テネシーのロックバンド、Kings Of Leon(キングス・オブ・レオン)がニューシングル「Split Screen」をリリースした。このシングルは、リードシングル「Mustang」に続き、近日リリース予定のアルバム『Can We Please Have Fun』に収録される。以下よりチェックしてみよう。


「この曲は気に入っている。ファンにも気に入ってもらえると思っている。Split Screen』は、『Mustang』を聴いた後に聴くと、アルバムの奥深さを少しわかってもらえるかもしれないね」


Kings Of Leonによる『Can We Please Have Fun』は5月10日にCapital Recordsからリリースされる。


「Spilit Screen」

 


シンガーソングライター、エンジェル・オルセン(Angel Olsen)とマキシム・ルートヴィヒ(Maxim Ludwig)が組んで、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「I Can't Stand It」をカヴァーした。

 

この曲は、Lou Reedのトリビュートアルバム『The Power of the Heart』に収録されており、キース・リチャーズとルーファス・ウェインライトの楽曲も収録されている。試聴は以下からどうぞ。


トリビュートアルバム『The Power Of The Heart』は、4月20日にLight In The Atticよりリリースされる。エンジェル・オルセンの最新アルバムは『Big Time』。今作は2022年にJagujaguwarから発売された。発売後、キンバリー・スタックウィッシュ監督による映像バージョンも制作された。

 


「I Can't Stand It」

 

©Pat Piasecki

 

日本人ギタリスト、安江さんを擁するデトロイトのシューゲイザーバンド、ドロップ・ナインティーンズ(Drop Nineteens)は、デビューアルバム『Delaware』の再発リリースを発表した。このアルバムは6月21日にWharf Catからリリースされる。バンドは2曲の新曲「Nest」とラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)の「White Dress」のカバーを公開した。試聴は以下から。


「バンドリーダーのグレッグ・アッケルは声明の中で、「私はラナに遅れをとったんだ。それでも、この曲は僕の心を掴んで離さなかったから、バンドに持ち込むことに決めた。ラナ・デル・レイの'White Dress'をカヴァーしようと提案した時、バンドは少し横目で僕を見たんだけど、僕が考えていたことを一緒にやり始めた瞬間、彼らはこの曲にロックオンしてくれたんだよ」


『Nest』については、次の通りである。「『Nest』はもともと、最新アルバム『Hard Light』のオープニングかエンディングを飾るつもりだった。より良いオープニングとクローザーがあることに気づいたとき、アルバムに収めるのに最適な場所が見つからなかったんだ。この曲は、『White Dress』のB面として適切なクローズだよ。なぜなら、この曲はドロップ・ナインティーンズがしばらくの間、いや、おそらくこれまでリリースする最後の曲なのだからね」


バンドは再発のため、アルバムのカバー・アートも変更し、少女が手に持っている銃を花に置き換えた。

 

「これは自己キャンセルのためというよりも、今日の情勢において、銃を手にした若者のイメージを世に出すわけにはいかなかったというのが理由なんだ。公正を期しておくと、1992年のリリース当時でさえ、このコンセプトは誇張されすぎていたかもしれない。私たちは、この新しいジャケット・デザインをものすごく気に入っている。このデラウェアの再発盤の売り上げの一部を慈善団体、Artist For Action To Prevent Gun Violenceに寄付できることを誇りに思っています」


昨年、ドロップ・ナインティーンズ(Drop Nineteens)はカムバック・アルバム『Hard Light』をリリースした。

 

 

 





Drop Nineteens 『Delaware』 ーReissue



Label:  Wharf Cat

Release: 2024/06/21

 

Tracklist:


1. Delaware

2. Ease It Halen

3. Winona

4. Kick the Tragedy

5. Baby Wonder’s Gone

6. Happen

7. Reberrymemberer

8. Angel

9. My Aquarium

10. (Plus Fish Dream)


 


早稲田大学公認の音楽レーベルサークル、”Waseda Music Records”主催の音楽イベント「lull」が2024年4月30日に渋谷La.mamaにて開催される。出演者の詳細、及びイベントの詳細については下記よりご覧下さい。


本イベントでは、轟音の奥に広がる静謐に身を漂わせ、パーソナルな感傷と壮大な音風景の結節点を体感できる場を提供する。


Snail Mail来日公演でゲストアクトを務めたことも記憶に新しい宇宙ネコ子が2人編成で出演するほか、世田谷を中心に活動し、コンセプチュアルな自主企画も行うHealthcare and medical、昨年7月に音楽活動を開始し、〈AVYSS Bliss〉への出演や自主企画の開催などを通して多方面から注目を集めるiVy、下北沢を中心に各地で精力的にライブ活動を行い、海外アクトとの共演も数多いMoon In Juneが出演する。



■イベント概要

 

企画名:lull

会場:渋谷La.mama

日時:4月30日(火)開場18:30/開演19:00

出演:宇宙ネコ子、Healthcare and medical、iVy、Moon In June

料金:学生2500円、一般3500円、当日4000円(+1ドリンク)

チケット購入:https://t.livepocket.jp/e/a8w5d

※学生の方は当日顔写真付きの学生証をお持ちください。

※別途ドリンク代700円をお支払いいただきます。

主催:Waseda Music Records

お問い合わせ:wasedamusicrecords@gmail.com



宇宙ネコ子:




nemuko yamanaka (G. Key) kano (Vo. Key) によるオルタナティブ・ポップ・ユニット。ジャケット・イラストを大島智子が手掛ける。ラブリーサマーちゃんとの共作8cmシングル「宇宙ネコ子とラブリーサマーちゃん」で注目を集め2016年、アルバム「日々のあわ」でデビュー。2019年の「Virgin Suicide」の米KEXPでのオンエアから近年ではSnail MailのInstagramStoriesで楽曲が紹介され来日公演でのゲストアクトを務めるなど海外からの注目も集めている。



Healthcare and medical:



2023年に活動開始した5人組ロックバンド。世田谷を中心に活動。

メンバーは全員2001年生まれ。

シューゲイザー、ドリームポップを主としたノスタルジックなメロディーにメンバーそれぞれの感性を組み込みながら作り出されるサウンドが特徴。繊細さと力強さを兼ねたドラムと3本のギター、ベースによるアンサンブルに歌声が調和する。海外インディーシーンからの影響を強く受けており、マッドチェスター、サウスロンドンカルチャーなどからの影響も色濃い。ジャパニーズポップスと洋楽カルチャーとのバランス感をバンドで映しだす。

