Laura Marling 『Patterns in Repeat』 


Label: Partisan

Relase: 2024年10月25日


Listen/Stream


Review 



ローラ・マーリングの前作『I Speak Because』は「まだ見ぬ子供のために書かれた作品」であるとPartisan Recordsは指摘しているが、続く『Patterns In Repeat』は実際に生まれてきた彼女の子供のために書かれたささやかな小品集である。


十代の頃にイギリスの音楽シーンに登場し、既に八作目となる今作は、シンガーソングライターとしての節目を意味する。このアルバムでは、アコースティックギター、アコースティックピアノの作曲を中心に、ささやくような静かなウィスパーボイスで構成される。キャロル・キングやジョニ・ミッチェルの70年代の作風を彷彿とさせるが、幅広い音楽的な知識で構成される作品である。


フォーク・ミュージックの引用や、JSバッハの平均律クラヴィーアの前奏曲の変奏的な引用等、音楽的な閃きやインスピレーションだけではなく、音楽的な見識と人生の蓄積が取り入れられた作品である。それはポピュラーからフォーク、クラシックまで広汎に及ぶ。そして、このアルバムがマーリングが愛しい子供と一緒に書かれた作品であること、さらに、彼女の子供にきかせても恥ずかしくない音楽を制作しようとしたことは疑いない。そして、ローラ・マーリングは実際的に、駆け出しのシンガーでは表現しえない感情的な深みや心の機微、そういった解きほぐし難い内的な感覚、そして子供を育てる時の学びや人生の愛おしさを端的に歌おうと試みている。


ローラ・マーリングは自身の音楽的なアウトプットについて、3つか4つくらいでそれほど器用ではないと謙遜しているが、反面、本作に内包される音楽は極めて多彩である。アルバムはフォークミュージックではじまり、ギターのサウンドホールの音響を生かしたサウンドプロダクションはローラ・マーリングの自身のボーカル、背景となるゴスペル風のコーラス、そしてオーケストラのストリングスと組み合わされ、音楽的な至福の時間を呼び覚ます。彼女自身の子供に直接的に呼びかけるような歌声は聞き手の心を和ませ、安らかな境地へと導く。2020年から音楽的な表現を熟成させてきた作曲家の真骨頂とも言えるオープニングである。続く「Patterns」は、巧みで精細なアルペジオをイントロで披露した後、古典的なフォーク・ミュージックに依拠した曲へと移行する。速いアコースティックギターのアルペジオを中心に、水の流れのように巧みなパッセージを作り上げ、基本的な長調のスケールに単調を織り交ぜる。そして、これが神妙なコーラスやチェロの重厚な響きと組み合わされ、奥深い音楽性を作り上げる。 


中盤で注目したいのは、平均律クラヴィーアの前奏曲をモチーフにしたアンティークなピアノ曲「No One’s Gonna Love You Like I Can」。この曲は彼女自身の子供に捧げられたものと推測される。クラシック音楽の型を基にして、ジョニ・ミッチェルの70年代のささやくような美しい声を披露する。そして、子育ての時期を経て獲得した無償の愛という感覚が巧みに表現される。それは友愛的な感覚を呼び起こし、愛しい我が子に対する永遠の愛が表現される。やがてこの曲は、他の収録曲と同じように、チェロ、バイオリン、ビオラといった複数の弦楽器のハーモニクスによって美麗な領域へと引き上げられる。崇高な領域まで到達したかどうかは定かではないものの、少なくとも細やかな慈しみの感覚を繊細な音楽性によって包み込もうとしている。


アルバムでは、多彩な感情の流れが反映され、それらは高い領域から低い領域までをくまなく揺曳する。その過程で、暗鬱な感覚が幽玄なフォーク・ミュージックと融合することもある。「The Shadows」は喜びのような感覚とは対比的な憂いがギター/ボーカルによって端的に表現される。こういった感情の高低差は、歌手の四年間を総括するもので、それらを包み隠さず表現したと言える。


本作の音楽は非常に現実的であるが、シリアスになりすぎないというのがある種の狙いとなっているものと推察される。そういった中で、幻想的なひとときが登場することもある。コンサーティーナのようなアコーディオンの原型となる蛇腹楽器を使用した「Interlude」は、ジプシーに関する一コマの映像的なカットを音楽的に体現しているものと推察される。フォークトロニカのようなファンタジックなイメージを作り出し、休憩所のようなシークエンスを設けている。


続く「Caroline」は、フォーク・ミュージックの代名詞的な一曲である。フラメンコのスパニッシュギターの奏法を踏襲して、長調と短調を交互に織り交ぜ、ヨーロッパ的な空気感を作り出す。その上に、キャロル・キングのような穏やかなスキャットを基に、牧歌的なフォーク・ソングを組み上げていく。アルバムの全般的な録音ではプロデューサーの意向によるものか、50年代や60年代のアナログ/ヴィンテージのモノラル風のマスタリングが施される。こまやかなフォークソング「Looking Back」は驚くほどクラシカルな曲風に変貌している。これらのアナログでビンテージな感覚は、ローラ・マーリングのヴォーカルと驚くほど合致し、聞き手を得難い過去の陶酔的な瞬間へと誘う。特に空間処理としてニア(近い)の領域にあるマイクロフォンの録音とマスターが美しい。また、ヴォーカルは、リボンマイク(コンデンサーマイク)の近くで歌われているようだ。これがボーカルのレコーディングに精彩味とリアリズムを付与している。

 

全般的には良質な録音作品であり、聴き応えがあること事実だが、引用的な音楽が多かったこと、独自の音楽として昇華しきれていないこと、結末のようなニュアンスに乏しいのがちょっとだけ残念だった。まだ、これは歌手が音楽の核心を探している最中であることを暗示させるので次に期待したい。つまり、まだ、ローラ・マーリングは、このアルバムですべてを言い終えたわけではないらしく、なにか言い残したコーダの部分がどこかに残されているような気がする。アルバムの終盤は、序盤の音楽性に準ずる牧歌的なフォークミュージックが展開される。「Lullaby」は、エイドリアン・レンカーのようなソングライティングのスタイルを彷彿とさせる。続くタイトル曲「Patterns In Repeat」も素晴らしい曲であることは間違いないが、アルバムの終曲としては少し気がかりな点がある。音楽の世界が最後に大きく開けてこないのである。

 

全体的な構想から判断すると、例えば、成長するものや飛躍するものに若干乏しかった点が評価を難しくしている。それが満場一致とはならず、評価が分かれた要因なのかも知れない。良作であることは明白なのだけれども、最後に音楽が開けていかず、閉じていくような感覚があるのが難点か。JSバッハの引用があるため言及させていただきたいが、例えば平均律は「反復的で規則的な事項」を設けている。しかし、それらをあっけなく放棄してしまうことがある。期待していたアルバムであったが、もう一歩、もう一押し、というところだったかもしれない。

