Weekly Music Feature: Perila

Perila


実験音楽界に新たな奇才が登場。サンクトペテルブルク生まれでベルリンを拠点に活動するサウンド&ビジュアル・アーティスト、DJ、詩人、パフォーマーのペリラがオスロのスモールタウン・スーパーサウンドからセカンド・アルバムを本日リリースした。21の個別のコンポジションからなるフォーマット別の2枚組アルバムで、内外のリズムを活用することに狙いを定めている。


メディア(媒体)という点では、『Intrinsic Rytmn- イントリンシック・リズム』は基本的にダブル・アルバムである。しかし、70年代のクラシックなコンセプチュアル・アルバムというよりは、ロイヤル・トラックスの『ツイン・インフィニティブス』やR!!!S!!!の『レイク』のような90年代のアウトサイダー・エクスペリメンタル・ダブル・アルバムに近い。長尺のサイケデリックな探求を避け、強力で凝縮された恍惚とした内省のブロックを、5秒のブレイクを挟むことで音のパレットを浄化させながら聴かせる。


その結果、リズミカルなアンビエント、スペクトラルなエレクトロニクス、そして親密なヴォーカルが、意図的な要素と偶発的な要素、環境から生成されたリズムとメロディ、抽象的なメロディと具体的な言語、そして人生の複雑さと精神的な再生の間で、とらえどころのないバランスを保っている。


冒頭から幽玄なシンセワークと、重なり合う声と重なり合う牛の鈴のフィールド・レコーディング(「Sur」)によってシーンが設定され、精神的な意味と身体的な幸福を生み出す音楽が常に押し合いへし合いしている様子をリスナーに観察させる--故ミルフォード・グレイヴスのホリスティックな芸術作品とは似て非なるものだ。


「Nia」や「Ways」のようなトラックでは、テープのヒスノイズ、小音量のうなり音、リズミカルな小声のパチパチというテクスチャーが、遠くのヴォーカルと変調する鐘の音に一定の瞑想的な土台を提供し、音世界を浸透させる。これらは、ASMRを誘発するような音響、前後するメロディー、幻覚的な雰囲気を伴っており、微妙な音の作用が大気の地平へと果てしなく広がっていく。


「Angli」、「Supa Mi」、「Fey」といった曲では、ヴォーカルのミニマリズムを削ぎ落として、エレガントなクリックやカット・パーカッションと組み合わせることで、より親密で内面的なサウンドスケープを作り出している。  具体的には、アルバムの最後の4分の1では、無防備で飾り気のないサウンド・メモのようなレコーディングの中で、内と外の緊張感が再び現れる。そこでは、足音のペースやマイクのノイズのような操作(「Darbounouse Song」)、あるいは日用品の自発的なパーカッションや遠くの歌声が、アルバムのクローズである「Ol Sun」のように、私たちが住んでいながら見過ごしがちな空間や物事の共鳴周波数を探り当てようとする。


結局のところ、この2枚のレコードは互いに対話するように考えられており、内的世界と外的世界の間で音楽的な会話をしながら一緒に演奏することができる。さらに、4つのビニールの側面の区分は、土、魂、空気、地面として、なる段階、物質、人生の質感を表している。


この意味で、『Intrinsic Rhythm』は、外界の生態系が、日常生活の周波数やテンポの中に、メロディーやリズムの絶え間ない、そしてしばしば混沌とした源を提供していることを思い出させてくれる。内面的には、これらは意識や内臓の無形のリズムと組み合わさっている。ペリラは、受動的に知覚される音と、そこから能動的に生み出される音楽のバランスを正確に探っている。


ペリーラ自身の言葉を借りれば、「このアルバムに取り組む過程で、私自身の本質的なリズム、つまり私の中心であり拠り所であるリズムは、ゆっくりとしたものであることがわかった。スローダウンすると、すべての魅惑的な美しさに気づくことができ、音の世界を違った形でとらえることができる。私にとって、この作品を作ることは、自分が本当は何者なのか、そしてこの世界で自分がどうあり得るのかを知り、受け入れるという、まさにスピリチュアルな旅だった」


さらに、レーベルの個人的なメモは適切な洞察と考えに基づいており、謎めいたベルリンのアーティストの実像の一端を明らかにする。


「ペリラは私にとってとても特別な存在で、サウンドクラウドで彼女の最初の2、3曲を聴いたとき、とても特別な人の音楽がここにあるとすぐに理解した。彼女はとても強いヴィジョンを持っていて、私たちレーベルは何も干渉したり手助けしたりする必要はない。彼女のビジョンは完全だ」


「私にとって、このアルバムはアウトサイダー・ダブルと呼ばれるもので、90年代初期の偉大なアウトサイダー・ダブル・アルバムと同じ感触とアプローチを持っている。Royal Truxの『Twin Infinitives』、Dead Cの『Harsh 70s Reality』、R!!!Sの『Lake』など。これらのアルバムは、70年代ロックの誇大妄想の古典的な2枚組アルバムに中指を立て、2枚組アルバムの奇妙なバージョン、新しい定義を作り上げる。公平を期すなら、ミニットメン、ヒュスカー・デュー、ソニック・ユースはすべて、70年代のビッグ/エピックな恐竜と90年代のアウトサイダー・ダブル・アルバムの間に橋を架けたと言わねばならない。とにかく、『Intrinsic Rhythm』も同じような感触を持っている。長さ64分、21曲が4面に渡って収録され、それぞれの面にタイトルとテーマがある」


「彼女のアート、ボディー・ムーヴメント、自然からの影響。このアルバムは、ペリラことアレクサンドラ・ザハレンコの人間としての姿を音で擬人化したもの。私にとって、この音楽こそペリラなのだ。タルコフスキーの『鏡』の想像上のサントラのように。深く、心に染みるほど美しい」

 


『Intrinsic Rhytmn』- Smalltown Supersound (92/100)


 

オーストラリアの実験音楽作家、ローレンス・イングリッシュ(Lawrence English)が最新アルバムの発表とともにコメントとして添えた「音楽構造を建築のように解釈する」という考えは、今日日の実験音楽、あるいはアンビエントのような抽象的な音楽を解釈する上で不可欠な要素となる。アルバム全体を堅牢なビザンチン建築、あるいはモザイク模様を施したイスラム建築のように解釈することが、「フルアルバム」という不可解な形式を解き明かすのに重要になってくる。そもそも、音楽なるリベラルアーツの一貫にある媒体は、哲学や数学よりも往古から存在し、「黄金比」のような原初的な学問の理想形態を表すものであった。それが宗教や民族の儀式や祭礼のための音楽という中世の通過儀礼の段階を経たのち、現代の趣味や趣向の多様化により、「娯楽の一貫」と見なされるようになったのは時代の流れと言えるだろうが、無数の学問の中で音楽が最初に存在し、その後、哲学や数学や建築が出てきたのを考えると、結局、音楽というのがすべての学問の先頭に位置し、最も先鋭的な分野であることは自明なのである。

 

最近、最もヒップなジャンルの一つであるヒップホップは、ようやくアンビエントの尻尾をつかまえて、その背中に追いついたわけだが、アンビエントも負けじと次の段階に進みつつある。これらのデッドヒートが終わることは考えづらい。今、最もトレンドな音楽は間違いなくアンビエントで、これらが当初はダンスミュージック界隈のアーティストやプロデューサーから少しダサいとみなされていた2000年以前の傾向を考えると、時代の変化が顕著であることが窺える。その理由を挙げるとするなら、一つはホーム・レコーディングで高品質の音楽を制作することが可能になったこと。加えて、Ableton、NI、各種のソフトウェアの進化、専門的なレベルで音楽制作が可能になったことだろう。無論、以前はラップトップやPC等でアナログの音響機器の配線やMIDIを介さずに打ち込みの音楽を制作することは困難を極めたが、今やスタジオ・レコーディングのレベルの録音システムを構築することは、より一般的になったと言える。

 

ジェンダー論を比較対象に出すまでもなく、エレクトロニックプロデューサーが90年代から00年代を通して、男性を中心に発展してきたことを考えると、 2010年代後半くらいから、Anna Roxanne、Malone、Haloを中心とする女性プロデューサーが活躍するようになったのは、これもまた時代の流れを象徴付けていると言える。そして、00年代以降には、いるにはいたが、少し影の薄かった黒人のエレクトロニックプロデューサーの活躍が最近になって目立ってきたのも、新しい兆候です。特に、女性的なエレクトロニックプロデューサー/DJは、すべてレフトフィールドに属するとは言えないのだが、一般的に柔軟な考えを持っているため、本来は音楽という形式からかけ離れたような媒体(映画、文学、詩)から、音楽のヒントや種をすんなり見つけてしまう。このあたりは、例えば、ダニエル・ロパティンのようなプロデューサーにも共通しているが、白人男性の音楽として発展してきたダンスミュージックは、おそらく2025年前後で一つの分岐点を迎えるような気がしている。