結成して間もなく下北沢THREE、CREAM、秋葉原GOODMANなどでライブを敢行。同年10月にはサンフランシスコのポストパンクバンドRip Roomの前座を務める。各月で自主企画「Naked dinner」を主催しており、岩出拓十郎、ろくようびなどと共演している。


iVy:




fuki(Gt.Vo)pupu(key.)によるオルタナティブロック • ポップスを混ぜ合わせた独自ユニット。架空キャラクター『iVy』をアイコンに、

2023年7月からSound Cloud、YouTubeで活動を開始する。

videoやジャケット等のアートワークはpupuのillustrationを元に制作。2023年9月1日に行われたShine of Ugly Jewel 主催の「牧神狩り」を機にライブデビュー。そこから定期的にジャンルレスなイベント•パーティーに出演。

今月31日には、少女性をテーマにバンドやDJ等のアーティスト6組を迎えた初主催「ゆめのつづき」を開催。




Moon In June:



2018年東京で結成。当時のオリジナルメンバーにて2020年、ポストロックやシューゲイズを下地にしたEP「海鳴り」を制作。光とノイズの洪水のようなサウンドは国内外のシューゲイズ・ギークから多くの反響を呼び、要望に応えて自主制作したCDは、これまでに数百枚を完売している。

1st EPリリース後、メンバーチェンジを経て2022年には2nd EP「evergreen」、2023年には1st Full Album「ロマンと水色の街」をリリース。

RideやAlvvaysのような涼やかなドリームポップサウンドに、スピッツ、スーパーカー、Galileo Galilei、Homecomingsらを想起させるような懐かしいメロディを乗せた音楽は、メロディの強度やポップネスの点でも前作からドラスティックな変貌を遂げ、ジャンルの境界を越えた幅広いリスナー層を獲得した。

近年は新たな5人編成にてライブも精力的に行い、札幌、仙台、京都、名古屋、静岡でのイベントや、海外バンドとの共演オファーも増え、活動の幅を広げている。



■Waseda Music Records


2011年に発足した早稲田大学公認の学生音楽レーベルサークル。『早稲田から音楽シーンをアツくする』をモットーに、大学生や同世代のアーティストと音楽リスナーとをつなぐ架け橋として様々な活動を行っている。


2021年度には、笹塚ボウルで行ったWAS vol.2やSPACE SHOWER MUSICとの共同アーティスト発掘企画「michikai」などの様々なイベントを行った。昨年の2月には富久の湯にて、弾き語りとフリーペーパーなどの出店を楽しめるイベント「Close To You」を開催。7月には、古民家の東京おかっぱちゃんハウスにて、アコースティックライブイベント「utatane」を開催した。


活動は多岐にわたり、ライブイベントの企画・運営を軸にオーディション企画、学生アーティストのプロデュースのほか、ポッドキャスト番組(インターネットラジオ)・YouTube動画やフリーペーパーの制作など、伝えたい内容にマッチする媒体で制作・情報発信も行っている。


 

東京のオルトロックバンド、Luby Sparksは2018年からカヴァーソングに断続的に取り組んでいる。今回、カレンO擁するサイケガレージバンド、Yeah Yeah Yeahsの「Maps」のカバーに取り組んでいる。

 

2018年のMazzy Star「Look on Down from The Bridge」、2020年のThe Sugarcubes「Birthday」に続くカヴァー。この曲は2003年のスタジオ・アルバム『Fever To Tell」に収録されている。

Luby Sparksらしい、美しくも凛とした力強さを感じさせる仕上がり。今後のライブの中でもレパートリーとなりそうだ。シンセ・ポップ風のイントロからブリッジにかけてロックテイストな曲展開に移行する瞬間に注目しよう。アウトロのクールなギターリフも聞き逃さないでほしい。

 

 

 

Luby Sparks「Maps」

 



 
LSEP-2 | 2024.03.29 Release
Released by AWDR/LR2

 

Pre-add(配信リンク):

https://lubysparks.lnk.to/Maps

 


Lyrics & Music : Brian Chase, Karen Lee Orzolek, Nicholas Joseph Zinner
© 2003 Chrysalis Music Ltd. Permission granted by FUJIPACIFIC MUSIC, Inc.

Vocal : Erika Murphy
Bass, Synthesizers & Programming : Natsuki Kato
Electric Guitar : Taimo Sakuma
Electric Guitar & Tambourine : Sunao Hiwatari
Drums : Shin Hasegawa
Triangle : Genya Ishizaki

Arranged by Erika Murphy, Natsuki Kato, Taimo Sakuma, Sunao Hiwatari & Shin Hasegawa

Recorded by Ryu Kawashima at Red Bull Studios Tokyo
Mixed by Zin Yoshida at Garden Wall
Mastered by Kentaro Kimura at Kimken Studio

Produced by Luby Sparks & Zin Yoshida

Cover Photography : Annika White


Luby Sparks:

 

Natsuki (ba/vo)  Erika (vo)  Sunao (gt)  Tamio (gt)  Shin (dr)。
2016年3月結成。2018年1月、Max Bloom (Yuck) と全編ロンドンで制作したデビューアルバム「Luby Sparks」を発売。

2019年9月に発表したシングル「Somewhere」では、Cocteau TwinsのRobin Guthrieによるリミックスもリリースされた。2022年5月11日にMy Bloody Valentine、Rina Sawayamaなどのプロデュース/エンジニアを手掛けるAndy Savoursを共同プロデューサーに迎え、セカンド・アルバム「Search + Destroy」をリリース。同年6月には、初のワンマンライブ「Search + Destroy Live」(WWW X) も行い、ソールドアウトとなった。

10月にはタイ・バンコクでの海外公演を行い、2023年3月17日より、NY、ボストン、フィラデルフィア、サンフランシスコ、シアトル、サンディエゴ、LAの全7都市にて「US Tour 2023」、9月には中国「Strawberry Music Festival 2023」を含む全7都市「China Tour 2023」、10月には韓国のストリートカルチャー・コンベンション「FLOPPY 1.0 - Let’s FLOPPY」、11月にはインドネシア「Joyland Festival」へ出演を行うなど海外での展開も積極的に行っている。

 

©Lauren Tepfer


ニュージーランドの人気ソングライター、Lorde(ロード)は、A24の『Everyone's Getting Involved』に収録予定のトーキング・ヘッズの「Stop Making Sense」へのトリビュートをリリースした。
 
 
『Everyone's Getting Involved』には、マイリー・サイラス、BADBADNOTGOOD、ブロンドシェル、ガール・イン・レッド、ジーン・ドーソン、ケヴィン・アブストラクト、リンダ・リンダス、トロ・イ・モワなどのカバーも収録されている。これまでのところ、パラモアの「Burning Down the House」テイクと、ティーゾ・タッチダウンの「Making Flippy Floppy」ヴァージョンを聴いている。このプロジェクトのリリース日はまだ発表されていない。



「Take Me To The River」

 


Label: YSM Sound.

