Jordana 『Lively Promotion』

 

Label: Grand Dury

Release: 2024年10月18日

 

Stream



Review


Jay Som、Clairo、Faye Websterを始めとするベッドルームポップシーンの注目アーティストとして登場したジョーダナの最新作『Lively Promotion』は、プレスリリースで示されている通り、ドナルド・フェイゲン、キャロル・キング、ママス&ザ・パパス等、70、80年代のポピュラーソングを思い起こさせる。"ベッドルームポップ"と称される一連の歌手の多くの場合と同じように、このジャンルの可能性を敷衍する。もちろん、「カメレオン」と自らの音楽性について述べるジョーダナのソングライターとしてステップアップしたことをを示唆しているのではないか。要は、普遍的なポピュラー性が今作において追求されていて、この点が音楽そのものに聞きやすさをもたらし、幅広い年代に支持されるような作品に仕上がった理由なのだろうか。

 

また、80年代のディスコサウンドからの影響も含まれていて、アースウインド&ファイアの系譜にあるR&B性も反映されている。もちろん、フォーク・ミュージックをモダンな印象で縁取ったバイオリンの演奏もその一環と言える。これらの音楽的な広がりは、曲の中で断片的に示唆されるというより、ソングライティングの全般的に滲出しており、作曲全般の形式そのものが変容したことを表す。ケイト・ボリンジャーのデビュー作と同様、若い年代のシンガーの音楽観には、世代を越えた音楽を追求していこうという姿勢やポピュラー音楽の醍醐味を抽出しようという考えが垣間見えるような気がした。もちろん、ジョーダナの場合はどことなく穏やかで開けたポピュラーサウンドを通して。このことは、ベッドルームポップというZ世代の象徴的なサウンドが2020年代中盤に入り、形質を変化させつつある傾向を見出すことが出来る。そしてこのアルバムでは、演奏や作曲を問わず、音楽自体の楽しさを追求しているらしい。


オープニングを飾る「We Get By」には、心を絆すようなギターサウンドが登場する。ディスコファンクを反映させたベース、そして遊び心のあるヴァイオリンのパッセージが音楽全体の楽しさを引き立てる。その中で開放的な感覚のあるコーラスやサクソフォンの音色が音楽全般にバリエーションを付与している。おそらく、単一の音楽にこだわらないスタンスが開放的な感覚のあるポピュラーソングを生み出す契機になったのだろう。さらに、アルバムのハイライト曲「Like A Dog」は、チェンバーポップの規則的なリズムを反映させて、口当たりの良いポップソングを提供している。しかし、曲全般の構成や旋律進行は結構凝っていて、ファンクやR&Bのバンドスタイルを受け継いでいるため、多角的なサウンドが敷き詰められている。これが曲そのものに説得力を与えるし、表面的なサウンドに渋さを付与している。また、音感が素晴らしくて、サビの前のブリッジの移調を含め、ソングライティングの質はきわめて高い。シンガーソングライターのカラフルな印象を持つポップソングを心ゆくまで楽しむことができるはずだ。

 

以降、本作はカントリー/フォークやバラードに依拠したサウンドに舵を取る。「Heart You Gold」は三拍子のワルツのリズムを取り入れて、ビートルズの系譜にあるナンバーを書いている。しかし、曲の途中ではその印象が大きく覆り、ビリー・ジョエル風の落ち着いたピアノバラードへと変化する。このあたりには音楽的な知識の蓄積が感じ取られるが、全般的には、インディーポップという現代的なソングライティングのスタイルに縁取られていることが分かる。

 

続く「This Is How I Know」は、キャロル・キングを彷彿とさせる穏やかな一曲。そして前の曲と同じように、カントリーを反映させた作曲と巧みなバンドアンサンブルの魅力が光る。これらのポピュラーソングには、ダンスミュージック、ファンク、R&Bなどの要素を散りばめ、Wham!の代表的なヒットソングのような掴みがある。決めを意識したアコースティックギター、コーラスワークが、80年代のMTVの全盛期のポピュラー時代の温和な音楽性を呼び起こす。

 

その後も、音楽性を選ばず、多彩なジャンルが展開される。「Multitude of Mystery」では、スポークンワードの対話をサンプリングしている。そして、ヒップホップというよりも、ジャネット、ベンソン、ワンダーの時代のファンクサウンドを参考にし、80年代のAORに近い音楽性を選んでいる。しかし、これらが単にリバイバルなのかといえば、そうとも言いがたい。表面的には、テンプルマンやパラディーノに近いモダンなポピュラーサウンドが際立つが、アーバン・コンテンポラリーのリバイバルを越えた未知の可能性が示唆されている用に思える。

 

イギリスではディスコリバイバルやその未来形のサウンドが盛んだが、ジョーダナはこれらのミラーボールディスコの要素を巧みに自らのフィールドにたぐり寄せる。「Raver Girl」では、70年代から80年代のファンクソウルを反映させ、それをフェイ・ウェブスターと同様にベッドルームポップと組み合わせている。

 

ただ、レコーディングでは、すでにスタジオのバンドサウンドが完成されているので、これをベッドルームポップと呼ぶのは適切ではないかもしれない。寝室のポップは、過去の音楽になりつつあるのだ。そして、同時に、ファンクとポップをクロスオーバした形は、アナクロニズムに堕することなく、新鮮な印象を持って聴覚を捉えることがある。続く「Wrong Love」でも、基本的にはベッドルームポップが下地になっていると思われるが、アースウインド&ファイアの系譜にあるディスコファンクが織り込まれていることが音楽そのものに快活味をもたらす。

 

このアルバムは、カントリー/フォーク、ディスコファンク、ポピュラーという三つの入り口を通して広がりを増してゆく。そしてアルバムのクライマックスでは、幾つもの要素を融合させたような音楽性が展開される。「Anything For You」ではセンチメンタルな印象を持つオルタナティヴフォーク、続いて、「The One I Know」では南部のカントリーの性質が強まる。上記の二曲にはイメージの換気力があり、ミュージックビデオに見出せるような草原の風景を呼び覚ます。そして、この作品の全般的な印象に、癒やしのような穏やかな情感をもたらすことがある。

 

アルバムの曲は一つずつ丹念に組み上げられてゆくような感覚がある。そして複数のジャンルや年代を越えたポピュラーが重なり合うようにして、本作『Lively Promotion』の音楽は成立している。このアルバムは表向きに聴こえるよりも奥深い音楽性が含まれ、それはアーティストの文化観が力強く反映されているともいえる。アルバムのクローズ「Your Story’s End」 は、キャロル・キングを彷彿とさせる美しくもはかないバラードソングである。音楽というものは、数十年では著しく変化しない。形こそ違えど、その本質はいつも同じなのもしれない。また、もしかすると、「カメレオン」というのは”ジョーダナ”としての音楽性の幅広さを言うだけにとどまらず、自分の憧れの姿になりきれるということを暗に示しているのではないだろうか。

 

 

 

84/100

 

 

 

「Like A Dog」



Tyler The Creator(タイラー、ザ・クリエイター)が新曲「Noid」をリリースした。ニューアルバム『Chromakopia』に収録されるこの曲は、アヨ・エデビリがカメオ出演するシュールなビデオとセットになっている。サンプリングにはアフリカの民族音楽が取り入れられているようだ。


先週、タイラー・ザ・クリエイターは『Call Me If You Get Lost』に続く『Chromakopia』を10月28日(月)にリリースすることを発表したばかりだ。彼はまた、プレイボイ・カルティ、エリカ・バドゥ、アンドレ3000、フェイ・ウェブスター、ブラッド・オレンジ、セクシー・レッドなどが出演する2025年版「Camp Flog Gnaw Festival」のラインナップを明らかにした。


このアルバムは『CALL ME IF YOU GET LOST』以来となるタイラー・ザ・クリエイターのフルレングス・プロジェクトとなる。以来、彼は2023年3月にコーチェラのヘッドライナー出演に先駆けてアルバムの拡大版をリリース、最近ではマクソ・クリームの新曲「Cracc Era」にゲスト参加している。 


「Noid」


ロックの殿堂でシェールとデュア・リパが「Believe」で共演した。このライヴはオハイオ州クリーブランドから中継され、いくつものハイライトを残している。


特に、シェールとデュア・リパが一緒にシェールの1998年のヒット曲「Believe」を歌ったパフォーマンスだ。シェールとデュアの肉体的な類似性は近年話題になっていただけに、2人がステージを共にする姿は象徴的とも言える。


シェールとデュアが一緒にステージに立つのを見るのは楽しみだが、2人は歌唱力では同等ではない。デュアは高音を出すのに苦労しており、シェールは救世主として登場した。


ライブで一緒に歌うだけでなく、シェールとデュアは記者会見にも一緒に登場した。また、ゼンデイヤと一緒にポーズをとった。


シェールに加え、ロックの殿堂入りを果たしたのは、メアリー・J・ブライジ、デイヴ・マシューズ・バンド、フォーリナー、ピーター・フランプトン、クール&ザ・ギャング、オジー・オズボーン、ア・トライブ・コールド・クエスト。オズボーンはすでにブラック・サバスの一員として受賞経験がある。


