ロネッツに始まり、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、そして、ブルース・スプリングスティーン、ラモーンズに至るまで、60年代以降の録音技術に革新をもたらしたフィル・スペクター。彼は、パンデミックの最初期に亡くなっている。日本のポップスにも影響を与え、大瀧詠一や山下達郎の録音作品にも影響を与えたとの諸説がある。フィル・スペクターが生み出した録音技術の中で、最も有名なのが「Wall of Sound(ウォール・オブ・サウンドー 壁に反響するサウンド)」である。
一般的な解釈としては、スタジオの壁に反響する音響(エコーチャンバー)を用いた録音技術として知られている。この名称「Wall Of Sound」を聴くと、彼が多重録音、つまりジャマイカで発生したダブのような形式で数々の名作を録音したと思う方もいるかもしれないが、事実はどうやら少し異なるようだ。どころか実際はそれとは正反対だ。フィル・スペクターは3トラックのマルチトラックレコーダーを使用して、彼はピアノ、ベース、ギター、コーラス、それからオーケストラをユニゾンで重ね、壁に反響するような重厚なサウンドを構築していったのだった。
レコーディング・スタジオの空気感(アンビエンス)が作品全体に影響を及ぼすことがある。あるスタジオで録音された音源は音が敷き詰められているように思えるし、別のスタジオで録音された音源は、ゆったりとした間延びしたような音の印象を覚えることがある。言い換えれば、それは、建物や部屋のアンビエンス(音響や残響の全般のこと)の特性、マイクの位置、そして演奏者の距離が出力されるサウンドにエフェクトを及ぼすということである。フィル・スペクターは、実際的な録音の完成度の高さを目指したのは事実だと思うが、一方、彼はスペースのアンビエンスに徹底してこだわった。つまり、彼はレコーディングルームの空気感をマイクで録音し、モノラルでミックスしたのだった。そして、ウォール・オブ・サウンドの完成のために、不可欠だったのがロサンゼルスにある「Gold Star Studio」である。
Mon. Feb. 24 - Hong Kong, CN @ Xi Qu Centre, Grand Theatre [with Musicians from HK Phil] Wed. Feb. 26 - Seoul, KR @ Sky Arts Hall (SOLD OUT) Thu. Feb 27- Seoul, KR @ Sky Arts Hall (NEW SHOW) Thu. March 6 - Taipei, TW @ Zhongshan Hall (LOW TICKETS) Europe Mon. March 10 - Barcelona, ES @ Paral.lel 62 Tue. March 11 - Valencia, ES @ Teatro Rambleta Thu. March 13 - Milan, IT @ Auditorium San Fedele (LOW TICKETS) Sat. March 15 - Zurich, CH @ Mascotte Tue. March 18 - Hamburg, DE @ Laiszhalle Wed. March 19 - Berlin, DE @ Urania (Humboldtsaal) Fri. March 21 - Utrecht, NL @ TivoliVredenburg (Grote Zaal) (LOW TICKETS) Sun. March 23 - Groningen, NL @ Oosterpoort Tue. March 25 - Antwerp, BE @ De Roma Thu. March 27 - Paris, FR @ La Trianon (LOW TICKETS) Mon. March 31 - London, UK @ Barbican [with 12 Ensemble] (SOLD OUT) Wed. April 2 - Manchester, UK @ Albert Hall Fri. April 4 - Gateshead, UK @ The Glasshouse Sat. April 5 - Glasgow, UK @ City Halls
・North America
Thu. April 17 - Honolulu, HI @ Hawaii Theatre Sat. April 19 - Vancouver, BC @ Chan Centre (LOW TICKETS) Sun. April 20 - Portland, OR @ Revolution Hall Mon. April 21 - Seattle, WA @ The Moore Wed. April 23 - Oakland, CA @ Fox Oakland Sat. April 26 - Los Angeles, CA @ The Wiltern [with Wordless Music Quintet] (LOW TICKETS) Sun. April 27 - Los Angeles, CA @ The Wiltern [with Wordless Music Quintet] Tue. April 29 - Scottsdale, AZ @ Scottsdale Center Thu. May 1 - Denver, CO @ Paramount Theatre Sat. May 