 



86/100

 

 

 

「Your Girl」

 

Manic Street Preachers


Manic Street Preachers(マニック・ストリート・プリーチャーズ)は、15枚目のスタジオ・アルバム『Critical Thinking- クリティカル・シンキング』を2025年1月31日にコロンビアからリリースすると発表した。


ベーシスト/作詞家のニッキー・ワイヤーが「相反するものがぶつかり合うレコード」と表現するこのLPは、2022年の「Know Your Enemy」、今年の「Lifeblood」のリマスター記念バージョン(「Lifeblood 20」と命名)に続く作品で、MSPとSuedeの最近の共同ヘッドラインツアーも収録されている。


アルバムの公式発表と同時に、マニック・ストリート・プリーチャーズは、ニッキーが初めてリード・ヴォーカルを務める代表曲「Hiding In Plain Sight」を発表し、それに伴うUKヘッドライン・ツアーの計画も決定した。

 

 

 「Hiding In Plain Sight」

 

 

 

 

Manic Street Preachers 『Critical Thinking』




マニック・ストリート・プリーチャーズが15枚目のスタジオ・アルバムとそれに伴うUKツアーの詳細を発表した。 Critical Thinking」は2025年1月31日にコロムビアからリリースされ、ベーシスト/作詞家ニッキー・ワイヤーのリード・ヴォーカルを初めてフィーチャーしたニューシングル「Hiding In Plain Sight」は現在(10月25日)発売中だ。


詩人アン・セクストンの一節(「I am a collection of dismantled almosts」)にインスパイアされた「Hiding in Plain Sight」は、「一日中カーテンを引いていたい」という中年期のノスタルジアと、ザ・オンリー・ワンズ、コックニー・レベル、ダイナソーJrの「Freak Scene」のような70年代ロックンロールの名曲を引用した華やかで高揚感のあるメロディーを対比させている。

 

バンドのDoor To The River StudioとモンマスのRockfieldで録音されたこの曲は、ニッキー・ワイヤーがリード・ヴォーカルをとり、ラナ・マクドナーがヴォーカルを加えている。この曲は、バンドと常連のコラボレーターであるデイヴ・エリンガとロズ・ウィリアムズがプロデュースし、シーザー・エドマンズ(セント・ヴィンセント/ウェット・レッグ)がミックスした。

 

「Critical Thinking」は、相反するアイディアがぶつかり合うことを謳歌しており、淡々と魂を探求する歌詞が、バンドがこれまでにレコーディングした中で最も真正面から中毒性のあるメロディに出会っている。


マニック・ストリート・プリーチャーズのニッキー・ワイヤーがクリティカル・シンキングについて語る。

 

 「このアルバムは、相反するものがぶつかり合い、弁証法が解決の道を見出そうとしている。ジェイムズ(ディーン・ブラッドフィールド)による3つの歌詞は例外で、人々、彼らの記憶、言語、信念の中に答えを探し、できればそれを見つけたい。


「音楽はエネルギッシュで、時に陶酔的だ。レコーディングは、時に散発的で孤立したものになり、またある時はバンド編成でのライブ演奏になり、正反対のものが互いに意味をなす。これらの曲の中心には危機がある。懐疑と疑惑の小宇宙であり、内面への衝動は避けられないように思える」



ロンドンのSSW,Wallice(ウォリス)がニューシングル「I Want You Yesterday」を発表した。この曲はドリーミーで遊び心にあふれたきらめくカットで、間もなくリリースされるデビューアルバム『The Jester』(11月15日にDirty Hitからリリース予定)のティーザーとなる。


この曲は、最近のアルバム・プレビュー「The Opener」、「Heaven Has To Happen」、「Gut Punch Love」、「Deadbeat」に続くもので、ウォリスのスマートで自意識過剰なリリシズムの新たな一面を披露している。

 

最終的にアルバムで共演することになるマイキー・フリーダム・ハートとマリネッリとのトリオで書かれた最初のトラックで、彼女は「I Want You Yesterday」を "本当に素晴らしいものの始まり "と表現している。


この曲の構想について、ウォリスはこう語っている。「最初に書いたとき、詩の最初のバージョンはうまくいったとは思わなかったけど、サビのシンプルさが好きで、それを引き立てるものが欲しかったんだ。結局、"どんなアーティストならこのヴァースを書くか "という練習をすることになったんだけど、本当に楽しい曲に仕上がったよ」


Walliceのデビューアルバム『The Jester』は11月15日にDirty Hitからリリース予定。


「I Want You Yesterday」

King Gizzard &The Lizard Wizard


オーストラリアのロックシーンの雄、King Gizzard & The Lizard Wizard(キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード)は新曲「Phantom Island」を発表し、同タイトルの2025年のオーケストラ・ツアーを発表しました。26枚目のアルバム『Flight b741』をリリースしてからわずか2ヶ月。


5月にスタートするこのツアーは、各都市で異なる28人編成のオーケストラをフィーチャーし、指揮者兼音楽監督のサラ・ヒックスが率いる。このツアーはバンドにとって2025年の唯一のライブ日程となる。キング・ギズはその締めくくりとして、コロラド州ブエナビスタのメドウ・クリークで3日間の滞在型キャンプ・イベント、”Field Of Vision”を開催する予定です。 


『Phantom Island-幻の島』について、キング・ギザードのステュー・マッケンジーはこう語っています。

 

ーーハロー・ワールド。前作は10曲だった。あのセッションで20曲録音したことを除けばね。これはその10曲のうちの1曲なんだ。前作よりもさらにパワーアップしているのがわかるはずさ。この曲には、オーケストラが入ってる。ハハハハハ! それでも本当に、生きている喜びを感じるよ。生計のために音楽を作っていること、そして、何年経っても、ここにいることは特権でもある。ギズをずっと聴いてくれている人、ほんとにありがとう。心から愛しています。

 

まだ聴きはじめたばかりなら、カルトへようこそだね。  ーー愛をこめて、パパ・ストゥー xoxoxox

 


「Phantom Island」
Kassie Krut

フィリーのエクスペリメンタル・ユニットKassie Krut(PalmのKasra KurtとEve Alpert、Mothers, Body MeatのMatt Andereggによるトリオ)は先日、Fire Talkと契約を結んだばかり。彼らはセルフタイトルのデビューEPを発表した。Fire Talk Recordsから12月6日にリリースされる。

 

先行リリースされた「Reckless」に加え、ニューシングル「Racing Man」が収録されている。この曲のビデオは以下から。メタリックなハイハットを基に緻密にバンドアンサンブルが組み上げられていく。コーラスやボーカル、ヒップホップのリズム、ドラムンベース風のサンプラー等、遊び心満載のシングルとなっている。

