協和音を織り交ぜ、多彩なスケールとコード進行を描く。それは現実に生じた抽象的な空間を彷徨うかのようで、シュールレアリスティックな音楽性が内包されているといえる。


 しかし、これらの音楽性が多少マニアックだとしても、グラハム・コクソンの曲と同じように、ドーガルのボーカルがポピュラリティを付与している。不協和音や奇妙な移調が取り入れられようとも、全体的にはキャッチーなポップソングとして楽しむことが出来る。そして、3分06秒近辺からいきなり曲調が一変し、チェンバーポップ/バロックポップの要素が顔をのぞかせる。そして、グラハム・コクソンの紳士的なボーカルが入ると、曲の雰囲気がガラリと変化してゆく。


 「You Saw」のイントロでは、ニューウェイブや同年代のディスコ・サウンドをベースにした音楽か、と思わせておきながら、曲の後半では、壮大なスケールを持つ現代的なポップソングへと変遷を辿っていく。そして、メインボーカルがグラハム・コクソンへとスムーズに引き継がれ、ドーガルの夢想的なコーラスワークを背景にして、Televison、Talking Headsに代表されるNYのプロトパンクを掛け合わせたアブストラクトな音楽へと変化していき、最終的にはドーガルのボーカルが現代的なポップソングの印象を形作る。まるで、この曲は、種子に水をやり、その苗がゆっくりと成長し、美しい花を咲かせる様子を見届けるかのような素晴らしい一曲である。

 

 ポストパンク・ユニットとしての性質は、「3-Moth To The Flame」においてひとまず発揮される。ゴツゴツとしたオーバードライブのかかったベースラインに、グラハム・コクソンは、拡張器のようなボーカルのエフェクトを掛け、「声明代わり」と言わんばかりにふてぶてしいボーカルを披露し、この曲を牽引していく。求心力がある曲で、ライブではかなり盛り上がりそうだ。しかし、ルート進行のベースに対して歌われるコクソンのボーカルは、意外なことにかなり迫力があり、そして精細感もある。いわばコクソンさんが現代のミュージシャン/ボーカリストであることを実証するようなパンクサウンドである。


 何より、アルバムの一曲目と同じように、フリージャズやフュージョンの影響を反映させたサックスフォンのスムーズなレガートが、この曲にダンサンブルな印象と楽しげな気風を添えている。ニューウェイブのジャンルを紐解く上で不可欠であるシンセサイザーの同音進行は、この曲の持つエナジーを巧みに引き立てている。


 コクソンのボーカルにも力がこもっていて、言葉が上滑りになったり、キャッチフレーズに終始しないのに驚きを覚える。これは、The Waeveの音楽的な表現が尖っていて、少なからず体制的な考えや気風に対する反抗心を持ち合わせていることを表す。これは、表面的な反抗心ではなく、長年の間培われた尽くせぬ思いや感情を内側から反映させたかのようである。少なくとも、従来のグラハム・コクソンというミュージシャンのイメージを覆すことに成功しているのではないか。

 

 

 こういったパンク的な性質を持ち合わせた上で、オーケストラと電子音楽をポピュラーソングの形に落とし込む曲も収録されている。「4-I Belong To」は、1970年代の夢のあった時代の何かを現代に蘇らせ、それを新たにアップデートしている。そして、The Who、The Jamのモッズ・ロック、『Tommy』に象徴付けられるロック・オペラまでを的確に吸収し、ハードロック、プログレッシヴ、電子音楽、そして、ブリット・ポップに至るまで多角的に捉えた音楽を示している。音楽的に深い領域に入り込んでいるのは事実だが、何より大切なのは、ロック・オペラの核心にある音楽性をこのユニットが的確に捉えていることである。この音楽に欠かさざるものは、今や現代的に失われつつある英国人としての矜持や、紳士性、いわばジェントリーな節回しをするスポークンワードに近いボーカルの形式にある。ロック・オペラの核心にあるもの、それは扇動性ではなく、古典的な演劇に象徴される紳士的な表現にあったことが判然とする。

 

 特に、アルバムの中で最も素晴らしいのが続く2曲である。「5-Simple Days」は、ボサノヴァのような南米のワールド・ミュージックやフュージョンジャズを、80年代のノスタルジックなポピュラーセンスで包み込み、夢想的な感覚と安らいだ感覚を結びつける。アコースティックギター/エレクトリック・ギターの演奏も素晴らしいが、この曲の天国的な雰囲気を的確に表現しているのが、ドーガルのボーカルとシンセサイザーの心地よいテクスチャーである。スライド・ギターを中心とする抽象的なギター、そして、エンリオ・モリコーネの口笛をモチーフとしたマカロニ・ウェスタンは、音楽の持つ開放的な素晴らしさ、そして祝福的な感覚を体現させている。

 

 それは南国に束の間の休暇にやって来て、ヤシの木や海の向こうに沈んでいく太陽の残光を目の端に捉えるような幻想的な美しさに縁取られている。これらの美的な感覚は、アウトロのギターのアルペジオに至るとき最高潮に達する。この曲にはコクソンとドーガルのこの世界の美しさへの賛美とも言える。それはまた、さらに言えば、自然や情景の驚異に接する際の慈しみにも似た眼差しが、こういった天国的な雰囲気を持つ楽曲を生み出す契機となったのか。続く「6-Broken Boys」は、UNCUT誌が絶賛し、ユニットのポスト・パンク的な側面が色濃く反映されている。これらの天国的な音楽から、現実的な側面を何らかの考えで縁取った曲への移行は、対象的な印象で聞き手に驚きを及ぼし、大きなインパクトをもたらすかもしれない。実際的に、苛烈なイメージのあるギター、ベースに対して歌われるドーガルのボーカルは、このシンガーがガールズグループの性質をThe Waeveのサウンドにもたらしていることが分かる。彼らの最もクールな側面が立ち表れ、それは都会の街を肩で風を切るような感覚がにじみ出ている。


 アルバムの音楽的な性質は収録曲ごとに変化し、スムーズでゆるやかな変遷をたどる。UKの70年代のフォーク・ミュージックの受け継いだ「7-Song For Eliza May」では、再び、ローズ・ドーガルがメインボーカルを取り、コクソンのバンジョーの巧みな演奏に合わせて、スコットランドのケルト民謡のテイストを作り出す。6/8のワルツの形式を踏まえ、バンジョー、ギター、ピアノの演奏が舞楽的な音楽的な効果を生み出し、ドーガルのボーカルは、優雅さや開放的な空気感、ケルト民謡の持つ牧歌的なアトモスフィアを醸成する。ひとつひとつのアコースティック楽器の演奏がきわめて精妙に演奏、録音されているため、比較的自由な歌い方をしても、曲全体の構成が崩れることがない。これらの卓越した演奏力と録音技術に合わせて、実際的にボーカルの夢想的な感覚は、実際的に聞き手をイギリスの中世的な世界の奥底へと優しく誘う。


 曲そのものから立ち上るイメージもあり、サウンドスケープを呼び覚ますが、これらは弦楽器が入ると、最終的にThe Smithのモリッシーが80年代後半に描き出したような孤独感やクラシカルなロック性へと結び付けられる。曲の後半では、ギターソロが入り、白熱した空気感を帯びる。巧みなベースラインを挟み、この曲は大掛かりでシアトリカルな音楽へと変遷していく。曲の後半部には70年代のUKのハードロックや、The Doorsのようなサイケロックの要素も含まれている。いわばロックの教科書を徹底的に読み込んだ上で、それらをライヴサウンドとして映えるような形で昇華させている。ロックオペラの次世代に位置づけられる革新的な一曲。

 


