【J-POP Trends】 10月、11月の邦楽の注目作をピックアップ



11月に発売された邦楽の新譜を下記にご紹介していきます。注目は、ハンバート・ハンバート、ホームカミングスの新作アルバムが発売されました。ほかにもサイケロック・バンド、tenbin Oの登場に注目しましょう。




Humbert Humbert 「カーニバルの夢」  HCC


 

1998年に結成されたHumbert Humbertは、良質なメロディーを持つソングライティング、フォークとロックの融合を介して魅力的なポップソングを制作してきました。記念すべき12作目のアルバムは、全12曲収録。デュオの集大成をなすような素敵なJ-POPソング集となっています。

 

ギター、ピアノといった基本的な楽器編成に加えて、佐藤遊穂を中心とする親しみやすいボーカルが際立っています。時々、デュエット形式を採ることも。曲の細かな作り込みは見事で、ハイライト曲「寝ても覚めても」を中心として、バラードからロックソングまでバランスの良い楽曲が勢ぞろい。ときおり、遊び心あふれる曲も見いだせます。「君を見つけた日」は、アップテンポのフォークナンバーで、最初期のバンプ・オブ・チキンのソングライティングを彷彿とさせる。他にも、「恋はこりごり」では、歌謡やオールディーズ風のナンバーに挑戦しています。

 

ハンバート・ハンバートはアルバムのリリースを記念するツアーを開催予定で、来年1月26日(日)にNHKホールで公演を行います。


 

「ある日の来客」


 

 

配信リンク: https://humberthumbert.lnk.to/DoC

 

 

Homecomings 『See You, Fragile Angel, Sea Adore You』  Pony Canyon

 

 

 

 Homecomingsも2012年頃から活動を続けており、洋楽と邦楽を絶妙にマッチさせたソングライティングのスタイルで知られています。今作はメジャー三作目となり、ポニーキャニオンから発売。全般的にはドリームポップに属する浮遊感のあるサウンドワークに、キャッチーなボーカルを特色としています。最新作は、作曲や演奏の双方において磨きが掛けられ、代名詞的なアルバムが完成しました。「luminous」ほか、ポップスとして聴かせる曲もあるが、異色のシューゲイズ風の楽曲「blue poetry」も聴き逃がせません。アルバムの終盤には、Supercar風のトラックも登場し、清涼感のあるオルトロックソングを全編にわたって楽しむことが出来るでしょう。

 

今作は、前作『New Neighbors』から約1年半ぶり、3人体制となって初のリリースとなります。USEN J-POPチャート1位を獲得した映画『三日月とネコ』主題歌「Moon Shaped」ほかを収録。メンバー自身のコアな部分にフォーカスし、優しく温かな存在感はそのまま、ライブツアーや多数のフェス出演等で積み重ねてきた力強さと細やかで機微に富んだ感性がなめらかに共存しています。さらに、オルタナティブ、シューゲイザー、エモトロニカ、グリッジノイズが融合した浮遊感漂うサウンドから、バンドの新たな魅力と表現の幅を感じる1作となっています。

 

CD+Blu-ray盤には本日開催されたストリングスカルテットも参加したライブ『Homecomings Chamber Set at Billboard Live TOKYO 2024』の模様を収録予定。

 

 

 

アルバムのご購入: https://lnk.to/Homecomings_6thal

配信リンク: https://lnk.to/seeyou_fasay

 

 


Dawgss 「Alright」Feat.荒谷翔太   Space Shower

 


ベース/ヴォーカルの森光奏太のソロ・プロジェクト、Dawgss。ソウルを軸にしたグルーヴ感とメロウネス、ベースとドラムを中心とした抜群バンド・アンサンブルも高い評価を受け、同年6月に開催した初のワンマン・ライブはソールドアウトを記録し、VIVA LA ROCK、Fuji Rock Festival、Local Green Festivalといった大型フェスへも出演を果たしました。

 

2023年4月にはそれら先行配信された楽曲に加えて、ライブでのサポートメンバーでもある和久井沙良やイシイトモキが参加した「MOON WALK」「夢中」など全10曲を収録したファースト・アルバム『INORI』をリリース。以降、Aile The Shotaをフィーチャリングした「ランデヴー」、「KICK OUT」といった楽曲をリリースし、今年4月には待望の新作EP『Tenderness』をリリースしました。

 

本楽曲は、心の琴線にそっと触れるような切ないメロディと、背中をそっと押してくれるようなリリック、ソウル〜R&Bをベースにした浮遊感のあるメロウでチルなサウンドが深い余韻を残す一曲です。-Space Shower


 

 

 

tenbin O 『Illigal Positive』 Ideal Music LLC.

 

tenibin Oは2022年に結成され、翌年にインディ/サッドコアをベースにしたデビュー・アルバム『Lack of Heroism』をリリースし、音楽シーンに名乗りを挙げました。Fire Talk のような新進気鋭のレーベルから続々登場してくるオルタナを指向するバンドたちとの親和性も高い。11月13日、ダウンビートでエキゾ味を増したグルーヴの 2nd Album「illegal positive」をリリースしました。

 

このアルバムではテキサスのKhruangbinからロンドンのディスコファンクをくまなく吸収し、エキゾチックなファンクソウルを提供しています。アルバムのハイライトの一つ「Waste of Time」はトリオの持ち味であるシュプレヒサングが登場し、カッティングギターを強調したファンクサウンドと融合を果たしています。これからが非常に楽しみな三人組としてご紹介します。

 

「Waste Of Time」

 


配信リンク:https://ssm.lnk.to/illegalpositive

 

 

NEI 「Aqua SurfaceFeat. Campanella)

 


日本のヒップホップも日々アップデートを続けています。NEIは、名古屋でビートメイカーとして活動しているRyo Kobayakawa(D.R.C.)との出会いをきっかけに音楽活動を開始しました。2018年、NEI & Ryo Kobayakawa名義の共作EP『Words For Stars』をリリースし、同年YouTubeで公開された「FAST CAR」ではKID FRESINOとの共演しています。2020年、ソロ名義として初のAL『NEYOND』をリリースしました。


カンパネッラをゲストに招いた「Aqua SurfaceFeat. Campanella)」ではNEIを中心に切れ味の鋭いフロウさばきが際立っています。舌鋒は鋭いですが、背景となるトラックはメロウで落ち着いた感覚に縁取られ、ラップ自体がグルーヴのようなウネリを作り、最終的にはヒプノティックでアシッド的な感覚を生み出す。都会的な感性とNEI持ち前の叙情的な感性が見事に結びついたトラックとなっています。タイプ的には、Sainteに近いアーバンなヒップホップとも言えるでしょうか。

 


「Aqua SurfaceFeat. Campanella)




 
 
 
 
Luby Sparks 「Summer Days」 ADWR/LR2

 
東京のオルタナティヴロックバンド、Luby Sparksは今月22日にニューシングル過ぎ去った季節を懐かしむ「Summer Days」をリリースしました。なんとなく聴いていてホッとするインディーロックソング。ボーカルのメロディーからはなぜかノスタルジックなイメージが立ち上って来ます。
 
 
最新EP「Songs for The Daydreamers」に収録された「Somebody Else」の流れを汲む、初期Luby Sparksを想わせるインディポップ/ギターポップ・サウンドと紹介されています。90年代後半〜00年代前半の空気感に、終わってしまった夏を回想する歌詞が絶妙にシンクロする清涼感のある楽曲となっています。この曲を聴きながら、今年の夏の思い出に浸ってみてはいかがでしょう??
 
 
 
「Summer Days」
 
 


配信リンク:  https://lubysparks.lnk.to/SummerDays



aus 『Fluctor』 FLAU

 

東京のエレクトロニックプロデューサー/作曲家、ausが新作アルバムを先週(11/27) に発表しました。ピアノやヴァイオリンをベースにした清涼感のある作品となっています。複数のコラボレーターの参加により、スポークンワードなど多彩な表現性が付け加えられています。イメージの換気力に溢れた一作。

 

『 Fluctor』は元々、映像作品のために作っていたというデモを、自身のピアノと高原久実によるヴァイオリンを中心とした室内楽へと再構成。ポストクラシカルの持つ優美さ・精緻さと2000年代初期のエレクトロニクスの微細なテクスチャーを融合させ、深く鮮やかなメロディーラインが展開されます。

 

前作「Everis」にあったフィールドレコーディングによるサウンドコラージュから、より明確なコンポジションへと変化した本作は、静かな水面に映る風景のように、柔らかく、しかしながら、確かな印象を残し、かつて国内で作られていたイメージアルバムの本質を呼び起こすかのようです。

 

アルバムのゲストも豪華で、FLAU Recordsにゆかりのある音楽家も複数参加しています。Espersのメンバーとしても知られるMeg Baird、著名なアンビエントプロデューサーでausと親交深い、Julianna Barwick、元Cicada(台湾の室内楽グループ)のEunice Chungをボーカルとしてフィーチャーしています。また、ドイツのピアニスト、Henning Schmiedt、マンチェスターのチェロ奏者、Danny Norbury、Glim、横手ありさが前作から引き続き参加しています。

 

 

Another(Snippet)

 

 

ご購入/ストリーミング: https://aus.lnk.to/Fluctor

 


ベルリンを拠点に活動する作曲家、プロデューサー、サウンドデザイナーのベン・ルーカス・ボイセンは、2016年にデビューアルバム『Gravity』の再リリースと『Spells』でErased Tapesに初めて契約した。


『Spells』は、プログラムされたピアノ曲と生楽器を融合させ、コントロール可能なテクニカルな世界と予測不可能な即興演奏を組み合わせた作品である。ある意味、アンダーグラウンドでのデビュー作『Gravity』が残したものを引き継いでいるが、多くの重荷が取り除かれ、より軽快でエネルギッシュな作品に仕上がっている。レーベルオーナーの友人であり、Erased Tapesのアーティストでもあるニルス・フラームが、2枚のアルバムのミキシングとマスタリングを担当した。ベンは名ピアニストではないが、彼のサウンド・コラージュは非常に綿密にデザインされており、その結果を聴いて感銘を受けたニルスはこう宣言した。"これは本物のピアノだ"。


『Spells』と『Gravity』は、彼自身の名前でレコーディングされた初めてのアルバムだが、高名なエレクトロニック・プロデューサー''HECQ''として、2003年以来9枚のアルバムをリリースし、アンビエントからブレイクコアまで、あらゆるジャンルを探求してきた。同時に、アムネスティ・インターナショナルやマーベル・コミックなど、さまざまなクライアントのために仕事をし、長編映画、ゲーム、アート・インスタレーション、コンベンションのオープニング・タイトルなどの作曲を手がけ、信頼される作曲家、サウンド・デザイナーとしての地位を確立している。


1981年、オペラ歌手のディアドレ・ボイセンと俳優のクラウス・ボイセンの3番目の子供として生まれたベンは、7歳のときピアノとギターによるクラシック音楽の訓練を受け始め、ブルックナー、ワーグナー、バッハの作品によって重要な基礎を築いた。両親と共有していた音楽を再発見し、オウテカ、クリスティアン・ヴォーゲル、ジリ・セイヴァーからピンク・フロイド、ゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラーのサウンドと融合させた。ブラック・エンペラーを聴きながら、そもそもなぜ彼が音楽を書きたかったのかを理解した。


