先週、ビリー・アイリッシュが三作目のアルバム『Hit Me Hard And Soft』をリリースした。昨晩、シンガーはスティーブン・コルベアのレイト・ショーに出演し、ライブパフォーマンスとインタビューを行った。

 

『Hit Me Hard And Soft』のレコード発売に合わせて、エイリッシュは最もキャッチーで即効性のある曲「Lunch」のミュージックビデオを発表した。「Lunch」は声明代わりでもあり、ビリー・アイリッシュが同性の欲望についての遊び心を吐露したものである。コルベールの出演時、エイリッシュは「Lunch」を初めてライブで披露した。彼女のバック・バンドには、いつものように彼女の弟でコラボレーターのフィニアスがギターとキーボードを演奏した。


ビリー・アイリッシュはこれまでスティーヴン・コルベールとはズームで会話しただけで、実際に会ったことはなかったという。それでも2人は、楽しい会話の化学反応を起こした。エイリッシュは、コーチェラでラナ・デル・レイと一緒に歌ったことや、アルバム・ジャケット撮影のために水槽の中で6時間過ごしたこと、新譜が彼女にとって何を意味するかについて語った。

 

インタビューの中で、コルベアが彼女の声にチェット・ベイカーのように聞こえることに触れ、彼女が "Dude!"と答える楽しい場面があった。

 

彼女はさらに自分がどれだけ歌うことが好きかを語り、エラ・フィッツジェラルド、ジュリー・ロンドン、ジョニー・マティス、ハリー・ベラフォンテ、サラ・ヴォーンといった伝説的な歌手にリスペクトを捧げた。この発言を聴くかぎりでは、古典的なジャズポップシンガーに触発を受けているのかもしれない。彼女は、今後、スタンダードのアルバムを作りたいとも話した。


テイラー・スウィフトが『The Tortured Poets Department』の新しいカラー・ヴァージョンをリリースしたこともあり、エイリッシュのアルバムは現在2位で全米チャートへの登場が予想されている。パフォーマンスとインタビューは以下から御覧下さい。

 


 New Riser- Ain't


・ポストシューゲイズ、ポストパンクの次世代を担うロンドンの5人組に注目


90年代のギターロック、ポスト・パンク、シューゲイザーの奇妙な側面を大西洋の両岸からかき集めたAin't(エイント)は、ノスタルジーと独創性の境界線を巧みに行き来する。バンドはポスト・ソニック・ユース、または、ポスト・ホースガールのようなグループとして見てもそれほど違和感がない。エド・ランドールのエッジの効いたギター、それと鋭いコントラストを描くジョージ・エラビーの悲哀に充ちた叙情的なボーカルを特徴としている。このサウンドは、Been Stellarが登場した時を思い出させるが、彼らのサウンドはよりベースメントに潜っている。

 

ロンドンで結成された5人組はまだ謎が多く、ストリーミングでも曲が配信されていない。レーベルの紹介によると、ジョージ・エラビー(ギター/ヴォックス)、エド・ランドール(ギター)、ハンナ・ベイカー・ダーチ(ヴォックス)、チャップマン・ホー(ベース)、ジョー・ロックストーン(ドラムス)で構成されるAin'tの創作意欲は、衝動的で重厚であるという。彼らは2020年代の始めから、活動していたが、最初のリリースにこぎつけるのに数年かかった。

 

 

「Oar」-7inch


Ain’tが満を持してドロップするデビュー・シングルの "Oar "は、バンドの今後の青写真を示唆するような痛撃なトラックである。パンデミックの真っ只中に書かれたこの曲は責任者への信頼を失ったことに拠るうずまくフラストレーションを表現している。社会への信頼感を持てなくなった若者がどれほどいるのか。彼らのサウンドとボーカルはそういった取りざたされない無数の若者たちの声の代弁ともなりえる。

 

ベイカーのヴォーカルは、暗く冷笑的な回想と吐き捨てるようなうねりを往来し、無関心の自己防衛と常に沸き起こる怒りの両方を捉えている。それは他者や社会への不正に関する無関心を貫く人々への公憤のようなものを意味している。

 

70年代や80年代あるいはそれ以降の2000年以降に至ってもそうだったが、イギリスやロンドンの音楽の醍醐味は、上澄みのポピュラリティだけでは語り尽くすことは出来ない。上澄みの対極にあるーー不気味な一角ーーからカウンター音楽が台頭することが魅力なのである。Ain’tは、インダストリアル・ノイズと、みずみずしいスローポップの夢物語の境界線にある白熱したエナジーをつなぎ合わせて、冷笑的でシニカルな音楽を生み出している。「約束が破れた時、私はオールを安定させるために取り残された」とベイカーは嘆き、バンドにその破片を拾わせる。



Ain’tは、季節の移ろいのように曲を制作するという。静けさと嵐の両方にリスペクトを表しながら、彼らの艶やかな楽曲は、内省的な豊かさと共同体の明瞭さに向かっていく。ため息のような直接的なカタルシスがあり、エインツを生き生きとした無限の力として際立たせている。


「'Oar'は元々、パンデミックの中でジョージが起草したもので、担当者の信念のなさに突き動かされたものです」とバンドは声明で説明している。「バンド加入後、ハンナは歌詞をLlys Heligの伝説から触発され、それを再解釈し、中世ウェールズからのイメージをテーマに取り入れた」


 Ain'tのデビュー作「Oar」は”Fear of Missing Out Records”から8月9日に7inchのヴァイナルとしてもリリースされる。

 