 The Waeveの音楽はロンドンのカルチャーを反映させるかのように多彩で、一定の音楽の中に収まることはない。それは、二人がどれだけ音楽を愛しているかを表し、同時に深い信頼関係で結ばれていることを表すかのようである。音楽的なバリエーションやイマジネーションは、その後の収録曲でも衰えることはなく、少しずつ広がりを増していくような感覚がある。「8-Druantia」では再び、ニューウェイブサウンドに回帰し、ユニークなサクソフォンの演奏を取り入れて、フュージョン・ジャズとポスト・パンクの中間にあるダンサンブルなサウンドを生み出す。かと思えば、続く「9-Girl Of The Endless Night」では、Lankumのようなダブリナーズのアイルランド民謡をベースに、現代的なイギリスのフォーク・ミュージックの理想的な形を示す。

 

 アルバムのクライマックスを飾る「10-Sunrise」では、60,70年代のポップスをベースに、グラハム・コクソンのソングライターとしての才覚が見事な形で花開く。トム・ウェイツやM.Wardのような渋さのあるボーカル、そして、サクソフォンのジャズをテイストを加え、サビでは、相方のローズ・ドーガルのメインボーカルを受け渡す。これはデュオという形でしか実現しえない新しいデュエットの形式を示したにとどまらず、古典的なポピュラー音楽を踏まえ、それらをどのように現代のスタイルに繋げるのか。両者の飽くなき探究心がもたらした最大の成果でもある。


 チェンバー・ポップ、AOR、それ以降のアーバン・コンテンポラリー、ABBAのような北欧のポップスといった良質な音楽を隈なく吸収し、フローレンス・ウェルチの系譜にある演劇的なポップスへと昇華させる。この曲の最後では、それまで長らく抑えていた感覚が暴発するかのように一挙に溢れ出てくる。シアトリカルな音楽的な表現が見事なオーケストラストリングスの駆け上がり、及び、掛け下がりと結びつき、オリジナリティ溢れるポピュラー音楽が構築される。それは表題にも表されているように、日の出の瞬間を体現させるかのようである。最後の曲のクライマックスは圧巻というよりほかなく、音楽の持つ素晴らしさに触れることができる。

 

 

「Song For Eliza May」

 

 

86/100

 

 

*The WAEVEのセカンドアルバム 『City Lights」はTransgressiveから今週末(9月20日)に発売されます。 



【先行情報】


 THE WAEVE、セカンドアルバム『CITY LIGHTS』を正式に発表 9月20日にTRANSGRESSIVEよりリリース


THE WAEVE、ニューシングル「BROKEN BOYS」をリリース  ライブパフォーマンスを収録した「CITY LIGHTS SESSIONS」もスタート!! 



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【REVIEW〛 THE WAEVE 「THE WAEVE」 グラハム・コクソンによる新プロジェクトのデビュー作






Second album by Graham Coxon and Rose Elinor Dougal. The depth of London's musical culture.



In fact, even before Blur was relaunched, Graham Coxon had launched a new project, The Weave. It largely coincided with the release of Blur drummer Dave Rowntree's solo album The Waeve began as a duo between Graham Coxsone and his wife Rose Dougal.


Graham Coxon's remarkable success on the British music scene needs no brief description. As for Rose Dougal, she was active in a girl group called Rose Pippet. The chemistry of different talents, the musicality of The WAEVE, a unit of two men and two women with similar qualities, is intended to follow the popular music of the late 70s new wave, the 80s and 90s, and then bring in the nuances and context of contemporary popular music.


As you can tell from listening to the first album, The WAEVE, the unit is not just a side project for fun. The WAEVE takes the art-rock side of Blur, so to speak, and then, from the nuances of new wave and no wave, absorbs the chamber pop of the Beatles era, the Brit-pop of Oasis in the 90s and the experimental pop of the 2010s and beyond, and sublimates them into a contemporary popular music. The aim is to sublimate them as contemporary popular music. 


The style of the songs is wide-ranging, as if to reflect the depth of the duo's musical insight. The austerity of Graham Coxon's vocals and the contrasting nature of Rose Dougal's voice, which is mainly characterised by clear, clean, high tones, produce popular songs that are highly enjoyable to listen to. There is a defiance in them that modern punk bands are losing. However, Graham Coxon has chosen this form of new wave output, perhaps because the genre still has untapped potential, and because it is the most dreamy music of all.



The WAEVE's music encompasses a considerably more profound cultural nature than what it sounds like on the surface. It's as if we, as modern-day people, have a bird's eye view of 50 years of UK music from the 1970s to the ‘20s, as evidenced by the recent Rough Trade playlist that chronicles decades of music in London on a grand scale. The London punk genre, which became a huge movement around the 1970s, produced three major bands and countless sub-genres and followers, but on the other hand, the first wave rapidly began to decline from the time John Lydon's band signed to a major label. 

 

This was largely due to the fact that, simply put, punk bands signed to major labels one after the other. This was due to the fact that as punk bands became more and more commercially successful, the musicality itself lost its spirituality.



However, as this first London punk wave was on the wane, another genre emerged in tandem with New York. This was the wave now known as ‘Post Punk’, which gave rise to movements including Crass, The Fall, 1/2 Japanese and Public Image LTD.. Its final form was Manchester's Joy Division, led by Ian Curtis, who at the time was both a civil servant and a indipendent musician, and whose new wave sound was distinctive, combining European experimental electronic music such as Kraftwerk and NEU, popular music and the punk rock that had preceded it. The idea is to link the three contexts. Even more precisely, it contained an ‘art-rock’ musicality.


This took its first form in the club culture of Manchester's "Hacienda" (the birthplace of catalogue-style release numbers) from the late 1980s onwards, and The Stone Roses and The Smith, who emerged as the inheritors of Northern Soul in the USA, and subsequently, in the early 1990s, as the sum total of these The Brit-pop boom was booming. 

 

It was the bands of the 1990s that brought the genealogy of British music, both mainstream and underground, to fruition, and it also mirrored the chamber pop aspect of the The Beatles and The Rolling Stones of the 1960s. However, it should be pointed out again that the wave also contained a promotional aspect, as the music industry was at its most prolific. Since then, a number of new music acts have emerged, but they have inevitably had to deal with the perennial problem of not being able to escape the category of ‘music for publicity’. This is also a problem facing the music industry today. This is because of the aspect of corporate profitability that it is forced to focus on.
 

In a sense, British music has updated itself by absorbing or crossovering into some other genre, rather than looking back and nostalgically remembering the past. This is symbolic of the typically British disposition to create new forms of expression, rather than affirming the past in its entirety, but half-negating it. In this respect, there was a tendency to link up with the "No Wave" movement in New York, produced and led by Brian Eno. This simply means that there were a certain number of musicians who thought that falling into anachronism was a matter of good name as a modern man. 

 

The WAEVE is a unit that belongs to these groups, half-denying the past and creating a new form of expression. Of course, while following and paying homage to the music of yesteryear, there is something in it that refuses to bury itself in the past. This is, perhaps, what Graham Coxon wants to show, and it reveals something of the real image of another musician, ostensibly different from that of a guitarist in a popular band.

 

On ‘1-City Light’, which opens the second album, dissonant sounds from the New Wave or New York no-wave lineage shimmer over a contemporary post-punk sound. It seems to rise to the noisy side of electric guitar, or avant-garde like saxophonist John Zorn, who replaces the guitar solo in the middle part of the song.


On the contrary, ‘2-You Saw’, in which Coxson's wife Rose Dougal takes the main vocals, is a track that is completely opposite to the first one. Dougal's plaintive vocals, and musicality, bring a joyful musical flair that can be associated with the girl groups of the 80s. 