また、デュア・リパと並んで、ゲストのドクター・ドレー、ジェームス・テイラー、ジュリア・ロバーツ、ジェリー・ロール、キース・アーバン、デミ・ロヴァート、バスタ・ライムス、スラッシュもこのガラでパフォーマンスを披露している。


シェールはすでにロックの殿堂入りを祝うことができるが、昨年、彼女は何十年もの間、彼女を無視してきた博物館を批判したばかりである。


別の話題では、デュア・リパがロンドンでシンフォニー・コンサートを行ったばかりだ。そこでデュアは、53人編成のオーケストラと14人の合唱団とともに「Radical Optimism」のレパートリーを歌い、最高のヴォーカルパフォーマンスを披露した。


シェールは、ゼンデイヤによって殿堂入りを果たし、「この会場、この国、そして全世界で、今夜私が誰を称えるためにここにいるのか知らない人は一人もいないでしょう。だから、象徴的な彼女の名前はひとつだけでいい。彼女はすべてをこなし、付け加えると、本当にめちゃくちゃうまい」


シェールはさらに自身のスピーチで、「ロックの殿堂に入ることよりも、2人の男性と離婚することの方が簡単だった」とジョークを飛ばした。そして、「私が決してしなかったのは、決してあきらめないということ。そして、私は女性たちに話している。私たちは特別なの」と喜びをあらわにした。

 


 


アトランタ出身のヒップホップミュージシャン、Lil Yachy(リル・ヨッティ)が2曲のニューシングル「We Ball Forever」と「Cry Me a River」を同時に公開した。どちらもミックステープ文化を継承するヒップホップで、ローファイをベースにしたチルウェイヴでアーティストのセンスが滲み出ている。背景となるヴィンテージソウル風のトラックにも注目したいところ。

 

この2曲は、頻繁にコラボレートしているリトル・マイルズとAMDが監督したミュージックビデオと合わせて公開されています。以下よりご覧ください。

 

 

 

 


ビリー・アイリッシュが、マイケル・キートンが司会を務めた昨夜の『サタデー・ナイト・ライブ』に音楽ゲストとして出演した。弟のフィニアスと一緒に、エイリッシュは最新アルバム『Hit Me Hard and Soft』からの2曲、「Birds of a Feather」と「Wildflower」を披露した。その様子は以下で。


エイリッシュのSNLへの音楽ゲスト出演は今回で4回目。前回の出演は12月で、バービー・ムービーに提供した「What Was I Made For?'」と「Have Yourself a Merry Little Christmas」のカバーを歌った。


エイリッシュはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでの3公演をソールドアウトさせたばかりだ。『Hit Me Hard and Soft』を引っ提げた彼女の北米ツアーは、来月初めにジョージア州で行われた後、12月にロサンゼルスで終了する。

 


 

 

Interview(インタビュー)   Masayoshi Fujita   -Erased Tapesとの出会い、最新アルバム『Migratory』について-

Masayoshi Fujita  ©Erased Tapes

自分のルーツである日本やアジアの音楽に興味がありますが、単にそれを取り入れるのではなく、自分の中で解釈し、表現していくというプロセスに重きを置いています」  -Masayoshi Fujita



 兵庫県を拠点に活動するヴィブラフォン/マリンバ奏者、藤田正嘉さんの音楽と出会ったのは、このサイトを初めてまもない2021年のことでした。以来、彼の演奏からもたらされる瞑想的な倍音の神秘性に魅せられてしまったのです。この年、私は、日本のアンビエントシーンのアーティストを宣伝したいと思い、2019年のアルバム『Stories』を拙いながらもご紹介しました。その日、私は、夕暮れの東京を歩いていて、数羽の美しい鳥が夕空の向こうに去っていくのをぼんやり眺めていました。そのイメージはなぜか今も脳裏に灼きついています。そして、最新アルバムに渡り鳥のテーマが込められているのを知った時、不思議な興味を掻き立てられた。


 藤田さんの演奏の素晴らしさを最初に見出したのは、ロンドンの実験音楽を得意とするレーベル、Erased Tapesの創設者であるロバート・ラス氏でした。ヴィブラフォンが魅力的な楽器だからという理由だけでなくて、彼の楽器の扱い方、幽玄で重層的なサウンドの描き方に、ラスさんは心から魅了されたといいます。


マサ(敬称略)は、まず最初にドラムを習い、その後、ヴィブラフォンを徹底的に練習して、ジャズやエレクトロニカに影響を受けた独自の楽曲を制作し、プレイするようになった。ヴィブラフォンのアンビエント・ベース/エレクトロニックな録音作品を''el fog''という別名義で発表するうち、藤田さんはヴィブラフォンの音色そのものに惹かれていったのだそうです。伝統的なヴィブラフォンのスタイルや奏法にこだわらず、楽器の新たな音響の可能性を探し求めて、金属片や箔などを使って演奏し始めました。その結果、生まれたフレッシュなサウンドは、楽器本来の音響性の特徴をなんら損なうことなく、ヴィブラフォンのスペクトルを敷衍させた。それ以降、アコースティック作品の作曲を始め、2013年初頭にはMasayoshi Fujita名義で初のソロアルバム『Stories』をリリースしました。


 2015年のErased Tapesからのデビュー作『Apologues』では初めてリード楽器以外の楽器、ヴァイオリン、チェロ、フルート、クラリネット、フレンチ・ホルン、アコーディオン、ピアノ、スネア・ドラムを使い、友人が演奏し、彼自身がアレンジした。ドイツの電子音楽家ヤン・イェリネクとのコラボレーションは、イギリスの雑誌『The Wire』の推薦により、世界中の実験音楽ファンから注目を浴びるようになった。


 以降も、英国のミュージックシーンと深い関わりを持ち続けた。レコード・ストア・デイ2016では、藤田と英国のエレクトロニック・プロデューサー、ガイ・アンドリュースの即興セッションをマイダ・ベイル・スタジオで収録した27分のBBC録音作品『Needle Six』を共同リリースしました。


 BBCラジオ3のレイト・ジャンクションの一環として録音されたパフォーマンスは、両者のミュージシャンの魅力を紹介し、普段の各々の準備を放棄し、斬新なアプローチを採用して展開される、予測不可能で説得力のあるサウンドを記録する、という当番組の伝統性を引き継いでいました。



 その後、2018年に高評価を得たアルバム『Book of Life』をリリースし、ヴィブラフォン・トリプティークを完成させた。ベルリンでの13年間の暮らしを経たのち、自然の中で音楽を制作したいという長年の夢を実現するため、兵庫県の香美町に転居し、スタジオを構えました。2021年5月28日、彼は続くアルバム『Bird Ambience』において未知の音楽性を示すことに成功しました。


 この作品は音楽的なアプローチに変化をもたらすことになった。これまで藤田さんは、アコースティックなソロ・レコーディング、エル・フォグという別名義のエレクトロニック・ダブ、ヤン・イェリネクら同世代のアーティストとの実験的な即興演奏を共有していましたが、この新しいアルバムにおいて、彼はこれらの異なる側面を初めて明確なビジョンにまとめ上げることに成功しました。また、彼の代表的な演奏楽器であるヴィブラフォンから、ドラム、パーカッション、シンセ、エフェクト、テープレコーダーと並んで、「マリンバ」が主役となったのです。


 先月同レーベルから発売された最新作『Migratory』には、実験音楽で活躍する二人のボーカリスト、Moor Mother、Hatis Noit、そしてスウェーデンの笙奏者であるMattias Hållstenが参加しています。前作と同じように、友人から深いインスピレーションを受けたという。タイトルは、アフリカ、東南アジア、日本の土地を旅する渡り鳥のイメージに因んでいます。彼らが下界から音楽を聴き、上空から世界を見る視点が音楽と土地の境界を曖昧にする様子を想像しています。


 音楽的にはアンビエント、ジャズが中心となり、マリンバの演奏を通して、サックス、シンセ、笙、ボーカルとどのような化学反応が起きるのかという制作者の試作の変遷を捉えられます。それはアルバムの主要な収録曲「Higurashi」、「Yodaka」をはじめとする日本語のトラックで大きく花開く。重層的で微細なハーモニクスの中には、西洋音階にはない微分音を用いるインドネシアのガムラン、日本の雅楽からのフィードバックを掴むこともできるかも知れません。



--今回のアルバム『Migratory』では「自然」というのがテーマになっているようです。あらためてお聞きしますが、具体的にどのような情景が音楽のイメージを作り上げていったのかあらためて教えていただきたいです。