例えば、1990年代からテクノシーンを牽引してきた主要なプロデューサーの一部はおそらく、このことになんとなく気がついており、制作を続けたり、あるいは中断させたりしながら、新しいシーンの流れを読んでいる最中なのではないかと思われる。そして、2020年代始めには、ドローン(* 現代音楽発祥の形式で、元はスコットランドのパグパイプが発祥。ラモンテヤングなどが有名)という吹奏楽の形式を弦楽器のディケイとダイナミクス(減退と増幅)から音楽全体を再解釈しようという潮流が出てきたことは、すでにこのサイトの購読者であれば、ご承知のことと思われる。


そして、問題は「ドローンの次はなにが出てくるのか?」という点であるが、ロシア出身のプロデューサーの新作を聞けば分かる通り、すでに新しいものが出かかっている。少なくとも、アンビエントは次なるステップに進みつつあり、複数のグループに枝分かれし始めているようだ。殊、このアルバムに関して言うのであれば、ボーカルアート、ビートルズのようなアートポップ、クラシック・ミュージック、アヴァンギャルド・ジャズの融合を発見することが出来る。これは最早、70年代のブラック・ミュージックや、90年代のロックやメタルで盛んであった「クロスオーバーの概念」が極限に至った事実を示し、水が蒸発し揮発する瞬間にもよく似ていて、何らかの臨界点を迎えつつある兆候を、はっきりとした形で暗示しているのである。



例えば、Black Midiとしてお馴染みのジョーディー・グリープさんが新しい音楽を探しているようなのだが、新しい表現というのは、苦心して出てくるわけでもないし、頭を悩ませて出てくるものではないと思われる。新しいものが出てくる瞬間というのは、異質な文化で育った人、一般的な音楽の流れから見て、異端的な背景を持つ人、また、その生活環境にある人などが従来とは異なる概念を表沙汰にするということである。つまり、これは、奇を衒って音楽をやっているということではないのである。例えば、この事例は、第二次世界大戦後の70年代、80年代の東西分裂時代のドイツにあり、トルコからの移民が多い危険地帯の地下から登場した「インダストリアル・ノイズ」という形式が当てはまる。そして、何らかの表現を規制されたり、直接的な政治的迫害を受ける市民から発生した前衛音楽の形式なども、この事例に当てはまる。つまり、ファッション、スポーツ、ないしは一般的な情報誌やファッション誌、もしくは主要メディアで紹介されるような表面的なカルチャーとは異なる領域に属する「文化の裏側」から新しい表現や形式が台頭するのである。例えば、現在、ベルリンを拠点に活動するPerilaは、実際の音楽を聴くと分かるように、前衛音楽や実験音楽に憧れているわけでもなく、ましてや奇をてらっているわけでもなく、スノビズムにかぶれているわけでもない。チャット・ベイカー、坂本龍一、アルヴァ・ノトといった、アーティストがこよなく愛する音楽が、何らかの形でアンダーグラウンドミュージックとして乗り移り、異端的な音楽が生み出されたと見るべきなのだ。これは先にも言ったように、意識して作られたものではなく、「他の人のようにやろうとしたら、異端的な音楽が出来てしまった」という感じではないかと思う。一般的な人々とは異なる文化の背景や生活形態、そして考えが複雑に絡み合って出来たと見るべきだろう。

 

それでは、このアルバムのどこが新しいのだろうか。21曲という大容量なので、ダブルアルバム(実質的にはクアドラプル)として見た上で、主要なトラックを事例にあげて説明していきたい。

 

インドネシアのガムランの打楽器のような神秘的なパーカッションで始まり、70年代の埃を被ったアナログシンセサイザーで発生させたような古典的なアンビエントのテクスチャーがその後に続く。レーベルの説明では、「70年代のプログレッシヴロックのアルバムに中指を立てる」と説明されているが、表向きに聞こえるサウンドは、Anna Roxanneのようにハイファイであるが、実際的に音楽の奥行きとして感じられるのは、ブライアン・イーノの最初期(ロキシー・ミュージックの後)のシンセ音楽のようなローファイな手法である。これは、具体的にはアウトプットの手法が現代的なものであるだけで、実際に展開される音楽は古典的なのである。

 

実際的に、シュトックハウゼンの古典的なトーン・クラスターの手法を用いながら、丹念にサウンドスケープを描いていく。そして、現代的なプロデューサーと同じように、自らのボーカルを一つのシークエンスとして解釈し、それらをアンビエントとして解釈するという手法は続く「3-Sepula Purm」に示されている。ボーカルをLaulel Haloのようにカットアップで重ね、重層的なハーモニーとして組み上げていく。そして、それは新しいゴスペルやクワイアの形として表側に現れる。更にその根本となる音楽に演出的な効果を与えるのが、 オシレーターを使用した中音域の軋むようなノイズである。当初は、神秘的なアンビエントのような印象を持つ楽曲が漸次その印象を変化させていき、いわばアヴァンギャルドとしての要素を発揮するのである。

 

 その後、このアルバムはとらえどころのない抽象的な音楽が続いている。「4-Nia」、「5−Ways」の二曲に関しては、それほど現代のアンビエントと大きな違いはない。しかし、同時にアルヴァ・ノトの精妙なテクスチャーやノイズからの影響がうかがえ、アルバムの序盤とは対象的に、ハイファイなエレクトロニックとしての印象を強める。これらは、Abletonのように、電気信号の配線を図面的に解釈する電子音楽としてアウトプットされたものではないかと推測される。そして空間や建築内にこだまする空気感という概念は、リゲティ・ジョルジュが最初に確立したもので、アンビエントの副題のような意味を持つが、続く「6-Lish」ではこの概念が示されている。例えば、サグラダファミリアのような高い尖塔を頂く教会、ないしはエジプトの王家の谷のような場所で、観光客の会話の合間を通して、風が渡る音や建築の中にある内部構造から何らかの空気の流れのようなものを聞き取ったり、何らかの神秘的な息吹やエーテルのようなものを感じたりすることはないだろうか。この曲では、そういった普段の意識では聞き取りづらい神秘的な瞬間を、電子音楽という側面から表現しようとしている。これらは「体験としての音楽」という、近年稀に見るような新しい概念が付与されていることが分かる。


例えば、「トーンの変調」という概念を通じて、一つの実験音楽の変奏形式を組み上げるアーティストに、スウェーデンのEllen Arkbroがいる。Perilaの新作アルバムの中盤に収録曲には、例えば、ギターやベース、ドラム等の通常の演奏方法では実現しえないものが展開され、それは音の発生音の後に生ずるトーンという側面を抽出し、それらを減退させることなく、持続音として継続させる。これは、音の発生学の異質な側面を捉えている。普通であれば、音は発生した後、ピークを迎え、徐々に減退の瞬間を迎えるが、減退する直前の音を抽出し、それらを持続音として継続させる手法が取り入れられている。一般的にはドローン音楽の手法の一貫に属し、機械的な音楽に聴こえるかもしれないが、反面、これが自然の音響学から乖離しているとも考えづらい。例えば、建築内にこだまする空気の音の流れ等は、大気や空気、素粒子、原子という元素がこの世に偏在するかぎり、あるいは建築物が物理的に取り壊されないかぎり、それらの音響を永久に持続させるからである。 例えば、「8-Nim Aliev」ではトーン・クラスターにより、この手法が確立され、続く「9-Mola」は、ラスコーの洞窟を描写音楽として刻印したような不可思議なアンビエント/ドローンの手法を確立させている。そして、これらのアルバムの第一部は、実験音楽として秀逸であるにとどまらず、音楽の永遠の瞬間を捉えたかのようでもある。さらに、後者の楽曲では、ピアノのスニペットが登場し、音楽の神秘的な雰囲気を引き立てる。第一部は「Lym Riel」、「Air Two Air」にて、ひとまず終了する。前者は、ヒス・ノイズを用いた古典的なアンビエントで、Loscil、Chihei Hatakeyamaの系譜に属する作風でもある。後者は、エレクトロニック寄りの楽曲で、中音域のグリッチノイズを強調させ、それらのノイズの位相(PAN)を転移させながら、ビート、リズムを組み上げ、緻密なグルーヴを作り上げていく。

 

アルバムの一枚目では、アンビエントを中心としたエレクトロニックが展開される。続く二枚目では、ボーカルアートを中心としたエレクトロニックが繰り広げられる。 そして、第二部の方はボーカルアートを駆使したストリーテリングの音楽としての意義を持つ。クワイアやメディエーションの領域に属するものから、ビートルズがアートポップ時代に遊びの一貫として試したもの、メレディス・モンクの系譜にある現代音楽の領域に属するものまで幅広い。例えば、「Angli」では、メレディス・モンクの『Atlas』の手法を用い、洞窟のような音響効果を用い、奥行きのあるアンビエントを形作り、その中でペリラ自身がオペラ風のボーカルを披露する。しかし、明確なボーカルというわけでなく、ペリラのボーカルはモンクと同じように、器楽的なテクスチャーの一貫として解釈され、フルートや笛のようにその空間内に響き渡るのである。さらに、続く「Supa Mi」を聴くと分かる通り、ペリラの声は明確な言語の意味を持つことはきわめて少ない。 それはジャズのスキャットと同じく、言葉以上の伝達手段として確立され、例えば、ウィストリング(口笛)に近いような意味を持つ。それはオーストラリアのモリー・ルイスの口笛と同じように、スキャットやハミングそのものが言葉や会話の代わりを果たすのである。