 

These progress around the multiple musical forms of the X-Rey Specs of the 70s, the glitz and glamour of the American disco sound of later years, and art rock. Overall, the song is in a major key, but like the first track on the album, it weaves together partially monotonous melodic progressions and dissonances, drawing on a variety of scales and chord progressions. It seems to wander through abstract spaces that arise in reality, and it can be said to contain a surrealistic musicality.


However, if these musicalities are somewhat manic, Dougal's vocals, like Graham Coxon's songs, give them a populist quality. Even if dissonance and strange transpositions are introduced, the song can still be enjoyed as a catchy pop song on the whole. Then, around the 3:06 minute mark, the tone suddenly changes and elements of chamber pop/baroque pop appear. The atmosphere of the song changes drastically when Graham Coxon's gentlemanly vocals enter the song.


The intro to ‘You Saw’ leads one to believe that the music is based on new wave or disco sounds of the same era, but in the second half of the song, it transitions into a contemporary pop song of epic proportions. Then the main vocals are smoothly taken over by Graham Coxon, with Dougal's dreamy chorus work in the background, and the music turns into abstract music crossed with New York proto-punk represented by Televison and Talking Heads, and eventually Dougal's vocals form the impression of a contemporary pop song. It is a wonderful piece of music, as if one were to water a seed and watch the seedling slowly grow and blossom into a beautiful flower.
 

The nature of the band as a post-punk unit is momentarily demonstrated on ‘3-Moth To The Flame’. Over a lumbering, overdriven bassline, Graham Coxon drives the song along with augmented vocal effects and a swaggering vocal delivery that is a ‘statement replacement’. The song has a centripetal force and would be quite exciting live. However, Coxson's vocals, sung against a root-progressed bass, are surprisingly quite powerful and detailed. It is, so to speak, a punk sound that demonstrates that Coxson is a modern musician/vocalist.


Above all, the smooth legato of the saxophone, which, like the first track on the album, reflects free jazz and fusion influences, adds a dancelike impression and a joyful air to the song.The synthesiser homophonic progression, which is essential in unravelling the new wave genre, cleverly enhances the energy of the song.


Coxson's vocals are also very powerful, and it's surprising that the words don't go over the top or end up in catchphrases. This is a sign that The WAEVE's musical expression is pointed, and in no small part a rebellion against the ideas and temperaments of the establishment. This is not a superficial rebellion, but an inward reflection of the inexhaustible thoughts and feelings that have been cultivated over the years.



In addition to these punk qualities, the songs also include orchestral and electronic music in the form of popular songs. ‘4-I Belong To’ brings something from the dreamy days of the 1970s back to the present day and updates it anew. And it shows a multifaceted take on hard rock, progressive, electronic and even Brit-pop music, accurately absorbing the mod-rock of The Who and The Jam, and even the rock opera epitomised by ‘Tommy’. 


It is true that they are entering deep musical territory, but what is most important is that the unit has accurately captured the musicality at the heart of rock opera. What is missing from this music is a form of vocalism that is now losing its contemporary Britishness, its gentlemanliness, its near-spoken-word form of gentry versification, so to speak. It is discernible that at the heart of rock opera, it was not incendiary, but the gentlemanly expression symbolised by classical theatre.

 

In particular, the two following tracks are the finest on the album. ‘5-Simple Days’ combines dreamy and restful sensations, wrapping bossa nova-like South American world music and fusion jazz with a nostalgic 80s popular sensibility. The acoustic/electric guitar playing is excellent, but it is Rose Dougal's vocals and the pleasant textures of the synthesizers that aptly capture the heavenly atmosphere of the song. The abstract slide-guitar-led guitar and Ennio Morricone's whistling macaroni western motifs embody the open splendour and celebratory feel of the music.

 
It is framed by a magical beauty, like coming on a brief holiday to a tropical country and catching the afterglow of the sun setting behind palm trees and the sea out of the corner of your eye. These aesthetic sensations culminate in the outro guitar arpeggio. This song can be seen as Coxson and Dougal's paean to the beauty of this world. It is also, and perhaps more importantly, a compassionate look at the wonders of nature and the landscape that led to the creation of these heavenly atmospheric songs. 


The following track, ‘6-Broken Boys’, was praised by ”UNCUT magazine” and reflects the post-punk side of the unit. These transitions from heavenly music to songs that frame the realistic aspect with some thought may surprise the listener with their targeted impression and have a significant impact. Practically, Dougal's vocals, sung against the caustic image of guitar and bass, show that the singer brings a girl-group quality to The Waeve's sound. Their coolest side rises to the surface and it oozes with the feeling of wind whipping across an urban city on your shoulders.

 

The musical nature of the album changes from track to track, with a smooth and gradual transition: on ‘7-Song For Eliza May’, a legacy of UK 70s folk music, Rose Dougal once again takes the main vocals, accompanied by Coxson's deft banjo playing. Building on the 6/8 waltz form, the banjo, guitar and piano create a dancelike musical effect, while Dougal's vocals foster the elegance, openness and pastoral atmospheres of Celtic folk music. The individual acoustic instruments are played and recorded extremely exquisitely, so that even when the singing is relatively free, the overall structure of the song is not disrupted. In conjunction with these outstanding musicianship and recording techniques, the dreamy sense of the vocals in practical terms gently takes the listener deep into the medieval world of England.


There are also images rising from the song itself, evoking soundscapes, but these are ultimately linked to the kind of solitude and classical rockiness that The Smith's Morrissey portrayed in the late 80s, once the strings enter. The second half of the song takes on a white-hot air with a guitar solo. Interrupted by a clever bass line, the song transitions into big, theatrical music. 

 

The second half of the song also contains elements of 70s British hard rock and LA's psychedelic rock such as The Doors(Jim Morrison). The band has thoroughly read the rock textbooks, so to speak, and sublimated them in such a way that they sound great live. An innovative piece of music that places them in the next generation of rock opera.

 


The WAEVE's music is as diverse as it is reflective of London's culture, and it never fits within a certain musical category. It is an expression of how much they love music, but also of their deep trust in each other. 

 

The musical variations and imagination do not diminish in the subsequent recordings, and there is a sense of gradual expansion. ‘8-Druantia’ once again returns to the new wave sound, incorporating unique saxophone playing to create a danceable sound somewhere between fusion jazz and post-punk. On the other hand, the following ‘9-Girl Of The Endless Night’ demonstrates the ideal form of contemporary British folk music, based on Dubliners' Irish folk songs such as Lankum.


The album's climax, ‘10-Sunrise’, is based on the pop songs of the 60s and 70s, where Graham Coxon's talent as a songwriter flourishes in a spectacular way. He adds an austere vocal, akin to Tom Waits or M.Ward, and a touch of saxophone jazz, before handing over the main vocal to his partner Rose Dougal in the chorus. This not only demonstrated a new duet form that could only be achieved in the form of a duo, but also how to connect them to a contemporary style, taking into account classical popular music. This is the greatest result of the insatiable inquisitiveness of both musicians.

 

The band absorbs all the good music - chamber pop, AOR, later urban contemporary, Scandinavian pop like ABBA - and sublimates it into theatrical pop music in the vein of Florence Welch. 

 

At the end of this song, the sensations that had been suppressed for so long come pouring out, as if in an outburst. Theatrical musical expression is combined with a magnificent orchestral string run up and down to create a popular music full of originality. As the title suggests, it seems to embody the moment of "sunrise". The climax of the final piece is nothing short of spectacular, and allows the listener to experience "the splendour of the music". It's great!!

 


* The Waeve's second album, City Lights, is out this weekend (20 September) on Transgressive. 


 

 

■ The WAEVE(ザ・ウェイヴ)

©︎Kalpesh Lathigra


The coming together of two musicians who, through working together have formed a new, singular, sonic identity. A powerful elixir of cinematic British folk-rock, post-punk, organic song-writing and freefall jamming. Themes of oblivion and surrender are juxtaposed with suggestions of hopefulness and light. Against a brutal global backdrop of impending apocalypse and despair, Graham Coxon and Rose Elinor Dougall strive to free themselves through the defiant optimism of making music.
 