Masayoshi Fujita: 僕は、何かを見て、それを直接音楽に反映したり、それをモチーフにして作曲するということはあまりないのですが、山の中の豊かな自然に囲まれて暮らし制作していることで、そこで日々自分の中に蓄積されていった景色や情景が、間接的に影響しているとは思います。あと、スタジオから見える山や木々、雲や霧に囲まれた環境で音楽を作っていて、そういった自然の中に違和感なく響く音というのを探っている気はします。


--ロンドンのレーベル、Erased Tapesからリリースを行うようになってから、およそ10年が経過しました。レーベルとの出会いや長年の付き合いについてあらためて教えていただくことは出来ますか。


Masayoshi Fujita: レーベルオーナーのロバートも一時期ベルリンに住んでいて、ちょうどその頃ニルス・フラームのライブで知り合いました。その後、アルバムが完成するたびにデモを送っていたのですが、「Apologues」のデモを気に入ってもらい、リリースする運びになりました。


Erased Tapesはロバートの人柄が色濃く反映されたレーベルで、音楽やアーティストをとても大事にしてくれますし、自由にやらせてくれます。レーベルのチームみんなが家族のような友人のような関係で、とても居心地が良いです。このレーベルに出会えて長く協働できていることを本当にありがたく思っています。


ーー昨年、お母さまを亡くされ心痛であったと思いますが、最新アルバムの音楽には、何かしら個人的な追憶や回想のような感慨が含まれているのでしょうか。


Masayoshi Fujita: 個人的な追憶や回想といったものは、あまり含まれていないかもしれませんね。間接的にはあるのかもしれませんが、どちらかというと現在進行形で自分が興味のあるテーマ、音楽をやっているという感覚です。もっというと、個人的な部分を超えたーー普遍的な部分ーーに興味があるのだと思います。


ーー藤田さんは、これまで実験音楽を数多く制作されてきました。最新アルバムは、終盤の収録曲にある、ひぐらしのフィールドレコーディングを聞くかぎり、個人的にはアジア的でありながら、日本的であるとも感じました。制作全般を通して、日本的な感性やエモーションを表現したいという思いはありましたか。


Masayoshi Fujita: 今回のアルバム制作の過程を通して、「渡り鳥」というイメージが出てきました。それは、架空の渡り鳥がアフリカからアジア、そして日本へと渡っていくようなイメージです。ここ数年、自分のルーツである日本やアジアの音楽に興味がありますが、単にそれを取り入れるのではなく、自分の中で解釈し、表現していくというプロセスに重点を置いています。今回のアルバムもその探求の一環ですね。




ーー他方、この作品には、MOOR MOTHER、Hatis Noit等、実験音楽をメインに活躍する著名なコラボレーターが参加しています。両者ともボーカルのタイプが全然異なります。作品への参加の経緯をお聞きしたいのと、この作品にどのような影響を及ぼしたのか教えていただけますか。


Masayoshi Fujita:  Moor Motherは、最初に彼女の曲にヴィブラフォンを弾いてほしいと依頼され、録音しました。その後、そのお返しに「あなたの曲に参加することもできるけど」と提案され、新曲にポエトリー・リーディングを乗せてもらうことになりました。


彼女が参加した「Our Mother’s Lights」は、当初はボーカルを入れることは想定していなかったんです。どこかアフリカからアジアを飛ぶ鳥のイメージがあったので彼女のイメージに合うんじゃないかと思い、ヴォーカルを入れていただいたところ、想像以上によくて別次元に昇華してくれました。



Hatis Noitさんとは、以前からアジアの音楽やルーツについて話していたこともあり、僕から一緒に曲を作る提案をしました。まずはスタジオ近くでヒグラシの音を録音し、彼女に送り、彼女がそれにボーカルをつけ、その上に僕がまた少し音を重ねて完成しました。二人とも声という要素でこの作品の幅を広げてくれているのと同時に、渡り鳥というテーマにも深みを与えてくれています。


ーーこのアルバムには、個人的には、ニューエイジ、アンビエント、ジャズに至るまで非常に多彩な音楽性が含まれているように感じました。とりわけ、以前の作風よりもクロスオーバー性が強まったという印象を受けました。制作者として、その点はどのようにお考えでしょうか。


Masayoshi Fujita: 前作『Bird Ambience』は、楽曲ごとに音楽性が異なり、アルバムとしての統一感に欠ける部分がありました。あの作品は、それまで自分が試みてきた様々なタイプの音楽を全て取り込んで一緒くたにするというアイデアのもと作ったので無理もないのですが、次作品はさらに方向性を絞ったものにしたいという思いがありました。今回は、アンビエントの方向性に絞りつつも、参加アーティストの影響もあり、クロスオーバーな要素も加わったと感じています。


ーーまた、その中で、個人的にはスティーヴ・ライヒの系譜にあるミニマル・ミュージックの影響も見出すことが出来ました。藤田さんにとって、ライヒはどのような存在でしょうか。また、演奏者として、この数年、どのようなプレイヤーを目指してきたのか教えていただければと思います。


Masayoshi Fujita: 正直に言うと、僕はスティーヴ・ライヒの音楽をあまり聴かないので、直接的な影響は少ないかもしれませんね。ライヒはマリンバをよく使うので、連想されることは多いですね。もちろん知識としては知っていますし、曲も色々聞いたこともありますが、あまり個人的に感銘を受けたという曲は少ないでしょう。「Music for Pieces of Wood」という作品は例外的にとても好きなんですが………。でも、僕が直接的に影響を受けたミュージシャンでライヒの音楽から影響を受けた人は多いと思うので、間接的には少なからず影響は受けているかなと思います。


また、一演奏者としては、自分にしか表現できないヴィブラフォンやマリンバの音を追求し続けたいと思っています。確固たる自分の音を持った演奏者でありたいですね。


ーー 最後に、藤田さんは、長年のベルリンの生活を終えられて、現在、関西で活動されていらっしゃるようですね。ドイツと日本の暮らしの違いであるとか、それぞれの国の魅力などについて実体験を元に教えていただけますか。また、以前と比べて日本の印象は変わりましたか。


Masayoshi Fujita: ドイツから、兵庫県の北部に移住しました。違いは多くありますが、日本はやはり自分の故郷であり、根を下ろして長く生活しながら音楽を作りたいという夢がようやく実現した感覚です。今住んでいる場所は、私にとって全く新しい土地でとても自然豊かなところでなので、日々新鮮な発見があります。


田舎暮らしには、まだ慣れない部分もありますが、ゆっくりと新しい生活を築いていっている最中です。帰国前と比べて日本の印象が変わったというよりは、もっと深く日本の自然や文化を知り、感じられるようになったと思います。なんとなく知っていると思っていたこと、想像していたことが具体的に見えてきて、さらに奥深い魅力も発見していっているという感じでしょうか。

 

 

◾️アルバム情報  Masayoshi Fujita 『Migratory』 - Erased Tapes


Tracklist:

Tower of Cloud
Pale Purple
Blue Rock Thrush
Our Mother's Lights (feat. Moor Mother)
Desonata
Ocean Flow
Distant Planet
In a Sunny Meadow
Higurashi (feat. Hatis Noit)
Valley
Yodaka

 

Listen/Purchase: https://idol-io.ffm.to/Migratory

 

Ringo Starr

 

現役最年長のビートルズのメンバーであるRingo Starr(リンゴ・スター)は、T・ボーン・バーネットと共作したニューアルバム『Look Up』を発表した。

 

本作は2025年1月10日に海外盤がリリースされる。アルバムのリードシングル「Time On My Hands」のリリースと共にこの知らせは明らかになった。(楽曲のストリーミングはこちら


本作には、アリソン・クラウス、ビリー・ストリングス、ラーキン・ポー、ルシアス、モリー・タトルなど、アメリカーナやブルーグラス方面の豪華なゲストが参加。ポール・ケネリーとダニエル・タシアンが共作したリードシングル「Time On My Hands」もストレートなカントリーソング。(LPには、タシアンとブルース・シュガーが共同プロデューサーとして参加)

 

リンゴ・スターは、2022年に米国の著名なシンガーソングライター、T・ボーン・バーネットに偶然会った後、『Look Up』がどのようにまとめられたかについて次のように明らかにしている。

 

「実は、僕はずっとカントリー・ミュージックが好きだった。T・ボーンに曲を書いてもらったとき、それがカントリー・ソングになるとはそのときは思ってもみなかったよ。当時私はEPを作っていたので、カントリーEPを作ろうと思っていた」


「でも、彼が9曲も持ってきてくれたとき、アルバムを作るべきだと思った! それができて本当にうれしく思う。T・ボーンをはじめ、アルバムの制作に協力してくれた素晴らしいミュージシャンたちに感謝し、ピース&ラヴを送りたい。制作はとても楽しかったし、聴くのも楽しいと思うよ!!」

 

『Look Up』はリンゴ・スターにとって6年ぶりのニューアルバムとなり、カントリーを中心に構成されている。 



「Time On My Hands」

 

 

