今週に入ってから、グッと気温が下がってきた。いよいよ師走の足音がもうすぐそこまで聞こえてきそうな感じである。これから年末にかけて寒くなってくるものと思われるが、この時節になると、是非とも購入を考えたいのがダウンジャケット。

 

しかし、ダウンジャケットも近年、様々なブランドが台頭し、アパレル市場での群雄割拠というべき様相を呈し、どれを選ぶのか迷ってしまうかもしれない。

 

Woolrich、Herno,Pyrenex,といった比較的高級なブランドをはじめ、近年、日本のメーカーもアパレルマーケットに参入し、水沢ダウン、snow peakといったブランドもダウンジャケット市場で大きな存在感を見せている。イギリスのP.H.Designというブランドも良質なダウンジャケットの生産を行い、根強い人気を獲得している。

 

安価なダウンジャケットブランドとしては、ロシア、モスクワのSHUというメーカーをおすすめしたい。このブランドは何と、3万円台という破格の定価でダウンジャケット製品を販売している。

 

やはり、ダウンジャケットといえば、登山ウェアブランドが強い。そもそもダウンジャケットというのは登山のための装備品として開発された。古くから防寒性、撥水機能、耐久性を兼ね備えた製品を生産し、アパレルマーケットで根強い人気をほこっているのが、The north face、他にもpatagoniaといったブランドである。

 

そして、ダウンジャケットのブランドを語る上では、何と言っても、伝統的なブランドMONCLERを度外視するわけには行かない。

 

 

1・モンクレールの発祥

 

モンクレールは、どちらかといえば、HERNOに近い高級なファッションブランドの印象が強いが、実はこのメーカー、登山ウェアとしてのルーツを持つファッションブランドである。

 

モンクレールは、常に登山と深い関わりを持ってきたメーカであり、半世紀以上の伝統を持つブランドである。

 

そもそも同社は、現在は本社所在地をイタリアミラノに置いているが、フランスのモエスティエ=ド=クレルモンに、ルネ・ラミリオムとアンドレ・ヴィンセントが1952年に創業した登山メーカーである。 

 

 

Monestier-de-Clermontモンクレールが創業したグルノーブル近郊の山間地域 モエスティエ=ド=クレルモン  Par <a href="//commons.wikimedia.org/wiki/User:Jvillafruela" title="User:Jvillafruela">Jvillafruela</a> — <span class="int-own-work" lang="fr">Travail personnel</span>, CC BY-SA 4.0, Lien

 

当初は、冬の登山のための装備、寝袋、テント、フード尽きケープといった製品を製造していた。


Monclerというブランド名については、上記のフランスの小さな山間集落、モエスティエ=ド=クレルモンに因んで名付けられた。

 

 

 

 2・モンクレール創業秘話 二人の友人の冒険

 

フランスのブランド、モンクレールの物語は第二次世界大戦の時代にまで遡る。 当時、フランスはナチスに占領されていたため、登山の冒険など夢のまた夢であり、ごく少数の愛好者の贅沢な嗜みであった。

 

そして、このフランスのグルノーブル近郊の山あいにある小さな村落、モエスティエ=ド=クレルモンには、のちにモンクレールを創業することになる二人の登山愛好家の姿が見いだされる。アンドレ・ヴィンセント、レネ・ラミリオムだ。彼らは占領以来、友人となり、共に、山岳活動やスポーツを行うための組織「シャンティエ・ド・ジュネス」の一員であった。第二次世界大戦後、ヴィンセントとラミリオムは小さなスポーツ用品店を地元に開くことを思いつく。

 

第二次世界大戦後の世界は、様々な領土の問題により、フランスにおいても自由な移動や旅行が制限されていた。もちろん、高価な登山用品を購入する余裕は多くの人にはなかった。しかし、彼らはそのこと、つまり、テントや雪山の装備品を売りたいという情熱を人一倍持っていた。

 

苦肉の策として、ヴィンセントとラミリオリは、低コストのキャンプ用品の販売をはじめる。さらに、ここに彼らの友人のデュオが加わり、テントやスポーツ用品を売り出すことにより、モンクレールは長い歴史の道のりを歩みはじめた。

 

最初の年はなにもかもうまくいかなかった。戦争の後の経済的な困窮、そして、社会不安の中において、モンクレールは市場の不安定さに直面し、地元の数少ない顧客を頼りに、これらのスポーツ用品の販売を行っていた。



3.不死身の登山家、リオネルテレイとモンクレール


 

しかし、これらの登山用品を着々と生産を行っていく中、モンクレールの品質の良さ、そして機能面での秀逸さというのは徐々に雪山を踏破しようとする登山家によって支持されるようになる。

 

そしてモンクレールの名を最初に一般に広めたのが不死身の登山家と称されるリオネルテレイだった。

 

テレイは、ヒマラヤのマカルーやパタゴニアのアンデスのセロ・フィッツ・ロイなど多くの山の初登頂を果たしたフランスの登山家であり、ガストン・レビュファ、ルイ・ラシュナルと共に1950年代を代表するフランスの登山家で、上記二人とともに三銃士と呼ばれている。また、リオネル・テレイアンドレとラミリオリの共通の友人でもあった。


リオネル・テレイは、特に、モンクレール製品のアヒルの羽毛ジャケットに興味を持った。

 

フランスには、以前の時代に置いてモールスキンというモグラ皮に似た分厚い綿製品が労働者のウェアとして取り入れられていたが、このダウンジャケットの革新性、アヒルの羽毛の軽さ、そして、温かさに驚いたはずだ。

 

モンクレールのジャケットは、当初、低温環境で長い作業を続けなければならない労働者のために生み出されたが、登山ウェアとして、リオネル・テレイは時代に先んじてモンクレールジャケットを取り入れた。

 