 

「Oar」

 


 

Ginger Root


カリフォルニアを拠点に活動するキャメロン・ルーのプロジェクト、ジンジャー・ルート(Ginger Root)が、ニューアルバム『SHINBANGUMI』を9月13日にリリースすると発表した。このアルバムは、彼にとって3枚目のアルバムであり、新しいレーベル、ゴーストリー・インターナショナルからの初の作品となる。リードシングル「No Problems」は本日リリースされた。


彼自身が "アグレッシブなエレベーター・ソウル "と表現した2017年の初リリース以来、キャメロン・ルーはジンジャー・ルートが鳴らすべきサウンドフィーリングを解明しようと試みたという。”『SHINBANGUMI』はインストゥルメンテーションと音楽性という点に、すべてが集約されている。SHINBANGUMIは、新しい自分を見せるためのプラットフォームでもあるんだ”


「No Problems」の概要については次の通り。「ジンジャー・ルートのすべてのサウンドロゴが凝縮されている。その結果として、ジンジャー・ルートらしい曲が完成した。いろんな意味で、SHINBANGUMIがどうなったかを映し出す素晴らしい鏡だよ。他人の真似をしている自分を見つけるのではなく、自分のやっていることにようやく自信を見出したプロジェクトでもあるんだ」

 


「No Problems」

 

 

 

Ginger Root 『SHINBANGUMI』 


Label: Ghostly International

Release: 2024/09/13



Tracklist:

1. Welcome
2. No Problems
3. Better Than Monday
4. There Was A Time
5. All Night
6. CM
7. Only You
8. Kaze
9. Giddy Up
10. Think Cool
11. Show 10
12. Take Me Back (Owakare No Jikan)


Pre-order: https://ghostly.lnk.to/Ginger-Root-SHINBANGUMI

 

©Seren Carys


イギリス/グロスターシャー出身のケイティ・J・ピアソン(Katy J Pearson)は実力派のソロシンガーとして知られており、イギリスでは評価が高いミュージシャンである。ドリーム・ポップデュオとして活動し、ソロに転向後はトラッドなフォーク・ミュージックを中心に制作しています。

 

ケイティ・J・ピアソンは最新アルバム『Someday, Now』をヘブンリー・レコーディングスから9月20日にリリースすると発表しました。2022年の『サウンド・オブ・ザ・モーニング』に続くこのアルバムでは、ケイティ・ピアソンは、カーリー・レイ・ジェプセン、ニルファー・ヤニャ、ウェスターマンなどを手がけるエレクトロニック・プロデューサー、ネイサン・ジェンキンス(通称: ブリオン)と仕事をしています。新曲「Those Goodbyes」は以下よりご視聴下さい。


ケイティ・J・ピアソンは說明している。「誰と仕事をしたいのか、セッション・バンドが誰を選ぶべきなのか、どこでレコーディングしたいのか、制作前にはっきりわかっていました。最終的に自分自身でショットを決めることができたような気がして、それはとても力になったわ」


リードカット「These Goodbyes」について、彼女は次のように付け加えています。「変な話なんだけど、以前は、人に弱さ(繊細さ)を聴いてもらうためには高音で歌わなければならないと思っていた。でも実際は、自然な音域でリラックスして歌うことで、もっと弱さが出てくると思うのよ」

 

 

「Those Goodbyes」




Katy J Pearson 『Someday, Now』

 

Label: Heavenly Recordings

Relase: 2024/09/20


Tracklist:


1. Those Goodbyes

2. Save Me

3. It’s Mine Now

4. Maybe

5. Grand Final

6. Long Range Driver

7. Constant

8. Someday

9. Siren Song

10. Sky

 

Pre-order: https://ffm.to/katyjpearson-thosegoodbyes

 

Personal Trainer


オランダのインディーポップバンド、Personal Trainer(パーソナル・トレーナー)はDIY精神に溢れた魅力的なグループ。彼らはベラ・ユニオンから発売される新作アルバム『Still Waiting』の制作を発表し、同時にリード・シングル「Round」のミュージック・ビデオを公開しました。


パーソナル・トレーナーは、主にフロントマンでバンド・リーダーのウィレム・スミットと、共同プロデューサー/コラボレーターのキャスパー・ヴァン・デル・ランスのプロジェクト。しかし、ライブではフルバンド構成でパフォーマンスを行い、コレクティブの形式で活動しています。『Still Waiting』は、2022年のデビュー作『Big Love Blanket』に続く作品です。このアルバムには、バンドの前シングル「Intangible」が収録されています。


ウィレム・スミットはプレスリリースでアルバムについてこう語っています。「私が作るレコードを聴くとき、一番望んでいるのは、何かが起こるたびに "すごい "と思ってもらえること」


ニュー・シングルについて、彼は付け加えています。「じつは、 "Round "は最後にアルバムに追加される曲のひとつだったんだ。でも、オランダで "een lekker nummertje "と呼ぶような曲が必要であると感じていた。私が作るレコードには、そういうものが1枚は欲しいと思っているんだ」


 "Round "のビデオはキリアン・カイザーが監督しました。彼は次のように述べているます。「オレンジがウィレムの役を演じるビデオを作るというアイデアはとても楽しそうだったよ。で、アムステルダムのヘリコプターで、オレンジがリード・ヴォーカルをとるギリギリのライヴを企画したのさ」


「Round」

 