3 - St. Paul, MN @ Fitzgerald Theatre (LOW TICKETS) Sun. May 4- St Paul, MN @ Fitzgerald Theatre (NEW SHOW) Tue. May 6 - Chicago, IL @ Thalia Hall Wed. May 7 - Chicago, IL @ Thalia Hall Fri. May 9 - Detroit, MI @ Masonic Cathedral Theatre Sat. May 10 - Cleveland, OH @ Agora Theatre Mon. May 12 - Boston, MA @ Berklee Performance Center Wed. May 14 - New York, NY @ Kings Theatre [with Wordless Music Quintet] Sat. May 17 - Philadelphia, PA @ Miller Theatre Sun. May 18 - Washington, DC @ Warner Theatre Thu. May 22 - Mexico City, MX @ Teatro Metropolitan
音楽家。自主レーベル "hermine" 代表。2010年デビュー以降、これまでに7枚のオリジナル・アルバムをリリース。クラシックギターと歌を携え、世界中を旅する。"架空の映画のためのサウンドトラック" 『アダンの風』はアメリカ最大の音楽アーカイブ "Rate Your Music" にて2020年の年間アルバム・チャート第1位に選出されるなど、世界中で絶賛される。2021年から本格的に海外公演を行い、これまで、Reeperbahn Festival, Pitchfork Music Festival, Montreal International Jazz Festival 等の海外フェスにも出演する。今年6月にはフランスの音楽家 "Pomme" と2020年にリリースされた「Seabed Eden」のフランス語カヴァーをリリース。FM京都 "FLAG RADIO" で奇数月水曜日のDJを務め、文芸誌「群像」での連載執筆、TVナレーション、CM・映画音楽制作、芸術祭でのパフォーマンス等、様々な分野で活動する。
ヨーロッパを代表する音楽レーベル〈ECM〉。1969年にマンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)によってドイツ・ミュンヘンで創設され、「沈黙の次に美しい音(The Most Beautiful Sound Next To Silence)」というコンセプトのもと、他のレーベルとは一線を画す透明感のあるサウンドと澄んだ音質、そして洗練されたジャケット・デザインで、世界中のファンを魅了してきました。
今年はレーベルの創立から55周年を迎え、1984年にスタートしたクラシック・シリーズ「ECM New Series」も40周年を迎えます。この節目を記念して、12月13日(金)から12月21日(土)まで、日本で初めてのエキシビションが東京都千代田区の九段ハウスにて開催されます。
エキシビションのテーマは「Ambience of ECM」、ECMのサウンドをさまざまな環境で楽しむプロジェクトです。楽曲はレーベル第1弾作品であるマル・ウォルドロン(Mal Waldron)の『Free at Last』(1969年)からクラシック・現代音楽を含む「ECM New Series」まで、レーベルの広大な音世界から岡田拓郎、岸田繁、原雅明、三浦透子、SHeLTeR ECMFIELD (Yoshio + Keisei)が九段ハウスのそれぞれのリスニング環境に合わせて選曲。部屋の建築様式とペアリングされたサウンド・システムで、全く異なるリスニング体験をお楽しみいただけます。
米国の深夜番組、「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」にボーイジーニアスのメンバー、またソロギタリスト/シンガーとして活動するジュリアン・ベイカー、そしてニューヨークのポップシーンの注目株、トーレスが共演を果たした。両者共にギタリストとして個性的な表情を持つ。
トーレスは今年の初め、ニューアルバム「What An Enormous Room」をMergeからリリースした。ジュリアン・ベイカーは今年表立って新作をリリースしていないが、積極的にイベントに出演し、ハイレベルなギタープレイを披露している。またとない共演の模様は下記よりご覧ください。
Horsegirlが2ndフルアルバム『Phonetics On and On』からのセカンド・シングル「Julie」をドロップした。アルバムの発表とともに配信されたリード曲「2468」に続くこの曲は、ローファイな質感が生かされながらも、デビュー・アルバムのサウンドよりも洗練された響きがある。
ホースガールは2022年の『Versions of Modern Performance』でデビューを果たした。二年半ぶりのニューアルバム『Phonetics On and On』は、2月14日にMatadorからリリースされる。
Yoshika Colwell・The Varnon Spring 『This Weather(E.P)』
Label: Blue Flowers Music
Release: 2024年12月6日