ベン・ルーカス・ボイセンのニューアルバム『Alta Ripa(アルタ・リパ)』は、彼の芸術的旅路における激変を意味する。このアルバムは、彼の創造的なパレットが花開いたドイツの田舎町の穏やかな美しさの中で形成された、彼の青春時代の基礎的な衝動を再訪するというものである。

 

しかし、彼のサウンドに衝撃を与えたのは、2000年代初頭にベルリンに移り住んだことで、この街の脈動するエネルギーと多様な文化の影響を注入した。『Alta Ripa』は、この変容の経験をとらえ、彼の田舎での始まりの内省的なメロディーと、ベルリンの活気あるエレクトロニック・ミュージック・シーンから生まれた大胆で実験的な音色を融合させている。このアルバムは、ボイセンの進化の証であり、地理的な移り変わりがいかに芸術表現を深く形作るかを示している。


ボイセンのソロ名義での4作目となるスタジオ・アルバムは、彼の出発点へのうなずきであると同時に、未来へのヒントでもあり、作品としては、その大胆さと謙虚さにおいて、ほとんど矛盾がある。彼は、リスナーを自分探しの旅へと誘う。自分にとってもリスナーにとっても。この音楽を、"15歳の自分が聴きたかったが、大人になった自分にしか書けないもの "と表現している。


ボイセンは、彼自身の嗜好が折衷的であることと、特定のシーンに属したことがないことから、自分がどの音楽の伝統にも属しているとは考えていない。一貫性の欠如というよりは、さまざまなアプローチに対する評価であり、彼は音楽的に進化するために常に挑戦しているのだ。


例えば、”Hecq”という名義でノイズミュージックを始めた当初は、レフトフィールドのエレクトロニカ、ブレイクコア、テクノなど、さまざまなジャンルからインスピレーションを得ていた。その後、アコースティック楽器を取り入れた、より構造的で質感のあるエレクトロニック・ミュージックの作曲に力を入れ、自身の名義で並行して活動するようになった。また、映画、テレビ、ビデオゲーム、マルチメディア・インスタレーション、アレキサンダー・マックイーンをはじめとするファッション・デザイナーのための作曲家としても幅広く活動している。


過去2枚のアルバムでは、チェリストのアンネ・ミュラー、フリューゲルホルン奏者のシュテフェン・ジマー、ドラマーのアヒム・フェルバーなど、他のミュージシャンと仕事をしている。しかし、最近のライブ・パフォーマンスへの復帰に触発されたこともあり、『アルタ・リパ』では、ボイセンは純粋なコンピューター・ミュージックへの情熱に回帰している。彼はこう説明する。


「ベルリンで20年近く過ごした後、数え切れないほど素晴らしいアーティストとの交流や出会いがあり、それが私の作品やアルバムに反映されてきた。しかし、この小さな町アルトリップは、ある意味、私が本当に離れたことのない町であり、その遠い記憶とともに、私の心の前に戻り続け、私が学んできたこと、今日あることのすべてを、いわば「故郷」に持ち帰るように促してくれた」


「私は、人生が複雑になる前に、私を形成し、インスピレーションを与えてくれた場所に芸術的に戻り、今日の経験をもってその世界に入り込みたいと思った。どういうわけか、戻るのと同時にゼロから出発して、私の最も古いアルバムであるとともに、最も新しいアルバムを書くことになった」



『Alta Ripa』/ Erased Tapes

 

今ではすっかり忘れさられてしまったが、ドイツは1800年ごろまでには現在のオーストリアを含む地域を自国の領土としていた。それがナポレオン率いるフランス軍によって一部を制圧され、現在では、その領土の一部を受け渡した。第二次世界大戦では、歴史上最も死者を出したスターリングラードで敗北を喫し、ソビエト連邦の管理下に置かれる地域もあった。さらに多くの都市において、城塞都市を持ち、古城の周りが要塞のような構造を持つ地域もある。これは地形的に、ドイツが侵略と戦いの憂き目にさらされてきたことを象徴付ける。そして、近代以降、ドイツが生んだ最高の遺産は、工業製品やインフラ設備であり、大衆車(volkswagenは大衆車の意味)の生産ラインを確立し、自動車の大量生産の礎を築き、アウトバーンのような大規模な幹線道路を建設したことにある。例えば、ミュンヘンのアウトバーンを走行していると、巨大なフットボールクラブのスタジアムのドーム、アリアンツ・アレーナが向こうに見えてくる。

 

第二次世界大戦の後、ドイツは工業的な生産を誇る国家として発展してきたが、もうひとつアカデミアの文化も長い歴史を持つ。例えば、中世の時代にはボン大学があり、普通に一般的な講義として、詩の授業が行われていて、ロマン・ロランの伝記によると、若き日のベートーヴェンは、作曲家になる以前に、聴講生として詩の講義に参加していたことがあったという。他にも、南ドイツのフライブルク大学は、創設がなんと15世紀であり、ネッカー川や哲学者の道が有名で、街のパブの壁には学生の思索のメモ書きが今もふつうに残されている。ドイツは、マイスター等の階級的な職業制度に関して問題視されることもあったが、少なくともオーストリアと並び、知性を最も重んじる国家であり続けてきた。こういった中で登場した電子音楽は結局のところ、クラフトヴェルクといった富裕層の若者たちによって、文化や芸術のような形で綿々と続いてきた。ドイツの工業製品にせよ、芸術や音楽、そしてフットボールのプレイスタイルにせよ、一つの共通点がある。それは、秩序、規律、統率を何よりも重んじ、それを芸術的たらしめるということ。これはまさしく、古い時代から培われた知性の象徴であり、ドイツの美徳とも呼ぶべきものだ。なぜなら、新しい考えは秩序や規律から生ずるからである。

 

ベン・ルーカス・ボイセンの音楽は、こういったドイツの遺産を見事な形で受け継いでいる。 そもそも音楽は、和声から始まったのではなく、モーダル(Mordal)という半音階を上がったり下がったりする旋法から始まり、その後、ドイツの音楽学者や作曲家により、厳格な対旋律法が生み出され、その後、和声的な考えが出てくるようになった。特に、古典派の多くの作曲家は旋律の進行に関して、厳格な決まりや原理を設けていた。つまり、旋律が上がれば、そのあと、バランスを保つために下がるという規則を設け、その中で制約の多い作曲を行った。これが以降のポピュラーミュージックの基礎となったのは明確である。フランスの音楽的な観念は、そこまで厳しくはないが、ドイツの和声法や対旋律法はきわめて厳格であることで知られている。これは「音楽の秩序や規律」という一面を示す。そして、例外的な要素は濫用せずに、ここぞ!というときのためにとっておいたのである。規則を破るのは美しさのためだけである。

 

 

ベン・ルーカス・ボイセンの電子音楽は、1990年代や2000年代のAutecre、Clarkのスタイルを継承しているが、これに対旋律的な技法やMogwaiのポスト・ロックの遊び心を付け加えている。

 

冒頭を飾る「1-Ours」を聞けば、ボイセンの音楽がシンプルに構成されていることがわかる。おそらく、Native Instruments等のソフトウェア音源によるシンセリードから始まり、それを規則的に繰り返しながら、音楽構造としての奥行きを発生させ、その背景に薄くパッドの音源を配置させ、大きめの音像を発生させる。ポスト・ロックの音響派の影響を受け継いだイントロの後、テクノやブレイクコアではお馴染みの簡素で規則的な4ビートを配置し、うねるようなウェイブーーグルーヴーーを発生させる。ただ、90年代のテクノやブレイクコアは、速いBPMが使用されることがわりと多かったが、アルバムでは意図的にスロウなBPMが導入されている。


これはビートの重力を出すための制作者のアイディアではないかと思われる。そして重層的なビートは、何度もアシッドハウスのような感じで繰り返されると、「Delay Beat」とも称するべきシンコペーションの効果を発揮し、強拍が後ろに引き伸ばされていくような効果が発生する。徐々に、そのウェイブのうねりは大きくなり、レイヴやアシッドハウスのような広大で陶酔的なグルーブに繋がり、クラブフロアの縦ノリの激しく心地よいリズムが縦横無尽に駆け巡る。その仕上げに、ベン・ボイセンはノイジーなシークエンスをビートの上に重ね、それらをトーンシフトさせ、変調させる。これが独特なアシッド的なうねりと熱狂性を呼び起こすのである。

 

傑出したダンスミュージックの制作者にとっては、一般的な制作者が見落としてしまいがちな些細な音源の素材も、リズムを形成するための重要なヒントになるようだ。シンプルなファジーなアルペジエーターで始まる「2-Mass」は、マスターによって十分な強度を持つに至り、フィルターで音を絞った後、変則的なリズムトラックがループしていく。これが最終的には、Clarkが90年代や00年初頭に制作していたゴアトランスのように変化し、重力のあるスネアとキックの交互の配置により、徐々に熱狂的なエネルギーを帯びていく。さらに対旋律的にリードシンセを配置し、曲に色彩的な効果を及ぼす。曲の途中にはアルペジエーターを配置し、フィルターを掛けたシークエンスを散りばめたりしながら、間接部の構成を作り、クラシック音楽では頻繁に使用されるソナタの3部構成の形式を設け、再びモチーフに戻っていく。ダンスミュージックが規律や秩序から発生することを象徴付けるような素晴らしいトラック。


続く「3-Quasar」は、2010年代以降、先鋭化されたブレイクコアのジャンルを相手取り、よりシンプルで原始的なダンスビートを抽出している。ベースラインとユニゾンを描くリズムトラックは基本的には心地よさが重視され、クラブビートの本質的な醍醐味とはなにかを問いかける。ダンスミュージックの最大の魅力とは複雑化ではなく、簡素化にあることがわかる。さらに静と動の曲構成を巧みに使い分けながら、重厚感と安定感のあるサウンドを構築している。この曲でもBPMを一般的なものよりも落とすことで、リズムにメリハリと重力をもたらす。

 

こういったリズムを側面を強調させ、レフトフィールドの質感を持つアルバムの序盤の収録曲に続いて、Erased Tapesらしい叙情的な雰囲気を持つダンスミュージックが続く。「4-Alta Ripa」では制作者のポストロック好きの一面がうかがえる。Mogwaiが90年代以降に打ち立てた音響派のサウンドをシンセで再現し、瞑想的な音楽に昇華させている。クールダウンのための楽曲というより、ダンスミュージックの芸術的な側面を強調させている。また、ここでは、ベン・ボイセンのピアニストとしての演奏がフィーチャーされ、ドイツ的な郷愁を思わせるものがある。ここには制作者が親しんできたバッハ、ヴァーグナー的な悲哀がシンセで表現される。 

 

 「Alta Ripa」

 

 

単体の素材でリズムが構成される場合が多かったアルバムの序盤に比べると、後半部は複合的なリズムが目立つ。さらに新しく登場した実験音楽家等が頻繁に使用するAbletonで制作するような図面的な信号とは異なり、アナログな音源が多く使用されている。