 

Personal Trainer 『Still Waiting』



Label:Bella Union

Release: 2024/08/02

 

Tracklist:


1. Upper Ferntree Gully

2. I Can Be Your Personal Trainer

3. Cyan

4. Round

5. New Bad Feeling

6. Intangible

7. Testing The Alarm

8. Still Willing

9. You Better Start Scrubbing

10. What Am I Supposed To Say About The People And Their Ways about

 

 

Pre-order: https://found.ee/4IYDCA

 

 

新たにDirty Hitと契約を結んだオルタナティヴロックバンド、Been Stellar(ビーン・ステラ)が、リリース予定のアルバム『Scream from New York City』の最新シングル「Pumpkin」を公開した。


この新曲について、シンガーのサム・スローカムはプレスリリースで次のように語っています。


「この曲は、僕らにとってサウンド的な出発点のようなもの。この曲がアルバムに収録されるかどうか、まったく確信が持てなかった時期もあったんだ。この曲はいろいろな形で存在していたんだけど、レコーディングまでの最後の1ヶ月間、各パーツがうまくはまった」


「奇妙なことに、歌詞は最初から変わらなかった。その歌詞は、アパートの明かりが窓から夜道に向かって輝いている、というビジュアルから生まれた。アパートの中にいる人たちが窓の前を行ったり来たりしているのを想像した。そこから、私が書いた歌詞は、アパートの中で空間を共有する人々のヴィネットを形作っていった。できるだけ具体的に、私自身の人生からいくつかの共有された親密な瞬間を描写しました」


Been Stellarの新作アルバム『Scream from New York, NY』は6月21日にDirty Hitからリリースされる。



「Pumpkin」

 


ロンドンを拠点に活動する香港系イギリス人アーティスト、ムイ・ズー(mui zyu)が、ニューアルバム『nothing or something to die for』のリリースに先駆けて、最終シングルとして「please be ok」を発表しました。


このシングルには、ニューヨークのエクスペリメンタルポップシンガー、Miss Grit(マーガレット・ソーン)がコラボレーターとして参加しています。。両アーティストともに昨年末のハイパーポップ特集でご紹介しています。


「"please be ok (どうかご無事で)''にはいろいろな意味があります。支持的な意味もあれば、批判的な意味もあれば、平凡な意味もあれば、合格点、上出来(それがどんな意味であれ)という意味もある。この曲の制作を始めたとき、ミス・グリッドに手伝ってもらってもいいのかな?と思ったけど、結局、答えはOKでした。ミスグリッドは曲とプロダクションに様々な魔法をかけ、特別なものにしてくれました(それはそれでいいのですが……)」とmui zyuは説明しています。


mui zyuはこの夏、イギリスのフェスティバルに出演し、10月にはグラスゴー、リーズ、ブリストル、ロンドンでヘッドラインUKツアーを行う。5月22日には、Bandcampリスニング・パーティーを開催します。Bandcampのリスニングパーティーに参加するには、muizyu.bandcamp.comをご覧ください。


mui zyuのセカンド・アルバム『nothing or something to die for』は5月24日にFather/Daughterからリリースされます。『Rotten Bun For An Eggless Century』のレビューはこちらからお読みください。


「please be ok」

Beth Gibbons - Lives Outgrown  

 

 

Label: Domino

Release: 2024/05/17

 

 

Review      ベス・ギボンズの音楽家としての多彩な表情

 

ケンドリック・ラマーの最新作『Mr. Morale & The Big Steppers』の「Mother I Sober」へのボーカル提供や、ヘンリク・グレツキの交響曲第3番等をライブで演奏し、最近では、ほとんどジャンルにとらわれることのないボーカルアートの領域へと挑戦を試みてきたベス・ギボンズの最新作『Live Outgrown』は、ストリングスやオーケストラヒットを頻繁に使用した多角的なポピュラー・ミュージックだ。これらの収録曲にPJ Harveyのような現代詩のような試みがあるのかは寡聞にして知らない。

 

少なくとも、冒頭の楽曲「Tell Me What Who You Are Today」ではヴェルヴェットアンダーグラウンドのようなオーケストラヒットとストリングスが重なり合い、やや重苦しい感じの音楽で始まる。それはバロックポップの現代版ともいえ、もちろん、それは90年代以降のトリップ・ホップの形とはまったく異なる。メインプロジェクトを離れたミュージシャンにとっては、定冠詞のようなグループ名は重荷になることがあるかもしれない。そういった意味では、このアルバムはソロアーティストとしての従来とは異なる音楽性を捉えることが出来る。しかし、以前からの音楽的な蓄積を投げ打ったと見ることも賢明ではないだろう。そこには、”ブリストルサウンド”ともいうべきアンニュイなボーカルのニュアンスを捉えることも出来、ある意味では、アルバムの最初のイメージは、やはり旧来のギボンズの音楽的な感性の上に構築されていると見るべきか。

 

アルバムの冒頭のオープナーは、鈍重とも、暗鬱とも、重厚感があるとも、複数の見方や解釈が用意されている。続く「Floating A Moment」では、オルタナティヴフォークともエクスペリメンタルフォークともつかないアブストラクトな作風へと舵を取る。そのギターサウンドに載せられるギボンズのボーカルも明るいとも暗いともつかない、微妙な感覚が背景となるギターの繊細なアルペジオに重なる。それは''瞬間性''という得難い概念の中にあり、熟練のボーカリストが自らの声の表現性を介して、その時々の感覚を形がないものとして表するかのようである。