With the release of their acclaimed eponymous debut album in February 2023, The WAEVE established themselves as a songwriting partnership to watch, with a body of work that was “...ambitiously structured, lovingly arranged… unhurriedly crafted songs full of bona fide thrills, unexpected twists, and an elegant but never gratuitous grandeur.” (UNCUT); a collection of tracks… ”Cinematic in scope, often luscious in its arrangements, it’s a singular gem.” (DIY).
 
Now, after a year of touring and studio sessions, The WAEVE are back with their sophomore studio album City Lights, 10 brand new tracks that illustrate the evolution of their collaborative musicianship, allowing this meeting of musical minds to further push the boundaries of their individual creativity.


 
2人のミュージシャンが一緒に活動することで、新たな唯一無二のサウンド・アイデンティティを形成した。シネマティック・ブリティッシュ・フォーク・ロック、ポスト・パンク、オーガニックなソングライティング、フリーフォール・ジャムのパワフルなエリクサー。忘却と降伏のテーマは、希望と光の暗示と並置されている。迫り来る終末と絶望という残酷な世界的背景の中で、グレアム・コクソンとローズ・エリナー・ドーガルは、音楽を作るという反抗的な楽観主義を通して、自分たちを解放しようと努力している。


 
「2023年2月にリリースされた同名のデビュー・アルバムで、ザ・ウェイヴは注目すべきソングライティング・パートナーとしての地位を確立」(UNCUT) 「シネマティックな広がりを持ち、しばしば甘美なアレンジが施された、唯一無二の逸品」(DIY)


 
1年間のツアーとスタジオ・セッションを経て、The WAEVEは2枚目のスタジオ・アルバム『City Lights』をリリースする。このアルバムには、彼らの共同作業による音楽性の進化を示す10曲の新曲が収録されており、音楽的精神の出会いが、個々の創造性の限界をさらに押し広げた。

 

 

■『City Lights」


Respectively, Graham Coxon and Rose Elinor Dougall are titans of UK rock music.
Coxon made a name for himself as a founding member of Blur, while Dougall came up playing in alternative girl group The Pipettes. In recent years, the duo have teamed up in the project The WAEVE. This Friday, September 20th, 2024, they'll release their second album, City Lights, via Transgressive Records. 


To celebrate the release of City Lights, The WAEVE will play four very special live performances at Rough Trade, as follows: Rough Trade Liverpool on 20th September;Rough Trade Nottingham (SOLD OUT); Rough Trade Bristol (SOLD OUT), and Rough Trade East, London. The band will return to London later this year for a sold out performance - and their largest headline show to date - at the Village Underground in late October.


The Rough Trade shows follow an extensive summer tour which has seen The WAEVE play to 100,000 plus fans across a run of festival and show dates including a headline slot atLatitude's Sunrise Arena, Green Man Festival; eight dates with Elbow including a performance at Audley End; plus a high profile show at Warwick Castle with Noel Gallagher.


A year on from their acclaimed eponymous debut album, The WAEVE is back with City Lights, a collection of 10 songs that illustrate the evolution of their collaborative musicianship and sees the band’s sound solidified into something bolder, more expansive and self-assured. Written by Graham Coxon and Rose Elinor Dougall, and produced once again by James Ford, the album features Graham and Rose on vocals, as well as keyboards, guitar, bass guitar, drums and saxophone.


 

グレアム・コクソンとローズ・エリナー・ドーガルは、それぞれUKロック界の巨匠である。コクソンはブラーの創設メンバーとして名を馳せ、ドーガルはオルタナティブ・ガールズ・グループ、ザ・ピペッツで活躍した。近年、このデュオはThe WAEVEというプロジェクトでチームを組んでいる。

 

今週金曜日、2024年9月20日、彼らはセカンド・アルバム『City Lights』をTransgressive Recordsからリリースする。


シティ・ライツ』のリリースを記念して、ザ・ウェイヴはラフ・トレードで以下の4つのスペシャル・ライヴを行う: ラフ・トレード・リバプール(9月20日)、ラフ・トレード・ノッティンガム(SOLD OUT)、ラフ・トレード・ブリストル(SOLD OUT)、ラフ・トレード・イースト(ロンドン)。バンドは今年後半にロンドンに戻り、10月下旬にヴィレッジ・アンダーグラウンドでソールドアウト公演を行う。


ラフ・トレードでの公演は、夏の大規模なツアーに続くもので、ザ・ウェイヴは、ラティテュードのサンライズ・アリーナでのヘッドライン・スロット、グリーン・マン・フェスティバル、オードリー・エンドでの公演を含むエルボーとの8日間、ノエル・ギャラガーとのウォリック城での公演など、フェスティバルやショーで10万人以上のファンを動員した。


高い評価を得た同名のデビューアルバムから1年、ザ・ウェイヴは『City Lights』をリリースする。この10曲のコレクションは、彼らの共同作業による音楽性の進化を物語っており、バンドのサウンドが、より大胆で、より広がりと自信に満ちたものへと固まったことを物語っている。グレアム・コクソンとローズ・エリナー・ドーガルが作詞作曲を手がけ、プロデュースを手掛けている。

 



■Live Dates

 
20/09 - Liverpool, UK @ Rough Trade
21/09 - Nottingham, UK @Rough Trade - SOLD OUT
23/09- Bristol, UK @ Rough Trade - SOLD OUT
24/09 - London, UK @ Rough Trade East
29/10 – London, UK @ Village Underground - SOLD OUT

 

©Warren Fu


パリオリンピックの閉会式でこの曲を披露した後、フランスを代表するロックバンド、PhoenixはAngèleとKavinskyとタッグを組み、「Nightcall」のスタジオバージョンを制作した。

 

カヴィンスキーは元々、ダフト・パンクのガイ=マニュエル・ド・ホメム=クリストとこの曲を書いており、ニコラス・ウィンディング・レフン監督は2011年の映画『ドライヴ』のオープニング・シークエンスで取り上げた。試聴は以下から。


オリンピックのパフォーマンス後、「Nightcall」は1日で最もシャザームされた曲の記録を更新した。フェニックスのフロントマンであるトーマス・マーズとアンジュルムは新バージョンにヴォーカルで参加しており、フェニックスはカヴィンスキーとともにプロデューサーとしてクレジットされている。



 

©Ellen Von Unwerth


今週初め、No Doubtのボーカリスト、Gwen Stefani(グウェン・ステファニー)はコーチェラ・フェスティバルのライブで試験運転をしながら、ソロ活動の再開を機会を伺っていた。5枚目のスタジオ・アルバム『Bouquet』を11月15日にInterscopeからリリースすると発表した。

 

2016年の『ディス・イズ・ホワット・ザ・トゥルース・フィールズ・ライク』と2017年のホリデー・アルバム『ユー・メイク・イット・フィール・ライク・クリスマス』以来のアルバムとなる。

 

今週、彼女はアルバムからのファースト・シングル「Somebody Else's」を公開した。アルバムのジャケットとトラックリストは以下の通り。

 

 

「Somebody Else's」





Gwen Stefani 『Bouquet』

Label: Interscope

Release: 2024年11月15日


Tracklist:


1. Somebody Else’s

2. Bouquet

3. Pretty

4. Empty Vase

5. Marigolds

6. Late To Bloom

7. Swallow My Tears

8. Reminders

9. All Your Fault

10. Purple Irises [feat. Blake Shelton]

 


Rose Gray(ローズ・グレイ)は、ニュー・シングル「Switch」のリリースと同時に、近日発売予定のデビューアルバム『Louder, Please』の詳細を発表した。本作は来年1月17日にPIASから発売される。