「5-Nox」は、シンプルに言えば、Logicのような初歩的なソフトウェアにも標準的に備わっているFM音源のようなシンセを用い、それらを複合的な音色をかけあわせ、かなりレトロな質感を持つEDMに仕上げられている。ここにはドイツの工業生産的なダンスミュージックの考えを見て取れるし、それ以前の構成的な音楽という考えも見いだせる。二つの楽節を経過した後に、1分35秒ごろに主要なモチーフが遅れて登場するが、こういった予想外の展開に驚かされる。そして、ここでもアシッドハウスのような手法が用いられ、反復的なビートと裏拍(二拍目)の強調を用いながら、強固でしなるようなパワフルなグルーヴを作り上げていくのである。

 

本作には異色の一曲が用意されている。「6-Vinesta」は、電子音楽が芸術的な音楽と共存することは可能であるかを試したトラック。シンプルに言えば、オペラと電子音楽の融合の未来が示唆されている。ボイセンは、ダウンテンポの手法を用いながら、広大なシンセの音像を作り出し、壮大なイントロのように見立てた後、曲の最後のさいごになって、オペラのような歌曲としての要素を出現させる。ここにはバッハ、ヴァーグナーの影響も伺え、天国的な雰囲気を持つミサ曲のようなシークエンスに、トム・アダムスのオペラティックな歌唱を最後に登場させる。

 

特に、ダンスミュージックとして傑出しているのが、「7-Fama」である。この曲ではリングモジュラーで発生させる音色をアルペジエーターとして配置し、グルーヴィーな構成を作り上げる。特に、他の収録曲と比べると、Four Tetのようなサウンド・デザインの性質が表れ、複合的なリズム、対旋律的なリズムというように、構成的なダンスミュージックを楽しめる。ボイセンは実に見事に、これらのリズムの要素に音量としてのダイナミックスの起伏を設け、サイレンスからノイズを変幻自在に行き来する。簡素でありながら意匠に富んだダンスミュージックは、まさしく南ドイツのアンダーグラウンドのダンスミュージックを彷彿とさせるものがある。

 

正直にいうと、久しぶりに手強いダンスミュージックが出てきたと思った。軟派ではなく本格派のクラブビートであるため、容易に聴き飛ばすことが難しい。わずか38分のアルバムは、細部に至るまで注意が払われており、かなりの聴き応えがある。そして、ベン・ルーカス・ボイセンの出力する迫力のあるビートは、ある種の緊張感すら感じさせる。すべてがインプロヴァイぜーションで演奏されているとは限らないが、その録音時にしか収録出来ない偶発的な音やトーンの変容、演奏に際するひそかな熱狂性のような感覚を収録しているのは事実だろう。

 

しかし、こういった、かなりの強度を持つ収録曲の中にあって、最後の曲だけは雰囲気が異なる。「8-Mere」は、エレクトロニックの美しさを端的に表現し、ブライアン・イーノの名曲「An Ending(Ascent)」を継承する素晴らしいトラックである。この曲を聴いているときに感じる開けたような感覚、それから自分の存在が宇宙の根源と直結しているような神秘的な感覚は、他の音楽ではなかなか得難いものだと思う。これぞまさしく正真正銘の電子音楽なのだ。

 

 

 

86/100

 

 

 

Ben Lucas Boysenによる新作アルバム『Alta Ripa』は本日、Erased Tapesから発売。ストリーミングはこちら。


 

「Fama」

 Bibio 『Phantom Brickworks』(LP2)



Label: Warp

Release: 2024年11月22日

 


Review     

 


これまでフォークミュージックとエレクトロニックを結びつけた”フォークトロニカ”の作品『Sleep On The Wing』(2020)、チルアウト/チルウェイヴを中心にしたクールダウンのためのダンスミュージック『All This Love』(2024)、他にも、ギター/ボーカルトラックを中心にAORのような印象を持つポピュラーアルバム『BIB 10』など、近年、ジャンルや形式にとらわれない作品を多数輩出してきたBibio(スティーヴン・ジェイムス・ウィルキンソン)は、EDMと合わせてIDM(Intelligence Dance Music)を主体に制作してきたプロデューサーである。

 

実際的に他のヒップホップや近年のダンスミュージックを主体とするポピュラー/ロックでは、 生のギター等をリサンプリング(一度録音してから編集的に加工)する手法はもはや一般的になりつつあるが、Bibioは2010年頃からこの形式に率先して取り組んできた。当初、それはダンスフロア向けのディスコロックという形で表に現れることがあった。2011年頃のアルバムにはロック的な作風が顕著で、これはBibioが一般的なロック・ミュージックの流れを汲むことを印象付ける。少し作風が変化したのが、2013年頃で、当時、2000年代のグリッチ等のダンスミュージックと並行して台頭したmumに象徴付けられるフォークトロニカの作風に転じた。以降は、単一の作風にとらわれることなく、多作かつバラエティの幅広さを示してきた。

 

「Phantom Brickworks」は、Bibioによる連続的な作品で、散発的なライフワークとも称すべき作品である。当初はギターやピアノ等のコラージュ的なサウンドを主題にしていたが、今作ではアンビエント作品に転じている。ボーカル、ピアノ、シンセテクスチャーなどを用いて、王道のアンビエントが作り上げられる。先日、エイフェックス・ツインの『Ambient Works』が再編集盤として同レーベルから発売されたばかりだが、それに近い原始的なアンビエントの位置づけにある。しかし、例えば、エイフェックス・ツインの場合は、プリペイド・ピアノのような現代音楽の範疇にあるコンポジションが用いられたとしても、アーティスティックな表現に傾倒しすぎることはなく、一般的な商業音楽の性質が色濃かった。これは私見としては、このプロデューサーの作品自体が機械産業のような意味を持ち、一般的に親しめる音楽を重視していたのである。「アンチ・アート」と言えば語弊となるが、それに近い印象があり、アートという言葉に絡め取られるのを忌避していた。しかし、対象的に、Bibioの『Phantom Brickworks』は、ダンスミュージックのアートの要素を押し出している。クラブビートが非芸術的であるという一般的な観念を覆そうという興きを、このアルバムの制作には見出すことが出来るかもしれない。


スティーヴン・ウィルキンソンは、この作品の制作に際して、イギリスの各地を訪れ、かつては名所であった場所が衰退する様子を観察し、それらを音源として収録した。いわば、ウィルキンソンは時代と共に消えていく風景をその目で確認し、土地に偏在するエーテルのようなものを、時にはその名所が栄えた時代の人間的な息吹を、電子音楽として描写しようと試みている。


これは例えば、印象派の絵画等では一般的に用いられるが、ウィリアム・ターナーの系譜に位置づけられる描写音楽である。人間は一般的に、ある種の建築的な外壁、その場所に暮らす人々を見たとき、時代性や文化性を明確に発見する。でも、それとは対象的に、すでに朽ちた遺構物や廃墟等を目の前にしたとき、それが最も栄えた時代の圧倒的な感覚に打たれる瞬間がある。古代ローマの水道橋、カエサルの時代の遺跡、コロッセウムなどが、それに該当する。しかし、なぜ驚異なのかと言えば、我々の住む時代の建築よりも遥かにその時代の遺構物の方が本質的で魅力的であるからなのだ。そして、現代的に均一化された構造物に慣らされた感覚から見ると、いかに旧い時代の遺構物が圧倒的で創造的であるかに思い至るという次第なのである。

 

このアルバムの音楽は、人工的な廃墟、ないしは工業生産的にはなんの意味ももたない海岸沿いの侵食された地形、岸壁など、イギリスの海岸地域の固有の旧い美しい風景や、また、都市部から少し離れた場所にある田舎地方の奇妙な風景がサウンドスケープで描かれているようだ。アルバムの冒頭を飾る「Dinorwic」は、制作者がイギリスの土地で感じたであろう空気の流れが表現され、それを抽象音楽として描写したものと推測される。しかし、それは追体験のようなカタルシスをもたらすことがある。これは、実際的に高原や海岸のような開けた場所に行ったときに感じる精妙な感覚とリンクする。それは制作者の体験と利き手側の体験が一致し、実際的な体験が重なり、共有される瞬間を意味するのである。更に、「Dorothea’s Bed」では、ボーカルのリサンプリングを用い、アートポップに近いアンビエント/ドローンを提供している。米国西海岸のGrouper、あるいは、ベルギーのChristina Vanzouの系譜に位置づけられ、アンビエント/ドローンをオペラやボーカルアートの切り口から解釈した新鮮な雰囲気のトラックである。

 

10年以上にわたり洗練させてきた制作者の作曲における蓄積は、遊び心のある音楽として昇華されることもある。例えば、「Phantom Brickworks」は、フランスのサロン音楽をサンプリングとして落とし込み、フランス和声の革新者であり、アンビエントの始祖とも称されるエリック・サティが、モルマントルの「黒猫」で弾いていたサロン音楽とはかくなるものではなかったかと思わせるものがある。調律のずれたアンティーク風のピアノが断片的に散りばめられると、「Gymnopédies(ジムノペティ)」は現代的なテイストを持つパッチワークの音楽へと変化する。対象的に、「SURAM」ではエイフェックス・ツイン、Burialのように、ボーカルのサンプリングをビートやパーカッションの一貫として解釈し、コラージュ的にノイズを散りばめて、ベースメントのクラブビートに触発されたトラックに昇華している。2010年代のBig Appleを中心とするダブステップの原初的なコンポジションを用いているのに注目である。

 

田舎的な風景、都市的な風景を交互に混在させながら、アルバムの収録曲は続いていき、「Llyn Peris」では再び、田舎を思わせるオーガニックなアンビエントに回帰している。この曲では、例えば、Tumbled Seaといったアーティストが無償でドローン音楽を提供していた時期の作風を彷彿とさせる。ドローン音楽を2010年代前後に制作していたプロデューサーは商業的な製品ではなく、ヒーリング音楽のような形でインターネット上で前衛的な作品を無料で公開していたことがあった。ドローンは、近年、他のジャンルとの融合化が図られる中で、徐々に複雑化していった音楽であるが、それほど複雑なテクスチャーを組み合わせないでも、ドローンを制作出来ることは、この曲を聴いてみるとよくわかるはずである。「Llyn Peris」の場合、パンフルート系の簡素なシンセ音源をベースにして、反響的な音楽の要素を抽出している。

 

ウィリアム・バシンスキーの系譜にあるピアノのコラージュを用いた曲が続く。「Phantom BrickworlsⅢ」では、おそらく、ピアノのフレーズの断片を録音した後、テープリール等で逆再生を用いて編集を掛けたトラック。これらの作風はすでにウィリアム・バシンスキーがブルックリンに住み、人知れず活動していた80年代に確立された次世代のミュージック・コンクレートの技法であるが、ミニマル・ミュージックとコラージュ・サウンドの融合という現代的なレコーディングの手法が用いられているのに着目しておきたい。これらは、本来アートの領域で使用されるコラージュと音楽の録音技術が画期的に融合した瞬間であり、電子音楽が本来の機械工学の領域から芸術の領域へと転換しつつある段階を捉えることが出来るかもしれない。


