Album Of The Year 2024  


 

Vol.2  発信地から中継地に変わる3つの文化拠点 〜ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス〜

 

従来、音楽のムーブメントの発信地は、ニューヨーク、ロンドン、ロサンゼルスでした。その後、周辺の地域もレコード会社が設立され、音楽産業のネットワークは全国的に広がっていった。これはとくに、この3つの土地とその周辺に主要な大手レコード会社の拠点が点在していたというのが理由です。そして、レコード会社のある地域を中心にムーヴメントが発生するというのが相場でした。

 

しかし、現在は、ネットワークの発展によって、上記の文化拠点が発信地という旧来の性質を保持しながら中継地へと変化しつつある。依然として、これらの地域が何らかのウェイブを発生させる主要地域であることに変わりないのですが、その中には別の地域ーー、オセアニアや北欧ーーのバンドやアーティストが主要地域のレコード企業を通して世界に音楽を発信するのが一般的になりつつある。これらの「文化の中継地」としてのレーベルの網羅的な発信能力は近年さらに強まり、アフリカ、アジア圏、アラビアなどの地域に裾野を広げつつあるのが現状です。


今年、スペインの主要メディアに対して語られたイギリスの世界的に有名なミュージシャンによる「以前に比べると、英国の音楽の影響力が低下しつつあることは否定できない」という言葉は頷けるものもあり、ビートルズやストーンズの時代と比べると、スターというのは生み出されづらくなった。これは、メディアの分散化、そしてなにより影響力の低下が要因でもある。同時に、SNSやソーシャルメディアが影響力を拡大するに従い、個人がメディアを参考にせず、自由に音楽を選ぼうという風潮が強まってきた。この流れは度外視できなくなっています。

 

しかし、一方で、ロンドンのような都市は、文化の中継地として依然として大きな影響力を保持している。これは、80、90年代から産業として確立された工業生産、ノウハウという二つの遺産が現代へと着実に受け継がれているのが理由です。かつて巨大なレーベルが点在していたロサンゼルス、ニューヨーク、ボストン等も同様であり、他地域の音楽を網羅して紹介する中継地となりつつある。旧来、工業生産という産業における任務を負っていたレコード会社は、「文化の集積」を世界に向けて発信するという次なる役割が出てきたというわけなのです。そして、その役割の中には傑作の再編集、未発表の音源のリリースなども含まれています。

 

 

 

18.Hiatus Kaiyote 『Love Heart Cheat Code』



Label: Brainfeeder

Release: 2024年6月28日


オーストラリアのHiatus Kaiyoteの最新作『Love Heart Cheat Code』は、フューチャー・ソウルの大名盤。フューチャー・ソウルというのは、ダンス/エレクトロニックとソウルのハイブリッドである。今作では明らかに近未来的なフューチャー・ソウルの作風がバンドのセクションで探求されています。

 

ただ、単なるソウルバンドとして聴いても、今作の真価は見えづらいかもしれません。同レーベルのLittle Dragonの音楽的なアプローチとも重なる部分があり、「Telescopes」はその代表例。そして、フューチャーソウルの名曲で、サイケソウルの名曲でもある「Love Heart Cheat Code」をしっかり用意した上で、Battlesのようなポスト・ロックスタイルを図ることもある。特に「Cinnamon Temple」は、今年聴いた中で最も衝撃的な一曲。音楽でトリップするという感覚は、ごく少数の作品を除いて、他のアルバムでは得難い体験になるかもしれません。



Best Track 「Love Heart Cheat Code」

 

 

19.Kiasmos 『Ⅱ』- Album Of The Year


 

Label:Erased Tapes

Release: 2024年6月28日

 

アイスランドのオラファー・アーノルズ、フェロー諸島のヤヌス・ラスムッセンによるエレクトロニック・ユニット、Kiasmosのアルバムは「エモーショナルなレイヴ・ミュージック」であるという。今作はそれぞれのアーティストのスケジュールの合間を縫い、東南アジアで録音されました。レビューでも書いた通り、プロフェッショナルなミュージシャンはプロジェクトから離れていたとしても、素晴らしい作品を制作します。『Ⅱ』はその好例となるに違いありません。

 

Kiasmosのエレクトロニックのアウトプットは、90年代や00年代のテクノをベースにしていて、新しいとは言いがたい。けれど、それは彼らが音楽の普遍性を尊重しているからでしょう。二人の白熱したエレクトロニックによる刺激的なセッションは、時々、デュオという形式を超越し、電子音楽のオーケストレーションのように壮大な印象がある。「泣けるエレクトロニック」とオラファーさんは話していましたが、電子音楽の制作に最も必要なのは、叙情性なのかもしれません。両者の秀逸なミュージシャンによる厚い友情をこの作品に捉えられる。もし、泣かせるものがあるとすれば、それは美談のようになるが、彼らの友情によるものでしょう。

 

言葉というものが最重視されず、音楽そのものが何らかの言葉を語るような数奇なアルバムです。「Burst」、本作の最後に収録されている「Square」はテクノの名曲といっても過言ではありません。

 

 

「Burst」 

 

 

 

20. Kassandra Jenkins 『My Light, My Destroyer』



 

Label: Dead Oceans

Release: 2024年7月12日

 

ニューヨークのシンガーソングライターは今年、デッド・オーシャンズと新契約を結び、新作アルバムをリリースしました。このアルバムの制作は、何度も作り替え、組み替えることで完成品へと近づいたという。


レーベルが理想とするビンテージな質感を持つ録音にジェンキンスの多彩な形式のボーカルが特徴です。『My Light, My Destroyer』はカーペンターズのような懐かしのポピュラーから、オルタナティヴ・ロック、実験的なアートポップ等をフィールドレコーディングを用いた短いセクションを織り交ぜる。


音楽的な基本としては、90年代から00年代ごろのロックをベースにしているものと推測されます。アルバムのオープニングを飾る「Devotion」は、今年度のポピュラー・ソングの中でも白眉の出来。さらに、オルト・ロック好きの一面を伺わせる「Petco」も聞き逃すことが出来ませんよ。



Best Track 「Petco」

 

 

 

21.Peel Dream Magazine 『Read Main Reading Room』



 Label: Topshelf

Release: 2024年9月24日

 

 ロサンゼルスを拠点に活動するPeel Dream Magazineのボーカリスト、また、主要なソングライティングを担当するジョセフ・スティーヴンスさんは、「これまでのミッドファイのスタイルを卒業し、プラスアルファを確立しようとした」と話していました。また、「ニューヨーク的な作風」であるとも話していました。

 

先行シングルのリリースの段階でこれまでのPDMとは何かが違うと私自身は感じていました。日本の熱心な音楽ファンから称賛されている『Read Main Reading Room』において、Peel Dream Magazineは、音楽の洗練性という側面で大きく成長し、オルタナティヴ・ポップの新しいカタチを示しています。

 

今回のアルバムは、「旧来の作品よりも、ライブ・レコーディングの性質が強まった。ドラムテイクはメンバーの自宅で録音されたものもあった」といいます。特に、このアルバムの制作で大活躍したのが、ボーカリストのオリヴィアでした。実際的に、ツインボーカルを中心に繰り広げられるこのアルバムのサウンドは、多彩なイメージに縁取られています。

 

PDMの音楽は、2020年代の社会の気風を色濃く映し出している。彼らは旧来のアメリカの遺産を見つめた上で、それらを尊重し、そして、現代人として何ができるのかを追求しています。その中には、一般的なオルトロックバンドらしからぬ、強固なメッセージ性も垣間見えます。

 

「Wish You Well」、「Lie In The Glitter」といった温和なフォークロックをベースにした曲はもちろん、「Oblast」が本当にすごい。アートポップの手法にヒップホップのビートが織り交ぜられ、刺激的な印象を決定付けています。そして、ウディ・ガスリー、ボブ・ディランの時代から受け継がれるミュージシャンとしての強い主張性を「I Wasn't Made For War- 私は戦争のために作られたわけではない」に読み取ることができるはずです。


 

 Best Track 「Lie In The Gutter」

 

 

 

22. Pom Poko 『Champion』


Label: Bella Union

Release: 2024年8月16日


北欧のロックバンドはHIVESだけではありません。他にも素晴らしいバンドは数多い。ノルウェーの四人組のオルタナティヴロックバンド、Pom Pokoの記念碑『Champion』では、ヴォーカル/作詞のラグンヒル・ファンゲル・ヤムトヴェイト、ベースのヨナス・クロヴェル、ギターのマーティン・ミゲル・アルマグロ・トンネ、ドラムのオラ・ジュプヴィークが、密閉されたタイトな4人組ロックという楽器編成という点でも、従来で最も親密な関係を築き上げています。

 

本作のタイトルのヒントともなった「トップではないけど、チャンピオンである」というグンヒルドの考えは成功主義とは異なる別の視点をもたらしてくれる。このアルバムは、Pom Pokoとしてしばらく一緒に演奏出来なかった時期があったからこそ生み出された作品です。久しぶりの演奏の機会はこのバンドでのスペシャルな経験であることを思い出させてくれたのでした。


このアルバムには、Deerhoofのようなテクニカルなインディーロックの演奏から、マスロックを基調とした変拍子を交えたロック、カーペンターズのような甘いポップスまでくまなく網羅しています。そして、クラシック音楽の作曲を踏まえ、対旋律的なバンドアンサンブルが構築されています。

 

アリ・チャント(PJ Harvey、Aldous Harding)のプロデュースは、この作品をコントロールするというより、バンドの音楽に艶と輝きを与える結果になりました。北欧のインディーロックの記念碑的な作品と称せるかもしれません。「Growing Story」、「Champion」、「Bell」を筆頭にオルタナティヴロックの良曲が並んでいる。きわめつけは、アルバムの終盤に収録されている「Big Life」。この曲では最高のバンドアンサンブルの清華を捉えることが出来ます。

 


Best Track 「Growing Story」

 

 

23. NIKI 『Buzz』 

 

Label: 88 Rising

Release: 2024年8月9日

 

88 RIsingは、ストリート系のファッションブランドの展開と同時にレーベルを手掛ける。近年、アジア系のシンガーを中心に発掘し、魅力的な音源をリリースしています。今年、新作アルバムをリリースしたNIKIは、インフルエンサー的な影響力を持ち、そして実際的に破格のストリーミング回数を記録。ソングライティングのスタイルはベッドルームポップの系譜にありますが、ラナ・デル・レイの系譜にある魅力的なポピュラー・ワールドを展開しています。

 

ロスのNIKIはストリートカルチャーと現代のポップカルチャーを見事な形で結びつけている。曲の聴きやすさを踏まえた上で本格派のソングライティングを行い、幅広いリスナー層に受けるポップスアルバムを完成させました。すでに「Buzz」、「Too Much Of A Good Thing」などはバイラルヒットを記録し、今後一躍世界的なポップシンガーになる可能性を秘めています。クレイロからラナ・デル・レイに至るまで現代のトレンドのポップソングの影響を踏まえた良作です。とりわけ、「Take Care」ではソングライターとして抜群のセンスが発揮されています。

 

 

「Take Care」

 

 

24.Beabadoobee 『This Is How Tomorrow Moves』



 

Label: Dirty Hit

Release: 2024年8月9日

 

Dirty Hitは傘下のレーベルを含めると、今年からダンス・ミュージックに力を入れ始めています。ケリー・リー・オーウェンズ、サヤ・グレイはその代表格。そんな中、レーベルの基本的なコンセプトを印象づける作品を挙げるとするなら、このアルバムになるでしょう。本作ロンドンのシンガーソングライター、Beabadoobee(ビーバドゥービー)もまた近年のアジア系シンガーソングライターの活躍を印象づけるような頼もしい存在です。Dirty Hitから発売された最新作『This Is How Tomorrow Moves』の制作では日本でミュージックビデオの撮影が行われ、アジアにルーツを持つシンガーを多く擁する同レーベルの活動を象徴付けていましたよね。

 

前作『Beatopia』でイギリス国内で大きな人気を獲得した後、一時的にビーバドゥービーは故郷インドネシアに帰ってリフレッシュを図っていた。このことがソングライターとして彼女を一回り成長させる契機ともなった。前作ではインディーロックとベッドルームポップの中間にある楽曲が多かったが、今作では様々な音楽的なアプローチが取り入れられ、アジアのポップスからフレンチポップス、フォーク、他にもジャズ風の楽曲まで幅広い音楽性を楽しむことが出来ます。以前よりもヨーロッパ的な音楽性が加えられ、これが音楽的な間口を広くしています。また、曲を丹念に制作したという印象で、意外にも適当に作ったような曲は見当たりません。

 

トレンドのポップソング、「Take A Bite」、「Real Man」、「Coming Home」などバイラルヒットを記録している曲を提供した上で、渾身の一曲が用意されています。終盤のハイライト曲「Beaches」を聞いたとき、こんなに凄いソングライターだったのかと驚かされました。特に、曲の最後のエモーショナルで心をかき乱すようなギターのアウトロは圧巻というよりほかなし。一作目と比べると、初々しさはなくなったかもしれませんが、聴き応え十分のアルバム。

 

 

「Beaches」

 

 

 

25. Sam Henshaw 『For Someone Somewhere Who Isn't Us』 EP



Label: AWAL

Release: 2024年8月2日


ロンドンのソウルミュージックは、日に日に多彩なジャンルに分岐している印象を受けます。しかし、サム・ヘンショーは新しいソウルではなく、古典的なビンテージソウルを今作で体現しています。原初的なブラックミュージックには普遍的なパワーがあり、それを受け継いだような作品となっています。この作品はミニアルバムの形式でありながら、粒ぞろいのR&Bが収録されています。オープニングを飾る「Troubled One」は現代のリスナーにも親しみやすいはず。


特に、モータウンサウンド(ノーザン・ソウル)を基調とした渋いタイプの曲が多いですが、レーベルの現代的なデジタルサウンドに縁取られているからか、それほど古典的な感じはないでしょう。ソウルミュージックの普遍的な輝きをEPの片々に発見したとしても不思議ではないでしょう。特に、いくつかの収録曲でのサム・ヘンショーの圧巻の歌唱に心をゆさぶられました。

 

 

 「Water」



 

26. Nilfur Yanya 『My Method Actor』

 


 