 

「Switch」についてグレイは、「物事を切り替えることはホットで、私たちはそれについて十分に話していない。なぜ私たちは、人間関係や性格のタイプにおいて、ひとつの役割として定義されなければならないのだろう?」


デビューアルバムについて、彼女はこう付け加えた.「子供の頃、ポップスと深夜に車で移動したり、10代の頃はクラブのスピーカーに釘付けになったりと、私はいつも大音量の音楽に夢中だった。アルバムのタイトルはマイクから生まれたの。いつももっと大きな音で(お願い)ってお願いしていた冗談よ」


「私の性格の中には、冒険を愛し、常にそれ以上のものを求める何かが確かにある。失恋し、恋に落ち、その過程で一人の女性になったこともある。私にとって『Louder, Please』は、レイブ、幽玄、友人たち、そして私たちの物語を捉えている。ビーチでもクラブでも、この曲たちが誰かの人生の中で居場所を見つけてほしい。だから楽しんで。でも、必ず大音量で流してね」

 

 

 「Switch」





Rose Gray 『Louder, Please』

 

Label: PIAS

Release: 2025年1月17日


Tracklist:

1 Damn
2 Free
3 Wet & Wild
4 Just Two
5 Tectonic
6 Party People
7 Angel Of Satisfaction
8 Switch
9 Hackney Wick
10 First
11 Everything Changes (But I Won't)
12 Louder, Please





新進のポップ・スター、ソングライター、DJであるローズ・グレイの最近の活動は、TSHAとのコラボレーション('Girls')のヒット、グラストンベリーでのシャイガールとの共演、自身のクラブ・ナイト、ローズ・プレゼンツ・グレイの立ち上げなど多岐にわたる。



その示唆に富んだタイトルから堂々としたサウンドに至るまで、『Louder, Please』はローズ・グレイが力強く、しかし英国らしい礼儀正しさをもって、自分自身(自分が何者であるか、何を望んでいるか、そして常にそうなる可能性を秘めたアーティストであること)をバックアップしている。

 

それは、伝説的なポップ・キングピンのジャスティン・トランター(レディー・ガガ、チャペル・ロアン)やゾーネ(トロイ・シヴァン)から、セダ・ボデガ、ウフィ、アレックス・メトリックのようなアンダーグラウンドのエレクトロニック・ヒーローに至るまで、このレコードのコラボレーターの幅広さにも反映されている。



Louder』全体を通して、『Please』は家庭の真実とダンスの快楽主義を対にし、新しい顔ぶれや選ばれた家族、恍惚とした高揚感と破滅的な低落感など、変貌を遂げた夜の外出を呼び起こすだけでなく、クラブ・ミュージックを通して、常に全力で生きたローズ・グレイの物語を語っている。

 

©Erinn Springer

編集的なポップスの先駆者であり、2010年代のポピュラーミュージックの文脈を塗り替えたソングライター、Bon Iver(ボン・イヴェール)。つい先日、米国の選挙イベントで自身の楽曲をパフォーマンスしていたが、ウォーミングアップが終了し、本格的な再始動となる。その肩慣らしとなるのが三曲収録の新作EPである。

 

ボン・イヴェールは、jagujaguwarから10月18日にリリースされるEP『SABLE』を発表した。アルバムに収録される今週初めに発表した新曲「S P E Y S I D E」のビデオも同時に公開されている。Erinn Springerが監督した「S P E Y S I D E」のビデオクリップは以下をチェック。


『SABLE』は、2020年から2023年にかけて新曲を書き上げられ、ウィスコンシン州にあるエイプリル・ベース・スタジオでジム=E・スタックと共にプロデュースした。プレス資料によると、"SABLE "は黒人に近いことから名付けられたという。このトリオの曲は、ジャスティン・ヴァーノンの人生において最も試練に満ちた時期のひとつからの解放を表している。少し前まで、ヴァーノンは意図的に顔を隠していた時期があった。しかし、そのブラインドが開かれることになった。

 


「S P E Y S I D E」



Bon Iver 『SABLE』

Label: jagujaguwar

Release: 2024年10月18日

 

Tracklist: 


1. THINGS BEHIND THINGS BEHIND THINGS

2. S P E Y S I D E

3. AWARDS SEASON

 

©David William Baum

 

今週末、St.Vincent(セント・ヴィンセント)は、復帰作『All Born Screaming』を全編スペイン語で再録音した新バージョンを発表した。

 

彼女は、映画監督で親友でもあるアラン・デル・リオ・オルティスと協力し、アルバムの歌詞を翻訳した。『Todos Nacen Gritando』というタイトルのこのプロジェクトは11月15日にリリースされ、リード・シングル「Hombre Roto」が配信された。下記からチェックしてほしい。


このプロジェクトについて、クラークはプレスリリースで次のように語っている。


「”Todos Nacen Gritando”の原点は、メキシコ、南米、そして最近では2023年のプリマヴェーラ・バルセロナで行った、これまでで最も記憶に残るライヴにさかのぼることができる。時間と地理的な隔たりがあり、さまざまな環境と会場であったにもかかわらず、これらの観衆は情熱でひとつになっていた。本当に感動的だった。もし彼らが第二、第三言語で一緒に歌えるのなら、なぜ私は彼らに半分も応えられないのだろう? そこで私は、親友で時折コラボレートしてくれるアラン・デル・リオ・オルティスに歌詞の翻訳を依頼した。何度も書き直し、アルバムのボーカル・トラックを歌い直した結果、Todos Nacen Gritandoは、愛の結晶に変わり、このアルバムにインスピレーションを与えてくれた人々へのトリビュートとなった」


アニー・クラークは、新作アルバムをLoma Vistaと自主レーベルの共同名義でリリースし、さらに自主レーベルを今後運営していくという噂もある。現在マーチャンダイズのグッズを中心に公式サイトで販売されている。スペイン語バージョンのアルバムも自主レーベルから発売される。海外版の詳細はこちら

 

「Hombre Roto」

 

©Angella Choe

Indigo De Souza(インディゴ・デ・ソーザ)が新作EP『Wholesome Evil Fantasy』をサプライズ・リリースした。このEPは、ノースカロライナ州アッシュヴィルのシンガー・ソングライターが2023年に発表したフルアルバム『All Of This Will End』に続く作品である。

 

基本的にはギターを中心とするオルトロックソングを発表し続けているデ・ソウザであるが、今回のEPはカラーが異なる。キャッチーなダンス・ポップに傾倒した楽曲が収録されている。ソングライターの意外な一面を知ることが出来るかも知れない。EPのストリーミングは以下から。


「これらの曲は、私の精神の中で最もスパイシーで、最もおふざけで、きらびやかな光沢のある場所から生まれた」とデ・ソーザは声明で説明している。

 

「コラボレーターのエリオット・コゼルとジェシー・シュスターがもたらしてくれるサウンドとエネルギーに、私はいつも刺激を受けている。彼らはいつも私を笑わせ、私の最も愚かなバージョンを引き出してくれる」

 

「彼らがいなければ、この新しい空間を発見することはできなかっただろう。これらの曲を聴いていると、私たちが持つ遊び心に満ちた音楽的なつながり、そして永遠の友情への感謝の気持ちでいっぱいになる。私の基本的な存在はかなり重く複雑なものだが、これらの曲は私が取り組んでいる間中、深い喜びを感じさせてくれた」

 

 



 もし、図書館で調べ物をしていて、2世紀以上前の有名作曲家の楽譜を見つけたとしたら??   