Release: 2024/03/29


Listen/Stream


Review:


イギリス/レスターから登場したローカルラップのヒーロー、Sainteのアルバム『Still Local』は今年最初のヒップホップの注目作である。

 

レスターの地域性、そこから生まれたローカルな人間的な仲睦まじいつながり、フレンドシップは、サンテの場合、彼のグループがこよなく愛する、カスタマイズされたスポーツカーのようにスタイリッシュかつクールなヒップホップとしてアウトプットされる。2000年代以降、メインカルチャーに押し上げられたヒップホップは、かつての地域性を失いつつあり、また、人間的なつながりも以前に比べると、遠くになっているような感じもある。そして、グローバルな音楽やアートとして一般的にみなされるようになったヒップホップ。しかし、それらが稀に、宣伝やプロパガンダのようになっていることを気が付くことはないだろうか。確かに以前とは異なり、アメリカの場合は、ニューヨーク出身のラッパーと、そうでない地域のラッパーとの間にあるライバル関係から開放されつつあるようで、これは良い側面かもしれない。しかし、それはある意味では、ヒップホップが一般化され、無個性なものとなりつつあり、その土地や、アーティストの持つ個性やユニークさが削ぎ落とされつつある要因ともなっているようだ。これは、N.W.A、ICE CUBEの時代のラッパーと比べると、かなり顕著であるかもしれない。ヒップホップのワールドワイド化は、ローカル性の消失という弊害も生じさせつつあるのだ。


そんな中、ヒップホップそのものが持つ地域性やローカル性、そして、その土地のコミュニティーを重視しようとしているのが、サンテというラッパーなのである。彼のラップは地方都市から生み出されたがゆえに、ロンドンのような主要都市に対するライバル心や反骨精神のようなものも見え隠れするが、少なくとも、それは単なる嫉妬とは言いがたいものである。サンテの音楽は、レスターの夜の若いグループから生み出される無尽蔵のエナジーを持ち合わせている。しかし、それは一般的なラッパーとは少し異なり、内側から静かに表出されるエナジーなのである。サンテのラップは、UKラップの英雄で、アディダスとのコラボレーションで知られるストームジー(Stormzy)のような、いわばスタイリッシュで洗練された印象を兼ね備えるUKラップの系譜に位置するように感じられる。しかし、メインストリームの存在に対し、サンテの音楽が主張性が乏しいのかと言えば、そうではない。彼は、主要な都市圏の文化に対し、何か言うべきことをいくつか持っているのである。確かに、ロンドンやマンチェスターといった主要都市の音楽に目を向けながらも、そのなかでレスター特有のカルチャーや音楽性を汲み取ろうとしている。その都市にしか存在しえないもの、それはつまり、「土地の空気感」とも称すべきものであるが、今作には、確かに真夜中のレスターの奇妙な落ち着きや静寂がこだましている。それにフットボールチームの試合の勝利の後に訪れる例の充実感のようなものもある。

 

これまでサンテは少なくとも、実際的な地域のフレンドシップを何よりも重視してきたという印象を受けるし、他方ではソーシャルメディア等での繋がりも大切にしてきた。つまり、彼は表向きの功名心や名誉よりも、そういった人間的な関係性に重点を置いてきた。そして彼のアートの感覚には、コラボレーターや彼を支えるグループと足並みを揃えながら、DIYの姿勢でクールな音楽を作り上げようという意図も見いだせる。このアルバムには、ロンドンの国立劇場やバービカン・センターで上演される有名ミュージカルのような大掛かりな仕掛けはない。しかし、彼の音楽やアートは、手作りのような感覚で緻密に構築されていく。これが感動的とはいわないまでも、サンテのフロウが心に響く理由なのである。それは見え透いた偽物の感覚ではなく、ハートフルな感情がアルバム全体に貫流している。そして、ミュージカルを比較対象に置くのは、何も一時の気まぐれによるものではない。オープナー「Too Much」は、ベンジャミン・クレメンタイン(Benjamin Clementine)のような劇伴的なサウンドで始まり、アルバムのインタリュード代わりとなっている。華やかなピアノのイントロに続いて繰り出されるサンテのスポークンワードは、舞台袖から中央に演劇の主人公が登場するようなユニークな印象をもたらす。


年明けにリリースされたアルバムの先行シングル「Tea Over Henny」は、BNTとしてご紹介している。ミュージックビデオも素晴らしかった。スポーツカーの周りに、サンテとそのグループがスポーツカーでドリフトをかけながら、火花を散らす。少なくとも、UKドリルの属するヒップホップは、単なる宣伝材料になるのではなく、リアルな音楽として昇華されている。彼のリリックには精細感があり、内的な落ち着きがある。ヒップホップをモンスターのように捉えるのではなく、身近な表現手段、あるいはリベラルアーツの一貫としてサンテは体現しようと試みる。それをかつてのヴァンダリズムのような手段で、シンプルに、そして誰よりもダイナミックに表現する。この曲のサンテのリリック/フロウには、ニュアンスがあり、節回しも絶妙だ。 

 

 

「Tea Over Henny」


 

メインストリームを踏襲し、それをきわめてシンプルで安らいだ感じを持つリリックに落とし込む力がある。「Route 64」は、同じくロンドンのドリルに属する音楽性が魅力だが、その中に夜のドライブに見出される奇妙な安らぎが表現されている。人が寝静まった夜中、都市の郊外を駆け回るときのあの爽快な感じつながる。そして、もうひとつ、音楽そのものがプリ音楽の効果を持つ。つまり、車のBGMとしての最良の効果を見込んで制作されたような感じがある。

 