実際、山登りをしている際、このジャケットは、驚くほど温かく、体を動かしやすく、快適であることを見出し、つまり、実用性のある登山ウェアとしての魅力を彼は見出したのである。

 

その後、アンドレとラミリオリは、登山家、リオネル・テレイをコンサルタント、企業アドヴァイザーとしてモンクレールに招聘する。ブランドの特別仕様モデル、モンクレールジャケットの製作に関する技術サポートを一任した。

 

彼らは、プロの登山家から実際の見地によるプロダクションの忠告を受けながら、さらにモンクレールジャケットを高性能なものに洗練させていく。

 

この後、「MONCLER pour Lionel Terray」という名前の製品ラインが生み出されて、様々な登山用品、寝袋、保護手袋、靴、テント、登山装備品、といったプロダクトをモンクレールは生産するようになる。

 

 

3・K2踏破に耐えうる登山ウェア 

 

第二次世界大戦後、様々な国の著名な登山家がエベレストをはじめとする踏破困難とされる冬山登山に挑戦し、歴史的な記録を打ち立てていく。

 

そして、以前、最も踏破が難しいとされていたインドのカシミール地方からウイグル自治区まで伸びるカラコルム山脈に位置する、通称K2の踏破にイタリア人登山家アルディト・デジオは挑む際、モンクレールのダウンジャケットを選んだ。

 

そして、アルディト・デジオは、地球史上最も頂上をきわめるのが困難とされていたK2踏破を1954年に成功させる。さらに、その翌年にモンクレールの登山ウェアは、フランスマカル踏破を後押しした。どのような激しい風雨を凌ぐ事ができる耐久性の高い登山ウェアとして、モンクレールのブランド名は一躍世界に知られるようになった。


その後、モンクレールは、リオネル・テイと協力し、製品開発を続け、彼が主宰した1960年代のアラスカの遠征へのウェアを提供した。

 

Lionel Terray

 

もちろん、その後も、モンクレールはK2遠征と長い関わりを持ち、登山家の登頂の成功を後押しし続けている。

 

人類のK2初踏破を支えたタフな登山ウェアブランドとしての矜持を保ちながら、現在まで長年、K2への遠征の際に登山ウェアを提供し、登山家のスポンサーとなっている。

 

 

4.モンクレールのロゴ

 

モンクレールの印象深いロゴについても説明しておきたいと思う。このロゴに取り入れられているトリコロールは、もちろんフランス国旗に因む。赤と青をあしらったデザインにMの文字が刻印されている。

 

シンボルマークの後ろには、フランスの国章のシルエット、そしてオンドリが描かれている。

 

 

 

Moncler Logo

 

このブランドロゴが使用されはじめたのは1968年。フランスのグルノーブルオリンピックスキーチームの公式スポンサーとして提携後、モンクレールのブランドロゴとして正式に使用されはじめた。

 

先述したように、モンクレールのカラーリングはフランス国旗のトリコロールに因んでいるが、この配色については、権力、権威、情熱、忠誠心を表し、これらの概念はモンクレールのブランドのコンセプトとして今も変わらず、当ブランドの欠かさざる精神として引き継がれている。

 

もちろん本拠をイタリアミラノに移転してからも登山ウェアブランドとしての品格を保ち続けている素晴らしいメーカーである。




Monrelerの製品情報は公式サイト似てご覧下さい

 

 https://www.moncler.com/ja-jp/?tp=67844&ds_rl=1290725&ds_rl=1290725&gclid=Cj0KCQiAzMGNBhCyARIsANpUkzPnbNuURBs1CYg6SprZ0WS5U77k0aPaAR0eW0JfuNx8IjBg6brFyFoaAoCDEALw_wcB&gclsrc=aw.ds

 

 

 

 



 Molly Lewis


 かなり古い時代の話になってしまいますが、1920年代のニューヨークのブロードウェイミュージカルには、口ぶえを使って演奏するウィルトラー音楽というのが存在していましたが、いつしかその口ぶえの音楽は、エンリコ・モリコーネ、そしてマカロニ・ウエスタンの始祖、アレッサンドロ・アレッサンドローニの時代を最後に忘れ去られてしまったようです。

 

 そんな古い時代のノワールサウンドに再び明るい光を投げかけようとしている現代の音楽家がいます。それがオーストラリア出身のモリー・ルイスです。若い時代をオーストラリアで過ごし、1920年代のブロードウェイミュージカルのサウンドトラックを幼少期に父親から与えられたことが、モリー・ルイスに音楽への深い興味を与えました。幼い時代から、モリー・ルイスは何時間でも口ぶえを吹いているのを彼女の父親は慈しみの眼差しを持って見守っていました。

 

 その後、モリー・ルイスは、両親と妹と共に家族そろってアメリカに移住し、映画産業に近づくため、ロサンゼルスで映画芸術について学び、その後、ハリウッドに定住。その後、モリー・ルイスは、口ぶえ、ウィストラー演奏家として活動をはじめます。

 

 ニューヨークのガレージロックバンド、ヤー・ヤー・ヤーズ、ロサンゼルスのマック・デマルコ、そして、ヒップホッパーのDr.Dreのライブにウィストラー奏者として出演することにより、これらのアーティストと親交を深めるかたわら、ウィストラー奏者としての多くのミュージシャンから認められるようになります。近年、モリー・ルイスは度々、カフェ・モリーというユニークなイベントをゼブロン、ナチュラルヒストリーミュージアムで開催。このイベントには、マック・デマルコ、John C Riley、カレン・Oがゲストとしてサプライズ出演し、大きな話題を呼んでいます。

 