 

果たして、言語学の範疇には属さない、これらの歌から何らかの言語性を読み取ることが出来るのだろうか。私自身はそこまでは全然出来なかったが、少なくとも、音楽の構造としては、続けて聴いていると、物語性を持ち始めて、また、その物語の端緒が音楽に合わせて広がっていったり縮んだり、物語が一人でに歩き始めるような印象を持つに違いない。この後のいくつかの収録曲「Sneando」、「Fey」、「Lip」では、メレディス・モンクのようなパフォーミング・アーツの領域に属する「演劇としてのボーカル」、そして、アンビエント・プロデューサー、Grouper(リズ・ハリス)、Ekin Fillのようなアンビエント・フォークとドリーム・ポップを結びつけた次世代のアヴァンギャルド・ミュージックという形を以って展開されていくことになる。尚且つ、それらの抽象音楽としての形式は、おとぎ話や童謡的な意味合いを帯び、もしくは古典的なギリシャ神話の音楽による復刻といった、アーティスティックな印象を携えながら繰り広げられていく。これらは、ペリラの類稀なる美的センスと、ゴシック的な概念の融合の瞬間を見出せる。無論、そういったアンダーグランドミュージックの複数の形式が組み込まれた後、野心的な試みが行われることもある。ペリラは、イタコや霊媒者のようになり、「Message」なるものを地上に降ろそうとする。これは非常に斬新で奇妙な試みである。

 

 

アルバムの全般では、洞窟や教会のような広い奥行きのあるアンビエンスを想定した録音が際立つ。一方、本作の最終盤はデモトラックのようなクローズの指向マイクを用い、近い空間の録音の音響が強調されている。

 

この後の「Darbounouse Song」、「Note On You」、「She Wonder」、終曲となる「Ol Sun」 は、基本的にはアカペラのボーカルトラックで構成される。「Darbounouse Song」は唯一、足音などのサンプリングを用いたボーカルトラックで、物語的な前衛音楽の意義を保持しているが、以降の三曲は、かなり異端的である。とりとめのない思いを日記のような形で録音したボイスメモのようでもあり、ヒップホップのミックステープのようでもある。

 

これらは、パティ・スミスやブリジット・フォンテーヌのような、ポピュラーの前衛音楽の側面を改めて見つめ直すかのようでもある。少しだけ散漫になりかけた作風だが、円環構造を用いて、全体的な構成を上手くまとめあげている。一曲目と呼応するクローズ「Ol Sun」では、鐘とパーカッションを用いた前衛音楽に再び回帰している。しかし、始まりと終わりでは、音楽そのものの印象がまったく異なることに気がつく。ガムランのように始まったこのアルバムは、クローズでは、チベットのマントラのような民族音楽に縁取られている。それらの雑多な音楽性、あるいは文化性は、このアルバムの最後になって花開き、ロシア正教のミサ等で聴くことが出来る鐘の音のサンプリングで終了する。音楽に明確な意味を求めても仕方がないかもしれない。しかし、このアルバムを聴くかぎり、新しい何かが台頭したことをひしひしと感じる。

 

 



本日、ニューカッスル/アポン・タインの5人組、ナッツ(Knats)が新曲「Tortuga (For Me Mam)」を発表。UK気鋭のモダンジャズグループとして今後の活躍に大いに期待したい。今作は、彼らにとってギアボックス・レコードからの初リリースとなる。(各種ストリーミングはこちら)


2024年はナッツにとって、ジョーディー・グリープ(ブラック・ミディ)のUKツアーでのサポートや、ソールドアウトした“ジャズリフレッシュド”のヘッドライナー、同じくソールドアウトしたジャズ・カフェでのStr4ta(ストラータ)のサポート、BBCプロムスでの演奏など、灼熱の1年となった。そんな彼らは現在R&B界のレジェンド、エディ・チャコンのバック・バンドとして英国ツアーの真っ最中。


ニューカッスル出身の2人の親友、スタン・ウッドワード(ベース)とキング・デイヴィッド=アイク・エレキ(ドラム)を中心とするナッツは、洗練されたアレンジ力で、力強いメロディ、ダンサブルなグルーヴを持つジョーディー(ニューカッスル生まれの)・ジャズを制作している。その熱狂的なエネルギーは、Spotifyのプレイリストに特集されたり、The GuardianやJazzwiseなどのメディアから賞賛されるなど、羨望の的となっている。


新曲「Tortuga (For Me Mam) 」では、シネマティックなストリングスに、彼らのダンスとエレクトロニックな感性から生まれたファンクなベースラインとブレイクビートのドラミングが組み合わされている。筋肉質なアップテンポのリズムが、鮮やかなトランペット・ワークと器用な鍵盤をフィーチャーした複雑なアレンジで踊っている。


楽曲のテーマは、ウッドワードが母親へのトリビュートとして、また全てのシングルマザーに敬意を表して書いており、非常にパーソナルな作品である。同楽曲についてバンドは、「スタンとキングは共に影響力のあるたくましい女性に育てられ、この曲にはシングルマザーの強さと犠牲に対する賞賛と感謝の気持ちが込められている 」と語っている。

 

ライブ動画のスニペットの試聴はこちら:  https://m.youtube.com/shorts/GlhKUA3WB_A


そして「Tortuga (For Me Mam) 」は、すでに今月初旬に発表された〈Beams Plus〉とロンドン発のスケートブランド〈PALACE SKATEBOARDS〉との初コラボレーション・ラインの広告に使用されており、CMではナッツが生演奏で楽曲を披露している。ナッツのトランペット、ピアノ、ストリングス、ドラム、ベースの絶妙なジャズアンサンブルに注目したい。


現在、ツアーに大忙しのナッツだが、11月17日(日)には”ロンドン・ジャズ・フェスティバル”に、ベースメント・ジャックスのサイモン・ラトクリフ率いるヴィレッジ・オブ・ザ・サンと出演することが決定している。

 

 

 「Tortuga (For Me Mam) 」

 

 


Knats Biography:

 

ニューカッスル・アポン・タイン出身の2人の生涯の親友、スタン・ウッドワード(ベース)とキング・デイヴィッド・アイク・エレキ(ドラムス)が率いるクインテットで、それぞれのルーツであるジャズ、ドラムンベース、ハウス、ゴスペルから派生したダンス・ミュージックを作っている。  

 

シーンに登場して間もない彼らは、すでにSoho Radio、BBC Newcastle、WDR3によって認知され、Spotifyの ‘All New Jazz’プレイリストに選曲された他、‘JazzFresh Finds’のカヴァーも飾っている。

 

さらに、「BBC Introducing North East」からも絶大な支持を受けている。  今月初旬に発表された〈Beams Plus〉とロンドン発のスケートブランド〈PALACE SKATEBOARDS〉との初コラボレーション・ラインの広告に楽曲「Tortuga (For Me Ma)」が使用された。

Photo Credit: Harrison Reid & Visuals Direction: Niki Zaupa


グラスゴー出身のアンビエント・デュオ、ケーヒル//コステロ(Cahill // Costello)による3年ぶりとなる待望のニューアルバム『II』が、本日レコード(数量限定)、及び、デジタル・フォーマットでリリースされた。良作なので実験音楽がお好きな方はぜひチェックしていただきたい。


クラシックの訓練を受けたエクスペリメンタルなギタリスト、ケヴィン・ダニエル・ケイヒルと、スコットランドの著名なジャズ・イノベーター、グレアム・コステロから成るこのデュオにとって今作は、CLASH、Worldwide FMのサポートを得た2021年のデビュー作『オフワールド』に続く。


ニューアルバム『II』は、エフェクトのかかったギターを基調としたアンビエントな雰囲気と絶妙なグルーヴを取り入れたドラミングが、時折、催眠術のようなテープ・ループを経由しながら織り交ざっている。

 

スコットランド王立音楽院で出会った2人は、ジャズとクラシックという異なる分野を専攻していたにもかかわらず、ミニマリズムと即興演奏への情熱を分かち合っていた。

 

ある時はグレアムのバックグラウンドであるジャズ的素養を感じさせ、またある時は、彼が幼少期に聴いて育ったインストゥルメンタル・ロック、ポスト・ロック的な激しさも感じさせる。アルバムは、デュオがデビュー作の成果をさらに発展させた、広大で野心的な作品となっている。