『Look Up』の輸入盤の詳細についてはユニバーサルミュージックストアでご確認ください。



Ringo Starr 『Look Up』

 

Label: A Lost Highway Records (Roccabella/ UMG Recordings)

Release; 2025年1月10日


Tracklist:    


1. Breathless (featuring Billy Strings)
2. Look Up (featuring Molly Tuttle)
3. Time On My Hands
4. Never Let Me Go (featuring Billy Strings)
5. I Live For Your Love (featuring Molly Tuttle)
6. Come Back (featuring Lucius)
7. Can You Hear Me Call (featuring Molly Tuttle)
8. Rosetta (featuring Billy Strings and Larkin Poe)
9. You Want Some
10. String Theory (featuring Molly Tuttle and Larkin Poe)
11. Thankful (featuring Alison Krauss)

 

Panda Bead


Panda Bear(パンダ・ベア 別名ノア・レノックス)がニューアルバム『Sinister Grift』の制作を発表し、リードシングル「Defense」(シンディ・リーをフィーチャー)を公開した。

 

『Sinister Grift』は2025年2月28日にDominoから発売される。また、Toro y Moiがオープニングを務めるツアー日程も発表された。


『Sinister Grift』は、パンダ・ベアにとって2019年の『Buoys』以来6年ぶりのソロ・アルバムとなる。2022年にはソニック・ブームとのコラボレーション・アルバム『Reset』をリリースしている。


ノア・レノックスはポルトガル/リスボンの自宅スタジオで、Animal Collective(アニマル・コレクティヴ)のバンドメイトであるジョシュ・"ディーキン"・ディブと一緒にアルバム制作に取り組んだ。

 

シンディ・リー(別名カナダ人ミュージシャン、パトリック・フレゲル)のほか、Spirit of The Beehive(スピリット・オブ・ザ・ビーハイブ)のリヴカ・ラヴェーデ、アニマル・コレクティヴの各バンドメイトも参加している。(パンダ・ベアのアルバムとしては初めてのこと)


アルバムを発表するプレスリリースには、レノックスのコラボレーターや友人の言葉が掲載されている。

 


ジョシュ・"ディーキン"・ディブ: 

 

 「このアルバムの制作は、神聖で温かい帰還のように感じた。ノアと僕が最初にマルチトラックカセットに音楽を入れ始めたのは1991年だった。あれから32年、同じやり方で、2人の友人と2人きりで部屋にこもって、心を揺さぶる音や感情を探しながら仕事をしてきた。Sinister Grift』は、私が30年以上前から知っているソングライターのようでもあり、ノアの新しい章のようでもある。これ以上誇れるものはないだろう」

 


ダニエル・ロパティン:

 

「クラシック・ロックの夢が見事に滲み出ているジェシカ・プラット「『Sinister Grift』でパンダ・ベアは、幸運と災難の風に立ち向かう孤独な姿を見せている。ノアの純粋で痛切な嘆きは、今回はまるで語り手が悲痛な夢から覚めたかのように、とらえどころがない。パンダ・ベアは、険しい道のりを歌うおなじみのトーチ・ソングを披露している」

 


マリア・レイス:

 

 「ノアには、曲作りを驚くほど簡潔にする能力がある。すべてのアイデア、すべての言葉、すべての音は、目的を果たすためにあるように感じる。Sinister Griftは、まるで何十年も前から存在していたかのような、オール・タイマーのような雰囲気があり、同時に、まるで前を向いているかのような、新鮮な新しい光に満ちている」

 


DJ Falcon:

 

「このような暗い時代には、人生を乗り切るための音楽が必要だ。パンダ・ベアには魔法があり、彼の声はこの世界を癒す薬のように感じられる。ノアは僕らにSinister Griftをくれた。リラックスした気分で、ビーチが遠く感じられない。ノアの贈り物に感謝します」

 


アラン・ブラクセ:

 

 「"Sinister Grift"はとても美しいアルバムだ。すべてが本物で自然で、まるで昔から存在し、これからも存在し続けるかのように聴こえる。真実で時代を超越している。ありがとう、ノア!!」 



「Defense」

 

 


Panda Bear 『Sinister Grift』


Label: Domino

Release: 2025年2月28日

 

Tracklist:


1. Praise 

2. Anywhere But Here 

3. 50mg 

4. Ends Meet 

5. Just As Well 

6. Ferry Lady 

7. Venom’s In 

8. Left in the Cold 

9. Elegy for Noah Lou 

10. Defense

 

Japanese Breakfast


Japanese Breakfast(ジャパニーズ・ブレックファスト)は、名プロデューサー、ジャック・アントノフと組み、ディズニー+マーベルの番組「Agatha All Along(アガサ・オール・アロング)」のレギュラー曲「The Ballad of The Withes Road(魔女道のバラード)」の新たなポップ・バージョンを制作した。原曲はクリステン・アンダーソン=ロペスとロバート・ロペスが書いた。


ジャパニーズ・ブレックファストの最新アルバム『Jubilee』は2021年にリリースされた。ミシェル・ザウナーはその後すぐ、シェドワークスのインディー探索ゲーム『Sable』のサウンドトラックを発表し、ベストセラーとなった回顧録『Crying in H Mart』の映画化にも携わっている。2024年、ザウナーは韓国語を勉強するために韓国に渡り、2冊目の本の制作過程を記録している。

 

『アガサ・オール・アロング』(Agatha All Along) は、マーベル・コミックの『アガサ・ハークネス』(Agatha Harkness)を題材にしている。ジャック・シェイファーがDisney+オリジナルドラマとして制作するアメリカ合衆国のテレビミニシリーズである。『ワンダヴィジョン』(2021) のスピンオフ作品で、マーベル・スタジオが製作するマーベル・シネマティック・ユニバース (MCU) のテレビシリーズ15作目。2024年9月19日配信予定。初回2話同時リリース。



Yeah Yeah Yeahs

意外な曲がTikTokでリバイバルヒットを記録している。2022年劇的な復活作『Cool It Down』をリリースしたニューヨークのロックバンド、Yeah Yeah Yeahsの代表曲「Maps」がTikTokビルボード・トップ50チャートで2週目の1位を獲得した。さらに5曲(うち4曲はデビュー曲)が10月19日付のランキングでトップ10入りを果たした。最初のリリースから11年目の快挙となる。


当チャートの集計を行う「TikTok Billboard Top 50」は、クリエイション、動画再生数、ユーザーエンゲージメントに基づいて、米国のTikTokの利用者で最も人気のある楽曲の週間ランキングを集計している。最新のチャートは、10月7日から13日までの動向を反映している。TikTokでの集計は、TikTok Billboard Top 50以外のビルボードチャートには反映されていない。

 

「Maps」は、アメリカのインディーロックバンド、Yeah Yeah Yeahs(ヤー・ヤー・ヤーズ)のデビューアルバム『Fever to Tell』(フィーバー・トゥ・テル、2003年)収録曲。

 

2003年9月にInterscopeからリリースされたこの曲は、翌年、アメリカのビルボード・モダン・ロック・チャートで9位、イギリスでは26位を記録した。バンドは、2003年のMTVムービー・アワードでこの曲を演奏し、ミュージックビデオはMTVで大々的に放送された。ルミネイトによると、この曲は10月10日に終わる1週間で、23%増の190万ストリーミングを記録した。

 

2002年までに、Yeah Yeah Yeahsはライヴ・パフォーマンスで高い評価を獲得し、デビューEPは批評家から絶賛された。

 

バンドはデビュー・アルバムの資金を自分たちで調達したいと考え、ブルックリンにある低予算のヘッドギア・スタジオでのレコーディングを選んだ。リード・シンガーのカレン・Oは後にSPIN誌にこのアルバムが自主制作盤であったことを明かしている。

 

「私たちはみんな一緒に住んでたし、その資金として使ったお金はすべて私たちのポケットから出ていた。」



『Fever to Tell』は、バンドTV on the Radioのマルチ・インストゥルメンタリストでプロデューサーのデヴィッド・アンドリュー・シテックと共に、Yeah Yeah Yeahsによってプロデュースされた。

 

また、Yeah Yeah Yeahsのギタリスト、ニック・ジナーは、ブルックリンの衣料品店で一緒に働いていた時にデイヴィッド・シテックと初めて出会い、彼はその後、彼らの最初のコンサート・ツアーの運転手兼マネージメントをすることになった。2002年、バンドは、シテックにデビュー・アルバムのプロデュースを依頼した。カレン・Oは、2017年の著書『Meet Me in the Bathroom』のためのリジー・グッドマンとのインタビューで、この決断を振り返っている。

 

「彼が手がけたものを焼いたCDを何枚かくれたのを覚えている」とカレンO。「彼はただの仲間で、私たちはすぐ彼と家族のように感じたわ。他の誰も知らなかったしね。それが、彼と一緒に仕事をした最大の理由のひとつかも。それから、もちろん、彼は本当に素晴らしく傑作に仕上がった」