Review エクペリメンタルポップのもう一つの可能性
ロンドンをベースに活動するYoshika Colwell(ヨシカ・コールウェル)の新作『This Weather』はThe Vernon Spring(ヴァーノン・スプリング)が参加していることからも分かる通り、ピアノやエレクトロニクスを含めたコラージュ・サウンドが最大の魅力である。単発のシングルの延長線上にある全4曲というコンパクトな構成でありながら、センス抜群のポップソングを聴くことが出来る。
それに加えて、ポスト・クラシカルともエレクトロニックとも異なるヴァーノン・スプリングの制作への参加は、このささやかなミニアルバムにコラージュサウンドの妙味を与えている。Bon Iver以降の編集的なポップスであるが、その基底には北欧のフォークトロニカからのフィードバックも捉えられるに違いあるまい。また、感の鋭いリスナーはLaura Marling(ローラ・マーリング)のソングライティング、最新作『Patterns In Repeat』との共通点も発見するかもしれない。
ヴァーノン・スプリングのエレクトロニカ風のサウンドは次の曲に力強く反映されている。「Give Me Something」は前の曲に比べると、ダンサンブルなビートが強調されている。つまり、チャーチズのようなサウンドとIDMを融合させたポピュラー・ミュージックである。この曲ではイギリスのフォーク・ミュージックからの影響を基にして、エレクトロニカとしてのコラージュ・サウンドに挑んでいる。Rolandなどの機材から抽出したような分厚いビートが表面的なフォークサウンドと鋭い対比を描きながら、一曲目と同じように、グロッケンシュピール、ボーカルの断片が所狭しと曲の中を動き回るという、かなり遊び心に富んだサウンドを楽しめる。また、サウンドには民族音楽からのフィードバックもあり、電子機器で出力されるタブラの癒やしに満ちた音色がアンビバレントなサウンドからぼんやり立ち上ってくる。色彩的なサウンドというのは語弊があるかもしれないが、多彩なジャンルを内包させたサウンドは新鮮味にあふれている。ボーカルも魅力的であり、主張性を控えた和らいだ印象を付与している。
Merge Recordsから発売された『What an huge room』は、2022年9月と10月にノースカロライナ州ダーラムのスタジアム・ハイツ・サウンドでレコーディングされました。エンジニアはライアン・ピケット、プロデュースはマッケンジー・スコットとサラ・ジャッフェ、ミックスはイギリスのブリストルでTJ・アレン、マスタリングはニューヨークのヘバ・カドリーが担当しています。
また、本作は、部分的にはグリーン・デイのルーツとなる80年代の西海岸のロックにも親和性があることを指摘しておきたい。少なくとも、90年代の全盛期に匹敵するアルバムとは言えないかもしれませんが、パンクバンドとしての威信は十分に示したのではないでしょうか。「Strange Days Are Here To Say」は「Basket Case」とほぼ同じコード進行で調性が異なるだけ。それでも、これほどシンプルなスリーコードで親しみやすい曲を書くパンクバンドは他の存在しない。思い出すというより、ポップパンクを次の世代へと引き継ぐようなアルバムとなっています。また、グリーン・デイらしいジョークやユニークも感じることもできるでしょう。
トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるザ・スマイルの二作目のアルバム『Wall Of Eyes』。全英チャート3位を記録。海外のメディアには一般的に好評だったというのですが、一部には辛辣な評価を与えたところも。恒例のコラボレーションとなっているロンドン・コンテンポラリーとの共同制作で、由緒あるアビーロード・スタジオで録音された作品です。
アルバム全体としては、タイトルに違わず、ジョン・スペクターの『ウォール・オブ・サウンド』を追求した作品となっています。少し凝りすぎている印象もありますが、「Friend of A Friend」、「Bending Hectic」といった名曲が揃っている。デビュー・アルバムでは、レディオヘッドの延長線上にあるプロジェクトではないかと考えていた人も多かったかもしれませんが、ザ・スマイルは、レディオ・ヘッドからどれだけ遠ざかれるのかという挑戦でもある。
このアルバムでレイラ・マッカラは音楽的なジャーナリズムの精神を発揮している。『Sun Without The Heat』は、ダンス、演劇等を通して繰り広げられるコンパニオンアルバムです。命がけでハイチのクレヨル語のニュースを報道したあるジャーナリストの物語でもある。
世界各国で少数言語が増加傾向にある中で、ある地域の文化の魅力を受け継ぎ、それを何らかの形で伝えていくという行為は大いに称賛されて然るべき。ジャズ/ブルーステイストを持つ渋い曲が多いですが、オルタナティヴロックのギターをワールドミュージックと融合させた「So I'll Go」、海辺のフォークミュージックとして気持ちをやわらげる「Sun Without The Heat」、終曲を飾る「I Want To Believe」も素晴らしい。海を越えて響くような慈しみに溢れています。アルバムのアートワークもピカソのようにおしゃれ。部屋に飾っておきたいですね。
「Sun Without The Heat」 -Golborne Road, London
8.Sainté 『Still Local』
Label: YSM Sound.