 そんなロマンを感じさせる出来事が音楽の都ドイツのライプツィヒで起こった。今回、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの死後230年以上が経ち、新しい楽譜が発見された。モーツァルトが10代の頃に書いたと思われる、未発表曲がドイツの市立図書館で発見されたというのだ。


 ライプツィヒ市立図書館の公式の声明によると、「Ganz kleine Nachtmusik(ガンツ・クライネ・ナハトムジーク)」と呼ばれる12分に及ぶ曲は、1760年代半ばから後半に制作されたと見られ、弦楽三重奏のための7つの小楽章で構成されているという。さらにライプツィヒ市立図書館の発表によると、研究者がこの曲をライプツィヒの音楽図書館で発見したのは、いわゆる「ケッヘル」カタログの最新版を編集している時だったという。


ライプツィヒ市立図書館で発見されたモーツァルトの未発表曲の模写


 今回、ライプツィヒで発掘された手稿はモーツァルトが個人的に書いたものではなく、研究者によれば、1780年に作成されたオリジナルの楽譜の模写であると推察される。この曲は、今週木曜日(9月19日)にオーストリア・ザルツブルグで行われた最新版のカタログのお披露目で弦楽三重奏によって初演され、続いて、土曜日(9月21日)にライプツィヒ歌劇場で初演される予定。


 ザルツブルクの国際モーツァルテウム財団のウルリッヒ・ライジンガー氏は、この曲について声明を通じて次のように述べています。「この曲の着想はどうやらモーツァルトの妹から得たようなので、妹が兄の形見として、この作品を保管していたのではないかと想像したくなる」


 ケッヒェル・カタログは、この曲について、1769年12月、神童モーツァルトがまだ13歳であった頃に書かれたもので、「作者の帰属から、モーツァルトが初めてイタリアを旅行する前に書かれたものであることが示唆される」と述べています。

 

 2世紀余りが経過しても影響力を失わぬ音楽家であり、いつの時代もセンセーショナルであり続ける。それがヴォルフガング・モーツァルトの偉大さなのかもしれない。


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Honeyglaze


 

『Real Deal』は、大きな気分の終わりにため息をつくように届く。それは、白い指の関節、歯ぎしり、生々しく噛まれた爪の翻訳である。しかし、ハニーグレイズのセカンド・アルバムでは、そのすべてに立ち向かい、かさぶたの下に爪を立てている。対立と自信、激しさとカタルシス-これらは、自分たちを再び紹介する準備ができているバンドが、苦労して得た報酬なのだ。


ヴォーカル兼ギタリストのアヌースカ・ソコロウはこう語る。「音楽的には、"どうすればもっと良くなるんだろう?"とファースト・アルバムに反応していたんだ」 サウス・ロンドンから、ベーシストのティム・カーティスと、ドラマーのユリ(ユウリ)・シブウチを迎えて誕生したハニーグレイズは、パンデミックによってゆがんだ奇妙な時代に成長した。シーンを定義するダン・キャリーのレーベル、スピーディー・ワンダーグラウンドによって世に送り出された2022年のセルフタイトル・デビューアルバムは、ソコロウの青春を捉えたものだった彼女は、目を見張るような真摯さと、ウィットに溢れ、クリエイティビティの欠如、厳重に守られた心の砦、不安定なアイデンティティから生まれる下手な散髪やブリーチ・ジョブなど、私たちがむしろ隠したがっている部分をあえて共有する特異なソングライターであることを自ら公表した。しかし、その裏にはちょっと恥ずかしがり屋などこにでもいるような若者の表情を併せ持つ。


ハニーグレイズは、思春期と成人期の間のぎこちない宙ぶらりんの時期に書かれ、デビュー作を作りながらも、自分たちが成長していないことを感じていた。しかし、2サイズ小さいTシャツのようにフィットするサウンドへの創造的な飽きから、急激な成長の時が始まった。『リアル・ディール』の礎は、ツアー後の二日酔いの中、歓迎されない現実世界の中断と、その中でアーティストとして生き残る現実性から導き出されることになった。ヴォーカルのソコロウは別れと引っ越しに苦しんでおり、このレコードはスタジオではなく、彼女の寝室の信頼できる4つの壁の中で書かれた。ソコロウは語る。「このアルバムは、私の人生で最も一貫したもののひとつだったと本当に思うわ。バンドは毎週水曜日に集まってリハーサルを行い、新曲を進化させた。自分たちのパートを掘り下げ、介入することなく本能に従う贅沢な時間を楽しみました」



デビュー・アルバムの歌詞の多くは、誰の耳にも届くことを意図せずにソコロウが書きあげた。しかし同時に、『Real Deal』は多くの人に聴かせるために制作された。グラミー賞にノミネートされたプロデューサー、クラウディウス・ミッテンドルファー(Parquet Courts、Sorry、Interpol)と田舎のレジデンス・スタジオでレコーディングされた本作は、文字通り、そして精神的にも、自分たちのサウンドに新たな次元を探るためのスペースが与えられている。


ミシシッピの老舗レーベル、ファット・ポッサムからリリースされるこのアルバムは、彼らのライブ・パフォーマンスの緊迫感を翻訳したものだ。シブウチのパーカッションは、オープニング・トラックの「Hide」で爆薬のように爆発し、吸い込まれるように着地する。


「歌詞だけでなく、バンドとして、ダイナミクス、歪み、衝撃、感情を通して暗い感情を表現したかった」とカーティスは説明する。


夢を見るとき、その夢の中の誰もが自分でもあるという考えがある。『リアル・ディール』のストーリーテリングは、デビュー作のような自意識過剰なフラッシュから脱却し、成熟した自己認識の到来を告げている。ソコロウは、キャラクターと衣装というレンズを通して書き、まるで司会者のような小話を通して人々の心を探っている。


"コールド・コーラー "は、孤独と断絶の本質について痛切な真実を明らかにしながらも、フィクションの特殊性に傾倒している。蛇行するリズムの中で、ソコロウの語り手は冷やかしの電話とその偽りの関心に夢中になる。彼女は丁寧な苦悩に歪みながら歌う。


"言われたことは何でもする/ひとりじゃないとわかるだけでいい"。


カーティスはこの曲について、こう語っている。「この曲は、完全にダイナミックに反転していて面白い。もしあなたが相手から十分な関心をもらえていないとしたら、その人がどれほど孤独を感じるか想像できる?希望的観測と妄想は、あなたが思っている以上にあなたの現実を決めているのです」


このバンドのストーリーテリングの巧みさは、音楽的な不安定さにもある。ソコロウの歌声は、穏やかな降伏の前に不安の潮流に押し流される。


「プリティ・ガールズ」では、"飲んで、飲んで "と、偽りの陽気さで歌っているが、これは自分が偽者のように感じられる社交の場を乗り切るための自己鎮静マントラである。抑圧された告白が表面化し、音階を滑り落ちていく。でもアルコールは悲しい気分にさせる。そして、中断。音楽は宙吊りになり、ピースが落ちるのを待つ間、お馴染みの吐き気が胃の底で凝り固まる。--Fat Possum



『Real Deal』/ Fat Possum    ロンドンにポストロックのニューウェーブが到来!?