いわば曲そのものを聴く時、多くのリスナーは、明るいとか、暗いとか、それとも扇動的であるとか、正反対に瞑想的であるとか、一つの局面を捉えることが多いように思われるが、ギボンズのボーカルはそういった一面性を遠ざけて、人間の感情の持つ複雑で多彩な側面を声という表現において訪ね求める。しずかな印象で始まった曲は、その後、オーケストラヒットやストリングスの音響的な効果を用い、ダイナミックなサウンドに近づくが、これらの曲の流れを重視した音楽性に関しては、今後開かれるロイヤル・アルバートホールでの公演を見据え、ライブでどのような効果が求められるのかを重視した作風である。音源での音楽性とライブでの音楽性は、再現性に価値があるわけではなく、それぞれ異なる音楽の異なる側面を示すことが要請されるが、その点において、ギボンズの曲は音源に最大の魅力が宿るというよりも、むしろ、ライブステージの演出の助力を得ることにより、真価が発揮されるといえるかもしれない。



アルバムのプレスリリースでは、アーティストによる絶望や諦観の思いが赤裸々に語られていた。「#2 Burden Of Life」はいわば、理想主義に生きるアーティストやミュージシャンがどこかの時代の節目において何らかの絶望性を捉えることを反映している。それはオーケストラヒットとストリングスを併用したオーケストラポップという形で昇華されている。ギボンズの楽曲性は、内面に溢れる軋轢を反映するかのように、不協和音を描き、それに対して、嘆きや祈りのような意味を持つ奥深いボーカルのニュアンスへと変化することもある。そして、それらは、背後のストリングスとパーカッションの効果を受け、リアリティに充ちた音楽性へと続いている。これらの現実的な感覚は、弦楽器のクレッシェンドや巧みなレガート、ボーカルを器楽的に見立てたギボンズの声によって、柔らかくも強固な印象を持つサウンドが形作られていく。


「#3  Lost Change」もオーケストラのパーカッションをアンビエンスとしてトラックの背景に配置し、それらの音響効果の中でマイナー調の憂いに充ちたバラードへと昇華させている。多少、ギボンズの歌声には重苦しさもあるが、ボーカルの中には、何かしら不思議な癒やしの感覚がにじみ出て来る場合もある。


映画「オペラ座の怪人」のテーマ曲を思わせるアコースティックギター、ダブの録音を意識した前衛的な音響効果の中で、ベテラン・ボーカリストはまるで道しるべのない世界を歩くような寂しさを表現している。哀感もあるが、同時に憐憫もある。どのような存在に向けられるのか分からないが、それらの感情は、90年代のアーティストの楽曲のようにどこに向かうとも知れず、一連の音楽世界の中に構築された奇妙な空間を揺らめきつづける。答えのない世界……、さながらその果てなき荒野の中をボーカリストとして何かに向かい訪ね歩くような不思議さ。


ギボンズが、たとえポピュラリティという側面にポイントを置いているとしても、アーティストの音楽性の中には、不思議とオルタナティヴな要素が含まれている。それは私見としては、ルー・リードやその系譜にあるようなメインから一歩距離を置いたような表現性である。そして、それは続く「Rewind」に捉えることが出来、エキゾチックな民族音楽、かつてルー・リードがオルタナティヴロックの原点を東欧のフォーク・ミュージックに求めたように、それらの異国性を探求し、最終的にはロックともフォークとも付かないアンビバレントな音楽性に落とし込んでいる。これらはややノイジーなギターと相まって、Velvet Undergroundの名曲「White Light」のような原始的なニューヨークのプロトパンクの源流に接近する。しかし、旧来のルー・リードが示したようなロックのアマチュアリズムにとどまらず、自らの音楽的な経験を活かしながら、プロフェッショナリティの中にあるアマチュアリズムをギボンズは探求しているのである。なおかつオーケストラポップとも称すべき形式は「Reaching Out」にも見いだせるが、本曲ではアクション映画のようなユニークさを押し出し、「007」のテーマ曲のような演出効果的なポピュラーミュージックが繰り広げられる。スリリングかどうかは聴いてのお楽しみ。

 

そして、意外にも従来のポーティスヘッドでの活動経験が活かされることもある。もちろん、ヒップホップやブレイクビーツではなくエクスペリメンタルポップという形で。「Oceans」はボーカルのダブーーダビングの要素を効果的に用いて、新たなポピュラー・ミュージックの領域に差し掛かる。しかし、以前のような新奇性のみを訪ねるような先鋭的な表現ではなくて、より古典を意識したマイルドで聞きやすさのある音楽性を重視しながら、ストリングのレガートを背後にシネマティックなポップソングを形作る。オーケストラ風のポップスという側面ではアメリカのソロシンガーが最近よくフィーチャーすることがあるが、ギボンズの場合は、それらをR&B/ソウルの観点から昇華させるべく試みる。ここにアルバムのアートワークに見て取れるようなギボンズの''複数の表情''を捉えられる。背後のトラックはモダンオーケストラで、演出は映画音楽のようで、さらにギボンズの声は、R&Bに近い感覚に満ちている。それはアーバンなソウルではなく、サザン・ソウルのような渋さに満ちている。これらのクロスオーバーの要素は、現代の2020年代のミュージック・シーンの流れを見据えての音楽と言えるかも知れない。

 

 