ニューアルバムのリリースを記念し、デュオは「JNGL」(ジャングル)と題された新曲を公開した。このトラックは、ループと熱烈なアップテンポのドラミングを駆使して、ダンス・ミュージックと表現力豊かなアンビエント調の微妙な融合を生み出している。プログレッシヴジャズを経過したドラミングとポストロック/音響系の緻密なギターワークがキラリと光る一曲となっている。


「JNGL」について彼らは次のように話している。

 

「この曲はアルペジオのコード進行と、キーセンターの中で対位法を重ねたループ・ソロ・ギターから生まれたんだ。ギターのループが決まったら、90年代のジャングル/ドラムンベースに通じるビート/グルーヴを探した。そしてノスタルジックなサウンドとフィーリングを出すために、クラシックな165bpmのテンポに収まるようにした。結果、クラシックなスタイルをポストモダンにアレンジし、独自のアプローチを加えた」




Cahill // Costello - JNGL (Audio Video)

 

 

 

今回のアルバムについては、こう語っている。


「『II』の作曲と制作のプロセスは、『オフワールド』と変わらない部分も多かったが、まったく違う部分もあった。最初のアイデアのほとんどは、以前と同じように即興で、その場でライヴ録音したものだ。最も大きな違いは、デュオとして、また友人として、より親密になったこと。『オフワールド』は、音楽的にも個人的にも、お互いを理解し合うための素晴らしいきっかけになったと思う。その結果、僕たち2人が信じられないほど誇りに思っているアルバムができた。『オフワールド』のセッションから”作曲プロセス”が終わることはなく、最終的にこのアルバムになるものへと、時間をかけてゆっくりと融合していったんだ」


「その結果、このアルバムにはじっくりと腰を据えて書いたり、リハーサルをしたりする時間はなかった。どこか特別な場所から生まれた音のアイデアや、決して強制されることのないアイデアの共有が行ったり来たりしていた。今、思えば、それは特別なことだった。こうして一緒に音楽を演奏するというのは、繊細なコンセプトなんだ。ある意味では、音楽と友情を称えるために、できるだけ一緒に曲を書いたり演奏したりしたいと思うものだが、同時に、新鮮で創造的なアイデアを長続きさせるため、”井戸の水を飲み干す”ようなことはせず、必要な分だけ飲むことも必要なんだ。『II』は、僕たちの継続的な発展、僕たち自身の創造的なプロセスのより良い理解、お互いの意見に耳を傾け、友人として、デュオとしてより親密になることを表現している」


Cahill // Costello 『Ⅱ』 


【アルバム情報】

アーティスト名:Cahill//Costello(ケーヒル//コステロ)

タイトル名:II(2)

発売日:発売中!

形態:2LP(140g盤)

バーコード:5060708611163

品番: GB1599


<トラックリスト>

Side-A

1. Tyrannus

2. Ae//FX

Side-B

1. Ice Beat

2. Sensenmann


Side-C

1. JNGL

2. I Have Seen The Lions On The Beaches In The Evening


Side-D

1. Lachryma

2. Sunbeat



【クレジット】

Kevin Cahill: electric guitar, effects, tape loops

Graham Costello: drums, percussion FX

All tracks composed by Kevin Cahill and Graham Costello

Recorded on location and mixed by Luigi Pasquini, Dystopia Studios, Glasgow.

Mastered and cut by Caspar Sutton-Jones at Gearbox Records



アルバム『II』レコード (数量限定)発売中!

https://store.gearboxrecords.com/products/cahill-costello-ii-cahill-costello


https://cahillcostello.bandcamp.com/album/cahill-costello-ii-2



デジタル・アルバム『II』配信中!

https://bfan.link/cahill-costello-ii



Cahill // Costello Biography:

 

スコットランドはグラスゴー出身のアンビエント・デュオで、メンバーは、ギタリストのケヴィン・ダニエル・ケーヒルとドラマーのグレアム・コステロ。

 

両者の出会いは2012年の英国王立スコットランド音楽院であった。ジャズとクラシックという異なる専攻を学んだ二人だったが、さまざまなジャンルにわたるミニマリズムと即興への相互の情熱を共有していた。この友情と共有された情熱は、最終的にケーヒル//コステロの結成に至る前に、グラハムとケヴィンがさまざまなソロ・プロジェクトで協力することにつながった。

 

彼らのプロセスは、ミニマリズムとアンビエント・ミュージックの要素を融合し、過度の複雑さとは無縁の、非常に感情的なサウンドの世界を構成している。その音楽制作は忍耐と明晰さに基づいており、リスナーの心に正直に語りかける。2021年9月、ファースト・アルバム『オフワールド』をリリース。そして、2024年11月には3年ぶりとなるニュー・アルバム『II』を発表した。

Lawrence English
©︎T Pakioufakis


Lawrence English(ローレンス・イングリッシュ)はレーベルオーナー、そして個性的なプロデューサーとしての表情を併せ持ち、Loscil、小瀬村晶といったエレクトロニックプロデューサー、作曲家との共同制作の経験を持つ。アンビエントシーンの最重要人物の一人である。

 

ローレンス・イングリッシュの待望の新作アルバム『Even the Horizon Knows Its Bounds』を発表した。1月31日に自身のレーベル”Room 40”からリリースされる。試聴は以下から。


「場所とは、進化する主観的な空間の経験です。空間は、私たちが感覚を生み出す方法によって形作られ、瞬間瞬間に創造する場所の機会を保持する。空間の建築的、物質的な特徴はある程度一定しているかもしれないが、そこに満ちている人、物、雰囲気、出会いは永遠に記憶の中に崩壊していく」


この新作アルバムを紹介しながら、アーティストはこう語っている。


「私は、音が建築に取り憑いていると考えたいのです。音の非物質性がもたらす、本当に不思議な相互作用のひとつです。それはまた、太古の昔から私たちを魅了してきたものでもある。私たちの祖先が、洞窟のような暗い聖堂の中で、驚きと安らぎを感じながら互いに呼び合っていた爽快感を想像するのは難しくありません。

 

「今日、音が空間を占める方法、いわゆる”リキッド・アーキテクチャー”は、機能性や形に支配されがちではあるが、同じように多くの驚きをもたらしている。しかし、そのような制約を越えて、音が物質世界の中でどのように作用するかは、私たちの音楽理解の根底に存在するものであり、さらに、私たちがサウンド・アートのカノンとして知っている広い教会の中にあるものなのだ。」

 

アルバムの最初のリードシングルはタイトル曲で、建築的な構造性を示唆するミュージックビデオが公開されている。まるで不動産の広告映像のようでもあるが、ローレンス・イングリッシュの楽曲からは音楽の近未来性、そして音楽の知られざる一面が暗示されているように思える。

 


「Even the Horizon Knows Its Bounds(expert Ⅱ)」


 

 

Lawrence English 『Even The Horizon Knows Its Bounds』



Label: Room 40

Release: 2025年1月31日


Tracklist:

1.ETHKIBI

2.ETHKIBII

3.ETHKIBIII

4.ETHKIBIV

5.ETHKIBV

6.ETHKIBVI

7.ETHKIBVII

8.ETHKIBVIII

9.Even The Horizon Knows Its Bounds (excerpt I)

10.Even The Horizon Knows Its Bounds (excerpt Ⅱ)

11.Even The Horizon Knows Its Bounds

 


リーズを拠点に活動するグループ、HONESTYは、待望のデビュー・アルバム『U R HERE』からの最新曲、推進力のあるシングル「TORMENTOR」をリリースした。


この曲は、欺瞞に満ちた関係を反映したもので、ヴォーカリストのイミ・マーストンが陶酔を約束することで引き戻され続けている。このトラックは、催眠術のようなシンセサイザーの波の中で展開し、マーストンの操作されたヴォーカルは、ささやき声と叫び声を交互に繰り返す。「TORMENTOR」は、HONESTYが最もダークでありながら最もアンセミックであることを示しており、このトラックはすでに、高い評価を得ているグループのライブショーで際立っている。


このニューシングルについて、イミは次のように語っている。「Tormentorは、みんなと最初に取り組んだ曲のひとつで、おそらくヴォーカルを決めるのに一番時間がかかったと思う。ヴォーカルは簡単に歌えるものもあれば、もっと手間のかかるものもあり、一線を越えるには少し距離が必要なこともある。この曲はHONESTYの核となる部分だし、僕にとってはHONESTYの一員になるための序章のようなものだから、最終的に納得のいくものができてよかった」



「Tormenter」



 


元ネイキッド・アイとして知られるフランス系イギリス人のシンガーソングライター、Frenchie(フレンチー)はセルフタイトルのデビューアルバムの制作を発表した。

 

ジャズ・ギタリストのフェミ・テモウォ(SAULT、エイミー・ワインハウス)がプロデュースしたこのアルバムは3月28日に自主制作盤としてリリースされる。この発表を記念して、アーティストはフリーダ・トゥーレイがヴォーカルをとるトラック「Love Reservoir」を公開した。