 

あらためて説明しておくと、ポスト・ロック、及び、マス・ロックと言うジャンルは、一般的に米国の1990年代初頭に始まったジャンルである。ピッツバーグのDon Caballero(Battlesの前身で、イアン・ウィリアムズが在籍)、ルイヴィルのSlintなどがその先駆的な存在であるが、これらのジャンルを率先してリリースしていたのがシカゴのTouch & Goである。

 

一般的には、このジャンルは、アンダーグラウンドに属するもの好きのための音楽と見なされてきた。これらは、ワシントンDCのイアン・マッケイのDISCHORDと連動するようにして、ポスト・ハードコアというジャンルを内包させていた。これらのバンドは、最初期のエモコアバンドがそうであるように、Embrace、One Last Wish、そして、Husker Duと同じように、パンクの文脈をより先鋭的にさせることを目的としていた。その延長線上には、Sunny Day Real Estate,Jawbox、Jets To Brazilなどもいる。

 

そして、もう一つ、ロックをジャズとエレクトロニックと結びつけようという動向があり、これらはジャズが盛んなシカゴから発生した。

 

90年代の終わりに、Fat Possumは、Tortoiseの『TNT』というレーベルの象徴的なカタログを発表している。これはとても画期的な作品であって、一般的によく言われているように、ProToolsを宅録として使用した作品だった。これらのプロフェッショナルなソフトウェアをホームレコーディングで活用出来るようになったことが、バンドの未知の可能性をもたらしたのだった。つまり、現在のベッドルーム・レコーディングの先駆的な作品は、『TNT』なのである。

 

 一般的に、ポスト・ロック/マス・ロックというジャンルは、台湾・高雄のElphant Gym、2000年代以降の東京のToeなどを輩出したが、2020年代初めは、米国では下火になりかけていて、「時代遅れのジャンルなのではないか」と見なすような風潮もあったのは事実である。唯一の例外は、ニューヨークのBlonde Redheadで、最新作では最初期のポスト・ロックとしての性質をアヴァンギャルドなポップスと結びつけていた。しかし、これらのジャンルは、海を越えたイギリスで、じわじわと人気を獲得しつつある。その動きは若者中心に沸き起こり、ポストパンクという現在のインディーズバンドの主流が次のものへと塗り替えられる兆候を示唆している。

 

ハニーグレイズに関しては、Bar Italiaのような多彩な文化性を兼ね備えたバンドである。見方を変えれば、Rodanがスポークンワードという新しい表現性を加え、現代に蘇ったかのようである。デビューアルバム『Honeyglaze』では、どういったバンドになるのかが不透明であったが、ミシシッピのファット・ポッサムへの移籍を良いきっかけとして、より洗練されたサウンドへと進化している。なぜ、彼らの音楽がシックになったのかと言えば、新しい音楽性を手当たり次第に付け加えるのではなく、現在の三者が持ちうるものをしっかり煮詰めているからである。

 

先行シングル「5-Don't」のミュージック・ビデオでは、表向きのフロントパーソンのアヌースカ・ソコロウの人物的なキャラクターを押し出しているが、アルバムを聞くと、予めのイメージは、良い意味で裏切られることになるだろう。それらのセンセーショナルなイメージはブラフであり、全体的には紳士的なサウンドが貫かれ、本能的なサウンドというより、個人的な感覚を知性により濾過している。ソコロウは、フロントウーマンとしての存在感を持ち合わせているのは事実あるが、ハニーグレイズのサウンドの土台を作っているのは、ドラマーのユリ・シブウチ、そしてプログレやジャズのように和音的なベースラインを描くティム・カーティスである。

 

シブウチのドラムは傑出している。ジャズの変拍子を多用し、バンドの反復的なサウンドとソコロウのボーカルやスポークンワードに、ヴァラエティをもたらす。いわば、反復的なボーカルのフレーズ、ルー・リード調の語りが淡々と続いたとしても、飽きさせることなく、曲の最後まで聞かせるのは、シブウチのドラムがヴォーカリストの語りや声のニュアンスの変化、及び、ベースの小さな動きに応じ、ドラムのプレイ・スタイルを臨機応変に変化させるからだろう。


「しなやかで、タイトなドラム」と言えば、感覚的に過ぎる表現かも知れない。しかし、華麗なタムの回し方、スネアの連打で独特のグルーヴをもたらす演奏法は、ドラムそのもので何かを物語るような凄さが込められている。ユリ・シブウチは、ロンドンでも随一の凄腕のドラマーと言っても誇張表現ではないかもしれない。彼のプレイスタイルは、まるで、ロックからジャズ、ソウルまでを網羅しているかのように、曲の中で多彩なアプローチを見せる。その演奏法の多彩さは、彼がその道三十年のベテラン・プレイヤーではないかと錯覚させる瞬間もある。

 

アルバムとしては、2つのハイライトが用意されている。それが、オープニングを飾る「1-Hide」と「5-Don't」である。


前者はダンサンブルなビートとポストハードコアの過激なサウンドを融合させ、アルバムの中では最もアンセミックな響きが込められている。また、現代的なティーネイジャーの悲痛な叫びが胸を打ち、センシティブな表現が込められている。しかし、フレーズの合間に過激な裏拍を強調するシンコペーションを用いたドラムが、クランチなギター、オーバードライブを強調させるベースが掛け合わされ、強烈な衝撃をもたらす。いわば、イントロの上品さと洗練された繊細な感覚が、これらのポストハードコアに依拠する過激なイメージに塗り替えられていく。


後者は、ソコロウがデスティニーズ・チャイルドの曲を基にリフを書き上げたところから始まった。マスロックの数学的な変拍子を織り交ぜ、クリーントーンのアルペジオのギター、ファンクの性質の強いベース、シアトリカルな印象を持つソコロウのボーカルがこの曲を牽引していく。不協和音を生かしたギターが雷のように響きわたり、リリックではマスメディアへの嫌悪感や戸惑いが示されていることは、下記のミュージック・ビデオを見ると明らかである。

 

 

「Don't」

 

こういったセンセーショナルな印象をもたらす曲の周りを取り巻くようにして、現行のオルタナティヴ・ロックをスポークンワードと結びつけるような曲も収録されている。「2-Cold Caller」は、ソコロウの自分の性質を皮肉的に嘆く曲で、いわば本来は避けるべき人との恋愛について書かれている。いずれにしても、この曲は、「Don't」のような曲と比べると、それほど激しいアジテーションに嵌ることはなく、どちらかと言えば、落ち着いたオルトフォークのような空気感が重視されている。牧歌的とまではいかないが、一貫して穏やかな気風に縁取られている。そして、ソコロウのボーカルは冒頭部と同様に、シアトリカルな雰囲気を漂わせている。

 

同じように、「3-Pretty Girls」、「4-Safty Pins」は、スポークンワードをオルタナティヴロック寄りのサウンドと結びつけているが、それほど過激な印象はなく、やはりクリーントーンを用いた落ち着いたギターのアルペジオと、ルー・リードの系譜にあるソコロウの語りが温和で平和的な雰囲気を作り出している。そして、シンセサイザーやギターのアルペジオ等、多彩なニューウェイブサウンドを踏襲し、全体的にはヴェルヴェッツのような原始的なロックサウンドが貫かれている。リードの作曲と同じように衝動的な若さと知性を共存させたような音楽である。

 

現在のオルタナティヴ・ロックは、二次的なサウンド、三次的なサウンドというように、次世代に受け継がれていくうち、その本義的な何かを見失いつつある。ルー・リードの作曲に関しては、昨年リリースされたリードのアーカイブ・シリーズを見ると分かる通り、東欧のフォーク・ミュージックというのが、プロト・パンクの素地を形成したことを証明付けていた。 主流の地域にはない「移民の音楽」、これこそがオルタナティヴ・ロックの「亜流の原点」でもある。

 

これらが、元々は億万長者の街であり、第二次世界大戦後にイギリスの駐留軍が縄張りを作り、ニューヨーク警察の代わりに同地を自治していたローリンズ・ストーンズの親衛隊''ヘルズ・エンジェルズ''をはじめとするアウトサイダーの街ーーバワリー街の移民的な要素を擁する音楽家の思想と掛け合わされ、ニューヨーク・パンクの素地が築き上げられていったのである。

 