シネマティックな音楽性の要素は続く「For Sale」でも引き継がれている。具体的な映画名は、よく分からないが、シネマのあるワンシーンに登場するような印象的なサウンドスケープをシンプルなフォーク・ソングという形で昇華させている。そして曲の途中では、バグパイプのような音響効果を持つ管楽器を導入することで、セルティック・フォークに近い牧歌的な感覚を引き出す。個人的には、牧歌的な風景、霧がかった空、古典的なイギリスの家屋、玄関の前にプラカードでぶら下げられる「売出し中」というシーンが想起された。これはたぶん、BBCの『Downton Abbey- ダウントン・アビー』のような人気ドラマにも見出されるワンシーン。言うなれば、誰かの記憶のワンカットを、ギボンズは音楽による物語で描写すべく試みるのだ。この曲には、タイトルから引き出される複数のイメージがサウンドスケープに変わり、それらが一連のストーリーのように繰り広げられる。もちろん、そういったイメージを引き起こすのは聞き手側の体験による。そう、聞き手がいかなる情景を思い浮かべるかは、もちろん聞き手次第なのだ。同時に、想像性をもたらさない音楽は、それ以上の意味を持つことは稀有なのである。

 

本作の終盤では、アヴァンギャルド・ジャズとワールド・ミュージックへの傾倒が見いだせる。「Beyond The Sun」では、オーネット・コールマンが探し求めたニュージャズの対極にある原始的なアヴァンジャズの魅力をとどめたサクスフォーンやクラリネットの演奏を基底にして、ギボンズは唯一無二のボーカルアートを探求している。分けてもドラムのリズムに関しては、クラシックなジャズドラマーが演奏したような民族音楽とジャズの合間にある表現性を重視している。これらは、本作の気品に充ちた音楽性の中でスリリングな印象をもたらす。以上の9曲を聴いていると、意外性に満ち溢あふれ、最後にどんな曲が来るのか容易に想像出来ない。意外にも最後は、マイルドな感覚を持つポップソングで『Lives Outgrown』は締めくくられる。この最終曲は、言い知れない安心感と信頼感に満ちている。鳥の声の平らかなサンプリングが脳裏から遠ざかる時、アルバムの音楽から何を読み取るべきなのかがあらわとなる。この段階に来てようやく、ベス・ギボンズが何を表現しようとしていたのかが明らかになるのである。

 

 

 

88/100

 

 

 

「Wispering Love」

 


ニューヨークのオルタナティヴロックバンド、DIIVは、今週末発売予定のニューアルバム『Frog in Boiling Water』の最後のシングルとして「Raining On Your Pillow」をリリースしました。

 

デビュー当初、シューゲイザーの次世代として登場したDIIVですが、徐々にストリングス等を追加するようになり、ジャンルの枠組みにとらわれない作風へと邁進している。バンドは慣れ親しんだキャプチャード・トラックスを離れ、ファンタジー・レコードから新作をリリースする。

 

ニューアルバムのリリース発表後から、バンドは複数のプレスリリースを通じて、米国の帝国主義の中にある欺瞞を暗にほのめかしてきた。それはファンタジーという観点を通してシニカルなリアリズムを表現するということである。このシングルについても、それは変わらない。DIIVは次のように說明しています。「『Raining on Your Pillow』は、アメリカ帝国主義の恥ずべき過去(そして、現在まで)を思い起こさせる曲です。恐ろしい風景に迷い込んだ孤独な兵士は、紛争から遠く離れた自分自身の風景の存在を反芻している。この場所が実在するかどうかは重要なのでしょうか? 絶望の中で生きる意味を与えてくれるのは、偽りの希望だけで良いのでしょうか? アナログ・シンセとテープ・ループの濁った雰囲気の中、ドライブするリズムの下でループするギターが奏でられる。威嚇的で、破滅的で、不思議な希望に満ちている」

 

 


 

 

アルバム『Frog In Boiling Water』リリースの最終回として、DIIVはシングル "Raining On Your Pillow "のミュージックビデオを装ったコンセプチュアル・フィルムを制作した。バンドは、実験映画監督チーム、TRLLM(Jak Ritger & K8 Howl)および、美術家、Harry Gould Harvey IVとコラボレーション。彼らは共に、軍隊からの離脱、慰めの欲求、自分のイデオロギーへの挑戦という曲のテーマを、高速ビデオ撮影と手描きの抽象的なコラージュに変換した。


DIIVの新作アルバム『Frog in Boiling Water』は5月24日にファンタジー・レコードからリリースされます。


今年初め、Youth Lagoon(ユース・ラグーン)こと、トレヴァー・パワーズは昨年の『Heaven Is A Junkyard』以来となる楽曲「Football」を発表した。今日、彼はロダイド・マクドナルドと共同プロデュースした「Lucy Takes A Picture」で戻ってきた。(ストリーミングの試聴はこちらから)


「たまには、僕の人生の中でずっと書こうとしていたような曲があるんだ。ルーシーはそのひとつです」とパワーズは説明しています。「今の私の音楽に対する関心事は、内なる世界に命を吹き込むこと。より良いものを作ることではなく、真実のものを作ることなんだ。自分が嫌いだったころは、曲を書くのがもっと難しかった。私の魂が変わったとき、私の音楽も変わった」

 