「"Love Reservoir "は、関係の感情的な貯水池に燃料を補給し、活性化させることを求めるというテーマを叙情的に探求しており、困難を克服し、愛とつながりを育むという願望を象徴している」とフレンチーは声明で述べている。

 

「フェミと私は一緒に曲を書き、才能ある友人のフリーダ・トゥーレイにこの曲に参加してもらいたいと思った。彼女がヴォーカルを録音しに来てくれた時、この曲は全く新しいレベルに昇華された」


Frenchieには、鍵盤奏者のルーク・スミス、KOKOROKOのドラマー、アヨ・サラウ、ホーネン・フォードとフライデー・トゥーレイのバッキング・ヴォーカル、そしてアーロン・テイラー、アレックス・メイデュー、クリス・ハイソン、ジャス・カイザーが楽器とプロデュースで参加している。

 

 

「Love Reservoir」



Frenchie 『Frenchie』

Label: Frenchie

Release; 2025年3月28日


Tracklist:


1. Can I Lean On You?

2. Searching

3. Love Reservoir [feat. Frida Touray]

4. Werewolf

5. Almost There

6. Distance

7. Shower Argument

8. It’s Not Funny

9. Que Je T’aime

10. Sapphires & Butterflies

シェフィールド出身のオルタナティヴポップアーティスト、Gia Ford(ジア・フォード)が、9月にリリースしたデビューアルバム『Transparent Things』以来となる新曲「Earth Return」を携えて帰ってきた。


このシングルは、『Transparent Things』と同じセッションでレコーディングされたもので、場所、帰属、そして時の流れという概念を、優しさと深みをもって探求している。この新曲についてジアは、"自分が死ぬときに最も愛する場所にいたいという願望から生まれた "と語っている。


続けて彼女はこう説明する。「私の場合、それは祖父母が住んでいたダービーシャーのホープ・ヴァレーのあたりで、そこにいるときはいつも、すべてに安らぎを感じるの。あたかもそこで死んだら、それが正しいことで、私の魂は家族の中にいて、子供の頃の私の魂もそのあたりを走り回っているような気がするの」


「Earth Return」



ニューヨークの伝説的なシンガーの隠れた名曲を再発見しよう。今週末(11月8日)、サブ・ポップは『Like Someone I Know - ライク・サムワン・アイ・ノウ』をリリースします。マーゴ・ガリヤンの1968年の名盤『Take a Picture』にオマージュを捧げた12曲入りコンピレーション『A Celebration of Margo Guryan』。本日、サブ・ポップは発売前の最後のシングルとして、ケイト・ボリンジャーがカバーした「What Can I Give You」を公開しました。オルガンをフィーチャーした遊び心満載のバロックポップ・ソングです。(ストリーミング試聴はこちらから)

 

この12曲入りコンピレーションには、マーゴ・プライス、TOPS、クレイロ、ラヒル、ジューン・マクドゥーム、ムンヤ+カイナル、フランキー・コスモス+グッドモーニング、ケイト・ボリンジャー、パール&ザ・オイスターズ、ベドウィン+シルヴィ、バリ、エンプレス・オブといった現代アーティストによる再解釈が追加されている。『Like Someone I Know:A Celebration of Margo Guryan』のリリースは、マーゴの3回目の命日に合わせて行われる。アルバムの収益の一部は、廉価のリプロダクティブ・ヘルス・サービスの提供と提唱に寄付される。


『ライク・サムワン・アイ・ノウ』は、12組の異なるアーティストがそれぞれの旅に出ることで、ガリヤンの歌の強さを強化している。核となる部分は常に揺るぎない。McDoomは「Thoughts」の下で静寂とハーモニーを伸ばし、まるで彼女の弧を描くヴォーカルの下でダブ・プレートの上で回転しているかのよう。ラヒルは "Sun "をハルモニウムのドローンと魅惑的なパーカッシブの刻みの上で展開させ、超現実的なものに対するグリヤンの興味を掘り下げる。

 

フランキー・コスモス、及び、グッド・モーニングは、「Take a Picture」でカントリー調のシャッフルを聴かせ、絡み合ったヴォーカルが完璧なロマンチックさでリズミカルなスキップに乗る。ここ数十年の間に、ガリヤンがいかに優れていたか、好みの潮流が変わる中で彼女の曲がいかに揺るぎないものであったかが、次第に明らかになって来る。『ライク・サムワン・アイ・ノウ』は、その絶対的な証明であり、ガリヤンの作品の永続的な妥当性と輝きの証である。


「What Can I Give You」

 Fucked Up 『Someday』

 

Label: Fucked Up Records

Release: 2024年11月1日

 


Review

 

カナダ・トロントの伝説的なハードコアバンド、Fucked Upは、一日で録音された『One Day』、今夏に発売された『Another Day』に続いて、『Someday』で三部作を完結する。今作は、エレクトロニックとハードコアを融合させた前二作の音楽性の延長線上に属するが、他方、ハードコアパンクのスタンダードな作風に回帰している。

 

それと同時に、ボーカルの多彩性に関しても着目しておきたい。例えば、『One Day』と同じように、ハリチェクがリードボーカルを取っている。4曲目の「I Took My Mom To Sleep」ではトゥカ・モハメドがリードボーカルを担当している。他にも、8曲目では、ジュリアナ・ロイ・リーがリードボーカルを担当。というように、曲のスタイルによって、フォーメーションが変わり、多彩なボーカリストが登場している。従来のファックド・アップにはあまりなかった試みだ。

 

アルバムの冒頭では、お馴染みのダミアン・アブラハムのストロングでワイルドなボーカルのスタイルが激しいハードコアサウンドとともに登場する。しかし、そのハードコアパンクソングの形式は一瞬にして印象が変化し、バンドの代名詞である高音域を強調した多彩なコーラスワークが清涼感をもたらす。バンドアンサンブルのレコーディングの音像の大きさを強調するマスターに加え、複数のコーラス、リードボーカルが混交して、特異な音響性を構築する。少し雑多なサウンドではあるものの、やはりファックド・アップらしさ満載のオープニングである。


また、従来のように、これらのパンクロックソングの中には、Dropkick Murphysを彷彿とさせる力強いシンガロングも登場する。2010年代からライヴバンドとして名をはせてきたバンドの強烈かつパワフルなエネルギーが、アルバムのオープニングで炸裂する。しかし、今回のアルバムでは、単一の音楽性や作曲のスタイルに依存したり固執することはほとんどない。目眩く多極的なサウンドが序盤から繰り広げられ、「Grains Of Paradise」では、ボブ・モールドのSugarのようなパンクの次世代のメロディックなロックソングをハリチェクが華麗に歌い上げている。一部作『One Day』の9曲目に収録されている「Cicada」で聴くことができた、Sugar,Hot Water Musicのメロディックパンクの原始的なサウンドが再び相見えるというわけなのである。

 

一見すると、ドタバタしたドラムを中心とする骨太のパンクロックアルバムのように思えるが、三曲目の後、展開は急転する。アナログのディレイを配した実験的なイントロを擁する「I Took My Mom To Sleep」では、ガールズパンクに敬意を捧げ、トゥカ・モハメドがポピュラーかつガーリーなパンクを披露する。察するに、これまでファックド・アップがガールズ・パンクをアルバムの核心に据えた事例は多くはなかったように思える。そしてこの曲は、バンドのハードコアスタイルとは対極にある良質なロックバンドとしての性質を印象付ける。また、2000年代以前の西海岸のポップパンクを彷彿とさせるスタイルが取り入れられているのに驚く。さらに、アルバムはテーマを据えて展開されるというより、遠心力をつけるように同心円を描きながら、多彩性を増していく。それはまるで砲丸投げの選手の遠心力の付け方に準えられる。

 

「Man Without Qualities」は、ロンドンパンクの源流に迫り、ジョン・ライドンやスティーヴ・ジョーンズのパンク性ーーSex PistolsからPublic Image LTD.に至るまで--を巧みに吸収して、それらをグリッターロックやDEVOのような原始的な西海岸のポスト・パンクによって縁取っている。彼らは、全般的なパンクカルチャーへの奥深い理解を基に、クラシカルとモダンを往来する。

 

最近では、米国やカナダのシーンでは、例えば、ニューメタル、メタルコア、ミクスチャーメタルのような音楽やコアなダンスミュージックを通過しているためなのか、ビートやリズムの占有率が大きくなり、良質なメロディック・ハードコアバンドが全体的に減少しつつある。しかし、ファックド・アップは、パンクの最大の魅力である旋律の美麗さに魅力に焦点を当てている。「The Court Of Miracles」では、二曲目と同じように、Sugar、Husker Duのメロディック・ハードコアの影響下にある手法を見せ、それらをカナダ的な清涼感のある雰囲気で縁取っている。

 