Release: 2024年3月29日
レスターのヒップホップアーティスト、サンテは今年三作目のアルバム『Still Local』をリリースした。UKヒップホップシーンの期待の若手シンガーである。どうやら、サンテは、Tyler The Creator、Jay-Zのヒップホップに薫陶を受けた。このアルバムでは、レスターのローカルな魅力にスポットライトを当てています。あらためて聴くと、良いアルバムで、ドラムンベースやフューチャーベースやUKドリルに触発を受けたポピュラーなヒップホップが展開されています。
『A Dream Is All We Know』では、従来のジャングルポップのアプローチに加え、弦楽器や管楽器のアレンジが加わり、パワーアップしています。「My Golden Year」、「How Can I Love Her」、「If You And I Are Not Wise」等、パワーポップやフォークロックの珠玉の名曲が満載。バンドは今年の始め、ジミー・ファロン司会の番組で「My Golden Years」を披露しています。ぜひ、このアルバムを聴いて、古典的なロックの魅力を味わってみてはいかがでしょう? また、バンドは年明けに”ロッキン・オン・ソニック”で来日予定です。こちらも楽しみ。
R&Bアルバムとしては、Samphaのネオソウルを女性シンガーとして、どのように昇華するのか、ある意味では、次のソウルミュージックへの道筋を示した劇的な作品である。そして実際のライブでの演奏力もあり、注目したい歌手と言えるでしょう。哀愁に溢れたネオソウル「My Way」、ジュディ・ガーランドのカバー「Over The Rainbow」、さらに恋愛を赤裸々に歌ったと思われる「I Don't Love You」はポピュラー・ソングとして、非常に切ない雰囲気がある。
Best Track-「I Don't Love You」
13. Wu-Lu 『Learning To Swim On Empty』- EP of The Year
Label: Warp
Release: 2024年5月7日
今回のEPを聴いてわかったのは、Wu-Luはいわゆる天才型のミュージシャンであるということ。彼は少なくとも秀才型ではないようです。前作『Loggerhead』ではアグレッシヴなエレクトロニックやヒップホップを展開させたが、続く「Learning To Swim On Empty」では、マイルドな作風に転じています。しかし、ウー・ルーのアグレッシヴで前のめりなラップは、現地のLevi'sとのコラボレーションイベントでも見受けられる通り、なりを潜めたわけではありません。
とっつきやすいアルバムとは言えないかもしれませんが、
「Tell Me Who You Are Today」、「Lost Changes」、「Rewind」、「Reaching
Out」などにアートポップの表現性の清華のようなものが宿っています。10年ぶりのアルバムということで感激したファンも多かったのでは??
個人的な解釈としては、Dr.Dre、De La Soul、Chicを始めとするヒップホップの基本に立ち返った作品と言える。 他方、「Etoufee」等、エレクトロニックとヒップホップの融合というモダンなテイストのヒップホップも収録されています。つまり、このアルバムでは、ヒップホップの数十年の系譜を追うかのようなクロニクルに近いソングライティングの試みが行われているように思えます。本作を聴くかぎり、現在のステープルズは、ブラック・ミュージックの一貫としてのヒップホップがどのようにあるべきかを追求したという印象です。これは旧来のギャングスタというイメージからヒップホップを開放するための試みでもある。ハイライト「Black&Blue」、「Shame On Devil」は言わずもがな、「Freeman」の見事なラップに注目です。
Best Track 「Freeman」
17.La Luz 『News Of The World』
Label: SUB POP
Release: 2024年5月24日
今年、シアトルのサブ・ポップは年始から恐ろしいペースでリリースを重ねてきた。Boeckner、Amen Dunes(2作のアルバムをリリース)、Naima Bock,最も話題となったところでは、コーチェラ・フェスティバルにも出演した歌手/モデルのSuki Waterhouseが挙げられる。しかし、最も印象的なアルバムは、La Luzの『News Of The World』となるでしょう。
現在モロッコのタンジェに滞在し、ニューアルバムの制作に取り組んでいるAlex Henry Foster(アレックス・ヘンリー・フォスター)が、今年度3作目のリリースとなるEP『A Whispering Moment』を本日リリースします。