 ウィストラー奏者としての最初にモリー・ルイスの名を浸透させたのが、2005年のドキュメンタリー「Picker Up」という番組でした。この番組において、モリー・ルイスは素晴らしい口笛の演奏を披露するとともに、ルイスバーグ国際ウィストラーコンクールが紹介され、一躍モリー・ルイスは世界的に希少なウィストラー演奏家として知られるようになる。

 

 また、モリー・ルイスは、国際コンクールにおいて優勝経験があり、2015年、ロサンゼルスで開催されたマスターズ・オブ・ホイッスルコンクールのライブバンド伴奏部門で受賞を果たしています。その後、2021年に、米インディアナ州のインディーレーベル、JaguJaguwarとの契約に署名し、EP「The Fogotten Edge」をリリースして、初めてソロアーティストとしてのデビューを飾っています。

 

 

 モリー・ルイスは、自身の口ぶえの演奏を「人間のテルミン」と言うニュアンスで話していらっしゃいますが、ウィストラーという表現、現代としては忘れされてしまった演奏技術において、 口笛を吹くことの意義について、以下のように語っています。

 

なぜ口笛を私が吹くのかといえば、それはコミュニケーションをするということに尽きるでしょう。その他にも、私にとって口ぶえを吹くということは、創造すること、身振りをすることと同じようなものです。つまり、悲しみと喜びという2つの原初的な感情を最もよく表現するのにぴったりなのがこの口笛という楽器なんです。 


 

 インタビュー中にも、相槌や言葉の代わりに口ぶえを、朗らかに、たおやかに吹くモリー・ルイス。彼女にとって、口ぶえというのは、ごく一般の人々が言語の伝達表現をするのに等しい役割を持っています。そして、年々、言葉ばかりが現代の人間は発達し、言葉の持つ意義、そして、ニュアンスが先鋭的になっていくように感じられますけれども、必ずしもそうであるべきではないんだということを諭されるようです。モリー・ルイスの音楽は、直截的な言語だけが、必ずしも人間の伝達の手段ではない。その他にも、様々な感情表現がある、ということを私達に教唆してくれているのかもしれません。

 

 

 

 

Molly Lewis

 

 

 

 

 

 

 「The Fogotten Edge」 EP jagujaguwar 2021 

 


 Molly Lewis「The Fogotten Edge」

 


Tracklisting

 

1.Oceanic Feeling

2.Island Spell

3.Balcony for Two

4.The Fogotten Edge

5.Satin Curtains

6.Wind's Lament


 

 

 今年7月にアメリカのインディーレーベル"Jagujaguwar"と契約してリリースされたシングル「Fogotten Edge」。作品中のサウンドに漂うノスタルジア、そして、口笛の持つこれまでに見いだされなかった魅力を伸びやかに表現した作品として、一躍各方面のメディアで注目を浴び、ザ・ガーディアン、ニューヨーク・タイムズをはじめ著名なメディアによりこの作品は紹介されています。この最初のミニアルバム「The Fogotten Edge」ロサンゼルスのハリウッド近くに住むモリールイスが、そのノワール的な雰囲気の一角に因んでアルバムタイトルが名付けられたようです。

 

 既に、モリールイスが話している通り、この最初の作品に収録されている、口笛、サックス、オーケストラヒット、シロフォンといった珍しい楽器を取り入れた複数の楽曲は、もちろん、言うまでもなく、古い時代のフィルム・ノワールサウンドをモダンエイジに復刻させようという意図で生み出されており、それはルイス自身のエンリコ・モリコーネやアレッサンドロ・アレッサンドローニの映画音楽に対する深い敬愛に満ちています。ハリウッドで映画製作を専門に学んだ人間だからこそ生み出せる内奥まで理解の及んだ映画音楽の表現は、映画を愛する人はもちろんですが、そして、そういった往古の映画音楽を知らぬ現代の人にも大きな安らぎを与えてくれるでしょう。

 

 この作品において、モリー・ルイスの紡ぎ出す口笛の表現というのは一貫して伸びやかであり、ほのかな清々しさによって彩られています。そして、なんといってもデビュー作ではありながら、綿密に世界観が確立された作品といえるでしょう。アルバム全体を通して紡がれていくのはノワール的な世界。それはまったく、現代とは切り離されたような時間概念を聞き手にもたらし、その中に浸らさせてくれることでしょう。ここで表現されているノワールの世界、それはなんとも聞く人に、陶然としたノスタルジア、哀愁、古い時代へのロマンを喚起させる。それはモリー・ルイスの映画にたいする深い愛情、慈しみの眼差しがほんのりとした温かみをもって注がれているからでしょう。

 

 口笛、ウィストラー、という忘れ去られたかのように思える人間の感情表現、そして、フィルム・ノワールというもうひとつの忘れ去られた表現、この2つの表現を芸術の要素を交え、2020年代において復権を告げようとする画期的な作品といえそうです。まだ一作目のリリースではありながら、異質な才覚を感じさせるデビュー作品です。





「Ocean Feelings」 Single  jagujaguwar  2021 

 

 

Molly Lewis 「Oceanic Feeling」  

 

 

Tracklisting

 

1.Oceanic Feeling

 

 こちらはEP「The Fogotten Edge」に先駆けて発表されたシングル作。この楽曲はアルバムにも収録されています。そして、最初のモリー・ルイスのリリースともなったデビューシングル。リリースされるまもなく、複数の海外のメディアが取り上げたという点ではEPと変わりはないでしょう。

 

 この最初の作品で既にモリー・ルイスは独自のモリコーネサウンドを完全に確立しており、全くブレることのないフィルム・ノワールの世界観を再現させています。この音楽を聴いて唸るしかなかったのは、これほど強固な世界観を音楽として完成させるというのがどれほど大変なことなのか痛感しているからです。

 

 もちろん、このデビュー作でのモリー・ルイスの口ぶえの芸術表現というのは、彼女の話している通りで、オーケストラ楽器、テルミンのような独特な響きを持ち、聞き手を陶然とした境地に導いてくれるはず。