コラージュ・サウンドの実験はその後も続き、「Tegid's Court」では、オペラのようなクラシカルの領域にある音楽と電子音楽を融合させる試みが行われている。ピアノの演奏をハープのように見立て、それに合わせてボーカルが歌われる美しい印象を持つコラール風の曲である。その後、再び、情景的な音楽が続く。「Brograve」、「Spider Bridge」の二曲では、バシンスキー、ギャヴィン・ブライアーズの音の抽象化、希薄化、断片化という音響学の側面からミニマルミュージックを組み直すべく試みている。アルバムのクローズ「Syceder MCMLⅩⅩⅩⅨ」では、逆再生を用いながら、遺構物に相対したときのようなミステリアスな感覚がたちあらわれる。

 

 

82/100

 

 

 「Dorothea’s Bed」

Kim Deal  『Nobody Loves You More』

Label: 4AD

Release: 2024年11月22日


Review


今回、NYTの特集記事で明らかになったのは、キム・ディールは一般的にベーシストとして知られているが、当初はギタリストとして音楽キャリアを出発させようとしたこと。しかし、結果的には、ボストン時代を通じて、ベーシスト、ボーカリストとしてキム・ディールの名を世界に知らしめることになる。ピクシーズの他、ブリーダーズ、アンプスの活動で知られるキム・ディールは先週末、ソロ・アルバム『Nobody Loves You More』をリリースしたが、実際的な制作は2011年頃、つまり、ピクシーズのツアー「Lost Cities Tour」の後に始まり、フルアルバムの形になるまでおよそ13年の歳月を要することになった。ソロシンガー、ギタリストとして一つの集大成をなすような作品であることは事実である。プロデューサーにはブリーダーズのメンバー、ケリー・ディール、そしてジム・マクファーソン、さらに最終ミックスにはスティーヴ・アルビニの名前がある。アルビニの最後のエンジニアのアルバムということになるだろうか。

 

一般的な印象としてはギター中心のアルバムかと思うかもしれないが、実際は少し内容が異なる。歌謡曲とまではいかないが、従来から培われたインディーロックのイメージを払拭する作品である。このアルバムでは、ピクシーズやブリーダーズという名の影に隠れていたキム・ディールという歌手のポピュラーの側面が強調されている。それらのサウンドにロマンティックなムードを添えるのがストリングスやホーンの編曲で、 アルバムのハイライトともなっている。タイトル曲でオープナーでもある「Nobody Loves You More」では、ゆったりとしたテンポで切ないメロディーを情感たっぷりに歌い上げる。タイトルでは聞き手を突き放すかのように思えるが、実際のところそうではないことは、この曲の中にはっきりと伺い知ることが出来る。かと思えば、曲の途中からはミュージカルやビッグバンドのような華やかな金管楽器が登場し、古典的なジャズの雰囲気を醸し出す。必ずしも特定のジャンルを想定した作品ではないことがわかる。キム・ディールの音楽は、90年代からそうであるように、ウィットのある表現からもたらされるが、これが長らく上記のバンドの音楽性の一部分を担って来た。二曲目「Coast」は温和なインディーロックソングで、リスナーの心を和ませる。新たに加わったホーンセクションは、楽曲に華やかさを添えるにとどまらず、ディールの持つロハスな一面を強調付ける。ギター・ソロもさりげなく披露され、ハワイアン風のスケールを描き、曲に変化を及ぼす。

 

 

キム・ディールは様々な音楽の側面から理想的なロックソングとはなにかを探求する。ダンス・ポップと旧来のインディーロックの融合にも新しく取り組んでいる。「Crystal Breath」 ではコアなロックミュージシャンとしての一面が表れ、ダンスビートを背景とし、ノイジーなギターを演奏している。もちろん、ディールのボーカルもそれに負けておらず、「Canonnball」の時代の歌唱法を基にして、過激なロックの性質を録音作品に収めようとしている。ギターフレーズの間に古典的なロックンロールのスケールをさりげなく散りばめているのにも注目したい。また、「Are You Mine?」では、60年代のオールディーズ(ドゥワップ)で使用されるようなシンプルなギターのアルペジオを中心に、良質なポップソングに制作している。この曲では冒頭曲と同じように、歌謡曲調のストリングスがボーカルの合間に導入され、癒やしの感覚を与える。ある意味では60年代のドゥワップを入り口として、シナトラの時代へと接近していくのだ。


このアルバムと録音場所のロサンゼルスを結びつけるのは少し強引かもしれない。しかし、まったくその影響がないかと言えば、そうでもないようだ。「Disobedience」では70年代のバーバンクサウンド(西海岸のフォーク・ロック)の幻想的な雰囲気をギターロックで表現している。表面的なサイケデリック性はそれほど強調されず、あくまで楽曲からそういった幻想性が立ち上るのみである。しかし、こういった控えめなサイケデリアがピクシーズやブリーダーズの音楽の基礎を支えていたことを考えると、旧来のファンとしては頷くものがあるはずである。続く「Wish I Was」でもこれらの西海岸のフォーク・ロックやバーバンクサウンドからの影響は保持され、Throwing Musesと共鳴するような温和なインディーサウンドが貫流している。

 

そして、キム・ディールの作り出す音楽表現の中には、パンクやアヴァンギャルドの側面が含まれていることは旧来のファンであればよく知ることであるが、この点は続く「Big Ben Beat」にわかりやすい形で反映されている。 何らかのレッテルや枠組みの範疇に収まることを厭い、そしてそれらを前向きなエナジーとして発露するというロックンローラーとしての性質が出現する。これはむしろ、キム・ディールという歌手の対極的な性質が的確な形で反映されたと言える。曲の中盤の二分頃には、未だインディーズの性質を失わず、ノイズを炸裂させ、反骨精神を発現させる。体制に対するアンチであるという鋭い表明は、しかし、最終的には温和なギターフレーズにより包み込まれる。これらのアンビバレンスなサウンドは一聴する価値がある。

 

このアルバムの制作がかなり以前に始まったことは事実だが、一方で最終的にフルレングスとして組み上げるまでに、キム・ディールがベス・ギボンズの最新作に何らかの形で触発されたのではないかという印象を受けた。それは、一つの表情の裏側にある複数の顔とも呼ぶべきかも知れない。また、ギタリストとしてだけではなく、ボーカリストとしての新しいチャレンジが試みられているのも着目すべき点であろう。「Bats In The Afternoon Sky」では、ボーカルを用いたアンビエントに挑戦しており、アートポップに近い楽曲として聞き入らせるものがある。かと思えば、「Summer Land」ではミュージカルのサウンドに挑戦し、ジャズボーカリストになりきっている。曲全体の背景となる美麗な弦楽器のレガート、トレモロを含むパッセージや駆け上がり、アコースティックギターは、最後のカデンツァで温かな余韻を残す。これらの一つのジャンルに定義されない自由なアプローチは、時々、開放的な感覚をもたらすことがある。


キム・ディールは、このアルバムの最後でインディーロックの普遍的な魅力を再訪する。「Come Running」では、このジャンルの幻想的な雰囲気をゆったりとしたテンポの楽曲で表する。1分55秒以降に不意をついて出現する奇妙なオルタナティヴロックの幻影は、まるで時間の途絶えた砂漠に生じたオアシス(蜃気楼)のようである。音楽からもたらされる奇妙な幻想性ーー蜃気楼ーーは、砂上の果てに立ち上り、聞き手を静かで落ち着いた幻惑へと誘う。それらの幻想性は、最終曲でも維持され、ディールの音楽が普遍的な輝きを放つことを印象付ける。ピクシーズ、ブリーダーズ、アンプス......、代表的なロックサウンドに耳を傾けてきた人々にとって、これは当たり前のことであるが、新しいリスナーにとっては驚きを意味するだろう。

 



84/100




 「Disobedience」

 



今年のグラミー賞の授賞式を前に、ラナ・デル・レイはカントリーアルバム『Lasso』(仮のタイトル)を予告していたが、今回、彼女の次のプロジェクトは『The Right Person Will Stay』というタイトルで、5月21日にリリースされることが明らかとなった。同時にシンガーはUK、アイルランドのツアー日程を公表した。一連のツアーは来年6月下旬から7月上旬の4日間を予定しています。


「私の13曲がルーク・ジャックとドリュー・エリクソンらとの美しい仕事によってまとまったことにとても感謝している」とデル・レイはインスタグラムに書いている。「"Stagecoach "の前に何曲か聴けて嬉しい。Henryから始まるの」 


彼女は1月から問題の曲「Henry, Come On」を予告していた。彼女がタグ付けしたコラボレーターには、カントリー・プロデューサーのルーク・レアード、長年のコラボレーターであるジャック・アントノフとドリュー・エリクソンが含まれている。


デル・レイは当初、『Lasso』が9月にリリースされることを示唆していたが、後にこう説明した。「本来あるべき姿にしたかった」といい、何らかの修正点があったことを示唆している。最新スタジオ・アルバム『Did You Know That There's a Tunnel Under Ocean Blvd』は2023年3月にリリースされた。


 


dj woahhausは東京をベースに、韓国、ベルリンのアンダーグラウンドシーンで活動するDJ、サウンドヴィジュアルアーティスト。本日、プロデューサーは新曲「@鳴家」をストリーミングで配信リリースした。

 

彼のサウンドは、本来、ダンスミュージックが地下に鳴り響くものというコンセプトを改めて思い出させてくれる。ダブステップ、フューチャーベースなどをクロスオーバーしながら、ひんやりとした質感を持つクラブテイストを提供する。そのサウンドはフライング・ロータスやデビュー当時のBurialを彷彿とさせるものがある。


本曲は都市の閉塞感と侘しさ、無機質の冷たい哀しみ、青年が追い求めるドラマと官能を描いた。テクノをベースにクラブオルタナティブ、スポークンワード、アンビエント・ノイズの要素を織り交ぜた、genre: woahhausを体現するニュー・オルタナティブクラブミュージック。ツンと張り詰めた空気の中、彼独自の言語である"鳴音"がコンクリート剥き出しの都市にこだまする。

 

近日中に、djwoahhaus自ら手掛けたミュージックビデオが公開予定。詳細は後日発表されるという。配信リンクは下記をチェック。

 

 

 

dj woahhaus  「@鳴家」- new single


 

配信リンク(Stream): https://linkco.re/xcNpEC6t

 

 

dj woahhaus

 

dj woahhausは東京を拠点に韓国やドイツなどのアンダーグラウンドシーンでグローバルに活動を展開するdj、オーディオ・ヴィジュアル・アーティストです。
 

国内外でのdjアクト・イベントのオーガナイズの他、東京を拠点にインディペンデントアーティストを支援することを目的に活動するコレクティブ、"Mana Online"の代表も務め、また香港コミュニティラジオのレジデントとして、マンスリーのmixシリーズをホストするなど、アンダーグラウンドクラブカルチャーに根ざした幅広い活動を行っています。

 音楽に治癒効果はあるのか 音の周波数が与える人体への影響


音楽の複合的な性質

 

音楽そのものは、物理学の観点から言えば、音の周波数や振動数から成立していることは明らかである。そして、光と同様に物理学的な性質を擁する。

 

一般的に言えば、周波数が高くなれば、波長が短く小刻みになり、低くなれば、長く緩やかな波長を作る。そして、無線/有線等の技術にも応用されるように、電波を送るための伝達装置として使用される場合には、両方の周波数の音の伝わる性質が適用され、周波数が高い場合、特定の方向に対し、より多くの情報を伝達することが可能になる。

 