Label: Ninja Tune

Release: 2024年9月13日


2024年のNinja Tuneの話題作の一つ。ロンドンのニルファー・ヤーニャの新作アルバム『My Method Actor』は、イギリスのポピュラーシーンを象徴付けるような作品でした。オルタナティヴロックからフォーク、そしてネオソウル、さらにはエレクトロニックに至るまで隈なく吸収し、それを聴きやすいポップソングに落とし込んだ力量は素晴らしいというほかありません。


『Method Actor(メソッド・アクター)』について、ニルファーはどのように生まれたかについて、次のように語っています。「メソッド演技について調べていたんだけど、読んだところによると、メソッド演技は、人生を左右するような、人生を変えるような思い出を見つけることに基づいているんだ。メソッド演技がトラウマになったり、精神的に安全でないと感じる人がいるのは、常にその瞬間に立ち戻るからなんだ。良いことも悪いこともあるけれど、常にそのエネルギー、自分を定義づける何かを糧にしている。それはミュージシャンになるのと少し似ている。演奏しているときも、最初に書いたときのエネルギーや感情を、その瞬間に呼び起こそうとしている。その瞬間、その瞬間のエネルギーや感情を呼び起こそうとして試みた」という。

 

前作に比べるとロックギタリストとしての性質が色濃いアルバムでもある。特に、FADERが『衝撃的な復活』と称した「Like I Say(I Runaway)」は今年のベストトラックの一つでしょう。聞いていると非常に爽快感があります。ロックとして聴いてもダンスとして聴いても素晴らしい。それに旧来から培われたネオソウルに触発されたヤーニャのボーカルが際立っています。また、「Mutations」、「Faith's Late」、「Just A Western」など聴かせる曲が多いです。


 

 「Like I Say(I Runaway)」

 

 

 

27. Luna Li 『When A Thought Grows Wings』

 



Label: In Real Life Music

Release: 2024年8月23日



現在、トロントからロサンゼルスに活動拠点を移したシンガーソングライター、ルナ・リーはハープ、キーボード、ギターと多彩な楽器を演奏するマルチ奏者です。元々はバンドに所属していましたが、後にソロシンガーソングライターのキャリアを歩み始めた。ミュージシャンとしては、ジャパニーズ・ブレックファーストに引き立てにより、一般的な注目を集めるようになりました。


セカンド・アルバム「When a Thought Grows Wings」の制作は、「メタモルフォーゼ」というような驚くべき作品です。それは、八年間連れ添ったパートナーとの別離による悲しみを糧にして、音楽を喜びに変えることを意味している。彼女は、過去にきっぱりと別れを告げ、トロントの家族、そして、恋人との辛い別れの後、リーは夢のある都市ロサンゼルスを目指した。映画産業の街、ビーチの美しさと開放感は、彼女の感性に力強い火を灯しました。

 

ベッドルームポップ、ソウル、クラシックのフレイバーを吸収した新鮮なサウンドは、次世代のポップスの花形としてふさわしい。本作の冒頭を飾る「Confusion Song」の巧みなシークエンスの調性の転回、「Golden Hour」に代表されるチルアウト、ヨットロックに触発された心地よいバラードソング、それを的確に歌い上げる歌唱力、そして、クローズ「Bon Voyage」に象徴されるJapanese Breakfast(ミシェル・ザウナー)の系譜にある切ないインディーポップソングなど、アルバムの随所にスターシンガーの片鱗を見出すことが出来るはず。

 


「Golden Hour」

 

 

28.Fontaines D.C.  『Romance』 - Album Of The Year

 


Label: XL

Release: 2024年8月23日


 

グリアン・チャッテンのソロアルバムのリリース時には、しばらくフォンテインズD.C.の新作アルバムは期待出来ない……、と思っていたら、PartisanからXLに移籍して新譜を発表したのに驚きました。グラストンベリー・フェスティバルでのヘッドライナー級の出演を経て、着実にバンドは成長を続けています。『Skinty Fia』の時代に比べると、よりバンドアンサンブルに磨きが掛けられた。最早、彼らのことをポストパンクバンドと呼ぶ人は少ないのではないでしょうか。

 

ロックバンドのアルバムというのは、基本的に一曲か二曲、アンセムソングというか、大衆の心を捉えるヒットナンバーが収録されていれば、それで十分ではないかと個人的に思っています。どれほどの大作曲家であろうと、一年、二年で名曲をいくつも書くことは簡単ではありません。

 

そういった理由で、 アンセムソング「Starbuster」、「Favourite」を制作したことは大きな意味がある。もちろん、バンドにとっても、ファンにとっても。特に、アンサンブルは格段に成長しているため、こういった象徴的なアルバムが出たのも大いに納得。メロトロンの導入、アコースティックギターとエレクトロニックギターのユニゾンなど、レコーディングで苦心を重ねた痕跡が残されていますが、やはり基本的なロックバンドの演奏の迫力が最大の強みとなっているようです。「Favourite」の終盤のレフトサイド(L)のギターは圧巻です。神は細部に宿るといいますが、曲の最後まで一ミリも手を抜かない姿勢に感動を覚えてしまいました。

 

 

 「Favourite」

 

 

 

29. Spencer Zahn & Dawn Richard  『Quiet In A World Full of Noise』

 



 Label: Merge

Release: 2024年10月4日

 

勝手な先入観として、Merge RecordsはSuperchunkのイメージがあるので、インディーロックに強いレーベルだと思っていましたが、今年はポピュラーに特化したアルバムが多かった印象もありました。

 

ルイジアナの歌手、Dawn Richard(ドーン・リチャード)、ニューヨークのピアニスト、マルチ奏者、そしてプロデューサーでもあるSpencer Zahn(スペンサー・ザーン)によるコラボレーションアルバムは、シンプルに言いますと、大人のための渋いポピュラーアルバムです。これまでニューオリンズの"バウンス"というヒップホップ、ソウル、そしてモダン・クラシカルの作風で知られる両者の異なる才覚が見事に合わさり、見事なコラボアルバムが誕生しました。


このアルバムは、異なる調律のスペンサー・ザーンのピアノ、ドーン・リチャードのソウルフルな歌唱が主な特徴です。また、コラボレーションの最大の魅力とは、異なる文化的な背景や別の個性を持つ人々が互いにそれらの相違を尊重しあい、それらを一つの表現として昇華させることに尽きる。そういった点において、このアルバムは共同制作のお手本ともなりえるでしょう。

 

アルバムのモチーフとして機能する「世界の喧騒の中にある静けさ」という概念も曲に上手く昇華されています。「Diets」、「Ocean Past」 は新しいソウル・ミュージックの台頭を予感させます。

 

 

 「Diets」

 

 

30.Ezra Collective 『Dance, No One’s Watching』

  

 

Label: Partisan

Release: 2024年9月27日

 

イギリス国内で主要な音楽賞を獲得、ビルボードトーキョーでも来日公演を行っているエズラ・コレクティヴ。ジャズ・アンサンブルとしての演奏の卓越性は一般的に知られるところと思われます。が、彼らが凄いのは、それらを広義の「ポピュラーソング」として落とし込むことにある。彼らの伝えたいことは明確で、人目を気にしないで楽しいことをすべきということでしょう。

 

当初、アフロビートやアフロジャズの印象が強かったが、今作ではサンバのようなラテン音楽のテイストを取り入れ、音楽のバリエーションを広げています。アグレッシヴなリズム、陽気なエネルギーは、現在の世界が必要とするもので、音楽の本来の楽しみを伝えています。エズラ・コレクティヴのキーボード、金管楽器を中心とする演奏から醸し出される華やかな雰囲気は、まさしくジャズソウルのエンターテイメント性を余すところなく凝縮させたといえるかもしれません。


このアルバムに関して、エズラ・コレクティヴ(コルドソ)は奥深いメッセージを伝えています。「聖書には''ダビデが主の御前で踊る''という物語があって、それはいつも私にインスピレーションをもたらしてくれました。だから、『God Gave Me Feet For Dancing』はスピリチュアルな意味でダンスを見るためのもの。人生の嫌なことを振り払い、その代わりに踊ることができるのは、神から与えられた能力でもある」

 

タイトル曲、「Ajara」、ムーンチャイルド・サネリーが参加した「Street Is Calling」など注目曲は多い。今後どのような音楽を制作するのでしょうか。楽しみにしたいですね。

 

 

 「God Gave Me Feet For Dancing- Feat. Yazmin Lacey」

 

 

 

 

 

+20 Albums

 

上記のベスト30アルバムでは満足出来ないという方に、20アルバムを追加でご紹介していきます。個人的には以下の20アルバムの方が個性的で面白いものが多いかもしれません。ぜひこちらも参考にしてみてください。


 

 

31. Waxahatchee




Label: Anti

Release: 2024年3月22日

 

今年、ワクサハッチーのプロジェクト名で活動するケイティ・クラッチフィールドは、Antiに移籍し、ニューアルバム『Tigers Blood』を発表した。アラバマ出身のシンガーは南部を表現することに戸惑いを覚えつつも、アメリカーナを中心とするインディーロックアルバムを制作しました。

 

本作には、MJ・レンダーマン、スペンサー・トゥイーディー、フィル&ブラッド・クックが参加。レンダーマンは「Right Back to It」でギターとハーモニー・ボーカルを担当した。ケイティ・クラッチフィールドによれば、彼女が最初に書いた本物のラブソング。バンジョー/ギターの演奏とオーガニックな雰囲気を持つクラッチフィールドのボーカル、そして、メインボーカルとアメリカーナの空気感を尊重するMJ・レンダーマンのコーラスが絶妙にマッチしています。

 

カントリーを踏襲した渋いソングライティングが持ち前のポピュラー性と融合し、新たなフォーク・ロックの世界を確立している。アコースティックの合間に入るスティールギターが幻想的な雰囲気を生み出す。ワクサハッチーのボーカルは、心に染み入るような温かさに満ちている。アメリカーナをベースにしたインディーロックの真髄のようなアルバムとなっています。

 

 

「Much Ado About Nothing」

 

 

 

32. Yard Act 『Where’s My Utopia』





Label: Island/ Universal Music

Release: 2024年3月1日

 

セカンド・アルバムはようやく年末になってじっくり聴くことが出来た。1stアルバムほどの鮮烈さはないかもしれませんが、渋い作品であることは変わりなく、むしろアンセミックな曲よりもシングルのB面のような収録曲の方が良い感じがします。例えば、「An Illusion」 、「Grifter's Grief」などは、先行シングルの迫力の影に隠れているが、さりげない良曲かもしれません。

 

ライブツアー等の日程の合間に作られたとは思えない濃密なロック/ポスト・パンクサウンドで占められている。むしろ、11曲というのは少し多すぎたかもしれない。「We Make Hits」、「Dream Job」といったハイライト曲は、デビューアルバムの音楽性をさらに煮詰めたものである。

 

その一方で、現今のロンドンのミュージック・シーンの流れを汲み、ディスコサウンドを取り入れ、次世代のユーモラスなポストパンクサウンドを築き上げようという狙いも読み解くことが出来ます。現在、バンドは過渡期にあり、色々なサウンドを試している最中なのではないかと思われます。じっくり聴いてみると、やはりヤードアクトのサウンドはユニークで魅力的です。

 


「We Make Hits」


 

 

 

33. Packs 『Melt The Honey』



Label: Fire Talk

Release: 2024年1月19日


今年、カナダのFire Talkからはいくつか良質なオルトロックのアルバムがリリースされています。その筆頭格がトロントのPacksのニューアルバム『Melt The Honey』となるでしょう。2023年のアルバム『Crispy Crunchy Nothing』に比べると、信じがたい成長ぶりといえるかもしれません。ニューメキシコでレコーディングされたという本作は、米国南部やメキシカンな空気感を吸い込んだ、ぬるくまったりとしたオルタナティヴロックサウンドを楽しめます。

 

グランジやDinasour Jr.、Pixies等の90年代のオルタナティヴロックを踏襲し、それらを適度なルーズな感じで縁取っている。一応、ソロシンガーの延長線上にあるバンドであるものの、今年、Audio Treeに出演した際にも見事なアンサンブルを披露していた。ロックの新しさというより普遍性に焦点を当てたアルバム。サイケでローファイな感覚が滲み出ていて、かっこいい。レコーディングの雰囲気が反映され、メキシコの太陽のように幻想的な雰囲気に彩られています。

 

 

「Her Garden」

 

 

 

 

34.Royel Otis 『Pratts & Pain』 - Album Of The Year

 


 

Label: Owness PTY LTD.

Release: 2024年2月16日


オーストラリアのポストパンクデュオ、Royel Otisはセカンドアルバム『Pratts & Pain』で大きな飛躍を遂げました。Wet Legなどの作品を手掛けたダン・キャリーをプロデューサーに迎えた本作はイギリスで録音された。ダン・キャリーは制作作業の合間にふらりとパブに出かけ、お酒を召し上がったらしいです。そういった面白おかしいエピソードもまたこのアルバムに一興を添えています。

 

ダンスロックを吸収し、モダンなポストサウンドに組み替えている。ツインボーカルはむしろ中性的な印象があって面白い。それほどサウンド自体も鋭利にならず、程よく聴きやすい。また、このアルバム全体に満ち渡るルーズな感覚も、ロイエル・オーティスの最大の魅力と言えるでしょう。オーストラリアのバンドのサウンドは、イギリスともアメリカとも少し異なることがわかる。「Adore」、「Sonic Blue」、「Sofa King」などのハイライト曲の鮮烈さに注目しましょう。

 


「Sonic Blue」

 

 

 

 ・Vol.3はこちらからお読みください。




Sainte Etienne(セイント・エティエンヌ)は、1990年に結成されたイギリス、グレーター・ロンドン出身のトリオ。サラ・クラックネル(ボーカル)、ボブ・スタンリー(キーボード)、ピート・ウィッグス(キーボード)で構成されている。一般的に、1990年代のインディーズ・ダンス・シーンと関連付けられている。彼らの音楽は、クラブ・カルチャーや1960年代のポップス、その他の異なる影響を融合させる。セイント・エティエンヌの生み出すサウンドは、懐かしくもあるし新しくもある。


彼らのデビューアルバム『フォックスベース・アルファ』は、1991年にリリースされ、不朽のヒット曲「Only Love Can Break Your Heart」と「Nothing Can Stop Us」を収録し、批評家から高い評価を得た。続いて、全英シングルチャート12位となったシングル「You're in a Bad Way」を収録した『ソー・タフ』(1993年)と、テクノ・フォークの実験を取り入れた『哀しみ色のムーヴィー』(1994年)が発表された。両アルバムはトップ10に到達。彼らの初期は、ゴールド認定されたコンピレーション『Too Young to Die: Singles 1990-1995』で締めくくられ、エティエンヌ・ダオとの共作でバンド史上最高のチャートを記録したシングル「He's on the Phone」を制作した。