 

 そして、その口ぶえの音は、子供のような伸びのびとした表現でありながら、そこには深い幻想的なロマンチズムの説得性が込められている点にも着目したいところです。

 



Nils Frahm


ニルス・フラームは、ハンブルグ出身、現在はベルリンを拠点に活動するミュージシャンです。

 

作風はネオクラシカルのカテゴリーに属しており、主な音楽性については、アコースティック楽器と電子楽器を組み合わせたもので、特にピアノとシンセサイザーに焦点を置いています。フラーム自身の所有するレコーディングスタジオにおいても、また、ステージにおいても、彼の作品はヴィンテージ楽器と、型破りなマイクのポジションと演奏技術を取り入れることにより、独特で叙情的なサウンドを生み出しています。

 

これまでのニルス・フラームの作品には、サウンドトラック、ソロピアノ作品、プリペイドピアノを活用した作品、シンセサイザーを主体とした作品のいくつかに大別されます。彼はまたトリオ編成のNonkeenの一員として活動し、エレクトロ作品もリリースしています。コラボレーション製作の経験も豊富であり、これまでアンネ・ミュラー、オーラヴル・アルナルズ、DJShadowと多岐にわたるジャンルのミュージシャンと共作を発表しています。ライブ作品については、これまで2013年に「Spaces」、そして2020年に「Tripping With Nils Frahm」の二作がアルバムとなっています。


ECMレコードの写真家を父親に持ち、ドイツ、ハンブルグで生まれ育ったニルス・フラームは、クラシックピアノをナウム・ブロドスキーに師事して8年間学んだ後、ベルリンに移住し、本格的な音楽活動を開始する。2005年に、電子グリッチとアコースティック楽器を組み合わせたデビューLP「Streichefisch」をAtelier Musik Recordingsからリリース。それから、Machinefabiekとの共作シングル「Dauw」を発表した後、イギリスの電子音楽を中心にリリースするErased Tapesと契約し、「Wintermusik」「The Bells」と快作を発表し、音楽評論家から高い評価を受ける。それまで存在しなかった”ネオ・クラシカル”というジャンルをアイスランドのオーラブル・アルナルズと共にヨーロッパのミュージック・シーンに確立していくことになります。

 

2011年の「Felt」では、初めて、プリペイドピアノの作曲を介してジョン・ケージの系譜にあたる実験音楽に取り組み、また、シンセサイザーを基調とした「Juno」をErased Tapesからリリース。2012年には、ミニマル学派の作風に取り組んだフラームの代表作「Screws」をリリース、盟友オーラヴル・アルナルズとの最初の共同製作「Stare」を発表。順調に著名なミュージシャンとの共作に取り組んでいき、「Juno Reworked」では、ルーク・アボットとクラークといった電子音楽の著名なアーティストが作品のリミックスに参加しています。

 

また、その後も創造性豊かな作品を次々に製作していき、2013年末に、ニルス・フラームはフィールドレコーディングから生み出された二年に及ぶライブ音源集「Spaces」を完成させています。この作品は、フラームの最高傑作の呼び声高く、数々の音楽メディアから絶賛を受けています。2015年には、ピアノ・ソロ作品「Solo」を「World Piano Day」とフラーム自身が名付けた3月29日に無料で公表。ネオクラシカルのミュージシャンとしての地位を不動なものとしていく。またこの年代から映画音楽のサウンドトラック製作にも携わるようになり、ドイツのシングルテイクの映画の音楽を担当、「Music For the motion Picture Victoria」を発表する。


2016年には、2012年に発表された旧作「Screws」の再編集盤「Screw Reworked」を発表する。フラーム自身が厳選したファンや音楽仲間がリミックスを手掛けた画期的な作品において、旧作を見事に生まれ変わらせ、前衛的で壮大なピアノ音楽を新たに産み落としている。また、同年には、ソロ名義での活動に加え、二度目のコラボレーションとなるオーラブル・アルナルズとの共作「Trance Frendz」、ドイツの電子音楽シーンで活躍するF.S.Blummとの共作「Tag Ein Tag Zwei」、及びオリジナルサウンドトラック「Woodkid」を発表しています。

 

その後、ニルス・フラームはベルリンに自身のスタジオを二年間を費やして設立し、シンセサイザーとピアノ音楽を見事に融合した作品「All Melody」を2018年に発表した後、ワールド・ツアーを敢行。翌年には「All Encores」を発表。この作品は2012年に短編映画のサウンドトラック作品のために録音され、2015年の「Solo」と同じく、3月26日の「World Piano Day」に合わせてリリースされています。

 

2020年には「All Merody」のツアー時に録音されたファンク・ハウス・ベルリン"のコンサートの音源「Tripping With Nils Frahm」をリリース。その後はPeter Proderickがゲスト参加したピアノ作品「Graz」をErased Tapesから発表する傍ら、マネージャーと設立したベルリンの新レーベル”Leiter"からF.S.Blummとの実験的なダブ作品「2×1=4」を発表しています。また、近年、BBC Promsにも出演を果たしており、EU圏にとどまらず、他の地域においても徐々に知名度を獲得しつつあります。ドイツ、ネオクラシカルの至宝といってもなんら差し支えないであろう素晴らしいアーティストです。

 

 

 

 

 

「Old Friends New Friends」 Leiter Verlag  2021

 

 

 

 

 

Tracklisting

 

 

1. 4:33 (A Tribute To John Cage)
2. Late
3. Berduxe
4. Rain Take
5. Todo Nada
6. Weddinger Walzer
7. In The Making
8. Further In The Making
9. All Numbers End
10. The Idea Machine
11. Then Patterns
12. Corn
13. New Friend
14. Nils Has A New Piano
15. Acting
16. As A Reminder
17. Iced Wood
18. Strickleiter
19. The Chords
20. The Chords Broken Down
21. Fogetmenot
22. Restive
23. Old Friend