 

「Racing Man」



Kassie Krut 『Kassie Krut』EP

 

Label: Fire Talk

Release: 2024年12月6日


Tracklist:

1.Reckless

2.Racing Man

3.United

4.Espresso

5.Hooh Beat

6.Blood

 

Pre-order: https://found.ee/kassiekrut

 


インディアナポリスのインディーロックバンド、Wishyが新曲「Planet Popstar」を発表した。今年初めのデビューアルバム『Triple Seven』のリリース以来、バンドにとって初めての新曲だ。アウトテイクの曲とのことですが、他の収録曲とはやや毛色が異なる。以下からチェックしてみよう。


「この曲は、どう考えても手の届かないような誰かや何かに憧れる気持ちを歌っている」とバンドのケヴィン・クラウターは「Planet Popstar」について語った。

 

「距離は心を豊かにするという。この曲は昨年末のトリプル・セブン・セッションでレコーディングしたんだけど、結局アルバムには入らなかったんだ」


「Planet Popstar」

 


 

©︎Xaviera Simmons

TV on the Radioのフロントマン、Tunde Adebimpe(ツンデ・アデビンペ)がニューシングル「Magnetic」を発表した。

 

この曲は、彼のソロ・デビュー曲であると同時に、新しいレーベル、サブ・ポップ・レコードからの初リリースでもある。アデビンペは、この曲のミュージック・ビデオも監督しており、以下で見ることができる。


サブ・ポップの共同設立者であるジョナサン・ポネマンは、今回の契約について次のように語っている。「トゥンデ・アデビンペをサブ・ポップのアーティストとして心から歓迎します。彼の加入により、サブ・ポップはより良く、より上品になる! 私たちはサブ・ポップがツンデ・アデビンペのレーベルになるチャンスを得るために、20年以上待ち続けてきました」


TV on the Radioは、デビューアルバム『Desperate Youth, Blood Thirsty Babes』の20周年を記念して、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンでソールドアウト公演を行う。


「Magnetic」

Ai Kakihara
Ai Kakihara


1961年にBBCの電気技術者だったレイモンド・クックによって設立された、ロンドン南東のケント州に本社を構えるスピーカー・メーカー、KEF(ケーイーエフ)。


国内では南青山に店舗を構えるKEFは、"サウンド"を中心としたポッドキャストの配信を今年の5月より開始しています。 番組名は「Listen and believe」で、同番組では毎回ゲストを招いてサウンドに関するあらゆるトピックやテーマについて語り、最大45分間のエピソードを公開してきました。


そしてこの度、2024年11月7日(木)に開催される第8回目となる番組収録のゲストに、長崎出身で現在東京を拠点に活躍中のシンガー・ソングライター/クリエイターである音楽家Ai Kakihiraが決定しました。


Ai Kakihiraは、2部作となるデジタルEPの第1弾『IN』を今年5月にリリースし、先月には自身の代表楽曲ともいえる「IBU」のMuchaMuchaMによるリミックスを発表したばかり。そして来月には待望のデジタルEP第2弾のリリースも控えています。


当日は南青山にあるKEF Music Galleryにて公開収録を実施。トークセッションの後にはスペシャル・ライヴも実施予定なので、ぜひこの機会に彼女の生のパフォーマンスを体感してほしい。


15名限定という限られた招待枠ではあるが、現在番組の公式サイトにて観覧募集を受け付けています。応募は無料、抽選でのセレクトとなっており、受付は2024年11月1日(金) 23:59までとなっているので、気になった人は今すぐ応募しよう!


【KEF】Podcast「Listen and believe」の公開収録


日時:2024年11月7日(木)18:30受付開始(19:00より60分程度収録+Liveを予定)

会場: KEF MUSIC GALLERY

〒107-0062東京都港区南青山5丁目5番6号

東京メトロ表参道駅A5出口徒歩3分


収録へ参加ご希望の方は、下記よりご応募ください。


- 募集人数: 15名

- 参加条件: 下記フォームより応募(myKEF登録(無料)が必須となります)

- 参加費用: 無料

- 締め切り: 2024年11月1日(金) 23:59

- 当選発表: 2024年11月2日(土)当選者へメールでご連絡


応募フォームはこちら




<トラックリスト>

1. INTRO

2.懲りずに信じていいですか

3.ご自愛ください

4.キテレツ

5.エンジョイサマー


<商品情報>  

アーティスト名: Ai Kakihira(カキヒラ・アイ)

タイトル名: IN(イン)

レーベル: Gearbox Records

https://bfan.link/in



◾︎バイオグラフィー

Ai Kakihira。長崎県出身、東京在住の音楽家。ハウスやテクノ、民族音楽、チル・ウェイヴ、ディ スコ、ソウル、ドリーム・ポップなどの要素を巧みに取り入れたサイケデリックな独自のサウンド、 日本語の響きを生かしたメロディと繊細な歌声は耳に残りやすく、豊かな音のレイヤーと緻密な編曲によって、幻想的な世界へと誘う。プロデューサーやリミキサーとしても活動しており、他の アーティストのサポートやドキュメンタリー、広告などの映像作品にも音楽を提供している。 2024年5月、UKのギアボックス・レコーズから初となるデジタルEP『IN』をリリース。10月にはリミックス・シングル「IBU (MuchaMuchaM Remix)」し、さらに11月にはデジタルEP第2弾となる 『MAKUNOUCHI』をリリース予定となっている。

 

Mogwai


スコットランドのポストロックバンドMOGWAIは11枚目のスタジオ・アルバム『The Bad Fire』を発表した。2021年の『As The Love Continues』に続くこのアルバムは、1月24日にロック・アクション/テンポラリー・レジデンスからリリースされる。


アルバムの冒頭を飾るシングル「God Gets You Back」と新曲「Lion Rumpus」が収録されている。長年のコラボレーターであるアントニー・クルックが監督を務めたこの曲のビデオを以下でチェックしてみよう。


モグワイはラナークシャーでプロデューサーのジョン・コングルトンとニュー・アルバムをレコーディングした。『As The Love Continues』をリリースした高揚感の後、その後の数年間は個人的に辛いものだった。とくにバリーの場合は、彼の娘の深刻な家族の病気があった。このアルバムを書き、レコーディングするために再び集まったことは、避難所のように感じられたし、ジョン・コングルトンと一緒に特別なものを作れたと感じています。僕らの音楽が人生の辛い時期を乗り越えるのに役立ったという声をよく聞くが、今回ばかりは僕らにも当てはまると思う」