アルバムの序盤は明らかにUKドリルの音楽性に重点が置かれているが、続く「Stop Crying」ではどちらかと言えば、アトランタのJIDのようなラップが展開される。都会的なラップではなく米国南部の巻き舌のリリックのようなニュアンスを踏まえ、それをチルウェイブのような音楽として濾過している。そして、JIDの場合は比較的古典的なソウルに踏み込む場合があるが、サンテの場合はUKソウル(ネオソウル)に近いニュアンスが含まれている。これらは最終的に、JIDのようなニュアンスをどこかに残しつつ、洗練されたラップとしてブラッシュアップされる。サンテが必ずしもUKラップだけを意識しているわけではないことが、なんとなく理解出来る。

 

「Currency」でも同じくアトランタサウンドとも言えるトラップの影響下にあるトラックが続く。EDMやグリッチをベースにした心地よいビートを背後にリラックス感のあるリリックを乗せる。そしてユニークなのは、コラボレーターのDraft Dayの助力を得て、トラップの要素にソフト・ロックやAORのようなアダルト・コンテンポラリーの要素を付け加えていることである。トラックの全般的な印象としては紛れもなくトラップの範疇にあるが、そこに新しい何かを付け加えようとしている。Draft Dayとのフロウの掛け合いに関しては一体感が生み出されている。

 

その後はまるで車のラリーやドライブのあとに、クラブフロアに立ち寄るかのようである。同じくEDMを間奏曲として解釈した「Changing Me Interlude」、「Fancy」はアルバムの中盤になだらかな起伏を作る。チルウェイブ/EDMの寛いだトラックはクラブフロア的な心地良さがある。アルバムの序盤のトラックと同様に上記もまたラッパーの日常的な生活が反映されているように感じられる。またそれは自分だけではなく、レスターの若者の日常の代弁する声でもある。この曲の後、再びトラップを基調としたグリッチのヒップホップに舞い戻り、都会的な感覚を表す。この曲もまたストームジーのようなトラックとして楽しめること請け合いである。

 

「Y2K」にはオールドスクールのヒップホップの影響が反映されている。まったりとした寛いだサウンドは、JIDのサイドトラックのニュアンスにも近いが、古典的な音楽の中にアブストラクトヒップホップの影響も曲の後半で垣間見ることが出来る。しかし、サンテの場合は、ニューヨークのラッパーほどには先鋭的にならず、曲のメロウなムードを最重視し、リリックやフロウのクールさにポイントが絞られている。サンテのフロウは、稀にアッパーな表情を見せることもあるが、全体的には、ミドルの感覚やダウナーな感覚をリリックに絶妙に織り交ぜている。

 

当初は地方都市の音楽にも思えたサンテのサウンドは、アルバムの中盤でより都会的で洗練された空気感を漂わせる。これらの肩で風を切るかのような感覚は、その後の収録曲でも受け継がれている。そしてアルバムの中では、歌詞の中で言及されているかは分からないが、アーティスト自身とグループ、そしてレスターの若者たちの日常的な生活が描かれているように思える。それは自分が主役になったかと思えば、彼らが主役にもなりえる。「They'll See」は他者を主役に置き、彼らが何を見たのかを第三者的な視点を通じて見定めようとする。そしてカーライフにまつわるグループとのやりとり、さらに、ドリフトを華麗に決めたときの言いしれない恍惚と快感、また、それに付随する、ちょっと虚脱するような空白の時間を的確にグリッチサウンドを元にしたヒップホップで表現していく。丹念で作り込まれたカスタムカーのようなサウンドにはこのジャンルにそれほど詳しくないリスナーの心を惹きつける力があるように思える。

 

サンテのラップはそれほどUKのメインストリームの音楽とはかけ離れていない。そしてかつてのブリストルサウンドのように、なぜか夜のシーンが音楽そのものから浮かんでくることがある。そして、その後の収録曲では得難いほどに深淵な音楽へと迫る瞬間がある。「Love Is Deep」は、かなりピクチャレスクな瞬間が立ち表れ、サンテのなめらかで流麗なリリック、フロウ捌きの連続......、それはやがて都会的なビル、その合間に走るレスターの曲がりくねった国道、夜の闇にまみれた通りを疾走していくスポーツカーのイメージに変化していく。サンテが表現しようとするもの、それは人間的な情愛に限らず、フレンドシップにまつわる友情に近いものもありそうだ。そして、それを彼はナイーブでディープなラップによって表現している。泣かせるものはないように思える。ところが、そこには奇妙なペーソスがある。リズム的にもドラムンベースの影響を付加し、ローエンドが強く出るエレクトロサウンドを生み出す。メインストリームのラップとは一線を画しており、このあたりに"ローカルラップ"の醍醐味がありそうだ。


サンテのラップは一貫してローカルラップというテーマの元に構築されている。しかし、ロンドンの音楽への親近感が示される瞬間もある。Lil Silvaをフィーチャーした「Safe」はジョーダン・ラケイのようなレゲエ/レゲトンとEDMの中間のあるサウンドを追求している。これらはサンテの音楽が単なるマニア性だけに支えられたものではないことを示している。もちろん、メインストリームに引き上げられる可能性をどこかに秘めていることの証ともなるだろう。続く「Milwaukee」ではUKのドリルを離れ、どちらかと言えばシカゴドリルに近いニュアンスを探る。車を揺らすような分厚いベースライン、そして、広い可動域を持つリズムの上げ下げをシンセのフレーズを通じて装飾的なサウンドを組み上げている。派手さと深さを兼ね備えたドリル、そして、その中に展開される痛快なフロウは、今作の中で最も鮮烈な瞬間を呼び起こす。

 

表向きには大きな仕掛けがないように思える。しかし、聴き応えがある理由は、トラックの入魂の作り込みがあり、アーティスト自身が表現したいものを内側に秘めていることだ。これらの二つの要素は、リスニングに強いインパクトを及ぼし、そして実際、洗練されたラップとしてアウトプットされている。アルバムの最後でも、ドラマティックなトラックが収録されていて聴き逃がせない。クローズ「G's Reign」は、流行りのアルバムの全体的な構造として連関した役割をもたせようという流れに準じている。オープニングと対になっているが、アルバムの最初と最後では、まったく音楽の印象が異なるのが面白い。このクローズは、ダークでありながらクールな印象を最後の余韻として残す。 2024年度の最初のUKラップの収穫と言えるだろう。

 

 


85/100
 
 

 Best Track−「G's Reign」

©︎Alex Da Coste

セント・ヴィンセント(St.Vincent)は本日、2ndシングル「Flea」をストリーミングでリリースした。この曲にはデイヴ・グロールがドラマーとして、ジャスティン・メルダル=ジョンセンがベーシストとして参加しています。