それとは対象的に、周波数が低い場合、広い方向に対し、情報が伝達することが出来るが、反面、伝えられる情報数は減少する。周波数の高低のそれぞれの特性を上手く活用しながら、技術者は人類のテクノロジーを進化させて来た。この磁石のような両極的な伝達手段の手法は、ラジオ短波やFMラジオを比較すると、より分かりやすいのではないか。


音の周波数の理論は、無線/有線の技術として適用されるにとどまらない。例えば、物理学者のニコラ・テスラは、振動数が物質に与える影響について指摘し、実際的に音の振動数が物理学的に大きな力学を及ぼすことがあり、地球を真っ二つにするほどの力を有することを指摘している。これは実際的な実験が行われていて、音の周波数が物質を形作る結晶を変化させる力を持つという研究結果にも表れている。例えば、より一般的な話題では、人間から発せられる言葉が物質の構造を変化させるという実験も行われている。これはなかなか見過ごせない話題だ。

 

音楽的な視点からこのことを見ていきたい。一般的には、クラシック音楽が全般的に周波数が高いと言われ、例えば、JSバッハ、モーツァルトの楽曲には頻繁に高い周波数が取り入れられているというのが通説である。それが時々、クラシック音楽を聴いていると、心地よく眠たくなる理由であると言われている。

 

例えば、退屈だから眠気を催すとは限らず、音楽の力学としての周波数が人体の意識より高い場合に眠たくなる場合があるという説もある。これらはアンビエント・ミュージックに癒やしや眠気を催す要素があるのと同様である。しかし、一般的には周波数が低いと言われているノイズやメタル、ロックミュージックが、必ずしも人体に悪影響を及ぼすとも限らないのが不思議である。

 

例えば、こういった音楽を聴いて、不思議とパワーがみなぎってきたことはないだろうか。上記のような音楽には、電流のような力学的なエネルギーを発生させる力があり、それが「グルーヴ」の正体なのである。これらは、例えば、ジャンルごとに振動数や周波数の偏りがあるだけで、本質的にはすべてが同類の性質を有することを表し、音楽自体が複数の周波数から同時的に成立している証ともなる。

 

つまり、実際的には、クラシック音楽にも、低い周波数を持つ音楽が存在し、さらに、ロックのような音楽にも高い周波数が存在する。表向きには、ロックにはノイズのような振動数の低い要素が含まれていることは明確だが、しかし、対象的に、複数の楽器の発生させる振動数が折り重なったとき、現象学として異なる周波数が発生し、稀に、高い周波数を保持することがある。これがロック・ミュージックなどに見受けられる快適さ、治癒の効果なのであり、こういった一般的な音楽に大きな感動を覚える理由でもある。つまり、低い周波数と高い周波数が混在する森羅万象の音楽と言えるのである。



単一の周波数という考え ソルフェジオ周波数音楽

 

以上のように、こういった複数の周波数を持つ音楽という概論を踏まえた上で、単一の周波数を抽出し、それらを治療効果があるのではないかとする考えもある。近年、 注目されているのがソルフェージュの言葉を転用したソルフェジオ周波数と呼ばれるものだ。

 

この神秘学の提唱者のホローヴィッツは、一般的な音楽フォーマットで使用されている440Hzの周波数が人体に悪影響を及ぼすものではないかと推論付け、その反証として、以下の特定の周波数を取り上げている。そして、これらの周波数は、神秘的な治療効果を人体に及ぼすという推論を展開している。ソルフェジオ周波数には、主な6つの周波数以外に、一般的に知られていない3つの周波数が存在するという。


396 Hz - 解放の周波数


396Hzの周波数の音は、ネガティブな思考、感情、エネルギーパターンを解放し、解放感と自由を促します。


417 Hz - 共鳴周波数


417Hzの音は、ネガティブなエネルギーや影響をクリアにし、ポジティブな変化と変容を促します。


528 Hz - 愛の周波数


愛の周波数は、リラクゼーションを促し、ストレスや不安を軽減し、睡眠の質を高め、創造性を高め、幸福感を促進します。


528Hzのチューニングされた音楽とサウンドの効果について、さらに詳しくご覧ください。


639 Hz - つながる周波数


639Hzは、調和のとれた人間関係を促進し、コミュニケーションを増やし、感情の癒しとバランスを促進することを目的としています。


741 Hz - 目覚めの周波数


代替医療では、741Hzの音はより深いレベルの気づきを促し、直感力を高め、スピリチュアルな成長を促進すると信じられている。


852 Hz - 直感周波数


852Hzの周波数は、スピリチュアルな意識や直感を高めるだけでなく、明晰な思考を確立し、コミュニケーションを向上させるのに役立ちます。


174 Hz - 基礎周波数


この周波数は、痛みを軽減し、安全感と安心感を促進し、肉体的・精神的な癒しをサポートすると信じられている。


285 Hz - ヒーリング周波数


この周波数の音は、特に傷や怪我の肉体的治癒を促進すると信じられている。


963 Hz - 宇宙の周波数


より高い963Hzの周波数は、スピリチュアルな目覚めを促し、松果体を活性化させ、直感やサイキック能力を高める。


1074Hz - スピリチュアル周波数


この高音周波数は、スピリチュアルな成長と気づきを助け、直観力を高め、高次の意識とのコミュニケーションを向上させる。


1174 Hz - バランス周波数


528Hzに代わる高い周波数は、体内のエネルギーセンターのバランスを整え、精神の明晰さと覚醒を促し、創造性と生産性を高める働きがある。 

 


音楽を楽しむ上で重要視したいこと

 

一般的に、こういった周波数が癒やしの効果を持つと言われているが、結論としては、これらの治癒効果は、検証実験の回数が少ないため、実際の効果は限定的であると言わざるを得ない。そもそも音楽自体は、異なる周波数が複合して成立しており、一つの周波数から構成されることは稀有であるため、単一の周波数の効果を抽出することは妥当ではない。

 

単一の音から倍音が発生するという性質を考えると、音楽は「多次元の周波数から成立する」と考えるのが妥当である。単一の周波数から構成される連続音は、音波であり、音楽とは言えない。ここで言いたいのは、現時点の科学的には検証しえない音楽の神秘的な領域が残されているということである。さらに言えば、現時点の科学では測定不可能な領域にある周波数も存在する可能性もある。

 

さらに、私達が信頼してやまない科学という分野が日夜、それまで常識とされていた一般的な学説や推論が覆されることでる定説が成立されるということを鑑みるに、科学的な検証が行われたというのも、都合の良い検証結果が恣意的に抽出されたに過ぎず、一般的なエヴィデンスに対する反証や疑義が含まれていることを付言しておきたい。

 

そこで、音楽ファンに対して推奨したいのは、ジャンルを問わず、自分たちが心地よいと感じたり、癒やされたり、心から熱中出来るような音楽を、鉱脈にある金を掘り当てるように、「自ら探しあてる」ということである。そもそも、人間には直感が備わっており、何らかの外的な効果を及ぼさずとも、自分の体に合ったものがおのずとわかるはずである。一般的に心地よいと言われているものが、必ずしもある個人にとって最善とは限らないように、それぞれの各個人の意識に合った音楽を聴くことが重要ではないかと結論付けたい。あくまで上記の周波数は、一般的に科学的な効果があると言われている俗説に過ぎず、治療効果を保証するものではないということを留意しておくことが大切である。治療法というのも、一つの手法から成り立つのは稀なのであり、一般的な定説を過信せず、時宜にかなった処置を図ることが最善である。

 

©︎Rush Zimmerman

Madi Diaz(マディ・ディアス)がホリデーソング「Kid on Christmas」を発表した。ナッシュヴィルを拠点に活動するシンガーソングライターは、Hovvdy(フーヴディー)のチャーリー・マーティン、Carrie K(Noah Kahan, mxmtoon)と共作した。以下よりチェックしてほしい。


「夏の暑い日、ツアーの合間にキャリー・Kの家に寄って曲を書いた。ニュージャージーのどこかで歌い始めたんだけど、友人のスタジオで古いアップライトピアノで弾こうとしているうちに、そのメロディが浮かんだ。この曲はテネシーに戻るまでずっとついてきて、外の気温が100度を超えていることを考えると、とても不謹慎に感じた。体全体がホリデーを欲していたのよね」


マディ・ディアスは、今年ニューアルバムをリリースし、2025年のグラミー賞2部門にノミネートされている。『Weird Faith』(Antiから発売)が最優秀フォークアルバム賞、そしてケーシー・マスグレイヴスをフィーチャーした「Don't Do Me Good」が最優秀アメリカーナ・パフォーマンス賞の候補作に挙がっている。

 

 

 「Kid on Christmas」

 

©Jason Thomas Geering


ブルックリンの三人組、Bambara(バンバラ)は、ニューアルバム『Birthmarks』を2025年3月12日に北米ではWharf Cat Recordsから、その他の地域ではBella Unionからリリースすることを発表しました。

 

2020年の『Stray』、2022年の『Love on My Mind EP』に続くこのアルバムは、共同プロデューサーのグラハム・サットンと共同で制作されました。

 

本日、ブルックリンの3人組は、リード・シングル「Pray to Me」のウィリアム・ハート監督によるビデオを公開した。また、アルバムのジャケットとトラックリストは以下を参照のこと。


新曲について、バンドのリード・バテは次のように語っています。

 

「片目の男が、ポケットにナイフを忍ばせ、妄想の対象であるエレナを射止める計画を立てて、田舎のカラオケ・ナイトにやってくる。エレナがバーで見知らぬ男とキスしているのを見たとき、彼の妄想はもろくも崩れ去る。音楽は、殺人的なクライマックスに向かって渦巻き始める片目の男の精神を映し出しながら、騒々しいマニアックさとともに樽の中に入っていく」


『Birthmarks』には、サックス、トランペット、ヴィブラフォン、ハープ、ヴァイオリン、ヴィオラなどの楽器が加わっている。MidwifeのMadeline JohnstonとCrack CloudのEmma Acsもゲストボーカルとして参加している。


リードの双子の弟でドラマーのブレイズ・バテは次のように説明しています。「グラハムは、僕らを古い習慣から遠ざけ、曲の中の同じ瞬間を全く違う照明や違うカメラアングルで考えさせるのがうまかった。セードやポーティスヘッドのような、映画のような空間にいるような音楽についてたくさん話し合った。ある瞬間が息づくようにしたかったんだ」



Bambara 『Birthmarks』

Label: Wharf Cat/ Bella Union

Release: 2025年3月12日


Tracklist:


1. Hiss

2. Letters From Sing Sing

3. Face Of Love

4. Pray To Me

5. Holy Bones

6. Elena’s Dream

7. Because You Asked

8. Dive Shrine

9. Smoke

10. Loretta

 

 「Pray to Me」

 

©︎Dave Free

11月22日、ケンドリック・ラマーがニューアルバムを発表した。『GNX』というタイトルで、コンプトンのラッパーが同じタイトルの1分ほどのティーザーを公開した数分後に、何の前触れもなく届いた。正真正銘のサプライズアルバムである。楽曲のストリーミングは以下から。