 

 

 

 

今週の一枚としてご紹介させていただくのは、ニルス・フラームが自身のマネージャーと共に設立しベルリンのレーベルLeiterから12月3日にリリースした「Old Friends New Friends」となります。

 

この作品は、ニルス・フラームが2009年から2021年までに録音してはいたものの未発表曲となっていた音源を二枚組に収録したコレクション作品です。

 

アルバム作品としてのヴォリューム感もさることながら、なぜ今まで発表されてこなかったのだろうと思うほど秀逸な楽曲が数多く収録されていて、ニルス・フラームのベスト盤のような意味合いを持つ作品集と言えるでしょう。

 

ニルス・フラームはこの作品リリースに「これまでの私の音楽的思考、そして、演奏法のすべてを解剖したような作品」というニュアンスを語っていますが、実際に、これまでの12年というキャリア、その中には指を負傷するという大きなアクシデントにも見舞われた。それにもかかわらず、一貫して作品をストイックに発表し続けてきたことへの自分自身に対する深い矜持のようなものが見てとれると言ってよいのかもしれません。

 

なおかつ、そしてこの作品は、ネオクラシカルというクラシック音楽とポピュラー音楽の隔たりを埋める音楽ジャンルを最も把握しやすい作品でしょう。ここで、フラームはこれまでのキャリアで積み上げてきた音楽的な概念、手法、解釈のようなものをすべて聞き手に提示しており、その中には、ブラームスをはじめとする、ドイツロマン派の系譜にあたる伝統的な音楽、はたまた、フランスのドビュッシーに象徴されるフランス近代音楽、そしてビル・エバンスのようなジャズを現代のアーティストとして一つにまとめあげようと試みているように思えます。そして、これらの音楽は、さながらドイツのゴシック建築のように、深い叙情性あふれる雰囲気、堅牢な和声法により支えられています。

 

一曲目の「4:33」は、もちろん、ジョン・ケージに捧げられたトリビュート作品で、ケージの提示した概念とは異なる「現代的な沈黙」が深い叙情性と哀感をたずさえて、新たに提示されているといえるでしょう。また、その他にも先行シングルとしてリリースされていた「Late」「All Numbers End」といったドイツロマン派のクラシックとジャズの音楽性をかけあわせた雰囲気のある良質な楽曲の魅力もさることながら、きわめて叙情的な楽曲が数多く収録されています。フェルトストラップをピアノの弦間に挿入することにより、ニルス・フラームはこういった弦の響きを強調したようなアンビエンスを生みだしていますが、そういったネオ・クラシカルという音楽の基本的なサウンド手法、いわばレコーディングにおいて、手の内をすべてこの作品「Old New Friends New Friends」において、余すところなく見せてくれています。

 

特に、このコレクション作品が、これまでのフラームのソロ・ピアノ作とは異なる魅力を見出すとするなら、ピアノの低音が以前の作品よりもはるかに強調されていることでしょうか。この堅牢な和声法とも称するべき低音の迫力は、ドイツロマン派のブラームスやシューベルトの音楽性にも相通じるような深い叙情的な印象を作品全体にもたらしています。


もちろん、それはミキシング段階において、テープディレイのような加工をトラックに部分的に施すネオクラシカルらしい手法も見受けられ、そのあたりが旧来の古典音楽と、現代の電子音楽、エレクトロニックという何百年もかけ離れた年代の音楽の理解をひとつにつなげよう、という試みがなされているようにも思えます。

 

とりわけ、ニルス・フラームがこれまでの十二年の長いキャリアで提示してきた概念は、ドイツの古典音楽の伝統性に対する深い愛情、そして、それを現代の様々な音楽的な手法を駆使して再構築する、ということに尽きるように思え、それはまさに、今作のこれまでのコレクションのような意義を持つ作品において最大限に感じられる要素と言えるでしょう。

 

そして言うまでもなく、この作品は、ニルス・フラーム自身が「私の資料」というように少し諧謔みをまじえて語っている通り、ニルス・フラームのキャリアを総括するクロニクルの意義を持つ作品であることは確かですが、もちろん、このアーティストの次のアルバムへの布石も感じられるような楽曲もいくつか収録されていることにも注目したいところです。  


 

Nils Frahmの新作「Our Friend New Friends」のリリース情報の詳細つきましては、Leiter Verlagの公式サイト、又はNils Frahmの公式サイトを御覧下さい。 

 

 

 

・Leiter Verlag  HP

 


https://leiter-verlag.com/ 

 

 

 ・Nils Frahm HP

 


https://www.nilsfrahm.com/

 


references


all.music.com


https://www.allmusic.com/artist/nils-frahm-mn0001098849/biography?1638593239636 

 

resident-music.com


https://www.resident-music.com/productdetails&product_id=84876



「The Scary of Sixty-First(Original Motion Picture Soundtrack)」Deeper Into Movies 2021

 


イーライ・ケスラーの最新作「The Scary of Sixty-First(Original Motion Picture Soundtrack」は、アメリカの”ユートピア”によって配給されたダーシャ・ネクラソワ監督による映画作品のオリジナルスコアとして書き下ろされたサウンドトラックとしてリリースされています。

 

「The Scary of Sixty-First」は、第71回ベルリン国際映画祭で初上映されたホラー映画。ベッツィ・ブラウン、クイン、ダーシャ・ネクラソワ、マーク・ラパポートが出演を果たしている作品で、この映画は、ミステリアスなホラーともいうべき作品で、二人のルームメイトがアッパーイーストサイドの自分たちが住んでいる住居が、かつて億万長者のジェフリー・エプスタインのものであることを発見したのち、この二人のルームメイトたちは、その暗い歴史を明らかにし、彼らがその出来事を追体験する、というプロットによって大まかに構成されています。