セント・ヴィンセントのニュー・アルバム『All Born Screaming』は来月リリースされる。アルバム発売を記念し、ヘッドライナーツアーの日程が発表された。西海岸ではSpoon、Momma、Eartheater、東海岸と中西部ではYves TumorとDorian Electraのサポートアクトが予定されています。


「Flea」






ST. VINCENT: 2024 Tour Dates:

May 22 — Ventura, CA — The Majestic Ventura Theater *
May 25 — San Francisco, CA — The Masonic *
August 8 — Bend, OR — Hayden Homes Amphitheater #
August 11 — Vancouver, BC — Orpheum $
August 13 — Boise, ID — Knitting Factory $
August 14 — Ogden, UT — Twilight Concert Series $
August 16 — Los Angeles, CA — Greek Theater
September 5 — Boston, MA — MGM Music Hall at Fenway ^
September 6 — Philadelphia, PA — The Met ^
September 10 — Brooklyn, NY — Brooklyn Paramount ^
September 11 — Brooklyn, NY — Brooklyn Paramount ^
September 13 — Washington D.C. — Anthem ^
September 14 — Toronto, ON — Massey Hall %
September 16 — Ann Arbor, MI — Michigan Theater %
September 20 — St. Paul, MN — The Palace Theater %

* Momma supports
# Spoon supports
$ Eartheater
^ Yves Tumor supports
% Dorian Electra supports
©Michael Schmelling

 

ヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)は、4月5日にリリースされるアルバム『Only God Was Above Us』の最新シングル「Mary Boone」を公開した。先行配信された「Capricorn」、「Gen X Cops」、「Classical」に続く。

 

「Mary Boone」は、エズラ・ケーニグが作曲し、アリエル・レヒトシャイドとケーニグがプロデュースした。Soul II Soulの「Back to Life (However Do You Want Me)」のドラム・ループをサンプリングしている。以下からチェックしてほしい。


この新曲に加え、ヴァンパイアウィークエンドは、11月29日にダブリンの3Arenaを皮切りに、イギリスとヨーロッパで9日間の公演を発表した。



「Mary Boone」

Weekly Music Feature

 

Saya Gray:


 

昨年、Dirty Hitからアルバム『QWERTY』をリリースしたSaya Gray(サヤ・グレー)はトロント生まれ。


グレイは、アレサ・フランクリン、エラ・フィッツジェラルドとも共演してきたカナダ人のトランペット奏者/作曲家/エンジニアのチャーリー・グレイを父に持ち、カナダの音楽学校「Discovery Through the Arts」を設立したマドカ・ムラタを母にもつ音楽一家に育つ。幼い頃から兄のルシアン・グレイとさまざまな楽器を習得した。グレーは10代の頃にバンド活動を始め、ジャマイカのペンテコステ教会でセッションに明け暮れた。その後、ベーシストとして世界中をツアーで回るようになり、ダニエル・シーザーやウィロー・スミスの音楽監督も務めている。


サヤ・グレーの母親は浜松出身の日本人。父はスコットランド系のカナダ人である。典型的な日本人家庭で育ったというシンガーは日本のポップスの影響を受けており、それは前作『19 Masters』でひとまず完成を見た。

 

デビュー当時の音楽性に関しては、「グランジーなベッドルームポップ」とも称されていたが、二作目となる『QWENTY』では無数の実験音楽の要素がポピュラー・ミュージック下に置かれている。ラップ/ネオソウルのブレイクビーツの手法、ミュージック・コンクレートの影響を交え、エクスペリメンタルポップの領域に歩みを進め、モダンクラシカル/コンテンポラリークラシカルの音楽性も付加されている。かと思えば、その後、Aphex Twin/Squarepusherの作風に象徴づけられる細分化されたドラムンベース/ドリルンベースのビートが反映される場合もある。それはCharli XCXを始めとする現代のポピュラリティの継承の意図も込められているように思える。

 

曲の中で音楽性そのものが落ち着きなく変化していく点については、海外のメディアからも高評価を受けたハイパーポップの新星、Yves Tumorの1stアルバムの作風を彷彿とさせるものがある。サヤ・グレイの音楽はジャンルの規定を拒絶するかのようであり、『Qwenty』のクローズ「Or Furikake」ではメタル/ノイズの要素を込めたハイパーポップに転じている。また作風に関しては、極めて広範なジャンルを擁する実験的な作風が主体となっている。一般受けはしないかもしれないが、ポピュラーミュージックシーンに新風を巻き起こしそうなシンガーソングライターである。

 

 

『Qwenty II』- Dirty Hit


Saya Grayは、Dirty Hitの新しい看板アーティストと見ても違和感がない。同レーベルからリリースされた前作『Qwenty』では、ドラムンベースのフューチャリズムの一貫であるドリルンベース等の音楽性を元にし、エクスペリメンタル・ポップの未来形であるハイパーポップのアプローチが敷かれていた。グレイの音楽は、単なるクロスオーバーという言葉では言い表せないものがある。それは文化性と民族性の混交、その中にディアスポラの概念を散りばめ、先鋭的な音楽性を組み上げる。ディアスポラといえば同レーベルのサワヤマが真っ先に思い浮かぶが、女性蔑視的な業界の気風が是正されないかぎり、しばらく新譜のリリースは見込めないとのこと。

 

おそらく、サヤ・グレイにとって、ロック、ネオソウル、ドラムンベース、そしてハイパーポップ等の音楽用語、それらのジャンルの呼称は、ほとんど意味をなさないように感じられる。グレイにとっての音楽とは、ひとつのイデアを作り出す概念の根幹なのであり、そのアウトプット方法は音楽というある種の言語を通じて繰り広げられる「アートパフォーマンス」の一貫である。また、クロスオーバーという概念を軽々と超越した多数のジャンルの「ハイブリッド」の形式は、アーティストの音楽的なアイコンの重要な根幹を担っている。連作のような意味を持つ『Ⅱ』は、前作をさらにエグく発展させたもので、呆れるほど多彩な音楽的なアプローチ、ブレイクビーツの先を行く「Future Beats(フューチャー・ビーツ)」とも称すべき革新性、そしてアーティストの重要なアイデンティティをなす日本的なカルチャーが取り入れられている。

 

 『Qwenty Ⅱ』は単なるレコーディングを商品化するという目的ではなく、スタジオを舞台にロック・オペラが繰り広げられるようなユニークさがある。一般的に、多くのアーティストやバンドは、レコーディングスタジオで、より良い録音をしようと試みるが、サヤ・グレイはそもそも録音というフィールドを踏み台にして、アーティストが独壇場の一人の独創的なオペラを組み上げる。