これは、ビルボード・ホット100のトップを飾った今年5月に発表された「Not Like Us」以来となるラマーの新曲で、2022年のLP『Mr.Morale and the High Steppers』に続く作品である。「Not Like Us」のビデオに収録された「squabble up」のスニペットも収録されている。また、ラマーの「The Heart」シリーズ第6弾となる「heart pt 6」も収録されている。


シンセポップ・スーパーグループ、レッド・ハースのメンバーであるジャック・アントノフとSounwave(サウンウェイブ)が主にプロデュースを担当した。サウンウェイブは全曲にクレジットされており、アントノフは「Peekaboo」以外の全曲を手掛けている。レッド・ハースのサム・デューは、SZAとインクも参加している「Luther」にゲスト参加している。「Gloria」にはSZAも参加しており、メキシコのミュージシャン、デイラ・バレラとインクが参加している。


その他、Mustard、Kamasi Washington、Terrace Martin、Dahi、M-Tech、Noah Ehler、Craig Balmoris、Tyler Mehlenbacher、Bridgeway、Rose Lilah、Sean Momberger、Tim Maxey、Tane Runo、Juju、Rascal、Kenny & Billy、Deats、そしてLamar自身がプロデューサーとしてクレジットされている。今年初め、DJスネイクはラマーの新プロジェクトにテイラー・スウィフトがサプライズ出演することを示唆していたが、これは事実ではないようだ。


来年、ラマーはスーパーボウルのハーフタイム・ショーを行う予定。収録曲「Not Like Us」は2025年のグラミー賞で年間最優秀楽曲賞と年間最優秀レコード賞にダブルノミネートされている。

 


 

 

『GNX』の注目曲  



「Not Like Us」


多くの人々が単発のシングルだと考えていたがそうではないことが明らかになった。今年7月5日、ケンドリック・ラマーは、ドレイクとの確執から生まれた最大のヒット曲「Not Like Us」の待望のビデオを公開した。

 

デイヴ・フリーとラマーが監督を務めたこの映像には、コンプトンのラッパーが故郷で祝杯を挙げる様子が収められており、楽曲のプロデューサーであるマスタード、クランプのゴッドファーザーであるトミー・ザ・クラウン、元トロント・ラプターのデマー・デローザン、アンソニー・"トップ・ドッグ"・ティフィスらがカメオ出演している。

 

ラマーの婚約者ホイットニー・アルフォードと2人の子供もリビングルームで一緒に踊っており、ドレイクが「Family Matters」でフリーとアルフォードの間にラマーの子供をもうけたと主張していることに反論している。ラマーは6月下旬、故郷のロサンゼルスで6月1日に開催されたポップアウト・コンサートの後「Not Like Us」を撮影、その中で「Not Like Us」を6回演奏した。 

 

 「Not Like Us」

 

 

 「scabble up」

 

ケンドリック・ラマーがGNXトラック「scabble up」のミュージックビデオを公開した。ラッパーは「Not Like Us」のビデオでこの曲をプレビューしており、Calmaticが監督した新しいクリップでは、彼が「How to Be Like Kendrick for Dummies」という本を読み、"Jesus Saves Gangsters Too "と書かれたサインを持っている。


ケンドリック・ラマーは11月22日(金)に『GNX』をサプライズ・リリースした。2022年の『Mr. Morale & the Big Steppers』に続く本作には、サウンウェイブ、ジャック・アントノフ、マスタード、カマシ・ワシントン、SZAなどが参加している。

 

「scabble up」

Matthew Herbert

Matthew Herbert(マシュー・ハーバート)がロンドン・コンテンポラリー・オーケストラとともに昨年リリースした『The Horse』のスペシャル・エディションが11/29に自身のAccidental Recordsよりリリース。下記より収録曲「The Horse Is Put To Work」をチェックしてみてください。


全編で馬の音を用いて作り、Shabaka HutchingsやTheon Cross、Evan Parkerら豪華ゲストの参加も大きな話題となった本作は、先頃英国の優れた作曲家に送られるアイヴァーズ・クラシック賞においてベスト・ラージ・アンサンブル作曲賞を受賞するなど高い評価を得ています。


今回リリースされるスペシャル・エディションには14の未発表リミックスとボーナストラックが含まれており、リミキサーには、Osunlade、Robag Wruhme、Richard Skelton、Gazelle Twinなど多彩な面々が参加、aus(11月29日にニューアルバム『Fluctor』をリリース)によるリミックスも2曲収録されています。



「The Horse Is Put To Work」



Matthew Herbert 『The Horse』 Special Edition




タイトル:The Horse Special Edition

アーティスト:Matthew Herbert x London Contemporary Orchestra

発売日:2024年11月29日

レーベル:accidental


tracklist:

1. The Horse's Bones Are In A Cave

2. The Horse's Hair And Skin Are Stretched

3. The Horse's Bones And Flutes

4. The Horse's Pelvis Is A Lyre (feat. Jali Bakary) 

5. The Horse Is Prepared

6. The Horse Is Quiet by Chris Friel

7. The Horse Is Submerged (feat. Evan Parker)

8. The Horse Is Put To Work by Ross Stringer

9. The Rider (Not The Horse)

10. The Truck That Follows The Horses

11. The Horse's Winnings 

12. The Horse Has A Voice (feat. Theon Cross) 

13. The Horse Remembers 

14. The Horse Is Close 

15. The Horse Is Here (feat. Danilo Pérez)


Remixes & Versions:

16. The Horse Is Here (Momoko Gill Remix)

17. The Horse Is Put To Work (Yoruba Soul Mix)

18. The Rider (Not The Horse) Robag Wruhme's Arada Samoll Rehand

19. The Horse's Winnings (Gazelle Twin Remix)

20. The Horse Is Not Quiet (aus UMA Remix)

21. The Horse Is Quiet Cause Sleep (aus Reprise)

22. The Rider (Film Version) by Sebastian Lelio

23. The Horse's Pelvis Is A Lyre (Nyokabi Kariũki Remix) 

24. The Horse's Winnings (Orchestral Version) 

25. The Horse Is Mechanised 

26. The Horse In Agriculture 

27. The Horse Is Put To Work (Osunlade's Gallop Mix) 

28. The Horse Is Prepared (Richard Skelton Remix) 

29. The Horse's Winnings (Percussion Version)

 

 

Matthew Herbert:

 

マシュー・ハーバート(Matthew Herbert ) は、イギリスの電子音楽作曲家、DJである。 BBCの録音技師を務めた父のもとに生まれ、幼い頃からピアノとヴァイオリンを学ぶ。

 

エクセター大学に在学し、演劇を専攻した後、1995年にウィッシュマウンテン(Wishmountain)名義にて音楽活動を開始する。以降、ハーバート(Herbert)、ドクター・ロキット(Doctor Rockit)、レディオボーイ(Radioboy)、本名のマシュー・ハーバート(Matthew Herbert)など様々な名義を使い分けている。 

 

その作風はミュジーク・コンクレートに大きな影響を受けている。アルバム『Around the House』では洗濯機やトースター、歯ブラシといった日常音を採集し、独自のディープハウスを展開。また政治色の強いレディオボーイでは、グローバリズムに抗議し、マクドナルドやGAPの商品を破壊した音をサンプリングし、即興的にビートを構築するといったパフォーマンスを行う。 

 

2000年には「Personal Contract for the Composition Of Music (PCCOM)」をマニフェストとして掲げ、サンプルの剽窃行為が横行する今日の音楽制作の状況を痛烈に批判し、音楽の権利を保護する運動を率先している。 2005年には、Akeboshiのメジャーデビューアルバム『Akeboshi』にて、ハーバートの楽曲「The Audience」がカバーされた。 2006年2月、ネットワーク上の国家、Country Xを立ち上げる。

 

 

1960年代をベトナム戦争の陸軍の精鋭部隊(精確には劣等兵だったという噂もある)として過ごした後、ジミ・ヘンドリックスは本格的にミュージシャンの道を歩み始めた。アイク&ティナ・ターナー、アイズレー・ブラザーズのバックバンドを経験した後、有名ミュージシャンのバックで演奏し、全米ツアーに同行した。リトル・リチャードのツアーにバックバンドとして同行したこともある。1966年7月、キース・リチャードの恋人だったリンダ・キースの仲介によりアニマルズのベーシスト、チャス・チャンドラーに見出され、9月にヘンドリックスは渡英した。当時、チャンドラーはヘンドリックスの演奏について次のように回想している。「ギタリストが三人くらい弾いているのかと思ったら、実際はジミ一人だけだったのに驚いた」 

 

ジミ・ヘンドリックスは、自分のブルースに根ざしたロックがイギリスの音楽シーンに受けいられるか不安に思っていた。ヘンドリックスは軍隊に従軍する前に、いくつかのアマチュアバンドを経験していたが、このとき初めて最初の自身のバンド、エクスペリエンスを結成した。ベースは、ノエル・レディング、ドラムは、ミッチ・ミッチェルが担当した。(何度かわざと除隊になるため、怠慢な仕事やわざと同性愛者のフリをするなど)長い軍隊生活でフラストレーションが溜まっていたのか、ライブバンドとしての活動を始めるや、ヘンドリックスは、潜在的なクリエイティビティを爆発させ、およそ数カ月間に、以降の代表曲のほとんどを書き上げたのだ。

 

デビューシングル「Stone Free」、「Purple Haze」、「Foxey Lady」、「The Wind Cries Mary」、「Highway Chile」、「Are You Experienced」などである。ほどなくライブ活動を開始した。彼のトレードマークで、ワイト島やウッドストックでの代名詞となる、きらびやかなサイケデリックな衣装、また、アグレッシヴにギターをかき鳴らしながら、ステージを所狭しと動き回るステージスタイルは、すでに最初期に完成されていた。この頃、デビュー・シングル「Stone Free」の全英チャート4位という偉業のお膳立ては整っていたのだった。

 

1966年、ジミ・ヘンドリックスは、生まれて初めてロンドンでクリスマスを過ごした。新天地での生活は彼に大きな刺激を与えたのは想像に難くなく、他のいかなる時代よりも活動的な時期を過ごした。彼はイギリス、フランス、ドイツを行来しながら、エクスペリエンスと一緒に制作した音楽を録音し、イギリスのファンに支持され、マスメディアからその実力を認められるようになった。

 

ヘンドリックスを含めたエクスペリエンスの面々は、この年、象徴的な年末を過ごした。ボクサーのビリー・”ゴールデンボーイ”・ウォーカーと、その弟フィルが共同経営していたロンドン北東部の「アッパーカット・クラブ」で演奏する機会を得た。 元々、アイススケートリンクを改築したこの会場は、オープニングセレモニーを終えたばかりで、ストラトフォード・エクスプレス紙に「豪華なビッグ・ビートの宮殿」と称されるほどだった。ここでは月曜日の定例イベントが開かれていた。「ボクシング・デー、家族みんなでご一緒に」と華々しい広告が打たれたアッパーカットのポスターには、午後のイベントとしてエクスペリエンスのショーが予告されていた。入場料は、男女ごとに分けられ、紳士は5シリング、婦女は3シリング。この週のイベントには、他にも、The Who、The Pretty Things、The Spencer Davis Groupが出演した。

 