「Lion  Rumpus」


◾️ポストロックの代表的なアーティストと名盤をピックアップ


MOGWAI 『The Bad Fire』



 Label: Rock Action/Temporary Residence

Release:2025年1月24日


1. God Gets You Back


2. Hi Chaos


3. What Kind of Mix is This?


4. Fanzine Made Of Flesh


5. Pale Vegan Hip Pain


6. If You Find This World Bad, You Should See Some Of The Others


7. 18 Volcanoes


8. Hammer Room


9. Lion Rumpus


10. Fact Boy



Mogwai:


モグワイは1995年にスコットランドのグラスグローで結成された実験的ロックバンド。それ以来20年間、彼らは過去四半世紀で最も重要かつ影響力のあるアンダーグラウンド・アーティストの一組としての地位を確立してきた。


数多くのスタジオ・アルバムの批評的・商業的成功に加え、モグワイの音楽は何十本もの象徴的な映画に登場し、バンドはいくつかの話題作-特にフランスの超自然ドラマ『Les Revenants(帰ってきた)』-の音楽を担当している。モグワイは、パンク・ロックの精神と誠実さを、忍耐強く、映画のような大げさな演出にシームレスに注ぎ込む稀有なバンドである。


Soccer Mommy 『Evergreen』

 

Label: Loma Vista/ Concord

Release: 2024年10月25日


Review


当初、ベッドルームポップシンガーとして登場したサッカー・マミーは、前作『Sometimes , Forever』(2022)では、ブラック・サバス等のゴシック色を吸収したダークな作風を選んだ。最新作ではそれまでの霧が晴れたかのような爽やかなソングライティングに回帰している。良質な曲を作りたいというスタンスはすでにオープニング「Lost」に反映され、事実、ポピュラーとしての一級品の曲が誕生したと言える。従来は、インディーロックやギターロックという形にこだわっていたような印象もあるソフィーアリソンであるが、この新作ではギターのソングライティングという面に変更はないものの、画一的なギターロックからは卒業しつつあるようだ。

 

「プロデューサーを選ぶのに苦労した」というプレスリリース時のコメントは、このアルバムに、クレイロと同じようなチェンバーポップやオーケストラ楽器の要素を加えようとした意向によると推測出来る。アルバムの序盤から、フォークソングに依拠したソングライティングにゴージャスなオーケストラ・ストリング等が登場し、タイトルである青春の雰囲気が醸し出される。また、収録曲の全般には、草原のようなサウンドスケープが登場し、これらのアルバムの印象を力強く縁取るのである。いうなれば、アトモスフェリックな一作とも言えるだろうか。

 

タイトルを見ると分かる通り、シンガーソングライターが今作で探求しようとしたのは、おそらく多感な時代の繊細な感情や叙情性、デジタルの全盛期にはなかった”アナログな感覚”である。端的に言えば、デジタル・ゾンビになることを、アーティストはやめたのだ。それはミッドファイの範疇にあるやや荒削りな質を取るロックソングに現れることがあり、「M」はその象徴的なナンバーだ。そして、ボーカルやギターの繊細なハーモニーから、得難いようなエモーショナルな感覚、ナイーブさ、さらにはエバーグリーンな感覚が立ち上る。アルバムの序盤は、自然豊かな場所で、風が優しく通り抜けていくような爽やかさを感じ取ることが出来る。 そして青春という不思議な感覚と合わせて、これらの爽やかな感覚が重視されている。この曲では、アコースティックギターの多重録音で分厚い音像を作り出し、曲の最後で今流行りのメロトロンを使用し、ノスタルジックな感覚を作り出す。作曲家としての成長が感じられる。

 

最初期のベッドルームポップ、そして、その後のオルタナティヴロックという二つの時期を経て、ソングライターは今まさにミュージシャンとして次の道を歩みはじめているところだ。「Driver」は旧来のファンの期待に応えるようなグッドソングである。ワイルドな雰囲気を重視し、そして力強いソングライターのもう一つのアメリカン・ロック好きの一面が垣間見える。さらに、アルバムの序盤から印象的に登場する草原のようなイメージはその後も維持される。「Some Sunny Day」では、繊細で切なさを併せ持つオルタナティヴフォーク・ソングを聴くことが出来る。ベースの進行との兼ね合いの中で、琴線に触れるような切ないハーモニーを生み出す。近年のソングライターの苦心の跡が見えるような一曲。必ずしも最初期のような音楽を第一義にしていない証拠でもある。結果として、普遍的なポピュラーソングに近くなりつつある。

 

現在、サッカー・マミーはおそらくモダンなベッドルームポップやインディーフォーク、それからロックソングという旧来の楽曲性を踏まえた上で、今後、どのような青写真を描くのかを模索している最中であるように思える。それは例えれば、雲の切れ端が空を多い、少しずつ流れ、別の形に変わっていく様子によく似ている。

 

「Changes」は米国的なフォーク音楽というよりも、ヨーロッパ的なフォーク音楽を志向した結果でもある。部分的にはジョニー・マーのような繊細なギターラインが登場することがあり、これは旧来のソングスタイルには見られなかった新しい要素で、今後の一つの音楽的な指針にもなる可能性があるように思える。

 

しかし、そういった幾つかの新しい試みもある中で、アルバムの音楽性の核心を形成するのは、従来のような聴きやすく琴線に触れる”切ないポップソング”である。発売日前に公開された「Abigail」は本作のハイライトで、ときめくような人生の瞬間を音楽的に表現している。楽曲としても構成やダイナミクスの側面で、より起伏や抑揚のある曲を書こうという姿勢が反映されている。曲の最後では驚くようなサウンド効果が用意されている。これもまた新しい試みの一つ。

 

オルトロックとしてのヘヴィーさを強調した前作に比べると、落ち着いた音楽性が際立ち、安定感のあるアルバムとなっている。そしてどうやら、ハイファイなサウンドのみに焦点が絞られるわけではなく、「Thinking of You」ではスラッカーロックに近いローファイに近いスタイルを選んでいる。しかし、サビの部分では他曲と同じように清涼感に溢れるボーカルが登場する。

 

「Dream of Falling」は、アメリカのスタンダードなポピュラー音楽を基にして、普遍的なサウンドを探求し、心地よいドラムのミュートが、ギター/ボーカルのマイルドな感覚を引き立てる。「Salt In Wound」は、オルタナティヴ・ロックとして聴かせるものがあり、それは明るさと暗さの間を揺れ動くようなボーカルの旋律進行に反映されている。これらが、従来のベッドルームポップのスタイルと的確に結び付けられている。未知の音楽への挑戦は、この後も部分的に登場する。

 