 

心浮き立つようなエンターテイメント性は、もうすでにオープニングを飾る「You, A Fool」の中に見出せる。イントロのハイハットの導入で「何が始まるのか?」と期待させると、キング・クリムゾンやRUSHの系譜にある古典的なプログレッシヴ・ロックがきわめてロック的な文脈を元に構築される。トラックに録音されるボーカルについても、真面目なのか、ふざけているのか分からない感じでリリックが紡がれる。このオープニングは息もつかせぬ展開があるとともに瞬間ごとに映像のシーンが切り替わるような感じで、音楽が変化していく。その中に、英語や日本のサブカルの「電波系」のサンプリングを散りばめ、カオティックな展開を増幅させる。

 

そのカオティックな展開の中に、さりげなくUFOのマイケル・シェンカーのようなハードロックに依拠した古臭いギターリフをテクニカルに織り交ぜ、聞き手を呆然とさせるのだ。展開はあるようでいて存在しない。ギターのリフが反復されたかと思えば、日本のアニメカルチャーのサンプリング、古典的なゴスペルやソウルのサンプリングがブレイクビーツのように織り交ぜつつ、トリッピーな展開を形作る。つまり、聞き手の興味がある一点に惹きつけられると、すぐさまそこから離れ、次の構造へと移行していく。まるで''Catch Me If You Can''とでもいうかのように、聞き手がある場所に手を伸ばそうとすると、サヤ・グレイはすでにそこにはいないのだ。

 

続く「2 2 Bootleg」はグレイの代名詞的なトラックで、イギリスのベースメントのクラブ・ミュージックのビートを元にして、アヴァン・ポップとネオソウルの中間にあるポイントを探る。ノイズ性が含まれているという点では、ハイパーポップの範疇にあるが、その中に部分的にドリルンベースの要素を元にノイズを織り交ぜる。例えば、フォーク音楽の中にドリルの要素を織り交ぜるという手法は、カナダというより、ロンドンのポップスやネオソウルの中に頻繁に見出される。グレイの場合は、pinkpantheressのように扇動的なエナジーを込めて展開させていく。このトラックには、クラブ・ミュージックの熱狂性、ロックソングの狂乱、ヒップホップのフロウの節回し、そういった多数のマテリアルが渾然一体となり、旧来にはないハイブリッド音楽が組み上げられていく。唖然とするのは、曲の中盤では、フォーク音楽とIDMの融合であるフォークトロニカまでを網羅している。しかし、このアルバムの最大の魅力は、マッドな質感を狙いながら「聞きやすさ」に焦点が置かれていること。つまり、複雑な要素が織り交ぜられた先鋭的なアプローチであるものの、曲そのものは親しみやすいポップスの範疇に収められている。

 

しかし、解釈の仕方によっては、メインストリームの対蹠地に位置するアウトサイダー的なソングライティングといえ、発揮される才覚に関しては、それと正反対に一つの枠組から逸脱している。矛盾撞着のようではあるが、グレイの音楽というのは、一般的なものと前衛的なもの、あるいは、王道と亜流がたえず混在する、不可解な空間をうごめくアブストラクト・ポップなのだ。これは、グレイがきわめて日本的な家庭で育ったという背景に要因があるかもしれない。つまり、日本の家庭に見受けられるような、きわめて保守的な気風の中で精神性が育まれたことへの反動や反骨、あるいは徹底したアンチの姿勢がこの音楽の中に強かに含まれているのだ。

 

 

 

 

何らかの概念に対するアンチであるという姿勢、外的なものに対して自主性があるということ。これは政治的なものや社会気風に対する子供だましの反駁よりも遥かにパンクであることを意味する。


音楽的には、その限りではないが、上述のパンクの気風はその後の収録曲においても、何らかの掴みをもたらし、音響的なものとは異なる「ヘヴィネス」の概念を体現する。そしてサヤ・グレイは、音楽そのものの多くが記号学のように聞かれているのではないかと思わせる考えを提示している。

 

例えば、K-Popならば、「K-Pop」、J-Popであれば、「J-Pop」、または、ロンドンのロックバンド、1975の音楽であれば「1975の音楽」というように、世界のリスナーの9割が音楽をある種の「記号」のように捉え、流れてくる音に脊髄反射を示すしかなく、それ以上の何かを掴むことが困難であることを暗示している。「A A BOUQUET FOR YOUR 180 FACE」は、そういった風潮を逆手に取って、アーバンフラメンコの音楽性をベースに、その基底にグリッチ・テクノの要素を散りばめ、それらの記号をあえて示し、標準化や一般化から抜け出す方法を示唆している。アーバンフラメンコのスパニッシュの気風を散りばめたチルアウト風の耳障りの良いポップとして昇華されているこの曲は、脊髄反射のようなありきたりのリスニングからの脱却や退避を意味し、流れてくる音楽の「核心」を捉えるための重要な手がかりを形成するのである。

 

二曲目で示されたワールド・ミュージックの要素は、その後の「DIPAD33/WIDFU」にも含まれている。ヨット・ロックやチル・アウトの曲風の中で、グレイはセンスよくブラジル音楽の要素を散りばめ、心地よいリスニング空間を提供する。 そしてボーカルのジェイムス・ブレイクの系譜にある現代的なネオソウルの作風を意識しながら、Sampha、Jayda Gのようなイギリスの最新鋭のヒップホップとモダンソウルのアーティストの起伏に富んだダイナミックな曲展開を踏襲し、ベースラインやギターノイズ、シンセの装飾的なフレーズ、抽象的なコーラス、スポークンワードのサンプル、メロウな雰囲気を持つエレピというように、あらゆる手法を駆使し、ダイナミックなポップネスを構築していく。メインストリームの範疇にあるトラックではあるものの、その中にはアーティスト特有のペーソスがさりげなく散りばめられている。これらの両極端のアンビヴァレンスな要素は、この曲をリスニングする時の最大の醍醐味ともなりえる。

 

 

例えば、Ninja TuneのJayda Gが前作で示したようなスポークンワードを用いたストリーテリングの要素、あるいはヒップホップのナラティヴな要素は続く「! EDIBLE THONG」のイントロのサンプリングの形で導入される。