ミックスやマスターの影響もあってか、音像そのものはぼんやりとしているが、ここでは、アブストラクト・パンク(抽象的なパンク)という新しい音楽の萌芽を見て取ることも出来る。つまり、古典的なパンクの形式を踏襲しつつ、新しいステップへと進もうとしているのである。そして、パンクバンドのコーラスワークという側面でも、前衛的な取り組みが含まれている。

 

例えば、続く「Fellow Traveller」は、メインボーカルやリードボーカルという従来の概念を取り払った画期的な意義を持つ素晴らしい一曲である。この曲では、ファックド・アップのお馴染みのストロングでパワフルな印象を擁するパンクロックソングに、ライブステージの一つのマイクを譲り合うかのように、多彩なボーカルワークが披露されるのである。いわば、この曲では、バンドメンバーにとどまらず、制作に関わる裏方のエンジニア、スタッフのすべてが主役である、というバンドメンバーの思いを汲み取ることが出来る。これはライヴツアー、レーベル、業界と、様々な側面をよく見てきたバンドにしか成し得ないことなのではないかと思われる。


そして、全般的なパンク・ロックソングとして聴くと、依然として高水準の曲が並んでいる。彼らは何を提示すれば聞き手が満足するのかを熟知していて、そして、そのための技術や作曲法を知悉している。さらに、彼らは従来のバンドの音楽性を先鋭化させるのではなく、これまでになかった別の側面を提示し、三部作の答えらしきものを導き出すのである。音楽はときに言葉以上の概念を物語ると言われることがあるが、このアルバムはそのことを如実に表している。

 

「In The Company of Sister」は報われなかったガールズパンクへの敬愛であり、それらの失われた時代の音楽に対する大いなる讃歌でもある。パンク・シーンは、80年代から女性が活躍することがきわめて少なかった。Minor Threatの最初期のドキュメンタリー・フィルム等を見れば分かる通り、唯一、アメリカのワシントンD.C.の最初期のパンクシーンでは、女性の参加は観客としてであった。つまり、パンクロックというのは、いついかなる時代も、マイノリティ(少数派)を勇気づけるための音楽であるべきで、それ以外の存在理由は飽くまで付加物と言える。近年、女性的なバンドが数多く台頭しているのは、時代の流れが変わったことの証ともなろう。

 

ファックド・アップは、いつも作品の制作に関して手を抜くことがない。もちろん、ライヴに関してもプロフェッショナル。一般的なパンクバンドは、まずこのカナダのバンドをお手本にすべきだと思う。「Smoke Signals」では軽快なパンクロックを提示した上で、三部作のクライマックスを飾る「Someday」では、かなり渋いロックソングを聴かせてくれる。このアルバム、さらに、三部作を全て聴いてきた人間としては、バンドの長きにわたるクロニクル(年代記)を眺めているような不思議な感覚があった。 ということで、久しぶりに感動してしまったのだ。

 

 

 

88/100

 

 

 




◾️ 【Review】  FUCKED UP 『ONE DAY』



ausのキュレーションのもと、音楽のもう一つの魅力を探求する魅惑的なサウンドイベントが開催される。12/7(土)、東京国立博物館・庭園内の四つの茶室「春草廬・転合庵・六窓庵・九条館」において、サイレント・リスニングが開催される。


今月新作「Fluctor」をリリースする日本人エレクトロニカ・アーティストaus、レフトフィールド・アンビエントにおける最重要アーティストUlla、Houndstoothからのリリースなどで知られるロンドンのコンポーザーHinako Omoriによる3組が、ausによるキュレーションのもと、茶室における静寂と不在・作法から着想を得た新作の音楽を公開する。イベント詳細は下記よりご覧下さい。


※ Ulla、Hinako Omoriは当日会場におりませんので、ご了承ください。

※ イベントは30分ごとの予約制となります。 


■ aus, Ulla, Hinako Omori「Ceremony」


日程:12/7(土)

会場:東京国立博物館・庭園内 茶室「春草廬・転合庵・六窓庵・九条館」

時間:11:30〜14:30


参加アーティスト:

aus

Ulla

Hinako Omori



aus




東京を拠点に活動するアーティスト。 10代の頃から実験映像作品の音楽を手がける。 テレビやラジオから零れ落ちた音、映画などのビジュアル、言葉、 長く忘れ去られた記憶、 内的な感情などからインスピレーションを受け、 世界の細かな瞬間瞬間をイラストレートする。 長らく自身の音楽活動は休止していたが、昨年15年ぶりのニューアルバム「 Everis」をリリース。同作のリミックス・ アルバムにはJohn Beltran、Li Yileiらが参加した。Craig Armstrong、Seahawksほかリミックス・ ワークも多数。


Ulla




ベルリンを拠点とする実験音楽家。Ullaのアルゴリズミックなテクスチャは精密なアンビエントとジャジーなエレクトロニクスの間を揺れ動く。彼女の作品はエレクトロ・アコースティックやグリッチに焦点を当てており、Quiet Time、Experiences Ltd、West Mineral Ltd、Motion Ward、Longform Editions、3XLといった人気レーベルからリリースされている。現行のアンビエント〜アヴァンギャルドにおける最重要アーティストの一人。


Hinako Omori





横浜出身、ロンドンを拠点に活動するコンポーザー。クラシックピアノを習い、サウンドエンジニアリングを学ぶ。クラシック、エレクトロニカ、アンビエントを取り入れたサウンドスタイルで、Houndstoothから2枚のアルバムをリリース。キーボーディスト / シンセシストとして、宇多田ヒカル、Ed O’Brien(レディオヘッド)、Floating Pointsなどのツアー、レコーディングに参加。ロンドン・ナショナル・ギャラリー、テート・モダン、バービカン・センター、ICA、Pola Museumなどパフォーマンス多数。


Haley Heyndrickx 『Seed Of a Seed』

 


 

Label: Mama Bird Recordings Co.

Release: 2024年11月1日

 

Review

 

ポートランドのギタリスト、ソングライター、ヘイリー・ハインデリックスは、三作目のアルバムで自らのフォーク/カントリーの形式を完全に確立している。ヘイリー・へインドリックスにとって音楽制作の動機となるのは、内向きの感覚であり、ナビゲーションであり、みずからの内的な声に静かに耳を傾け、そして純粋な音楽として昇華することにある。ニュース、ソーシャルメディア、または絶え間ない自己疑念など、私達を取り巻く喧騒から身を守るためのシェルターでもある。しかし、それらは決して閉鎖的にならず、開放的な自由さに満ちあふれている。

 

アルバムは、いくつかのテーマやイメージに縁取られているという。花(ジェミニ)、空想(フォックスグローブ)、森(レッドウッズ)、友人(ジェリーの歌)という地点を行き来するかのように、へインドリックスの歌とアコースティックを中心とするギターは鬱蒼とした森の中に入り、果てしない幻想的な空間へとナビゲートする。その導き役となるのは、妖精ではない。彼女自身の内的な神様であり、それらの高次元の自己がいわば理想とする領域へと誘う。

 

へインドリックスの音楽はオープニングを飾る「Gemini」から明確である。フィンガーピッキングのなめらかなアコースティックギター、ナイロン弦の柔らかな響き、そして何よりへインドリックスのソフトな歌声が心地良い空気感を生み出す。ツアー生活でもたらされた二重の生活、時間の裂け目から過去のシンガーが現在のシンガーを追いかけようとする。過去の自分との葛藤やズレのような感覚が秀逸なフォーク・ミュージックによって描出される。しかし、御存知の通り、「数年前の誰かは明日の誰かではない」のである。その違いに戸惑いつつ、彼女は自分の過去を突き放そうとする。しかし、その行為はどうやら、歌手にとっては少し恥ずべきことのように感じられるらしい。背後に遠ざかった幻影をどのように見るべきなのだろうか。そういった現在の自己を尊重するためのプロセスやステップが描かれている。秀逸な始まり。

 

フォーク・ミュージックから始まったアルバムはディラン、ガスリー、キャッシュ以前のハンク・ウィリアムズのような古典的なカントリーへと舵取りを果たす。「Foxglove」はトロットのリズムに軽快なアコースティックギターのフィンガーピッキングを乗せ、軽快な風のような感覚を呼び起こす。カントリーの忠実な形式を踏襲したアルペジオを見事であり、歌手の歌うボーカルの主旋律とのカウンターポイントを形成している。古典的なカントリーソングには、時々、ストリングスのレガートが重なり、ロマンチックな雰囲気を帯びる。鬱蒼とした森の中を駆け抜けるかのようである。曲の最後は、神妙なコーラスが入り、ほど良い雰囲気を生み出す。

 