「Anchor」では、ダブやトリップホップ的なサウンドとギターロックの融合に取り組んでいる。続く、本作の最後を飾るタイトル曲は、サッドコアのインディーサウンドからピクチャレスクなフォークソングへと移行する。どちらかと言えば、米国というよりも、アイリッシュフォーク、ケルト民謡に近いダイナミクスを描く。この表題曲でアルバムジャケットのイメージは結実を果たす。最初から分かるというよりも、聴いていくうちに分かってくるようなアルバム。


結論づけると、『Evergreen』はフォーク、ロック、ポップ、オーケストラという複数の方式で繰り広げられる一連の抒情的なストーリーのようでもある。また、従来のサッカー・マミーの作品に比べ、バンドの性質の強い作風となったのは事実だろう。個人的には、米国の短編小説「The Strawberry Season(苺の季節)」(Erskin Caldwell)に近いセンチメンタルな感覚が感じられた。

 


 

 

84/100

 

 

Best Track- 「M」



◾️REVIEW / SOCCER MOMMY 「SOMETIMES,FOREVER」


Fabiana Palladino

 

ソウルミュージックのリバイバル運動をリードする作曲家/歌手/プロデューサーのFabiana Palladino(ファビアーナ・パラディーノ)がニューシングル「Drunk」を”Paul Institution/XL”からリリースした。この新曲は今年発売されたセルフタイトルのデビューアルバムに続く待望の作品である。(ストリーミングはこちら)

 

ファビアーナ・パラディーノの楽曲は、クインシー・ジョーンズ、マーヴィン・ゲイ、ジャネット・ジャクスン等の80年代のブラック・コンテンポラリーのスタイルを採用している。このジャンルはブラックミュージックの商業化に拍車が掛かり、多数のヒット曲が生まれた。同時期、ビリー・オーシャン、ヒート・ウェイヴ、ルービー・ターナーといった有名なブリティッシュ・プロデューサーがUKに台頭したものの、チャカ・カーン等の米国の歌手と比べると小粒な印象もある。 その空白の期間を埋め合わせるべく、UKソウルシーンのニュースターが今年登場した。

 

パラディーノは、プロミュージシャンの家系の人物である。アーティスト名を冠したデビュー・アルバムをリリース後、大型のライヴ・イベントにも出演し、着実にファンベースを広げている。ロンドンのソウルが次世代のものへとアップデートする中、この歌手はアメリカの80年代のソウル、さらに言えば、MTV全盛期のブラック・ミュージックに回帰し、異彩を放っている。


ニューシングル「Drunk」でも80年代のソウル/R&Bへのリスペクトは依然として維持されている。今回の新曲では、ドラム・トラックが前面に押し出され、ファンク(ベース)をムーディーでメロウなブラックコンテンポラリーと結びつけている。ソウルとして聴き応えがあり、ライトなディスコサウンドのように乗りやすく、人を酔わせる不思議な力があり、なおかつメロディーラインも親しみやすさがある。シンガーの代名詞となるニューシングルが登場した。


 

 「Drunk」



 

ロンドンのシンガー・ソングライターは、2ndアルバムの続編となる『You & i are Earth』を発表し、アンナ・ミケとのコラボレーションによる素晴らしいリード・シングル 「Agnes 」を公開した。

「この曲は、アイルランドの民話、セラピーの実践、そしてあるつぶやきにインスパイアされたものです」とサヴェージは説明し、こう続けた。「セラピーでは、瞑想とビジュアライゼーションをした。同時に、セルキーとフェアリーについて読んでいたのだが、このツイートを読んだとき、民間伝承が私自身の治療体験と融合するのを感じた。潜在的な安堵感の後に深い恐怖が襲ってくる瞬間、そして "はぐれたソッド "から解放されるために服を裏返す行為なのだ」

 

この歌は、いやアグネス自身は、私がこのレッスンで感じた魅力と恐怖、喜びと畏敬の念を体現している。いつでもここに来ていいんだよ」という慈悲深さと優しさ、そして「彼女は私を(地面の下に)閉じ込めるんだ...私をここに置いていく」という深い恐ろしさを同時に感じながら、私は多重性を一度に抱え込み、それに耐える方法を学ぼうとしているような気がした。彼女の音楽は大好きだし、彼女のボーカル/歌詞は繊細でありながら幽玄であり、力強くもあり、少し不気味でもある。このワイルドな曲を引き受け、アグネスに命を吹き込んでくれた彼女にとても感謝している。

 

 

「Agnes」

 

サヴェージはまた、『You & i are Earth』は "ある男性とアイルランドへのラブレター "だとも語っている。このアルバムには、クラッシュ・アンサンブルのケイト・エリスとカイミン・ギルモア、ランカムのコーマック・マクディアマダ、そしてミケがヴォーカル、ストリングス、ハルモニウム、ブズーキ、大正琴、クラリネットで参加している。プロデュースはジョン・'スパッド'・マーフィー(ランカム、ブラック・ミディ)。

 

リードシングル「アグネス」の苔むしたリリック・ビデオは、この曲の伝染するような素晴らしさをとらえている。『You & i are Earth』は1/24にCity Slangからリリースされる。

 


Anna B  Savage『You & i are Earth』

Label: City Slang

Release: 2025年1月24日


Tracklist:

1 Talk To Me

2 Lighthouse

3 Donegal

4 Big & Wild

5 Mo Cheol Thú

6 Incertus

7 I Reach For You In My Sleep

8 Agnes

9 You & i are Earth

10 The Rest Of Our Lives

 

Pre-order: https://annabsavage.lnk.to/YaiaEYD




ロサンゼルスを拠点とするAI音楽企業クレイ・ビジョンは、UMGと共同で、AIが生成する音楽のモデルを構築する。


「クレイは、AIが音楽の創造性と人間の芸術性を強化し、成長させることができることを前提とし、新たな製品と経験を提供する、イノベーションの新時代のバックボーンとなるよう自らを位置づけている」とパートナーは述べている。更にクレイを "倫理的なAI音楽企業 "と呼んでいる。


クレイは現在、新しいラージ・ミュージック・モデル(KLayMM)を開発中だ。同社は、「人々の音楽に対する考え方に革命を起こし、新しい直感的な音楽体験を提示する」製品を数カ月以内に発売する予定だ。


「UMGとKlayが共有するビジョンの中核には、最先端の基盤となるAIモデルは、グローバルな文化を形成する芸術性の責任者との建設的な対話とコンセンサスを通じて、責任を持って構築され、拡張されることが最善であるという確信があります。


UMPGとUMGがAnthropic AIと訴訟中であり、またSunoとUdioに対する業界全体のアクションの一部でもあるこの時期に、Klay Visionとの提携が実現した。