「2月、私はバス停を通り過ぎ、金属製のベンチの鉄格子に挟まれた小さな紙切れに気づいた。錯乱したような、聖書のような、震える筆跡で、「これは私の復活の物語である。私は死んだ。私は近くの草むらを見つけ、人形のように横になった。このメモは、天使からのメッセージか、中毒者の戯言か、もしかしたら、両方かもしれない。地獄を垣間見ることなしに、真の人格を持つことは不可能なんだと思う。もしかしたら、そういう意味なのかもしれない。W.H.オーデンの言葉を借りれば、"私の悪魔を追い払わないで、私の天使も行ってしまうから"ということかもしれない。この詩的ないたずら者、天使、小鬼が何を言いたかったのか知らないけれど、この言葉は私の魂の鐘を鳴らした。私は家に帰り、"Lucy Takes a Picture "を書いたんだ」

 

 

「Lucy Takes A Picture」

 

©Jasper McMahon

Marina Allen(マリーナ・アレン)がニューシングル「Deep Fake」をリリースした。彼女のサード・アルバム『Eight Pointed Star』からの最新シングルである。前作『Centrifics』のフォローアツプとなる新作アルバム『Eight Pointed Star』は6月7日にFireからリリースされます。

 

この曲には、ギターとシンセサイザーでHand HabitsのMeg Duffyが参加しており、カリー・ヘルナンデスが監督したビデオも公開されている。以下よりチェックしてみてください。


『Deep Fake』はちょっとした天啓のような感じだった」とアレンは声明で説明している。「この曲は、クリス・ワイズマンが指導してくれた作曲ワークショップから生まれた。20歳の時に彼からギターのレッスンを受けた」

 

「彼は曲作りのためのあらゆる道具を持っていて、『Deep Fake』はプロンプトから生まれたんだ。それが何だったかは覚えていない。この曲は、2つの異なる曲を一緒にしたようなものなんだ。最初の部分は、愛する人と話すような、本当に個人的な感じにしたかった。この曲は、私たちの文化を構成している非常に複雑なものすべてに名前をつけるということでもある。それらを現実として認識すること。でも、それらに立ち向かい、それを神聖なものとして捉えること」


ヘルナンデスは、「このビデオは、マリーナの顔を、ソースとなったアーカイブ映像、別名 "ディープ・フェイク "を通して、無数の女性の顔に重ね合わせている。ビデオの後半は不具合のあるDVカメラで撮影され、現実と虚構、現実と非現実の境界線をさらに曖昧にするために意図的に使われている」と付け加えた。

 


「Deep Fake」

Nos Alive

ライブイベントは近年、イギリスやアメリカ、アジアにとどまらず、ヨーロッパやEU圏内でファンベースを獲得し市場を拡大させている。ポップスやロックアーティストが最近、世界ツアーでヨーロッパ地域でのライブ開催を重要視している。これはマーケットが拡大する余地があるとマネージメント、イベント主催者側が考えていることの証し立てともなる。以前は南米がライブ市場として魅力的でしたが、現在はヨーロッパ圏に試金石が残されているようです。

 

南ヨーロッパ/スペインのプリマヴェーラ等が一番有名なイベントですが、ポルトガルのリスボンの音楽フェスティバル、”NOS ALIVE!"も近年、注目を浴びるイベントの一つ。そして注目すべきは、ヘッドライナーに関しては他の大型フェスティバルと比べても遜色がなく、他の大型フェスティバルでは見られないアーティストや地元の出演者を盛り込んでいることでしょう。

 

NOS アライブの主催者は、7月11日から13日にわたって開催されるコレト・ステージ、コメディ・ステージ、WTF Clubbingのラインナップを発表しました。

 

7月11日~13日には、アルジェスのマリティモ通り(Passeio Marítimo de Algés)で、パール・ジャム、スマッシング・パンプキンズ、デュア・リパ、タイラ、アーケイド・ファイアなどのアーティストが集結するラインナップが開催される。


7月11日のWTF Clubbingは、ポルトガルのエージェンシー、Match Attackのキュレーションによって企画される。Âme Live B2B Trikk、Awen B2B Djeff B2B Xinobi、Bateu Matou、Conhecido João、Conjunto Corona、Fresko B2B Vallechi、Silly、ZenGxrlが出演します。翌々日の7月13日には、アラン・ディクソン、エラ・ナイト、エメラルド、マティサ、シャウスDJセット、ヴィタリック、ワークス・オブ・インテントをフィーチャーした2年連続の「Decked Out!」等、DJセットやクラブミュージックの熱狂を野外ステージに持ち込む。


フェスティバルの初日(7月11日)は、実験音楽や現代音楽のような一般的なフェスティバルでは見られないようなスペシャルなミュージシャンの出演も予定されている。

 

アルアーダ・ムジカのキュレーションによるコレト・ステージは、ピアニストで作曲家のイネス・アペナスのパフォーマンスで幕を開け、ティポのインディー・フォーク、ジョアン・ナオ&リル・ヌーン、リカルド・クラヴィダのエクスペリメンタル・フュージョン、QUANTのエレクトロニック・ビートが続きます。7月13日には、カタリーナ・ブランコ、キャピタル・ダ・ブルガリア、マルキーズ、イサ・リーン、グルーヴ・アルマンダの出演が決定しています。


また、リスボンの音楽フェスは都市型フェスティバルとして相応な規模を確保している一方、地域密着型のイベント性を重視しているようです。特に、南欧圏のコメディアンを優遇し、音楽フェスにユニーク性を提供している点は独自性を打ち出したと言える。

 