 

最初のメジャーヒット作に恵まれる以前に、Yeah Yeah Yeahは2001年にセルフタイトルのデビューEPをTouch and Goからリリースしている。当初、サイケガレージの急峰としてミュージック・シーンに登場している。TV On The Radioとの繋がりはその2年前に始まっていた。

 


「Maps」


Lawns  ベルリンのポストハードコアバンドの出発  世界の深刻さをはねのける力

Lawns via Fatcat
 


デビューバンドといえば、一般的には十代後半の若者が集まって、面白くてワクワクするような計画を始めることをイメージする人が多いかも知れない。この場合は、まだ自分が何者であるかわからない中で、自分のやるべきことをがむしゃらに暗中模索していくのが常である。しかし、ベルリンのポストハードコアバンド、Lawnsはその一般的な事例に当てはまらないかもしれない。 この三人組は、社会的な経験を積んできた中で、あえて「バンド」という一見無謀にも思える選択肢を選んだ。Lawnsの歴史は、2021年のCovid-19の時期に始まった。ロックダウン等、社会的な移動が制限される中で、彼らの活動はシークレットにしておく必要があった。

 

おそらく、勘の鋭いリスナーは、このエピソードとLawnsの音楽性に深い関係があることを察知するかも知れない。Lawnsの音楽には、社会的な常識やコモンセンスをはねのける力がある。彼らの音楽はノイズや不協和音の限界に迫ることがあるが、それはちょっとしたユーモアで包み込まれている。世界がシリアスになっていく中で、こういったウィットやユーモアのある音楽に従事することは、一般的な労働や気晴らしをするよりも、遥かに重要な意味を持つ場合がある。

 

そして実際的に、Lawnsのデビューアルバム「Be A Better Man」は、そういった現実の中にある深刻さを吹き飛ばすような楽しさに溢れている。彼らの音楽には、ノイズロック、パブロック、サーフロック、ロカビリー、ポストハードコアなど、無数の多彩な音楽のエッセンスが散りばめられている。そして、ベルリンのアンダーグラウンドの匂いがほのかに匂い立つことがある。

 

しかし、アンダーグラウンドの雰囲気というのは、そう簡単に醸し出せるものではない。音楽を一般的に普及させていく過程で、誰もが主流の音楽に影響を受けざるを得ないし、それらの一般化の波に飲み込まれてしまう場合がある。すると、ドイツの実験音楽にかこつけて言えば、Einsturzende Neubauntenのようなアンダーグラウンドの空気感を放棄してしまう結果にもなり得る。


その反面、Lawnsにとって幸運だったのは、彼らのプロジェクトがパンデミックの風潮に隠れて立ち上げられたことだ。これにより、一般的な音楽に感化されることなく、自分たちの音楽に専念し、磨き上げることが出来た。そして、そのことがベルリンの三人組の音楽に強固な力をもたらし、他の領域では得られないようなエフェクティヴなサウンドを形成することになった。

 

今回、ベルリンのLawnsのボーカリストのベンさんに、バンドの出発、どのように活動を軌道に乗せていったのか、デビューアルバムの制作について、Fugaziからの影響について教えていただくことが出来ました。Lawnsのレボリューション・サマーの時代を彷彿とさせる鮮烈なパンクサウンドは、今後、同地のミュージック・シーンでも名物的な存在になっていくかもしれません。

 

 


ーーまず、LAWNSの略歴を教えてくださいませんか。 結成秘話等はありますか?


読者の皆さん、こんにちは!!  LAWNSでギター、バリトンギター、ボーカルを担当しているベンです。もう一人のジョー(ギター、ヴォーカル、バリトン)とは昔、2006年にロンドンで知り合ったんだ!!  僕は彼の元パートナーでバンドメイトのメルと一緒に仕事をしたことがあったんだ。彼らは「Chapter 24」というバンドで一緒に演奏していた。2016年に彼がベルリンに移る以前、ジョーはリスボンに、そして、僕はベルリンに移った。僕たちは後になって再会し、”エイブル・ボディーズ”というバンドを始めたんだけど、このプロジェクトはあまり上手くいかなかった。そのバンドを解散して、新しいプロジェクトを始めようと思ったんだ。

 
それで、ドラマーのオーディションを始めたんだけど、あまり上手くいかなかった。ポルトガルのリスボンに住む友人のロドリゴが(偶然にも!)、トビアスと連絡を取ることを勧めてくれた。彼らは”Golden Hours”というプロジェクトで一緒に演奏していた。コーヒーを飲んで意気投合し、スタジオに入って曲を書くことに決めた!! 

 

その後、驚くほどたくさんの曲をあっという間に書き上げることができた。そこからデビューEP『Fine』をリリースし、ベルリンでギグを始めた。ほとんどがDIYショーで、野外で、最初は本当に何でもやった。これは2021年のことで、ちょうどCOVIDの大流行の真っ只中だった。


僕たちはベルリンのシーンで良い名前を築き上げ、街の外でも少し演奏するようになった。そこからレーベルの”FatCat Records”(イギリス、ブライトン)と連絡を取り、シングルを何枚か出し、最終的にはアルバムを出すことになった。2024年9月にアルバムを出す前に、2023年にヨーロッパとイギリスで2週間のツアーを行った。2025年もツアーを続け、次のアルバムを作る予定だ。

 

・・・秘話? ちょうどパンデミックの真っ最中に最初のEPを書いたから当初はこのことを秘密にしておく必要があったんだ!



ーー先月、デビュー・アルバム『Be A Better Man』が発売されました。タイトルの由来を教えてください。このアルバムを聴く際に、リスナーにはどんな点に注目してほしいですか?



Lawns: これは「Eggshells」(デビューアルバムの9曲目に収録)という曲の歌詞から来ています。

 

”Try to be a better man, try to do the best you can"(もっといい男になろう、できる限りのことをしよう)。まあ、本当にその通りなんだけど、この曲は、より広い意味が込められていて、できることならもっといい人間、もっといい男になろうということを歌っているんだ。

 

このアルバムの多くは、男性らしさ、メンタルヘルス、人間関係など、関連するテーマを探求している。私にとって歌詞を書くことは、カタルシスをもたらすものであり、『LAWNS』の歌詞では極めてオープンであろうとした。どんな作詞家もそうであるように、私たちの歌詞を聴いて、何か共感できるものを見つけてほしいし、聴く人の気持ちを楽にしてくれることを願っているよ!!

 


--Lawnsには、Gang Of Fourのドラマー、Tobias Humble(トビアス・ハンブル)が在籍しています。彼のドラミングのどこが素晴らしいと思いますか?

 

Lawns:  トビアスは、これまでいろいろなプロジェクトで経験を積んで来たからね。ツアーやレコーディングの経験も豊富なんだ。パンク/インディーの世界では、GoFが最も知名度が高く、称賛を浴びていると思う。彼はとても多才で、とても音楽的なドラマーだと思う。実際に作曲もできる!

 

個人的には、これほど多才で、創作プロセスに関わってくれるドラマーと一緒に曲を書いたことはなかった。多くのドラマーがそうであるように、トビアスは曲を単なるビートとしてではなく、「バンド全体のピース」として捉えている。個人的には彼のドラムプレイが大好きだよ。彼は素晴らしいエネルギーを持っていて、常に曲のためにプレイしている。でも、私が一番好ましく思うのは、彼の自由な即興演奏の能力なんだ。


 

ーーLawnsは、Jesus Lizard、Fugazi、Shellac等から強い影響を受けたと聞いています。具体的には、彼らのどのようなDNAを受け継いでいるとお考えですか?


まあ、僕らのことを聞いてみると、それらのバンドを思い出すって言われるし、僕らも一度か二度、それらのバンドが好きだって言ったかな!?
 

ただ、ひとつ付け加えておくと、バンドサウンド全体に大きな影響を与えたとは思っていない。この3つのバンドは、個人的にはギターの弾き方に大きな影響を与えたのは間違いない。歌い方に関してはそれほどでもないけどね......。

 

それでも、僕らのトレブリーでカッティングの効いたギターサウンド、音楽における空間の使い方、ヴォーカルの歌い方、静かさと大きさのダイナミクスについては、これらのバンドから何かを学びとったのは確かと思う。また、Fugaziがパンクの青写真をどのように取り入れ、あらゆる方向に進んでいったかという点で、私はとても刺激を受けた。

 

三つのバンドの中では、シェラックが一番影響を受けていないかな。でも、みんなあのバンドが好きなんだよね。

 


ーーベルリンのライブシーンで話題になっているようですが? ギグにはどれくらいの観客が集まりますか? また、ライブをする上で、あなたたちが最も大切にしていることは? 