バンドは『グッド・ユーモア』(1998年)でインディー・ポップを取り入れ、リード・シングル「シルヴィ」は12位に達した。2000年代までに、セイント・エティエンヌは『サウンド・オブ・ウォーター』(2000年)でアンビエント・ミュージックへと軸足を移し、『Finisterre』(2002年)と『テイルズ・フロム・ターンパイク・ハウス』(2005年)ではこれらのスタイルの転換と初期の影響への回帰を醸し出した。2010年代には、『Words and Music by Saint Etienne』(2012年)と『ホーム・カウンティーズ』(2017年)で、彼らのサウンドが現代的にアップデートされた。アルバム『アイヴ・ビーン・トライング・トゥ・テル・ユー』(2021年)では、約20年ぶりとなるサンプリングを取り入れ、1994年以来の最高位14位のアルバムとなった。


バンド名はフランスのサッカークラブ、ASサンテティエンヌに由来する。日本では、1993年にNOKKO(レベッカのボーカリスト)のアルバム『CALL ME NIGHTLIFE』『I Will Catch U.』に楽曲提供もしている。NOKKOとのレコーディングでは、ロンドンにある自宅スタジオにメンバーを招いており、「これは当時界隈で増えてきていたベッドルーム・レコーディングという手法だが、その点で先をいっていたアーティストだった」とNOKKOがインタビューで振り返っている。


セイント・エチエンヌが12枚目のスタジオ・アルバム『ザ・ナイト』を2024年12月13日にヘブンリー・レコーディングスからリリースする。絶賛された2021年のアルバム『I've Been Trying To Tell You』に続くアルバム『The Night』は、日常生活の混沌から逃れ、時間外のエッセンスを捉えたアンビエントな作品だ。このアルバムは、リスナーを幾重にも重なる静寂の中に誘い、落ち着かない心を落ち着かせ、現代生活の容赦ないペースからの穏やかな休息を提供する。


アルバム "The Night "は、サン・テティエンヌの伝統である、音による没入型のストーリーテリングを継承している。ストリーミング・プラットフォームやYouTubeで聴くことができるハイライト曲"Half Light "を聴けば、アルバムのサウンドをいち早く垣間見ることができるだろう。


作曲家兼プロデューサーのオーギュスタン・ブスフィールドと共同でセイント・エティエンヌがプロデュース。"夜 "は、2024年1月から8月にかけて、サルテールとホーブの2箇所でレコーディングされた。


ピート・ウィッグス:「ブラッドフォードにあるガスのスタジオで、カーペットの上に寝転がって、コーヒーのマグカップを片手に、歌詞のシートやタイトルのアイデアを周りに転がして制作した。前作のメロウでスペイシーな雰囲気を引き継ぎたかったし、それを倍増させたかった。暗闇の中で、目を閉じて聴きたいレコード。『ハーフ・ライト』は、夜の果て、木々の枝の間からちらつく太陽の最後の光、自然との交感、そこにないものを見ることをテーマにしている」


サラ・クラックネル: 「前作を遠隔でレコーディングした後、一緒にスタジオに戻ることができてとても嬉しかった。このアルバムで一番好きな曲のひとつは『Preflyte』で、初めて歌ったときは涙が出たよ」


ボブ・スタンレー: 『The Night』は落ち着いたアルバムにしたかった。暖かくて穏やかで、同時にゴージャスで濃密なものを作りたかった。「目覚めているときと眠っているときの間にある状態、つまり夢の空間を見つけようとした。半分忘れてしまったような考えや、テレビの台詞の断片、地名、通り、行ったこともないサッカー場などが漂ってくる。そのような状態にあるときは、音や半分覆い隠された記憶をとても受け入れやすく感じる。"レインノイズ "はその中を通り抜ける。午前2時に眠れないような頭の中のものを優しく洗い流すように設計されている。


『The Night』は本当に立体的に聴こえる。その多くは、ギターを弾き、素晴らしいプロデュースをしてくれたガス・バスフィールドのおかげ。彼のスタジオでレコーディングしたことで、とても明るく広々とした空間が生まれ、それがサウンドを形作っている。僕ら3人はそれぞれの曲を持ち寄ったんだけど、まず音符を交換することなく、リリックの部分で全員が調和していた。"連続した1つのトラック "と考えることもできる。間違いなくヘッドフォン・アルバムなんだ。


セイント・エティエンヌは私たちを優しく手繰り寄せ、夜更けの深みに沈み込ませ、疲れた心を絶望の淵から引き戻す。『ザ・ナイト』によって、すべての不安は和らぎ、高ぶる心の邪悪さはソフトフォーカスの汚れにまで減速し、すべてが高尚で心地よい完全なる静寂の魅力に包まれる。


『ザ・ナイト』は、太古の昔、一人の男が草むらの風の音や岩の上を流れる水の音に慰めを見出すことから始まり、何世紀にもわたって柔らかな音を奏で続け、コラージュや新時代の音楽を通過してきた長い伝統に属している。


ヴァージニア・アストリーの『From Gardens Where We Feel Secure』、KLFの『Chill Out』、トーク・トークの『Spirit of Eden』など、現代の夢遊病者の傑作を取り込んでいる。建築はアンビエントで、照明は控えめ、表面は無限の可能性に輝いている。


夜行性の生命はすべてここにあるが、夜の地下とはいえ、その次元は異なる。言葉は新たな意味を持ち、影はますます長く傾き、一匹の狐が名もない通りの孤独な街灯の下で立ち止まり、美しい刃物のような歯で何かを掠め取る。ここでは何でも可能なのだ。


慌ただしい時は慌ただしい心を生む。が、ここには孤独な時間など存在しない。ただ何層にも重なる「夜」と、その中に潜む心落ち着く秘密があるだけ。足を滑らせればいい。そして呼吸するのみ。



『The Night』 Heavenly Recordings/[PIAS] (80/100)


 

ザ・キュアーの再ヒットの事例を見るかぎり、若手優遇の時代がそろそろ終わり、中堅以上の経験豊富なバンドが今後のミュージックシーンを引っ張っていくのではないかという気がしている。以前は若手というと、10代、20代に限定されていたし、おそらくレコード会社も”若さ”を当てにしていたと思うが、今後は30代以降の実力派の若手が数多く登場することだろう。

 

ケイト・ブッシュのストレンジャー・シングスの楽曲の再ヒット、アセンズの伝説的なニューウェイブ・グループ、B-52'sのケイト・ピアソンの復活を見ると、過去にヒットソングを持つベテラン歌手の需要が高まっているのではないかと類推することも出来る。もちろん、実力のあるミュージシャンはいつの時代も歓迎されるが、若手というだけで支持を集めるような時代ではなくなりつつあるのかも知れない。プロジェクト名を変更して出てくるというケースもある。確かなことは言えないが、セイント・エティエンヌも、そんな流れを象徴付けるグループだ。


実は、先日までバンド名を知らなかったが、1990年代のブリット・ポップ全盛期から活躍する三人組は、最新作『The Night』において、かなりフレッシュな印象を持つアルバムを制作している。フィールド・レコーディングを散りばめた実験的なポップスであるが、それほど奇をてらうことはない。聴いていて感覚にすんなり馴染み、そしてキャッチーな響きを持ち合わせている。それは結局、セイント・エティエンヌのサウンドが、60、70年代のポップスを下地にしているからなのだろう。彼らのサウンドは必ずしも感染力や即効性があるとは言いがたいが、普遍的な響きがある。そして、これが実験的な音楽性に安定感や柔和さをもたらしている。


セイント・エティエンヌの音楽は、勢いという側面では、90年代初頭の作品に分があるように思える。たとえば、90年代始めのアルバム『Foxbase Alpha』などは華やかな音楽産業の名残をとどめていて、感染的で幸せな雰囲気を放つ。しかし、ひるがえってみて、2024年のアルバム「Night」は幸福感こそ乏しいものの、音楽的にはかなり深いポイントに達している。このアルバムは、Sonic Boom、Dean & Brittaのクリスマス・アルバムのように、じっくり聴かせ、音楽をよく知るミュージシャンとしての賢しい印象を持ち合わせている。それは自分たちの制作する作品を見上げるというより、同じ目線で見つめるという感じなのだ。この言葉には語弊があるかもしれないが、少なくとも、本作はミュージシャンとしての経験豊富さに裏打ちされた実力派のポピュラーアルバムであり、セイント・エティエンヌはアートポップの潜在的な可能性を全体全般に発露させている事がわかる。レベッカのNOKKOが言うように、かつては、ベッドルームポップの先駆者として知られていたセイント・エティエンヌは、次なる段階に進み、60年代のバロックポップと現代的なアンビエントの要素を融合させ、ポピュラーミュージックが本来決まった形式や制約がないこと、それから限界がないことを教唆している。

 

アルバムは、カフェでの会話のようなシーンで始まり、映画的な印象を持つサウンドスケープが描かれる。ポール・ウェラーのStyle Councileの『Cafe Bleu』へのオマージュかと思ってしまうが、そこには和気あいあいとした雰囲気がわだかまる。さながら現在の三者の人間関係を象徴付けるかのように、付かず離れずといった理想的な人間関係の距離を感じさせる。そして調律のずれたアンティークなピアノ、ウェイターが歩き回る音、ドアを開ける音、こういったフィールド録音が続いた後、アンビエントのテクスチャー、そして、サラ・クラックネルのものと思われるモノローグが続いている。そして、アルバムの冒頭で、開放的で未知への期待を感じさせる個性的なイントロダクションが続く。音楽と舞台演劇を融合させたようなサウンドである。

 

イントロダクションを経て、いよいよアルバムは本格的な楽曲が始まる。しかし、その印象は掴み難く、全体的な波形にデジタルディレイをかけたアンビエンス、そしてベースラインと合わせて、ボーカルソングが始まる。「Half Light」は80年代のポップスのように懐かしく耳に迫り、エレクトロサウンドを織り交ぜ、巧みなサウンドワークを描いていく。このポピュラー・ソングは、日本の80年代のポップスとも連動するような感じで、レトロとモダンの間を行き来する。まさしくレベッカ・サウンドのようなきらめきとアンニュイさを併存させている。 

 

 「Half Light」

 

 

 

その後、『Night」では作風を固定することなく、変幻自在なサウンドが繰り広げられる。これは近年のアンビエントポップの台頭とリンクする。シンセストリングス、ピアノとディケイによるエフェクトを用いたアンビエントが「Through The Grass」続くが、全体的な印象論としては、このサウンドはトリップ・ホップの「抽象的なポップス」という隠された主題と地続きにあるような気がする。それは実際的には、次世代のサウンドを予見させるものがある。特にこのアルバムでは、画期的な録音技術が用いられることがあり、それはサラ・クラックネルのリードボーカルの曲に顕著に立ち現れる。ボーカルに過剰なエフェクトをかけ、音像を極限まで引き伸ばすという手法は、スマイルの作品『Wall Of Eyes』や、リアム・ギャラガー、ジョン・スクワイアのセルフタイトルアルバム『Liam Gallagher& John Squire』にもすでに活用されている。

 

「Nightingale」では、これらの録音技法を駆使し、ミステリアスな音像を作り上げている。ローズピアノの細かなフレーズを散りばめて、ドラマのサウンドトラックのようなサウンドを最初に作り上げ、それらの背景に対し、70、80年代のポピュラーソングの影響下にあるボーカル録音を被せるというパターンである。クラックネルのボーカルは渦巻くように限りなく伸びていき、催眠的な効果を呼び起こす。そしてそれらのヒプノティックなサウンドの中で、ジャズのスキャットを含むボーカルは、単なる歌というよりも子守唄のような感覚を帯び始める。曲のタイプとしては懐古的であるのに、意外にも鮮やかな印象を覚える。他にも様々な工夫が施されており、鳥のフィールドレコーディングがパーカッションの効果として導入されることもある。そして曲そのものが何らかの情景的なサウンドスケープやシーンと連動していくのである。

 

以降もアンビエント風のサウンドが続き、曲ごとにシーンが入れ替わる。これは本来は離れているはずの曲を結びつけるような働きをなす。次曲「Northern Counties East」は工場のアンビエンスをフィールド録音で拾い、それをパーカッシブな観点から捉え、ポピュラーソングに仕上げていく。さらに曲の中にはチェンバロも登場し、クラシカルな響きとポピュラーな響きが混ざり合う。

 

アルバムの中盤では、短いシークエンスを設け、オーケストラのムーブメントのような形式を織り交ぜている。「Ellar Carr」は、ボーカル録音を器楽的に解釈し、オーケストラの楽器の一貫のような形で解釈するというアートポップではよく使われる技法が取り入れられている。これはアルバムの一曲目と同じように、なにかしら近未来的な音のイメージを感取することが出来る。「When You Were Young」では、ブンと唸るシンセサイザーのベースを基にして、フィールド・レコーディングとオーボエの演奏を交え、チェンバーポップの未来形を示している。他の曲と同じように、それほど派手さはないけれど、ボーカルの録音の重ね方に面白さがある。

 

 

終盤では、興味深いことに、フィル・スペクターのサウンドが登場する。ただ、「No Rush」ではそれらのシンフォニックなサウンドにクワイア(声楽)の要素を付け加えている。実際的に荘厳なイメージとまではいかないが、それに類する実験的なサウンドが組み上げられる。サウンドのタイプとしてはMogwaiのポスト・ロックや音響派に比するものがあるが、実際的なサウンドはむしろ80年代のAORやソフトロックがベースとなっている。少なくとも、この曲は開けたような感覚に充ちている。制作者としてフォーク・ミュージックにある涼やかな感覚をアンビエントの切り口を介して、抽象化したような一曲である。個人的にはこういった実験的な曲よりも、簡潔なポピュラーソング「Gold」の方に魅力を感じてしまう。軽快なピアノのリズム的な進行に合わせて軽快なヴォーカルが続き、トライアングルや木管楽器の音色が混ざりあい、ゆったりした音楽性が組み上げられる。邦楽のポピュラーとも親和性があるような気がする。

 