「倫理的に、著作権や氏名・肖像権を完全に尊重したAI音楽生成モデルを構築することは、人間のクリエイターに対する脅威を劇的に軽減し、創造性と著作権の将来の収益化のための重要な新しい道を創造し、変革をもたらす最大のチャンスになるでしょう」と発表は続いた。


Klayは、アリ・アティ(音楽プロデューサー、技術専門家)、トーマス・ヘッセ(ソニー・ミュージックエンタテインメントの元社長)、ビョルン・ウィンクラー(グーグル・ディープマインドから間もなく参加)など、音楽とテクノロジーの分野の幹部によって率いられる。同社は、音楽出版社、レーベル、ディストリビューター、その他の権利保有者と協力し、メジャーおよびインディーズ・レーベルを横断して活動する。


クレイは、正確なアトリビューションを含むAI主導の体験とコンテンツをホストするグローバルなエコシステムを開発しており、従来の音楽サービスにおけるアーティストのカタログとは競合しない。


ユニバーサルミュージックのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・デジタル・オフィサーのマイケル・ナッシュは、次のように述べている。


「私たちは、Klayを率いるチームのような起業家と提携し、アーティストとより広い音楽エコシステムのための新たな機会と倫理的な解決策を模索し、著作権を尊重し、人間の創造性に大きな影響を与える可能性のある方法でジェネレーティブAI技術を発展させることに興奮しています。UMGは常に、人間の芸術性を保護しながら、イノベーションを推進し、新しいテクノロジーを受け入れ、起業家精神を支援することで、音楽業界をリードするよう努めてきました」


Klayの創設者兼CEOであるAry Attieは、次のように付け加えた。


「研究は、AI音楽の基盤を構築するために非常に重要ですが、技術は、それが奉仕することを意図している文化に関与しないとき、空虚な器でしかありません。Klayがこだわっているのは、研究の革新性を紹介するだけでなく、それを人々の日常生活にとって目に見えないミッションクリティカルなものにすることです。そうして初めて、AIの音楽は短命のギミック以上のものになるのだ。私たちの偉大なアーティストたちは、常に最新のテクノロジーを受け入れてきました。私たちは、次のビートルズがKlayと共演すると信じています」


・Helen Merrill(ヘレン・メリル)

Armando Peraza, Helen Merrill, Cannonball Adderley, Al McKibbon, Toots Thielmans and Oscar Peterson (reflected in the mirror), Chicago 1957
 

ヘレン・メリル(1930年7月21日ニューヨーク生まれ)は、国際的に知られる女性ジャズ・ヴォーカリストである。そして、ジャズヴォーカルの形式に革新性をもたらした。彼女のくぐもったスモーキーなボーカルは、時を越え、未来の音楽ファンの心を絆すにちがいない。

 

メリルの憂いに充ちたブルージーな歌声はブルージャズの代名詞である。同時に、ジャズだけではなく、米国のカントリーソングを普及させた年代もあった。そして渡辺貞夫(世界のナベサダ)、菊池雅章とのコラボレーションを見ても分かる通り、日本にボサ/ジャズを普及させた偉大な文化的な功労者でもある。日本の音楽業界には、必ずしも器楽曲への親しみが満遍なく浸透しているとは言いがたい。やはり、ボーカル曲が重要な普及のポイントだ。その点を踏まえると、ボーカルを通してジャズというジャンルを広めた功績はとても大きいように感じられる。

 

ヘレン・メリルは1930年、クロアチア移民の両親のもとに生まれた。14歳でブロンクスのジャズ・クラブで歌い始める。16歳になる頃にはフルタイムで音楽を始めた。1952年、メリルはジャズ・ピアニストの先駆者であるアール・ハインズのバンド(Earl Hines Band)に「A Cigarette For Company」を歌うよう依頼され、レコーディングのデビューを果たした。エタ・ジョーンズ(Etta Jones)も同じアルバムでデビューした。


「A Cigarette for Company 」と、それに続くルースト・レコード・レーベルのシングル2枚がきっかけとなり、メリルはマーキュリー・レコードの新レーベル、エマーシーと契約を結んだ。

 

1954年、メリルは最初の(そして今日までで最も高く評価されている)LPを録音し、伝説のジャズ・トランペット奏者クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)とベーシスト/チェリストのオスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford)らをフィーチャーした同名のレコードを出した。このアルバムはブラウンにとって最後のレコーディングのひとつとなり、彼はわずか2年後に交通事故で亡くなった。プロデュースとアレンジは、当時21歳だったクインシー・ジョーンズが担当。ヘレン・メリルの成功により、マーキュリーは彼女と4枚のアルバム追加契約を結んだ。


 


ヘレン・メリルに続く1956年のアルバム『Dream of You- ドリーム・オブ・ユー』は、ビバップ・アレンジャーでピアニストのギル・エヴァンス(Gil Evans)がプロデュースとアレンジを手がけた。『ドリーム・オブ・ユー』でのエヴァンスの仕事は久しぶりのことだった。メリルの作品での彼のアレンジは、その後のマイルス・デイヴィスとの活動の音楽的基礎を築いた。


1950年代後半から1960年代にかけて散発的にレコーディングを行った後、メリルは多くの時間をヨーロッパ・ツアーに費やした。一時期イタリアでアルバムを録音し、ジャズ界の著名人チェット・ベイカー、ロマノ・ムッソリーニ、スタン・ゲッツらとライブ・コンサートを行った。1960年代にアメリカに戻ったメリルは、日本でのツアーを経て1967年に日本に移住。メリルは日本でフォロワーを増やし、その人気は今日まで続いている。日本でのレコーディングに加え、トリオ・レコードのアルバム・プロデュースや東京のラジオ局での番組司会など、音楽業界の他の側面にも関わるようになった。


メリルは1972年にアメリカに戻り、以来レコーディングと定期的なツアーを続けた。その後のキャリアでは、さまざまなジャンルの音楽を試みている。

 

ボサノヴァ・アルバム、クリスマス・アルバム、ロジャース&ハマースタインのレコード1枚分を中心にレコーディングしている。メリルのその後のキャリアで、過去の音楽パートナーに捧げたアルバムが2枚存在している。1987年、メリルとギル・エヴァンスは名曲『Dream of You- ドリーム・オブ・ユー』の新たなアレンジを録音した。『Collaboration-コラボレーション』というタイトルでリリースされ、1980年代のメリルのアルバムの中で最も高い評価を得た。


1987年にはCD『Billy Eckstine sing with Benny Carter』を共同制作し、ミスターBと2曲のバラードをデュエットした。1995年には亡きトランペッター、クリフォード・ブラウンへのトリビュートとして『Brownie: Homage to Clifford Brown』を録音した。