Lawns:みんなが僕たちを、”良い、エキサイティングな、そして何よりもタイトなライブバンド”として評価してくれているようで嬉しい。ここ数年ベルリンを中心に活動してきて、同地でも良いお客さんを呼べるようになったと思う。

 

例えば、先日のアルバム発売記念ギグでは、100人以上の観客を集めました。これは、大したことないように聞こえるかもしれないけれど、僕らにとってはすごく大きなことなんだ! 私たちは、タイトなライブ・パフォーマンスをすること、みんなを踊らせること、みんなを笑顔にすることを大切にしてます。また、新しい人たち、新しいバンド、プロモーターに会うのも素晴らしい。




ーー最後に、デビューアルバムのレコーディングで最も印象的な思い出を挙げるとしたら何でしょうか?



 Lawns: デビューアルバムは2回に分けてレコーディングしたので、とても興味深い内容になっているだろうと思います。75%は2022年に、最後の4分の1は23年に録音しました。古い曲はもともと、EPにする予定だったんだけど、ファット・キャットからアルバム1枚にするようにって言われたんだ! 


2023年に書いてレコーディングした曲の方がずっと好きだ! よりダイナミックで、よりメロディアスで、より複雑で、より成熟していると思う。だから、2023年4月にこれらの曲をやったのは本当にいい思い出になった。僕の記憶では、レコーディングは簡単で、すぐに素晴らしい音になったよ!!

 

 

 

■ Episode In English  

 

-The departure of a Berlin post-hardcore band.  The power to splash out the seriousness of the world.-

 

When people think of a debut band, they may generally think of a group of young people in their late teens getting together and starting an interesting and exciting project. In this case, they are usually groping in the dark, struggling to figure out what they are supposed to do, while not yet knowing who they are. Berlin post-hardcore band Lawns, however, may not be a common case in point. The trio dared to take the seemingly foolhardy option of ‘band’ in the midst of their social experience: the history of Lawns began during the Covid-19 period in 2021. With lockdowns and other restrictions on social mobility, their activities had to be kept secret.

Perhaps intuitive listeners may detect a deep connection between this episode and Lawns‘ musicality: Lawns’ music has the power to defy social conventions and common sense. Their music can push the boundaries of noise and dissonance, but it is wrapped up in a bit of humour. As the world becomes more serious, engaging with this kind of wit and humour in music can be far more important than general labour and distraction.



And practically speaking, Lawns' debut album “Be A Better Man” is full of the kind of fun that blows away the seriousness of such realities. Their music is sprinkled with the essence of a myriad of diverse musical influences, including noise rock, pub rock, surf rock, rockabilly and post-hardcore. And there is sometimes a faint whiff of Berlin's underground.



However, an underground atmosphere is not something that can be created so easily. In the process of popularising music, everyone has to be influenced by mainstream music and can be swallowed up by those waves of generalisation. This can then result in the abandonment of an underground atmosphere such as that of Einsturzende Neubaunten, to put it in terms of German experimental music. On the other hand, fortunately for Lawns, their project was launched under the cover of a pandemic climate. This allowed them to concentrate on and refine their music without being desensitised by the prevailing music. And this has given the trio's music a solid strength, forming an ethereal sound that cannot be found in any other sphere.



We were able to talk to Berlin's Lawns member Ben about the band's beginnings, how they got their act off the ground, the making of their debut album, and their influences from Fugazi. reminiscent of Lawns‘ Revolutionary Summer days, Lawns’ intense Their punk sound may well become a household name in the local music scene in the future.



--Can you give us a brief biography of LAWNS?  Do you have any secret stories about the formation of the group?


Lawns(Ben):  Hi readers! I'm Ben and I play guitar, baritone guitar and sing in Lawns. I met Joe (guitar, vocals, baritone) a long time ago in London when we were around 20/21, in 2006! I worked with his ex-partner and bandmate, Mel, who's a good friend of mine. They played together in a band called Chapter 24. Joe moved to Lisbon and me to Berlin, before he moved to Berlin in 2016. We reconnected and started a band called Able Bodies, but that never really did much. We dissolved that band and wanted to start a new project. 


So we started auditioning drummers but didn't really have much success. A friend of mine, Rodrigo, who lives in Lisbon (coincidentally!) recommended we get in touch with Tobias. They play together in a project called Golden Hours. We met up for a coffee, got on well, decided to get into a room to write some music, and the chemistry was really instant! We were able to write a surprising amount of music really fast. From there we put out our debut EP "Fine" and started gigging in Berlin. Mostly DIY shows, outdoor, anything really. This was in 2021 right in the middle of the COVID pandemic.


We built up a good name in the Berlin scene and also started to play outside of the city a bit. From there we got in touch with our label FatCat Records (Brighton, UK) who agreed to put out some singles and eventually an album. We did a two-week tour in Europe and the UK in 2023 before putting the album out in September 2024. We now plan to continue touring in 2025 and write another record. 


Secret stories? Well, we actually wrote the first EP and started jamming twice a week right in the middle of the pandemic when it was technically 'illegal' to do that in Berlin. So we had to keep it a bit of a secret at first!


--What is the origin of the title of your debut album "Be A Better Man"? What would you like listeners to look out for when listening to this album?


Lawns: This comes from a lyric in the song Eggshells: "Try to be a better man, try to do the best you can." Well, really it's quite as it says, the song is just about being a better human being, a better man, if you can. Much of the record explores related themes: themes of masculinity, issues with mental health, relationships and so on. Writing lyrics for me is definitely very cathartic and I tried to be extremely open in my lyrics for Lawns. I would like people to listen to our lyrics - like any lyric writer does - and hopefully find something relatable in them, and hopefully they can make the listener feel better!


--Lawns has a drummer from "Gang of Four", Tobias Humble. What do you think makes his drumming so great?


Lawns:  Tobias has a lot of experience with many different projects. Lots of touring and recording experience. I guess GoF is the most visible and well-known and carries the most kudos in the punk/indie world. I think he's a very versatile, very musical drummer, who's able to actually write music! Personally, I had never really written with a drummer who was so well-rounded and involved in the creative process. I think his experience in all these different projects has made him into that kind of drummer: he really hears songs as full band pieces, not just beats, like so many drummers do. Personally I like the way he plays drums, he has great energy and always plays for the song. But it's his ability to freely improvise that I like the most. 


--I hear that Lawns was strongly influenced by Jesus Lizard, Fugazi, and Shellac. Specifically, what DNA do you guys think you inherited from them?


Lawns:  Well, people often say we remind them of those bands and I guess we did say we liked those bands once or twice, haha! I don't think they're a HUGE influence on the band as a whole. All three bands were definitely a big influence on me, personally, in how I play guitar. Less so in how I sing. But I think our trebly, cutting guitar sound, the space in our music, the vocal delivery and quiet/loud dynamics took something from those bands. Also in how Fugazi took a punk blueprint and really just went in all kinds of directions with it, that was very inspiring to me. I think of those three bands, Shellac is probably the least influential on us. But we all like that band. 


--You seem to be the talk of the town in Berlin's live scene? How big of a crowd do you get at your gigs? What do you guys value most when it comes to playing gigs? 


Lawns: I'm glad that people seem to value us as a good, exciting and maybe above all things, a tight live band. I think we can pull a good crowd in Berlin after working here for a few years. At our recent album launch gig ,we pulled well over 100. Maybe that doesn't sound a lot, but it was a big deal for us, especially since we really started from zero and never had much help! I think we value putting on a tight live performance, getting people to dance and making people smile. We also love meeting new people, new bands and promoters. 


--If you had to pick your most memorable memory from the recording of your debut album, what would it be?


Lawns: Well, it's interesting because we recorded the album in two parts. 75% of it in 2022 and the last quarter in '23. The older songs were originally going to be an EP, but FatCat told us to do a whole album! The songs we wrote and recorded in 2023, I much prefer! I think they're a lot more dynamic, a lot more melodic, more complex and a lot more mature. So going in to do those songs in April 2023 was a really nice memory. They were - as I remember - easy to record and sounded good pretty much straight away! 

 

 

 

Lawns  『Be A Better Man』/ Fatcat  - Now On Sale!!