その後、多彩な音楽的なアプローチが続く。セイント・エティエンヌの音楽はそれほど深刻にならず、遊び心に溢れている。「Celestial」では、メロトロンの演奏にビンテージな質感を加え、チェンバーポップをインストゥルメンタルの観点から再検討している。「Preflyte」ではチェンバロを始め、オーケストラ楽器を取り入れ、オーケストラポップの領域に足を踏み入れている。曲にダイナミックな効果を与える金管楽器を暈したようなサウンドは、まさしくウォール・オブ・サウンドの系譜に位置づけられる。なおかつ、これらの重厚感のある録音は、ときどき、リスナーに時間という観念を忘れさせ、音楽の普遍性を思い出させる力を持つ。

 

アルバムの終盤でも、Jayda Gがもたらした「スポークンワードによるストーリーテリング」の要素が強調される。これは海外的には流行りのスタイルであり、例えば、日本では鶴田真由さんがすでに試しているが、 日本のミュージックシーンでもこれから頻繁に使用されるようになるかもしれない。アルバムのクライマックスでは、「ウォール・オブ・サウンド」の教科書のようなサウンドが登場する。「Hear My Heart」では、録音された場所の反響を上手く活かし、そのフィールドでしか得られない特別なサウンドを提供している。 そして、セイント・エティエンヌは、70、80年代ごろのポップスのノスタルジアを付加している。さらにクラフトワークのような電子音を付け加え、シンセポップの形式をレトロな側面から再検討しているのも面白い。

 

これらの実験や試作が完璧に行ったとは言えないかもしれない。まだこのサウンドは未知数。しかし、このアルバムには実験音楽としての冒険心、そして未知なる音楽への道筋が示されており、冒頭曲「Settle In」、「When You Were Young」では、近未来的なイメージを覚えることもある。加えて経験豊富なアーティストとしてのイディオムも登場するのに注目。いわば時間を持たない、音楽の普遍的な魅力が内在している。「Alone Together」では、ヨットロックのような形式が登場し、アルバムの中では、バンドアンサンブルの性質が色濃い。ローズピアノ、ベース、ギターの基本的な構成に加えて、金管楽器のレガートが曲に掴みどころをもたらしている。本作のクライマックスにはシタールのドローンを用い、独創的なサウンドを構築している。

 

 

 「Preflyte」

 


Sainte Etienne - 『Nights』はHeaveny Recordings/[PIAS]から本日発売。ストリーミングはこちらから。ヘブンリー・レコーディングは、Gwennoを送り出したことからもわかる通り、個性的なカタログを擁する注目のレーベル。

 

 フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」とは



ロネッツに始まり、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、そして、ブルース・スプリングスティーン、ラモーンズに至るまで、60年代以降の録音技術に革新をもたらしたフィル・スペクター。彼は、パンデミックの最初期に亡くなっている。日本のポップスにも影響を与え、大瀧詠一や山下達郎の録音作品にも影響を与えたとの諸説がある。フィル・スペクターが生み出した録音技術の中で、最も有名なのが「Wall of Sound(ウォール・オブ・サウンドー 壁に反響するサウンド)」である。

 

 フィル・スペクターは人物的には映画監督の黒澤明に近く、ワンマンに近い完璧主義のディレクションを採用した。そして、ディレクションなくして作品が成立しえないという点では、かなり限定的な録音手法だと言えるかもしれない。フィル・スペクターは、マイクの位置に徹底的にこだわり、演奏者が触れることさえ許さなかった。そして短い楽節を演奏を何度も繰り返させたことから、ミュージシャンからはあまり受けが良かったとは言えないかもしれない。


つまり、「ウォール・オブ・サウンド」の難点を挙げるとするなら、ミュージシャンの自由性や遊びの部分をほとんど許さず、演奏者の苦心をすべて録音作品の成果として吸収してしまうのである。これは彼がリヒャルト・ワーグナーに傾倒していた点からも分かる通り、ベルリン・フィルのカラヤンの名演のような演奏を生かしたエコーチェンバー(自然の反響)を組み上げようとしていたことが理解出来る。ちなみに、カラヤンは作曲者の指示を無視してストリングスの編成を増やし、重厚なサウンドを作ることがあった。チェイコフスキーのライブ等を参照。

 

 一般的な解釈としては、スタジオの壁に反響する音響(エコーチャンバー)を用いた録音技術として知られている。この名称「Wall Of Sound」を聴くと、彼が多重録音、つまりジャマイカで発生したダブのような形式で数々の名作を録音したと思う方もいるかもしれないが、事実はどうやら少し異なるようだ。どころか実際はそれとは正反対だ。フィル・スペクターは3トラックのマルチトラックレコーダーを使用して、彼はピアノ、ベース、ギター、コーラス、それからオーケストラをユニゾンで重ね、壁に反響するような重厚なサウンドを構築していったのだった。

 

 驚くべきことに、フィル・スペクターは、限定的な録音環境で重厚なエコーチャンバーを生み出したのである。彼は一般的に狭いレコーディングスタジオの四壁の反響の特性を活かして、音量、音圧、音の奥行きといった録音的なアンビエンスを見事に作り出したのだった。しかも、フィル・スペクターのカラヤン的な録音技法は徹底していた。18人から23人ものミュージシャンを比較的狭いスペースに集めて、演奏をさせ、それを一挙に録音したのである。彼の代名詞であるホーンセクション、リズム・セクションに関しては、一発録りで録音し、それらをミキサーで最終的な調節をかけるというものだった。これは実際的には彼の手掛けた録音作品に、ダイナミックさと生々しさを及ぼすことになった。しかし、同時に最終的な調整では、リバーヴ、ディレイ、ダイナミックレンジの圧縮(リミター的な処理)をミキサーで施した。

 

 

 フィル・スペクターのプロデュース作品は、ギター、ピアノ、ベース、ドラムといったシンプルな楽器編成に加えて、オーケストラ等のポピュラーミュージックとしては大編成の楽器が加わることもある。フィルハーモニーのような大編成の録音をどのように組み上げていったのか。 スペクターのウォール・オブ・サウンドの構築は、それらの基礎を担うシンプルなバンドのアンサンブルから始まる。ソングライターのジェフ・バリーによると、最初はギターの録音から始まることが多いという。


「4つまたは5つのギター、2つのベース、同じタイプのライン(ユニゾン)を加えて、それから弦を録音し、最終的に6つか7つのホーンセクションを加え、楽曲にパンチをもたらした。その後、パーカッションの録音に移行し、打楽器、小さなベル、シェーカー、タンバリンを付け加えた」 また、スペクターと頻繁に共同作業を行ったエンジニアのラリー・レヴィンも同じような証言を残している。「ギターから始めて、一時間の間に4-8の小節の録音を繰り返し、スペクターが納得するまで何度も反復する」というものだった。ビートルズの録音等では10テイクくらいまでが残されているが、実際には、20回から50回もの演奏に及ぶこともあったという。


 


レコーディングスタジオの音響  


 

 レコーディング・スタジオの空気感(アンビエンス)が作品全体に影響を及ぼすことがある。あるスタジオで録音された音源は音が敷き詰められているように思えるし、別のスタジオで録音された音源は、ゆったりとした間延びしたような音の印象を覚えることがある。言い換えれば、それは、建物や部屋のアンビエンス(音響や残響の全般のこと)の特性、マイクの位置、そして演奏者の距離が出力されるサウンドにエフェクトを及ぼすということである。フィル・スペクターは、実際的な録音の完成度の高さを目指したのは事実だと思うが、一方、彼はスペースのアンビエンスに徹底してこだわった。つまり、彼はレコーディングルームの空気感をマイクで録音し、モノラルでミックスしたのだった。そして、ウォール・オブ・サウンドの完成のために、不可欠だったのがロサンゼルスにある「Gold Star Studio」である。


 音の特性にこだわれば際限がなくなる。けれど、空間的な特性が録音に影響を与えることは実のところ免れないことである。例えば、メジャーリーグのスタジアムでも打球が飛びやすい球場とそうでない球場がある。また、フットボールのスタジアムでは、ボールがハネやすかったり、そうでなかったり、高地にあるので、スタミナを過剰に消耗しやすいフィールドもある。音楽も同じで、空気の乾燥、つまり湿度や温度、密度、壁や建材の材質までもが実際の録音に影響を与える。もちろん、コンクリートの壁であれば音は硬く聴こえるはずだし、反対に木材中心のスタジオでは反響は吸収されるが、コンクリートよりも柔らかいサウンドが得られるだろう。もちろん、レンガ壁等の特殊な録音空間では、予想も出来ない反響の結果が得られるに違いない。

 

 特に、フィル・スペクターが好んで使用し、ウォール・オブ・サウンドという名称が生み出されたゴールド・スター・スタジオもまた、現代的なレコーディングスタジオという観点から言うと、きわめて異質な環境であった。このスタジオからはビーチ・ボーイズ、ブライアン・ウィルソン、ジョン・レノンの名作が誕生した。伝説的なレコーディングスタジオとして知られている。




 ゴールド・スター・スタジオは、デヴィッド・S・ゴールド、スタン・ロスによって1950年に設立された。このスタジオの設備には、反響効果を及ぼす装置、エコーチェンバーが付属し、音の壁からボーカルが浮き出るような特異な感覚があったため、ウォール・オブ・サウンドの名称が誕生した。


このスタジオからはロネッツの「Be My Baby」、ビーチ・ボーイズの「Good Vibration」、ラモーンズの「Do You Remember Rock n' Roll Radio?」などが制作され、数々のグラミー賞ヒットナンバーを世に送り出したのは最早周知のことではないかと思われる。 

 

 本来であれば、フィル・スペクターが用いた録音の方法は理に叶ったものとは言えない。例えば、近距離で演奏すれば他のパートの楽器のノイズを拾ってしまう。しかし、フィル・スペクターは、この欠点を活かし、独特のアンビエンスを作り出すことに成功したのだった。特に、スタジオに付属しているエコーチェンバー(ルームエコー)の装置が、ウォール・オブ・サウンドの完成には不可欠だった。

 

 スペクターは、エコーマシンをディレイさせ、それをチェンバーに通した。その結果として生み出されるのは、個々の楽器の特性を掴みがたいような抽象的でありながら凄まじい密度を持つ重厚なサウンドであった。さらに、スペクターは最終のミックス時に、個々のトラックにエコーを掛け、何台ものテープマシンを回した。そして、同時にユニゾンで同じフレーズを演奏者に演奏させ、録音し、それらを組み合わせ、ミックスを加えていった。フィル・スペクターのサウンドは帰納的なものと言え、結果や結末から最初に行うべき録音を逆算していったのではないか。つまり彼の頭には理想的なサウンドがあり、どうすればその結果に辿り着くのかを試行錯誤していった。


 ゴールドスタジオはパラマウントの近くにあり、1950年代にハリウッドの音楽作家、そして映画、TV制作者のデモづくりのスタジオとして始まった。つまり、映画やドラマのサウンドトラック的な意味を持つ音源を制作するために作られたスタジオだった。これは大手レコード会社とは異なる運営方法を可能にしたにとどまらず、映画的なサウンドを作るための基盤になった。

 

 特に、スタジオにあるミキシングコンソールは、設立者のデイヴィッド・ゴールドが自作したものである。音響効果の装置を熟知した開発者が在籍していたことは、録音の特性を最大限に発揮させるための手助けともなった。また、このスタジオには優れたエンジニアが在籍していた。ラッカー盤に刻むカッティング・マシーンは、創設者のゴールドが自作し、アナログとは思えない卓越した音圧を得ることが可能になった。その他、エンジニアのラリー・レヴィンは、カッティング技術者として優れた技術を持っていた。つまり、こういった技術者の活躍があったおかげで、レコードとして高性能の再現力を持つ音源が完成した。それは芸術的な側面だけではなく、工業的な側面を併せ持つレコードの清華でもあったのだ。

 

 

ウォール・オブ・サウンドの以降



 

 果たして、ウォール・オブ・サウンドは時代遅れの録音技術なのだろうか。しかし、少なくとも、以降の大瀧詠一や山下達郎のような複数のアーティストにより、再現が試みられたことを見ると、まだまだ無限の可能性が残されているように思える。そして少なくとも、この録音技術は、機材の機能の制限から生み出された産物であったということである。もちろん、技術者として卓越したコンソール制作者がいたことは忘れてはいけない。そして事実、1960年以降、ウォール・オブ・サウンドの代名詞であったモノラル録音からステレオ録音に移り変わり、マルチトラック数が4から8、16へと増加していき、録音機器の可能性がエンジニアによって追求されていく過程で、この録音技術は時代に埋もれていった側面もある。しかし、ポピュラーミュージックの歴史を見る上で、限定的な数のトラックを用いた録音というのは、何らかの可能性が残されているかもしれない。ウォール・オブ・サウンドの演奏者が同じスペースで一発録りをする録音方法は現代でも取り入れられる場合があり、まだまだ未知の可能性が残されているような気がする。

 

 以降、同時に録音出来るトラック数が増えたことは、実際的にソロアーティストが活躍する裾野を広げていった。 実際的に多数の演奏者が一つのレコーディングルームで演奏する必要がなくなったことが、グループサウンドやバンドサウンドがその後、いっとき衰退し、ソロアーティストの活動が優勢になっていく要因となったという話もある。つまり、録音技術の拡大は、必ずしもバンドやグループというセクションの録音にこだわらなくても良くなったというわけである。ビートルズやビーチボーイズの主要メンバーが以降、ソロ活動に転じたのは、最早バンドで録音を続ける意義を見出しづらくなったという要因があった。

 

 しかし、同時に、フィル・スペクターがエンジニアと協力して構築した「ウォール・オブ・サウンド」の最大の魅力や価値を挙げるとするなら、それは複数の演奏者が一同に介し、その瞬間にしか得られないような生のサウンドをリアルタイムで追求するということであった。結果的に、「同時に録音する」という行為は、想定した録音の結果が得られるとはかぎらず、偶然の要素、チャンス・オペレーションが発生する。そして、予測出来ない箇所にこそ、録音の未知の可能性が残されているかもしれない。

 

 テクノロジーは、日々、革新を重ね、新しい録音システムが次々と生み出されている。旧来の可能性と未来の可能性が合致したとき、ウォール・オブ・サウンドに代わる新しい代名詞がどこからともなく登場するかもしれない。そして、その画期的な録音方法にはどんな名称が与えられるのだろう。考えるだけでワクワクするものがある。

 

世界中の音楽ファンを魅了する音楽家、青葉市子。最新アルバム『Luminescent Creatures』から先行シングル「FLAG」をリリース! オランダのフェスティバル"Into The Great Wide Open 2024"のライブ映像も公開!