メリルのミレニアム・リリースのレコーディングのひとつは、彼女のクロアチアの伝統とアメリカ人としての生い立ちから生まれた。『Jelena Ana Milcetic, a.k.a. Helen Merrill』(2000年)は、ジャズ、ポップス、ブルースの曲と、クロアチア語で歌われるクロアチアの伝統的な曲を組み合わせた内容。


1960年11月、初の日本公演を行う。1963年にも日本を訪れ、山本邦山等と共演。1966年頃、UPI通信社(アメリカの通信社)のアジア総局長”ドナルド・ブライドン”と2度目の結婚し、それを機に日本に移住した。

 

以後、渡辺貞夫との共演盤『Bossa Nova In Tokyo- ボサ・ノヴァ・イン・トーキョー』、猪俣猛とウエストライナーズとの共演盤『Autumn Love- オータム・ラヴ』、佐藤允彦と共に制作したビートルズのカヴァー集『Helen Meril Sings New York- ヘレン・メリル・シングス・ビートルズ』、当時やはり日本在住だったゲイリー・ピーコックとの共演盤『Sposin'- スポージン』等を発表。その後、ブライドンと離婚し、1972年にはアメリカに帰国して音楽活動を停止するが、1976年にはジョン・ルイスとの共演盤『Jango- ジャンゴ』を発表し、活動を再開。


親日家として知られており、活動再開後は数多く来日、ライブ・コンサート活動をしている。近年では2015年に続いて、2017年4月に最後となる来日公演を行った。


また、1993年、日本映画『僕らはみんな生きている』(滝田洋二郎監督)の主題歌として、「手のひらを太陽に」を英訳してカヴァーした。クリフォード・ブラウンとの共演から40年後に当たる1994年には、『Brownie: Homage to Clifford Brown- ブラウニー〜クリフォード・ブラウンに捧げる』を発表した。『You And The Night And The Music - あなたと夜と音楽と』(1997年)ではジャズ・ピアニストの菊地雅章と共演を果たした。チェコ/プラハで録音された『Lilac Wine- ライラック・ワイン』(2003年)では、エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)の「Love Me Tender」やレディオヘッド(Radiohead)の「You」をカヴァーした。

 

2017年、ブルーノート・トーキョーの公演を最後にメリルはライブ活動から引退している。



■ヘレン・メリルの代表的なアルバム

 

1.『Helen Merrill』(With Clifford Brown)  Verve/UMG  1955


言わずとしれたヘレン・メリルの代表作。ブルージャズの不朽の名盤でもある。トランペット奏者であるクリフォード・ブラウンを従えたバンド編成の作品。(モノトーンのオリジナル盤、青いバージョンのリマスター盤が発売されている。)モノラルながら音がクリアと定評がある。実際的に音質の鮮明さにおいて、1955年(1954年)としては画期的なレコーディングだ。

 

ブラウンは1954年当時、エマーシー・レコード所属の女性ボーカリストのレコーディングに度々参加しており、本作に先がけてダイナ・ワシントンやサラ・ヴォーンとも共演。なお、メリルは本作の録音から約40年後の1994年1月、トランペット奏者を迎えてクリフォード・ブラウンに捧げられた内容のアルバム『ブラウニー〜クリフォード・ブラウンに捧げる』を録音し、同作では本作からの「Don't Explain」、「You'd Be So Nice To Come Home To」「Born To Be Blue」」がリメイクされた。後に大物プロデューサーとなるクインシー・ジョーンズがアレンジを手がけている。

 

ヘレン・メリルは2009年のインタビューにおいて、「私は前からクインシーと知り合いだったわ。その頃の奥さんと一緒に、私の近所に住んでいたのだった。当時のクインシーは新進気鋭の若者でした。全然お金がなかった」と語っている。

 

 『Helen Meril』は、録音現場の空気感が色濃く反映され、「真夜中の不可思議な時間」を感じさせる。つまり、1955年前後のニューヨークの永遠の夜が録音されている。専門的な批評としては、「クール・ジャズとハードバップの融合」(All Music)とも評される。

 

ジャズの代名詞的な「ウォーキングベース」が散りばめられ、ブラウンのしなやかなトランペットを中心とする曲やピアノを主題とする曲がバランスよく収録されている。

 

ハードバップを吸収したブラウンのプレイが押し出されたご機嫌な曲もあるが、このアルバムでは以降のメリルの代名詞ともなるブルージャズの憂愁に充ちたスモーキーなバラードが最大の魅力と言っても良いかもしれない。

 

ジャズの永遠の名曲「Don't Explain」はいわずもがな、ポピュラーとしても十分楽しめる「Yesterdays」、ニューオリンズのジャズを洗練させた「Born To Be Blue」など、聴きどころは多い。リマスターヴァージョンの方が音質や音像もクリアで、どことなく都会的な響きがある。





 

2.『Dream Of You』 The Verve/ UMG  1956


 

本作はヘレン・メリルのスタジオ・アルバムで、ギル・エヴァンスが編曲と指揮を担当した。 この録音は、エヴァンスがマイルス・デイヴィスと1957年に共演した『Miles Ahead』に先立って行われた。1987年、メリルとエヴァンスはアルバム『Collaboration』のため、そして同じ曲の新しいヴァージョンを録音するために再会した。

 

1992年にCD化された『Dream Of You』には、ギル・エヴァンスではなく、ジョニー・リチャーズが編曲・指揮を担当した楽曲が追加収録されている。

 

ヘレン・メリルのキャリアの初期の歌手としての役割は、ニューオリンズ・ジャズのブルーズの文脈をポピュラーの領域にその裾野を広げることにあった。今作では、ビッグバンドの形式をコンパクトにし、ミュージカルやブルージャズ、そしてガーランドの系譜にあるポピュラーの中間にある音楽性が選ばれている。

 

いわば、音楽的な文脈を広げる過程にある作品で、過去と現代のジャズを架橋する役割を果たしている。トランペット等の華やかなイメージがジャズヴォーカルとどのように組み合わされるかという点では、ブロードウェイのミュージカルに近いニュアンスを擁する。ヴォーカルそのものは、上記のセルフタイトルの系譜にあり、ブルージーで淑やかな歌声を披露している。「Any Place I Hand My Hat In My Home」では、かなりベタなブルージャズのスケール進行等も含まれている。古典的なジャズの作法を基にした、茶目っ気たっぷりのアルバムと言える。デビューアルバムよりもライブレコーディングのような位置づけにある作品と称せるだろう。

 

 

 

3.『The Nearness of You』 The Verve/UMG 1958


 