 

1 I Remember

2 Misinterpretations

3 Bottled Up

4 Best

5 Interlude

6 Surf

7 16

8 The Worrier

9 Eggshells

10 You

11 Friends 


Listen/Purchase(International):  https://fatcat.lnk.to/lawns-beabetterman

 


「16」

 

©Ax


Sorryがニューシングル「Waxwing」をドミノ・レコーディングから発表した。多彩なルースターを誇るドミノのオルタナティヴポップ・バンド。

 

ロンドンを拠点とするこのグループにとって、2022年10月にアルバム『Anywhere But Here』をリリースして以来の新曲。FLASHAが監督とプロデュースを手がけたこの新曲は、以下のビデオでチェックできる。


「Waxwing」は、ティーン・ポップ・センセーション、トニ・バジルの「Hey Mickey」を補間している。バンドのアーシャ・ロレンツはこう語っている。

 

「ミッキーは欲望?ミッキーは爆弾?ミッキーは私をお金にする? ミッキーが私の歌を作る?ミッキーが詩を作ってくれる?ミッキーは麻薬? ミッキーが嘘つき? ミッキーは愛?  ミッキーは欲望?」

 

 

 「Waxwing」

 

Cahil/ Costello


 

先日、11月8日(金) に ニューアルバム『II』をレコード(数量限定)、およびデジタル・フォーマットでリリースすることを発表したグラスゴー出身のアンビエント・デュオ、ケーヒル//コステロが、新曲「Ae//FX」を本日デジタル配信した。(楽曲のストリーミングはこちら


ギタリストのケヴィン・ダニエル・ケーヒルとドラマーのグレアム・コステロから成るケーヒル//コステロは、2021年にデビューアルバム『オフワールド』を発表。約3年ぶりとなる今作『II』では、エフェクトのかかったギターを基調としたアンビエントな雰囲気と絶妙なグルーヴを取り入れたドラミングが、時折催眠術のようなテープ・ループを経由しながら織り交ざっている。


 

ファースト・シングル「Sunbeat」に続く新曲「Ae//FX」は、シンセを基調とした幽玄なサウンドスケープとハイエナジーなブレイクビート・ドラミングを組み合わせた、バンドの常に進化し続ける性質を象徴している。



「アルバムを完成させるのはとてもエキサイティングな瞬間だけど、少し気が重くなることもある。まだ何かやり残したことはないかといった疑問が頭の中をぐるぐると回り、そしてそう感じるのは自然なことなんだ。」

 

「そんな中、『Ae/FX』は突如誕生した。それは、新しいアルバムのための閃きやアイディアがあるという興奮を分かち合った瞬間だった。比較すると、デュオとしての僕たちの関係に明らかな変化と成長が見られる。視覚的に言うと、前作『オフワールド』は冬に似た性質を持っていて密度と重みがある。一方の今作『II』は夏に似ていて、軽さがあり、動きがある」とデュオは話す。

 

 

 このアルバムに関するClash Magazineをはじめとする各メディアの反応は以下の通りです。

 

 ・「没入感のある瞑想的な音楽...自然の音が雄弁なパーカッションとともに呼び起こされ、テープ・ループが催眠術のような激しさを達成する」- Clash Magazine

 

・「高い完成度と没入感」- Future Music

 
 
「ドリーミーなエレクトロニック・アンビエントのテクスチャー満載の、驚くほど自信に満ちたロング・プレイヤー」 - Electronic Sound


 

 

 

◾️スコットランドの実験的なアンビエントデュオ、CAHILL//COSTELLO(ケーヒル//コステロ) ニューアルバム『II(2)』を発表  リードシングル「SUNBEAT」を配信 


 

【アルバム情報】 Cahill//Costello 『Ⅱ』 - New Album


アーティスト名:Cahill//Costello(ケーヒル//コステロ)
タイトル名:II(2)
発売日:2024年11月8日(金)
形態:2LP(140g盤)
バーコード:5060708611163
品番: GB1599
*レーベル公式サイトにて数量限定直販

<トラックリスト>


Side-A

1. Tyrannus
2. Ae//FX 


Side-B

1. Ice Beat
2. Sensenmann
 
Side-C
1. JNGL
2. I Have Seen The Lions On The Beaches In The Evening
 
Side-D
1. Lachryma
2. Sunbeat

 

Pre-order(先行予約)


Gearbox Store: https://store.gearboxrecords.com/products/cahill-costello-ii-cahill-costello

 

Bandcamp:  https://cahillcostello.bandcamp.com/album/cahill-costello-ii-2



マイアミを拠点とするバンドSeafoam Wallsは、シンガー・ソングライターでギタリストのジャヤン・バートランド、ベーシストのジョシュ・イーワーズ、エレクトロニック・ドラマーのホスエ・ヴァーガス、ギタリストのディオン・カーで構成される。彼らはジャズ、シューゲイザー、ロック、ヒップホップ、アフロ・カリビアンリズムのまったくユニークな組み合わせであるシーフォーム・ウォールズを「カリビアン・ジャズゲイズ」という新しいジャンルで表現する。


『Standing Too Close To The Elephant In The Room』は、バンドにとってエキサイティングな新章を象徴している。このアルバムは、シーフォーム・ウォールズのミュージシャンとしての進化を示すだけでなく、アーティストとしての評判を確固たるものにし、リスナーを実験的な影響と楽器編成のテクニカラーの霧を通して彼らの音楽を体験させる。ディオン・カー、ジョシュ・エワーズ、ホスエ・ヴァーガスを中心とするバンドは、芸術的な自律性へのコミットメントを示し、セルフ・プロデューサーとしての役割を担い、現代社会とそれが内包するあらゆる矛盾に疑問を投げかけながら、その壮大なサウンドスケープを堪能できるアルバムを作り上げた。

 


ギタリストのジャヤンはアルバムに関して次のように説明しています。「ギターを手にする以前、純粋な音楽ファンだった。その後、世界各国の政府の抑圧的なやり方について学び始めると、私の世界は粉々に打ち砕かれた。自分達のすることは正義なのだと私に断言した権威的な存在も、実は『問題の重要な一部だった』のです。その後、もしかしたらアートこそがこの残酷な世界で唯一の安全な空間ではないかと思い始めました。『Humanitarian Pt.II』は端的に言えば、『幻滅』についての作品です。私は、同じような手口が存在するとは知らず、真っ先に音楽シーンに飛び込んでいきました。そして、そのようなやり方を非難するとともに、私の前に好きだったアーティストたちのように『社会規範に疑問を投げかける』ことを自分の使命としています」

 

「実は、私はまだ差し迫った疑問に対する答えを探しているところなのですが、現実的な解決策を持っている同じような考え方を持つ人たちと一緒にいることは励みになります。ディオン・ディア・レコードの最新作と今後のリリースに惹かれたのは、私が尊敬する誰もが素晴らしい疑問と意識を提起する中、ディオン・ディアは希望に満ちた選択肢を提示してくれたからでした」


アルバムのタイトルは、人々が人生で直面する、見過ごされがちであるが重要な課題や複雑さの比喩であり、細部にとらわれ、大局を見失うことへの警告を意味する。ジャヤンが説明するように、誰もが部屋の中にエレファントを飼っている。しかし、問題がより複雑であるため、視野が狭小になり、それらの全体像が見えづらくなっている。つまり、視聴者は同じ問題に対して偏った視点を提供しているらしい。これは、交差性が満たされていない領域の説明なのである。

 

 

Seafoam Walls  『Standing Too Close To The Elephant In The Room』/ Dion Dia


 

 

シーフォーム・ウォールズの音楽性はとても個性的である。基本的なバンドアンサンブルは、今日のオルトロックのトレンドに沿っているが、他方、チルウェイブを吸収したシンセポップのような音楽性が際立つ。それに加えてボーカリストのジャヤンのボーカルもR&Bのテイストからアフロビートからの影響をミックスした懐深さを感じる。それほどこのアルバムの音楽は難解になることはなく、シンプルで親しみやすく、それどころかライトな印象を思わせる。35分ほどのアルバムを聴き通すのに、労力や忍耐力は必要ないと思う。さらりと聞き流せるサウンドはBGMのように過ぎ去っていく。しかし、アフロビートを反映させた多角的なリズム等、コアな音楽の魅力が凝縮されている。Unknown Mortal OrchestraのようなR&B色のあるインディーロックとも言えるのだが、同時によくよく聴くと、かなり奥深い感覚のある作品である。

 

なぜ、軽やかな印象のあるロックなのに聴き応えがあるのか。それは端的に言えば、制作者の考えが暗示的にバンドサウンドの背後にちらつき、シーフォーム・ウォールズの音楽がジャンルのキャッチコピーに終始しないからである。そしてロックバンドとしての不可欠な要素、ライブセッションの醍醐味も内包されている。セッションは音による複数人の対話やコミュニケーションを意味し、音楽が時々、優れたミュージシャンにとってある種の言語のような役割を持つことを定義付ける。このバンドのライブセッションにおける対話は、アルバムの最後の曲「Ex Rey」に登場する。セッションの心地よさが永遠と続くような精細感のあるライブサウンドがこのアルバムの最後に控えている。このことはまだこのアルバムで、ジャヤンのほか四人のメンバーがすべてを言い終えたのではなく、言い残した何かがあることを暗示するのである。

 

そして、このアルバムに少なからず聴き応えをもたらしているのものがあるとすれば、それは彼らの権威筋に対する「失望」や「不信」にほかならない。今日日、権威筋の説得力のある意見がときに、実際的な経験を元に組み上げられるシンプルな論考に対し、無惨なほど敗北を喫する時代に、権威に対する盲目的な崇拝が最早以前のような意義を失ったことを暗示している。ソングライターのジャヤンは、このことに関し、「世界各国の政府の抑圧的なやり方について学び始めると、私の世界は粉々に打ち砕かれた。"自分達のすることは正義なのだ"と私に断言した権威的な存在も、実は『問題の重要な一部だった』」と説明しているが、これは反体制的でも何でもなく、一般的な人々が今日の時代において痛感せずにはいられないリアルな感覚でもある。