本日、青葉市子の最新アルバム『Luminescent Creatures』から先行シングル「FLAG」を配信開始しました。
 

来年2/28(金)に発売される8枚目のオリジナル・アルバム『Luminescent Creatures』から2枚目のシングルとなる「FLAG」はシンプルな弾き語りアレンジとなっています。先月リリースしたシングル「Luciférine」に引き続き、レコーディングとミックスを葛西敏彦、マスタリングをオノセイゲン(Saidera Mastering)、アートディレクションとアートワーク撮影を小林光大がそれぞれ手がけている。



また、今年の8月にオランダのフリーランドで開催されたフェスティバル<Into The Great Wide Open 2024>で収録されたライブ映像が本日より公開。本映像には新曲「FLAG」や「マホロボシヤ」が収録され、12/15(日)にはオランダの公共放送局 NPO 2 にて放送される予定です。



既報の通り、年明け1月に京都と東京で開催されるデビュー15周年公演のチケットは即日完売、1/23(木)に東京オペラシティ コンサートホールにて追加公演が決定。今週末12/15(日)までチケット先行受付中です!



■リリース情報
青葉市子 シングル「FLAG」※読み「フラッグ」
12/12(木)配信開始


https://ichiko.lnk.to/FLAG


■ライブ映像情報
Ichiko Aoba live at Into the Great Wide Open


https://ichiko.lnk.to/FLAGsite


※12/12(木)16:00より上記URLにて公開

 

青葉市子 8thアルバム『Luminescent Creatures』: 2025/2/28(金) 全世界同時発売(配信/CD/Vinyl)

収録曲
01. COLORATURA
02. 24° 03' 27.0" N, 123° 47' 07.5" E
03. mazamun
04. tower
05. aurora
06. FLAG
07. Cochlea
08. Luciférine
09. pirsomnia
10. SONAR
11. 惑星の泪


■ICHIKO AOBA 15th Anniversary Concert【追加公演】

 
2025年1月23日(木)@東京・東京オペラシティ コンサートホール


開場17:30 / 開演18:30

■チケット


S席¥6,800 / バルコニーA席¥5,800 / バルコニーB席¥4,800
※バルコニーA席 / バルコニーB席 お席によって一部演出、出演者が見えにくい場合がございます。座席の変更、振替はできませんので予めご了承ください。


※⼩学⽣以上有料 / 未就学児童⼊場不可



■チケット先行受付
受付期間:12/3(火)12:00〜12/15(日)23:59


受付URL: https://eplus.jp/ichiko-15th/


※抽選受付。
※海外居住者向けチケット先行受付

(先着)URL: https://ib.eplus.jp/ichikoaoba_15th



チケット一般発売日:12月21日(土)
お問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077 http://www.red-hot.ne.jp

■ICHIKO AOBA 15th Anniversary Concert(チケット完売御礼!)


2025年1月13日(月祝)@京都・京都劇場
2025年1月20日(月)@東京・東京オペラシティ コンサートホール


■Luminescent Creatures World Tour 

・Asia

 
Mon. Feb. 24 - Hong Kong, CN @ Xi Qu Centre, Grand Theatre [with Musicians from HK Phil]
Wed. Feb. 26 - Seoul, KR @ Sky Arts Hall (SOLD OUT)
Thu. Feb 27- Seoul, KR @ Sky Arts Hall (NEW SHOW)
Thu. March 6 - Taipei, TW @ Zhongshan Hall (LOW TICKETS)
Europe
Mon. March 10 - Barcelona, ES @ Paral.lel 62
Tue. March 11 - Valencia, ES @ Teatro Rambleta
Thu. March 13 - Milan, IT @ Auditorium San Fedele (LOW TICKETS)
Sat. March 15 - Zurich, CH @ Mascotte
Tue. March 18 - Hamburg, DE @ Laiszhalle
Wed. March 19 - Berlin, DE @ Urania (Humboldtsaal)
Fri. March 21 - Utrecht, NL @ TivoliVredenburg (Grote Zaal) (LOW TICKETS)
Sun. March 23 - Groningen, NL @ Oosterpoort
Tue. March 25 - Antwerp, BE @ De Roma
Thu. March 27 - Paris, FR @ La Trianon (LOW TICKETS)
Mon. March 31 - London, UK @ Barbican [with 12 Ensemble] (SOLD OUT)
Wed. April 2 - Manchester, UK @ Albert Hall
Fri. April 4 - Gateshead, UK @ The Glasshouse
Sat. April 5 - Glasgow, UK @ City Halls


・North America

 
Thu. April 17 - Honolulu, HI @ Hawaii Theatre
Sat. April 19 - Vancouver, BC @ Chan Centre (LOW TICKETS)
Sun. April 20 - Portland, OR @ Revolution Hall
Mon. April 21 - Seattle, WA @ The Moore
Wed. April 23 - Oakland, CA @ Fox Oakland
Sat. April 26 - Los Angeles, CA @ The Wiltern [with Wordless Music Quintet] (LOW TICKETS)
Sun. April 27 - Los Angeles, CA @ The Wiltern [with Wordless Music Quintet]
Tue. April 29 - Scottsdale, AZ @ Scottsdale Center
Thu. May 1 - Denver, CO @ Paramount Theatre
Sat. May 3 - St. Paul, MN @ Fitzgerald Theatre (LOW TICKETS)
Sun. May 4- St Paul, MN @ Fitzgerald Theatre (NEW SHOW)
Tue. May 6 - Chicago, IL @ Thalia Hall
Wed. May 7 - Chicago, IL @ Thalia Hall
Fri. May 9 - Detroit, MI @ Masonic Cathedral Theatre
Sat. May 10 - Cleveland, OH @ Agora Theatre
Mon. May 12 - Boston, MA @ Berklee Performance Center
Wed. May 14 - New York, NY @ Kings Theatre [with Wordless Music Quintet]
Sat. May 17 - Philadelphia, PA @ Miller Theatre
Sun. May 18 - Washington, DC @ Warner Theatre
Thu. May 22 - Mexico City, MX @ Teatro Metropolitan


https://ichikoaoba.com/live-dates/


■青葉市子/ICHIKO AOBA

 
音楽家。自主レーベル "hermine" 代表。2010年デビュー以降、これまでに7枚のオリジナル・アルバムをリリース。クラシックギターと歌を携え、世界中を旅する。"架空の映画のためのサウンドトラック" 『アダンの風』はアメリカ最大の音楽アーカイブ "Rate Your Music" にて2020年の年間アルバム・チャート第1位に選出されるなど、世界中で絶賛される。2021年から本格的に海外公演を行い、これまで、Reeperbahn Festival, Pitchfork Music Festival, Montreal International Jazz Festival 等の海外フェスにも出演する。今年6月にはフランスの音楽家 "Pomme" と2020年にリリースされた「Seabed Eden」のフランス語カヴァーをリリース。FM京都 "FLAG RADIO" で奇数月水曜日のDJを務め、文芸誌「群像」での連載執筆、TVナレーション、CM・映画音楽制作、芸術祭でのパフォーマンス等、様々な分野で活動する。

 


ヨーロッパを代表する音楽レーベル〈ECM〉。1969年にマンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)によってドイツ・ミュンヘンで創設され、「沈黙の次に美しい音(The Most Beautiful Sound Next To Silence)」というコンセプトのもと、他のレーベルとは一線を画す透明感のあるサウンドと澄んだ音質、そして洗練されたジャケット・デザインで、世界中のファンを魅了してきました。


今年はレーベルの創立から55周年を迎え、1984年にスタートしたクラシック・シリーズ「ECM New Series」も40周年を迎えます。この節目を記念して、12月13日(金)から12月21日(土)まで、日本で初めてのエキシビションが東京都千代田区の九段ハウスにて開催されます。


エキシビションのテーマは「Ambience of ECM」、ECMのサウンドをさまざまな環境で楽しむプロジェクトです。楽曲はレーベル第1弾作品であるマル・ウォルドロン(Mal Waldron)の『Free at Last』(1969年)からクラシック・現代音楽を含む「ECM New Series」まで、レーベルの広大な音世界から岡田拓郎、岸田繁、原雅明、三浦透子、SHeLTeR ECMFIELD (Yoshio + Keisei)が九段ハウスのそれぞれのリスニング環境に合わせて選曲。部屋の建築様式とペアリングされたサウンド・システムで、全く異なるリスニング体験をお楽しみいただけます。


さらに、ミュンヘンから輸入した貴重なポスターアート38点を特別展示。ECMレコードが保有するこれらのアートは日本では初公開となるもので、館内を巡りながらECMの世界観を視覚と聴覚の両面で堪能することができる特別な機会です。







日程:2024年12月13日(金)~21日(土) ※12月21日(土)はレセプションのため招待者のみ


時間:10:00/14:00/18:00 (所要時間:1時間程度、事前予約制)


入場料:無料 (要予約)


予約:Peatix特設ページ(https://ambienceofecm.peatix.com)


会場:kudan house (東京都千代田区九段北1丁目15-9)



ECM: 


独立系レコードレーベルECM(エディション・オブ・コンテンポラリー・ミュージック)は、1969年にプロデューサーのマンフレッド・アイヒャーによって設立され、今日までにさまざまなイディオムにまたがる1700枚以上のアルバムを発行してきた。


小さな文化事業として始まったこのレーベルの特別な資質は、すぐに認識されるようになった。1972年、『シュピーゲル』誌はECMに関する最初の記事として、ミュンヘンに住む29歳のプロデューサーが米国の著名な音楽家たちの関心を集めているというレポートを掲載した。シュピーゲル誌によると、ECMが「最高のジャズ録音」、つまり「サウンド、臨場感、プレスのゴールド・スタンダード」をリリースするようになったからだという。この時点では、ミュンヘンのレーベルは設立からまだ2年半しか経っていなかった。


ドイツのリンダウで生まれたマンフレート・アイヒャーは、ベルリンでコントラバスを学んだ。すぐにビル・エヴァンス、ポール・ブレイ、マイルス・デイヴィス、そして彼のベーシストであるポール・チェンバースといったアーティストの音楽への愛を知った彼は、ジャズに夢中になった。ドイツ・グラモフォンのプロダクション・アシスタントとして、彼はクラシック音楽の録音において最高水準を目指すとはどういうことかを学んだ。そして今、彼は即興音楽を同じ精度と集中力で録音し始めた。


新レーベルの最初のタイトルは、米国のピアニスト、マル・ウォルドロンの『フリー・アット・ラスト』だった。キース・ジャレット、ヤン・ガルバレク、チック・コリア、ポール・ブレイ、ゲイリー・バートン、エグベルト・ジスモンティ、パット・メセニー、ジャック・デジョネット、アート・アンサンブル・オブ・シカゴといったアーティストの先駆的な録音により、ECMは侮れないレーベルとしての名声を確立した。


1970年代後半には、メレディス・モンクやスティーヴ・ライヒなどの名前が定期的にECMのカタログに掲載されるようになり、1984年には楽譜に特化したニュー・シリーズを発表した。『タブラ・ラサ』でアルヴォ・ペルトの音楽を紹介したのを皮切りに、ニュー・シリーズは1200年にパリでペロタンが作曲したオルガナから現代作曲まで、幅広い範囲をカバーするようになった。

 


米国の深夜番組、「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」にボーイジーニアスのメンバー、またソロギタリスト/シンガーとして活動するジュリアン・ベイカー、そしてニューヨークのポップシーンの注目株、トーレスが共演を果たした。両者共にギタリストとして個性的な表情を持つ。


トーレスは今年の初め、ニューアルバム「What An Enormous Room」をMergeからリリースした。ジュリアン・ベイカーは今年表立って新作をリリースしていないが、積極的にイベントに出演し、ハイレベルなギタープレイを披露している。またとない共演の模様は下記よりご覧ください。



 

Horsegirlが2ndフルアルバム『Phonetics On and On』からのセカンド・シングル「Julie」をドロップした。アルバムの発表とともに配信されたリード曲「2468」に続くこの曲は、ローファイな質感が生かされながらも、デビュー・アルバムのサウンドよりも洗練された響きがある。


ホースガールは2022年の『Versions of Modern Performance』でデビューを果たした。二年半ぶりのニューアルバム『Phonetics On and On』は、2月14日にMatadorからリリースされる。



アムステルダム在住のアニメーター、ダフナ・アワディッシュ・ゴランが監督したこのビデオは、1ヶ月半のアニメーション制作から始まり、新しい街への引っ越し、冬の寒さ、片思いという曲のテーマを表現している。彼女のアニメーション作品の多くは、動物を人間の代役として登場させる。ゴランは、背景のビデオの各フレームを個別にプリントし、その上にオイルパステルで手描きする。彼女はそれらのフレームをすべてスキャンし直して最終的な構図を作り上げる。彼女のスタイルとプロセスの手触りの良さは、トラックが作り出すムードを際立たせる。


「Julie」



Yoshika Colwell・The Varnon Spring  『This Weather(E.P)』

 

Label: Blue Flowers Music

Release: 2024年12月6日



Review  エクペリメンタルポップのもう一つの可能性 

 

ロンドンをベースに活動するYoshika Colwell(ヨシカ・コールウェル)の新作『This Weather』はThe Vernon Spring(ヴァーノン・スプリング)が参加していることからも分かる通り、ピアノやエレクトロニクスを含めたコラージュ・サウンドが最大の魅力である。単発のシングルの延長線上にある全4曲というコンパクトな構成でありながら、センス抜群のポップソングを聴くことが出来る。

 

ヨシカ・コールウェルは、イギリスの伝統的なフォークサウンドから影響を受けており、同時にジョニ・ミッチェルに対するリスペクトを捧げている。例えば、ミッチェルの1971年の名作『Blue』のようなコンテンポラリーフォークの風味を今作に求めるのはお角違いと言える。しかしながら1970年代の西海岸の象徴的な音楽性、ジャズシーンでも高い評価を受けた名歌手の影響をコールウェルのボーカルに見出したとしても、それは気のせいではない(と思う)。


それに加えて、ポスト・クラシカルともエレクトロニックとも異なるヴァーノン・スプリングの制作への参加は、このささやかなミニアルバムにコラージュサウンドの妙味を与えている。Bon Iver以降の編集的なポップスであるが、その基底には北欧のフォークトロニカからのフィードバックも捉えられるに違いあるまい。また、感の鋭いリスナーはLaura  Marling(ローラ・マーリング)のソングライティング、最新作『Patterns In Repeat』との共通点も発見するかもしれない。