コメディ・ステージは、ポルトガル初の試みで、ジルマーリオ・ヴェンバ、ベアトリス・ゴスタ、ダリオ・ゲレイロ、エドゥアルド・マデイラ、それから、コメディ活動25周年を迎えるフェルナンド・ローシャらが出演予定。NOSアライブ2024は、7月11日から13日まで、アルジェスのマリティモ通りで第16回目のイベントが開催されます。詳細についてはnosalive.comをご覧ください。


アメリカのオルタナティヴロックの代表格、Pavement(ペイヴメント)が先週末、大きな快挙を成し遂げました。後に1999年のEP『Spit on a Stranger』に収録されたB面曲 "Harness Your Hopes "がRIAAからゴールド認定を受けた。これはペイヴメントにとって初のRIAA認定となります。

 

ちなみに、分かりづらい人のために説明すると、”RIAA”とはアメリカのレコード協会で、著作権許諾管理と録音技術の標準化のため、1952年から活動しています。 LPのレコード時代から、CD,現在のストリーミング業界に至るまで、さまざまなサポートや貢献を果たしています。


RIAAは、レコードの新技術の普及という側面で多大な貢献を果たしてきました。1954年に米RCA社が開発したLP/EP用の録音・再生カーブである、New Orthophonicを"RIAAカーブ"として規格化した。その後、ステレオレコード(45/45方式)、コンパクト・カセット、DAT、コンパクト・ディスクなど音楽ソフトの技術標準の管理に関して役目を担っています。アメリカ合衆国におけるライセンスやロイヤルティの管理業務、ゴールドディスク認定等を行なっている。

今回、見事ゴールド認定を受けた「Harness Your Hopes」は、ペイヴメントの1997年の4枚目のスタジオ・アルバム『Brighten the Corners』のためにレコーディングされましたが、フロントマンのスティーヴン・マルクマスは、「正当な理由なく」アルバムに収録しないことを選択し、B面に収録するにとどめた。しかし、それから数年後、「Harness Your Hopes」は、2017年頃にストリーミング数を大きく伸ばし、TikTokで拡散され、今や50万枚以上のセールスを記録している。

 

リリースからしばらくして思いがけぬメガヒットを記録する事例は、近年では、Netflixのホラームービー「Stranger Things-  未知の世界」の放映によってスポットライトを浴びたケイト・ブッシュのシングル「Running Up That Hill」などがある。ケイト・ブッシュの場合は80年代にリリースした曲が40年後に大ヒットを記録するというかなりレアなケースでした。

 

2024年4月19日には、オリジナルバージョンと”Sped Up”という名を冠するスペシャルバージョンを併録したシングルもリリースされた。

 

 

 

ペイブメントの「Harness Your Hopes」の人気急上昇の直接的な要因は現時点のところ明らかになっていません。が、アメリカの音楽メディア、Stereogumは、”ストリーミング数の上昇を2017年のSpotifyのアルゴリズムの変更に起因する”と指摘しています。その後、2020年頃にTikTokのユーザーが、この曲の振り付けをつけたダンス動画を投稿し始め、爆発的な人気に獲得した。


「Harness Your Hopes」はペイヴメントのファンに最も愛されています。バンドは2022年の再結成以来、75回もこの曲をライヴのセットリストに入れている。彼らは2022年に『Spit on a Stranger EP』を再発、アレックス・ロス・ペリーが監督、イエロージャケッツの”ソフィー・サッチャー”が出演した「Harness Your Hopes」のミュージックビデオを公開しました。

 

 

カナダのアンビエント・プロデューサー、Loscil(ロスシル)がニューシングル「Shadow Maple」をリリースした。5曲入りのアルバム『Umbel』に収録され、5月31日に自主制作として発売される。

 

今回、ヴァンクーバーの電子音楽家、ロスシルは従来のドローン・アンビエントの形式を採っているが、イントロのチャーチオルガンを彷彿とさせるサウンドテクスチャーに加え、徐々に渦巻くようなドローンが音像をランタイムごとに拡大していく。イントロの瞑想的な静けさが聴覚的な空間性を増していき、マクロコスモスのサウンドスケープを描くプロセスを見事に捉えている。

 

昨年のTim Hecker(ティム・ヘッカー)の『No High』、次いで、今年に入ってから、Rafael Anton Irissari(ラファエル・アントン・イリサーリ)のセルビアの無名の音楽家とのコラボなど、近年、著名なアンビエントプロデューサーは、”ダーク・アンビエント/ダーク・ドローン”とも称するべき流れを作りつつある。ロスシルもニューシングルで暗鬱であるものの、マクロの荘厳な音楽世界を構築する。モジュラーシンセで演奏される均一の通奏低音の波形がどのように拡大と縮小を重ねるのかに注目である。アウトロにかけてのチャーチ・オルガンのような静謐な瞬間に戻る瞬間は鳥肌ものである。


このシングルを聴くかぎりだは、アンビエントの今年の注目作となりそうな雰囲気のある『Umbel』の詳細については下記の通りとなっている。ロスシルのコメントはこちら。

 

 

 

 

 

Loscil 『Umbel』


Label: Loscil

Release; 2024/05/31


 Tracklist

 

1.Shadow Maple

2.Umbel

3.Kamouraska

4.Dusk Gale

5. Cyme


 

ニューアルバム『Umbel』は、loscilことスコット・モーガンによる写真/音楽プロジェクトの第3弾。フォトジンと音楽アルバム(CDとデジタル)を組み合わせた『Umbel』は、前回のFaults、Coasts、Lines、Luxに続く作品である。