驚くべきことに、彼の代表曲の一つ「Purple Haze」は、午後4時に始まるショーの開始を待っている合間に書き上げられた。「紫のもや」について、ヘンドリックス自身は「海の中を歩いている夢について書かれた」と公にしている。この時期、サンド社が同様の文言の入ったカプセルを販売しており、LSDの暗喩ではないかというの説もあるが、それだけではない。彼のロンドンとの出会いに触発され、「クリスマス・キャロル」などの著作で知られるチャールズ・ディケンズの「大いなる遺産」(1861)の54章の一節から引用された。「There was the red sun, on the low level of the shore, in a purple haze、fast deepening into black..」(海岸の低い位置に、紫色の靄に包まれた赤い太陽があった)という箇所に発見出来る。

 

ヘンドリックスのルームメイトでマネージャーを務めたチャンドラーによると、彼はすでに、10日前には「Purple Haze」の象徴的なギターリフを思いつき、ある程度曲のイメージがまとまっていたという。この曲の誕生について、次のように回想している。「その日の午後、彼が楽屋でリフを演奏しはじめたので、私は’’残りを書いてほしい’’と言った。彼はそのことばに素直に従った」 この曲では、西洋音楽としては、一般的に忌避されるトライトーン(3全音とも言われる。減5度、増4度の進行をいう。中世音楽では悪魔の進行とも呼ばれ、和声法の禁則的な事項として知られる)が登場し、後に「ヘンドリックス・コード」と呼ばれるようになった。

 

デビュー・シングル「Stone Free」はイギリスで受けが良かったが、「Purple Haze」に関してはアメリカで支持された。シングルとして発売されると、ビルボードホット100で65位にランクインし、デビューアルバム『Are You Experienced』の収録曲としては最高位を記録している。結果的に、1stアルバムはビルボード200で5位にラインクインし、500万枚の売上を記録、一躍両国でジミ・ヘンドリックス&エクスペリエンスの名を有名にしたのだった。 


歌詞の側面ではジミ・ヘンドリックスは相当この曲に苦心した形跡がある。それは当初のサイケデリックなイメージをどのように昇華するのか、言葉をまとめ上げるのがスムースにいかなかったことが要因でもある。当初、ヘンドリックスは「Purple Haze」のために1000語を費やしたが、結局、最終バージョンでは100語に削られた。そもそもヘンドリックスの音楽では言葉は補足的であるため、多くの歌詞を必要としないのが特徴である。ヘンドリックスのロックの核心は、そのほとんどがギターリフによって語られると言っても大げさではないのだろう。

 

 

【Weekly Music Feature】 Dean&Britta  Sonic Boom

Dean & Britta  - Sonic Boom

 

国境を越え、インディーズ・ミュージックの伝説的なミュージシャンが集い、『We Are The World』のようなクリスマスのためのアルバムを制作した。シンプルに言えば、このホリデーソングは、平和とは外側ではなく、内側からもたらされる。そんなことを教えてくれることだろう。


Dean Wareham(ディーン・ウェアハム)は、Galaxie 500を結成し、1988年から90年にかけてRough Tradeから3枚の傑作アルバムを発表。彼の次のバンド、Luna(ルナ)はエレクトラとベガーズ・バンケットに7枚のアルバムを残している。一方、Britta Philips(ブリッタ・フィリップス)の最初の音楽活動は、ジェム(ジェム&ザ・ホログラムズ)の歌声だった。その後、Ben Lee(ベン・リー)のバンドでベースを担当し、2000年にはLunaにベースとして参加した。


Dean&Britta(ディーン&ブリッタ)はデュオとして数枚のアルバムを録音したほか、Noah Baumbach(ノア・バームバック、米国の映画監督、アカデミー賞にノミネート)のために2本の映画音楽を担当している。『The Squid & the Whale』、そしてもう一作は『 Mistress America』。


Sonic Boom(ソニック・ブームは、伝説的なイギリスのバンド、Spacemen 3(スペースメン3)の共同創設者であり、その後、Spectrum(スペクトラム)や実験的なE.A.R.を結成し、MGMT、Beach House、Panda Bearなどのレコードをプロデュースしている。Panda Bear(パンダ・ベア)とのコラボレーションによる画期的なアルバム『Reset』(2022年)などが有名。


ディーン・ウェアハムとソニック・ブームの友情が始まったのは今から30年以上前のこと。1989年8月、ロンドンのクラブ「サブタニア」で行われたスペースマン3の最終公演の後、バックステージで彼らは出会った。その後も連絡を取り合い、時折ライヴステージを共にする機会に恵まれた。2002年、ソニック・ブームが「Sonic Souvenirs EP」のためにディーン&ブリッタの6曲をリミックス、初のコラボを実現させた。それ以来、彼らはツアーを共にし、多くの曲でコラボレーションしてきた。『A Peace of Us』はトリオとして初のフル・アルバムである。

 

インディの青春の集合体の砦として、60年代初期のポップ、ガレージ、カントリー、ジェームズ・ボンドのサウンドトラック、クリスマス・キャロル、そしてエレクトロニカからインスピレーションを得たコレクションに命を吹き込んだ。ディーン・ウェアラムは、DJの友人クリスの言葉を思い出している。「愛と憎しみ、喜びと心の痛み、ノスタルジア、後悔、期待、フラストレーションなど、音楽を通してクリスマスのあらゆる感情を体験することができるはずだ」


ホリデー・アルバムへの挑戦は大きな意味を持つ。長年にわたるいくつかのカヴァー・チューン、パンデミック時のクリスマス・スペシャル、そして最終的にはL.A.のディーン&ブリッタとポルトガルのソニック・ブームとの共同セッションによって拍車がかかった。トリオ全員がボーカルを担当し、ギターはウェアハム、ベースとキーボードはフィリップス、エフェクトとミックスはソニックが担当した。「ビング・クロスビー...オン・アシッドみたい」とブリッタは付け加え、トラックリストは、ホリデーが複雑で悲劇的なものであることを思い出させてくれる。


ホリデーソングの陽気な雰囲気にはよくあることだが、このクリスマス・アルバムにはほろ苦さが漂っている。ウォーリアムはデヴィッド・バーマンの最後の曲のひとつ「Snow Is Falling In Manhattanーマンハッタンに雪が降る」を歌っているが、この曲は、ディーンが "ホリデー・クラシックになる運命にある "と信じている。その歌詞は、バーマンの悲劇的な死を予感させる。"歌は時の中に小さな部屋を作り/歌のデザインの中に宿り/ホストが残した亡霊がいる"


クリスマス・ブルースは、ウィリー・ネルソンの「Pretty Paper」で再び表面化する。ここではブリッタとソニック・ブームのデュエットで、彼らの脈打つシンセを多用したプロダクションが、この曲を明るいホンキートンクではなく、暗いナイトクラブ向けにアップデートしている。


このコレクションは、通常のクリスマスの定番曲は避けているが、クラシックなインディー・ヘイズのファンは、「Peace on Earth / Little Drummer Boy」(ビング・クロスビーとデヴィッド・ボウイが1977年にTVでデュエットするために作られた曲)に新しいお気に入りを見つけるだろう。「私たちが一番好きなのはマレーネ・ディートリッヒのドイツ語版で、それが出発点だった」とウォーリアムは言う。この曲は3人が一緒に歌う。ウォーリアムのテナー、ソニック・ブームのバリトン、そしてフィリップスの落ち着いたコントラルトを聴くことができる。


「コラボレーションが燃料であるなら、平和と相互理解が火であることは間違いない。クリスマスは子供のためのものだしね」とディーンは言う。


ソニック・ブームはこう付け加える。「あるいは、私たち皆の中にいるインナーチャイルドのために。すべての人に善意を。来る年への期待と不安。そして暗闇の中の光。このお祭りが始まった場所」

 

 

『A Peace Of Us』 Carpark 

 

ジョン・レノンとは異なり、ルー・リードは明確にはクリスマス・アルバムというのを制作したことがない。しかし、よく調べてみると、『New York』というアルバムで、ベトナムからの帰還兵へ捧げた「X'mas In February(季節外れのクリスマス)」という深い興趣のある曲を歌っていた。ルー・リードは、その人物像を見ても、それとなくわかることであるが、一般的に見ると、少し回りくどいというべきか、直接的な表現を避けて、暗喩的な歌を歌うことで知られている。


彼は、ジョン・レノンのような典型的なホリデーソングを歌うのを避け、反戦というテーマをかなり慎重に扱ったのである。もうひとつ重要視すべきなのは、リードは単なる左翼的な曲を歌ったわけではない、ということである。彼は、自分の幸福ではなくて、他者の心の傷や仕合わせのために歌を捧げたということを忘れてはならない。そう、ルー・リードは、スーザン・ソンタグが指摘するような他者の痛みのために歌をうたったのだ。祈る必要はないのだが、時々、エゴを離れ、他者や大いなる存在について思いを巡らすことはそれほど悪いことではない。

 

ディーン&ブリッタ、ソニック・ブルームのクリスマス・アルバムは、直接的な反戦のテーマこそ含まれていないが、内的な平和のメタファーを歌うことで、リードのクリスマスソングに準ずる見事な作品を完成させている。同様に、ジョン・レノンの「War Is Over」のようなスタンダードな選曲から、17世紀のイングランド民謡「Greensleeves」、あるいは、18世紀のオーストリアの教会のクリスマス・キャロル「Silent Night (きよしこの夜)」を中心として、クリスマスソングの名曲をいくつか取り上げている。三人とも、インディーズ・ミュージック界の名物的な存在で、そして、音楽の知識がきわめて広汎である。このアルバムでは、驚くべきことに、ロックからクラシック、フォーク/カントリー、オールディーズ(ドゥワップ)までを網羅している。

 

アルバムは、デヴィッド・バーマンのカバー「The Snow Is Falling In Manhattan」で始まるが、ディーンが空惚けるように歌う様子は、ルー・リードの名曲「Walk On Wild Side」にもなぞらえても違和感がない。Galaxie 500の時代から培われたインディーロックのざらついた音質、そして、斜に構えたような歌い方、ソニック・ブームのプロデュース的なシンセサイザー、Wilcoのような幻想的なソングライティング、これらが組み合わされ、見事なカバーソングが誕生している。あらためてわかることだが、良い曲を制作するのに多くの高価な機材は必要ではないらしい。

 

カバー・アルバムやコンセプト・アルバムというのは、一般的な楽曲制作よりもハードルが高いので、うかつに手を出せない。それはなぜかというと、作曲的な知識はもちろん、編曲の能力が必須になるからである。クラシック音楽の観点から言うと、カバーソングというのは、変奏曲(Variation)の一形式であり、きわめて難易度が高い。そしてカバーは、原曲とまったく同じものになってはいけないが、原曲の筋書きを書き換えてもいけない。つまり、制約や禁則が意外と多いので、作曲のマイスターでも編曲には手こずることがある。

 

クリスマス・アルバムというと、基本的には、懐古的なサウンドがテーマになる場合が多いが、ディーン&ブリッタ、ソニック・ブームの狙いはおそらく、ホリデーソングの新しい側面を提示することにあったのだと思う。そして、原曲を忠実に解釈した上で、今まで知られていなかったクリスマスソングの面白さを提供してくれている。特に、ウィリー・ネルソンのカバー「Pretty Paper」は、シンセサイザーをフィーチャーしたエレクトロ・ポップで、ニューウェイブ・サウンドを参照し、原曲とは異なる曲に生まれ変わっている。編曲も見事であり、オーケストラのパーカッション(ティンパニ)がこのカバーソングにダイナミックな効果を及ぼしている。