今年は、 4月に日本人アーティストとコラボレーションしたアルバム『Kimiyo』と、9月にインストゥルメンタルのみのアンビエントアルバム『A Measure Of Shape And Sounds』をリリースしており、 昨年の心臓手術によって思うように活動ができなかった時間を取り戻すかのように精力的に活動している。
そして、今回は彼が2018年にリリースしたソロデビューアルバム『Windows in the Sky』を記念して、EP『A Whispering Moment』をリリース。
このEPは、楽曲「Shadows Of Our Evening Tides」が初めて形となったときから、様々なライブバージョンへと自然に開花していくまでの、その自由に進化する性質に焦点を当てたものだ。 深い感情への没入と繊細な音を示す感動的な作品「Shadows Of Our Evening Tides 」は、Alex Henry Fosterの心を解き放つ創造の世界を鮮やかに映し出すと同時に、昨今のステージに立つ最も魅力的で、情熱的で、挑発的なアーティストの一人としての彼の評判を完璧 に反映している。
1. A Whispering Moment (Alternative Version, April 30, 2018) (4:48) 2. Shadows Of Our Evening Tides (Extended Version, April 13, 2019) (11:17) 3. Shadows Of Our Evening Tides (Live from the Upper Room Studio, April 28, 2020) (17:08) 4. Shadows Of Our Evening Tides (Live at Brückenfestival, August 12, 2022) (13:12)
ニューヨークのアンダーグラウンドDIYシーンから飛び出したモノブロックは、ヴォーカルのティモシー・ウォルドロンとベースのマイケル・シルバーグレードが率いる5人組バンド。2024年に入ってシングル「I'm Just Trying To Love You」「Where Is My Garden」「Irish Goodbye」と立て続けに3曲をリリース。
バンドのサウンドは、1980年代のマンチェスターのインディー・レーベル、ファクトリー・レコードから影響を受けている。他にも、トニー・ウィルソン、ピーター・サヴィル、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーらの名を挙げており、また、スティーヴ・ライヒが制作した『Music for 18 Musicians』はとりわけバンドのギター・パートに大きな影響を与えたという。
2024年1月、シングル「I’m Just Trying to Love You」を、セルフ・プロデュースしたミュージック・ビデオと共にリリースすると、瞬く間に彼らの評判は知れ渡り、イギリスやヨーロッパへのフェス出演に次々と出演。2025年1月にはrockin'on sonicへの出演も決定し、早くも初来日することが発表された。
このアルバムではイライジャのヴォーカル・テクニックが全開で披露されているが、物静かで控えめなこのアーティストにとっては初めてのことだ。イライジャは2020年に「Music For Vending Machines 1」のような環境音楽のレコードでスタートを切ったが、2018年初頭にはムーディーで泥臭いポストロックのインストゥルメンタル作品を発表し、音楽の旅を始めた。彼のニューウェーブの影響は、アンビエントなリリースにも常に存在している。"Heaven Red "や "Maybe Someday "を参照。
フェネスは音楽制作者としてノイズミュージックの他にも音響派のギタリストとしての表情を併せ持つ。二曲目「Love And The Framed Insects」では2023年に発表されたアルバム『Senzatempo』、『Hotel Paral.lel』の両作品の作風を融合させ、叙情的なギターアンビエントと苛烈なノイズを交互に出現させる。
続く「A Man Outside」でもノイズの要素は維持され、パーカッシヴな音響効果を用いた環境音楽の形式が取り入れられている。そして、この曲でも序盤は前曲の作風を受け継いで、ノイズの精妙な感覚、次いで、ノイズの中にある快適さという側面が強調されているが、二分後半からは曲調がガラリと変化し、ダークなドローン風の実験的なテクスチャーが登場する。まるで情景的な変化が、ノイズや持続的な通奏低音を起点に移ろい変わっていくような不可思議な感覚を覚える。曲の序盤における天国的な雰囲気は少しずつ変化していき、メタリックで金属的な響きを帯び、冥界的なアンビエント/ドローンに変遷していくプロセスは圧巻というよりほかなし。これほどまで変幻自在にサウンド・デザインのように音の印象を鋭く変化させる制作者は他に思いつかない。曲の後半でも曲の雰囲気が変わり、序盤の精妙な雰囲気が立ち戻ってくる。