EPの収録曲に顕著なのは、エレクトロニカとフォークトロニカのハイブリッドであるフォークトロニカをポップネスとして落とし込むという点である。オープニングを飾る「No Ideology」を聴くと分かる通り、グロッケンシュピール等のオーケストラの打楽器をサンプリング的に配し、ジャズ的な遊び心のあるピアノの短い録音をいくつも重ね合わせ、コラージュサウンドを組み上げていく。聴いているだけで心が和みそうなサウンドの融和は、コンテンポラリーフォークを吸収したヨシカ・コールウェルのボーカルと巧みに折り合っている。現代的な「ポップスの抽象化」(旋律や和音、そして全般的な楽曲の構成の側面に共通している)という観点を踏まえ、自然味に溢れ、和らいだポピュラーワールドが構築されていく。そして、ピアノの演奏の複数の録音やグロッケンシュピールの音色が、アンビバレント(抽象的)なボーカルと重なりあうとき、曲のイントロからは想像だにしないような神秘的なサウンドが生み出される。ここには構築美というべきか、音を丹念に積み上げることによって、アンビエント風のポップスが完成していく。この曲は近年の実験的なポップスの一つの完成形でもあるだろう。



ヴァーノン・スプリングのエレクトロニカ風のサウンドは次の曲に力強く反映されている。「Give Me Something」は前の曲に比べると、ダンサンブルなビートが強調されている。つまり、チャーチズのようなサウンドとIDMを融合させたポピュラー・ミュージックである。この曲ではイギリスのフォーク・ミュージックからの影響を基にして、エレクトロニカとしてのコラージュ・サウンドに挑んでいる。Rolandなどの機材から抽出したような分厚いビートが表面的なフォークサウンドと鋭い対比を描きながら、一曲目と同じように、グロッケンシュピール、ボーカルの断片が所狭しと曲の中を動き回るという、かなり遊び心に富んだサウンドを楽しめる。また、サウンドには民族音楽からのフィードバックもあり、電子機器で出力されるタブラの癒やしに満ちた音色がアンビバレントなサウンドからぼんやり立ち上ってくる。色彩的なサウンドというのは語弊があるかもしれないが、多彩なジャンルを内包させたサウンドは新鮮味にあふれている。ボーカルも魅力的であり、主張性を控えた和らいだ印象を付与している。

 

「Your Mother’s Birthday」はローラ・マーリングとの共通点が見いだせる。クラシックを基にしたピアノ、そしてエレクトロニカを踏襲したシンセ、そしてボーカルが見事に融合し、上品さにあふれる美しい音像が組み上げられていく。結局のところ、この曲を聞くかぎり、2020年代の音楽においては、北欧のエレクトロニカもポスト・クラシカルも旧来のフォークやポップスと影響を互いに及ぼしながら、新しいポップスの形として組み込まれつつあるのを実感せざるを得ない。こういったサウンドは、今後、主流のポピュラーの重要な基盤を担う可能性もありそうだ。そして楽曲は、旋律の側面においても、構成的な側面においても、緩やかな波を描きながら、曲の後半では、ドラマティックな瞬間を迎え、そしてアウトロにかけてクールダウンしていく。この曲には、即効性や瞬間性とは異なるオルトポップの醍醐味が提示されている。

 

EPのクローズも個性的なサウンドを楽しめる。この曲は、EDMとネオソウルのハイブリッドサウンドをイントロで強調した後、意外な展開を辿る。エレクトリック・ピアノを背景の伴奏として、ドラマティックなポピュラーミュージックへ転変していく。一曲目と同じように、最初のモチーフは長い時間を反映しているかのように少しずつ形を変え、植物がすくすくと葉を伸ばし成長していくように、ダイナミックでドラマティックな変遷を辿る。いわば最初のモチーフから曲が成長したり、膨らんでいくようなイメージがある。つまり、制作者のイマジネーションによって、民族音楽の打楽器をボーカルの背景に配し、エキゾチックなサウンドを強調させるのである。最終的には種にすぎないモチーフが花開くような神秘的な瞬間は圧巻と言える。


エクスペリメンタルポップは、近年においては、電子音楽やメタルのような音楽を吸収し、次世代のサウンドへ成長していったが、いまだクロスオーバーの余地が残されていることに意外性を覚える。もしかすると、クラシック/民族音楽/ジャズというのが今後の重要なファクターとなりそうだ。

 

 

82/100

 

 

 Album Of The Year 2024  



 

Vol.1  音楽のクロスオーバーの多彩化 それぞれの年代からの影響

 

2024年も終わりに近づいてきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年の素晴らしいアルバムが数多く発売されました。本サイトではオルタネイトなアルバムリストを年度末にご紹介しています。


2024年の音楽を聴いていて顕著だったのが、音楽のクロスオーバー、ハイブリッド化に拍車が掛かったという点でした。現在、かけ離れた地域の音楽を聴くことがたやすくなり、音楽に多彩なジャンルを盛り込むことが一般的になりつつある。そういった中、より鮮明となる点があるとすれば、シンガーソングライター、バンドの音楽的な背景が顕在化しつつあるということでしょう。人々が従来よりも多くの音楽を吸収する中、その人しか持ち得ないスペシャリティが浮かび上がってくる時、その音楽が最も輝かしい印象を放ち、聞き手を魅了するわけなのです。

 

もうひとつ印象深い点は、ミュージシャンが影響を受けたと思われる音楽の年代がかなり幅広くなったことでしょう。2010年代の直近の商業音楽を基本にしているものもあれば、60、70年代のクラシカルな音楽を参考に、それらを現代的な質感のある音楽へと昇華したのもある。さらに、未来を行く音楽もあれば、過去に戻る懐古的な音楽もある。いよいよ音楽文化は幅広さを増し、限定的な答えを出すことが困難になりつつある。こういった状況下において、輝かしい印象のある音楽は、各人が流行に左右されず、好きなものを徹底して追求した作品でした。

 

今回、50のセレクションを3つの記事に分割して公開します。いつもはリリース順に掲載しますが、今回はベストアルバムが上半期に集中しているため、分散的にアルバムをご紹介しています。大まかな選出の方向性といたしましては、30プラス20という感じでチョイスしています。ぜひ下記のベスト・アルバムのリストを参考にしながら、お楽しみいただけると幸いです。

 


 

1. Neilah Hunter  『Lovegaze』 


Label: Fat Possum

Release: 2024年1月12日



ロサンゼルスをベースに活動するマルチ奏者/ボーカリスト、Neilah Hunter(ネイラ・ハンター)。二作のEPのリリースに続いて、デビューアルバム『Lovegaze』をFat Possumからリリースしました。

 

多彩な才能を持つネイラ・ハンターの音楽的なキャリアは、教会の聖歌隊で歌い、ドラム、ギターを演奏し、その後、カルフォルニア芸術大学でギターを専攻したことから始まっています。さらに、ヴォーカルパフォーマンスを学んだ後、ハープのレッスンを受けました。本作は、イギリスのドーヴァー海峡に近い港湾都市に移り住み、借り受けたケルト・ハープを使用して制作を開始しました。その後、作曲にのめり込むようになりました。

 

マルチ奏者としての演奏力はもちろん、ボーカリストとしても抜群の才覚を感じてもらえるはずです。デビューアルバムは、録音場所の気風が色濃く反映されており、 ネオソウルやトリップ・ホップのテイストが全編に漂います。さらに、ミステリアスで妖艶な雰囲気が作品全体を取り巻いている。そのイメージをボーカルやハープの演奏が上手く引き立てています。

 

ネイラ・ハンターは、このアルバムについて次のように回想しています。 「Lovegazeを書いている間、私は人類が愛するものを破壊する性質について考えていた。古代の遺跡や、かつてはシェルターだったけれど、今はもうない建造物について考えていた。廃墟の中にも美しさがある」

 



Best Track 「Finding Mirrors」




2.Torres 『What An Enormous Room』


Label: Merge

Release: 2024年1月26日


マッケンジー・スコットは、現在、祖父の姓にちなんで”TORRES”としてレコーディングとパフォーマンスを行う。ジョージア州メーコンで育ち、現在はニューヨークのイースト・ヴィレッジ在住。

 

Merge Recordsから発売された『What an huge room』は、2022年9月と10月にノースカロライナ州ダーラムのスタジアム・ハイツ・サウンドでレコーディングされました。エンジニアはライアン・ピケット、プロデュースはマッケンジー・スコットとサラ・ジャッフェ、ミックスはイギリスのブリストルでTJ・アレン、マスタリングはニューヨークのヘバ・カドリーが担当しています。


元はロックギタリストとして活動していたトーレスだったが、この6作目において、ポピュラーシンガーへの転身を果たしています。AOR等の80年代のポップスから現代的なSt.Vincentの系譜に属するシンセ・ポップの系譜を的確に捉え、さらにボーカルとスポークンワードを融合しています。もちろん、従来のギタリストとしての演奏も組み込まれているのは周知の通り。最近、トーレスはジュリアン・ベイカーと一緒にテレビ出演し、共同でシングルを発表しました。

 

 

Best Track 「Jerk Into Joy」

 

 

 3. IDLES  『TANGK』-  Album of The Year




Label: Partisan 

Release: 2024年2月16日

 

ブリストルのポストパンクバンド、IDLESは英国内のロックシーンのトップに上り詰めようとしています。すでに今作で2025年度のグラミー賞にノミネートされています。音楽は日に日に進化している中で、アイルドルズは最も刺激的なアプローチを図っています。これはグラストンベリー・フェスティバル等の出演でお馴染みのアイドルズ。しかし、たしかに彼らのサウンドは、ダンスミュージック、ディスコサウンド、ドラムンベース等を吸収させ、進化し続けています。

 

しかし、音楽性こそ変われど、その核心となる主張に変わりはありません。2021年から暗い世に明るさと勇気をもたらしました。『Tangk』においては、普遍的な愛とはなにかを説いています。ポストパンクの鋭利的な側面を強調させた「Gift House」、「Hall & Oates」ではリスナーの魂を鼓舞したかと思えば、「POP POP POP」ではダンス・ミュージックを絡め、ギターロックの進化系を示唆しています。

 

しかし、彼らがより偉大なロックバンドとしての道を歩み始めたことは、「Grace」を聞けば明らかとなるかも。この曲のミュージックビデオではコールドプレイのMVを模している。ぜひ、伝説的なミュージックビデオのエンディングを見逃さないでくださいね。

 

 

Best Track- 「Grace」 (Music Video Of The Year)

 

 

 

 

4.Green Day 『Saviors』


Label: Reprise

Release: 2024年1月19日

 

近年、『Dookie』、『Nimrod』等のリイシューを中心に、再版が多かった印象なので、「しばらく新作は期待出来ないと思った矢先、リプライズからカルフォルニアパンクの大御所のリリースが発表されました。

 

ビリー・ジョーのカバーを中心としたソロ・アルバム『No Fun Mondays』はその限りではなかった思いますが、どうやらこのアルバムは、一部分ではフラストレーションを基に制作されたというのは、曲がりなりにも事実なのかも知れません。

 

しかし、そういった背景となる信条は、アルバムを聴くとどうでもよくなるかも知れません。グリーン・デイは、『Dookie』時代から培われたポップパンクというのは、どういうものだったのかを、本作のハイライト曲で明らかにしています。 また、全般的にはパンクロックというジャンルにこだわらず、ミュージカル的なロック、ロック・オペラのような音楽性も追求しています。

 

また、本作は、部分的にはグリーン・デイのルーツとなる80年代の西海岸のロックにも親和性があることを指摘しておきたい。少なくとも、90年代の全盛期に匹敵するアルバムとは言えないかもしれませんが、パンクバンドとしての威信は十分に示したのではないでしょうか。「Strange Days Are Here To Say」は「Basket Case」とほぼ同じコード進行で調性が異なるだけ。それでも、これほどシンプルなスリーコードで親しみやすい曲を書くパンクバンドは他の存在しない。思い出すというより、ポップパンクを次の世代へと引き継ぐようなアルバムとなっています。また、グリーン・デイらしいジョークやユニークも感じることもできるでしょう。


今年は、Sum 41、Offspringの新作も発売され、NOFXの解散もあり、パンクシーンは慌ただしい一年でした。本作の最初のレビューでも言ったように、米国のパンクシーンは一つの節目を迎えつつあるようですね。

 

 

 「Strange Days Are Here To Say」

 

 

 

5. The Smile 『Wall Of Eyes』

 



Label: XL Recordings

Release:  2024年1月26日


トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるザ・スマイルの二作目のアルバム『Wall Of Eyes』。全英チャート3位を記録。海外のメディアには一般的に好評だったというのですが、一部には辛辣な評価を与えたところも。恒例のコラボレーションとなっているロンドン・コンテンポラリーとの共同制作で、由緒あるアビーロード・スタジオで録音された作品です。


アルバム全体としては、タイトルに違わず、ジョン・スペクターの『ウォール・オブ・サウンド』を追求した作品となっています。少し凝りすぎている印象もありますが、「Friend of A Friend」、「Bending Hectic」といった名曲が揃っている。デビュー・アルバムでは、レディオヘッドの延長線上にあるプロジェクトではないかと考えていた人も多かったかもしれませんが、ザ・スマイルは、レディオ・ヘッドからどれだけ遠ざかれるのかという挑戦でもある。

 

このあたりは、前のバンドでやることは全部やったという感触が、三人のミュージシャンを次のステップへと進ませたといえるでしょう。全般的なソングライティングはヨーク/グリーンウッドが中心となっていますが、アンサンブルの鍵を握るのはサンズ・オブ・ケメットの活動なのアヴァンジャズシーンで活躍してきたドラムのトム・スキナー。彼らは、これまでの音楽体験では得られなかった未知の領域へと歩みを進み始めているのかも知れません。同じレコーディングから生み出された「Cut Out』は、ダンスミュージック寄りのXLらしいアルバムです。




Best Track- 「Friend of A Friend」

 

 

6.Adrianne Lenker 『Bright Future』

 



Label: 4AD

Release: 2024年3月22日


今年の4ADの最高傑作の一つ。ビック・シーフのボーカリストとしても知られるアドリアン・レンカーによる最新アルバム『Bright Future』はアメリカーナの純粋な響きに縁取られています。従来からソロアーティストとしてフォーク/カントリーの形式を洗練させてきたシンガー/ギタリストがこのような普遍的な音楽を制作したことは、それほど驚きではないかもしれません。