ただ、シーフォーム・ウィールズの音楽的な感覚は、そういったドグマに対して距離を置くことにある。そういったものにはまり込み、修羅の道に入るのではなく、それらに一瞥もくれないのだ。素晴らしいのは、旧来の価値観の崩壊や一般的な概念に対する不信感が主題になっているのは事実であるが、サウンドそのものは建設的で明るい方向に向かう。アートや音楽を一つの起点とし、彼らは純粋な楽園を構築しようとするのである。結局、アルバム全体を通して感じられたのは、彼らが政治的な観念から適切に距離を取ろうとしていること、そして、もし今日の政治や世界情勢の闇に不満を感じるならば、むしろそのことを逆手に取り、別の道に歩み出そうとすることであった。たとえ、それが架空のものであろうと、もしこういったアートの純粋な試みを行う人々が多数派になれば、争いはもちろん、不毛な論争も立ち消えるのである。


さて、現代の人々は今までそれが「正しいこと」だとか「善なること」と言われていたものが、本当はそうではないとわかった時、どう立ち向かうべきなのか。また、どのように接するべきなのか。少なくとも、このアルバムに関して言えば、それらの考えや価値観と争うとか、反駁を企てるといった旧来の手法とは別の道筋が示されている。バンドのサウンドは主流派に乗っかるのでもなければ、過剰にスペシャリティを誇示するわけでもない。スペシャリティを誇示しすぎることは、建設的なやり方とは言えまい。シンプルに言えば、彼らは、バンドアンサンブルを通じて「楽しむ」だけである。それでも、このことが何らかの愉快なエネルギーを発生させ、聴いている人々に開放的な気分を与え、さらに最終的に、純粋な音楽の喜びを教えてくれる。高尚な楽しみはときに形骸化や腐敗を招く。しかし、純粋な楽しみは、最も偉大なのだ。

 

チルウェイヴとギターロックを組み合わせた「Humanitarian Pt.1」、「Humanirarian Pt.2」は本作の序章のような意味を持つ。そしてこのアルバムが、一種のコンセプチュアルな流れを持つ作品であることが暗に示されている。ジェフリー・パラダイスのプロジェクト、Poolsideのエレクトロニックサウンドとギターロックを融合させたかのようなリラックスした感じが主な特徴である。これらのスタイルには、ヨットロックのようなリゾート的な雰囲気が漂う。それほど苛烈になることなく、余白のあるサウンドに波の音のサンプリングが挿入されることもある。彼らは結果的にアルバムの楽園的なサウンドを入念に組み上げていく。

 

波のサンプリングのイントロを挟んで始まる「Cabin Fever」は、シーフォーム・ウォールズがオーストラリアのHiatus Kayoteのような未来志向のプログレッシヴ・ロックの性質を兼ね備えていることの証でもある。ギターの心地よいカッティングを元にして、多角的なリズムを作り出し、スケールの大きなプログレを構築していく。バンドのアンサンブル自体はミニマリズムの性質があるが、ヒップホップやチルウェイブ、ソウルを通過したボーカルがこれらのサウンドに開放的な気風をもたらす。同時に、サンプリングのイメージと相まって、サウンドスケープの範疇にあるロックソングが構築される。そして、四人組のサウンドはどちらかといえば、単なる楽曲というよりも、サウンド・デザインや風景描写の一貫をなすロックサウンドに接近していく。実際的にトラック全体からマイアミの砂浜を想起することも無理難題ではない。そしてバンドの音楽はそれほど神経質にならず、オーガニックで広やかな印象をもたらす。 

 

 

 「Cabin Fever」

 

 

温和で心地よいサウンドはそれ以降も続く。「Rapid」では、リバーブを配しバッキングギターで始まり、同じようにリゾート的な雰囲気を持つシーケンサーのシークエンス、そして細やかにリズムを刻むドラムと、バンドは音の要素を積み重ねていきながら、ひたすら心地よいサウンドを追求している。そしてこれらのリズムから、開放感と清涼感に溢れるジャヤンのボーカルがぼんやりと立ち上ってくる。ジャヤンはもしかすると、ヒップホップはもちろん、現代的なネオソウル等から影響を受けているかも知れない。それらのソウルフルな歌唱は、徹底して作り込まれたギター、それらをしっかり支えるリズム、こういった要素の中に上手く溶け込んでいる。シーフォーム・ウォールズのサウンドは、単一の楽器やパートが強調されることは稀で、全部のパートが一体感を持って耳に迫ってくる。そして、これが瞑想的な感覚を呼び覚ます。

 

アルバムの中盤のハイライト曲「Hurricane Humble」は、予言的な曲となってしまった。海岸の波の上を揺られるようなサーフサウンドを基調としたギター、 それらがソフト・ロックやシンセ・ポップの系譜にあるボーカルと溶け込み、やはりヨットロックのようなトロピカルなサウンドが組み上げられる。こういったサウンドは、ニューヨークのPorchesに近いテイストがあるが、曲の途中では、ラディカルなエフェクトが施されたりと、実験的なロックの形式を取ることもある。しかし、そういった前衛的なサウンドエフェクトがなされようとも、それほど聴きづらくはならない。それはボーカルのサングがポップの範疇にあり、自然な歌唱力を披露しているからだ。そして、3分半頃にはトーンの変調というシューゲイズの要素が登場する。これらは、最終的に、Hiatus Kaiyoteのような近未来的なロックサウンドに肉薄する。さらに、それらの実験的な試みはトラックのアウトロにも用意されている。さらに、この曲の最後では、大きなハリケーンが去った後の空気の流れを録音したサンプリングが配されている。そして、これはアルバム全体からストーリーを汲み取るような聴き方も出来ることを示唆しているように思える。

 

リズムにおける冒険心が垣間見えることもある。アフロビートの躍動的なリズムをイントロに配した「Stretch Marks」は、依然としてヨットロックの質感を押し出しながら、アフロ・ビートとオルタナティヴの融合という、彼らにしかないしえない音楽的な実験がなされている。この曲では、まだすべてが完成したとは言えまいが、新しい音楽の萌芽を見出すことが出来る。もしかすると、マスタリングには、「iZotope」が使用されている可能性がある。このあたりは、シンプルでスタンダードなデジタルなサウンドデザインを堪能することが出来るだろう。さらにアルバムの序盤の副次的なテーマであったサーフミュージックの存在感がより一層強まるのが続く「Sad Bop」である。この曲は、ハワイのジャック・ジャクソンのフォークサウンドをエレクトリックで体現したかのようでもある。彼らは、海岸沿いのリゾート気分や、海辺の夕景を想起させるようなロマンティックなポップスを聞き手に提供している。また、この曲でもサウンドスケープとしてのバンドサウンドが巧みに組み上げられていて、水中をゆったりと泳ぐような夏らしく、愉快なサウンドを楽しめる。(少し季節外れになってしまったかもしれないが.......)

 

アルバムの最後にも印象深い曲が収録されている。「Ex Ray」は、バンドアンサンブルの未知の可能性を示唆している。現代的なオルトロックバンドはどうしても「録音」が先行してしまい、アンサンブルの楽しさを追求することが少なくなりつつある。しかし、コラボレーションやバンドの楽しみを挙げるとするなら、こういったいつまでも続けていられるような心地良いライブセッションにある。それを踏まえ、彼らはBeach Houseのサウンドをお手本にしつつ、バンドとして何が出来るのかを探っている。そして、この曲にこそ、アートそのものが現実を超える瞬間が示唆されている。特に、それは現実的な概念からかけ離れたものであればあるほど、重要な価値を持ちうる。少なくとも、シーフォーム・ウォールズは、彼らが抱える問題を見事に乗り越えている。つまり彼らは現実に打ち勝ち、「Get Over It」してみせたとも言える。それは前述した通りで、彼らの純粋な楽しさを追求する姿勢が、現実的な側面を乗り越えるモチベーションとなったのだろう。




85/100

 

 

 

「Rapids」

 

 

■ Seafoam Wallsのニューアルバム『Standing Too Close To The Elephant In The Room』は本日発売。ストリーミング等はこちらから。

 


TYLER, THE CREATORがニューアルバム『CHROMAKOPIA』を10月28日(月)にリリースすることを発表した。


このアルバムは『CALL ME IF YOU GET LOST』以来となるタイラー・ザ・クリエイターのフルレングス・プロジェクトとなる。

 

それ以来、彼は2023年3月にコーチェラのヘッドライナー出演に先駆けてアルバムの拡大版をリリースし、最近ではマクソ・クリームの新曲「Cracc Era」にゲスト参加している。

 

 

TYLER, THE CREATOR『CHROMAKOPIA』