 

いくつかの海外の映画レビューサイトでは、映画自体の評価については賛否両論のようです。有名な映画サイトでは高評価を受けていますが、個人サイトでは、軒並みそれほど評価が芳しくない作品です。

 

また、これらの有名サイトでは、このサウンドトラックについても言及し、そこでは、ジョン・カーペンターのシンセサイザーの影響性、ウィリアム・バシンスキーのアンビエントからの影響の2つが挙げられていますが、まさに、その「幽霊のようなアンビエント」という評言はこのホラー映画作品のオリジナルスコアを説明するに当たってふさわしい表現といえるでしょう。

 

実際に、イーライ・ケスラーは「The Scary of Sixty-First」のサウンドトラックを書き下ろすに当たって、ジョン・カーペンターのシンセサイザーのスコアを参考にし、その上に自身のもうひとつの現代的な音楽性、アンビエントの要素を加味しています。

 

これまでの「Stadium」や「Icon」といったイーライの代表作とは異質であるのは、旧来の頭脳明晰なインスターレーションアーティストらしいアプローチとは違い、オカルティズムに対する傾倒を色濃く見せている点。「Nightmare」では、五芒星、タロットの配列を作曲を構成する上で数学的に取り入れている、とイーライは話しています。

 

これまで、こういったオカルト的な手法を取り入れてはこなかっため、ケスラーのソロ作品の音楽性から見ると、根底の部分において通じる部分もありますが、表面的な雰囲気としては異色の作風といえます。

 

また、今回のイーライ・ケスラーのオリジナルスコアで最もすぐれていると思われるのは、映像を派手な音響効果によって際立たせるのではなく、一歩引いたような音響を生み出すことで、映像に対して、より強い効果を生み出し、映像を派手にみせるというよりも、主要な雰囲気を隠すことにより、神秘的なイメージを演出しています。また、ドローンアンビエントとしてみてもかなり興味深い作品であり、映画のサウンドトラックが好きな方は一聴する価値ありです。

 

 

 

Eli Keszler


イーライ・ケスラーは、ニューヨークを拠点に活動するパーカッショニスト、作曲家、そして、その他にも、音響芸術の一環であるサウンドインスタレーションと幅広い分野で活躍するアーティストです。

 

イーライ・ケスラーは、若い時代からドラムの演奏に親しみ、十代の頃にはハードコアバンドを組み、活動しています。ボストンのニューイングランド音楽院を卒業したのち、ニューヨーク市に移り住み、ソロアーティストとしての活動を開始しています。ケスラーは他の現代音楽家が弦楽器やピアノを介して実験音楽のアプローチを図るのとは別に、ドラムーパーカッションを介しての実験音楽を独自に追究しています。

 

ときに、その前衛的な手法は、空間に張り巡らせた多数のピアノ線をモーターによって打ち付けることにより、「パルス奏法」と呼ばれる1960年代にドラムの前衛的な演奏法を取り入れているのが画期的といえるでしょう。

 

イーライ・ケスラーは、2006年に自身が主宰するRelレコードから、限定CD「Untiteled」を発表。その後、Rare Youthから「Livingston」をリリース。2007年からはR.E.L.Recordsと契約を結び、アシュリー・パールとの作品「Eli Keszler&Ashrel Parl」を発表しています。

 

その後も、コラボ作品をいくつか発表後、2011年には「Cold Pin」をPanからリリースしてデビュー。この作品「Cold Pin」において、イーライ・ケスラーは、空間に張り巡らせたピアノ線をモーターにより断続的に鳴らすことにより、トーン・クラスターを生み出し、所謂現代アートのひとつ「サウンドインスターレーション」を取り入れた音響の前衛芸術を確立しています。

 

その後も、アイスランド交響楽団との共演をはじめ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ローレル・ヘイローといった、アンビエント、ダブステップの領域で活躍する実験音楽を生み出すアーティストの作品にゲスト参加を重ねながら、ソロ作品を発表。

 

2016年「Last Signs of Speed」、2018年にShelter Pressから「Stadium」を発表し、徐々にアメリカの音楽メディアにより実験音楽として高い評価を受けるようになる。2021年にはLuckerMeから「Icons」、次いでこの作品の再編集盤「Icons+」を11月17日に発表。

 

特に、最新作「Icons」は、ロックダウン中のニューヨークの中心街、中国深圳の電気街、また、日本の富ヶ谷公演で録音したサンプリングをはじめ、世界各地で録音した環境音、他にも1920年代のフィルム・ノワールのサンプリングを取り入れ、パーカッション演奏を介し、現実、仮想、異なる時間、空間を一つの作品の中で音でつなげてみせた画期的な実験音楽の一つに挙げられます。

 

References 

 

 

Allmusic.com

 

https://www.allmusic.com/artist/eli-keszler-mn0002239858/biography?1638469364092 


Wikipedia 


https://en.wikipedia.org/wiki/The_Scary_of_Sixty-First


Ed Sheeran Portrait Session

 

billboardの公式サイト上で毎年3月に開催されるグラミー賞のノミネート作品が公表されました。全ての作品をここで掲載するわけには行きませんが、主要な注目の作品を以下リストアップしていきたいと思います。どの作品がウィナーになるのか予想して楽しむのもありかもしれません。 

 

 大まかにグラミー賞のノミネート作に目を通して見たところでは、やはりブリット・アワードと共にさすが世界最大の音楽の祭典という印象です。

 