録音場所が作品に影響を与える場合がありますが、「Bright Future」は好例となるに違いありません。2022年の秋、ビック・シーフのツアースケジュールを縫い、森に隠されたダブル・インフィニティというアナログスタジオでメンバーは再会しました。その他、ハキム、デイヴィッドソン、ランスティールといったミュージシャンが共同制作に参加。この三人はそれまで面識を持たなかったという。

 

ゴスペル風のソング「Real House」、普遍的なフォーク/カントリーソング「Free Treature」など良曲に事欠きませんが、エレクトロニックとフォークの劇的な融合「Fool」にレンカーさんの良さが表れています。ミュージック・ビデオも80年代の4ADのカラーが押し出され、ほど良い雰囲気を醸し出しています。自然の魅力を忘れがちな現代人にとって、このアルバムは大きな癒やしをもたらすに違いありません。「Ruined」も素晴らしいバラード曲です。

 

 

Best Track-「Fool」

 

 

 

 7.Leyla McCalla 『Sun Without The Heat』




Label: Anti

Release:2024年4月12日

 

レイラ・マッカラは、南国の雰囲気を持つトロピカルなアルバムをAntiからリリースしました。アフロ・ビート、エチオピアン、ブラジルのトロピカル、ブルース、ジャズ等の範疇にある音楽が展開され、他にもラテン音楽のアグレッシヴなリズムを吸収し、ユニークな音楽性を確立しています。ワールド・ミュージックの多彩な魅力を体験するのに最適な作品となっています。

 

ニューヨーク出身のレイラ・マッカラは、チェロ、バンジョー、ギターの演奏者でもあり、また、マルチバイリンガルでもあるという。さらに、グラミー賞に輝いたブラック・ストリングス・バンド、Carloirina Chocolate Dropsに在籍していたこともある。


このアルバムでレイラ・マッカラは音楽的なジャーナリズムの精神を発揮している。『Sun Without The Heat』は、ダンス、演劇等を通して繰り広げられるコンパニオンアルバムです。命がけでハイチのクレヨル語のニュースを報道したあるジャーナリストの物語でもある。

 

世界各国で少数言語が増加傾向にある中で、ある地域の文化の魅力を受け継ぎ、それを何らかの形で伝えていくという行為は大いに称賛されて然るべき。ジャズ/ブルーステイストを持つ渋い曲が多いですが、オルタナティヴロックのギターをワールドミュージックと融合させた「So I'll Go」、海辺のフォークミュージックとして気持ちをやわらげる「Sun Without The Heat」、終曲を飾る「I Want To Believe」も素晴らしい。海を越えて響くような慈しみに溢れています。アルバムのアートワークもピカソのようにおしゃれ。部屋に飾っておきたいですね。

 


 「Sun Without The Heat」 -Golborne Road, London 

 

 

 

 8.Sainté 『Still Local』



Label: YSM Sound.

Release: 2024年3月29日


レスターのヒップホップアーティスト、サンテは今年三作目のアルバム『Still Local』をリリースした。UKヒップホップシーンの期待の若手シンガーである。どうやら、サンテは、Tyler The Creator、Jay-Zのヒップホップに薫陶を受けた。このアルバムでは、レスターのローカルな魅力にスポットライトを当てています。あらためて聴くと、良いアルバムで、ドラムンベースやフューチャーベースやUKドリルに触発を受けたポピュラーなヒップホップが展開されています。


アルバムではメロウなネオソウルの影響を絡めた良曲が目立つ。また、アルバムのアートワークに表れ出ているように、カーマニアとしての表情が音楽性には伺え、ドライブにも最適なヒップホップトラックが満載です。また、フューチャーベースを絡めた秀逸なトラックは、このジャンルの近未来を予見したものと言える。タイトル曲を筆頭に、サンテの地元愛に充ちたアルバム。

 

 

「Tea Like Henny」

 

 

 

9.Maggie Rogers  『Don’t Forget Me』


 


Label: Capital

Release: 2024年4月12日


 

グラミー賞にノミネート経験のあるマギー・ロジャースは最新作『Don' t Forget Me』でシンガーソングライターとしてより深みのあるポピュラーアルバムを制作していました。

 

「このアルバムの制作は、どの段階でもとても楽しかった。曲の中にそれが表れていると思う。それが、このアルバム制作を成功させるための重要な要素なんだ」「アルバムに収録されているストーリーのいくつかは私自身のもの。大学時代の思い出や、18歳、22歳、28歳(現在29歳)の頃の詳細が垣間見える。アルバムを順次書いていくうちに、ある時点でキャラクターが浮かび上がってきました」「アメリカ南部と西部をロード・トリップする女の子の姿をふと思い浮かべ始めました。若いテルマ&ルイーズのようなキャラクターで、家を出て人間関係から離れ、声を大にして処理し、友人たちや新しい街や風景の中に慰めを見出しています」

 

マジー・ロジャースはR&Bからの影響下にある渋い歌唱法で知られていますが、それをロックとポップスの中間にある親しみやすいポピュラーに置き換える。前作『Surrender』よりもロックやフォーク色が強まったのは、南部や西部のイメージを的確に表現するためでしょう。実際的にそれはアメリカン・ロックに象徴付けられる雄大な大地を彷彿とさせることがある。アルバムの収録曲「So Sick of Dreaming」、「Don't Forget Me」はアーティストの新たな代名詞的なアンセムとなりそうだ。今回のアルバムでは、R&Bやスポークンワード、そしてアメリカーナの要素が加わり、前作よりもアメリカンなテイストを漂わせる一作となっています。


 

Best Track- 「So Sick of Dreaming」

 

 

 

10. Fabiana Palladino 『Fabiana Palladino』 -Album Of The Year 


  

 

Label: Paul Institute

Release: 2024年4月25日


今年、デビューアルバムをリリースしたFabiana Palladino(ファビアーナ・パラディーノ)は、UKソウルの次世代を担うシンガーソングライターです。ジャネット・ジャクソンからクインシー・ジョーンズ、チャカ・カーンに至るまで、80年代を中心とするR&B、ディスコサウンドを巧みに吸収し、このレーベルらしいダンサンブルなトラックに仕上げる力量を備えています。

 

今年は別れをモチーフにした作品がいくつかありましたが、『Fabiana Palladino』も同様です。トラック全体の完成度はもちろん、ダンサンブルなソウルに傾倒してもなお叙情性と旋律的な美しさを失わないのは素晴らしい。合わせて、80年代を中心とする編集的なサウンド、そして幅広い音域を持つ歌唱力、さらに楽曲そのものの艶気等、ソウルミュージックとして申し分ない仕上がりです。今後、UKポピュラー界の新星として着実に人気を獲得することが予想されます。


ファビアーナ・パラディーノはアルバム全体を通じて、愛、人間関係、孤独など、複雑なテーマを織り交ぜ、哀愁に充ちたポピュラーソングを完成させています。例えば、「I Can't Dream Anymore」はそのシンボルとなる楽曲となるのではないでしょうか。

 

 


Best Track- 「Give Me A Sign」

 

 

 

 

11. The Lemon Twigs 『A Dream Is All We Know』

 


 

Label: Captured Tracks

Release: 2024年4月5日


ジョーイ・ラモーンの生まれ変わりか、ジョニー・サンダースの転生か。少なくとも、60,70年代の古典的なジャングルポップやパワーポップを書かせたら、ダダリオ兄弟の右に出るミュージシャンはいないでしょう。

 

レモン・ツイッグスのロックソングは、ビーチ・ボーイズ、ルビノーズ、サイモン&ガーファンクル、ビッグ・スター(Alex Chilton)、チープ・トリックまで普遍的な魅力を網羅しています。2016年頃から着実にファンベースを拡大させてきたダダリオ兄弟は、最新アルバムでバンドセクションを重視した作風に取り組んだ。


『A Dream Is All We Know』では、従来のジャングルポップのアプローチに加え、弦楽器や管楽器のアレンジが加わり、パワーアップしています。「My Golden Year」、「How Can I Love Her」、「If You And I Are Not Wise」等、パワーポップやフォークロックの珠玉の名曲が満載。バンドは今年の始め、ジミー・ファロン司会の番組で「My Golden Years」を披露しています。ぜひ、このアルバムを聴いて、古典的なロックの魅力を味わってみてはいかがでしょう? また、バンドは年明けに”ロッキン・オン・ソニック”で来日予定です。こちらも楽しみ。

 


Best Track 「If You And I Are Not Wise」


 

 

12.Charlotte Day Wilson 『Cyan Blue』



Label: XL Recordings

Release: 2024年5月3日

 

 

見事、グラミー賞にノミネートされたカナダのシンガーソングライター、 シャーロット・デイ・ウィルソンの最新アルバム『Cyan Blue』は、今年のオルタネイトなR&Bのベスト・アルバムの一つです。すでに、日本の単独公演、朝霧JAMへの出演を果たしています。録音としてハイレベルなことは明確で、レコーディング・アカデミーも太鼓判を押す。そして、もう一つ、実際に楽器を演奏していること、さらに、素晴らしい音域を持つ歌唱力にも注目しておきたい。

 

R&Bアルバムとしては、Samphaのネオソウルを女性シンガーとして、どのように昇華するのか、ある意味では、次のソウルミュージックへの道筋を示した劇的な作品である。そして実際のライブでの演奏力もあり、注目したい歌手と言えるでしょう。哀愁に溢れたネオソウル「My Way」、ジュディ・ガーランドのカバー「Over The Rainbow」、さらに恋愛を赤裸々に歌ったと思われる「I Don't Love You」はポピュラー・ソングとして、非常に切ない雰囲気がある。

 


 Best Track-「I Don't Love You」

 

 

 

 13. Wu-Lu 『Learning To Swim On Empty』- EP of The Year




Label: Warp

Release: 2024年5月7日

 

今回のEPを聴いてわかったのは、Wu-Luはいわゆる天才型のミュージシャンであるということ。彼は少なくとも秀才型ではないようです。前作『Loggerhead』ではアグレッシヴなエレクトロニックやヒップホップを展開させたが、続く「Learning To Swim On Empty」では、マイルドな作風に転じています。しかし、ウー・ルーのアグレッシヴで前のめりなラップは、現地のLevi'sとのコラボレーションイベントでも見受けられる通り、なりを潜めたわけではありません。

 

このEPでは、メロウなR&B、ローファイホップの楽曲「Young Swimmer」で始まり、アーティストによる「人生の一時期の回想」のような繋がりを描く。音楽的には、分散的といえるかもしれません。Rohan Ayinde、Caleb Femiという無名のラッパー/詩人を制作に招聘し、クールなラップのやりとりを収録しています。シングルの延長線上にある作風で、おそらくシングルの構想が少しずつ膨らんでいき、最終的にミニアルバムになったのではないかと思われます。

 

ロンドンのカリブ・コミュニティを象徴付けるレゲエ、ラバーズロック、それから、ラップ、オルタナティヴロック、ポストクラシカルを結びつけたトラック「Daylight Song」の素晴らしさはもちろん、「Mount Ash」のインディーロックから、ソウル、アートポップに至るトリップ感も尋常ではありません。

 

きわめつけは、EPのクローズに収録されている「Crow's Nest」で、アヴァンジャズとラップを融合させ、オルタネイト・ヒップホップの未来を示唆する。この終曲では、Wu-Luの音楽がマイルス・デイヴィスとオーネット・コールマンに肉薄した瞬間を捉えることができるはずです。

 

 

 Best Track 「Daylight Song」



14.Beth Gibbons 『Lives Outgrown』

 



Label: Domino

Release:  2024年5月17日

 


今年のベスト・アルバムの選出はオルタネイトな作品を網羅した上で、一般化するということにありました。結局、そういった意義に沿った作品をベスト30の最後に挙げるとするなら、ベス・ギボンズの『Lives Outgrown』が思い浮かぶ。ポーティスヘッドのボーカリストとして知られ、ケンドリック・ラマーの作品への参加、他にも現代音楽のボーカルにも挑戦しているギボンズがどんなアルバムを制作したのかに興味津々でしたが、結果は期待以上の出来栄えであったように感じられます。今年、ベス・ギボンズはフジロックフェスティバルにも出演しました。


多様な音楽的な手法を知っているということは必ずしも強みになるとは限らず、むしろ弊害になる場合もある。音楽の本質的な何かを知ってしまうと、知らなかったときよりも制作することへの抵抗のようなものが生じるのです。ベス・ギボンズは様々な音楽を吟味した上で、最終的にはアートポップやポピュラーという形式を重視することになった。おそらく90年代には最もマニアックであったトリップ・ホップの面影はこの作品には表向きには見られません。しかし、そういったアンダーグラウンドから出発したアーティストとしての性質はたしかに感じられます。一方で、それらのマニアック性をどのように一般化するのかに重点が置かれています。

 

とっつきやすいアルバムとは言えないかもしれませんが、 「Tell Me Who You Are Today」、「Lost Changes」、「Rewind」、「Reaching Out」などにアートポップの表現性の清華のようなものが宿っています。10年ぶりのアルバムということで感激したファンも多かったのでは??