その反面、タイトル曲では、アップストロークのアコースティックギターでしんみりとしたフォーク・バラードを提供している。この曲でもナイロン弦が使用されており、裏拍を強調するリズムカルなギター、そして艷やかな倍音がこの曲の全体的なアトモスフィアを醸成している。美しいビブラートを印象付けるへインドリックスのボーカル、そして、こまやかなフィドルの役割をなすバイオリンの音色が、これらのフォークミュージックの音楽性をはっきりと決定付けている。この曲では、フォーク/カントリーに加え、60、70年代のUSポピュラーの音楽的な知識が良質な音楽性の土台を形作っている。例えば、ジョニ・ミッチェルの『Blue』のような。

 

 

「Mouth Of A Flower」は、古きアメリカへの讃歌、または、現代の音楽として古典的なフォーク/カントリーが、どのような意義を持つのかを探求したような一曲である。古い時代のプランテーション、農場、農夫等、失われたアメリカの文化への幻想的な時空の旅を印象付ける。続く「Spit In The Sink」は、序盤の収録曲の中では、かなり風変わりな一曲である。低音部のリズム的な役割を担うギター、高音部のリード/アルペジオを中心とするアコースティック/エレキギターの演奏をベースにし、インディーロック、アヴァンフォーク、ジャズ、ララバイのような形式が込められている。金管楽器(フレンチホルン)の導入は、ジプシー音楽の要素を付け加え、ヨーロッパ大陸を遍歴するユダヤ人の古典的な流しの楽団の幻影を呼び覚ます。そして、基本的に、歌手は内的な感覚をリリスティックに吐露しているが、その反面、内にこもったようなビブラートを披露する。ヘイリーの声には、派手さはないけれど、見事なボーカルの技巧が披露されている。いわば「大人向けのフォーク/カントリー」といった感じとして楽しめるに違いない。

 

 

ヘイリー・ヘインドリックスのフォーク音楽には、ハンク・ウィリアムズのような古典的なアメリカの民謡よりも更に古い移民としての音楽性が何らかの鏡のように映し出される。とりも直さず、これらはニューヨークから北部に何千キロにもわたって連なるアパラチア山脈に住んでいたイギリスやアイルランドからの移民が山小屋でフォーク・ミュージックを演奏していた。


これらの共同体の中には、実は、黒人の演奏家もいたという噂である。少なくとも、ヘイリーの音楽は、一世紀以上の米国の隠れた歴史を解き明かすかのように、長い文明の足取りをつかもうとする。「Redwoods」では、CSN&Y、サイモン&ガーファンクルといった60、70年代のフォークロックの形式を通じて、その中にそれよりも古い20世紀の詩の形式を取り入れる。これらは民謡特有の歌唱法ともいうべきで、ビブラートの音程をわざと揺らし、音程そのものに不安定な要素をもたらす。アメリカの古い民謡などで聴くことが出来る。しかし、これらは、ケルト民謡やノルウェーのノルマンディ地方などの民謡にもあり、有名な事例では、スイスのヨーデルのような民謡の形にも登場する。いわば「ユーラシア大陸発祥の歌唱法」である。



そういったアメリカの歴史が英国の清教徒の移民や、その船にオランダ人も乗っていたこと。アステカ発祥の南アメリカとの文化、メキシコ等の移民の混交が最初の自由の女神のイメージが作られていったことを、このアルバムは顕著に証明付ける。「Redwoods」は単なる歴史的なアナクロニズムではなく、この国家の音楽的な文化の一部分を巧みに切り取ったものなのである。更に、この曲には、アステカ文明の「太陽の神様への称賛」を読み解ける。しかし、それらの自然崇拝は一体どこへ消えたのだろうか。それよりも権威的な崇拝が21世紀以降のアメリカ国家の全体を支配してきたのは事実であろう。アニミズム(自然信仰)は、一般的な宗教より軽視される場合が多いと思われるが、現代人が学ぶべきは、むしろアニミズムの方かもしれない。これは物質文明が極限に至った時、この言葉の意味がより明らかになることと思われる。


アルバムの後半では、聴きやすいフォークミュージックが提供される。「Ayan's Song」では、ジャズのスケールを低音部に配し、フォークジャズの範疇にある旋法を駆使しながら、親しみやすい音楽を生み出す。この曲でも、小節のセクションの合間にシンコペーションの形で伸びるヘイリーのボーカルは美しく、ほんわかした気分を掻き立てる。この曲には融和の精神が貫かれている。分離ではなく、融和を描く。言うのは簡単だが、実行するのは難しい。しかし、この曲は音楽や芸術が、政治のような形態よりも部分的に先んじていることを証左するものである。

 

ヘイリー・へインドリックスのギターの演奏は、フラメンコギターに系統することもある。「Sorry Fahey」では、二つのアコースティックギターの演奏を組み合わせ、見事なフレットの移動を見せながら和音を巧みに形成していく。ヘイリーのボーカルはイタリアのオペラに近い歌唱法に近づく場合もあり、西欧的な音楽性を反映させているのは事実だろう。 また、へインドリックスは、現代テクノロジー、消費社会の中で、現代人が自然主義からどれほど遠ざかっているかを示す。それは人類が誤った方向から踵を返す最後の機会であることを示唆するのだ。

 

この世のあらゆる病は、自然主義から遠ざかることで発生する。時間に追われること、自分を見失うこと、倫理にかき乱されること。人類はほとんどこういったものに辟易としているのだ。「Jerry's Song」は、現代人が思い出すべきもの、尊重すべきものが示唆されている。この曲は、開けた草原のような場所の空気、あるいは山岳地帯の星空の美しさを思い出させてくれる。

 

アルバムのクローズ「Swoop」も素晴らしい一曲。子供の頃にはよく知っていたが、年を経るにつれて、なぜか少しずつ忘れていくことがある。現代人は何を求めるべきなのか、そして私達が重要としているのは本当に大切なことなのだろうか。改めて再考する時期が来ているのである。

 

 

 

84/100

 


 


・河瀨直美監督映画の音楽も担当したベイルート出身の世界唯一の"微分音トランペッター"、イブラヒム・マーロフ、今月末、最新アルバムを提げての来日公演を実施!

Ibrahim Maarouf


トランペット奏者の父、ナシム・マーロフが開発した4分音が出せる”微分音トランペット”を操る世界唯一のアーティスト、Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ)。7歳の頃からトランペットでクラシック音楽やアラブ音楽を学んだ彼の音楽は、西洋的なポップ感覚、高度なジャズの即興、そしてアラブ音楽を武器としている。


これまで19枚のアルバムを発表し、グラミー賞に2度ノミネート。さらにはフランスのグラミー賞といわれる”ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュージック”で史上初の全編インスト・アルバムでの受賞という快挙を果たしている。


スティング、エルヴィス・コステロ、デ・ラ・ソウル、アンジェリーク・キジョーや、シャロン・ストーンといったビッグネームと共演経験のある、まさに世界的スター・プレイヤーである。2017年にはカンヌ国際映画祭「コンペティション部⾨」に選出され、エキュメニカル審査員賞を受賞した、河瀨直美監督がオリジナル脚本で挑んだラブストーリー『光』の映画音楽を担当。河瀨直美監督、主演の永瀬正敏、⽔崎綾⼥、神野三鈴、藤⻯也とともにカンヌのレッドカーペットにも登場した。


そんなイブラヒムは今年9月に最新アルバム『ミケランジェロのトランペット』をリリースする。ヒップホップ/エレクトロ/ポップ/ジャズ/ロックを網羅するそのユニークな音楽性が特徴の彼らしく、今作にはニュー・オーリンズのスター、トロンボーン・ショーティにデトロイトのダブルベース奏者エンデア・オーウェンズ、今年7月に逝去した伝説的コラ奏者のトゥマニ・ジャバテ、その息子シディキ・ジャバテなど、多くのゲストが参加。ジャケット写真は1925年の故郷レバノンに実在したファンファーレ・バンドで、その中にはイブラヒム自身の祖父も含まれているのだとか。そしてアルバムのサウンドはまさに「ファンファーレ」という表現がピッタリの、聴けば踊り出さずにはいられない、お祭りや式典で大盛り上がりしそうな楽曲ばかり。

 


「Love Anthem 」 MV  *新作アルバム『Trumpets of Michel-Ange』に収録

 


これを聞いて気になった方に朗報だ! 最新アルバムを引っさげてのイブラヒムの来日公演が今月末に行なわれる。

 

11月22日(金)・23日(土)・24日(日)の3日間に渡って ブルーノート東京で行なわれる今回の公演では、現在展開中のツアー同様、5人のトランペッ ターと2人のギター、サックス、ドラムスのユニークな編成で圧巻のパフォーマンスが期待出来る。

 

イブラヒムにとって約10年ぶりとなる来日公演。本人曰く、「観客のみんなには立ち上がって一緒に歌ったり踊ったりして欲しい」とのこと。ぜひ、国境や世代を超越した、自由で鮮やかな祝祭空間を存分に楽しんでいただきたい。



【リリース情報】



 

アーティスト名:Ibrahim Maalouf(イブラヒム・マーロフ)

タイトル名:Trumpets of Michel-Ange(ミケランジェロのトランペット)