『The Nearness of You』は、ヘレン・メリルの5枚目のスタジオ・アルバムでモンロー的なイメージが打ち出されている。スタンダード・ナンバーの演奏から成るが、音源はミュージシャンの構成が全く異なる二つのセッションのものである。後から行われた1958年2月21日のセッションは、ピアニストのビル・エヴァンスやベーシストのオスカー・ペティフォードなど非常に高名なジャズ・ミュージシャンたちがフィーチャーされている。 デビュー・アルバムの頃のムーディーなジャズに回帰を果たしている。有名なジャズミュージシャンが参加しているが、意外と歌モノとしての要素が強いのが分かる。この後の時代の異なるジャンルのクロスオーバーや、ポピュラーシンガーとしての萌芽をこのアルバムに見出せる。

 

 

 

 

4.『You’ve Got A Date With The Blues』


作品の評価はすべて完璧にこなすことは難しい。何を音楽に求めるのかという点で評価が変わってくる場合があるためだ。また、その点で、できれば多数の評価を基にし判断する必要がある。ヘレン・メリルの代表的な作品は、そのほとんどが50年代後半に集中している。1959年、カントリーとジャズを融合させた『American Country Songs』では、他のジャンルに寄り道をしている。その後、発表された『You’ve Got A Date With The Blues』では、再び本格派のブルージャズへ復帰している。

 

ヴォーカリストとしての経験を積んだためか、少しもったいぶったような歌い方をすることもあり、賛否両論分かれるところかもしれない。ただし、デビューアルバムの頃と比べると、巧緻なボーカルを披露しているのは確か。いわば背後のバックバンドとどのように連携を取るべきなのかを熟知するようになった。

 

依然としてブルージャズのスタイルを多角的に追求した作品である。そして中盤から終盤にかけて聴き応えが増していくという稀有なアルバムの一つである。ヴォーカリストとしては円熟期を迎えており、歌手の全盛期の息吹を捉えられる。なおかつ、ジャズバンドとしての聞き所も用意されている。タイトル曲「You’ve Got A Date With The Blues」での巧みなアンサンブルはメリルを中心とする編成でしかなしえない。「Thrill Is Gone」ではお馴染みのアンニュイな歌声を披露している。さらに、本作の中盤では、ブルージャズとしてうっとりさせる箇所もある。とりわけ、ジャズアンサンブルとして最高の地点に到達した「Blues In My Heart」は、トランペット等のホーンに加えて、エレクトリック・ギターの演奏が加わり、豪奢な印象がある。また、以降の年代のクロスオーバーの要素の萌芽も見出すことが出来る。例えば、フレンチポップからの引用も顕著で、「Lorsque Tu M' Embarasses」はニューヨークのポピュラーにイエイエの要素をもたらしていた最初の事例なのではないだろうか。いわばファッションブランドの全盛期のパリとニューヨークの文化的な融合という側面も捉えることが出来るはず。

 

この後、ヘレン・メリルは、ボサノヴァやフレンチポップ、アートポップ等、クロスオーバーに積極的に取り組むようになった。この歌手の音楽的な表現は一つの地域や音楽に限定されることなく、ワールドワイドなものとなっていく。いわば世界音楽のようなニュアンスを持つに至る。

 

 

 

5.『Parole e musica』RCA 1960   *2012年にリマスター化

1959年にヨーロッパにわたったヘレン・メリルはイタリアに居を構え、62年まで滞在した。その間に行ったレコーディングには、『SMOG』のサントラ盤に収録されている 2曲などがありますが、これは、『SMOG』のためのレコーディングから遡ること2年、 1960年の10月から11月にかけてローマでRCAに録音したリーダー作。不朽のジャズソングにフルートのおしゃれな演奏がキラリと光る。

 

日本では『ローマのナイトクラブで』というタイトルで知られている。このアルバムで、メリルはサントラ盤同様ピエロ・ウミリアーニと共演している。ウミリアーニの編曲とピアノ、ニニ・ロッソのトランペット、ジノ・マリナッチ のフルートなども光っていますが、何といっても絶頂期のメリルが魅力全開。モノクロ映画的な雰囲気を持ち合わせるヘレン・メリルの裏の名盤。心地よいジャズをお探しの方に最適。映画のモノローグもジャズソングの間に収録されている。







グレイトフル・デッドの創設メンバーでベーシストのフィル・レッシュが死去した。84歳でした。このニュースは、ミュージシャンの公式インスタグラム・ページを通じ、彼が今朝 "安らかに"、"家族に囲まれ、愛に満ちて "亡くなったことを明らかにする投稿で伝えられました。


「フィルは彼の周りのすべての人に計り知れない喜びをもたらし、音楽と愛の遺産を残しました」と投稿は続いた。


「私たちは、皆様がこの時、レッシュ家のプライバシーを尊重されるようお願いいたします」


作曲家スティーヴ・ライヒと共演し、イタリアのアヴァンギャルド奏者ルチアーノ・ベリオに師事した古典的な訓練を受けたトランペッターであったリーシュは、1965年にピザ屋で彼の友人ジェリー・ガルシアがフロントマンを務めるバンド、ウォーロックスのベース奏者としてスカウトされた。ベースを学んだことがなかったにもかかわらず、彼は承諾し、ウォーロックスは瞬く間にグレイトフル・デッドへと進化した。


ワーナー・ブラザースからリリースされたデッドの初期のアルバムでは、通常レッシュの名前がクレジットされていた。バンドがプロデューサーのデイヴ・ハッシンガーと別れた後、1968年の2ndアルバム『Anthem of the Sun』のミックスを手伝った。また、"Dark Star"、"The Eleven"、"St.Stephen "など、デッドのコンサートで長時間のジャム・セッションの定番となった楽曲の多くを共作している。


デッドのサウンドが他のどんなロックンロールとも一線を画しているのは、レッシュのベースかもしれない」と、ニック・パウムガーテンは2012年に『ニューヨーカー』に寄稿した。「彼は繰り返すことを好まず、彼はルートとビートを中心に演奏し、メロディックな対位法を演奏したりした。幼少の頃、彼はリード・ベリーやハンク・ウィリアムスよりも、エリオット・カーターやチャールズ・アイヴスをよく聴いていた。


1970年の『Workingman's Dead』(その後、ガルシアは作詞家ロバート・ハンターと共に彼らの曲の大半を作曲した)でよりルーツ志向に転じたことで、デッドに対するレッシュの影響はそれほど顕著ではなくなったが、彼はガルシア、ギタリストのボブ・ウィアード、ドラマーのビル・クロイツマンと共に、30年間演奏し続けるデッドのラインナップの不変の構成要素であり続けた。


ベーシストはまた、2015年のFare Thee Wellコンサートでデッドが正式に眠りにつくまで、デッドの死後の世界にも数多く参加しました。(レッシュは、オールマン・ブラザー・バンドのオテル・バーブリッジがベーシストとして参加した後日の『Dead & Company』には参加しなかった)