前曲と同じように、この曲は、現在のロンドンで盛んなネオソウルの範疇にあり、Samphaのような抽象的なアンビエントに近い音像を用い、渋いトラックとして昇華している。アルバムの中では、最も美麗な瞬間が出現し、ピアノやディレイを掛けたアコースティックギターをサンプリングの一貫の要素として解釈することで生み出される。これらは例えば、WILCOとケイト・ルボンとの共同作業で生み出された、Bon Iverの次世代のレコーディングの手法であるミュージックコンクレートやカットアップ・コラージュのような前衛的な手法の系譜に位置づけられる。

 

他にも、続く「! MAVIS BEACON」ではアヴァン・ポップ(アヴァンギャルド・ポップ)の元祖であるBjorkの『Debut』で示されたハープのグリッサンドを駆使し、それらをジャズ的なニュアンスを通じてネオソウルやクラブ・ミュージック(EDM)の一貫であるポップスとして昇華している。 


しかし、アルバムの中盤の収録曲を通じて示されるのは、クールダウンのためのクラブ・ミュージックである。たとえば、クラブフロアのチルアウトのような音楽が流れる屋外のスペースでよく聞かれるようなリラックスしたEDMは、このトラックにおいてはブリストルのトリップホップのようなアンニュイな感覚と掛け合わさり、特異な作風が生み出される。ボコーダーを用いたシーランのような録音、そして、それは続いて、AIの影響を込めた現代テクノロジーにおけるポピュラー音楽の新たな解釈という異なる意味に変化し、最終的には、 Roisin Murphy、Avalon Emersonを始めとするDJやクラブフロアにゆかりを持つアーティストのアヴァンポップの音楽性の次なる可能性が示されたとも見ることが出来る。そして実際的に、先鋭的なものが示されつつも、一貫して曲の中ではポピュラリティが重点に置かれていることも注目に値する。

 

最も驚いたのはクローズ「RRRate MY KAWAII CAKE」である。サヤ・グレイはブラジルのサンバをアヴァン・ポップの切り口から解釈し、ユニークな曲風に変化させている。そして伝統性や革新性の双方をセンスよく捉え、それらを刺激的なトラックとしてアウトプットさせている。 ジャズ、和風の音階進行、ミニマリズム、ヒップホップ、ブレイクビーツ、ダブ、ネオソウル、グレイ特有の独特な跳ね上がるボーカルのフレージング、これらすべてが渾然一体となり、音楽による特異な音響構造を作り上げ、メインストリームにいる他のアーティストを圧倒する。全面的に迸るような才覚、押さえつけがたいほどの熱量が、クローズには立ち込め、それはまたソロアーティストとして備わるべき性質のすべてを持ち合わせていることを表している。

 

このアルバムでは、ポップスの前衛性や革新性が示され、音楽の持つ本当の面白さが体験出来る。アルバムのリスニングは、富士急ハイランドのスリリングなアトラクションのようなエンターテイメントの悦楽がある。つまり、音楽の理想的なリスニングとは、受動的なものではなく、ライブのように、どこまでも純粋な能動的体験であるべきなのである。無論、惜しくもCHAIが示しきれなかった「KAWAII」という概念は、実は本作の方がはるかにリアリティーがあるのだ。

 

*Danny Brownの『Quaranta』と同じようにクローズのアウトロがオープナーの導入部となっており、実はこのアルバムは円環構造となっている。

 

 



90/100

 

 

「RRRate MY KAWAII CAKE」

 

 

 


©Rocket Weijers


メルボルンのフューチャーソウルグループ、ハイエイタス・カイヨーテ'(Hiatus Kaiyote)は、ニューアルバム『Love Heart Cheat Code』を発表した。Brainfeeder/Ninja Tuneから6月28日にリリースされる。注目のリリースなので、ぜひとも発売日を抑えておきたい。

 

2021年の『Mood Valiant』に続くこのアルバムは、先にリリースされた「Everything's Beautiful」に続くシングル「Make Friends」がリードしている。アルバムのアートワークとトラックリストは下記よりチェック。


この曲について、ヴォーカルのナオミ・"ナイ・パーム"・サーフィールドは声明でこう語っている。

 

「私の人生における女性たちから、男性たち、そして私のノンバイナリーな友人たちに至るまで、私が愛する人たちの様々な例を表現したかったの」


「私は最大主義者なの。私は何でも複雑にしてしまう。でも、人生でいろいろなことを経験すればするほど、リラックスして奔放になれる。このアルバムは、私たちがそれを明確にした結果だと感じている。曲が複雑さを必要としないのであれば、複雑さを表現する必要はなかったの」


「Make Friends」

 


Hiatus Kaiyote 『Love Heart Cheat Code』


Label: Brainfeeder/ Ninja Tune

Release : 2024/06/28


Tracklist:


1. Dreamboat

2. Telescope

3. Make Friends

4. BMO is Beautiful

5. Everything’s Beautiful

6. Dimitri

7. Longcat

8. How To Meet Yourself

9. Love Heart Cheat Code

10. Cinnamon Temple

11. White Rabbit

 

 

Hovvdyは4月26日に発売予定のセルフタイトルの最新シングル「Make Ya Proud」をリリースした。

 

「この曲は、僕の祖父であるピートおじいちゃんのために書いた数曲のうちの1曲だ。彼は去年の夏に亡くなったんだけど、いろんな意味で僕の家族のバックボーンだった」とデュオのチャーリー・マーティンは声明で説明している。

 

「『Make Ya Proud』を書いたのは、ミシシッピにいた頃だった。ピートが入院している病院を見舞いに海岸に行く合間に書いてみたんだ。表現するのは本当に難しいんだけど、この曲は彼を讃えるものであり、彼がいかに私にインスピレーションを与えてくれたかを歌っている」

 

 アルバムからは先行シングルとして「Forever」、「Jean」、「Bubba」、「Portrait」、「Meant」が配信されている。

 

テキサスのデュオ、Hovvdyは、ハートフルなロックソングを書くことで知られる。それほどセンセーショナルな音楽性ではないものの、彼らのソングライティングには普遍的な魅力が込められている。

 




昨夜、ピート・タウンゼントはジミー・ファロン主演の深夜番組『Tonight Show』に出演し、『Tommy』のプロモーションを行った。以下、パフォーマンスとインタビューをご覧ください。

 

インタビューの中で、タウンゼントはファロンについて気前の良いことを言い、フーの初期、『Tommy』の起源について、ステージでギターを叩き壊すことの経済学についても語った。フーの初期の頃、タウンゼントはたった1本のギターを1日に4回も壊しては「修理していた」そうだ。