 

 

 「Lost Changes」

 

 

 

15. Mui Zyu  『nothing of something to die for』




Label: Father/ Daughter

Release: 2024年5月24日

 

香港系イギリス人のエヴァ・リューによるソロ・プロジェクト、Mui Zyuの2ndアルバムは、前作のエレクトロニクスとポップネスの融合のアプローチにさらに磨きが掛けられています。今作では、オーケストラ・ストリングスを追加し、ダイナミックなアートポップの作品に仕上がった。ソングライターとしてのメロディセンスも洗練されました。

 

『nothing of something to die for』は、アーティストが組み上げた目くるめくワンダーランドの迷宮をさまようかのよう。特筆すべきは、ファースト・アルバムからの良質なメロディセンスに、複雑なレコーディングプロセスが加わったことでしょうか。

 

制作の側面で、より強い印象をもたらしたのが、ハイライト曲「please be ok」でミックス/マスターで参加しているニューヨークのプロデューサー/シンガーの”Miss Grit”です。この曲は、メタリックなハイパーポップ風のミックスを施し、驚くべき楽曲へと変貌させた。

 

さらに、もうひとつのハイライト曲「hopeful hopeful」ではオーケストラストリングスを追加し、ドラマの主題歌のような劇的なポップソングを書き上げた。来日公演を実現させ、今最も注目すべき歌手の一人でしょう。

 


Best Track「please be ok」



16.Vince Staples 『Dark Times』



Label: Def Jam/ UMG

Release: 2024年5月24日

 

カルフォルニア/ロングビーチ出身のヴィンス・ステープルズ(Vince Staples)は、デビューアルバム『Summertime 06'』で最初の成功を手にし、閉塞しかけた状況から抜け出した。しかし、唐突な名声の獲得は彼を惑わせた。彼はギャングスタの暴力や貧困といった現実に直面したのだった。その後、彼はアルバムごとに、現実的な側面を鋭く直視し、シリアスな作風を確立し、同時に、作品ごとに別の主題を据えてきた。ラモーナ・パークをテーマにした前作に続く最新作『Dark Times』は、トレンドのラップを追求するというよりも、ブラックミュージックの原点に立ち返り、ビンテージなR&B、ファンクを洗練させた渋いアルバムです。

 

個人的な解釈としては、Dr.Dre、De La Soul、Chicを始めとするヒップホップの基本に立ち返った作品と言える。 他方、「Etoufee」等、エレクトロニックとヒップホップの融合というモダンなテイストのヒップホップも収録されています。つまり、このアルバムでは、ヒップホップの数十年の系譜を追うかのようなクロニクルに近いソングライティングの試みが行われているように思えます。本作を聴くかぎり、現在のステープルズは、ブラック・ミュージックの一貫としてのヒップホップがどのようにあるべきかを追求したという印象です。これは旧来のギャングスタというイメージからヒップホップを開放するための試みでもある。ハイライト「Black&Blue」、「Shame On Devil」は言わずもがな、「Freeman」の見事なラップに注目です。

 


Best Track 「Freeman」

 

 

17.La Luz 『News Of The World』

 


 

Label: SUB POP

Release: 2024年5月24日

 

今年、シアトルのサブ・ポップは年始から恐ろしいペースでリリースを重ねてきた。Boeckner、Amen Dunes(2作のアルバムをリリース)、Naima Bock,最も話題となったところでは、コーチェラ・フェスティバルにも出演した歌手/モデルのSuki Waterhouseが挙げられる。しかし、最も印象的なアルバムは、La Luzの『News Of The World』となるでしょう。


バンドの現メンバーの最後のアルバムとなる本作では、ボーカリストの病に纏わる人生を基に、個性的なオルタナティヴロックを完成させた。女性のみのメンバーで構成されているため、スタジオでの遠慮がいらなかったという。アルバムは、クワイアのような合唱ではじまり、ラテンのムードを漂わせるロックソングが散りばめられています。その他にもサーフロック、ラバーズロックやバーバンクサウンドの影響を絡め、女性バンドとしての理想郷を今作で構築しようとしています。懐古的なサウンドの向こうから立ちのぼる牧歌的な空気感が魅力です。

 

 

 

Best Track「News Of The World」

 

 

Vol.2はこちらからお読みください。


©Michael Schmelling


デイモン・マクマホンは、自身のプロジェクト「Amen Dunes」の活動終了を発表した。この彼は今年リリースされた『Death Jokes』から曲を削ぎ落としたリミックス・アルバム『Death Jokes II』をプロデューサーのクレイグ・シルヴェイと共にリリースする。ストリーミングは以下から。


「これは最終巻の最終章だ」とマクマホンはプレスリリースで説明している。「さようなら、ほとんど一言も話していないけど、パーティーではいつもそう。私たちが死んだら、もっとうまくいくことを祈りましょう」


アーメン・デューンズは2006年、ニューヨーク州北部のトレーラーで8トラック・レコーダーで録音したアルバム『D.I.A.』で設立された。そこから成長し、マクマホンは過去18年間に6枚のフルアルバムと2枚のEPをリリースした。今日、彼は7作目にして最後のアルバム『Death Jokes II』をリリースする。これは、2024年5月のサブ・ポップ・デビュー作『Death Jokes』の再編集版である。

 

「Ian (Goodbye)」

 

 

NPR Musicに「異なる方向への大胆な転換」、Stereogumに「マクマホンの芸術的な才能の証」、GQに「しばしば、その素晴らしさと同じくらい困惑させられる音楽作品群」と評された『Death Jokes』は、アーメン・デューンズのこれまでの作品とは大きく異なるもので、マクマホンが幼少期から親しんできたエレクトロニック・ミュージックに没頭する野心的なアルバムだ。



デス・ジョークス』は、完成までに4年近くを要した複雑なプロジェクトで、2021年6月にロサンゼルスの有名なイースト・ウェスト・スタジオ(「ペット・サウンズ」とお化け屋敷のような「ホイットニー・ヒューストン」の部屋)で、マネー・マーク(ビースティ・ボーイズ)をキーボードに、ジム・ケルトナー(ボブ・ディラン他)とカーラ・アザー(オートラックス)をドラムに迎えて録音された別バージョンを含む、様々な反復が行われた。



このアルバムを『Death Jokes II』として再構築するにあたり、マクマホンはクレイグ・シルヴィーによる楽曲のストリップダウン・リミックスのために、すべての素材を再検討した。

 

これらの新しいミックスには、『Death Jokes』の著名な貢献者であるパノラム、クウェイク・ベース(ディーン・ブラント、MF DOOM)、クリストファー・バーグ(フィーバー・レイ)、ロビー・リーの未発表曲も含まれている。

 



Amen Dunes 『Death Jokes II』

 


Tracklist

1. Ian (Sunriser)

2. What I Want (Night Driver)

3. Exodus (Do It)

4. Rugby Child (300 Miles Per Hour)

5. Purple Land (In The Springs)

6. Mary Anne (Senigallia)

7. Italy Pop Punk

8. I Don’t Mind (Q Loop)

9. Round the World (Down South)

10. Ian (Goodbye)


Listen/ Streaming: https://music.subpop.com/amendunes_deathjokesii

 

Photo:Stéphanie Bujold

現在モロッコのタンジェに滞在し、ニューアルバムの制作に取り組んでいるAlex Henry Foster(アレックス・ヘンリー・フォスター)が、今年度3作目のリリースとなるEP『A Whispering Moment』を本日リリースします。

 

今年は、 4月に日本人アーティストとコラボレーションしたアルバム『Kimiyo』と、9月にインストゥルメンタルのみのアンビエントアルバム『A Measure Of Shape And Sounds』をリリースしており、 昨年の心臓手術によって思うように活動ができなかった時間を取り戻すかのように精力的に活動している。 


そして、今回は彼が2018年にリリースしたソロデビューアルバム『Windows in the Sky』を記念して、EP『A Whispering Moment』をリリース。

 

このEPは、楽曲「Shadows Of Our Evening Tides」が初めて形となったときから、様々なライブバージョンへと自然に開花していくまでの、その自由に進化する性質に焦点を当てたものだ。 深い感情への没入と繊細な音を示す感動的な作品「Shadows Of Our Evening Tides 」は、Alex Henry Fosterの心を解き放つ創造の世界を鮮やかに映し出すと同時に、昨今のステージに立つ最も魅力的で、情熱的で、挑発的なアーティストの一人としての彼の評判を完璧 に反映している。 


このEPについて、本人は次のように述べています。「この特別なプロジェクトは、僕の父が亡くなったあとの心の傷やその後に続いた長い悲しみのプロセスを表現した、個人的で親密な感情を含んだものであるだけ でなく、友人たちや愛する人たちが彼らの喪失や悲しみの中で、慰めを見つけるための独特な要素となり、その後、このアルバムを発見する多くの人たちによって、希望に満ちた作品として安らぎを与えるものとなったと信じてる」


「一見、または浅く解釈すると、この作品は愛の儚さや 混乱を嘆く悲しみを反映しているかのように思えるかもしれないけど、その本質は、最も暗い 時期において、平和と目的を見出すことについてなんだ」


さらに続けて、「そして、最も野心のない正直さと利己的ではない創造の解放のように、『Windows in the Sky』は、僕の音楽の旅を再定義し続け、そして、おそらく、より大事であろう、 僕の存在自体を再構築するきっかけとなってくれた」


「だから、この『A Whispering Moment』が、自分の人生をつくり、本当の意味で生きていると 感じる鮮やかな感覚を体験し、再体験できるよう、君を導いてくれることを願っている」

 

 「Shadows Of Everything Tides」

 

 

Alex Henry Foster 『A Wispering Moment』EP


Tracklist:

1. A Whispering Moment (Alternative Version, April 30, 2018) (4:48)
2. Shadows Of Our Evening Tides (Extended Version, April 13, 2019) (11:17)
3. Shadows Of Our Evening Tides (Live from the Upper Room Studio, April 28, 2020) (17:08)
4. Shadows Of Our Evening Tides (Live at Brückenfestival, August 12, 2022) (13:12)


Listen/ Stream: https://found.ee/ahf-awm

●rockin’on sonicに出演が決定したNY発のポスト・パンク・バンド、モノブロックが新曲「Take Me」リリース! 自主制作ミュージック・ビデオも公開!

Monobloc
 

ほぼ無名の新人ながら、2025年1月4日(土)・5日(日)の2日間に渡って幕張メッセにて開催されるニュー・イヤー洋楽フェスrockin’on sonicへの出演が決定したニューヨーク発のポスト・パンク・バンド、モノブロック(Monobloc)がニュー・シングル「Take Me」をリリースした。


ニューヨークのアンダーグラウンドDIYシーンから飛び出したモノブロックは、ヴォーカルのティモシー・ウォルドロンとベースのマイケル・シルバーグレードが率いる5人組バンド。2024年に入ってシングル「I'm Just Trying To Love You」「Where Is My Garden」「Irish Goodbye」と立て続けに3曲をリリース。


デビュー間もないながらも、すでにUKのオール・ポインツ・イースト・フェスティバル、フランスのロック・アン・セーヌ、メキシコのコロナ・キャピタル・フェスティバルやアイスランド・エアウェーブスに出演。そして、ロッキング・オンとクリエイティブマンがプッシュする新星として、rockin'on sonicへの出演が決定した。


フロントマンのティムは、躍進の年となった2024年最後のリリースについて次のように語っている。


「音楽的には『Take Me』はフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドの手法を模索していた頃に書かれた曲で、ただリバーブに浸るのではなく、幻想的なサウンドをうまく配置したマッシヴなサウンドなんだ。僕たちは、まだ自分達が演奏するには大きすぎるような会場のための曲を求めていた。これは僕らがバンドとして足場を固め、旅に踏み出すときのサウンドで、リスナーがモノブロックに最初に触れる曲になるといつも想像していたんだ。現実はそうではなかったかもしれないけれど、でも一部のリスナーにとっては、今でもそうなると思っているよ」


この度公開された「Take Me」の自主制作ミュージック・ビデオは、地元ニューヨークや世界各地で撮影され、国内外での気の遠くなるような12ヶ月間におよぶライヴ映像から構成されている。


「Take Me」

   


◾️お正月開催の新たな洋楽フェス、「ROCKIN’ON SONIC」にNY発のポストパンクバンド、モノブロックの出演が決定!



先日インターポール(Interpol)のブルックリン公演のサポートを終えた彼らの次なるステージはお正月の日本公演! メンバー一同、日本に来ることは長年の夢で非常に楽しみにしているとのことなので、ぜひ日本初のステージとなるrockin'on sonicをお見逃しなく!



【バイオグラフィー】

ティモシー・ウォルドロン(ヴォーカル)とマイケル・シルバーグレード、別名:モップ(ベース)が率いる、ニューヨーク発の5人組バンド。2023年にザック・ポックローズ(ドラム)、ベン・スコフィールド(ギター)、そしてニーナ・ リューダース(ギター)が加わり、正式に始動した。

 

バンドのサウンドは、1980年代のマンチェスターのインディー・レーベル、ファクトリー・レコードから影響を受けている。他にも、トニー・ウィルソン、ピーター・サヴィル、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーらの名を挙げており、また、スティーヴ・ライヒが制作した『Music for 18 Musicians』はとりわけバンドのギター・パートに大きな影響を与えたという。

 

2024年1月、シングル「I’m Just Trying to Love You」を、セルフ・プロデュースしたミュージック・ビデオと共にリリースすると、瞬く間に彼らの評判は知れ渡り、イギリスやヨーロッパへのフェス出演に次々と出演。2025年1月にはrockin'on sonicへの出演も決定し、早くも初来日することが発表された。

 


「I Read Palms」は、オレゴン州ポートランドのアーティスト、イライジャ・クヌッツェンによるゴシック調のサプライズ曲。近日発売予定のアルバム『Poltergeist』からのリード・シングルである。


このトラックは、ヘヴィ・ロックの領域におけるイライジャの多才さを示す、荒涼とした怒りに満ちたショーケースだ。ダークな雰囲気のヴェールの下で、ドキドキするドラム・マシーンとマントラのようなベースがノイズのカーテンに包まれる。


アルバム『Poltergeist』は、定評あるアーティスト、イライジャ・クヌッツェンが自身のレコードレーベルMemory Colorからリリースした、ダークでゴシック、スモーキーな作品。


ダーク・アンビエントとシューゲイザーの要素を取り入れたゴシック・ロックが渦巻き、殺伐としたローファイ・ベースメント・プロダクションにチューニングされている。Joy Division、The Cure、Interpol、New Order、The Twilight Sad、Sparklehorse、The Chameleonsなどのバンドのサウンドを彷彿とさせる。ダークな20世紀初頭の神秘主義のオーラを放つPoltergeistは、暗い占い、霊写真、降霊会、片思い、苦い後悔、「アイズ・ワイド・シャット」、「シャイニング」の舞踏会のシーン、廃墟となった神社、絶望的な黒い空について語っている。


このアルバムではイライジャのヴォーカル・テクニックが全開で披露されているが、物静かで控えめなこのアーティストにとっては初めてのことだ。イライジャは2020年に「Music For Vending Machines 1」のような環境音楽のレコードでスタートを切ったが、2018年初頭にはムーディーで泥臭いポストロックのインストゥルメンタル作品を発表し、音楽の旅を始めた。彼のニューウェーブの影響は、アンビエントなリリースにも常に存在している。"Heaven Red "や "Maybe Someday "を参照。


アルバムのプロデュース、ミックス、マスタリングは、イライジャ・クヌッツェンがオレゴン州ポートランドの自宅スタジオで行っている。このプレス・キットには、"I Read Palms "のラジオ・ミックスが特別に収録されており、この曲のローファイな部分をさらに引き立てている。


イライジャのカタログは、彼の会社''Music For Public Spaces''を通じて出版されている。日本での出版は、彼のサブ・パブリッシャーであるシンコー・ミュージックLLCによって管理されている。