レーベル:Mister Ibé


<トラックリスト>

1.The Proposal

2. Love Anthem

3. Fly With Me - feat. Endea Owens

4. Zajal

5. Stranger

6. The Smile of Rita

7. Au Revoir - feat. Golshifteh Farahani

8. Capitals - featuring Trombone Shorty

9. Timeless (Bonus track)



【来日情報】 イブラヒム・マーロフ & THE TRUMPETS OF MICHEL-ANGE

日程:

11/22(金)[1st]Open5:00pm Start6:00pm / [2nd]Open7:45pm Start8:30pm

11/23(土)、11/24(日)[1st]Open3:30pm Start4:30pm / [2nd]Open6:30pm Start7:30pm

会場:ブルーノート東京

公演サイト: https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/ibrahim-maalouf/



【バイオグラフィー】

 

ベイルート出身で現在はフランスで活躍するトランペッター。両親ともに音楽家という家庭に育った彼はレバノン内戦中に家族でパリに移住し、7歳の頃からトランペットでクラシック音楽やアラブ音楽を学んだ。

 

イブラヒムが用いるトランペットは父ナシム・マーロフが開発した4本のピストン・バルブを持つ特殊な楽器で、アラブ音楽で使われる微分音を表現することができる。

 

これまで19枚のアルバムを発表し、グラミー賞に2度ノミネート。スティングやエルヴィス・コステロといった多数のトップ・アーティストと共演、ルーツであるアラブ音楽やヒップホップ、エレクトロなど、さまざまな要素が溶け合った音楽性で世界を魅了する。2024年9月、最新アルバム『ミケランジェロのトランペット』をリリース。11月には、早くも来日公演が決定した。



アイルランドの英雄、Fontaines D.C.(フォンテインズ・ダブリン・シティ)がニューアルバム『Romance』の収録曲「Bug」のミュージックビデオを公開した。

 

映像は、イギリス人映画監督アンドレア・アーノルド(『アメリカン・ハニー』、『フィッシュ・タンク』)が監督した。また、彼の新作映画『Bird』は今週金曜日、11月8日に公開される。

 

この映画の主演はバリー・キョーガンとフォンテーヌD.C.のカルロス・オコンネルで、ミュージック・ビデオはこの映画の「短編再映画化」と銘打たれており、この映画だけの未公開映像が使用されている。以下よりご覧ください。


アンドレア・アーノルドは声明で「フォンテーヌを初めて聴いたときから大好きでした。「音楽には、いつも自分のものであるかのように、すでに知っているかのように、自分の一部であるかのように、骨の髄まで染み込むものがある。だからこそ、『Too Real』と『A Hero's Death』を私の映画『Bird』で使いたいとお願いしたんだ」と言う。


「彼らの音楽は、そこに属しているように感じた。私の世界に。彼らはすぐに寛大にもこれらの曲を使わせてくれた。その寛大さは、映画の人生に注ぎ込まれるエネルギーをもたらしてくれた。映画を作るときに生まれるポジティブなエネルギーすべてに感謝している。バグ・トラックのために映像と私のバードの世界を拡張することは、世界で最も自然なことのように感じた。同じものの一部のようにね。そう感じなければ、このようなことはしなかっただろう。誰のためでもない」


カルロス・オコーネルはこう付け加えた。


「アンドレア・アーノルドは、彼女の新作映画『Bird』の中で、バグというキャラクターを演じるバリー・キョーガンをフィーチャーした我々の曲『Bug』のシークエンスをカットアップしてくれた」


「Bugは、すぐにできて、すぐにみんなを納得させた曲だ。私の目には、Bugというキャラクター、"Bug's Life "というタトゥー、アンドレアの本質的でロマンチックな世界、そして "Changed my name to "Promise you, Yea"(私の名前を "約束する "に変えた)というセリフが、すべて一緒になったとき、説得力は不要になり、説得力は否定できないものになった。」


「アンドレア・アーノルドに感謝したい。私たちがベーコンやゴヤを思い出すように、彼女は記憶に残るだろう」


「Bug」





ザ・ウィークエンドがブラジルのポップスター、アニッタと組んで新曲「São Paulo」を発表した。Abel TesfayeとAnittaは、9月にブラジルの都市でこの曲をデビューさせた。アニッタが妊娠し、そのお腹に唇を生やしてウィークエンドの歌詞を歌うという内容だ。以下で視聴・試聴できる。


「アニッタは素晴らしい友人だよ。彼女が送ってくれたものがとても素晴らしかったから、この曲を作ったんだ。ステージで演奏するだけでは、あまりにも特別な曲だとわかっていた。私たちはこの曲に大きな可能性を見出し、ショーの核となるビートを見つけたのです」


アニッタはこう付け加えている。「冗談のつもりでいくつかの詩を書いたのですが、それがシリアスになるとは想像もしていませんでした。突然、完成した曲が届いた。とても気に入ったわ!とても光栄で、光栄なことだと思いました。私はずっと彼と彼の作品の大ファンでした。こんなことが起こるなんて想像もしていなかったし、今は夢が叶った気分だよ。約束通り、世界中でもう少しブラジリアン・ファンクが楽しめるよ」


「São Paulo」は、プレイボイ・カルティとの「Dancing in the Flames」と「Timeless」に続く、ウィークエンドのニューアルバム『Hurry Up Tomorrow』の最新予告曲である。

 

 「São Paulo」



Moonchild Sanelly(ムーンチャイルド・サネリー)は、ビヨンセやティエラ・ワック、ゴリラズ、スティーヴ・アオキなどのアーティストとコラボしてきた南アフリカのゲットー・ファンク・スーパースターだ。アフロ・ファンク、ソウル、レイヴ、ポップスを融合させ、刺激的なダンスビートを提供する。

 

先月、ムーンチャイルド・サネリーは、2025年1月10日にTransgressive Recordsからリリースされる新しいスタジオ・アルバム『Full Moon』と、2025年のイギリスとアイルランドのヘッドライン・ツアーを発表した。

 

『Full Moon』は、サネリーのユニークなサウンド、陽気なアティテュード、個性的なヴォーカル、そしてジャンルを超えたヒットメーカーとしての才能を披露する12曲からなるコレクションで、アルバムの最新シングルとビデオ「Do My Dance」も収録されている。(ストリーミングはこちら)

 

最新作は、マラウイ、イギリス、スウェーデンで録音され、ヨハン・ヒューゴ(Self Esteem、MIA、Kano)がプロデュースした。『Full Moon』のクラブ・レディーなビートは、エレクトロニック、アフロ・パンク、エッジの効いたポップ、クワイト、ヒップホップの感性の間を揺れ動く。

 

「このレコードを "FULL MOON "と名付けたのは、これらの経験を生き、書くことで得た、実に明確な感覚を伝えるため」とムーンチャイルドは言う。「”Phases”では月の満ち欠けを表現した。月が満ち欠けするとき、月は一度に自分の一部を見せる。”Full Moon”は、私全体が照らし出される。私の全自己の到着だ」

 

「FULL MOONは、私がここにたどり着くまでに経験しなければならなかったこと、感じなければならなかったすべての感情、経験したすべての集大成です。このプロジェクトには、最初から最後まですべてが凝縮されている。これは融和を表していて、ケンカ、悲しみ、立ち直ること、手放すこと、許すこと、受け入れることを意味します。許しには精神的、霊的な一体感があり、それはあなたを完全なものにしてくれる。だから私はここにいる。それが"FULL MOON "だ」

 

ムーンチャイルドは、"大胆なアンセム(CLASH)"である "Scrambled Eggs "のリリースで復帰のスタートを切った。COLORSxSTUDIOSの独占ショーで初披露された "Sweet & Savage "と、"感染するほど舌を巻くヒット曲(DIY)"である "Big Booty "である。「''Big Booty"は、グラストンベリーでの10公演を含め、ヨーロッパ中のフェスティバルで観客を沸かせた。アルバムの収録曲「Gwara Gwara」は、「EA Sports FC25」のサウンドトラックにも収録されている。

 

この夏には、「アルトポップの未来のスーパースター」であるセルフ・エスティームとのコラボ曲 "Big Man "がリリースされ、ガーディアン紙で「2024年の夏の歌」と評された。

 

先週(11/2)ムーンチャイルド・サネリーはBBCのテレビ番組「Later...With Jools Holland」をDJと一緒に出演した。ウサギダンスをDJは披露。また、サネリーは”原宿ファッション”に触発されたブーツを履いているのにも注目したい。ライヴ・パフォーマンスの模様は下記よりご覧ください。


ムーンチャイルド・サネリーの『Full Moon』は来年1月10日にTransgressiveより発売されます。来年最初の話題作の一つ。



「Later...With Jools Holland」

 

 

Moonchild Sanelly(ムーンチャイルド・サネリー)  3作目のアルバム『Full Moon』を発表  Transgressiveより1月10日に発売