 実際の授賞式の会場をわかせてくれそうな、エド・シーランカニエ・ウェストのようなアメリカのインフルセンサーアーティストが選出されている一方で、Caribouのようなコアなアーティストもリストアップされているのが信頼がおけます。ブルーノ・マーズ、アーロン・パーク擁するSilk Sonicをはじめ、グラミー常連アーティストが率先して選ばれているのはお約束といえそうです。もちろん、その他、国内だけでなく、国外の作品も目をつけている様子を伺わせるのがグラミーの矜持で、特に、エレクトロニック部門の選出に注目。この部門では、アイスランドのオーラヴル・アーノルズ&サイモン・グリーンの「LOOM」がノミネートされたり、意外性溢れる選出も行われています。

 

あらためて、今年、リリースされた注目の作品を改めて見直す契機にもなります、”Records of the Year”と”Album of the Year”グラミー賞の主要二部門に加え、その年の注目の新人アーティストを取り上げる部門「Best New Artist」の計三部門のノミネート作品を以下にリストとして挙げていきましょう。

 

 

Grammy Awards Record of the Year ノミネート作品  

 

 

・「We Are」 Jon Batiste


・「Love For Sale」Tony Benett & Lady Gaga


・「Justice」 Jastin Bieber

 

・「Happier Thn Ever」Billie Eilish

 

・「Back Of My Mind」H.E.R 


・「Montero」Lii Nas X


・「Sour」Olivia Rodrigo


・「Evermore」Taylor Swift


・「Donda」Kanye West

 

 

 

以上、グラミー賞”Record of the year”部門のノミネート作品となります。作品の掲載順序につきましてはbillboardの公式サイトに準じています。



 

Grammy Awards Album of the year ノミネート作品

 

 

 ・「Bad Habit」Ed Sheeran


・「A Beutiful Noise」Alicia Keys&Brandi Carlil


・「Fight For You」H.E.R


・「Happier Than Ever」Billie Eilish 

 

・「Kiss Me More」Doja Cat Featuring SZA 

 

・「Leave The Door Open(Call Me By Your Name)」Lil Nas X

 

・「Peaches」Justin Bieber Featuring Daniel Caesar & Giveon


・「Right On Me」Brandi Carile



以上、グラミー賞Album of the year部門のノミネート作品となります。こちらも作品の掲載順序につきましてはbillboardの公式サイトに準じています。

 

 

 

Best New Artist

 

 

・Arooj Aftab

 

・Jimmie Allen

 

・Baby Keem

 

・Finneas

 

・Glass Animals

 

・Japanese Breakfast

 

・The Kid Laroi


・Arlo Parks


・Olivia Rodrigo


・Saweetie


 

以上、グラミー賞Best New Artist部門のノミネートアーティストとなります。またこちらも掲載順につきましてはbillboard公式サイトに準じております。

 

 

その他部門のノミネート作品、アーティストにつきましては、以下、billboard公式サイトを御参照下さい。

 

 

 billboard.com


 https://www.billboard.com/music/awards/grammy-nominations-2022-full-list-1235001871/?utm_source=twitter&utm_medium=social


  昨日、12月1日、現代音楽家として知られる巨匠アルヴィン・ルシエがコネチカット州ミドルタウンの自宅で死去したとニューヨーク・タイムズ紙が報じました。

 

 アルヴィン・ルシエの元妻であるメアリー・ルシエがFacebook上で、この知らせを公にしました。アルヴィン・ルシエの娘、アマンダ・ルシエは死因について、転倒後の合併症であると同紙に語っています。

 

 アルヴィン・ルシエは、実験音楽の作曲家、及びサウンドインスタレーションの製作者、そして「ポスト・ジョン・ケージ」として知られ、長年、ミドルタウンのウェスリアン大学で音楽の教授職を務めていました。彼の作風は科学の影響を受けており、音自体の物理的な特性を追究し、音響の倍音の特性を生かした独特な現代音楽、実験音楽の傑作を数多く残しています。脳波、室内音響名等を作曲中に取り入れて、前衛的な作風を生み出したことでも知られています。  

 

 

Alvin Lucier"Alvin Lucier" by Non Event is licensed under CC BY-SA 2.0

 

 

 アルヴィン・ルシエは、1931年にニューハンプシャー州、ナシュア出身。ナシュアの公立、教区学校、ポーツマス修道院学校、イエール大学、ブランダイス大学で教育を受けています。その後、1958年と1959年にルシエは、タングルウッドセンターでルーカス・フォスとアーロン・コープランドに師事。1960年、ルシエはフルブライトフェローシップでローマに出かける。その旅先で、フレデリック・ジェフスキーと親交を持ち、ジョン・ケージ、マース・カニングハム、デイヴィッド・チューダーといった現代音楽家の実際の演奏を目撃する。これを契機として、アルヴィン・ルシエは、それまでの古典的な作風から、現代音楽へとシフトチェンジを図るようになります。1962年、ローマから帰国したアルヴィン・ルシエは、 ブランダイス大学の室内合唱団のディレクターに就任。この合唱団は、数多くのクラシックの声楽作品を発表しています。

 

 1963年、ニューヨーク市庁舎で開催されたチェンバーコーラスコンサートにおいて、ルシエはミシガン州アナーバーで毎年開催されるマルチメディアイベントのワンスフェスティヴァルのディレクターを務めるゴードン・ムンマ、ロバート・アシュリーの知己を得る。その一年後には、ムンマとアシュリーは、チェンバーコーラスをワンスフェスティバルに招待する。ムンマ、アシュリー、そしてルシエは、ニューヨークとブランダイス大学の互いのコンサートに招待し合うようになる。

 

 これらのコンサートの成功によって、 ルシエ、ムンマ、アシュリーは意気投合するようになり、以後、”Sonic Arts Group”という現代音楽の芸術グループを結成し、アメリカとヨーローッパのツアーを敢行するようになります。(その後、Sonic Arts Unionに改名)十年の間、デヴィッド・バーマンを交え、ムンマ、アシュリーとともにSonic Arts Unionとしてツアーを行っていましたが、1976年にこの活動は終了しています。