Nettwerk Music Groupからのデビューとなるケニフの最新アルバムは、昨年リリースされたエモーショナルなタイトル『We All Have Places That We Miss』に続く作品です。夫のキース・ケニフ(ヘリオス、ゴールドムンドとしてもレコーディングを行っている)とエレクトロニック・ポップのユニット、ミント・ジュレップで活動して以来、15年以上にわたって着実に歩んできたキャリアの中で、またひとつ印象的な宝石になり得る。心揺さぶる美しさを持つこのアルバムは、この特別なアーティストがこれからさらに大きなピークを迎えることを予感させます。
音楽性に関しては、2021年のシングル集「Under The Lonquat Tree」の延長線に位置づけられます。アンビエントというのはどうしてもアウトプットされる音楽が画一的になりがちな側面があるものの、ホリー・ケニフのソングライティングは叙情的な感性と季節感のあるサウンドスケープが特徴的。また、雪解けの季節を思わせるような雰囲気、清涼感のある音楽性が主体となっています。今回の4thアルバムを語る上で不可欠なのは、従来培われたギターやシンセを中心とするアンビエントテクスチャー、曲全体に表情付けを施すピアノでしょう。これらがほどよく合致することにより、ホリー・ケニフの作風はひとまず過渡期を迎えています。
いずれにしましても、『For Forever』は純粋な音楽の良さや楽しみが凝縮されています。アルバムのオープニングを飾る「1-Lingers in Moments」は、アンビエントのシークエンスから始まり、ホリー・ケニフの音楽的な世界観を敷衍させる。さらにピアノ(シンセ)の演奏がそれに加わり、澄明で穏やかな音楽が無限に続いていくような気がします。パッドやボーカルをベースにしたシーケンスが組み合わされ、心地よい音の空間性が組み上げられていく。アンビエント制作の基本的な作曲性は一般的なリスナーにも共鳴するなにかがあるかもしれません。
「5-The Way Of The Wind」は意外な転遷を辿る曲で、異色のナンバーとなっています。ヒーリング効果を持つアンビエントからダンサンブルなトラックに移り変わる。シューゲイズのギターを微細に重ね合わせ、ベースラインでそれらの音像を縁取っている。また、前半部ではボーカルアートの要素が強調され、心地良いサウンドが展開されますが、イントロから続いているベースラインが強調され、バスドラムが追加されると、曲調が大きく変化し、ダウンテンポ風のトラックへと変貌を遂げる。最終的にはレイヴサウンドを通過したチルウェイブ風のサウンドへとダイナミックな展開を描く。「6-Amare」では再び、オーガニックなアンビエントに立ち返り、ボーカルの録音を元にした重厚感のあるサウンドが緻密に組み上げられていく。この曲にはキース・ケニフ(Helios)が参加していますが、『Eingya』(2006)に収録されている「Coast Off」を微かに彷彿とさせる広大なサウンドスケープが描かれています。
以降の収録曲では、ポストロックや音響派に属するサウンドアプローチを見出すことが出来ます。例えば、「9−Esperance」はExplosions In The Sky、Sigur Ros、Mogwaiを彷彿とさせる映画的な趣を持つギターロックをダウンテンポの領域から解釈している。複数のギターの録音を重ねあわせ、夢想的で叙情的なテクスチャーを組み上げている。ゆったりしたビートと心地よいギターの兼ね合いに注目です。この曲はまたギターの持つ静かな魅力が織り交ぜられています。ギターサウンドの音量的なクライマックスを迎えたのち、静謐なピアノが通り過ぎていく。
続く「10−Rest In Fight」は、そういった特徴がよく表れています。この曲ではEDMの音像を抽出し、扇動的な側面ではなく、治癒的な側面を強調している。それらの要素は、前曲のようなシューゲイズ、ポスト・ロックの音響派としての側面、そしてボーカルアートと結びつきを果たし、アンビエントの今一つの知られざる性質を提示します。闘争的な表現とは縁遠い雄大なサウンドは、この音楽の持つ慈愛的な性質を暗示している。このアルバムでは、例外的に崇高な感覚に縁取られはじめ、オーケストラ曲の持つ、壮大さへと変容していく。しかし、それらは細やかで控えめな性質を中心に構成されています。作曲的には、大きなものを避けていた制作者の表現性の清華とも称することが出来るでしょう。