つまり、パティ・スミス、テレヴィジョンのような存在は、単なるニューヨーク的な音楽というよりも、どことなくユーラシア大陸の音楽的な要素を持ち合わせていた。ハニーグレイズもまた同様に、表面的なパンクやロックの性質に順応するのみならず、これらのジャンルの原点に立ち返るようなサウンドを主な特色としている。それはまた、Dry Cleaningのボーカリストで美術研究者でもあるフローレンス・ショーのスポークンワードとの共通点もあるかもしれないが、「詩や文学的な表現の延長線上にあるパンクロック」という要素を、現代のミュージシャンとして世に問うというような趣旨が込められている。続く「6-TMJ」は、パティ・スミスの詩や文学性をどのように現代のミュージシャンとして解釈するのか、その変遷や流れを捉えられる。

 

上記のような原始的なオルタナティヴロックバンドの要素と合わせて、次世代のポスト・ロックバンドの性質は続く一曲に表れ出ている。「7-I Feel It All」は、イントロの幻想的なサウンドを基にして、MOGWAIを彷彿とさせるスコットランドのポスト・ロックを素朴なソングライティングで縁取っている。内的な苦悩を吐露するかのようなシリアスな音の運びは、やはり、このバンドの司令塔であるシブウチのダイナミックなスネアとタム、そしてシンバルによって凄みと迫力を増していく。また、一瞬、ダイナミクスの頂点を迎えたかと思うと、そのとたんに静かなポスト・ロックサウンドに舞い戻り、まるでドーヴァー海峡の荒波を乗り越えるかのような寂寞としたギターロックが立ち現れる。ボーカルそのものは暗澹とし、また、霧のようにおぼろげでぼんやりとしているが、音楽的な表現として弱々しくなることはない。バンドとしてのサウンドは強固であり、そして強度のあるリズム構造が強いインスピレーションをもたらす。何かこの曲には最もハニーグレイズの頼もしさがはっきりと表れ出ているような気がする。

 

こういった強い印象を持つ曲も魅力であるが、同時に「8-Ghost」のような繊細で優しげなインディーロックソングも捨てがたいものがある。この曲のサウンドには、80年代のポピュラー・ミュージックの要素が含まれているらしく、それらが少しノスタルジックなイメージを呼び起こす。繊細なボーカリストとしての姿は、この曲の中盤に見出だせよう。音楽的には地下に潜っていくような感覚もありながら、その暗さや鬱屈した感覚のボーカルは、癒やしをもたらす瞬間もある。そして、ポピュラーに依拠した音の運びやリズムは使い古されているかもしれないが、何らかの親近感のようなものを覚えてしまう。これらはジュークボークスから聞こえてくる懐かしい音楽のように淡い心地よさをもたらす。珍かなものだけではなく、スタンダードなものが含まれているという点に、ハニーグレイズの最大の魅力があるのかも知れない。

 

 

 「Ghost」ーLIVE

 

 

 

終盤の三曲では、やはり現在の持ち味であるポスト・ロック的なサウンドに立ち戻る。その中には、Rodanのようなアート・ロックの要素もあり、また、以降の年代のオルタナティヴフォークや、スロウコアのような音楽性も含まれている。これらの音楽が聞き手をどのように捉えるのかまでは明言しかねる。しかし、現行のポストパンクバンドやスロウコアバンドとは相異なるものがある。それはデモソングのような趣がある「9-TV」を聞くと分かる通り、ソコロウの演劇的なボーカルとスポークンワードに依拠したボーカルのニュアンスにある。そしてそれらは、繊細でエモーショナルであるがゆえ、静と動を交えた対比的なサウンドが琴線に触れるのである。また、この曲のシブウチさんのリムショットの巧みなドラムプレイは、この曲の持つ純粋なエネルギーとパッションを見事に引き上げている。これらのサウンドは、決して明るくはないけれど、しかし、その音楽的な表現が純粋で透徹しているがゆえ、清々しい余韻を残す。 

 

 

セリエリズムの不協和音という側面では、Rodan、June of 44には遠く及ばないかもしれない。しかし、それは、このアルバムが一部の人のためだけではなく、広く聞かれるために制作された事実を見ると明らかではないか。 前曲の若さと無謀さを凝縮させたアヴァンギャルドなアウトロが終わると、ストームが過ぎ去った後のように、静かで重厚感のあるサウンドが展開される。

 

タイトル曲「10−Real Deal」は、聞き手の意表をつくかのように、現代的なアメリカーナとフォークロックの融合させたサウンドが繰り広げられる。それらはローファイの元祖であるGalaxie 500、Sebadohの系譜にあるザラザラした質感を持つギターロックとも呼べるかもしれない。しかし、カットソーの粗や毛羽立ちのようにザラザラしたギターラインは、やはり、単に磨きが掛けられ洗練されたロックソングよりも深く心を揺さぶられるものがある。もちろん、それがなぜだかは分からないが、自分が過去にどこかに置いてきた純粋な感覚を、この曲の中に見出す、つまり、カタルシスのような共感性をどこかに発見するからなのかもしれない。 

 

アルバムは深い領域に差し掛かるかのように、瞑想的なギターロックで締めくくられる。「11−Movies」は、ハニーグレイズのバンドとしての新しい境地を開拓した瞬間であり、なおかつアヌースカ・ソコロウがボーカリストとしての才質をいかんなく発揮した瞬間でもある。この曲は、90年代のグランジの対抗勢力であるニューヨークのCodeineのようなサウンドを復刻させている。


しかし、それらは単なる静と動の対比ではなく、マスロックの多角的なリズムや変拍子という、これまでになかった形式を生み出している。これらは、ロック・オペラやプログレッシヴ・ロックの次なる世代の音楽なのであり、また、ボーカルは演劇的な性質を持ち合わせている。別の人物になりきるのか、それとも自分の本来の姿を探すのか……。多くのミュージシャンは、多くの場合、本来の自分とは別の人間を俳優や女優のように演ずることで乗り切ろうとする。しかし、ソコロウの場合はむしろ、どこまでもストレートに自分自身の奥深い側面を見つめることにより、的確かつ説得力のあるスポークンワードやボーカルのニュアンスを見出している。ある意味では、そういった自分自身になりきることを補佐的に助けているのが、彼女の友人であるドラマーのシブウチさんであり、また、ベーシストのカーティスさんなのである。

 

そして、バンドサウンドの醍醐味とは感覚的で、編集的な音楽性に寄りかからずに、サウンドに一体感と精細感があること、そして、その人達にしか生み出せないエナジーを的確に表現しているということに尽きる。もし、一ヶ月後に同じ音楽を録音しても、まったく同じものにはならない。


そういった側面では、『Real Deal』はバンドのスナップショットというよりも、生々しい三者の息吹を吸い込んだ有機体である。もちろん、それは三者の卓越した演奏技術を基に作り上げられていることを補足しておきたいが、その瞬間にしか出せない音、その瞬間にしか録音出来ない音を「レコード」という形に収めたという点では、アメリカン・フットボールのデビューアルバム『LP1』のような作品であり、これはファット・ポッサムの録音技術の大きな功績と呼ぶべきだろう。


マス・ロックの緊張感のあるサウンドを経た後、本作の最後では最もセンチメンタルでナイーヴな瞬間が現れる。これは実は、人間的な強さというのは、強烈な性質を示すことでなく、自分自身の弱さを認めたりすることで生ずることを暗示している。完璧な人間はどこにも存在しないことに気づくこと、弱さをストレートに見つめ、肯定出来たことが、アルバム全体のサウンドを清々しくしている。今作を聴き終えた後、涼しげな風が目の前を足早に駆け抜けていくような余韻が残る。2024年度のオルトロックの最高峰のアルバムと言っても誇張表現ではないだろう。

 

 

 

 

 90/100

 

 

 

 

「Cold Caller」ーLIVE

 


 

Honeyglazeのニューアルバム『Real Deal』 は、Fat Possumから本日(9月20日)に発売。アルバムのストリーミングはこちら