 

 1970年、ルシエはブランダイス大学を離れ、 ウェズリアン大学の教授職に就任しています。1972年からはViola Faber’s Dance Companyの音楽監督に就任、大学教授を務めながら1979年まで歴任しました。近年まで実験音楽の作品を多く発表し、作曲家として晩年まで旺盛なクリエイティヴィティを発揮、2021年には「Alvin Lucie:Navigations」を発表したばかりでした。


  


haruka nakamura


 

ハルカ・ナカムラは1982年生まれ、青森県出身のアーティスト。幼い時代から母親の影響によってピアノの演奏をはじめ、その他にもギターを独学で学んでいます。2006年からミュージシャンとしての活動を開始し、2007年、2つのコンピレーション作品に参加、多様な音楽性を持った演奏を集め、「nica」を立ち上げる。2008年に小瀬村晶の主催するスコールから「Grace」でソロデビューを飾る。

 

その後、ソロアーティストとしての作品発表、Nujabesとのコラボ作品のリリースで日本のミュージックシーンで話題を呼ぶ。また、東京カテドラル聖マリア大聖堂、広島、世界平和記念聖堂、野崎島、野首天主堂等をはじめとする多くの重要文化財にて演奏会を開催しています。


近年の仕事で著名なところでは、杉本博司「江之浦観測所」のオープニング特別映像、国立新美術館「カルティエ 時の結晶」、安藤忠雄「次世代へ次ぐ」、NHKの土曜ドラマ「ひきこもり先生」の音楽を担当。

 

その他、京都・清水寺成就院よりピアノ演奏をライブ配信、東京スカイツリー、池袋サンシャインなどのプラネタリウム音楽も担当し、画期的なライブ活動を行っています。  早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて、自作曲のオーケストラ共演も行っています。





 

「新しい光」EP KITCHEN LABEL 2021 

 


 

 

 

 11月5日にKITCHEN LABELからリリース「新しき光」は、2010年にリリースされた「twilight」の表題曲を新たに収録しています。今作のレコーディングには、ゲストミュージシャンとして、Vocal/April Lee,Violin/Rie Nemoto、Ayako Sato、Cello・Yuakari Haraが参加しています。 また、ハルカ・ナカムラというアーティストの代名詞といえる名曲「光」の新しいヴァージョンも併録。

 

今作には、2011年の東京早稲田のスコットホールで初演を行った際のストリングスの録音を取り入れた「未来」「新しき光」という未発表ヴァージョンも収録されています。さらに、ピアノ・ソロ曲「ひとつ」が「光」と「twilight」のオリジナルヴァージョンと併録されています。

 

今作「新しき光」は、これまでのハルカ・ナカムラの作風と同様に、アンビエント、オーケストラ、そして電子音楽という主要な要素を踏襲した、ハルカ・ナカムラらしい清涼感に彩られた作品。

 

ゲストボーカルとして参加したApril Leeのヴォーカルの麗しさとともに、ハルカ・ナカムラの繊細で、心あたたまるようなアコースティックギターの演奏が合わさり、美麗なハーモニクスが生み出されています。再録の楽曲も収録されてはいるものの、アコースティックギターの繊細性、おおらかな奥行きのある新鮮味あふれる楽曲を堪能出来る作品です。

 

2010年の通算二作目「twilight」をリリースした後、盟友Nujabesの死によって心を痛めていたハルカ・ナカムラさん。

 

今回、「新しい光」のリリースに際して、「光」という彼の代名詞ともいうべき楽曲が誕生した際の印象深いエピソードについて御本人はあらためてこのように記しています。

 

 

 "

トワイライトを発表してから程なくしてその頃、共に音楽制作していた友人であり師であるアーティスト・Nujabesが亡くなった。それからしばらくの間、僕は自己を大きく損なった生活を送った。


部屋にひきこもり、痩せて、とても音楽を作れるような精神ではなかった。

 

出口のない真夜中に棲んでいた。

 

そんな時、 シンガポールから手紙のようなメールをくれたのが、twilightで歌ってくれているASPRIDISTRAFLYのAprilだった。(彼女とパートナーのRicksは、トワイライトをリリースしてくれたKITCHENLABELを運営している。僕らは長い間の友である。)

 

彼女は友人として心配して、遠い海から励ましてくれた。 その温かな優しさに気力を貰い、僕は久しぶりに音楽に触れることが出来た。

 

まず、なんとなくtwailightを逆再生してみた。日が暮れる情景の音楽を逆再生することで、夜明けのきっかけが掴めるのではないか、そんな想いがあったのかもしれない。とにかく、未だそれくらいのことしか出来なかったのだ。

 

ところが逆再生した音には、思いもよらない新たな輝きが溢れていた。あの時の感動は忘れられない。音楽の道がまた開けたような気がした。一度は閉ざされた扉が開いた。そう思った。今度は一人で進まなければならない。

 

そうして光は生まれた。"

  

 harukanakamura.com

 

 

 

ハルカ・ナカムラが記しているとおり、自分自身がひとりで進むために生み出された楽曲が「光」であり、この新しく収録された「新しき光」、「光」、それに加えて、いくつかのアンビエントやネオクラシカル、聞きやすく、それでいて美しさと力に満ち溢れた5つの楽曲群は、かつてのハルカ・ナカムラがそうであったように、落胆している人、傷ついている人に立ち直るきっかけや励ましを与え、そして、なにより大切なのは、一人で歩き出すための力、新しき光を与えてくれるミニアルバムとなるでしょう。

 

日本の今年のミュージックシーンのリリースの中でも、本当の音楽として重要な意味合いを持つ作品です。