 

ソニックブーム、ブリッタの両者にとっては、実際的な制作を行っていることからもわかる通り、映画音楽というのが、重要なファクターとなっているらしい。ジェイムス・ボンドの『007』シリーズでお馴染みのニーナ・ヴァン・バラントの曲「Do You Know How Christmas Trees Are Grown?」では、映画音楽に忠実なカバーを披露している。特に、この曲ではブリッタがメイン・ヴォーカルを歌い、The Andrews Sisters(アンドリューズ・シスターズ)のような美麗な雰囲気を生み出す。曲の途中からはデュエットへと移行していき、映像的な音楽という側面で、現代的なポピュラーの編曲が加わる。プロデュースのセンスは秀逸としか言いようがなく、ソニック・ブームは、シンセサイザーで出力するストリングスで叙情的な側面を強調させる。

 

ロジャー・ミラーのカバーソング「Old Toy Train」では、ディーンがルー・リードのオルタナティヴフォークやバーバンクサウンドの影響下にある牧歌的な雰囲気を持つフォークソングを披露している。Velvet Undergroundのデビューアルバムの「Sunday Morning」、『Loaded』の「Sweet Jane」の延長線上にあるUSオルタナティヴの源流に迫る一曲である。どうやら、彼らがアーティスト写真でサングラスを掛けているのにはそれなりの理由があるようだ。

 

その後、年代不明のポピュラーの果てしない世界に踏み入れるかのように、まもなく到来するクリスマスのムードを盛り上げる。 「Snow」は、ミュージカルをモチーフにした時代を超えるポピュラーソングで、ブリッタがメインボーカルを歌い、懐かしきオールディーズの世界へリスナーを招待する。フランク・シナトラ、ルース・ブラウンといった往年の名歌手の普遍的な音楽を彷彿とさせるこの曲は、ピアノ、シンセ、そしてボーカルのコラージュによって、美しくも儚いインディーポップサウンドへと昇華されている。クラシックとしての威厳、そしてインディーズミュージックとしてのラフさやユニークさが組み合わされた見事なクリスマスソングだ。

 

以降の二曲は、古典的な定番曲が選ばれている。「Silver Snowfales」はイングランド民謡、及び、ケルト民謡の定番曲のカバー。特に、シンセサイザーの生み出す魔術的な響きがこの曲のアレンジを決定付けている。また、デュエット形式のコーラスも、中世ヨーロッパのミステリアスな世界観を形作る働きをなしている。この曲のギターは、リュートのように鳴り響き、そして二人のコーラスは、イタリアン・バロックのような古典的な響きに縁取られている。ケルト民謡の持つ神話的な魅力に、古楽のような要素をもたらしたアレンジの手腕は実に見事である。


クリスマス・キャロルの名曲「Silent Night(きよしこの夜)」では、メインボーカルに合わせてバリトンのボーカルがベースラインの役割を担う。さらに続いて、ブリッタのアルトの音域にあるボーカルが掛け合わされる。古典的なオーストリアのクリスマス・キャロルは、原初的な幸福感を失わず、オーケストラパーカッションとともに、サイケデリックな編曲が加えられている。

 

 ビング・クロスビーのカバー「You're All I Want For Christmas」は、最初期のザ・ビートルズのソングライティングに影響を及ぼしたと言われるガールズ・グループ、The Ronettes(ロネッツ)の伝説的な名曲「Be My Baby」を彷彿とさせるバスドラムのダイナミックなイントロから始まり、果てなきドゥワップ(R&Bではコーラス・グループと呼ぶ)の懐かしき世界へと踏み入れていく。この曲では、ブリッタが夢見るかのようなドリーミーな歌声を披露し、AIのボーカルや自動音声では再現しえない人間味あふれる情感豊かなポピュラーソングを提供している。


ブリッタの歌声は音楽の素晴らしさを教えてくれるだろうし、そしてクリスマスのモチーフとなる鐘の音は、まるで雪道の向こうからサンタクロースが橇を引いてやってくる幻想的な情景を端的に描写するかのようである。ソニック・ブームの語る「暗闇に光を」という言葉は、宣伝でもなければキャッチコピーでもない。真心から出た言葉である。赤子、子供から大人、そして老人にいたるまで、彼らはクリスマスソングを介して、大きな夢を与えようというのである。


「Christmas Can't Be Far Away」は、エディー・アーノルドのカバーで、この曲もまたモノクロ映画の時代のサウンドトラックを聴くようなノスタルジアに溢れている。前曲と同様に、彼らは、戦争で荒廃する世界に光があること、そして、善意がどこかに存在するということ、また、信頼を寄せること、こういった人間の原初的な課題を端的に歌いこんでいる。分離する世界を一つに結びつけるという、音楽の重要なテーマが取り入れられていることは言うまでもない。


 

仕合わせなクリスマスが間近に迫ってくるのを予兆するかのように、彼らのカバーソングはより音楽の持つ核心的な領域に入り、そして楽しげな感覚を引き上げる。それはボーカル、コーラス、パーカッション、ギター、シンセ、パーカッション、シンプルな構成によって繰り広げられる。ほとんど難しい晦渋な音楽は登場しない。音楽の持つシンプルさを彼らは熟知しているのだ。特に、アルバムの終盤の楽曲と合わせて、「He’s Coming Home」は、素晴らしいハイライトである。バンジョーやスティール・ギターの演奏を基に軽快なムードを作り出し、ブリッタがアンドリューズ・シスターズやカレン・カーペンターのように、懐かしく泣けるようなクリスマスソングを巧みに歌い上げている。この曲の原曲の歌詞は、おそらく、制作者から見た他者の人生の一部分が切実に歌われており、それがゆえに重要な説得力と実感を持ち合わせている。

 

 「He’s Coming Home」

 

 

 

「Little Altar Boy」はカーペンターズのカバーではないかと思われる。ある意味では「オルタナティヴ三銃士」と言えるディーン&ブリッタ、ソニックブームは、この曲を古典的な風味を残しながら、原始的なシンセポップへと再構成している。比較すれば、カバーとわかるが、実際的に楽曲の雰囲気は全く異なっている。いわば、ローファイ、スロウコアを始めとするニッチなインディーズ精神がこのトラックから、ぼんやりと立ち上る。さらにドアーズのレイ・マンザレクのようなレトロなシンセが、フラワームーブメントの最中に発表されたローリング・ストーンズの『Thier Satanic Majesties Request』のようなサイケ・ロックのアトモスフィアを作り出す。


 「If We Make It Thought December」は、おそらくマール・ハガードが歌った曲で、クリスマスベルとフォーク・ミュージックが組み合わされたカバーソングである。ただ、この曲はブリッタがメインボーカルを取り、バンジョーのアレンジによる楽しげな雰囲気を付け加え、原曲にはない魅力を再発掘している。カバーアルバムでありながら、トリオの音楽的な核心を形成するメッセージ性は強まり、最後の二曲でディーン&ブリッタ、ソニック・ブームの言わんとすることがようやく明らかになる。


ビング・グロスビーとデヴィッド・ボウイの1977年のデュエット曲「Peach On Earth/ Little Drummer Boy」では、ドゥワップの歌唱法を用い、Velvet Undergroundから、Galaxie 500、ヨ・ラ・テンゴのオルタナティヴのムードを吸収した雰囲気たっぷりのロックソングへと昇華している。コーラスワーク、そしてアコースティックギターの演奏を中心に、オーケストラのスネアを使用し、ボレロのようなマーチングのリズムを取り入れ、見事なアレンジを披露している。

 

 

カバーの選曲が絶妙であり、また、オリジナル曲の魅力を尊重しながら、どのように再構成するのかという端緒が片々に見いだせるという点で、『A Peace Of Us』は多くのミュージシャンにとって、「カバーの教科書」のようなアルバムとなるだろう。本作のクローズには、ジョン・レノン/オノ・ヨーコの名曲「Happy X'mas(War Is Over)」が選ばれている。こういった名曲のカバーを聴くたび、ヒヤヒヤするものがある。(原曲も持つイメージが損なわれませんようにと祈りながら聴くのである)しかし、これが意外にマッチしているのに驚きを覚える。 分けても、サビにおける三者の絶妙なコーラスは、繰り返されるたび、別の音域に移り変わり、飽きさせることがほとんどない。そして、ジョン・レノンの全盛期のソングライティングに見受けられる瞑想的な音楽性は、このトリオの場合は、幸福感を強調した瞑想性へと変化している。

 

このカバーを聴くと、ジョン・レノンは、特別なミュージシャンではなく、むしろ一般的なファンや子供が気安く口ずさめるようにと、「Happy X'mas(War Is Over)」を制作したことが理解出来るのではないか。音楽は特別な人のためのものでもなければ、特権階級のためのものでもないことを考えれば、当然のことだろう。果たして戦争のない時代はやって来るのだろうか??

 



94/100

 

 

 

「Snow」

 

 

■ Dean & Britta  - Sonic Boom 『Peace Of Us』は本日、Carparkから発売。ストリーミングはこちら

 

 

Saya Gray

Saya Gray(サヤ・グレイ)がデビュー・アルバム『SAYA』の最新プレビューとしてダイナミックなスケールを持つポップソング「H.W.B」を公開した。

 

今年始めにリリースされた『Qwenty Ⅱ』でも見受けられたようなカットアップのサウンドは健在で、フォークサウンドをコラージュ的に配し、ボン・イヴェール的な手法のインディーポップソングを制作している。精妙に作り込まれたサウンドであるものの、そういった難しさを感じさせないのがお見事。

 

この曲は、2022年の『19 MASTERS』、2023年の『QWERTY I』、2024年の『QWERTY II』という3枚のEPに続くデビューアルバムに収録される。


サヤ・グレイは日本に縁を持つ。2023年秋に日本への航空券を予約し、まるで映画の主人公のように、国をまたいだロードトリップで一人旅をすることで、精神的なしがらみから解放された。


Saya Grayによるデビュー・アルバム『SAYA』は2025年2月21日にDirty Hitよりリリースされる。


「H.W.B」


世界的に話題を呼んだ再結成と復活ツアーのニュースに続き、オアシスは本日、待望の来日公演の開催を発表しました! 


2009年以来、実に16年ぶりとなる来日公演は、Live NationとSJMがプロデュースする「Oasis Live '25」ワールドツアーの一環として、2025年秋、東京ドームにて10月25日(土)、26日(日)の2日間に渡り開催されます。


日本のみんな

俺らは君たちのことを忘れてないぜ。

Oasisが来年会いに行くよ。


チケットは、11月22日(金) 正午12時から、11月26日(火) 23時59分まで、チケットぴあ独占先行販売(抽選受付)を実施します。一般発売は、12月7日(土)午前10時です。


全世界で話題沸騰の歴史的なワールドツアーがいよいよ日本にやってきます。この貴重な2日間をお見逃しなく!



◾️Oasis Live '25


東京ドーム 

2025年10月25日(土)

OPEN 15:30 | START 18:00


2025年10月26日(日)

OPEN 15:00 | START 17:30