続いて、インタビューの中で、タウンゼントは、現在リバイバル上演中の『トミー』のキャストについて語った。その後、キャストと一緒に『Tommy』の曲「Pinball Wizard」、「See Me, Feel Me」、「Listening To You」のメドレーを披露。タウンゼントは、そのパフォーマンスの中心人物ではないものの、タウンゼントが作曲したこれらの定番曲を観るのは楽しい。

 

昨年、ザ・フーのボーカリスト、ロジャー・ダルトリーは、2022年に北米ツアーを行ったばかりの英国のロック界の長寿伝説が、COVID後の世界で大規模のロック・ショーを開催することの難しさを理由に、「もしかすると二度とアメリカ・ツアーを行わないかもしれない」と語った。

 

タウンゼントは、最近30年ぶりのソロ・シングル「Can't Outrun The Truth」をリリースした。現在、ザ・フーの1969年のロック・オペラを基にしたミュージカル『Tommy』がブロードウェイで上演されている。

 


 

 

 



アメリカのシンガーソングライター、ワクサハッチー(Waxahatchee)は昨夜放送された『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルバート』に音楽ゲストとして出演し、アルバムにコラボレーターとして参加したMJ Lendermanと共に「Right Back to It」をステージで披露した。
 

「Right Back to It」は先週末にAnti-から発売された『Tigers Blood』のリードシングル。アルバムには、先行シングル「Bored」「365」も収録。下記よりパフォーマンスをチェックしてみよう。
 
 
 
 「Right Back to It」

 


シカゴのエクスペリメンタル・フォーク・デュオ、Gastr Del Sol(デイヴィッド・グラブスとジム・オルーク)が、90年代以来のアルバム『We Have Dozens of Titles』を5月24日にドラッグ・シティからリリースすると発表した。

 

ガスター・デル・ソルはCAKE、Tortoise、また、Touch &Goに所属するバンドと並んで、シカゴ音響派として知られる。この一派は、ケンタッキーのルイヴィルのバンドとともにポスト・ロックの源流を形作った。その中には、Slint、レイチェル・グリムスのRachel'sなどがいる。これらはポスト・ロックを知るために避けて通ることが出来ないグループ。特に、ポスト・ロックを演奏するにあたって、『Upgrade & Afterlife』を聞かないのはモグリというしかない。


ドラッグ・シティのプレス・リリースによれば、アルバムは「これまで未収録だったスタジオ録音と美しく捉えられた未発表ライヴ・パフォーマンスの集合体」であり、「彼らの本領であった流動性への広々とした頌歌を形成している。


1997年のビクトリアヴィル国際音楽祭でのガストル・デル・ソルの最後のライヴで、CBCのアーカイブに保管されていた "The Seasons Reverse "のライヴ・ヴァージョンをチェックできる。『We Have Dozens of Titles』のトラックリストとアートワークを以下でチェックしよう。

 

近年、オルークはソロ・アルバムをリリースしてきた。その中には映像作品のサウンドトラック提供作品が含まれている。オルークは最近、パート・バカラックのカヴァーアルバム「All Kind of People」にも参加。カヴァーアルバムには他にも、細野晴臣、カヒミ・カリィ、やくしまるえつこ(相対性理論)、サーストン・ムーア(Sonic Youth)、作家の中原昌也などコアなメンバーが参加している。

 

ガスター・デル・ソルのリイシュー的な意味を持つニューアルバムのアートワークは、ペンシルバニアの伝説的なポストロックバンド、Helmetに由来を持ち、以後、WarpのBattlesに分岐する”Don Cabarello”が1998年に発表した『What Burns Never Returns』に対するオマージュだと思われる。 

 




Gstr Del Sol 『We Have Dozens of Titles』



Label: Drag City

Release: 2024/05/24

 

Tracklist:


1. The Seasons Reverse (live)

2. Quietly Approaching

3. Ursus Arctos Wonderfilis (live)

4. At Night and at Night

5. Dead Cats in a Foghorn

6. The Japanese Room at La Pagode

7. The Bells of St. Mary’s

8. Blues Subtitled No Sense of Wonder (live)

9. 20 Songs Less

10. Dictionary of Handwriting (live)

11. The Harp Factory on Lake Street

12. Onion Orange (live)


アルバムのジャケットより

バーナード・バトラーは、ブリットポップのレジェンド、スウェード(Suede)の最初の2枚のアルバムでギタリストを務め、マカルモント&バトラーなどのプロジェクトにも参加していた。バトラーは25年ぶりの新作ソロアルバム『Good Grief』を発表、ファースト・シングル 「Camber Sands」を公開した。『Good Grief』は355 Recordingsから5月31日にリリースされる。


2022年、バトラーは高名な女優ジェシー・バックリーと組み、アルバム『For All Our Days That Tear The Heart』を発表した。

 

彼はスウェードの創設メンバーであり、1993年のセルフタイトル・デビュー作と1994年のオールタイム・クラシック『Dog Man Star』(そして当時の彼らの素晴らしいB面曲の数々)に参加した。

 

スウェードを脱退した後、彼はシンガーのデヴィッド・マカルモントとともに音楽デュオ、マカルモント&バトラーの一員として2枚のアルバムをリリースした。

 

2004年、バトラーはスウェードのブレット・アンダーソンと再結成し、ザ・ティアーズを結成、2005年のアルバム『Here Come the Tears』をリリースした。また、プロデューサーとしても様々なアーティストと仕事をしている。

 

しかし、バトラーのソロ・アルバムは1998年の『People Move On』と1999年の『Friends and Lovers』の2枚しかない。


バーナード・バトラーは声明の中で、このアルバムについてこう語っています。「しばらくの間、私は傷つき、怯えていた。私は多くの音楽に夢中になり、喜びを感じていた。ただそこにいることが、自分が望んでいた以上のことだと気づいた」

 

「私は他の人々に多くを与えたが、私の物語は、私が何であるかよりも、むしろ私が何であったかによって定義されることに気づいた。私は自分自身に、控えめな商業的目標と、期待に満ちた創造的目標を設定した」

 

 

「Camber Sands」





Bernard Butler 『Good Grief』

 


Label: 355 Recordings

Release: 2024/05/31


Tracklist:


1. Camber Sands

2. Deep Emotions

3. Living the Dream

4. Preaching to the Choir

5. Pretty D

6. The Forty Foo”

7. London Snow

8. Clean

9. The Wind