 

写真とロングフォームのエレクトロニック・ミュージックを組み合わせた作品である。ジン『Umbel』には、花咲くカエデの木の下で、夕暮れの薄明かりの中で撮影された一連のフルカラー写真が収められている。

 

長時間露光で、薄暗くなる空の下、描かれた光と影のような樹冠をとらえている。画像はジェスチャーに富んでおり、光が重なり、にじんでいる。何の変哲もない一瞬の時間が、隠れたノイズ、影、奥行きを見せている。音楽も同様に、実時間から切り離されている。シンセサイザーのパッセージはループし、重なり、繰り返され、収縮する密度を形成する。


アルバムの予約はBandcampで受付中です。

 

数週間前、スティーブ・アルビニが61歳で死去し、このニュースは世界中の音楽ファンを驚かせた。シェラックはアルバム『To All Trains』の発売をその週の金曜日に控えており、再来週の週末には再びバルセロナのプリマベーラ・サウンド・フェスティバルに出演する予定だった。

 

スペインのプリマベーラの主催側はあらためてシカゴの伝説的なミュージシャンの急死に対し、敬意と哀悼の念を表すため、ステージのひとつにアルビニの名前を冠することを発表した。スティーヴ・アルビニと銘打たれたステージには何組かのアーティストの出演が決定している。


実は、約20年間、スティーヴ・アルビニによるバンド、シェラック(Shellac)はプリマベーラ・サウンドの常連だった。シェラックが初めてバルセロナのフェスティバルに出演したのは2006年のことだった。翌年は出演しなかったものの、2008年以来、シェラックはプリマヴェーラのイベントに毎年のように出演している。昨年、シェラックは、バルセロナ、ポルト、マドリードのプリマヴェーラ・フェスに出演した。それは、バンドが最後に行ったライヴのひとつだった。


今年以降、シェラックが出演する予定だったステージ(プレニチュード・ステージの向かい側)は、スティーブ・アルビニ・ステージとして知られることになる。シェラックは、スペインのパンク・バンド、ヴィウダに続くタイムテーブルで、ステージに出演する予定だった。

 

現在、プリマヴェーラは、代理の出演バンドをブッキングしている最中である。代わりに、アルビニのファンのためにリスニング・パーティー「To All Trains」を開催する予定だ。フェスティバルの開催期間中、Duster、Scowl、Gel、Hannah Diamond、Brutusといったアーティストがアルビニのステージに出演する。フェスティバルのタイムテーブルはこちらにアップされている。

 

Vince Staples

 

LA/コンプトン出身のラッパー、Vince Staples(ヴィンス・ステイプルズ)が待望のニューアルバム『Dark Times』を発表した。2022年の『Ramona Park Broke My Heart』に続くこのアルバムは半ばサプライズのような形で今週金曜日、5月24日にリリースされる。この発表に伴い、ラッパーは新曲「Shame on the Devil」のビデオを公開した。以下よりチェックしてほしい。


前作ではラモナ・パークという土地を舞台にホームという考えをラップしたステイプルズだった。今回はどのようなアルバムとなるのだろうか。

 

リリース情報によると、「過去10年間、彼のカタログに存在した要素を洗練させた、筋肉質で啓示的な作品である」と説明されている。



ステイプルズは先週、キャリアの新章を予告し始めた。「数日、とりわけHiveのヴァースへの愛を目の当たりにし、感謝している」と彼はX(旧ツイッター)に投稿し、最近ネット上で注目を集めたEarly Sweatshirtの2013年リリースへの出演に言及した。そして、僕はまだそれに取り組んでいる」

 

「11年前、若く不確かだった自分に”Def Jam Recordingsとのチャンスが与えられた。その1年後、私は最初のプロジェクト『Shyne Coldchain Vol.2』をリリースした。私は音楽の世界に何を期待すればいいのかわからなかったが、自分が必要としていたもの、周囲の変化と自己の明確な理解に深く気づいた。それから10年、7つのプロジェクトを経て、私はその明確さを見つけた。そして、今、私の最後のDef Jamリリースとなる『Dark Times』を紹介しよう。5.24.24.」

 

最新の音楽プロジェクトの合間を縫って、ステイプルズは『The Vince Staples Show』で映画とテレビの世界に正式に足を踏み入れた。
 

「僕の場合、それはすべて同じこと。音楽とか映画とかテレビとか、特別なものとのつながりはない。ただ、人生の問題を解決し、前進していくだけだ。私は考えやアイデアを持っていて、それをやり遂げようとしている」とステイプルズは今年初めにローリングストーン誌に語った。「音楽を通して、あるいは映画やテレビを通して、その考えを理解することが重要だ」


「というのも、私はすでに必要なものを得ているからなんだ。自分がどこから来たのかを人々が理解できるように、あるいは自分が作ったものから人々が必要なものを得られるように、次回はどうすればいいかということに関してメモを取るだけさ」

 

 

「Shame On Devil」(Best New Tracks)

 

 

 

Vince Stales 『Dark Times』

 

Tracklist:


“Close Your Eyes and Swing”
“Black & Blue”
“Government Cheese”
“Children’s Song”
“Shame On the Devil”
“Étouffée”
“Liars”
“Justin”
“‘Radio’”
“Nothing Matters”
“Little Homies”
“Freeman”
“Why Won’t the Sun Come Out?